Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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11層-5 バーガーショップ作戦会議

 治療が終わって尚、俺たちは2階のバーガーショップでグダを巻いていた。

 そりゃそうだ。戦力的には強いボスなんていくらでもいるけど、キラの威圧はまた別格なんだぞ。しかも、この環境で真っ向勝負なんてしたくもない。

 

 それと、フカ次郎とシノンの冷戦まで始まったからな。BEARとUSECで代理戦争するな。フカはひっついて誘惑してるし、シノンはレーションをアーンしているし、あの野郎羨まけしからんな。

 

「ねえ、そのボスって迂回できないの?」

 

 ここで漸く、コハルが真っ当な意見を出してくれた。よしよし、やっぱり俺のパートナーは最高だよ。

 

「わわっ、恥ずかしいから頭撫でないで……!」

 

 コハルが顔を真っ赤にして照れるのもかわいいものだ。レンのジト目が突き刺さるのが痛いけど、気にするものか。コハルが可愛いんだからいいだろう。

 

「それで、迂回するんですか?」

 

 レンにまで答えを求められれば、答えるしかなかろう。コハルを撫でるのをやめて、俺は席に座り直す。

 

「それも一つの案ではあるが、逃げ切れると思うか? それくらいなら帰った方が安全だぞ」

 

 キラは店内をウロウロと歩き回る。確かにその場で止まっていることも多いが、巡回されたら厄介だ。店長の警備は厳しいからな。

 たまにテナントで音もなく篭ってる事もあるし、入っていきなりスーカブリャー、って声がしてビビることがある。怖くてたまらない。

 

「それなら、戦うんですか?」

 

「リョーハ、奴を落とせるか?」

 

「さっきタチャンカがキラ狩りしてたし、やれるんじゃねえか? それに付き合わされたから口直ししに来たのに、今度はお前らが絡まれてたってな。とんだ厄日だぜ」

 

「おい、晒し首の犯人あの野郎かよ。兎も角、現有装備でキラを仕留められるな?」

 

 タチャンカめ、なんでわざわざキラのマスカを晒したんだ? 本当にあいつのやることは分からない。ブラックバーンもドン引きだろうよ。

 

「ああ、お前のイゴルニクにフカ次郎のグレポンがあれば間違いなく。だがそれには運と技術が絡むぞ」

 

 そりゃそうだ。キラはいかなるアーマーも初撃から貫き、胸部に3発も当たればこっちはダウンしてしまう。いかに被弾を減らし、先に相手を落とすかという削り合いなのだ。

 

「なら、俺がキラを仕留めてやる」

 

「おい、俺にもやらせろ。背中を見せるとかゴメンだからな。やっぱり、逃げたくねえよ」

 

「ダメだよ、危険すぎる!」

 

 思わず面食らった。コハルがいつになく、強い口調で反対を示したのだ。初めてのことのような気がする。

 それでも、危険を背負うのは俺だけでいい。命知らずの名は、このためにあるのだから。

 

「俺とリョーハならば返り討ちにできる。俺らが適任なんだよ。というか、戦いたいんだ」

 

 それでも、コハルは首を横に振った。俺の袖を掴んで、行かないでくれと。でも俺は自分以外の誰かを死なせたくない。

 逃げるにしたって、1階は通らなければならない。上手く射線を切って逃げることは出来るから、そうすればいいのだ。下手にキラと戦わなくてもいい。

 

 でも俺が、それで満足できないんだ。俺は戦いたい。そうじゃなきゃ、俺がここにいる意味がわからなくなるから。

 現実に帰っても、何も残らないから。だからせめて、誇りが持てるこの場所で自分らしく戦っていたい。

 

「ならば、その囮は私がやります」

 

 手を挙げたのはレンだった。そんな危険な橋を渡せられるか。そう言おうとするより先に、フカ次郎が高笑いし始めた。

 

「コヒーとキラのかけっこ、ついに実現っっっ! 早く早く、今すぐやろうぜ!」

 

「コヒー言うな、レンだから。あと、かけっこなんてレベルじゃないからね?」

 

 ぶっちゃけ、キラは無茶苦茶足が速い。それから逃げ切れるのか?

 

「聞いて驚け、レンの持久力(エンデュランス)スキルは既にエリート! 筋力もそこそこ上げてるし、ドーピングすれば店長からだって逃げ切れちゃう!」

 

「ハードル上げないで!」

 

 ほうほう、それならば少し希望が見えてきたかもしれない。キラを倒せばこのエリアは安全になる。

 でも、なんだか残念な気がする。俺は戦いたかったのだ。生きるか死ぬかの瀬戸際に身を置いて、その中を戦い抜くのが好きだったのだ。

 

 現実なんか帰りたくないって思うような、そんなギリギリの戦場の駆け引きを俺は愛しているんだ。

 

 目を逸らした。レンが何かギョッとしたように見えたが、どうだっていい。使える手札で仕掛けてやるだけだ。縛りの中で戦ってやる。

 

「ならば、いっちょ暴れてやろうぜ。脳筋タチャンカと違って、俺が知将だってところ見せてやるよ」

 

 おいマジか、って目をするリョーハの頭をシバいて、俺は作戦を説明する。まあ、これも結局俺の命が賭け金になってるわけだがな。自分自身が暴れたいんだ。コハルを泣かせない程度にやってやるさ。

 そうだ、みんなで仕留めるように見せて、俺が最前線に来るようにすればいい。コハルを泣かせたくないのも確かだが、やっぱり俺は戦っていたいんだ。

 

 

USEC Operator”LLENN”

 

 バーガーショップの片隅で、空になりそうなマガジンに予備弾薬を込める。その間はレイジさんが入り口の見張りを代わってくれていて、狼みたいに動かず、静かに辺りを見つめていた。

 

「ねえ、コハルさん」

 

「コハル、でいいよ。どうしたの?」

 

 私よりも背が低くて、勿論私が大きすぎるだけなんだけど、可愛らしい雰囲気のコハルは笑顔を向けてくれた。

 

「レイジさんとは長いの?」

 

「うん。最初の日からずっと一緒だよ。でも、タルコフのマップだと、守ってもらってばかりで悔しいけどね」

 

 確かに、フィールドならば相手が相手だからコハルが活躍するだろうけど、SCAVみたいに銃を持った相手じゃ不利だよね。

 私もフカとフィールドに出たら、ボア相手にも苦戦してたからね。WoodsならばSCAV相手に余裕を持っていられたのに。

 

「あの目も、その時から?」

 

「目?」

 

「ああいや、ほら! なんだか黒目っていうより、茶色が濃いでしょ? 羨ましいなーって」

 

「確かに、近くで見るとそうかも!」

 

 初対面の人に聞くような話じゃなかったかな。それでも気になって仕方なかったから、つい漏らしちゃった。

 どうして、全てを諦めたような冷たい目をしているのか。さっきまで爛々と輝いて、楽しそうにしていたというのに。そんな光がフッと消えて、底知れぬ深淵だけがあったのが怖かった。

 

 茶色が濃い? そんなの少し見ればわかる話。そんな事よりも、ドス黒く、本当に深淵が見つめているかのようなあの目が怖かった。

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