Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
岩山の麓でシノンたちも合流し、ようやく部隊の立て直しができた。その間にレンからの報告もあり、グリズリーがリンドたちと水処理場3番倉庫で合流、立てこもっていることも分かった。
「面倒なのは、ローグが全く片付いていないことだな。橋を越えようとすれば機銃掃射が待ってる」
リョーハが地図で進行ルートの候補をいくつか示すが、必ずどこかでローグたちの銃座に捕捉される。戦わずに通れない道だが、オレンジの残党に捕捉される危険もあった。
「仕方ないわ。私とマニエクで屋上を始末するから、リョーハたちで地上を掃討できる?」
「やるならば俺たちの稼ぎルートを使おう。1番と2番屋上、道路前の櫓を始末すれば、水処理場敷地に忍び込める。機銃は死角になるから、地上の奴らに気をつければ撃ちたい放題だ」
ブラックバーンがベータ時代に使っていた侵入経路は20層開放時の偵察で試したこともあり、確かに使える道だった。それでも強力なローグと地上戦を繰り広げる関係上、位置取りを間違えればたちまち殺されることになる。
しかし時間がないのも確かだ。オレンジが次の手を打ってくる前に、こっちが仕掛けて逃げる必要がある。これ以上余計な犠牲を出すことはできない。
「なら先に道路を始末しよう。マニエク、テラスから狙撃頼む。アイザックはその援護で、残りはレイジへついて行く」
「狙撃なら私も行くわ」
「シノンは待機してくれ」
リョーハはマニエクを追ってテラスに上がろうとするシノンを止める。あそこにはグレネードで吹き飛ばしたオレンジの死体が山ほどあるのだ。そんな光景を見せたくないのだろう。
「……分かったわよ」
「すまん。代わりにもう一度青ニキータハウスに行って、岩場から橋の方を頼む」
「コハルとサーニャは俺と。海岸側を迂回して水処理場へ。レンたちを助けに行こう」
「わかったよ。案内よろしくね」
「承りましたわ」
これから行く道も、水処理場正面に存在する監視塔2つを制圧しなければ危険なルートになる。グレネードランチャーと重機関銃が据え付けられたそこをマニエクとシノンが制圧しなければ、先行する俺たちが死ぬことになるのだ。
「リョーハ、援護頼んだぞ」
そう言ってM700をリョーハへ渡す。VSSで400m級の狙撃はほぼ不可能だし、機動力が必要な先行部隊は少しでも荷を軽くしておく必要がある。弾薬をまとめて渡してやれば、装備重量はかなり軽くなった。
「あいよ、任せておけって。死ぬんじゃねえぞ?」
「それはお前次第だな。死んだら葬式にはサイコーにダサいドレス着てこい」
「縁起でもねえぜ」
このくらいの軽口を叩く余裕があってもいいだろう? これから地獄に突っ込むのだから、心の余裕一つ持っていなければ先にメンタルが潰れてしまう。
※
「先行部隊は橋近くだ」
ローグの根城である水処理場正面には川があり、ニキータハウス側と隔てられている。橋はあるけれどローグの銃座から狙える位置にあるため通行は危険で、渡るとすれば西側へ広がる砂浜沿いに橋下へ迫り、浅瀬を渡るしかない。砂浜沿いは窪地になっているおかげで、銃座の死角へ入れるのだ。
そのまま水処理場側の砂浜を西へ抜けていけばローグをスルーして逃げられるが、今日はそうともいかない。
「こちらマニエク。こっちからは先行部隊が見えん。とりあえず道路側はクリア、銃座にも敵影なし」
「こちらリョーハ、こっちは僅かに見えた。シノンが2番倉庫の機銃を排除する」
「あそこまで400か500メートルはあるだろ、大丈夫か?」
次の瞬間には特徴的な甲高い銃声が辺りへ響いた。シノンが返事代わりに撃ったのだろう。SVDSで使う7.62×54R弾ならば、かなりの距離でも頭にさえ当たればローグを一撃で仕留める威力を持つ。
「右側機銃を仕留めたわ。何か言ったかしら?」
「……ナイスショット」
きっとシノンはドヤ顔をリョーハに向けている頃だろう。さっさと付き合え、バカどもめ。
「先行部隊は前進する。コハル、サーニャ、俺について来い」
「オッケー」
「承りましたわ」
橋周りは水処理場正面銃座の射程であり、重機関銃とグレネードランチャーの猛射を受ける危険地帯だ。銃座のローグの死亡確認をこちらでしていないのが不安な点ではあるが、支援部隊から見えていないならばまあ大丈夫だろう。
少し遅れてブラックバーンのチームも来る。何かあっても彼らの支援が受けられるだろう。
「待って、正面銃座で動きあり!」
「レイジ、退避しろ……違う、マニエク! アイザック! そこから逃げろ!」
リョーハの怒号をかき消す銃声は機関銃とグレネードランチャーのものだ。こちらを狙ってるものと思い、とっさにコハルとサーニャを地面に押し倒し、庇うように覆い被さる。
それでも、弾は俺たちの上を飛んでいった。その着弾地点ははるか向こう。ローグの反応圏外であるはずの場所で、マニエクとアイザックが陣取っていた狙撃地点のあたりだった。
ローグがあんな長距離を撃つなんて見たことがない。射程ではあるが、ローグの団地範囲外なのだから。
だとすれば、やったのはオレンジか。
「マニエク! アイザック!」
ブラックバーンの怒鳴り声がヘッドセットから響く。それでも答えは返ってくることなく、爆音だけが轟き続ける。あんなものを食らって生きていられるわけがない。2人は死んだ、そう考える他ないんだ。
「クソったれ、櫓にいるぞ!」
「レイジ、近くの茂みに動きあり!」
土手の上の茂み、地雷原の手前から黒フードのオレンジたちが飛び出してきた。咄嗟に射撃しても止めきれない。接近戦になれば、やはり銃よりも刃物の方が強いのだ。
1人ダウンさせた、次に1人。AKを弾き飛ばされればアイスピックで顎を貫いて引き倒し、切り掛かってくる別の剣はナイフで防ぐ。
「死ね!」
アイスピックで敵の右腕を切り落とした。続いてナイフで突き、アイスピックで脇腹を引き裂く。これでもまだ殺せないなんて、本当にインチキだとしか思えない。
ナイフを振り回し、刹那に見えた。必死に戦うコハルとサーニャに忍び寄る影と、あまりにも毒々しい色をしたナイフ。どう見てもやばい、あれを食らってはいけないと本能が叫ぶ。
「コハル、かわせ!」
ナイフを投げつけたけれど、それは槍で弾き飛ばされた。ドクロマスクのクソ野郎が防ぎやがった。
「レイジ……!」
ナイフを突き立てられたコハルが崩れ落ちる。あんなので死ぬわけもないが、何かしらのデバフ効果がついているのだろう。考えられるのは麻痺か。
「その手を離しなさい!」
コハルの近くにいたサーニャが魔剣"フィンスタニス"を振るう。敵のHPを吸って自らを回復する魔剣と彼女の戦闘能力が合わされば、こんなオレンジ連中に負ける訳はない。
でも、彼女に人を傷つける覚悟はない。どう見ても武器を弾き飛ばすような戦い方をしているから、次第に押されてしまっていた。
「コハル、サーニャ!」
AKに持ち帰るけれど、すぐに弾が切れた。背中を切りつけられて倒れる俺の目の前で、ドクロマスクがサーニャを捕える。跪かされたコハルとサーニャは首に刃先を当てられ、下手に動けばすぐさま殺されてもおかしくない。
「ワンダーウン。レイジだったか? お前も動くなよ」
どうなるかわかるだろう? そう言わんばかりに奴はナイフをチラつかせる。
ああ忌々しい。今すぐぶち殺してやりたいが、今は武器を捨てるしかない。コハルを殺されてしまったら、俺は正気でいられる自信がない。
武器を捨てた途端、背後のオレンジが俺を殴りつける。悲鳴を上げるような痛みではないが、ともかくムカつく。
「レイジ!」
「レイジさん!」
「クソが、勝ったつもりか!?」
ドカドカと好き放題蹴ってくれるじゃねえか、クソ野郎どもめ。覚悟しておけよ?