Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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11層-1 旅は道連れ

 11層はアラビアというか古代エジプトというか、砂漠と遺跡がモチーフの層だ。

 どうやらここにタルコフのマップがあるらしく、クエストついでにそれを探してくれとアルゴから頼まれているのだ。折角、部隊一つアルゴにレンタルしたのにどうしてこうなった。

 

 まあそれはさておき、とっておきのクラス5を誇るアーマーリグ"AACPCプレートキャリア"を着てきた。新しい層に対する準備はバッチリ。防御力が上がったし、ちょっとやそっとじゃやられはしない。多分。

 

「わっ、砂嵐だよ!」

 

「クソが、何も見えねえ! 銃に砂が詰まる!」

 

 コハルも俺も、トレーダーから購入したシュマグで顔を覆い、隙間なく顔に密着するタイプのゴーグルを装備している。にしても、このエリアは水分消費が倍増するのが厄介だな。

 

 とまあ、こんな調子で街へ行くのも一苦労しているわけだ。前は、砂嵐を避けて入った洞窟で盗掘者のNPCに出会ったな。何やら、金貨をお供えしてくれとか言ってたっけ。あれが昨日の出来事か。

 全く、Tri-zipバックパックにたっぷり水と食料詰めてこなかったら、今頃砂漠に転がる骨だっただろう。

 

 そんな道のりを踏破して街にたどり着き、ゴーグルとシュマグを外して顔を見合わせる。久しぶりに素顔を見たような気がして、思わず笑ってしまった。

 

「その顔見るの、いつぶりかな」

 

「昨日見たばかりだよ。忘れちゃった?」

 

「ほとんど顔隠してたからな。珍しくも」

 

 こんなにコハルの顔を見ない日も珍しいから、どうしても新鮮というかおかしいというか、そんな気分なのだ。

 さてさて、コハルと街の散策もいいが、目的の人物を探しに行かないとな。アルゴに頼まれてるし。

 

「そういえば、これから会いに行くトレーダーって、やっぱりタルコフの人なの?」

 

「正解。ラグマンっていう装備品関係を取り扱うトレーダーでな。まあキザな言い回しが好きなやつだ。キャラ的には好感を持てるけど」

 

 アブラミアン・アルシャビル・サルキシヴィッチ。通称"Ragman"は服飾関係やアーマーを取り扱っており、買取も彼が最も高値になるため、お世話になるPMCが多い。

 タスクは"Interchange"に集中しており、殆どがアイテムの納品や設置で報酬がいい。トラウマレベルのタスクを与えるイェーガーと違って、彼を好むPMCは多いことだろう。

 そんなコーカサス地方生まれの彼が砂漠で商売してるとは意外だ。アラビア商人にでも転向したのだろうか?

 

「……レイジ、アレってNPCだよね?」

 

 コハルが訝しげに指し示す人物は、何やら女性を口説いているかのように見えた。

 口説かれているのは俺より背のでかいセミロングと、茶髪のふわふわしたロングの2人組。そしてまさかまさかのUSECオペレーター。タルコフの女性プレイヤーとは、珍しいものもいたものだ。

 

「なんで勿体無いんだ! ULTRAさえ無事ならば、君たちのような、麗しき女性に似合う服をプロデュース出来たというのに!」

 

「……うん、間違いない。ありゃラグマンだ」

 

 ラグマンは小説やオペラから台詞を引用したり、キザな言い回しを好む。そしてファッションにも一家言あるようで、時折プレイヤーの服装に言及してくる。きっと、衣装入手のタスクなんだろうな。

 

「進んでねえみたいだし、助け舟出すか」

 

「割り込んで大丈夫なの?」

 

「ああ、ラグマンの扱いなら任せろ」

 

 という訳で、話の進まず困る2人を助けるため、俺はズカズカとラグマンの前に出て行く。さあ、腹括ろうじゃねーか。

 

「サラーム、兄弟! 調子はどうだ、何かお困りかい?」

 

「ああ、兄弟! いいところに来てくれたな!」

 

 ははは、と笑いながらラグマンと握手する俺を見て、コハルや2人組は驚いていた。多分、俺をイベントNPCと思われたろうな。 

 ラグマンの話を進めるなら、こっちのペースに持っていくしかない。こいつに話させると長くなるぞ。情熱あるキャラなんだろうけどな。

 

「見てくれ、麗しの女性と……お前の連れかな? もっと然るべき服装をすべきだと思わないか?」

 

「全く同感だよ。ならば俺たちはどうすればいい? 生地を集めて服を作るか? それとも、どこか仕入れのアテでもあるか?」

 

 よし、頭の上にクエストマークが出た。これでトドメだ。

 

「ああ、それならばあるぞ。昔滅びた国があるんだが、そこは交通の要衝だったようなんだ。そこからさらに続く先に、ULTRAショッピングモールがあると言われているんだ。大地切断で取り込まれたそうだが、そこにまだ見ぬ宝があると思うんだ」

 

 そして出てきた受注画面。タスク名は”Big sale"。激戦区に飛び込むハメになるから、苦手な回収タスクだったな。

 

「きっと、今もブランドのアウトレットが眠ってるはずだ。素早く忍び込んで、確かめて欲しい。ゴミ漁りはいらないぞ。あくまで欲しいのはブランド物だけだ」

 

 内容はショッピングモール内の服屋を確認して生還すること。よくPMCと鉢合わせる位置にあるから、結構神経を使った覚えがある。

 

「わかった。確認してくる」

 

「頼りにしてるよ。さあ、出かける前に必要なものを買って行ってくれ」

 

 苦労して受注して振り向くと、苦笑いが俺を出迎えた。なんだよ、俺は頑張ったじゃねーか。

 

「レイジ、キャラ違くない?」

 

「うるせー、ラグマンに合わせなきゃ長くなるんだよ! コハルがやってみるか?」

 

「遠慮するね」

 

「バッサリだな!?」

 

 やれやれ、と2人組に目を向けると、やはりこちらも苦笑い。どう反応すればいいか困っているようだ。コハルに目配せすると頷いて返してきたし、察するとしよう。

 

「もし良ければ、一緒にタスク行かないか?」

 

「ええと……あなたは?」

 

 長身の方は引いていると言うか警戒している。もう片方は何やら目をキラキラさせているし、なんだこの反応の差は?

 

「俺はレイジ。で、こっちは俺のパートナー」

 

「コハルです」

 

 コハルが笑顔で挨拶すると、ようやく警戒を解いてくれたらしい。肩の力が抜けるのが見えた。

 にしても、パートナーって紹介されたのが嬉しかったか? コハルが花が咲いたような笑顔になっている。可愛いからスクショしておこう。

 

「私はレン」

 

「レンの相棒、フカ次郎だ! 時にお二方、人違いじゃないなら、アトラスのレイジとコハルだったりするかい?」

 

 おや、フカ次郎とやらは中々鋭いじゃないか。レンは驚いているし、そんなに俺たちは有名なのだろうか?

 

「あの……どこで知ったんですか?」

 

 情報の出所を気にしているのか、コハルがおっかなびっくりに訊いている。趣味で新聞出してる物好きがいるから、その辺から伝わったんだろうさ。高値で売れるって、攻略組の誰かが記録結晶で撮影した写真を添えてな。

 

「これこれ、この号外だよ。デアデビルのレイジと烈華のコハル、攻略組一精強なコンビがボス撃破! って見出しでさ!」

 

「なんじゃこりゃ、相当誇張入ってねえか?」

 

 俺の銃撃でボスを黙らせ、弾切れになった俺を踏み台にコハルが飛びかかったのは認めよう。だがその他。俺こんな無茶苦茶な突撃はしてないし、俺1人というかアトラスでやったことまで俺の功績にされてるんだが。

 

「れ、レイジ……これ、写真付き」

 

「見てる。切り抜き欲しいな」

 

 落ちてきたコハルを俺が受け止めた瞬間の写真じゃないか。見方によってはお姫様抱っこってやつだ。それをアインクラッド中にばら撒かれるとは、笑うしかない。

 

「うう、恥ずかしいよ……」

 

「お2人さん、仲良いねぇ〜。付き合ってるの? そうじゃないなら彼、私にくれない? ね?」

 

「フカ、レイジさん困ってるから!」

 

 俺はそんなに困っていないしむしろ満更でもない。だがコハルは困っているというか、もう顔真っ赤だ。可愛いからスクショしておくか。




・Ragman
 本名はアブラミアン・アルシャビル・サルキシヴィッチ。コーカサス地方出身で、小説やオペラから台詞を引用したり、キザな言い回しを好む。
 基本的には誰に対してもフレンドリーかつ、落ち着いた雰囲気で接する人物で、「買ってくれるなら誰でも顧客だ」という考えの反面、仲良くなると茶目っ気を出したり、本当の意味で兄弟と呼んでくれる。

・Big sale
 Interchange中央、ULTRAショッピングモール内にある服屋を確認するタスク。店に入るだけでOKであり、途中で死亡しても進捗は引き継がれる良心的設計。
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