Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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幕間 魔法陣に祈る声

BEAR Operator “Rage”

Aincrad layer62”Customs

 

 攻略もかなり進み、わかって来たことがある。上層へ行くと、下層で出て来たはずのタルコフのマップが再び現れ、説明書きのマップ難易度が"Extreme”に変わっているのだ。

 どうにもSCAVに混じってRaiderが湧いたり、ボスのスポーン確率が上がる他、SAOのMobまでスポーンするというなんでもありのカオスなマップになっているようだ。

 

「コハル、スイッチ!」

 

「行くよ!」

 

 前にも増して強くなったコハルがスタンした狼型のMobへ突撃し、目にも留まらぬ連撃でそのHPを削り切る。自分のいない間にメキメキと頭角を現したコハルは誰とでも、何なら1人でもやっていけると思うが、それでも自分と一緒に戦いたいと譲らなかった。

 

「ナイスキル!」

 

「レイジも、援護ありがとう」

 

 ニコリと可愛らしい笑みを浮かべるコハルに目と心を奪われつつも、ハーフマスクを引き上げて口元を隠す。そうでなければ美少女の微笑みを前にして、ニヤけずにいられる自信がない。

 

「後はここだったね」

 

「ああ。穏やかに終わるといいな」

 

 コハルとCustomsへ来た理由はひとつ。The Cult Part2というタスクを終わらせるために他ならない。タルコフの各所にある魔法陣へマーカーをセットするというお使いタスクがあり、それを終わらせに来たのだ。

 そのためにボスのスポーンポイントであり、激戦になる3階建ての寮へ来ている。ここの3階奥の部屋に魔法陣があるのだ。

 

「俺が2階へ突入するから、いつでも飛び込めるよう準備頼む」

 

「オッケー。離れないからね」

 

 コハルはダガーを右手に構え、左手も同じ高さに上げる。その時僅かに薬指が光り、思わず笑みを溢してしまった。そりゃあそうだ。正真正銘のパートナーってやつなんだからな。

 そんな彼女を信じつつ、外の非常階段を登る。いつもは金属を踏む足音で敵に気付かれることを警戒するが、今はNPCだけが敵だ。心配する必要はない。

 

「行くぞ!」

 

 ドアを蹴破り、一気に廊下へ飛び込むけれど、そこにはSCAVの1人として歩いてはいない。その代わり、廊下には折り重なるようにSCAVの死体が転がっていて、ライトで照らしてみれば全て額を撃ち抜かれていた。

 ほとんどは漁られてもいないが、不自然に武器を奪われている個体がいる。はて、高額パーツでも付いている武器だったのだろうか?

 

「2階はクリア、かな?」

 

「クリアだな。先客もいるようだし、誤射に気をつけよう」

 

 お目当ての魔法陣は3階の奥にある部屋だ。袋小路だから敵を殲滅してから行くしかない。そうでなければ逃げることもできず、すり潰される結末が待っているんだ。ベータの時にリョーハ共々魔法陣部屋に追い込まれてグレネードで吹き飛ばされた痛い思い出がある。

 それを警戒しながら階段を上がるが、あまりにも静かすぎた。

 

「ねえ、何か聞こえない……?」

 

「SCAVか?」

 

 Comtac2の集音機能は微かに響く声を捉え、俺の耳へと増幅して届ける。聞こえる声に濁音はなく、SCAVがよく口走るロシア語とは違う響きに聞こえる。

 それでも何か不気味だ。低い男たちの声の不協和音で、この先へ進むことが憚られるような気がした。何か聞き覚えのある言葉まで聞こえてきやがったからだ。

 

「この声、マークド部屋からだよね?」

 

「……コハル、今日は帰らないか? スイーツ巡りのデートと行こうよ」

 

「それはまた今度ね」

 

「今回ばかりは逃げられねえか」

 

 溜息を吐くと、頬に柔らかな何かが触れた。心地よいノイズが一瞬耳に響き、その近くではコハルが微笑む。元気が出るおまじないってやつだ。

 

「行こうか。終わったらご褒美頼めるか?」

 

「もう……」

 

 照れるコハルはやっぱり可愛いな。あとでたっぷり愛でるとしよう。今は目の前の連中を片付けなければならないんだから。

 それなのにどうして、こんなにも不気味な声が響いているのだろうか。コハルの可愛らしい声を聞いていたいのに、この不協和音はそれを許さない。スーカ。

 

——……神様、モ……様、我らに

 

 俺は何も聞いていない。ただマーカーを設置して帰るだけだ。魔法陣に湧く高級品とかいらないから、俺とコハルを無傷で帰してください何でもしますから。

 

「……誠に不本意ではあるが、突入しないとな」

 

「ええと、どうしてそんなに嫌そうなの?」

 

「すぐにわかるさ」

 

 覚悟を決めるというより、諦めてため息混じりに扉を蹴破って突入すると、怪しげな黒フードの集団が魔法陣を囲んで跪いていた。どう見ても邪教のミサです本当に以下略。

 

「レイジ、これってカルティスト!?」

 

「落ち着け、PMCだよ。カルティストってのは否定しないけれども」

 

「何を言われますか! 我々は由緒正しき使徒、敬虔なる神の使い! この銃は持っているものに加護を与え、不信心者に裁きを下す尊い銃なのです!」

 

 そのカルティストの1人が掲げるのは随分と古臭い銃。木製のストックと槍のように長く、スラリとした銃身。どうして21世紀にそんな物があるのかはさておいて、弾と精度は現代でも通用してしまうのが困ったものだ。

 

モ神様万歳(ハレルヤ)! モ神様万歳(ハレルヤ)! モ神様万歳(ハレルヤ)ァ! レイジ殿、貴殿もかつてはモ神様の導きに従って悪逆非道のオレンジを罰した同志ではございませぬか! その手のAKを手放したまえ、その手にはモ神様こそ相応しい!」

 

「うるせえ、俺には同志カラシニコフとコハルの加護があるんだ」

 

 ソビエトの生んだ傑作ライフル、モシンナガンを神と崇めるタルコフ最大の邪教、モ神教がミサをしている真っ最中だったようだ。コハルがドン引きしているが仕方はない。正直、ベータ版の時にも同じ光景をリョーハと目撃してしまって凍り付いたからな。

 

「こんな奴らの手を借りたのが人生最大の間違いなんだが」

 

 かつてオレンジになってしまい、陰ながらオレンジキラーとして暴れ回っていた時分、攻略組に紛れたラブコフのスパイを暗殺するためにこのモ神教(ヤバい奴)の手を借りてしまったのだ。そろそろ顔を忘れていてくれると思ったんだが。

 

「……レイジ、帰ろう?」

 

「それには賛成だけど、こいつらの馬鹿騒ぎでお客さんが来ちまったみたいだ」

 

 ドカドカと響く足音、高めの独特な声。どうやら馬鹿騒ぎのせいで2階寮にいたボス軍団を呼び寄せてしまったらしいな。

 

「コハル、戦闘準備!」

 

「オッケー、任せて!」

 

 いつも通りに俺が撃ってコハルが突っ込む。それで全てを片付けるつもりだったのに、モ神教司祭的な奴が俺を押し除けた。その手には室内線に不向きすぎる長いモシンナガンを持って。

 

「使徒たちよ、我らが神の力を示す時がきましたぞ。モ神様の裁きの下! SNB弾で奴らのアーマーをぶち破れ!」

 

 モ神様万歳(ハレルヤ)! モ神様万歳(ハレルヤ)! モ神様万歳(ハレルヤ)! そんな声が響き渡る。呆気に取られているうちにモシンナガンを手にした黒フードたちは叫び声を上げながらマークの部屋を飛び出していき、ボス軍団の弾幕を浴びた。

 しかし奴らは怯まない。モ神への信仰を叫びながら散発的な反撃を繰り出し、取り巻きを仕留めていくではないか。いかに硬いアーマーを着てバイザーで顔を守ろうとも、高貫通力を誇るSNB弾を前にしては紙も同然。どうして狭い室内でそんな戦いができるのかはわからないけれど、兎も角強い。

 

「あの人たち、なんだか強くない?」

 

「恐怖心が麻痺してるんじゃないか? 弾幕浴びて頭引っ込めないとか狂ってるだろ……」

 

 実際、モ神教徒たちは次々と被弾して倒れていく。ダウン状態で済んでいるようだし、やられる前に取り巻きをしっかりと道連れにしているあたりはさすがだ。

 それでもモ神教徒もほとんどがやられ、流石の司祭も下手に頭が出せなくなっていた。ボスと取り巻きの1人はまだ中央階段にいる。あいつらを始末しなければ、ダウンした連中を助けることもできないな。

 

「そろそろ出番だな。ついて来れるか?」

 

 そう言って振り向くと、コハルはニコリと笑ってダガーを抜いた。始まりの日に怯えて泣いていた少女はもういない。俺がいなくなってから随分と成長したらしく、背中ではなく隣に立って、勇敢に戦う戦乙女へと生まれ変わっていたんだ。

 

「遅れたこと、あった?」

 

「ねえな。行くぞ!」

 

 まずは中央階段目掛けてグレネードを投げ込む。壁にぶつけて跳ねさせたから、ボスは背中の方にグレネードが落ちてきた形になる。

 ボスと取り巻きが悲鳴をあげて角を飛び出してくる。グレネードにケツを叩かれる形になったのだから、必然的にこっちに逃げてくるよな。

 

 そこへ弾幕を浴びせ、先頭の取り巻きを仕留めた。コハルはもう飛び出していて、俺の射線と平行に突っ込んでいく。これならコハルが被弾することはないし、敵も弾幕で行動に制限がかかる。随分と磨きがかかったものだ。

 しかし間に合うか。ボスがグレネードの有効半径を離れて射撃体制を整えるのが先か、コハルのダガーが届くのが先か。もうコハルが射線に入ってしまうから、支援者撃破できない。

 

「やぁぁぁぁぁ!」

 

 コハルのダガーはボスの首を貫き、そのまま壁へ磔にした。おかしいな、コハルのダガーってあんなに長くないし、そもそも手を離れてないか? なんかファンネルみたいな感じに見える。

 

 それもそのはずだろう。突っ込む途中で拾ったであろうモシンナガンの先端にダガーが取り付けられているぞ。タルコフに着剣なんてシステムはなかったはずだが、これもキリトがちょいちょい使っていたシステム外スキルとやらなのか?

 

「お、おお……モ神様が更なる進化を遂げられた!」

 

「着剣モ神様でボスを仕留められた! 女神様だ!」

 

モ神様万歳(ハレルヤ)!」

 

「え、ええ!?」

 

 コハルが困惑してオロオロとしている。そこは昔と変わらなくて可愛らしくも思えるが、邪教徒に囲まれて崇められる姿はなんだか微妙だな。コハルを拝んでいいのは俺だけだぞ。

 

「コハル、ダガーを回収して早く逃げよう。モシンは置いていくんだぞ」

 

「じゃあ、ボスのAKと交換しておくね」

 

 随分とちゃっかりしてるじゃないか。いい奥さんになりそうだ。

 

「待ってくだされレイジ殿、コハル殿! どうかあなた方もモ神様に!」

 

 あいつら、次のボス攻略の時には最前線に立たせてやる。後ろからタチャンカの射撃支援付きでな。

 

——数日後

 

「なあレイジはん、軍の連中から"古臭い銃を持ったPMCが始まりの街でカルト教団の勧誘をしている"って報告があったんやが」

 

「俺は何も知らん」

 

「青龍連合でも"あちこちの魔法陣で怪しい祈りをしているPMCの集団がいる"って報告が上がっているんだけれど、何か知っているかい?」

 

「アトラスはなんの関与もありません」

 

 どうして俺が対応に追われなきゃならないんだ、スーカ。




先日中部タルコフサバゲーに参加した際、モ神教司祭から書けとお告げを受けて書いてしまいましたネタ回です
モシンナガン(エアガン)を突きつけて書けと言われてしまいましたので…

モ神様万歳(ハレルヤ)
元ネタについてはヤングチャンピオン烈Vol12掲載「スカベンジャーズアナザースカイ」参照。みんなでハレルヤ!
尚、最初に考えていたモシンへの祈りはハレルヤの登場によって没となった模様
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