Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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20層-3 灯台

BEAR Operator”Rage”

Aincrad layer20 “Lighthouse”

 

 少しずつ視界が効くようになって、岩場と森、その先の美しい海原が見えてきた。

 設定上はShorelineと地続きになっているダルニー岬はUSECの上陸地点となっており、拠点として使われていた赤い屋根のコテージ、通称赤ニキータハウスはその名残か高額アイテムがスポーンする稼ぎ場所だった。

 

「漁ってる暇ねえな」

 

 そんな軽口を叩くリョーハだが、シノンに尻を蹴飛ばされていた。今回の任務は捜索だ。アイテムを探す暇なんてあるわけがない。

 

「あったとしても、リンドたちが漁った後よ」

 

「それもそうか」

 

「リョーハ、漁るよりもシノンを連れて岩場から監視を頼む。コハル、サーニャ、俺と来い。中を探す」

 

「任せて!」

 

「承りましたわ」

 

 シノンとリョーハが岩場へ登っていくのを見送り、赤ニキータハウスへの道路を進む。

 向こう側にPMCのスポーンがあるからって、相当警戒しながら進んだことを覚えている。漁り目的の軽装だったり、戦闘目的のガチムチだったり、この場所で俺は何回も命を落としていた。

 

 でも、今日はSCAV1匹いなかった。逆に不気味に思いながらも、コハルとサーニャにハンドサインで合図して呼び寄せる。裏口からハウスに突入して、中を探すのだ。

 さすがはトッププレイヤー。俺の合図に従ってくれて、ピッタリ背中に着いてくれる。

 ドアを開け、一気に突っ込む。その瞬間、俺のAKが黒い剣に弾き飛ばされた。何かが待ち伏せしていたらしい。

 

 小癪な。咄嗟にハンドガンを抜いて、待ち伏せ野郎へ銃口を向ける。焦りはしない。ただ、その頭を吹っ飛ばすだけだ。

 

「レイジ、ダメ!」

 

 コハルの声が安全装置をかける。落ち着いて襲撃者を見てみると、見慣れた黒一色の剣士がそこにいた。この野郎、何してやがる?

 

「キリトかよ……脅かすな。顔吹っ飛ばすところだったぞ」

 

「悪い、SCAVかと思ったんだ。どうしてここに?」

 

「人探しさ」

 

「何かあったのか?」

 

 実は、と切り出そうとした途端に、上からドタドタと足音がいくつも聞こえてきた。あそこは、ビリヤード室だったか? 棚とか段ボールの上に高額アイテムがスポーンするところのはずだ。

 

「キリトさん、なんか高そうなものありましたよ!」

 

 降りてきた数人のプレイヤーは、その外見から中堅クラスに見えた。キリトが後進の面倒を見るとは珍しい。何か心境の変化でもあったのだろうか。

 そう思っていると、その一団の後ろを見覚えのある少女が降りてきた。あのパーティの紅一点は、いつぞやに出会ったサチではないだろうか。

 

「あれ、サチ?」

 

 俺よりもコハルの方が反応が早い。サーニャはどうしたかと振り向くと、岩場のシノンへ敵じゃないと合図を出していた。デキる女は違うな。

 

「コハル? あ、レイジ……!」

 

「あ、サチ!」

 

 コハルはサチに駆け寄ってその手を握る。仲良いことは良き事かな。その周りのメンバーも、1層でサチを迎えにきたメンツではないか。

 

「キリト、ちょっとこっち来てくれ」

 

「ああ」

 

 サチとコハルの横を通り抜け、上のビリヤード室へキリトを呼ぶ。サチの一行は月夜の黒猫団とか言ったか、時々攻略を助けてくれるありがたい人たちではあるが、こんな暗部に巻き込みたくはない。

 

「アトラスが人探しって、誰がいなくなった?」

 

 存在感の塊たるタチャンカはあり得ないだろ? なんて軽口を飛ばすあたり、元気ではあるらしい。あのマリモが消えたら秒でわかるさ。メイベルが静かになるんだから。

 

「リンドがここで消息不明になった。状況からして、水処理上の可能性が高い。既にアトラス3個パーティと、シヴァタの一隊でローラー作戦してるよ」

 

 ニキータハウスから道路を挟んだ向こう、海岸と岩山にメイベル、シヴァタ隊が展開。水処理場東側の岩山にはグリズリー隊を先行させて、ローグを排除させる作戦になっている。

 俺たちはこのまま水処理場方面に向かってリンドたちの痕跡を探しながら前進、水処理場に突入する作戦だった。

 

「なら、俺も探すけど……先に黒猫団は脱出させたい」

 

「途中にPass to Shorelineがある。そこから脱出すれば安全なはずだ。護衛しよう」

 

 水処理場に行く前の岩場に脱出地点がある。ローグに狙われずにそこまで行く道を知っているから、サチとその仲間は安全に逃げられるだろう。俺がキリトの立場でも、そうしたいと思う。

 

「助かるよ。伝えてくる」

 

 キリトはそう言って黒猫団を集める。俺は本来の役目を果たすべく、いないだろうが念の為、赤ニキータハウスの中を捜索する。

 サーニャとコハルも手伝ってくれたおかげで、それはすぐに終わった。いないのはわかっていても、念のためは大切だ。いないという確証は得られる。

 

「こちらリンデン。赤ニキータにパッケージはなし。キリトのパーティに遭遇したから、青ニキータ捜索後キリト以外はPass to Shorelineから脱出させる予定」

 

『こちらメイベル。枯れ木岩まで到達したものの、痕跡なし。リンデンの青ニキータ出発に合わせてこちらも進行する』

 

 ブラックバーンたちのメイベル隊は枯れ木岩と呼ばれる岩山にいるらしい。てっぺんに一本の枯れ木が生えているから、そういうふうに呼んでいる。

 その枯れ木岩から道路を挟んだ向かいが青い屋根のコテージ、通称青ニキータハウス。それを勘案するに、リンデンは俺たちより少し先に行っているようだ。

 

『グリズリーは廃村の調査完了。川を超えてローグ岩まで前進中』

 

 ベイサルからも報告が来た。マップ東側、青ニキータハウスと水処理場の間に流れる川の中洲に廃村があり、そこの捜索を終えて先へ進んでいるらしい。

 そこを越えれば、水処理場全域を狙撃できる岩山にたどり着ける。気をつけないと地雷を踏むことになるが、ベータ時代からタルコフをやっているベイサルたちがそんなヘマはしないだろう。

 

 とりあえず今わかっていることを総合すると、ローグはまだ健在で、リンドたちの痕跡は何一つ見つかっていないということだ。

 

「各隊、作戦に変更はなし。問題がない限りはプラン通りに作戦を遂行」

 

 了解、の声が返ってきたのを聞いて無線を切る。ちょうどキリトも話を終えたらしい。

 

「レイジ、黒猫団も手伝いたいって言ってるんだ。どうする?」

 

「……危険だと言ったよな?」

 

「そりゃもちろん。それでも、攻略組の危機なら自分たちにも何かしたいって」

 

 その申し出はありがたいが、勝手を知るPMCでさえも危険極まりないエリアで、中堅を率いて戦う自信はない。ありがたいのは、この層のLighthouseはパッチ0.12.12時台のものが適用されているらしく、ボスがまだいないという点だ。

 だからと言って油断はできない。何が起こるかわからないのがSAOであり、EFTなのだ。装備なら兎も角、命まで懸かっている状況下で素直には頷けない。

 

「レイジ、大丈夫だよ。アトラスの強い人たちが揃ってるでしょ?」

 

 みんなを信じよう。コハルはそう言って手を重ねてくる。俺は天を仰いで、了解と一言呟くのがやっとだった。

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