Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
ツイッチドロップでいいものはもらえたでしょうか?しなも救援物資イベントまで来て、正月早々タルコフ市は大賑わいですね!
ストリーマーの人に連れられて投下物資行ってみたけど、何だあの激戦区は…?
ULTRA地下のセーフルームに入り、俺たちはようやく一息をつくことができた。フカ次郎なんて、ソファーにどっかり腰掛けてるぞ。尻でビットコイン潰してるのに気づいてないな?
このセーフルームは脱出地点の一つで、作戦会議をしていたバーガーショップの男子トイレ、その小便器裏に隠されたリーダーに"11SR"カードキーを通すことでドアが開く。
なんでトイレにリーダーがあって、ショッピングモールにこんな隠し部屋があるんだって話だが、キーカード裏にTerraGropeのロゴがあるからお察しくださいと言うわけだ。
「ちょっとフカ、そこどいて。ビットコイン潰してるから」
「え、どこどこどこ!?」
「少しは遠慮しなさい。キラの装備貰ったでしょ」
シノンが呆れ顔をしているので、リョーハが宥めようと頭を撫でる。あ、綺麗な一本背負いで投げ飛ばされてやんの。
伸びているリョーハをフカ次郎がよしよしして籠絡しようとしているな。あ、デレデレしてたら今度は頬をつねられてら。
そんな取り合いを尻目にウェポンケースを漁っていたら、コハルに袖を摘まれた。本当にこういう仕草が可愛いんだから。
「どうした、レアアイテムでもあったか?」
「ううん、そうじゃないけど……」
はてさて、どうしてコハルは少し照れ臭そうにしているのか。で、少し俯くような感じになっているんだろうか。
俺も、少しリョーハの真似をしてみようか。グローブを外して頭を撫でてみると、コハルの表情はほんのり笑顔へと変わっていった。どうやら、正解を引き当てたらしい。
「今回もお疲れ様、コハル」
「レイジもね。無事でよかったよ」
「コハルがキラに蹴飛ばされた時は、流石に肝が冷えたよ」
でも、これでよかった。これでまた、俺はコハルとこの先を一緒に過ごせるわけだからな。
「さ、帰ろう。戻ったらコーヒーでもどうだ?」
「そうだね、美味しいお店探そっか」
新しい街で、コハルと一緒に美味い店を探すのは楽しみの一つだ。今回は来て早々にレイドに出てしまったから、これから探すとしよう。
ここには命を賭けた戦いがあって、その中でこうして騒がしい仲間を得られて、守りたいと思う人が、この先も一緒に生きたいって人が出来た。
随分と贅沢させてもらっているわけだし、茅場には感謝しないとな。おかげで、俺はリアルで得られなかった幸せをここで手に入れているのだから。
「リョーハ、漁り終えたらボタンを押せ。おうちに帰る時間だ」
「あいよ、6名様ごあんなーい」
リョーハが壁のボタンを押すと、ドアが閉まって脱出カウントが始まる。数秒のカウントダウンが終わり、視界がブラックアウトしていくその間、俺はコハルの手を握っていた。
※
「ありがとう、兄弟! やっぱり見立て通り、ULTRAは宝の山だったのか……早速部下を送り込まないといけないな」
達成報告をするなり、ラグマンは上機嫌になっていた。
タルコフの時と違って、トレーダーもキャラクターモデルがあるのが何より新鮮だし、人間味に溢れていて、プレイヤーと勘違いしてしまいそうにもなる。
「で、報酬をくれないか? 派手にパーティしたもんで、弾代が無いのさ」
「勿論、ケチケチせずに用意しているさ。そして、そこのお嬢さんのためにも、腕によりをかけさせてもらったよ」
ラグマンの目線の先、そこにいるのはコハルだ。当のコハルは右や左を見て、自分しかいないと知るや、「えー!?」と声をあげた。
「君みたいな子をコーディネートするのは夢だったものでね。これを受け取ってくれ。きっと気にいるはずだ」
コハルの前にはウィンドウが表示されている頃だろう。タスクの報酬一覧を見つめて、驚いたような顔をしていた。ラグマンは割と太っ腹だし、驚くだろうさ。
うん、金はタルコフ時代より増えてるし、報酬もピルグリムバックパックの他にアーマーもくれるのは嬉しいな。Gzhelはまあ、タスクで使うし取っておこう。
「レイジさん、援護ありがとうございました。これ、お返しします」
レンはそう言ってP90を差し出してくる。確かにキバストアの鍵を開けたのは俺だが、それはもうレンにあげたものだ。それに、俺は使わないしな。
「レンが持っておいてくれ。人にあげたもの取り返すなんてしねえよ」
「でも、結構高いですよね……?」
「弾とマガジン手に入らねえから、売るなり使うなり好きにしてくれ」
レンは俺とP90を交互に見ると、P90を強く胸に抱き締めた。
「わかりました。この銃、大事にしますね!」
「大事にしすぎて死ぬなよ。また一緒に戦おうぜ」
「またよろしくね」
俺とコハルと交互に握手すると、レンは嬉しそうに微笑んで見せてくれた。その後ろでリョーハがフカ次郎とシノンに両腕を引っ張られているのが笑える。
というか、いっそのことうちにスカウトすべきだろうか。見込みはあるし、女2人よりもギルドの庇護があった方が、何かと強みになるかもしれない。アトラスはやべーって有名らしいからな(アルゴ談)
「レン、良ければアトラスに来ないか?」
「え、私がです?」
「もちろんフカもだ。2人とももっと強くなれるだろうし、来てくれると俺たちも助かる」
将来有望だし、来てくれると助かるのも事実だ。アトラスの人数は多少増えて、中堅どころもいい感じに育ってきている。ボス攻略も交代で出撃できるくらいには。
それでももう少し人が欲しい。即戦力とは言わずとも、前線で戦う気概のある人が。そうすれば、俺はもう少し裏で動きやすくなるからな。
「おやおや、このフカ次郎様が必要だって? リョーハが言ってくれたら、答えるのもやぶさかじゃないんだけどなぁ〜?」
そうは言うがフカ次郎、お前がリョーハの顔面に引っ付いてるせいで答えられないようだぞ。フェイスハガーかテイオーかお前は。
「フカ、リョーハさんを離してから言って。みんな見てるから!」
「ほら、その便利屋は私のものよ……!」
シノンに引き離され、ようやくリョーハは自由を取り戻す。我が人生に一片の悔いなし、って顔しやがって。後でドロップキックの刑にしてやる。
「フカがあの状態だし、まずはお試しでいいなら入ってみたいです」
「お試し一週間無料キャンペーン、ってか? ようこそアトラスへ」
こうして、俺たちアトラスにはまた愉快な仲間が増えることとなった。今夜は歓迎会だぞ、とアトラス所属員全員にメッセージを飛ばしておく。
おっと、アルゴに貸出中の"ラングレー"隊にも連絡しとかないとな。セルゲイとダスティにヘソ曲げられたら困っちまう。
「リョーハ、今夜はパーティだ。一旦帰還して準備するぞ。場所は、いつも通り俺のハイドアウトな」
「うーす。俺とシノンは買い出しに行ってくるわ」
「お、ならば私もリョーハについて行くぞ!」
「いや、主役が来たらダメだろ」
ぶー垂れるフカ次郎を宥めるリョーハの後方で、シノンが冷たい笑みをフカ次郎に向けていた。おいリョーハ、相方のことに気付けこのアンポンタン。
※
その1時間後、俺とコハルはハイドアウトに帰ってきた。歓迎パーティのメールには全員が参加と返信してきたし、キリトやクラインも招待したから多分来るだろう。
「そう言えばレイジ、タスクの報酬がすごく良かったよ!」
「そんなにはしゃぐって、どんだけ良かったんだ? スイーツ食いまくっても無くならないくらい?」
テーブルの移動やら準備をしているから、キッチンで料理中のコハルに背中を向けながら答える。顔を見ていたいんだけどしょうがない。後ろ歩きでテーブルを運べるわけがないからな。
「それもそうだけど……新しい防具、性能がいいの。ええと、クラス5?」
「俺のAACPCと同等レベルじゃねーか」
どうも、防具のクラス表示はタルコフと共通らしい。1〜6まであって、クラス5は大体の弾を防げる堅牢なアーマーだ。まあ、俺のイゴルニクならクラス6だろうがぶち抜くけど。
「ただ……ちょっと恥ずかしいかも」
振り向いた時には着替え終わっていた。金属製のブレストアーマーで胸部を覆い、その上からは赤に緑のアクセントが加わったコートを纏っている。おっと、下はショートパンツか。ラグマンナイス。
ただこの装備、だいぶ露出が多い。胸元と臍が見えてるし、纏っているコートも腰のあたりでボタンかベルトで1点を止めているだけ。袖も半袖だから、すらっと美しい腕が丸見えだ。
「……感謝します、ラグマンの兄弟よ」
「ちょっと……!」
コハルは顔を真っ赤にしてしまった。可愛いからいいじゃないか。
「凄く似合ってるぞ。可愛すぎて目が離せねえ」
「いつもこっちを見てるの気づいてるからね? 視線って意外とわかるんだから」
バレてたか。次はもう少し、目だけ動かしてみれるように訓練しよう。まあ、コハルは笑ってくれているし、許されたと思っていいかな。
「レイジには、服とか装備とかなかったの?」
「あったぜ。俺のお気に入りなんだけど、あそこ砂漠で暑いから着なかった」
ウィンドウを開いて、装備メニューからそれを選択する。ベータの時にはこれが着たくて、必死にレベルを上げたものだ。レベル40はまだ先だが、早く着れるならそれに越したことはない。
漆黒のジャケットが俺の上半身を包む。あちこちにファスナーがあり、左肩には白いBEARのワッペンがよく映える。
これこそ、俺のお気に入りである"BEAR Black Lynx”だ。つまりは、黒のソフトシェルジャケットである。
「キリトみたい、とかいうなよ?」
「言わないよ。すごく似合っててカッコいいね」
「はは、そっかそっか」
カッコいいのはジャケットなんだろうけど、コハルにそう言われると嬉しくなってしまう。抱きしめたくなるじゃないか。
本当にやったらアレなので、そっと頭を撫でることにした。少しビックリしたように震えるが、すぐに擦り寄ってくる。目もトロンとしていて、心地良さそうだ。
「心機一転、頑張ろうな」
「うん……一緒に、ね」
こんなことを言われたら、思わずニヤけてしまう。こうしてコハルニウムを補給した俺は、また明日も攻略に勤しむ元気を得ることができた。