滅国の魔女、御身の前に。   作:セパさん

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クライムとラナー様の心理戦

「どうしたのクライム?ゆっくり焦らず選んでいいのよ。」

 

「はい!申し訳ございません、しばしお待たせ致します!」

 

 クライムは全身から滝の様な汗を流しながら、テーブルの対面に座るラナー様の一挙手一投足……表情筋や目の運び、瞬きの回数や全身の筋肉の微弱な反応、果ては〝気の運用〟と呼ばれる意識の流れまでも読み取ろうとする。

 

 才能は無いが血反吐を吐くような努力の賜物で、【人間の戦士】としては中の上といった領域に……本物の小悪魔(人外)となり、ナザリック(化け物の巣窟)で修練を行う事で、更に一段上の高みに足を踏み入れたクライムだが、まだまだ修行不足であることを実感する。……護るべき主の御心ひとつ読み取れないなど、正に従者失格だ。

 

「これにします!」

 

 クライムはラナーが持つ2枚のカードの内、1枚を選んで内心祈りを捧げる気持ちでそのカードを見る。……スペードの8、何の変哲もないトランプの絵柄が、クライムには嘲笑する道化師のカードよりも不吉に見えた。

 

「そ、揃ってしま……揃いました。ラナー様。」

 

「あら、またジョーカーがわたしに残ってしまったわ。わたしが【罰ゲーム】ね。」

 

「いけませんラナー様!もう3度目になってしまいます!次はわたくしが!」

 

「ダ~メ。〝勝負で決まったこと〟なんだから結果は絶対よ。あーあ、次は勝てると思ったのに。」

 

 本日はラナー様が休暇を賜っており、それに合わせてクライムも修練を休み守護領域でラナー様と共に過ごしていた。ラナー様がご用意されていたのはクライムの知識では【賭博の道具】であるトランプと、【罰ゲーム】と書かれた様々なカードの入った白い箱。

 

 そしてクライムは【交互に相手の手札から1枚選び絵札を合わせていき、最後にジョーカーを持っている人が負け】というゲームでラナー様と勝負をすることとなり、望んでもいない3連勝を飾る事となってしまった。

 

 1度目の勝利で畏れ多くもラナー様に肩のマッサージをしていただき、2度目の勝利では〝10分間椅子に座り団扇で扇いで〟頂いた。間違っても従者が主に行わせるものではない。クライムは次こそは絶対に負けなければならないと、それこそ戦闘を行う心持でラナー様との〝勝負〟に挑んだのだが……。

 

「また負けちゃったわ。次はどんな【罰ゲーム】かしら。」

 

 またもクライムはこの単純にして究極の心理戦に〝勝って〟しまった。いや、思い通りにならなかったという意味ではこれ以上ない敗北を喫したと言える。ラナー様は少し拗ねた様子ながらも、楽し気な笑顔を浮かべ罰ゲームの内容が記されたカードの入っている白い箱に手を伸ばす。

 

 どうかラナー様のご負担にならない【カードが引かれますように】とクライムは祈りを捧げる。

 

「えっと……。【負けた人が勝った人に10分間ベッドの上でくすぐられる】ですって。」

 

 クライムは思わず卒倒しそうになる。ラナー様の玉体に手を触れる大罪は〝既に犯して〟しまっているが、何十・何百と重ねようがその畏れ多さが陰ることなどない。

 

「【罰ゲーム】なら仕方ないわね。じゃあクライム。遠慮せずに……。」

 

 そう言ってラナー様はベッドに移動し、休日故いつもよりも簡素なドレスをはだけさせ、その玉体の〝最低限〟だけを隠す姿となる。

 

「は、はい。ラナー様!!」

 

 クライムは〝これは負けられなかった自分に対しての罰だ〟〝固辞してはラナー様に恥をかかせてしまう〟と心の中で言い聞かせ、ラナー様の御身体に指を這わせる。

 

「ん、ぁあ。」

 

 畏れ多さが先行したためか、くすぐるというよりも、フェザータッチといった指の動きにラナー様はビクりと身体を震わせ、小さく嬌声をあげる。【罰ゲーム】の紙にはご丁寧に〝どこをくすぐるか〟まで指南が記されている。

 

 首筋から脇、横腹、大腿の付け根、太もも……。〝人をくすぐる〟なんてしたことのないクライムはそのままフェザータッチの要領でラナー様の身体に指を滑らせていく。そのたびラナー様は身体を大きくくねらせ、嬌声はどんどんと増していき、自らの指を噛み声を抑えようとしている。その姿にクライムの脳内は罪悪感と倒錯感と羞恥心に溢れ、自然と息が荒くなる。

 

 大腿の付け根をくすぐるとラナー様は電撃が走ったように身体を大きく仰け反らせた。〝イケナイ事〟をしているとしか思えない倒錯感と、〝ラナー様の玉体に触れるため、ドレスに自分の手を入れる〟という未経験の不敬な行為に対する畏れ多さがクライムの混乱に拍車をかける。

 

 これほど長い10分は初めてかもしれない。クライムは早く時が過ぎてくれないかと心から願い……。

 

 ジリリリリという刻み時計の音が鳴り響く。クライムは息も絶え絶えに、慌てふためきラナー様の玉体から指を離した。ラナー様は未だ呼吸が乱れている様子で、ベッドの上で深呼吸を行っている。そして大きく深呼吸を行い……。

 

「次こそは負けないわよ!さぁクライム。テーブルに戻りましょう。」

 

 〝まだこのゲームが続くのか……〟と内心絶望的な気持ちになりながら、〝次こそ絶対に負けなければならい!!〟と決意を新たにし、テーブルへ戻った。結果を言うと、次のゲームはクライムの気持ちが通じたのか、〝負ける〟事が出来た。

 

「やっと勝てたわ!じゃあクライムが罰ゲームね!」

 

 ラナー様は無邪気に勝利を喜んでいらっしゃる。クライムは安堵しながら【罰ゲーム】のカードが入った箱から一枚を引き……顔面から血の気を失った。

 

【負けた人が勝った人に10分間ベッドの上でくすぐられる】

 

 これほど大量にあるカードの中から二度連続で同じ内容を引くなどどれほどの確率だろう。クライムは声が出ず、恐る恐るラナー様へ引いたカードを見せる。

 

「あら、じゃあクライムにはさっきの仕返しをしなくちゃ。」

 

 無邪気に笑うラナー様の白魚のようなきめ細かな美しい十指が、まるで別の生物のように動く……いや、クライムには(うごめ)いているような錯覚に陥る。

 

「さぁクライム。ベッドに寝て頂戴。」

 

 誠に不敬な話であるが、ラナー様の悪戯じみた笑顔が、クライムにはまるで拷問官が浮かべる邪悪な嘲笑のように見えてしまった。そうしてクライムの地獄のような……枚挙に暇の無い失態の数々に、後に思い出すことも(はばか)られる10分間が始まろうとしていた。




・ラナー様視点を書いてみました。任意でお読みください。

https://syosetu.org/novel/255582/18.html
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