風、水、火、地、闇、光、六つのデッキを操る頭脳派デュエリスト。
もしも彼があのカードの使い手だったら。
これはそんなIFのデュエル。
ここは童実野町。デュエリストならば知らない者はいないデュエルキング武藤遊戯出生の地であり、デュエル産業において世界的に有名な海馬コーポレーションのお膝元といえる
そこの代表的な建物海馬ドームでは現在、未来のデュエル界を担うと言っても過言ではないエリート
[受験番号一番、三沢大地君]
受験生入場のアナウンスが聞こえ始め、受験生である受験番号1番の生徒がデュエルアリーナに入場する。
黒髪をきちんと整えた短髪のオールバック風に後ろに流した髪型をし、キリリと澄ました目からは真面目な雰囲気を漂わせる。白ランを来たその青年は静かにデュエルフィールドに入るとそこで待っていた試験官と対面する。
「受験番号一番、三沢大地です。よろしくお願いします!」
「うむ。それではこれより実技試験を開始する。実技試験は勝敗だけではなくデュエル中の戦術も評価対象となる。最後まで諦めず、自分の全力を出し切ってデュエルを行うように」
「はい!」
青年――三沢が背筋を伸ばして名前を名乗り、礼儀正しく最敬礼で一礼。きびきびとした動作には一切の淀みがなく、今回の試験のための付け焼刃という様子は伺えない。
そんな彼の姿を見た試験官が満足そうに頷いて実技試験の説明を行うと、三沢も元気よく返してデュエルディスクを構える。
「「デュエル!!!」」
そして二人の声が重なり、デュエルアカデミア高等部入学実技試験、最後のデュエルの幕が上がった。
「先攻はいただきます。俺のターン、ドロー」
そして三沢が先攻を取ってカードをドロー。僅かに考える様子を見せた後、手札を一枚取った。
「俺は[マスマティシャン]を攻撃表示で召喚し、効果発動! このカードが召喚に成功した時に発動でき、デッキからレベル4以下のモンスター一体を墓地へ送る。俺は[白魔導士ピケル]を墓地に送ります。そしてリバースカードを三枚セットし、ターンを終了します」
マスマティシャン 攻撃力:1500
「ふむ……私のターン、ドロー」
モンスターを攻撃表示で出して、伏せカードで守りを固めてターンエンド。堅実な布陣だ。
デッキから墓地に送ったモンスターがやや気がかりだし、ワンターン目にしては伏せカードがやや多いが、プレイングの誤差と考えるべきか。と試験官は三沢の出だしを考察しながらカードをドローする。
「私は[ブラッド・ヴォルス]を攻撃表示で召喚し、バトルに入る。ブラッド・ヴォルスでマスマティシャンを攻撃だ!」
ブラッド・ヴォルス 攻撃力:1900
試験官の場に現れるのは斧を手に持った凶悪な顔をした獣戦士。さらに試験官の指示と共に凶戦士は斧を振りかぶってマスマティシャンに斬りかかる。
「この瞬間、リバースカードオープン[マジカルシルクハット]!! 相手バトルフェイズに発動でき、デッキから魔法・罠カード二枚を選び、それを攻撃力・守備力0の通常モンスター扱いとして自分のメインモンスターゾーンのモンスター一体と合わせてシャッフルし、裏側守備表示でセットします」
攻撃宣言の瞬間三沢の場のリバースカードの一枚が翻る。そのカードから彼の場に三つのシルクハットが飛び出し、その内一つがマスマティシャンに被さって彼の身体を隠すと三つのシルクハットが高速で位置をシャッフル。マスマティシャンを隠したまま三沢の壁になって立ちはだかった。
「ならば、右のシルクハットに攻撃だ!」
試験官が右のシルクハットを指差して追撃を指示し、それを聞いたブラッド・ヴォルスが斧を振り下ろしてシルクハットを斬り潰す。しかしそのシルクハットの中には何も存在しなかった。
「外したか……私はこれでバトルフェイズを終了する」
「では、この瞬間マジカルシルクハットの効果により、マジカルシルクハットの効果で特殊召喚したカードを破壊します」
試験官がバトルフェイズの終了を宣言し、三沢が説明したその時、残った二つのシルクハットがぷくりと風船のように膨らんでパァンと破裂。しかしその瞬間、その破裂したシルクハットの一つが一枚の赤い枠のカード──トラップカードへと変じた。
「これは!?」
「破壊された[マジシャンズ・プロテクション]の効果発動! このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、自分の墓地の魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する。そして、俺の墓地には魔法使い族モンスターが一体存在する! 戻ってきてくれ、[白魔導士ピケル]!」
白魔導士ピケル 攻撃力:1200
「な……マスマティシャンの効果で墓地に送って特殊召喚するなら、もっと選択肢もあっただろうに……?」
彼の場に現れるのは羊をかたどった帽子を被った白ずくめの可愛らしい少女、俺のデッキのエースでありアイドル。その名もピケル。
しかしその姿を見た試験官が驚愕し、周りの受験生からもざわめきが強くなっている。その中には「レベル2のモンスターをわざわざデッキから墓地に送ってまで?」「あいつもしかして筆記試験一位の癖に基本的なルールも知らないのか?」「そうだったら筆記試験一位も怪しいもんだよな」「カンニングだったりして」などという不躾な言葉が混じっていた。
しかしそれらのざわめきを三沢はふっと鼻で笑う。同時に彼の場のもう一枚の伏せカードが翻った。
「俺はピケルの特殊召喚成功時、速攻魔法を発動します。[地獄の暴走召喚]! 相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター一体のみが特殊召喚された時に発動でき、その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、相手は自身のフィールドの表側表示モンスター一体を選び、そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する。俺は[白魔導士ピケル]を二体特殊召喚!」
白魔導士ピケル ×2 攻撃力:1200
「む。私も[ブラッド・ヴォルス]を二体特殊召喚だ!」
ブラッド・ヴォルス ×2 攻撃力:1900
三沢の場にピケルが三体並び、試験官の場にブラッド・ヴォルスが三体並ぶ。ステータスの差は圧倒的だが、相手は既にバトルフェイズの終了を宣言している以上攻撃は出来ない。
このタイミングでのモンスター展開に試験官もふっと笑みを浮かべた。
「上手く安全にモンスターを展開してきたな。私はリバースカードを二枚セットしてターンエンドだ…(…私の伏せカードは[メテオ・レイン]と[攻撃の無力化]。モンスターを展開してきた以上、それを攻撃に転じさせるか守りを固めるか。どちらにせよその時にこの二枚の伏せカードに対しどのように警戒、あるいは対処をしてくるか。まずはそこを見せてもらおう)」
試験官の場に相手の攻撃・防御に対応できる二種類のカードが伏せられ、試験官はまずレベル四モンスターの中でもトップにはやや及ばないが充分に高い数値のモンスターが予想外に増えた三枚、さらに二枚の伏せカードに対してどのような行動を取るかを見極めようと、三沢にターンを渡すのだった。
「俺のターン、ドロー!」
上手く作戦通りの展開が出来た、ここからが本番。
あとは俺が渾身の力と頭脳の全てを振り絞って作り上げたデッキでこのデュエルに勝つか、負けるにしても最大限の力を見せるだけだ。
[頑張ってください、マスター! 私も精一杯応援します!]
「ああ!」
愛しのあの子――ピケルからの声援も貰ったんだ。ここで負けるわけにはいかない!
「スタンバイフェイズ。さっそく頼むぞ、ピケル!」
[はい!]
「スタンバイフェイズに白魔導士ピケルの効果発動! 自分のスタンバイフェイズ時、自分フィールド上に存在するモンスターの数×400ライフポイント俺のライフが回復する! 俺の場のモンスターは四体、よって1600ポイントライフが回復する!」
さらにこれはピケル一体の効果。俺の場にはピケルが三体、つまりライフ回復の効果も三倍だ!
「1600×3、4800ポイント俺のライフが回復!」LP4000→8800
ピケルが微笑んで俺に回復魔法をかけてくれる。まだ無傷だから治る傷もないしそもそもソリッドビジョンだから本当に傷つくわけでもないのだが、彼女がいてくれるならどれだけ重症になっても大丈夫だ。
「スタンバイフェイズ終了、メインフェイズに入る。裏側守備表示になっていた[マスマティシャン]を反転召喚! 続けてデッキの一番上のカードを墓地へ送り、手札から魔法カード[アームズ・ホール]を発動! 自分のデッキ・墓地から装備魔法カード一枚を選んで手札に加える。ただし、このカードを発動したターン、俺は通常召喚が出来ない。俺は装備魔法[ワンダー・ワンド]を手札に加え、マスマティシャンに装備。さらにワンダー・ワンドの効果発動! ワンダー・ワンドと装備モンスターを墓地に送る事で、デッキからカードを二枚ドローする!」
マスマティシャンに握られた杖が光を放ち、それに包まれたマスマティシャンと共に粒子となって消え、それが俺の新たな手札となる。そのドローカードもまた狙い通りのもので、俺の信頼する先鋒として最後まで完璧な仕事をしてくれた彼に心の中で礼を欠かさない。
だが、相手の場にはピケルより攻撃力が高いモンスターが三体、これで攻撃を仕掛けるはずもない。そもそもあの伏せカードも恐らくはこちらの攻撃に対処してくるためのカードだろうしな。つまりここは――
「リバースカードを三枚セットし、三体のピケルを守備表示に変更してターンエンド!」
白魔導士ピケル 攻撃力:1200→守備力:0
これで俺の戦術の布石は整った。後は次のターンをしのぐのみだ。
「私のターン、ドロー!」
試験官にターンが移り、彼は三沢を見て警戒を強める。マジシャンズ・プロテクションによって低レベルモンスターであるピケルをわざわざ特殊召喚したのは間違いなく地獄の暴走召喚に繋げるため。だがその結果試験官側のモンスターの数を増やしてしまえば意味はない。
このままでは全てのピケルは確実に彼の全てのブラッド・ヴォルスの攻撃で倒されるだけ。
(つまり、あの伏せカードだな……攻撃の無力化のような防御カードならばいいが、もしも聖なるバリア-ミラーフォースを踏んでしまえばこちらが不利……)
試験官は三沢の手を読もうとしながら手札を確認、このターンの戦術を考えた。
「(私の手札には[岩石の巨兵]がいる。仮にあの伏せカードの一枚がミラーフォースだったとしても、メインフェイズ2で岩石の巨兵を出せば守備でしのぐことは可能。ここは彼の対応を見るために攻めてみるか…)…私はこのままバトルに入る! ゆけ、ブラッド・ヴォルス! 白魔導士ピケルを攻撃だ!」
アフターフォローの手段はあるし、これはあくまで試験デュエル。受験生の実力を見るのが試験官側の目的である以上、この攻撃にどう対応してくるかも評価対象となる。
そう考えて攻撃を決めた主の指示を受け、ブラッド・ヴォルスが斧を手にピケルに斬りかかる。その攻撃力の差は歴然、頭を抱えてうずくまるピケル目掛けてブラッド・ヴォルスが斧を振り上げた。
「させるかあああぁぁぁぁっ!!!」
「なにぃっ!?」
だがその目の前に突然三沢が割り込み、ピケルを庇うように両腕を広げて彼女の盾になる。試験官が驚きの声を上げるがもう攻撃は止まらない。
ブラッド・ヴォルスの振り下ろした斧が三沢の身体を的確に捉えるものの、そのブラッド・ヴォルスも口をあんぐり開けて目を点にするギャグチックな表情で、ソリッドビジョンとはいえ斧で斬られたショックで顔をしかめる三沢を見ているのだった。
「な、ななな、何をしているんだい君は!?」
「いえ、何も問題ありません。俺はブラッド・ヴォルスの攻撃に合わせてリバースカードを発動していたんです! 永続罠[アストラルバリア]! 相手モンスターが自分フィールド上モンスターを攻撃する場合、その攻撃を自分ライフへの直接攻撃にする事ができる。これにより、ブラッド・ヴォルスからピケルへの攻撃は俺へのダイレクトアタックとなったのです!」LP8800→6900
ドドン!という言葉を背景に背負っているかのような迫力で宣言し、ピケルの前で仁王立ちする三沢。ピケルに手は出させない、ピケルは俺が守るという気迫を感じさせ、思わずブラッド・ヴォルスも後ずさりで引くと自分のフィールドへと戻っていった。
「ふ、任せておいてくれピケル。君は俺が守るよ」
なんかソリッドビジョンのピケルに何か言ってキメ顔でサムズアップを決めている三沢の姿に試験官はやや引いていたが、そこで彼の場のカードが翻るのを見る。
「おっと。この戦闘ダメージを受けた時、トラップカードを発動させてもらいます。手札を一枚捨てて発動、[ダメージ・コンデンサー]! 受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター一体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する! 俺が受けたダメージは1900。それ以下、攻撃力1300の[ビッグバンガール]を攻撃表示で特殊召喚だ!」
ビッグバンガール 攻撃力:1300
「む……ならばブラッド・ヴォルスでビッグバンガールに攻撃だ!」
攻撃指示を受けた残る二体のブラッド・ヴォルスが斧を掲げて突進、しかしそこに再び三沢が立ちはだかった。
「アストラルバリアの効果により、その攻撃は俺へのダイレクトアタックとなる!」LP6900→5000→3100
「やはり守ってくるか……私はメインフェイズ2に、[岩石の巨兵]を守備表示で召喚し、ターンエンドだ」
岩石の巨兵 守備力:2000
一気に大ダメージを負う事になってでも自らのモンスターを守り抜く三沢の姿に、試験官は相手の場から想定される戦術を予想しつつ当初の予定通り岩石の巨兵を出して守りを固めてターンエンドを宣言。
だがそこに三沢が「待った!」と声をかけた。
「そちらのエンドフェイズにトラップカードを発動させてもらいます。トラップカード[ゴブリンのやりくり上手]! 自分の墓地に存在する[ゴブリンのやりくり上手]の枚数+一枚を自分のデッキからドローし、自分の手札を一枚選択してデッキの一番下に戻す! さらにチェーンしてゴブリンのやりくり上手を墓地に送り、[非常食]を発動! このカードを発動するために墓地へ送ったカードの数×1000LP回復する!」
「なるほど、そういうコンボか……」
「ええ。チェーン処理を行います。チェーン2の非常食の効果により、俺は1000ライフを回復。この時ビッグバンガールの効果、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分のライフポイントが回復する度に、相手ライフに500ポイントダメージを与える」LP3100→4100
「く……」LP4000→3500
カードから飛び出した非常食の乾パンのソリッドビジョンを口に入れ、三沢のライフが回復。同時に彼の場のビッグバンガールが炎を生成して球に形成、試験官目掛けて放って彼のライフを僅かに削る。
「続けて、チェーン1のゴブリンのやりくり上手の処理に入ります。俺の墓地にはゴブリンのやりくり上手が
ざわっと観客からざわめきが走る。三沢は今ゴブリンのやりくり上手が
だが、その意味を理解しているというように試験官が鷹揚に頷く。
「マジカルシルクハットで墓地に送った。いや、今思えば私がブラッド・ヴォルスで戦闘破壊したカード。あれが一枚目のゴブリンのやりくり上手という事だね?」
「その通りです。では、三枚ドローし、手札を一枚デッキの一番下に戻す」
「改めてターンエンド。君のターンだ」
つまりワンターン目の時点でこのドローコンボへの布石は打っていたということだ。結果的に二枚のドロー、回復、ビッグバンガールとのコンボによるバーンダメージの三手を一気に行ってきた三沢のコンボを試験官は評価しつつ三沢のターンを明け渡した。
「俺のターン、ドロー!」
上手くコンボが決まった。欲を言えばアームズ・ホールやダメージ・コンデンサーのコストでもう一枚デッキか手札からゴブリンのやりくり上手を落とせれば結果的に六枚ドローになったわけだが、そこまで上手くはいかないか。
[マスター、元気出してください]
「心配ないよピケル、完全な計算通りにいかないのは当然だ。それより頼む。俺はスタンバイフェイズにピケルの効果発動! 再びライフを合計4800ポイント回復する!」LP4100→8900
ピケルが微笑んで俺に回復魔法をかけてくれる。ソリッドビジョンだから本当に斬られたわけでも痛みがあるわけではないが、それだけで斬られた痛みが消えていくような心地がする。
だが今回はそれだけじゃ終わらない。
「そして、俺のライフが回復した事でビッグバンガールの効果により、500ポイントのダメージを受けてもらいます!」
しかもピケルの効果は三回分、つまりビッグバンガールの効果も三回ということだ。それを示すようにビッグバンガールが形成した火球も三つ出来ている。
「ぐううぅぅぅっ……」LP3500→2000
放たれた火球で削る事が出来たライフを踏まえればこれでライフ差はほぼ四倍。さらに手札も完璧といっていい。
「俺はビッグバンガールを守備表示に変更し、カードを三枚セットしてターンエンド!」
ビッグバンガール 攻撃力:1300→守備力:1500
だが油断はできない。この次のターンをしのぎきる事が出来なければ何の意味もないのだから。
「私のターン、ドロー!」
試験官は怪訝な目をしながらカードをドローする。三沢大地、彼は先ほどからどうにも独り言が多い。それもまるで誰かと会話でもしているかのような。と。
だがこっそり通信機を使って誰かと電話をしている様子はなく、そういうイカサマをしているとは考えにくい。そもそもそうだとしたらばれないようにこっそり話すだろう。
(そういうやり方で考えていくタイプなのか……?)
自分の思考を口にして自分に聞かせて考えを深めていくタイプなのかもしれない。それにしては口にする内容に妙なところがあるが、何にしてもルールやマナーとして問題ない以上はあまり深入りする方が問題になるかもしれない。矯正するにしてもそれは彼の入学が決まってからであり、受験生と試験官という立場の今はそれをする理由はないだろう。
試験官はそう彼の悪癖と思われる部分のスルーを決めた。
(アストラルバリアによってモンスターへの攻撃を自分へのダイレクトアタックに変更し、間接的にモンスターを守る。そしてダイレクトアタックで減ったライフは守ったピケルによって回復、さらにライフ回復と同時にビッグバンガールの効果でこちらにバーンダメージを与える。変則的な【キュアバーン】と言ったところか……)
試験官はここまでの戦術から三沢のデッキを推測。キュアバーン、その名の通り
その性質上戦闘はしないタイプであり、本来ならばレベル制限B地区やグラヴィティ・バインド-超重力の網-といったロックカードで相手の攻撃を封じながら回復しつつじわじわとライフを削っていく戦術を取るが三沢は自分のライフが削られる事を厭わず、まさに自分の身を挺してモンスターを守っている。
恐らくレベル制限B地区もグラヴィティ・バインドもロックの穴があるため、ライフ回復を活かして相手モンスターの攻撃全てを敢えてライフで受けるという豪快な選択を取ったのだろう。なにせ全ての攻撃をダイレクトアタックにするというのは、逆に言えばモンスターが戦闘の影響を受けることはないのだから。
(だが、それにはいくつか欠陥がある……)
しかし試験官は彼のデッキに存在する穴を理解、それを突くためにドローカードをデュエルディスクに差し込んだ。
「手札を一枚捨て、魔法カード[ライトニング・ボルテックス]を発動! 相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!」
即ち、モンスターを破壊する手段は戦闘だけとは限らない。効果によって破壊される可能性もあるということだ。
「そうはいかない! チェーンして速攻魔法発動[我が身を盾に]! ライフを1500ポイント払って発動し、相手が発動した“フィールド上のモンスターを破壊する効果”を持つカードの発動を無効にし破壊する!」
しかしそれは三沢も承知の上、リバースカードを翻すと共にまたもピケルやビッグバンガールの前に躍り出た三沢は「たぁっ!」と掛け声を上げてジャンプ。ピケル達目掛けて降り注ぐ落雷をまさにその身を盾にして受け止めた。
「心配いらないさ、ピケル。君達を守るためならこの程度の傷軽いものだ……」LP8900→7400
(効果破壊もしっかり対策していたか……ならば、これならどうかな?)
またピケルにキメ顔サムズアップをしている三沢の奇行に対し、試験官はふっと笑みを浮かべて手札を一枚取る。
「私は岩石の巨兵を生贄に捧げ、[魔法剣士トランス]を召喚!」
魔法剣士トランス 攻撃力:2600
岩石の巨兵が光となって消え、その光が異空間へと繋ぐ扉となって異空間を旅する風変わりな魔法使いを呼び出した。その揃ったモンスター達を見て試験官が三沢を見る。
「君の防御コンボは素晴らしい。ピケルを大量展開して維持し、毎ターン回復に繋げる。そして回復と同時にビッグバンガールの効果でダメージを与える。まさに計算し尽くしたプレイングだと認めよう……だが、たった一つ大きな穴を埋め損ねている」
そこまで言って試験官が三沢を指差すのを合図に、魔法剣士トランスが剣を三沢に突きつけ、それに合わせて三体のブラッド・ヴォルスが斧を構える。
「ワンターンで回復される以上の戦闘ダメージを与えれば、いかにモンスターを守ったとしても君自身のライフが尽きれば君の負けということだ!」
魔法剣士トランスの攻撃力は2600、ブラッド・ヴォルス一体の攻撃力は1900、三体で5700。合計すれば8300。今まで通りモンスターを守るためにアストラルバリアでダイレクトアタックに変更した場合、三沢のライフ量では防ぎきれずに敗北する。
「守備表示ならダメージは受けないというのも通じないぞ。トラップ発動[メテオ・レイン]! このターン自分のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時にその守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える!」
さらに試験官の操るモンスターに貫通効果が付与される。これで仮にアストラルバリアを使わずにモンスターを盾にしたとしても大ダメージとモンスターの全滅は避けられない。
「ほんの少し戦術に甘い部分があったな。しかし素晴らしいコンボだった事は間違いない、負けたとしても何も悔やむ事はない……バトル! 魔法剣士トランスで白魔導士ピケルを攻撃!!」
試験官の指示を受け、魔法剣士トランスは詠唱を開始。その詠唱が終わった時彼の剣に魔力が纏われ、魔法剣を持ってトランスがピケルに斬りかかる。しかしその前に三沢が立ちはだかった。
「アストラルバリアの効果により、その攻撃を俺へのダイレクトアタックに変更する!」
「最後まで自分の戦術を貫くか! その意気やよし。ゆけ、魔法剣士トランス!」
三沢の姿に己の信じる戦術を貫く真のデュエリストの心を感じ、試験官がその意気を褒めると共にその思いをも込めたように輝く魔法剣が三沢を捉える。
「ぐううぅぅぅっ……」LP7400→6100
「なっ!?」
しかしその攻撃によるライフの減少がおかしい事を試験官は見逃さない。魔法剣士トランスの攻撃力2600でダイレクトアタックを受けたのに、1300しかダメージが入っていなかった。
だがそこで試験官は、三沢の場に一枚のカードが翻っている事に気づき、三沢もそれに気づいたのかこくりと一度頷いた。
「そう。俺はこのカードを発動していたのさ。トラップカード[ダメージ・ダイエット]! これにより俺がこのターン受けるダメージは半減する! さらに自分が戦闘ダメージを受けた時、トラップ発動[ダメージ・ゲート]! その時に受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つ、自分の墓地のモンスター一体を選択して特殊召喚する! 俺が受けた戦闘ダメージは1300。よって攻撃力1200の[黒魔導師クラン]を特殊召喚!」
黒魔導師クラン 守備力:0
「アームズ・ホール、またはダメージ・コンデンサーのコストか……!? く、だがせめてライフだけでも削らせてもらう! ゆけ、ブラッド・ヴォルス!!」
三沢の場に現れるのはこちらは兎の耳をかたどった帽子を被った、クールそうだがどこかピケルに似た雰囲気を見せる黒ずくめの少女。
そしてこのコンボによってこのターン決める事は出来なくなったがそれでも可能な限りライフを削ろうと、既に立ちはだかった状態で待機中の三沢目掛けてブラッド・ヴォルス三体が斬りかかる。
「ぐあああぁぁぁぁっ!!」LP6100→5150→4200→3250
「く……」
トランスの攻撃も含めて本来なら即死となる連続攻撃を受けても三沢は耐えきり、不敵な笑みを浮かべてみせる。その姿に試験官も唸り声を上げるが、やがて穏やかな笑みを見せた。
「ターンエンドだ。先ほどの発言は撤回しよう。穴のない、計算し尽くしたプレイングだ」
「ありがとうございます。では、俺のターン!」
試験官からの賞賛を受けて三沢は己のターンを宣言し、勢いよくカードをドローする。
「スタンバイフェイズにピケルの効果発動! 俺のフィールドのモンスターは五体! よって400×5、2000ポイントのライフを三回分回復する!」
[マスター、今傷を癒しますね]
「2000×3、6000ポイント俺のライフが回復!」LP3250→9250
ピケルが微笑んで俺に回復魔法をかけてくれる。ソリッドビジョンだから本当に斬られたわけでも痛みがあるわけではないが、それだけで斬られた痛みが消えていくような心地がする。
[はぁ、ホント気持ち悪いわねあんた……]
「ははは、手厳しいな」
やれやれと呆れたようにかぶりを振るクランに思わず苦笑を漏らしてしまう。だがこのコンボはまだ終わっていない。
「そして俺のライフが回復したことでビッグバンガールの効果! 相手に500×3、合計1500ポイントのダメージを与える! ビッグバン・シュート!!」
「く……」LP2000→500
三発の火球が相手にダメージを与えるが、まだ僅かにライフは残る。
だがしかし、既に勝利の方程式は完成している!
「クラン。次は君の番だ」
[はいはい分かってるわよ]
面倒くさそうにため息を吐くクラン、
「続けて、俺は黒魔導師クランの効果を発動する。自分のスタンバイフェイズ時、相手フィールド上に存在するモンスターの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える」
「私の場のモンスターは四体……」
「そう、1200ポイントのダメージを受けてもらう」
つかつかとクランが試験官の方に歩いていくと、鞭を振り上げて試験官目掛けて叩き付ける。
[悪いけどマスターの命令だからね。覚悟してもらうわよ!]
「ぐあああぁぁぁぁっ!!」LP500→0
ギンと目を研ぎ澄ませてそう言い、続けて三度鞭を振るって攻撃。少しばかり羨ましいと感じてしまったが、口に出せばクランから冷たい目で見られるしピケルが泣いてしまうから内緒だ。
なんにせよクランの一撃がトドメになって彼のライフは尽きる。調子に乗ったクランがおっーっほっほっほとお約束な高笑いを始め、ピケルが「やりましたー!」と歓声を上げているのを見ているとつい笑みが出てしまう。
「流石は受験番号1番。変なジェスチャーをしたり何かぶつぶつ呟いたり、変わったところも多いけど……」
「ああ。モンスターを守るために敢えてダイレクトアタックを受ける事を選択する豪快さ、その上で己のライフを必要以上に減らさない防御、そしてダイレクトアタックで戦闘ダメージが大きくなる事を見越したダメージ・コンデンサーやダメージ・ゲートによる展開。その全てを完璧に計算し尽くした合理的なデュエルだ」
「ピケル、クラン、ビッグバンガール。彼の使ったモンスターは全て攻撃力が低い、でもそれは逆に言えばそれらのカードでの特殊召喚条件を満たしやすいという意味にもなる。逆転の発想ね……」
観客の女子生徒と男子生徒がさっきの三沢のデュエルを分析して感想を述べ、試験官と握手をしている三沢を再び見下ろした。
「見事なデュエルだった。結果的に、私は最初から最後まで君の術中という感じだったな」
「ありがとうございます。でも一歩間違っていれば押し切られていましたから……まだまだ計算が甘いです」
「まだ上を目指そうという心意気は素晴らしいものだ。では、これで実技試験を終了する。結果発表を楽しみにしていなさい」
「はい。では失礼します」
実技試験が終わり、三沢は最後まで礼儀正しく一礼、試験会場であるデュエルアリーナを後にする。
それから遅刻してきた受験番号110番の実技試験デュエルがあったりしたのだが、それは割愛。実技試験全ての日程が終了し、三沢は「後は結果を待つのみ」と帰路につくのだった。
[よう、マスター]
帰り道、人気がないのを見計らったように何者かが声をかけてくる。いや、何者かと言うのも失礼か。
「どうした、ヒータ?」
[実技試験はピケルとクランに譲ってやったけどよ、デュエルアカデミアに行ったら今度はオレも使ってくれよな?]
[む~。ずるいですよヒータさん、あたしだってマスターに使ってほしいんですから~]
[ヒータもウィンもやめなさい、みっともない。新しい生活となる以上、やはり私みたいに冷静沈着、清く正しくいかなければ。そういうわけで私を使ってもらいます]
[ははは。エリアだって似たようなものじゃないか……マスター、君の知性ならボクを使いこなせるはずだ。どうだい?]
[[[アーウースー!!!]]]
「ははは、全く仕方ないな。デュエルアカデミアに行くまでに全員分のデッキを調整するから勘弁してくれ」
わいわいがやがやと騒がしくなるのは、俺の考案した風林火山をモチーフとした火・風・水・地のデッキに投入されている皆。そんな姿に俺はついついおかしくなってしまって、笑いながらそう答えていた。
[……ねえ、クランちゃん]
[なによ、ピケル?]
[マスター……
[知らないわよ、そんなの]
もっとも、三沢大地にはデュエルモンスターズの精霊を見る目も、声を聞く耳もないわけなのだが。
《キャラクター設定》
三沢大地
今回の話の主人公にして遊戯王GXの三沢大地の平行世界の似て非なる存在。別に転生者とかそういうのではない。
本作の三沢はピケル等一部のカードに対してオープンに愛情を持っており、そのあまりの愛情によってカードの精霊……の幻覚と幻聴が見聞きできるようにまでなってしまった。だがあくまで妄想であり本人にカードの精霊を認識する力はない。
しかしいつの間にかピケルとクランだけはカードの精霊が宿っており、三沢のあまりの愛と妄想力によって実は精霊が見えていないまま妄想のピケル及びクラン相手に会話しているのに、精霊のピケル及びクランと完璧に会話を成立させるというある意味とんでもない事をやっている。そのためピケルとクランは「
《後書き》
睦月江介先生の作品「【安価】安価で作ったデッキでデュエルアカデミア生活【安価】」での、三沢大地の新デッキの話題でピケルデッキを考えた時に思ったんです。
―――――
ふと思いついたけど、ピケル三体並べてビッグバンガールでキュアバーンの陣形を整えて、アストラルバリアを併用すれば
「マスターが身体を張ってピケルを守りながら、ピケルもマスターの体力を回復させつつ、ビッグバンガールが相手をバーンで焼き尽くす」
という男らしいデッキに仕上がるのでは?
―――――
と。(なおマジで感想に書きました。(笑))
で、感想に書いてから「あれ?これ一発ネタになるんじゃない?」と思って書きました。(笑)
睦月江介先生が【ピケルビートダウン】を投稿した時は冷や汗ダラダラでしたよ……あのアンケートからまさか本当にピケルを使ってくるなんて……。
いやまあこっちは【キュアバーン】ですし?三沢がピケルを使っている以外は違いますし?大丈夫なはずです。
まあそんなわけで、今回も一発ネタですから続きは期待しないでください。っていうかこんなので続き書けとか絶対無理です。(断言)
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。