Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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タチャンカ元ネタ氏、Tagilaをナイフアタックでキルすることにハマっている模様(一度確殺、煽られたパーティメンバーが2回)

アルティンorマスカヘルメットにRedut-T5を着ているBEARがいたら多分その人です


12層-9.5 返らない声

BEAR Operator “Rage”

リョーハ滑落直後

 

 激戦の末、ラッシュかと思う量のMobを撃破したが、相棒はもうそこにはいなかった。口を開くクレバスと、やかましく聞こえる支援部隊の報告がリョーハの行方を告げる。

 奴はシノンを助けようとして、巻き添えにクレバスへと滑落したのだ。それが何を意味するか、わからないほど俺も無知ではない。クレバスへの滑落がどれだけ致命的か、奴から聞いていたのだから。

 

「嘘だろ……おいおいおいおい!」

 

「レイジ、待って!」

 

 袖を掴むコハルを振り解き、クレバスへと近寄る。とはいえ雪庇を踏み抜いて俺まで落ちたらたまらないので、縁までは慎重に、それでも急いで近付いた。

 奴のことだ。ピッケルを使ってどこかで止まってるに違いない。奴は雪山に慣れていて、こんなトラブルくらい切り抜けられると信じているから。

 

「リョーハ、リョーハ、こちらレイジ。応答しろ!」

 

 答えは返ってこない。吹雪の音をシャットアウトするComtacからはノイズが入るばかりで、相棒の声は返ってこない。

 プレストークスイッチを押し忘れたのだろう。相棒が滑落して、俺も相当焦っているんだ。

 

「リョーハ、リョーハ、こちらレイジ。応答しろ」

 

 今度は確かにスイッチを押していたのに、声は返ってこない。恐怖が背中を撫でて、俺の体温は奪われていく。足の震えが止まらなくて、視界が霞む。

 感じることのなかった恐怖が俺を支配していた。リョーハが死んだ、それは自分が死ぬことよりも恐ろしく、俺の正気を奪っていく。

 

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!」

 

「レイジ、待って!」

 

 ピッケルとパラコードを出す俺にコハルが組み付いてきて、俺は雪に放り投げられた。それでも這いつくばるようにクレバスへと向かうと、いつの間にか来ていたレンとコハルの2人がかりで引きずり戻され、また雪の上へと投げ飛ばされる。

 

「レイジさん、何する気ですか!」

 

「降りて救助に行くんだよ!」

 

「危険だよ、行っちゃだめ!」

 

「うるせえ!」

 

 コハルとレンを振り解き、ピッケルをクレバスの淵へ突き刺す。例え死体だけでも回収してやる。あいつをここへ置き去りにはしない。俺の大切な相棒なのだから。

 

「置き去りになんて出来るか!」

 

 一緒に落ちて行けたなら、それはそれで満足だったかもしれない。戦場で背中を預けた相棒を失う覚悟も何も、今の俺にはないのだ。

 

 道連れになったとしても、構うものか。

 

 さあ、迎えに行こう。覚悟を決めた俺はプレートキャリアの取っ手を掴んで引き戻され、頬を張られた。

 その音はあたり一帯に響くほどで、ダメージこそ入らないがよろけてしまう。そして、その犯人は意外にもレンだった。

 

 何をしやがる。頭に血が上った俺はやり返そうとするが、それより素早く足を刈られて、両手を押さえつけられた。レンの体格で馬乗りなられてしまうと、いくら相手が女とは言え、振り解くのは難しい。

 

「ふざけないでください!」

 

 雪に頭を突っ込んだせいか、怒りに歪むレンの顔を見たせいか熱が冷めていく。怒りの熱が冷めて冷静さを取り戻して尚、クレバスは俺を呼ぶ。

 それでも動けない。レンの顔と、肩越しに見下ろしてくる泣きそうなコハルの顔が罪悪感を呼び覚まして、俺の心は揺らいだ。

 

「レイジさんまで死んだら、アトラスはどうするんですか!私もフカも、みんなあなたがアトラスに誘ったんじゃないですか!」

 

 少し顔を背ければ、みんながいた。ブラックバーン、レッカー、タチャンカ、アイザック、マニエクのメイベル隊5人と、ベイサル、ムスタファ、アリフ、フカ次郎のグリズリー隊が俺を見下ろしている。

 

「レイジ」

 

 聞き慣れた優しい声。コハルはツカツカと歩み寄ってきたかと思うと、コハルの姿が消えた。クレバスに落ちたかと思ったが違う。体に加わった重み、声が左耳の側から聞こえてくる事からして、飛びつかれたのか。

 

「嫌だよ、レイジがいなくなるなんて……耐えられないよ!」

 

 コハルが子供のように泣きじゃくる。レンはようやく怒りがおさまってきたのか、大きく肩で息をした。 

 そうだとしても、俺は落ちていったリョーハとシノンを見捨てられない。コハルの涙に胸が痛むし、泣かせたくない気持ちはあるが、それと同じくらい友を失う恐怖が俺をクレバスへと呼ぶのだ。

 

「……わかったよ。でも、俺はリョーハのことを見捨てたくはない」

 

 みんなわかってくれるだろう。例え冷静になったとしても、友を、仲間を見捨てたくはない。それが捨て身なのか、生還前提での行動かというだけだ。

 

「……手伝うから。助け出そうね」

 

「もっと、私たちを頼ってください。1人で死にに行かなくていいんですから」

 

 レンが差し伸べた手を掴み、起き上がる。アトラスの隊員たちは俺に顔を向けて、命令を待っていた。

 

「ブラック、メイベル隊で食料と医薬品、あと転移結晶を用意してきてくれ。グリズリー、この近辺を確保。クレバスの位置に目印を」

 

 静かに命令を出すと、みんなその通りに動き出す。その場に残ったのは俺とコハルだけ。いつもは一緒にいるリョーハもシノンも、今はいない。

 

「レイジ、きっと大丈夫だよ」

 

「そのはずだ。あいつなら……」

 

 時間が経つほどに、雪がクレバスを覆い隠していく。俺はただ、リョーハの生存を信じてプレストークスイッチをそっと押し込むしかできなかった。

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