Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
キラ店長はサバゲーでも強かったよ…
地獄のラッセルを終えて、ようやく元の道へ合流出来た。クソッタレな雪はせっかく掘った道をすぐに埋め尽くしてしまい、シャベルをぶん投げたくなる。
「スーカ、2度と雪かきなんかするかよ……低体温症とか実装されてねえよな?」
「寒さに耐える訓練と思いなさい」
発狂して脱ぐぞ、とか言ったら蹴られた。理不尽じゃ。俺の裸を見たくないっていうならば、少しは優しくしてくれてもいいじゃないか。温かいコーヒー差し入れてくれるとか。
で、どうしてシノンは俺の体をチラチラ見てるんだ? そんなに俺の裸に興味あるのかよ?
「気になるのか?」
「リョーハがここで脱いだら、何分耐えられるか学術的興味があるわ」
「実験動物かよ!?」
「ほら、ご褒美」
シノンはそんな冷たいことを言いながらも、熱々のコーヒーが入ったポットをくれるあたり優しいんだよなぁ。シノンさんマジ女神。邪魔するSCAVはマジスーカ。
ぐびりとコーヒーを飲んでいると、シノンが頭を撫でてくれた。あー、このまま撫でられていたい。お座りでもお手でもなんでも出来そうな気分になってきた。
「もっと撫でろー」
「寒いから帰るわよ。もうおしまい」
凍死こそしないが、このマップはクソ寒い。今でこそ俺もシノンもソフトシェルジャケットを着ているが、最初の頃は地獄だった。
特に、BEARのジャケットが解放されたのが11層の話だ。AS-VALの運用コストのせいで新しい衣装を買う金がなく、半袖のBEAR Base Upperを着てここに来る羽目になったのは本当に最悪の思い出だぞ。
「おいフカ、後で撫でてくれよ」
『お主、グイグイくるのう。うむ、答えて進ぜよう』
やったぜ、なんて思っていたら足に鈍い痛みが走った。シノンめ、踵に全体重をかけて踏んだな? ツンデレなのかクーデレなのか、イマイチわかんねえ。
「何か言ったかしら?」
「いえ、なんでもございませんシノン様」
何度かシノンに告ってみようかとも思ったが、尻に敷かれる未来しか見えない。とはいえ、フカ次郎に脇目を振ろうものなら最後、こっちを見ろとばかりに何かをして来るんだ。
せめて、もう少し可愛い仕草ならいいんだけどな。そうそう、こんな風に耳をピクピクさせるみたいな仕草とか、猫みたいで普通に可愛いのに。
「……何か聞こえるわ」
「え、なんも聞こえねえぞ」
「Soldinなんて使ってるからよ。Comtacに変えなさい」
「シノンの頼みでも、こいつは外せないね」
「剥ぎ取ってやるから覚悟しなさい」
そうなったら、反撃の名の下にお触りしてやる。パロスペシャル喰らおうが、何しようが構うものかよ。
そんなバカなやりとりをしながらも、声を聞いたという方向を目指して走る。助けを求めるなら行かねばならない。もしかしたら、オレンジが出たのかもしれないしな。
「見つけた。リョーハ、前方200メートル。追われてるわ!」
「見えた。何だあのペン公の群れは!?」
なんてこった、ツインテロリがペンギンナイトに追っかけられてるじゃねえか。微笑ましいように見えて、ペン公は剣を持った物騒な連中だ。ちびっこいドラゴンまでいるぞ。
「レイジ、応答せよ」
『会議は紛糾中。ALSとDKBがパトロールの人員を押し付けあってる』
「だろうな。主導権争いしているだけあって、マンパワーを削られたくないんだろ。ここまで来て足引っ張るのか」
『あいつらには期待してねーよ。状況』
「シノンが不自然なモンスターの群れを発見したから、これから調査に向かう」
『MPKか?』
「かもな。そっちは頼むぜ、隊長殿」
それだけ報告して無線を切る。シノンはもう動き出していて、狙いやすいように群れへ接近していた。俺もそれを追いかけて、スタミナの限り走り続ける。
距離50メートルまで肉薄した。ようやく、俺の得意な距離だ。
「シノン、どれからやる!?」
「脅威から言えばドラゴン……待って、ドラゴンがペンギンを攻撃してるわ」
「クエストの類で、ドラゴンが守ってくれてるのか? ならターゲットはペンギンだな。横風成分なし、ど真ん中で撃て。俺は突撃する!」
セレクターがフルオートになっていることと、マガジン残量がフルであることを確認する。覚悟を決めて走ろうとすると、シノンに肩を掴まれた。
「私以外にやられたら許さないから」
「お前を置いて死なねえよ。それに、守ってくれるんだろ?」
シノンが守ってくれる。それで俺はどれだけでも強くなれる。恐怖も不安も置き去りにしてきた。ここにあるのは勇気と自信。
嗚呼、久しぶりの突撃で心が躍るぜ。
「突撃!」
『おおっ、リョーハマジか!? グレネードは撃てないよ!?』
「あのロリ巻き込むから撃つな。追っかけてきたら、1発ぶちかませ!」
フカ次郎へ答えると、走りながらAS-VALを構えてトリガーを引く。
走りながらの射撃なんて当たりはしない。シュタタ、と小さな銃声じゃ威嚇にもならない。
それでもよかった。あれだけ目標が密集してるから、30発のうち数発は当たってくれたらしい。
「おらおら、俺のロックを聴きやがれ!」
マガジン交換。その間はシノンが狙撃でペンギンナイトを撃破してくれる。貫通した弾丸が後ろの奴に当たったり、まるで範囲攻撃だな。羨ましいぜ。
そんなことをしているうちにリロード完了。毎秒900発射撃可能なAS-VALはすぐに弾がなくなる癖して、マガジン容量が少ない。代わりに、貫通力とダメージ量は折り紙付きなんだ。
「おい、今のうちにこっちに下がれ! 援護してやる!」
立ちすくんでいたロリっ娘へ叫び、射撃を続ける。これがAKなら、銃声で声がかき消されちまってたな。AS-VAL使いであることに誇りが持てるぜ。
よしよし、こっちに逃げてきたな。で、やっぱりそのドラゴンもついてくるんだな。
「おい、そのドラゴンは味方なのか!?」
「ピナは友達なんです、撃たないでください!」
「俺たちのこと食わなきゃ撃たねーよ。それよりペン公だっ……!?」
油断した。リロードの合間に1羽迫ってやがった。咄嗟にRed Revel Ice Pickで脳天をかち割ってやったが、奴の一撃が意外に重い。
ガードのために突き出した左腕にくらった。当然左腕は壊死して、重度出血のデバフ付き。それで足らずに結構なダメージをもらって、全体HPが3分の1くらい削られてしまった。
「ブリャー!」
「リョーハ! 退きなさい!」
「無理そうだ!」
震える腕で銃を握り、撃ち続けなければ。ペン公はまだ来る。逃げるにしても足止めしながらだ。どれだけ持ち堪えられるかな。
嗚呼、まだ来る。せめて鎮痛剤の一つ飲ませろよクソが!
「あっ、ピナ!」
「きゅるる!」
なんだ、この威厳のねえ鳴き声。ペン公かと思ったら違う。水色のチビドラゴンが俺の周りを飛んでいて、泡のブレスを吐きかけてきた。野郎、トドメを刺しにきたか!?
でも、それは間違いだったらしい。たちまち出血のデバフが消えて、みるみるHPが回復していく。おい、壊死したとこまで治しちまうのかよ。
「リョーハ、無事なの!?」
「このチビドラゴンのおかげでな! そろそろお開きにしよーぜ!」
いい感じに密集してきたし、カタをつけるとしよう。パイナップルは好きか? 俺は大好きだ。パイナップルが乗ってるピザって結構好きなんだぜ。家族で俺だけだから肩身狭え思いしてるけどよ。
「プレゼントだ!」
キン、そんな甲高い金属音がして、安全レバーが吹っ飛んだ。ペン公のど真ん中に落ちたF-1グレネードは暫しののちに炸裂して、爆風と破片で奴等を吹き飛ばす。
後は僅かに残った残党狩りだが、残弾が心許ない。ここは逃げの一手に回るか。
「シノン、逃げようぜ!」
「同感よ。ほら、ついてきて!」
シノンが少女を庇うように下がり、俺は俺で適当にペンギンナイトを撃ちながら下がる。遅滞戦術って奴だ。あんまり弾がないからやりたくないんだけどな。
ほら、とうとうマガジンが全部空になっちまった。あと残るは拳銃だけだ。
「リョーハ、早く来なさい!」
「弾がねえんだよ!」
「援護してあげるから!」
『リョーハ、グレネード撃つから離れて!』
ホント助かるぜ。シノンの援護射撃に守られ、フカ次郎の放った榴弾でペンギンナイトを足止めしてもらい、俺はすんでのところで圏内に飛び込んでことなきを得た。
一体どれだけの距離を逃げ回ったのか考えたくもない。さっさと弾を補給して一息つきたいところだ。