Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
久しぶりにレイジとコハルのイチャ回を書いた気がする…
BEAR Operator”Rage”
Rage’s Hide out
2月も終わりが近いとはいえ、まだ2月。アインクラッドのシステムはきっちり冬だと判定しているらしく、あちこちに雪がちらつく。
でもハイドアウトならば雪など関係ない。だってどこかの地下室だし、暖房設備もあるから暖かい。
そして、そんなハイドアウトはクリスマスイベント以来の装飾を突貫工事で施し、食堂ユニットではアスナが料理スキルを遺憾なく発揮してご馳走を作る。エギルが良い食材を仕入れてくれて助かった。
それにしても、盆と正月が一緒に来たような忙しさだ。それでも仕方あるまい。今日は2月23日。我らがコハルの誕生日だから、祝うに決まっている。
だがコハルは俺のハイドアウトで同棲しているから、連れ出しているうちに飾り付けを済ませる必要がある。
「よし、今からコハルと出かけてくる。すまんが頼むぞ」
「任せろよ。合図するまで帰ってくんな」
リョーハがそういうと、他のアトラス隊員たちや親交のあって呼んだ面々が笑う。俺のハイドアウトなのに追い出されるとはな。笑うしかねえ。
「このやろー、後で覚えとけよ?」
「いいからデートを楽しんでこいよ。ついでに告ってもいいんだぜ?」
やいのやいのと冷やかすメイベル隊の連中とリョーハを蹴飛ばし、ハイドアウトを飛び出す。コハルを待たせているのだ。馬鹿野郎どもに絡んでいる時間も惜しい。
そうして5分後。はじまりの街の転移碑前でソワソワしているコハルを見つけたので、手を振りながら駆け寄る。
途端に花が咲いたような笑顔を見せてくれるのがあまりにも可愛らしく、AACPCを貫通して胸部が壊死してしまいそうだ。
「すまん、遅れた」
「時間通りだよ。出撃時間に遅刻しなかったね」
「隊長が何も言わずに予定変更しなければな」
一緒に見たタルコフ公式実写ドラマのネタを覚えていたらしい。思わず笑ってしまうし、こうして軽口を言い合えるのが嬉しかった。
「今日はどこへ行くの?」
「買い物だよ。普段着というか街着を探したいんだけど、センスがないからな。コハルの服も一緒に探したいし」
「確かに……どこで探そっか」
「時間はあるんだ。上の層までゆっくり探そうぜ」
さあ行こう、とコハルへ手を伸ばすと、自然に握ってくれた。最初は顔を赤らめたり恥ずかしがったりして応じてくれなかったが、最近ではすっかり慣れてきたようだ。
本当に可愛いんだから。そう思ってずっと顔を眺めていたら、流石に顔を赤らめてしまった。もう、と言いながら肘で小突いてくるのもまた愛らしい。
「もう、ジロジロ見ないでよ」
「仕方ないだろ、可愛いんだから」
「もう、またすぐに可愛いって……」
モジモジする姿もやはり可愛い。思わず抱きしめたくなってしまうが我慢我慢。俺は時間稼ぎであって、メインディッシュはまだ後だ。
その時までおめでとうの一つ言えないのがもどかしい。多分、もやもやし過ぎてとんでもない顔になっていることだろう。
「そう言えば、レイジはどんな服が好き?」
「白系のコートとか似合ってそうで好きだな。赤のスカートとか合わせたら完璧だと思う」
「私のじゃなくて、レイジのだってば」
でも、考えておくね。そう言っていたのを俺は忘れない。コハルに白系の服はすごく似合うと思う。きっと、歩けば数メートルごとにナンパされること間違いなしだ。
普段からも割と声をかけられるらしく、俺と一緒に出かけることが多い。楽しいからなのか番犬扱いなのかはさておき、コハルと一緒にいられるのは役得だから文句はない。
「俺の私服か……リアルでもソフトシェルにジーンズとかだぞ?」
「じゃあ、レイジも白とか明るいのにしてみようね」
「ショッピングのためにVR始めたとか言ってたし、流石だな」
「もちろん。リアルに帰ってからも、しっかりコーディネートしてあげるからね」
「そりゃ楽しみだ」
つまり、デートのお誘いということか。こりゃ嬉しいお誘いだ。帰ってからと言わず、今でもいいんだけどな。
そんなことを話すコハルは楽しそうで、希望に満ちた顔をしていた。コハルはいつでも前向きだから、未来を思い描いて楽しみにしているのだろう。
でも、アインクラッドでの暮らしも楽しんでいる。最初の頃に絶望していた姿は何処へやら、すっかり適応してくれて嬉しいものだ。時に命懸けで、時に日常を楽しんで、おかげで俺の心も救われているのだから。
リョーハから帰還命令が出るまで、服屋を巡っては他愛もない会話を楽しんで羽を伸ばす。正直帰還命令が出て欲しくないとさえ思ってしまっていた。
「コハル、そろそろ帰ろうか。腹減ったしご飯にしよう」
「そうだね、何か食べて行く?」
「いや、なんか作ろう。ハイドアウトに荷物も置きたいからな」
珍しい、とコハルが不思議そうな顔をする。アスナが作っているとは口が裂けても言えないから、こう言っておくしかない。
テキストメッセージで今から戻ると伝えたし、きっと準備は万全だ。あとはコハルが喜んでくれることを祈るしかない。
ハイドアウトへの帰り道で、俺は緊張し続けていた。ボス戦前みたいな気分で、きっと表情も強張っていたはずだ。コハルと話しながら帰っていたのに、何を話していたか覚えていない。覚えていられるほど余裕がなかった。
きっと、コハルも気づいていただろう。ハイドアウトのドアを開ける瞬間に、少しだけ俺の方を向いて微笑んでいたから。わかっていて、知らないふりをしてくれたんだろうな。
「ハッピーバースデー、コハル!」
一斉に声が響き、クラッカーが彼女を出迎える。喜びで言葉をなくす彼女の後ろで、俺も手を叩いていた。
ケーキにチキン、色とりどりの飾り付け。きっと、リアルよりも豪華な誕生パーティのはずだ。仲間たちも大勢駆けつけて、ハイドアウトは鮨詰め状態なのだから。
ところでタチャンカの野郎、キラ店長のマスカヘルメットを飾りに紛れ込ませるんじゃない。生首を掲げたのかこの馬鹿野郎。
コハルはずっとみんなに囲まれていた。アトラスの面々の他にもキリトやアスナ、リーファにユウキ、クラインとエギルにサーニャ。リンドとキバオウまで来てるのは驚いたな。
コハルは照れながらも嬉しそうにしていて、忽ち人の壁の中へと消えていった。俺はいつもそばにいることだし、今日は離れて見守ることにしよう。
みんなが持ち寄ったプレゼントがコハルへと渡されていき、渡した人物とコハルが握手するのを隅で見守る。壁に阻まれて、用意したブレスレットを渡し損ねてしまったけども。
SAO Player “Koharu”
パーティ終了から1時間後
みんな帰った後のハイドアウトを飛び出して、はじまりの街にいる。飲み物を買いに行くと言ったレイジが30分も帰って来ていないから、きっとどこかで寄り道しているらしい。
きっとあそこだ。そう思って足を運んだ噴水前のベンチにレイジはいた。星空を見上げて歌を口ずさんでいる姿が、どこか悲しそうに見える。
「レイジ、ここにいたんだね」
隣に座って肩を寄せると、レイジは驚いていた。どうしてここが、と言う顔をしていたから、思わず吹き出してしまう。
「レイジは意外とわかりやすいよね。覚えてる? 初日に励ましてくれたこと」
「ちょうどここだったな。昨日みたいに覚えるさ。本当、あの時よりコハルは変わったよ。心も体も強くなった」
俺なんていらないくらいに、と笑う横顔が寂しそうに見えたから、私はそっと彼の手を握る。グローブから飛び出した指が冷たくて、暖めようと握れば彼はわずかに声を漏らす。
「今度は、リアルでお祝いして欲しいな。お父さんやお母さんとか、友達は呼ぶでしょ……それで、レイジたちにも来てもらうの」
「そりゃいい。どっか会場を貸し切らねえとな」
「確かに。うちじゃ入りきらないかも」
最初は、そんなことすらも考えられなかった。生きて帰ることさえも絶望していたのに、今は帰ってからのこと、未来を考えて希望を持っていられる。
きっと、それはレイジのおかげ。いつも私の前に立っていて、その背中を見せてくれた。勇敢さと無謀さを併せ持つ危なさを持っていて、いつも優しさの裏でボロボロになっている。
レイジが私を生きて帰らせたいみたいに、私もレイジを生きて帰らせたい。そして、今度はリアルでデートをしたり、お祝いがしたいから。
「でも、レイジは招待第1号だからね。ドタキャンしちゃダメだよ?」
「そうだな、遅刻できねえや」
これを渡すのには遅刻したがな、と言って、レイジは私の手を取る。そして、手首にワインレッドのシンプルなブレスレットを巻いてくれた。
「渡し損ねた。みんなのよりはしょぼいけど、剣を振る時も邪魔にならなそうだからさ」
私に似合いそうで、それでいて普段使いに邪魔にならないようなもの。今日のお出かけで、レイジのファッションセンスのなさがよくわかった。
それでも必死に考えて頑張って選んでくれたのを考えると、嬉しくて胸が温まる。
「ありがとう、大切にするよ!」
「もっといいもの選べればよかったんだけど……」
「十分嬉しいよ」
ならよかった、とレイジは微笑む。レイジとの絆が見えやすくなったみたいで、どこか嬉しく思える。レイジの誕生日には色違いのものを渡そうかな。
でも、もう少しだけ欲張っていいかな。私が本当に欲しいものが目の前にあるんだから。今だけ、勇気を出してみよう。
「レイジ、もう一つだけ欲しいものがあるの」
「何が欲しい?」
「少しだけ……目を瞑ってて」
レイジはそっと目を閉じる。近くで見ると意外にまつ毛は長くて、ずるいって思う。顔が近づけば近づく程、緊張とともに鼓動が強くなっていく気がする。VRの体に心臓なんてないのにね。
あと少し、あと少し。慎重に距離を詰めていって、触れたかどうかわからないくらいに軽く唇を触れ合わせた。
レイジは顔を赤くしているけども、ちゃんと目を瞑っていてくれる。きっと、レイジよりも顔が赤いかもしれない。熱でも出たみたいに熱くて、考えがまとまらない。頭が真っ白で、ふわふわするような気分。
触れるだけで離したのに、何時間もしていたみたいに思う。恥ずかしくてレイジの胸に顔を埋めたら、彼は優しく抱きしめていてくれた。
たった一言、お誕生日おめでとうとだけ声をかけて。
※
レイジがLighthouseで消息を絶って1ヶ月が過ぎた。レイジのハイドアウトは捜索部隊"ヴィードラ隊"の作戦本部となっていて、インテリジェンスセンターに貼られた地図には、目撃地点がいくつも書き込まれている。
それでも見つからない。生命の碑に横線が入っていないのがわかっているだけで、装甲列車を見送る姿を最後に私たちは彼の姿を見ていない。
オレンジキラーと噂される謎のプレイヤーがレイジだと信じて、攻略の傍らに目撃地点を探す。そんな日々が続いて、まだ足取りすら掴めていなかった。ずっと一緒と約束したのに。
「コハル、気を落とすな」
「リョーハ……そうだよね。レイジ、強いからどこかで生きてるよね」
「あのクソ野郎はしぶといからな」
そう言って励ましてくれるリョーハ自身が1番もどかしく思っているはずなのに。
「ラングレー隊も動いてる。もうすぐ見つかるさ。このアインクラッドからは逃げられねえんだし」
「案外近くにいるかもね」
そうだ。きっとどこかで会える。まだ名前も聞けていないんだから、絶対に見つけ出そう。
「リョーハさん!」
「レコン? ほら、捜索に行くぞ」
息を切らして飛び込んできた、ラングレー隊のレコン。もしかして、レイジが見つかったのかな。焦って飛び込んでくるんだから、きっとそうだよ。それ以外にないよ。
「それどころじゃ……レイジさんの名前に横線が……!」
私は机のマグカップを落としてしまった。リョーハも銃を落として、静寂に包まれたハイドアウトにその音がやけに大きく響いていた。
ところでうちのタチャンカ元ネタ氏ですが、マガジン無しのモシンに「村田銃」なるプリセット名をつけて、谷垣ごっこを始めました。
もしも、40レベ超えのBEARがマガジン無しのモシンを持っていた場合、恐らくタチャンカ元ネタ氏と思われますので、ドックタグは大切に取っておいてください。(RPKでも同じようなことをしていました)