Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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最近忙しくて、投稿ペースが遅くなりそうです…タルコフもまともに出来ておりません…


12層-13 余波

 あれから3時間後、レイジのハイドアウトで記録結晶の確認をしたが、残念なことにオレンジ共の顔を映すことは出来ていなかった。どいつもこいつも暴れるせいで、ブレが酷かったのだ。

 もちろん、そんなものを攻略組に提示したところでどうにもならない。スパイに引っ掻き回されて、俺たちが悪者に仕立て上げられることになる。

 

 そういうわけで、この記録は一部に留めておくことになった。具体的にはキリトとかアルゴ、あとは血盟騎士団のヒースクリフだ。

 引き続き、裏で証拠集めをすることになる。少なくとも、俺が襲撃した件は向こうに知られているから、口封じを仕掛けてくることになるだろう。本格的な戦争になりそうで、嫌になってしまう。

 

 俺はベッドに横たわって目を閉じる。決まって蘇るのは、あのオレンジ野郎の胸ぐらにグレネードを突っ込み、蹴り飛ばした瞬間。

 爆発の瞬間を見ることなく転移したし、覚悟はしていたから気にすることはないと思っていた。あいつらは悪人で、殺しても代わりに他の誰かが死なずに済む。だから、正しいことだと信じてきた。

 

 でも、圏内に帰還した瞬間に表示されたキルログを見て、それがずっと頭から離れない。倒した敵の所属を示す”FACTION”の欄に”SAO”が2つ並んでいた。

 ドッグタグを回収していないから、名前が表示される”Player”欄の表示は"???"になっているが、確かに殺したのは確かだ。名前も知らない誰がが、俺の手で死んだ。

 俺自身がオレンジになっていないのを見るに、どっちもオレンジプレイヤーだったのだろう。だとしても、この手で葬った事実が脳裏にこびりついて離れない。

 

 だからここ数日はよく眠れていない。無駄に寝返りを打って目を閉じて、それでどうにもならないから休憩スペースのテレビをつける。 

 何度見返したかわからない、タルコフの公式実写ドラマの戦闘シーンを見続ける。

 Skifたちは敵を殺しても、味方が死んでも次へ次へと進んでいくのに、俺はなんてざまだ。そう思うと溜息が出る。

 

「リョーハ」

 

 今日も眠れぬ俺の元に来客が来るとは珍しい。時計を見れば午前2時だというのに、シノンは一体何をしにきたのだろう。

 

「どしたよ、こんな時間に。眠れないか?」

 

「それはこっちのセリフよ。眠れてないんでしょう?」

 

「添い寝してくれたら、眠れるかもな」

 

 いつもみたいに怒って、鉄拳制裁を落としてくれればいい。そう思っていた。きっと、そうしてくれたならばシノンは気付いていない。人殺しになった俺のことを、見放さずにいてくれるだろう。

 

「……ほら。ソファーじゃ私が寝れないでしょう」

 

 でも予想は外れた。シノンは俺の襟首を掴んでベッドへ引き摺り込むと、本当に隣に寝転んできた。

 背中を向けているとはいえ、マジでやるとは思うまい。どうすればいいのか狼狽えていると、シノンは顔を少しだけこちらへ向けてきた。

 

「……殺したのね」

 

「……わかるか?」

 

「あからさまにおかしいもの。みんな気付いていて、言わないだけよ」

 

 そういえば、レイジには気にすんな、お前は正しいことをしたと言って背中を叩かれた。メイベルの奴らも、お前は英雄だと称えてくる。

 つまりは、分かっていて励ましてくれたわけか。どいつもこいつも、優しいというか覚悟が決まってやがる。SAOプレイヤーだったなら、オレンジとはいえ殺したことで敬遠されたかもな。

 

「気を遣わせたな」

 

「……苦しいなら、最初から言いなさいよ」

 

 乾いた笑いをする俺を、シノンは抱きしめた。平たい胸に抱きしめられたところでそういう気分にはなり辛いが、代わりに安心感がある。

 守られているような、そんな気分がした。俺はまだここにいていいんだと、そう実感できる。

 

「……私も、人を殺したことがあるの」

 

「ここでか?」

 

 首を横に振ったようだ。動きが伝わってくる。つまり、何があったか知らないが、リアルで人を殺したということか。

 

「強盗に巻き込まれて、母親が人質にされたの。お母さんを守らなきゃって、子供ながらに抵抗して……奪った拳銃で、撃った」

 

 思った以上に壮絶だった。きっと、それからも引きずり続けたことだろう。一撃では死なないと分かっていても、人を撃つことを躊躇うのはそういうことか。

 

「その時の銃が、54式。トカレフのコピー品だったの」

 

「リシャラの時の、そういうことか」

 

 シノンは静かに頷く。トラウマが蘇ってパニックに陥ったのだろうな。そうでなければ、あの取り乱し方は異常すぎる。

 

「トラウマ克服のために始めたのに、無様なところを見せたわね」

 

「仕方ねーだろ……でも、それが普通なんだと思うぜ」

 

 俺は殺した瞬間を見ていない。それをやれば間違いなく死ぬと分かっていてグレネードを突っ込んだし、巻き込んでやろうと蹴飛ばした。

 それで、殺したと知ったのはキルログでだ。どこかぼんやりとしていて、実感がない。だから、こんな風になっちまったのかな。

 そうでなかったとしても、俺はまだ人でいられるのだろうか。殺すことさえ痛みに思わない、怪物と成り果てたのではないかと、そんな風にも思ってしまう。

 

「……リョーハだって、苦しんでるじゃない」

 

「実感がねえ、バグみたいな気分なだけさ」

 

「差はあっても、ちゃんと殺した重さと向き合ってるからこそ、でしょう」

 

 それでも、俺には正当化するだけの理由があった。その逃げ道があるのが救いで、シノンはそれを言い訳にしなかった。その違いだと思う。

 きっと、俺はまた殺すことになる。他の人たちが死なないために、誰かを殺す。その時に、俺はまだ人でいられるかと不安で仕方ない。

 

「今だけ、涼って呼んでくれねえか?」

 

「それって……」

 

「俺の本名。葉月涼だ」

 

 自分がただの大学生の涼なのか、PMCのリョーハなのかわからなくなりそうな時に、シノンに止めて欲しい。俺が涼だって思い出させて、踏みとどまらせて欲しかった。

 

「涼……今は、ゆっくり休みなさい。そばにいてあげるから」

 

「スパシーバ、シノン」

 

 ようやく俺は久しぶりの眠りに身を任せることができた。シノンに守られながら、久しぶりに安らぎを思い出したような、そんな気がしていた。




次回から大きく物語が動きます。なんとか執筆時間を確保して書いていきますので、今後ともよろしくお願いします!
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