Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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 先日、タルコフの医薬品” obdolbos"の効果が変わりましたね!

 スキルレベルをカンストくらいまで上げる代わりに、15分後20%の確率で即死ってどんだけー…


1層-5 隠れ家のパーティ

 街に入ると同時にリザルト画面が現れた。キルリストや受けたダメージ等の一覧を読み飛ばし、灯りの灯る街に目を移す。

 これがゲームだった頃なら、綺麗な街並みだと思う余裕があったのだろう。今は緊張感の張り詰めたやばい街に見えてしまっていた。

 

 くるるるぅ……

 

「おい、何だ今の音」

 

 リョーハはどこからの音だと見回すが、俺にはわかってしまった。

 キャップの上から装備しているGsshヘッドセットは飾りではない。周辺の音を増幅する機能を有しており、コハルから腹の鳴る音がしたのもしっかりキャッチしている。

 

「そんなことより店探しだ」

 

「そ、そうだね! 美味しいお店がいいな!」

 

「初日だぞ、グルメレポーターも網羅しきれてないさ」

 

 誤魔化しているようだが、誤魔化せていないからな。若干赤面しているのも、何だか可愛らしいからいいが。

 

「残念なことに、どこも満員のようだな」

 

 リョーハが溜息を吐く。視界の先のレストランは人でごった返していた。

 SAOプレイヤー1万人に合わせて、同じくらいのPMCオペレーターが増えたのだ。キリトの言う通り、リソースが足りていない。

 

 それからしばらく、マップのアイコンを頼りにレストランを探すも、どこも30分とか1時間待ちの状態だ。

 俺たちはともかく、コハルの腹が耐えられない。既に捨て犬か捨て猫のような、デスゲーム開始とは違った縋るような目で訴えてきている。

 

「こうなりゃ仕方ねえ。テイクアウトして、俺の隠れ家(ハイドアウト)でパーティするぞ」

 

「ハイドアウト?」

 

 何それ? とコハルは首を傾げる。EFTの機能だからコハルが知らないのも当然だ。

 

「PMCに割り当てられてる隠れ家だ。廃墟だけど、拡張すればマシになる。ホームみたいなもんだ」

 

「最初から持ち家かぁ……いいなぁ」

 

 果たして、アレをホームと言っていいのだろうか。俺はリョーハと顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。きっと、コハルが見たらがっかりするだろう。

 

「美味い店をお探しかナ?」

 

「うおっ!?」

 

「お前どっから!?」

 

「きゃっ!?」

 

 急に生えてきた黄色の塊に、三者三様の悲鳴が上がる。コハルなんてお化けでも見たような反応で、犯人である少女はどこか不服そうな表情を浮かべていた。

 いや、お前が驚かすのが悪いんだからな?

 

「ずっと探してたのサ。キー坊の情報と違うから、探すのに手間取ったヨ」

 

「キー坊? もしかしてキリトか?」

 

「そうサ。街に残した知り合いがいるから、面倒見てやってくれってナ」

 

 あいつ、俺たちに気を回してくれるとは優しいじゃないか。今度会ったら奢ってやろう。

 

「なら、飯でも食いながら話を聞かせてくれ。どこも混んでるから、テイクアウトの店で」

 

「情報屋にお任せダ」

 

 とりあえず、今夜の飯は確保出来そうだ。缶詰や携行食(レーション)を食わずに済むことに感謝しなければ。

 

 

「それじゃあ、我らの生存を祝って乾杯!」

 

 乾杯! と思い思いのドリンクを掲げる。急に生えてきた彼女はアルゴといい、ベータ時代から情報屋をしているらしい。

 おかげでテイクアウトの美味い店をいくつも教え貰うことが出来、ピザにグラタン、ポテチやスイーツ等々が目の前に並んでいる。アルゴに感謝しなければ。

 

「それにしても、暗いね」

 

 コハルが隠れ家を見回して呟くが、我慢してほしい。

 

 EFTの隠れ家はどこかの地下室を改造したものらしく、最初は本当に廃墟の地下室でしかない。

 レベルを上げ、金やアイテムを集めて拡張していくと、アイテムのクラフトや自然回復が早まるなどのボーナスがある訳だが、最初は本当に貧相なものだ。

 

「発電機と照明が作れなくてな。明日からアイテム集めか」

 

 拡張すれば電球がつけられるのだが、いかんせん材料が足りない。蝋燭で明かりを灯すしかなく、ネズミにでもなったような気分だ。

 

 食堂ユニットは作ったからコンロと冷蔵庫くらいならある。マシといえばマシか。

 

「でも、宿代浮いて助かるよ。こうしてみると、やっぱりSAOとEFTって違うんだね」

 

「そりゃ、ジャンルからして違うからな。一応、タルコフもMMORPG要素を取り込んだFPSっていう触れ込みだが」

 

「それならレイジ、オイラにタルコフのことを教えてヨ」

 

「私も知りたいな。レイジやリョーハがどんな世界で戦ってきたのか、すっごく気になるよ!」

 

 アルゴは情報屋だから、全く知られてないEFTの情報に価値を見出したのだろう。売り捌くか、他の誰かの役に立てるのかはアルゴ次第だが。

 コハルは間違いなく興味本位だろうし、ツマミに話してやろうか。アルゴがいない時にでも、とっておきの話をしてやろうか。

 

「じゃ、システムとかその辺かな?」

 

「その後に、俺とレイジの思い出話だな」

 

「怨念マリモ事件もか?」

 

「やめろ、怖くて眠れなくなる」

 

 タルコーラで喉を潤しつつ、まずはアルゴの知りたいことを、次にアルゴが聞いてこなかった部分を伝える。

 体力システム、回復、武器やそのカスタマイズにSCAVの存在。

 

 この場では語り尽くせぬほどの情報を、雑談を交えながら話すと笑いが起きる。

 

「ホント酷かったぞ。リョーハがボスに喧嘩売ったら反撃されて、両足骨折しやがってさ」

 

 骨折状態に陥ると、壊死と同じデバフを受けることになる。

 脚なら片方につき45%の移動速度低下に加え、ケンケン歩きになって狙いがブレる。ダッシュもジャンプも出来なくなる、嫌なデバフだ。

 

「それで、どうしたの?」

 

「こいつを盾にしてボスを撃ったのさ。リョーハはギリギリ生きてたし、ボスも倒せたから文句ないだろ」

 

「この人でなしが!」

 

 まだ死ねた時だからこその芸当だ。最悪死んでも、まあドンマイと揶揄うつもりだった。今は、そうもいかないけど。

 

「PMCは本当に血の気が多いナ。デスゲーム宣言の後に、結構な人数がパーティ組んで狩りに行っていたヨ」

 

「タルコフは攻めた方が勝つってジンクスあるからな。あと、戦いを避けて漁るのも美味い。死体以外にもクレートとか、オブジェクトに素湧きしてるアイテムあるし」

 

 低レベルの頃は死んでロスしても惜しくないような、低コスト装備でフィールドを駆け回ったものだ。レアアイテムをかき集め、金稼ぎに躍起になっていたのを思い出す。

 

 だが、リョーハの意見は違うらしい。

 

「みんな銃を撃ちたいだけだろ。FPSの中でもコアな部類がタルコフだ。実銃まんまのが使えるんだから、みんな喜んでるだろうさ」

 

「レイジに限らず、みんな命知らずなんだナ」

 

「レイジは無理しちゃダメだからね? 本当に死んじゃうんだから」

 

 心配は嬉しいが、戦うべき時は戦わなきゃならない。それに、仲間のために犠牲になる覚悟も必要な時がある。

 口にする必要がないだけで、俺はいつだって死ぬ覚悟はある。ただ、さっさと死んだら面白くないだけだ。

 

「安心しろ。簡単には死なねえよ」

 

「確かにな。『こいつ死んだわ』って突っ込み方する癖して、毎回生きて帰ってくるんだぜ? しかも敵を皆殺しにして」

 

「リョーハより、レイジの方が死神だったり?」

 

「コハルまで……!」

 

 笑っていたまさにその時、端末が震えた。画面を見ると、キリトからのメッセージが来ていた。

 なんだ、心配になったかとメッセージを開くと、安否確認の他に『確認してもらいたいことがあるから、可能なら"ホルンカ"に来て欲しい』と添えられていた。

 

「どうした、ラブレターでも来たか?」

 

「どっちかというと赤紙だな。キリトからだ」

 

 キリトの名前を聞いたコハルが近寄ってきて、端末を覗き込む。なんだなんだとアルゴもメッセージを覗き、首を傾げていた。

 

「ホルンカなら、武器入手クエストが出る村だナ。片手剣使いのキー坊なら間違いなく行く所ダ」

 

「そこで確認に来てくれって、タルコフ絡みのなんかがあったんだろうさ。俺は明日にでも行くが、アルゴも来るか?」

 

「もちろんサ。情報は生命線だからナ」

 

「私も行くよ。いいよね?」

 

 コハルの顔には怯えではなく、決意が見て取れた。今日の戦闘で少し自信がついたのだろうか? それに、彼女の師匠たるキリトもいるのだ。気合も入るだろう。

 

「ああ。今のうちに水と食料、回復アイテムを調達しよう。リョーハ、テメーも自分のハイドアウトで補給して来い」

 

「拒否権なしかよ。まあ行くけどな」

 

 リョーハは置いていたバックパックを背負い、挨拶もなしにハイドアウトから出ていく。

 あいつは仕事をきっちりこなす。さよならの挨拶をしないのも、また会えるための験担ぎだろうし。

 

「アルゴ、泊まっていくか?」

 

「いや、オイラは宿を取るサ。見たところ、マットレスはひとつだけのようだからナ」

 

 休憩スペース(Lv1)はボロいマットレスひとつを敷いただけだ。廃品置き場から拾ってきたのか? と思うくらいに酷い。泊まる気にもならないか。

 

「じゃ、コハルも宿取るか?」

 

「ううん、私は泊まって行くよ。準備もあるでしょ?」

 

 意外だった。こんな汚いところで寝られないだろうと思ったのに。

 まあいいや。買い出しに行こう。弾薬も結構使ってしまったし、そろそろ照準器諸々も必要だ。

 

 

 蝋燭の火が消えた地下室は何も見えない。星空の下でもないから、本当の闇に包まれている。

 そんな中で、私はボロボロのマットレスの上で何度目かわからない寝返りを打つ。

 

 どうしてだろう。全然眠気がやってこない。ゲームだからなのかな。

 でも、レイジはぐっすり寝ている。私にマットレスを譲ったせいで、壁にもたれて眠り始めちゃった。銃を肩に立てかけているのは、それが落ち着くからなのかな。

 

「レイジ……」

 

 そっと手を伸ばすと、レイジの頬に触れた。疲れちゃったのか、ぐっすり眠って起きる様子がない。

 レベルは漸く2になったらしいけど、HP量は私の方が多くなっちゃった。PMCの人は、レベルが上がってもHP最大値は440のままだって。

 

「私より、簡単に死んじゃうのかな」

 

 私は一撃でフレンジーボアを倒せるようになったけど、レイジは何発も撃ち込んで漸く倒している。SCAVに襲われた時だって、かなり危なかった。

 きっと、SAOプレイヤーが間違ってソードスキルをレイジに当てたら一発で死んじゃう。強いのに、すごく脆い。

 

 1番守られなきゃいけないはずなのに、私を守るために残ってくれた。見返りがあるわけでもないというのに。

 

「……私が、守るから」

 

 強くならなきゃ。お互い死なないで、それでも臆病にならず、戦わなきゃ。

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