Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

80 / 83
だいぶ間が空いてしまいましたが、ようやく主催のタルコフサバゲーが終わりましたので投稿します!


20層-7 終わらない悪夢

BEAR Operator”Rage”

 

 ベイサルからの報告は途絶え、地雷の爆音だけが轟く。それからは静寂だけがLighthouseを支配し、生き残りがいるのか、問いかけることすらしたくなかった。

 それでも行くしかない。仲間を見捨てる事は決してしない。それが、リーダーとしての責務だから。

 

「メイベル、水処理場前面のローグやれるか?」

 

「了解。マニエク、正面機銃をやれ!」

 

 ブラックバーンの命令に遅れて、マニエクが道路沿いの櫓でグレネードランチャーを構えるローグを狙撃して仕留めた。あと1体、機銃を構えた奴がいるはずだ。

 

 しかしマニエクがいつまで待っても撃たない。狙うのに手間取る位置ではないはずなのに、一体何をもたついているんだ。

 

「レイジ、こっちも襲撃を受けた! 支援をくれ!」

 

 クソが、奴ら狙撃地点に待ち伏せをしていたのか。あいつらの支援なしに、水処理場への侵入は不可能だ。

 かといって、黒猫団を連れたまま支援に行く事はできない。どう考えても足手まといになる事は間違いないのだ。これはPvPなのだから、彼らに戦う覚悟があるわけもない。

 

「キリト、黒猫団を連れて脱出しろ。この道路を水処理場と逆に行けば脱出地点がある。リンデン、岩山のメイベルを救援する。タチャンカが暴れてる間に行くぞ!」

 

「あいよ。コハルとシノン、サーニャも置いていくか?」

 

 置いていかないで、コハルはきっとそう言うだろう。そうだとしても、これから先は殺し合いになる。そんなところにこの優しい少女を連れて行きたくはない。

 でも、置いていかないと約束してしまった。俺は、守りながら戦えるだろうか。

 

「レイジ」

 

 ああ、決意に満ちた目をしてやがる。その目で俺を見る時は、大抵引くつもりがない時だ。

 

「……分かった。俺の背中を頼むぞ。相手が銃を持っていたら、つべこべ言わずに隠れろ」

 

「任せてよ。私もレイジと戦うから」

 

「私も戦いますわ。足手まといにはなりませんことよ」

 

「……すまん、援護頼む」

 

 サーニャの実力は知っているが、果たして対人戦闘はどこまでやれるだろうか。決まった動きをするモブと、有機的に動く人間が相手では勝手が違う。何より、心の持ちようさえもが。

 

 目を逸らすようにリョーハを見ると、奴もシノンの圧力に負けてしまっていた。これで、方針は決まったな。

 

「頼むぜキリト。お前がことの顛末を攻略組に伝えてくれ」

 

「分かってるさ。けど、レイジたちも無事に帰ってこいよ」

 

「ああ。でも泣き寝入りはごめんだ」

 

 キリトの背中を見送り、俺は覚悟を決めた。この先、初めてプレイヤーを殺すことになるだろう。それも、コハルの目の前で。

 生捕りとか、誰も殺さずに済むようになんて甘い考えは最初からない。殺しにきている相手に不殺プレイなどしても犠牲が増えるだけだ。それに、俺の仲間を殺しやがったのだから、情けをかけるつもりなど最初からない。

 

 それでもいい。こういう汚れ仕事のために俺たちはいるんだ。PKが当たり前で、殺し合い、奪い合う世界に身を置いていたから。

 いつか最前線に立てなくなる日が来るのならば、これを俺たちPMCに与えられた役目だと信じ、それに殉じて見せようじゃないか。

 攻略のための礎に、PK集団を殺す。何を守って何を切り捨てるのか、答えはとっくに出ているのだから。

 

 

 岩山で交戦するメイベルの救援に向かう間も、悲痛な叫びが無線から聞こえてきている。なんとか手榴弾を投げつけて時間を稼いでいるようだが、その頼みの手榴弾も底をつきかけているそうだ。

 おまけに相手はSAOプレイヤーで、PMCの火力ではなかなか殺しきれない。いずれ数に押されてすり潰されてしまうだろう。

 

 シノンがニキータハウスに残り、狙撃支援をしてくれる。コハルとサーニャはそれを守り、俺とリョーハが岩山を駆け上がる。敵が銃を持っているなら隠れろと言ったし、これで置いて行ったことにはなるまい。

 

「レイジ、こっちは持たねえ! 橋の方へ離脱するから奴らを叩け!」

 

 ブラックバーンたちは崖から飛び出た岩を伝い、滑り降りるというより転げ落ちていく。岩山は頂上まで敵が来ているが、即死しないように降りるルートは知らないらしい。ブラックバーンたちを追いかけられず、迂回に手間取っているように見えた。

 

「奴らを挟んだ! 撃てリョーハ!」

 

 敵の背後を捉えた。メイベルに気を取られて背後が疎かだぞバカどもめ。弱いものいじめばかりで本気の殺し合いなんてしたことないんだろう?

 だから俺とリョーハに撃たれて泡を食うんだよ。ここで1人持って行ってやる。

 

 手前の1人、グレネードを喰らったのかかなりの大ダメージを受けている。そこにリョーハのヘッドショットを食らって倒れた。ギリギリスタンで済んだようだな。

 だがダメだ。お前たちは俺の仲間を殺した。倍は持っていかないと、グリズリーの連中の弔いにもならない。

 

「あばよ、クソ野郎」

 

 倒れた体に数発撃ち込む。断末魔と共にHPバーが消滅して、そいつはもう脅威ではなくなった。まだだ、まだ敵が残っている。

 

「リョーハ、グレネード行くぞ!」

 

「俺に当てるなよ!」

 

 目の前の敵へ、ピンを抜いたグレネードを投げつける。そいつはなかなか勇敢で、落ちたところを拾って投げ返そうとしたのだろうか。飛んでくるグレネードに駆け寄った。

 バカめ。次の瞬間には地面に落ちたグレネードが突然炸裂した。即死範囲に入っていた敵は何が起きたかもわからずにHPを全損して崩れ落ちていく。

 RGNグレネードは初めてか? 効果範囲こそ狭いが、着弾即爆発のインパクトグレネードだ。一撃即死の害悪武器を喰らって、コンティニューができないのはさぞ不満だろうけどな。

 

「奴ら引いて行くぞ!」

 

「ここで仕留める。リョーハ、このまま押していけ」

 

「いつも通りやるか、30秒で来い!」

 

 30秒、俺がいなくなってもリョーハは完璧に敵を押し留めてくれる時間。そして、俺が突破口を開くには十分過ぎる時間だ。

 

「任せた、相棒!」

 

 火力が減る分、敵が崖を降りるよりリョーハの方を突破にかかる可能性があった。そして響く足音はその予想を裏付ける。

 でも、おかげであいつらは気づいていない。側面に迂回出来る段差があって、命知らずの大馬鹿野郎がそこを迂回してきているなんて。俺たちはここで散々戦ってきたんだ。簡単に殺せると思うなよ。

 

「奴ら押さえてる! やれ!」

 

 リョーハめ、俺がいい場所に着いたってよくわかったじゃねえか。約束の時間より少し早いけれど、奴らの側面を奪った。

 狙う必要もないほどに近い。レーザーサイトを頼りにトリガーを引けば、無防備な側面に弾幕を浴びたオレンジが倒れた。

 唐突な側面攻撃に驚いたオレンジはたちまち崩壊し、再び崖の方へ逃げて行く。メイベルが降りたところを辿るつもりらしい。

 

「ブラックバーン! 網にかかった!」

 

「やれ、タチャンカ!」

 

 崖の中腹、テラスに降りたオレンジたちは怒れるタチャンカの弾幕を浴びて次々倒れて行く。さらには鬱憤晴らしにか、残るメイベルのメンバーからも猛射を浴びて手も足も出ていない。

 

「シノン、こっちに合流しろ。援護はいい」

 

「了解」

 

 援護の必要もなくなり、シノンたちに移動を指示する。もちろん、その指示はこの光景を見せないためのものだけれども。

 

「死ね、クソ野郎ども」

 

 逃げ場のないオレンジの残党の中へグレネードを落とす。一網打尽、まさにこういうことを言うのだろう。裏で手を回して攻略組を疑心暗鬼に陥れ、多くのプレイヤーに恐怖を植えつけた殺人集団だと言うのに、あまりにも呆気ないほど一方的な虐殺となってしまった。

 

 これが、PMCに課せられた使命だとでも言うのだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。