Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
蹴り上げられ、踏みつけられ、どれだけの時間が経っただろう。どさくさ紛れにPropitalを使ったおかげと、クラス5のアーマーのおかげで大したダメージは受けていない。
だがともかく頭に来る。弱い癖に調子に乗りやがって。
何より、人質がコハルなんだ。生かして帰す者か。隙を見せたら全員ぶち殺してやる。
「ああクソ、レッド!レッド!ブラック急げ、レイジがヤバい!」
「今向かってるよ!タチャンカがな!」
「こっちも狙撃地点を変える!シノン、頼むから撃ってくれよ!」
吹っ飛んだComTac2からは仲間たちの声が漏れ聞こえる。大方、リョーハとシノンの狙撃に合わせてメイベルの残存が突入、こいつらを追い払うのだろう。
こんなことならキリトを連れてくれば良かったと思うが、黒猫団が巻き込まれる可能性を考えればこれで良かったんだ。
「レイジ、いいから逃げて!」
「逃げられるかよ……っ!」
もちろんオレンジどもは笑っている。なんだかゲスなことを言っていた気がするが、何を言っているかわからない。
そろそろ頭に血が昇って、どうやってこいつらをなぶり殺すか、それしか思い浮かばないんだ。
「狙撃地点についた。メイベル、そっちは?」
「突入準備。そっちの合図に合わせる」
BEAR Operator “Ryoha”
「ああマズイ……シノン、槍の方を頼む」
レイジから預かったM700、それに乗せられた6倍スコープはしっかり黒頭巾を視界に捉えていた。
レンジファインダーで距離も測った。これならば確実に頭をぶち抜けるけれど、心配なのはシノンの方だ。
「おい、聞こえてるか?シノン、シノン!」
「分かってるから……撃つわよ。SCAVと同じでしょう?」
「そうしなきゃ、死ぬのは俺たちの仲間だ。それに、ドラグノフ当たったくらいで奴らは死なねえよ」
「そうね……そうよね」
やはり震えている。それで狙撃が当たるわけが無い。
「落ち着け、深呼吸しろ」
そっとシノンの手を握ると、彼女は俺に顔を向けた。おいおい、スコープから目を離すんじゃないよ。
「お前は私利私欲で殺すんじゃない。仲間のために戦うんだ」
「……半分、リョーハも背負ってよね」
「その為にいるんだろうが。メイベル、スタンバイ……ああレッド、レッド!」
コハルを捕まえている短剣野郎がコハルを刺そうとしている。このままじゃレイジが捨て身で突っ込んじまうじゃねえか。
「撃て、シノン!」
それだけ叫んで呼吸を止める。どこまでも透き通ったスコープの中、浮かぶ十字線はしっかり奴の頭を捉えていた。
BEAR Operator “Rage”
殺す、殺す、殺す、殺す!
あの短剣野郎は死んでも殺す。コハルに手を出させるもんかよ、死ねクソが!
「撃て、シノン!」
背中を踏むクソ野郎を振り解き、大腿部のホルスターからハンドガンを引っこ抜く。
そして、銃声が響いた。俺が撃つよりも早く、コハルとサーニャを人質に取っていたオレンジどもの体が揺らぐ。
「突入、突入!」
「ここで会ったが百年目!汚物どもよ、消毒の時間ですぞ!」
ブラックバーン率いるメイベル隊が突っ込んできた。タチャンカの弾幕が俺の周りにいたオレンジを薙ぎ払い、その弾幕を掻い潜りながらブラックバーンとレッカーが突撃を仕掛ける。
一瞬にして混乱が巻き起こる。そりゃそうだ、俺たちは伊達にPvPの経験積んできているわけじゃない。
PvPを忌避する連中を一方的に痛ぶっているような奴らを相手に、負ける要素などありはしないんだ。
「ぶち殺せ、生かして帰すな!」
AKは吹っ飛ばされた。手にはMP-443だけ。頼りないハンドガンでも、頭に当てればノックダウンさせられるんだ。
まずは近くのボケを1人。次の奴はアイスピックで片手剣を絡め取って、無防備になった頭へ至近距離から撃ち込む。
おっと、槍持ちの雑魚が突進してきたな。それは今撃ったオレンジを盾にして槍を受け止める。あ、死んだけどいいや。
「ありがとよ!」
そのまま槍野郎も撃つ。ダウンを奪ったなら、後でまとめて始末するだけだ。
「クソどもが逃げておりますぞ!」
「ほっとけ、いや追い立てろ!殲滅してやる!」
ブラックバーンめ、いい判断をしてやがる。タチャンカに追い立てられた間抜けどもは知らずに道路際の地雷を踏んで次々に倒れていった。
そこ、岩伝いに歩かないとすぐに爆死するんだ。知らなかったな?
「ブラックバーン、そのまま追跡して全員仕留めろ!コハル、サーニャ!ニキータハウスの方に逃げてリョーハと合流しろ!俺たちが止める!」
「待って……!」
コハルの返事も聞かず、短剣野郎へ飛びかかっていく。こいつだけは逃がさん。必ず殺してやる。
「死ね、クソが!」
まだスタンは効いているはず。ならば俺のナイフは遮られることなく奴に届く。
そのはずだったのに、弾かれた。もう動けるのかよ。
「チッ、鎮痛剤使ったな?」
「お前らだけの専売特許と思うなよ!」
奴の蹴りに合わせて後転し、受け身を取る。
なるほど、PMCの使うような鎮痛剤でデバフを打ち消したか。たまにSCAVやルートボックスから手に入るし、フィールドで細々と生きていなきゃならないこいつらが持っていて不思議はないな。
「また、な。次は、殺す」
「待てや!」
槍野郎は話し方がムカつくな。もう一度黙らせてやろうとハンドガンを構えたところで、ヘッドセットが何かの足音を捉えた。
後方、接近してくるな。敵か。
「邪魔すんなクソが!」
振り向きざまに飛び込んできた野郎を刺してやろうとしたが、腰を抱きつくようなタックルで吹き飛ばされた。
ただやられるだけではいられない。すぐにそいつを殴りつけて、その不気味なドクロマスクを剥ぎ取ってやる。
「死ねこの野郎!死にやがれ!」
MP-443をそいつの頭へ突きつけ、撃ち込んでやった。コイツもオレンジギルドの一員ならば死んで当然だ。コイツだけでも地獄へ送ってやる。
なのに、どうして警告が出るんだ。グリーンプレイヤーへの攻撃を警告するそれを、俺は理解できなかった。
「っぶね!」
そんなことよりも、槍野郎が突っ込んできた方が問題だった。転がるように回避しながら、ドクロマスクを引っぺがす。
「てめーも纏めてくたばれや!」
「生憎、死ぬのは、お前だ」
煙幕が視界を覆っていく。クソ、あの槍野郎が投げやがったか。
緑の煙に視界を覆われ、追跡はほぼ不可能。あとはブラックバーンたちが掃討してくれればいい。
「……あのドクロ野郎、シュピーゲルとか言ったよな」
ドクロマスクを引き剥がした刹那に見たあの素顔、かつてどこかの層ですれ違った覚えがあった。
シノンの知り合いで、シュピーゲルとか名乗っていた少年。その顔に間違いはないだろう。
いったい、その事実をどうシノンへ伝えりゃいいんだ。