Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
主街区の宿を借り、ルームサービスを頼んで少し休憩。あれだけの激戦の後だから、少し休まねばなるまい。弾もないのに探索なんて出来やしねえ。
ただでさえ容量の少ないマガジンなのだから、必然的に携行弾数は減る。AKに持ち替えようか悩みながら、俺は弾をマガジンに込めていく。あの戦闘で、たっぷり持ち込んだはずのマガジンは空っぽだ。
「あの、手伝いますよ!」
「いいよ、やり方わからないだろ? 逆さまに詰め込まれたら堪らねえし」
「あう……」
肩を落とす少女へ、ドラゴンが慰めるように顔を擦り付ける。圏内なのに入れるとか、Mobじゃないのか?
「そういや名乗り遅れたな。俺はリョーハで、こっちのツンツンしてるのがシノンだ」
「誰がツンツンよ。ほら、ツンツンしてあげるわ」
シノンは机に置いていた弾薬を一つ手に取ると、それの先端で俺の頬をツンツンし始めた。やめれ、背筋が冷えるわ!
「ええと……私はシリカって言います。こっちは友達のピナ!」
キュルル、とピナは鳴き声をあげているが、挨拶でもしているのだろうか。試しに撫でてやると、猫か何かのように擦り寄ってきた。フワフワしてるし案外可愛いなこいつ。
「このドラゴンどうしたんだ? やけに懐いてるけど」
「その、弱ってたので餌をあげてみたら……どうしてかついてきたんです。ちゃんとパーティにも入ってるんですよ」
「珍しいわね。RPGによくあるテイミングってやつかしら? リョーハ、お座り」
「わん」
ってあれ、どうして俺はお座りしているんだ? どうしてシノンがニヤニヤ笑って、シリカがドン引きしているんだろう。
「お手」
おっと、合法的にシノンの手が握れるぞ。握らにゃ損だな。うん、俺のより小さい手で可愛らしい。
「よしよし、よく出来ました」
「くぅーん……」
おうおう、頭を撫でてくれるとはサービス精神旺盛じゃねえか。ありがたい。ここは一つ撫でられておくことにしよう。シノンが撫でてくれるとは貴重な機会だ。
でも待てよ、なんかおかしくねえか? これって、何か仕込まれているような……
「って待て、俺は犬じゃねえ!」
「シノンさん、流石に犬扱いは酷いと思いますよ!」
「リョーハは私の猟犬であり番犬だから、何も間違ってないわよ。変な気は起こさないし、おかげで変な虫が寄り付かないもの。シリカも試してみる?」
「お守りになりますか……?」
おい、本人の目の前で売買交渉始めるんじゃねえ。そしてピナ、肩に前足を乗せてキュルルと鳴いたのは、「ドンマイ」とでも言ったのか?
それは置いておこう。お守りという部分に食いついているのはなんだか気になるんだよな。
「変な虫ついてるのか?」
「変な虫と言いますか……」
ルームサービスで飲み物を頼み、それをシリカに差し出す。ホットミルクで唇を潤わせればまあ、話も進むことだろう。
ついでにビーフシチューの缶詰を開けて置いておくと、ピナがそれに顔を突っ込んで食べ始めた。可愛いなこれ。猫に餌やりしてる気分になる。
「その、ビーストテイマーって珍しいですから、色々な人に声を掛けられるんです。他にも、変な男の人に付き合ってとか言われたりして……」
「そんなロリコンまでいるの? リョーハ」
「なんで俺なんだよ。俺の守備範囲はダウナー系なゆるふわお姉さんタイプだ」
シノンが俺に目を向けるものだから、ついつい言い返してしまった。レイジのヤローと性癖合戦になった時にぶちまけたら、凄く共感されたのを覚えている。
しかしシノン様には気に入らなかったようで、俺の足に踵が降ってきた。骨折のデバフがないのは、ここが圏内だからだろうな。
「なら、私たちが一緒にいれば解決ね」
「いいんですか!?」
「ええ。リョーハを置いておけば、大抵の相手は逃げ出すわ。死神だもの」
シノンとシリカの視線が突き刺さる。死神はタルコフの時のじゃねえか。そろそろマシな呼び名が欲しいところだ。命知らず以外でな。
でもまあ、ここに来るまで絡まれなかったのも事実だ。死神リョーハより、番犬リョーハの方がいいかもな。ガオガオ。
「でも四六時中とはいかねーぜ。上手いやり方を考えねえと。とりあえず、シリカはどうしたい? というか、どうして最前線にいるのかからだよな」
シリカのレベル帯でこの辺はかなりキツいはずだ。1対1でも相当ヤバいのに、囲まれたりしたら地獄の様相を呈すること安請け合いだろうよ。
「その、観光に来たんです。転移碑の近くなら大丈夫だって思ったんですけど……」
「そしたら、可愛らしいペン公にやられかけた、ってな。あいつらよちよち歩きの癖して速くねえか?」
うう、とシリカは俯いてしまう。まああれだけ危険な目に遭ったのだ。これ以上無理はしないだろう。
「なら、私たちで護衛すればいいじゃない」
「その、少しだけでいいので!」
シリカに目をやり、俺はため息をついた。少しくらい、夢を見せてもいいだろうな。それに、俺たちの目的はオレンジ狩りで、狙われやすい少女を守るのも任務のうちのはずだ。
「分かった。少し準備してくる」
はしゃぐシリカと、それをみて微笑むシノンを尻目に、俺は部屋を出る。そして、胸元のプレストークスイッチを押した。
「レイジ、動いたか?」
『お前ら派手に動きすぎなんだよ。今来たばかりだが、街中で噂になってるぞ。アルゴが向かってるから、少し話せ。テイミングの情報が出回れば、そのロリっ娘とやらの被害も減るだろ』
「ロリコンが多くてたまらないぜ。マニエクのヤローがそうだったか?」
『マニエクは熟女趣味。ロリコンはアイザックの方だ』
「そうだったそうだった。で、天気予報はどうだ?」
『良くないな。嵐の予報と言っておくぜ。バックアップ隊は俺が直轄する。メイベルも追加で展開してるから、ヤバくなったら呼べ』
「根回しがいいな」
『ラングレーどころか、アルゴでも尻尾掴めてねえんだからな。会議で大口叩いた以上は結果を出さんとマズイ。俺も行く』
「ああ、またな」
普段はアルゴに貸している諜報班、ラングレー隊まで動員しているのだから、気合いの入りようが違う。
アトラスの一線級部隊のメイベル隊と、フカ次郎含むグリズリー隊をバッグアップに回してくれる大盤振る舞いだ。
「ヨ、リョー坊。噂のテイマーはそこかイ?」
フードを被ったちびっ子アルゴには、本当にすぐそこに来るまで気付かなかった。その後ろについてきたPMCさえ、振り切られて置き去りにされかけたようだな。
「ああ、この部屋」
「じゃ、お邪魔するヨ」
アルゴの背中を見送り、俺はPMCの方に向き合う。俺より年上かもしれないBEARのセルゲイと、無精髭のUSEC野郎のダスティ。アルゴに貸し出されたラングレーとは、こいつらのことだ。
「調子はどうだ?」
「酷いね。あちこちぶん回されてクタクタだよ。終わったらウォッカ飲んで寝る、そんな暮らしさね」
セルゲイはやれやれと首を振る。まあ、情報は早いに越したことはないしな。
「で、レイジから嵐が来るって聞いてるが」
「その件だ。アジトは掴めなかったが、黒フードがウロチョロして、トレインをしていたのを確認した。DVLを持っていたって情報もあるから、5層でメイベルが世話になった奴かもな」
「おいダスティ、アイツのやり口は狙撃だぞ。わざわざトレインするより、近くのヤベー奴けしかける方が現実的だ」
「そうだろうさ。そうだとしたら、今度はレイジとキリトが捕まえ損ねた奴かもって線もある。油断はするな」
「俺に喧嘩売って、勝てるとでも?」
ダスティは笑い出す。本当、5層辺りからケチがついて回っている。なんたってまたPKやるんだ? そんなもん、碌に意味はないと言うのに。