Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
BEAR Operator"Rage”
「レイジとコハルはキバストア前に移動中」
1階中央の中央通路を警戒しながら進む。後ろにコハルがいて、腰のポーチにはグレネードを入れている。俺のをいくつか分けたのだ。
2階の吹き抜けからはシノンとフカ次郎が狙っている。この辺りにキラがいたならば俺が引きつけ、突っ込んできたところをシノンの狙撃とフカのグレネードで仕留める算段だ。
『フカ次郎、配置かんりょー。ねえねえリョーハぁ、この後予定ある?』
『こら、集中しなさい』
僅かに入ったノイズは、シノンがフカ次郎をシバいた音だろうか? あの野郎、ハーレムになっちまいそうだな。
『後にしろ。こっちはOLIを制圧。キラはいないぜ』
リョーハも本気モードか。バーガーショップではフカ次郎やシノンに挟まれて楽しそうにしていたのに、今はただ、刃のように研ぎ澄まされた兵士の姿のみが残る。
それでいい。それでこそ死神リョーハだ。
『こちらレン。IDEAもSCAVだけでした』
ならば、キラはまだGoshanから動いていないんだろう。あそこに湧いたキラがこれで寄ってくるのかは不明だが、試す価値はあるだろう。
「コハル、そこの扉を開けてくれ。二重扉だから、2つ鍵を開けるんだぞ」
「これだね」
コハルに2つの鍵を託す。キバストアは扉と鉄格子の二重扉になっていて、それぞれ違う鍵を開ける必要がある。
その2つ目、鉄格子の扉の鍵を開けた瞬間に警報が鳴り響き、キラがおびき寄せられる。そうやって釣り出すのが今回の作戦だ。
「ああ、俺が見張ってるから早めにな。後は中に入って待ち構えるぞ」
キバストアは防弾ガラスなので、キラの射撃も防げる。それ以前に、鍵部屋はSCAVの探知圏外だから、ここにいる限りはヘイトを買う心配も無いわけだ。
一つ目の鍵が開いて、それに遅れて重い金属の扉をコハルが開く。俺はそれに背を向けていて、中央通路をずっと警戒していた。
「……レイジ」
「どうした?」
鍵を間違えたか。そう思って振り向くと、コハルが俺の右手に手を添えてきた。その怯えたような目から目を背けられなくて、忘れることもできないだろう。
「……死なないで」
「死なねえよ。今のところ生きてるだろ?」
「何度も死にかけたでしょう? 少しは私の身にもなってよ」
「わかったよ……って、何度目だろうな、この話」
「言わないと忘れるんだもん。シュトゥルマンの時のこと、忘れてないからね」
それを言われたら、何も反論できなくなる。キラはそれ以上にやばい相手で、クラス5のアーマーでさえ無意味にされてしまう。それを相手にして、無事でいられると確約はできない。
それでも言い切るべきだろうか。嘘になったとしても、コハルを笑わせるために。
「今度こそやってみせるさ。コハルとお別れしたくねえし」
「それは私もだよ。一緒に生き残ろうね」
ああ、と一言返して視線を戻す。中央通路は2階吹き抜けからフカ次郎とシノンが見ている。俺が見るべきはその反対側、壁沿いの通路から来る可能性に備えるのだ。
壁沿いには電気屋のラスミューセンと、スポーツショップのアディックがある。特に、アディックはキラが隠れていることもあるので、油断できない位置でもある。
「コハル、開けてくれ。シノン、フカ、射撃用意!」
俺は柱に身を隠し、ラスミューセン方面に目を向ける。中央廊下に背中を向けることにはなるが、それは上から仲間が守ってくれるから大丈夫だろう。
そうやって生き残ってきたのだから、今回だってそうするさ。生きてここから脱出できるだろうと信じて。次の戦場に立つためにも。
「開けるよ!」
カチャ、と音がして鍵が開く。途端にけたたましいアラームが鳴り響き、コハルが可愛い悲鳴をあげるのが少しだけ聞こえた。
足音さえもかき消すこのアラームに、キラは食いつくだろうか。そうでなければ、奴がどこへいるのかわからないまま戦うことになってしまう。
『おお? Goshan方面から来てるぜぇ! いらっしゃいませ!』
銃声にしては間抜けな音がして、僅かなラグののちに爆音が轟く。それは一撃でアーマーを破壊し、相手を死に至らしめる程の大ダメージを与える必殺の榴弾。それが背中で爆発するのは怖いし、誤射されたらたまったものではない。
でもまあ、今回はちゃんと敵に当たったようだ。呻き声が聞こえてくる。しかし、この声はキラではないようにも聞こえる。
『今のは普通のSCAVね。キラじゃないわ』
『ちぇー、M443は高いんだぞー!』
ハズレだったようだ。しかし、ラスミューセン方面から足音も聞こえないし、キラはまだGoshanに立て篭っているのだろうか?
嫌な予感がする。中央通路は上から2人が守っていて、さらに通路中心には花壇がキバストアへの射線を遮っているものの、完全にではない。半分くらいは見えているのだ。
もしも、予想に反してそこから来たなら、どうなるのか?
その答えは銃声だった。右半身を下げるように振り返ると、残された左腕に銃弾が当たる。痺れるような感触と共に赤いガラス片のエフェクトが飛び散った。
「レイジ!」
「無事だ! シノン、奴はマンティス方面!」
一瞬だけ光が見えた。中央通路を挟んで反対側、青くMantisと店名の光るテナントの中にいたのだ。俺たちがバーガーショップでもたついているうちに移動していたのか?
そんな思考が巡る中、柱の影に飛び込んで背を預ける。いくらイゴルニクとはいえ、柱は貫通できない。でも、その制圧射撃のせいで俺は動けなくなってしまった。この柱が俺の城壁というわけだ。
『レイジ、レイジ、俺もそっちに行く!』
『こちらレン、私は挟みに行きます!』
「レイジ、早く中に!」
コハルが手を伸ばすが、それを狙ってキラの弾幕が降り注いできて、流石にコハルも手を引っ込める。だった3メートルくらいの距離だというのに、遠くに感じる。
足音が聞こえる。詰めてきやがったな。こんな時に限ってシノンとフカ次郎は移動中。俺1人で対処せざるを得ない。
「俺もそっち行きたいよ!」
せめて、死ぬならコハルの側がいいんだけどな。ここで死んだらもったいないし、まだコハルに好きだって、そんな一言さえ言えていないんだぞ。
だから、ポケットからグレネードを取り出してピンを抜いた。突っ込んでくるキラもこれはダメだからな。足止めには丁度いい。
「グレネード投げる!」
響く金属音と共にキラの悲鳴が上がる。更には、ラスミューセン方向から銃弾が飛んできた。あまりにも静かで、ボルト作動音だけが微かに聞こえる。それが誰かなんて、聞く必要もなかった。
「レイジ、てめーの左後方からカバーしてる! キバに突っ込め!」
奴の怒鳴り声が聞こえる。右斜め前に走ればキバストアがあって、コハルが手を伸ばして待っている。動くならば今しかない。
「行くぞ!」
たちまちタゲが俺に向いた。無数の銃弾が飛んできて、当たる寸前を見えない殺意が貫いていく。
腹に当たった。そして、脚にも。左脚が壊死して、俺はキバストアを前に転びかけた。すがる思いで伸ばした手は、コハルがしっかりと握りしめてくれる。
「来て!」
「助かる!」
コハルに引っ張られ、俺はキバストアの中に文字通り転がり込む。脚をやられてまともに立てないが、それでもなんとか入れた。防弾ガラスに守られる安心感はやはり格別だ。
そして何より、コハルを泣かせずに済んだのが何よりも嬉しい。それこそ、軽口を叩く元気もまだあるからな。
「ほら、死なないって言ったろ?」
「ボロボロじゃない! 早く治療して!」
「んじゃこれ渡すから、店長が来たら投げつけてやれ!」
コハルにF-1グレネードを追加で渡しておき、俺は治療に取り掛かる。その間にも、リョーハたちがキラを追い詰めていくはずだ。
『レンです。IDEA側からキラを挟みました!』
『シノンとフカも上についたわ。でも、キラがマンティスに入って撃てない!』
ありゃりゃ、あそこに入られたか。暗い上に、病室代わりに使われていたせいでパーテーションが多く、入り組んだテナントだ。突っ込んで接近戦に持ち込むしかなくなる。
「レンとリョーハはマンティスに接近して、圧をかけてくれ。治療次第俺もいく。ケリをつけるぞ!」
さーて、そろそろ決めるとしようか。店内の壁にはP90がスポーンしてるし、あれを持っていけば咄嗟に使えるかもな。