Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
順調に店巡りを進めるうちに、ULTRAにある大きいテナントの一つの"Goshan"であり、キリル文字でГошанと書かれている。
ここは食品マーケットであり、飲食物が大量にスポーンする。マップにあるスポーツバッグやSCAVの死体を漁らずとも、棚にスポーンしているのだからありがたい事だ。
食料がないと大変なことになる現状で、こんなに美味しい場所があると知ったらどうなる事だろう。恐らくDKBとALSが大喧嘩しながら掻っ攫うだろうか。あ、でも店長いるから無理だな。
「うひょひょ、見てよレン! Tushonkaが一杯だよ! タスクが進むよ、やったねレンちゃん!」
「レイジさんたちの取り分も忘れちゃダメだよ?」
レンは取り分の回収を終え、マガジンに予備弾を込めている。彼女がレジ周りのSCAVを始末してくれたのは本当に助かった。
俺のイゴルニクは1発当たりのダメージが低く、アーマーを着ていない相手にはキルタイムが長くなるのだ。お陰で助かっている。
「気にすんな。後でキバストアの鍵開けるからな」
ここに来る前、マップ北東端にある発電所で電源を入れてきた。おかげで店内にブザーが鳴り響き、電源の復旧を伝えている。電源を復旧する事で、目的のキバストアを含めた、特定の鍵を開けられるようになる。
他の所の儲けを全部渡しても、キバストアさえ漁れば取り分としては申し分ないさ。
「でも、お腹減りましたよね?」
「まーな。先にレンとコハルで食っててよ。俺が辺り見張っとくから」
「それじゃあお先に。コハルさん」
「ありがとう。すぐに食べるから待っててね」
「ゆっくりでいいぜ。でも、ケーキがあったら半分こ、な」
俺はしゃがみ、コハルに背を向けて店内を見張る。漁っている場所がGoshanの側面壁際の商品棚ということもあり、下手したら追い詰められて大変なことになる。早期発見は大切だ。
コハルとレンは急いで食べているようだが、そこまで焦らなくてもいいのに。確かにエネルギー残量は心許ないけれども。
「レイジ、食べ終わったから代わるよ」
「隣で食うから、何か動いたら教えてくれよ」
視線がどうしても外れる以上、代わりの目が必要になる。コハルが見ていてくれるのはありがたいけども、彼女のダガーでは戦えまい。
コハルが敵を見つけたらすぐに反撃できるよう、そばにAKを置いて缶詰に手を伸ばす。カラフトマスの缶詰か。水も必要だな。
「ねえ、何かいるよ」
缶詰を放り投げて、コハルの襟を掴んで引き摺り倒す。一瞬だけ見えた黒のマスカヘルメット。それが普通のSCAVではないことは明白で、こうしなければ恐ろしいことになるのをよく知っている。
「伏せろ!」
声は後で出た。無数の銃弾がコハルの体があった場所を貫き、フカ次郎が食べていた缶詰を取り落とす。
来てしまった。いつだかのアップデートでULTRA全域にスポーンするようになった、店長ことKillaだ!
「わわっ!? 私のシチュー!」
「そんなことより店長だよ!」
商品棚をブチ抜き、辺りに段ボールや棚の破片が飛び散る。音と貫通力からして、RPKにイゴルニクを詰めてやがるな!
「このクソポジションから撤退しようぜ! 雨みたいにクソ弾が飛んできやがる!」
「レイジ、口が悪いよ!」
足音がする。キラがダッシュで詰めてきたな。重量嵩む装備の癖に、とんでもない瞬足なのが困る!
「あのバカ来やがった! フカ、グレポン用意! レンとコハルはオフィスに下がれ! 援護する!」
「りょーかい、とっておき行くよ!」
僅かに身を乗り出して応射すると、キラは物陰に飛び込んだ。よしよし、それでいい。コハルたちが下がる時間を稼げれば儲けものだ。
「コハル、レン、行け! フカ、グレポン撃て!」
「へへへ、月まで吹っ飛べ!」
フカ次郎が身を乗り出してランチャーを構えると、同時にキラが身を乗り出す。最悪のタイミングだ。
キラに俺の弾丸が命中するが、奴はお構いなくフカを銃撃した。
「わわっ!?」
「スーカ!」
フカ次郎が腕に被弾した。タルコフは被弾時の衝撃で狙いが跳ね上がってしまうため、跳ね上がったのと同時に放った榴弾はキラの頭上を飛び越していく。
ああチキショウ、アレが当たれば円満解決だったのに!
「フカ、カバーしてやるから退け!」
「レイジは!?」
「自力でなんとかするさ! 行け!」
咄嗟に身を隠すと、キラの制圧射撃が襲いかかってきた。しめた、フカ次郎から狙いが逸れたおかげで、あっさりと逃げられたようだ。後は俺だけだな。
まあ、そうも上手くいかないか。キラ店長が走って来てるし、逃げられそうにない。一か八かの正面戦闘を挑む羽目になるとは、俺も焼きが回ったのかもしれないな。
「そのまま隠れとけよ!」
聞き覚えのある男の声。響き渡る金属音と、遅れて硬い床に何か鉄の塊が落ちる音。あの大馬鹿野郎、棚の向こうから俺のすぐそこにグレネード投げ込みやがった。
でも、おかげでキラ店長が叫びながら下がって行く。流石のキラとてグレネードには耐えられないし、そういうアルゴリズムだもんな。
「このクソバカ野郎が!」
俺は走り出す。すぐそこにグレネードはあるけれど、今しかチャンスがない。飛んできたのが見えたけど、アレならばギリギリ間に合うはずだ。
背中を銃弾が掠め、脚に喰らった。左脚が壊死した俺は転がるように転倒してしまうが、我が相棒はプレートキャリアの取っ手を掴んで物陰に引き摺り込んでくれた。
そこでようやくグレネードが炸裂する。効果範囲が広い代わりに、信管作動が5秒のM67フラググレネードだったのだ。よくアレを使う気になったな。
「よう相棒、まだ生きてるか? 今のうちに鎮痛キメて退がりな!」
「助かったよ、相棒!」
乱入者であるリョーハはもう一個、棚越しにグレネードを投げ込む。今度はスタングレネードでキラの目を潰す。
ここで戦うのは不利。そう判断した俺たちは全力で退却することにした。行き先はキラの巡回ルートから外れた2階。ダッシュで上まで追いかけてくることはあるけれども、目潰しした今ならば追われる心配はない。
止まったエスカレーターを駆け上がり、バーガーショップに駆け込むまではそこまで長い時間を必要としなかった。
「全く、会うたびにとんでもないのを引き連れてくるわね」
シノンは入口を警戒しつつ、そんな軽口を飛ばしてくる。嫌味と言うべきか? 俺は悪くねえ。向こうが勝手にくるんだ。
「ま、今に始まったことじゃねーだろ」
リョーハはゲラゲラ笑いながら別の入口を見張っている。この野郎、後で覚えておけよ? まーたAS-VALとかいうクソ武器使いやがって。
「おやおや、君が噂の副官殿かね?」
「おうおう、アトラスの死神リョーハとは俺のことよ。姉さんどっかで会ったことあるか?」
おーっと、フカ次郎がリョーハに絡み始めた。シノンが鋭い目でフカ次郎を睨み、その流れ弾を喰らったレンが震え上がっている。体デカイのにビビるなよ。
というか、フカ次郎って緩くウェーブのかかった茶髪に、少しダウナーっぽい感じのゆるふわお姉さんみたいな見た目……あ、リョーハの好みドストライクじゃね?
「やあやあ忘れたかい? パンを咥えて走ってきた私にぶつかって、その後朝礼で再会したじゃないかい」
「ははは、あん時のうっかりさんか?」
嘘こけ。そしてシノンさん、ドラグノフの銃口、リョーハに向いてません? しかも股間に。
「いいねぇいいねぇ、ノリノリでいいねぇ。隊長殿、副官をもらってもいーかい?」
好きにしろ、と言おうとして俺は凍りついた。シノンの素敵な笑顔が「お前を殺す」と言っているように見えたからだろうな。
勘弁してください姐さん、男の取り合いに巻き込まれて死んだとか、流石に死んでも死に切れねえっす。
「そこは飼い主に相談してくれ。リョーハ、今のところシノンの下僕になってるから」
「おい相棒、本人の前で人身売買するなや!」
苦笑いを浮かべるコハルへアップルジュースを差し出しつつ、シノンとの交渉へ向かうフカ次郎を見送る。レンが頭を抱えているところを見るに、今に始まった話じゃないんだろうな。
あ、いきなり交渉決裂して、シノンにそっぽ向かれてやんの。