Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
いや、決してオフラインモードでローグUSECとやり合ってたとか、クリスマスツリー巡りをしていたわけではないので、7mmバックショットを顔面に撃ち込むのだけはご勘弁を!
BEAR Operator “Rage”
Aincrad layer1”Woods”
Woodsが雪に覆われるなんて、誰が予想しただろうか? 少なくとも、タルコフがタルコフだった頃にはなかったイベントだ。どうも、アインクラッドの季節に合わせているらしい。
そんな雪降る森の中をコハルと歩く。どうやら、マップにクリスマスツリーが出現しているらしく、それを確認するタスクが出てきたのだ。
もちろん、PC版のバージョン0.12.12で予習済みだから場所が変わっていなければ間違わない。
「雪景色って綺麗だね」
「去年の年末は散々だったし、気にしてる余裕なかったな」
そうそう、少数部隊で5層のボスに挑むハメになって、レイダーには殺されかけて散々だったな。つい昨日のことみたいにも思える。
あの激動の年末に比べれば、コハルと一緒にクリスマスツリー巡りなんてご褒美みたいなものだ。デートって言い張ってもいいよな?
「あ、アレじゃないかな?」
湖畔の桟橋に、不釣り合いなモミの木が聳え立つ。その根本にはプレゼントボックスがいくつも転がっていて、SCAVが歩いているが敵対する様子もない。
そう言えば、Woodsのクリスマスツリーの周りには特に敵対しないSCAVがいたっけ。後味も悪いし、殺さないでいてやろうかな。
「行くか。あのSCAVは敵対しないはずだし、放置でいいか?」
「そうだね。クリスマスに殺し合う必要なんてないもん」
本当にコハルは優しいんだから。襲ってきたオレンジプレイヤーも殺さない程、心優しい真の善人なんだ。
こんなコハルに、俺は顔向けできるのだろうか? そんな思いがちくりと胸を刺し、思わず首を振る。今はよそう。クリスマスを楽しみにきたんだから。
そうして桟橋に足を踏み入れると、パレットやソファーの上にアンティーク品がスポーンしていた。ツリーを確認するタスクの完了音も鳴り、やることは終わった。
「いいものあったか?」
「花瓶が落ちてたよ。これ、ラグマンが欲しがってたものじゃないかな?」
「コハルは運がいいな。俺なんて馬の置物だよ」
置物をソファーから取り、バッグへ仕舞う。さて行こうかと思ったが、コハルはそのソファーへ腰掛け、俺の手を引いて隣へ誘ってきた。
今はPMCに狙撃される心配をしなくていい。少しくらい楽しんでもいいだろうと、隣に腰掛けてツリーを見上げる。
「少し休んでいこうよ。せっかく綺麗なツリーがあるんだから」
「悪くないな。まあそんなこともあろうかと」
バックパックから紅茶の入った水筒を取り出し、片方をコハルへ差し出す。丁度、コハルはストレージから取り出したであろうロールケーキを俺へ差し出していた。
「これ、5層の時のじゃないか?」
「正解。迷宮区で食べたの覚えてる?」
「忘れるわけがねえ」
リーダーとしての責任感に潰されかけていたところに、コハルが来てくれたのが何よりも嬉しかった。
隣にいてくれて、いつも支えてくれるコハルが今も心強く思える。
守られてばかりいた少女が、本当に強くなったものだ。感慨深く思っていたら、ソファーに置いていた手をコハルに握られる。
グローブ越しにもわかる、その手の暖かさ。思わずこの体ごと委ねたくなるくらい、優しいの手のひらだ。
「またコハルと年の瀬を迎えられて嬉しいよ」
「私もだよ。お互い、やっと生きてここまで来れたね」
そう言ってコハルが微笑む。おかげで目がコハルに釘付けだ。こんなことなら、正式に恋人になっておくべきだった。そうすれば、こんなところでヤキモキせずに済んだのだから。
だから、今ここで言ってしまおうかと思った。でもタイミングを逃してしまったらしく、コハルは立ち上がって俺に手を差し出してくる。
「行こう、レイジ。まだ行く場所があるんだから」
「了解です、コハル殿」
その手を握って立ち上がると、コハルは手を離してくれなかった。この先しばらくはSCAVもいないし、脱出口までこのまま歩くつもりなのだろう。
少し恥ずかしい気もするが、他のプレイヤーは見当たらない。ならば、少しだけ幸せな時間を噛み締めてもバチは当たるまい。
だから、わざとゆっくり歩いた。コハルに歩幅を合わせ、いつもは前を行く俺が隣を歩く。警戒も何もおざなりだが、構うことはない。
森の中を2人でゆっくり歩き、緑のスモークが上がるバンカーを目指す。取り留めもないことを話して笑い合う、こんな時間が何よりも嬉しくてたまらない。
「レイジ、何かいるよ?」
コハルのその一言には、流石にこの楽しい雰囲気も吹っ飛んだ。すぐに手を離してAKを構え、人影を探す。
それはすぐに見つかった。白髭に赤いサンタ帽、背中には赤いピルグリムバックパックを背負ったNPCは、やはりイベントで出てきたサンタクロースではないか。
「ありゃサンタじゃねーか。アイテムくれるぞ」
「本当? タルコフにもサンタさんがいるんだ」
手招きするサンタに近寄ると、メリークリスマスと言いながらアイテムを渡してくれた。俺にはウィスキーで、コハルには何か小さな箱を渡していた。アクセサリーらしいな。
「わぁ……綺麗なネックレス!」
「よかったじゃん、着けてみなよ」
すると、コハルは俺へネックレスを渡してきた。笑顔で近寄ってきたあたり、つけて欲しいのだろうか?
金具を外したあたりで、コハルは頭を寄せてきた。抱きしめるかのように手を回し、その細い首に銀のネックレスを着けると、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「ど、どうかな?」
「可愛いじゃないか。よく似合ってる」
「そう? えへへ……」
はにかむコハルが可愛くてたまらない。辛抱たまらず彼女の華奢な体を抱きしめて……
※
コハルを抱きしめようとした両腕を空振って、ボロの毛布を抱きしめたところで目が覚めた。
暗いハイドアウトでも、どこかの宿屋でもない。フィールドに点在する安全地帯、そこで雑多な毛布をかぶって寝ていただけだ。寒いし二度寝はできなさそうだ。
傍に置いたAKS-74Uは命からがら、レイダーを殺して奪ったものだ。サプレッサーとリコイルパッド、光学サイトが取り付けられてはいるが、耐久値の減ったボロ。あの頃には考えられない装備だ。
着ているアーマーも、レイダーから奪った時に損傷させてしまったTrooperアーマー。明日の食料にさえも頭を痛めつつ、1人寂しく洞窟でクリスマスを越す、なんともひもじい生活か。
それでも、文句を言う権利は既にない。さっきまで夢に見ていた幸せなクリスマスも、コハルと一緒に過ごす未来さえも、俺は自ら捨て去ってしまったのだ。
自らの激情のままに力を振るい、悪魔になったあの日から。まるでSCAVのように身を落とすしかなくなったのだから。
・クリスマスツリー
2021年クリスマスイベントにて、ラボやファクトリー以外に現れた。アイテムを集めると、ハイドアウトに建設して、レアアイテムをクラフトすることも可能。
マップに設置されたツリーの根本には、アンティーク品やアタッチメントなどのアイテムがスポーンする。
・サンタクロース
赤いピルグリムバックパックを背負い、白髭と赤いサンタ帽を被ったNPC。見た目はまんまSCAV。
PMC、SCAVに対して友好的で、手招きに応じて近寄るとアイテムをくれる。プレイヤー側もアイテムを落とし、サンタがそれを拾うと別のアイテムをくれる。
尚、攻撃すると敵対し、猛烈な勢いで襲ってくる上にカルマ値がかなり下がる。未確認情報ではあるが、ヘッドショット3発にも耐えた模様。リザルトではボス扱い。