Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
キャンプ漁りを終え、再び丘を越えて歩き出す。送電線を目印にすれば、この辺は歩きやすくなる。
「地図のこの位置だ。迷っても送電線を辿れば、北側出口か南側に通じてる。ソロでは来ないと思うけどな」
「1人じゃ嫌だよ。夜とかお化けが出そうだし」
「お化けは出ないが、カルト教団はいるぞ」
「……嘘だよね?」
「これがマジなんだ。毒ナイフとか、超強力な武器で襲ってくるヤベーNPCが夜限定でスポーンする。リョーハの方にある森の魔法陣と……さっきの魔法陣周りにな」
ちなみに、俺とリョーハでカルトに挑んだ時は酷い目にあった。奴らは
更には視界は霞み、痛みが走り、大混乱の中でリョーハを誤射してしまった。
解毒剤で治療して体制を立て直した後は反撃に出て、カルト集団を全滅させたものの、リョーハのアーマーを弁償する羽目になり、その時の儲けはすっからかん。むしろ解毒剤の分マイナスだ。
Slickアーマー、マジで高かった。2度とカルト狩りなんて行くもんか。
「ま、待って! 置いていかないで!」
「置いて行かないよ。でも急げー」
コハルにはカルトの話がよっぽど怖かったらしい。茂みから襲いくる、毒持ちハゲの集団なんて恐怖以外でもない。実害がある分、お化けよりタチが悪いだろう。
涙目で走ってくるコハルが、捨てられた子犬のように見えて面白かった。あまりからかい過ぎても良くないが、少しのユーモアは心の癒しだ。
「レイジの意地悪!」
そんなコハルの声がWoodsに木霊した。リョーハの野郎が笑っているような気がしたが、きっと気のせいだろう。
10分後
「レイジ、待ってよ……!」
「待ってるよ。俺もスタミナ切れだ。持久力も筋力も初期状態だしな」
俺はコハルの手を掴んで引っ張り上げる。今は2人仲良くロッククライミングの真っ最中だ。
Woodsの中心よりやや北西にある岩山には、スナイパーSCAVがスポーンするため、スナ岩とかスナイパー岩とPMCたちは呼んでいる。
見晴らしはいいが木々が邪魔で狙撃は難しく、逆に周りから丸見えでカウンタースナイプされる危険も高い位置である。
「ほら、これで最後だ!」
「私、レベル上がったら筋力あげる!」
「マッチョにはなるなよ? 可愛い見た目でいてくれ」
「か、可愛い!?」
途端に茹蛸のように赤くなってしまった。そんなわかりやすいコハルが面白くて、ついつい目を向けてしまう。
面白いバディが出来たものだ。リョーハとゲラ笑いしながらSCAV狩りをするのもいいが、これもこれで悪くない。
「もう……わぁ、すごくいい眺め!」
「今じゃ狙撃してくる奴もいないし、ピクニック気分だな」
見渡す限りの森と草原。それを一望できる景色に、コハルは目を輝かせている。俺はその場にしゃがんで、リョーハがいないか見回すばかりだ。
「ヤッホー!」
山彦なんて帰ってこないぞ、と言おうとした途端「アッホー」と返ってきた。リョーハの阿呆め。カルトに襲われてしまえ。
「煩いわよ。静かに狙撃させてくれないかしら?」
そんな声が聞こえた。少し前、一段下がったテラスに近寄ると、スナイパーが伏せている。隣ではSCAVが死んでいるし、ライフルを奪って使っているらしい。
「シュトゥルマン狩りか?」
「可能ならね」
クールな雰囲気だが、声からして女か。ただ静かに、スコープを介して伐採場を見つめていた。
「反対側から仲間が来る。誤射だけしないでくれ」
「了解」
「レイジ、シュトゥルマンって何?」
そう言えば、コハルにはまだ教えていなかった。この森に巣食うクソ野郎のお話を。
「ここのボス。あの伐採場に出現するんだ。黒フードのジャケットを着ていて、
「強いの?」
「弾は強力だが、本体はそうでもなかったりする。接近戦に持ち込めばこっちのものだしな」
それでも返り討ちにあうことは何度もあった。油断は禁物である。例え、掲示板でボス最弱と言われていようとも。
「今の段階で倒せれば、経験値も装備も美味しいでしょう?」
「それは言えてるな。だが、まずは飯にしないか?」
バックパックからジュースと缶詰を取り出し、スナイパーに声をかけると、腹が減っていたのかこちらにやってきた。猫かな?
「いいの?」
「キャンプで拾ってきたから気にすんな。コハル、アップルとパイナップルどっちがいい?」
「アップルちょうだい」
「ほらよ」
「パイナップルは貰うわ」
コハルにアップルジュースを渡す間に、スナイパーの方にパイナップルジュースを取られてしまった。仕方ない、俺はHod lod(エナジードリンク)を飲むとするか。バフあるし。
「私、コハルって言います。こっちはレイジ」
そういえば名前を聞いていなかった。自然と飯を食う流れになっていたから、すっかり忘れていた。
「シノンよ」
「ん? シノン?」
聞き覚えがある。しかも、ロクでもない記憶が思い浮かんできた。このスナ岩と合わせて、俺とリョーハのトラウマレベルの思い出がだ。
「レイジ、知ってる人?」
「……シノン、俺とリョーハを殺したことあるな? しかも、このスナ岩から」
「もしかして、あの時のPMC?」
シノンは苦笑いを浮かべる。ベータの時に殺した相手と再会するなんて、誰が思った事だろう。
ちなみに、コハルは俺とシノンの間でオロオロしている。
「レイジ、喧嘩しちゃダメだからね」
「しねえよ。ただの思い出話さ」
懐かしい話だ。シュトゥルマンの死体を漁っていたリョーハが狙撃されて死に、ムカついて復讐に行った俺もあえなく返り討ちに遭ってしまったのだ。
そんな話をしたら、コハルはシノンに熱い眼差しを向けていた。
「凄い、こんなに遠くから当てるなんて! よく倒しましたね!」
「倒してから猟犬コンビって知ったわ。まさか死神リョーハがあんなにあっさり倒せるなんてね」
「被害者の会2号、デアデビルでーす。頭に当てたのに、メットに弾かれたせいで負けましたー」
そんな俺の頭を、コハルはよしよしと撫でる。まるで宥められる子供のようで不服だが、コハルに撫でられるのは嬉しいので文句はない。
スリスリ、と猫のように甘えて楽しんでいたら、突然森に銃声が響いた。
リョーハのAKではない、甲高い3連射。覚えのあるこの音に、俺とシノンは思わず口角を釣り上げた。
いる。奴があの伐採場に。
『伐採場でシュトゥルマンに絡まれた! 外側大回りしてそっち行くぞ!』
リョーハが叫びながら連絡してくる。高威力のドラグノフ3連射を喰らったらひとたまりもない。しかも、やられれば死ぬのだから緊張感は割り増しだ。
「俺たちもスナ岩降りて外周の丸太に行く。優秀なスナイパー連れて行くから楽しみにしとけ」
『嫌な予感しかしねーぜ!』
きっと大丈夫だから安心するといい。泣くほど優秀だ。主に俺たちがな。
「私はここから狙うわ。援護してあげる」
「取り分用意しとくわ。行くぞコハル」
「よろしくね」
「シノンも、気をつけてね!」
・カルト
タルコフの特定マップに出現するNPC。夜間限定、低確率でスポーンし、護衛である教徒"Sektant"と、ボスである司祭"Zhrec"のグループで茂みなどに隠れ、プレイヤーを毒ナイフで奇襲する。
特殊な薬剤で体温を下げているため、サーマルスコープに映りにくい。
・Shturman
シュトゥルマン、シュターマン等読み方に揺れがあり、本作ではシュトゥルマンで表記。
Woods伐採場に護衛2名と共にスポーンするボスであり、ファー付き黒フードのジャケットを着用。高威力、高貫通力弾薬を詰めたSVDSとAK-105を装備し、正確な狙撃でPMCに襲いかかる。
Shturmanのロシア語表記「Штурман」は航法士を意味する。