Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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タルコフのアプデ待ちの間に更新します!


1層-8 伐採場の死闘-2

 コハルを伴ってスナ岩を下り、原っぱを駆け抜けた先に窪地がある。その窪地に伐採場があり、コロシアムのようになっている。

 窪地手前には積み上げられた丸太や重機、窪地の中にも丸太や倉庫、車両などの遮蔽が存在し、シュトゥルマンと取り巻き2人はそういったところに隠れながら狙撃してくる。

 

「接近戦に持ち込めばこっちのものなんだがな」

 

 向かいの大岩、ダッフル岩(ダッフルバックがあるからそう呼ばれる)に手を振ると、同じく手が振り返された。リョーハかキリトか、はたまたアルゴか。俺から距離100メートル程度。その間にボスがいる。

 

「シノン、味方はダッフル岩。俺は手前側丸太に隠れてる」

 

『見えたわ。白倉庫と赤吹き抜けの間に取り巻き』

 

 俺たちから見て、伐採場南奥、西にある白い倉庫が白倉庫。中央と東の赤い屋根で、側面が吹き抜けになっている丸太置き場が赤吹き抜け。

 その白倉庫と中央赤吹き抜けの間をシノンが狙撃し、遅れて銃声が響いてきた。

 

『キル』

 

「ナイス! リョーハ、取り巻き1ダウン!」

 

『シュトゥルマン確認、白倉庫と3連小屋の間!』

 

 3連小屋は伐採場北西にある3つの木造小屋。俺とコハルの足元だ。白倉庫方面に目をやると、スタックした車両の近くに黒フードのスナイパーが見えた。

 

「アレだ、あの黒フード!」

 

 咄嗟に頭を引っ込めると、銃弾が飛んできて丸太を削る。コハルもビックリして首をすくめ、丸太の後ろに隠れた。

 

「レイジ、アレどうやって倒すの!?」

 

「狙撃か詰めるかだな。それか……」

 

 SCAVのアルゴリズムが変わっていないなら、一つの手段がある。例えボスだとしても、タゲ取った人以外に意識が向かないのは変わらない。

 

「奴をここに追い込むから、丸太の後ろに隠れてろ。いいな?」

 

「大丈夫なの?」

 

「奴は至近距離になると反応が悪いからな。俺とリョーハで追い込んで削り殺してやるさ」

 

 頭か胸の耐久を全損させてもいいのだが、説明が面倒なのでカット。

 不安そうなコハルの肩を掴み、目を合わせる。俺が不安がって心配させるわけにもいくまいと、しっかり、真っ直ぐに向き合う。

 

「俺が仕留めてくるから、信じて待ってろ」

 

 このアーマーでは、奴の一撃で胸部耐久力を全損させられる恐れがある。即死はせずとも、追撃を喰らって死ぬだろう。

 でも、それは伏せた。コハルに余計な責任を負わせるものか。俺の命の責任は、俺1人が背負えばいい。

 

「……わかった。死なないでね」

 

 うなずくコハルに笑顔を見せる。作らずとも、自然と笑えてきた。

 

「死なねえよ。シノンに誤射されなければな」

 

 それだけ言って、俺は走り出す。ぐるりと大きく回るように動き、シュトゥルマンの横に回り込む。

 リョーハと俺、その中心にシュトゥルマン。ちょうど十字に挟む、いいポジションだ。

 

「リョーハ、奴を3連倉庫に追い込んで詰めるぞ! 横から撃つ!」

 

『気を付けろ、お前にタゲ向いてる!』

 

 コハルのくれたサイトがシュトゥルマンを映し出す。スコープ越しに目が合い、次の瞬間には光がそれを覆い隠した。

 嫌な予感がして、丸太に身を隠す。甲高い銃声と着弾音が響き、丸太を削る。ダメージはないな。

 

『おらおら、そっち行け!』

 

 俺とリョーハに挟まれ、ダメージを負ったシュトゥルマンは逃げ出す。被弾したら攻撃より物陰に逃げようとする、SCAVのアルゴリズムはボスでも変わらない。

 

 何度も何度も射撃を繰り返し、互いのリロードタイミングをずらして弾幕を絶やさない。圧倒的な火力を持って、奴を制圧する。

 

『3連倉庫に逃げたぞ!』

 

 更に銃声。かなり遠いからシノンの狙撃か。血飛沫のエフェクトを見るに、シュトゥルマンの腹部に命中したか。

 

『少し下に当たった……やり損ねたわ。あと、白倉庫に取り巻き1よ』

 

「取り巻き頼んだ、本体は仕留めてやる!」

 

 もう少し。もう少しでシュトゥルマンが倉庫の影に飛び込んで回復するはずだ。

 奴の持つIFAK個人救急キットは使用時間3秒。ボスは回復モーションのキャンセルをしないから、それだけあれば十分に詰めて仕留められる。

 

「コハル、そっち行ったから気を付けろ!」

 

 勝った、そう思ったのに。どうして、奴は何もないところで立ち止まった? どうして、しゃがんで俺を狙っている?

 

『ヤバイ! 逃げろレイジ!』

 

 忘れていた。SCAVボスとやりあう上での最大の鉄則を。 

 近距離でも遠距離でもない、中途半端な距離で戦うことは絶対に避けるべし、だ。

 

 左脚が痺れる。撃たれたか。視界の端にあるアイコンのうち、左脚が黒く染まり、壊死を示す。

 次は腹。そして、3発目は胸に当たった。視界が霞み、体が動かない。気付けば青空を見上げていて、少しずつ赤く染まっていく。

 

 重傷時のエフェクトか。今まで守ってくれたアーマーは容易く貫通され、体力はほとんど残っていない。胸部をやられ、立ち上がることもできない。

 本当なら即死のところを、茅場の温情でまだ生きている。せめて、別れを告げる猶予を、とでも言いたいのか。

 

「コハル……ごめん」

 

 よく知っている、疑似的な死。それが本当の死になる。悔しくてたまらない。この先にあるであろう楽しいことを何も知らずに、このまま倒れていくのが。

 

 

Raid #1

Day 1

Level 4 SAO Player “Koharu”

Aincrad layer1 “Woods”

 

 

 その動きは早かった。たちまちポジションにつくと、猛烈な銃撃がボスを襲った。

 豪雨に降られたような弾丸の雨。相手は本当にボスなのかと疑うほど、一方的な展開になっていた。

 

 レイジとリョーハのコンビネーションは、このEFTの世界だからこそ最大限発揮されている。

 そこでは、私に基礎を教えてくれたキリトでさえも手出しができないほどの戦闘が繰り広げられていた。

 

 それなのにどうして、嫌な予感がするんだろう。

 

「コハル! そっち行ったから気を付けろ!」

 

 レイジが怒鳴る。銃声に負けない大声で情報を伝えると、逃げる黒フードのシュトゥルマンを追いかけていた。

 レイジの言う通りなら、あのボスはここに逃げてくる。そして、レイジが近距離戦で仕留める。

 

 そのはずだったのに、ボスはその場で立ち止まった。その銃口の先にいたのは、レイジ。

 

「レイジ!」

 

『ヤバイ! 逃げろレイジ!』

 

 甲高い銃声に驚き、身を硬らせて目を瞑る。3つの銃声がして、それを最後に静寂が訪れた。森の中に銃声が広がり、小さくなって消えていくような余韻がある。

 

 何が起きたのか、理解できない。どうして、レイジはゆっくり後ろ向きに倒れているのだろう。

 どうして、リョーハやシノンの悲鳴が聞こえるのだろう。

 

「あ……あ……」

 

 視界が歪む。どうして、こんなに目頭が熱いの? 教えて、レイジ。私に戦い方を教えてくれたみたいに、この感情の止め方を教えてよ。

 

「死なないって、言ったじゃん……」

 

 強いプレイヤーだったんでしょ? ならば立ってよ。また、笑ってみせてよ。

 

『クソッタレ、救援に行く!』

 

『取り巻きがまだいる! 危険よ!』

 

『うるせえ! 奴を見殺しにすんなら俺も死なせろ!』

 

 リョーハの声も、頭に入ってこない。ただ、彼を殺した黒の死神が眼下にいることしかわからない。

 80度くらいはありそうな急勾配、3mは下にいる。ポーチを取り出して、包帯を巻き始めた。

 

「……よくも」

 

 レイピアを構え、私は踏み出した。落下の速度をソードスキル"リニアー"に乗せて、渾身の一撃を叩き込む。

 

「よくもレイジを!」

 

 ガラスが砕けるような感触。あれだけレイジとリョーハが苦労した相手なのに、その一撃で倒れた。

 HPバーは見えないけれど、倒れて動かないから倒したのだろう。

 

 脚に力が入らない。見上げた先には青空があって、その向こうには無限に続く鋼鉄の城がある。

 まだその最底辺なのに、もう逝ってしまったのかな。

 

「リョーハ、レイジは?」

 

『生きてるが、なかなかヤバイ状態だ。ボスはどうした?』

 

「やったよ。私が倒した」

 

『よくやった。シノン、取り巻きは?』

 

『見つけた』

 

 また銃声がして、白い倉庫の中にいた取り巻きがもんどり打って倒れた。私もあのくらい遠くに手が伸ばせたなら、レイジを守れたのかな。

 私はただ、レイジを見つめていた。リョーハに担がれ、ぐったりと動かない彼の姿を。




・Woods
プリオゼルスキー自然保護区は北西連邦の国立野生動物保護区のリストに含まれていた。
パッチ0.12.9にてリワークされ、レイジとコハルがスポーンした水没した村や、USECの前線基地が追加された。尚、自然保護区なのに何故か外周は地雷原になっている。
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