狂喜乱舞するブルーロックチームのメンバーを背景に、U20日本代表のメンバーは落ち込んでいるように外からは見えていた。ようやく2点差を追いついたのに、ダメ押し点を決められ残り時間も長くないこの状況は気落ちし戦意を喪失していてもおかしくない。
そして実際に気落ちしている選手もいた。
「下を向くな!! まだ試合時間は10分ぐらいある。まだまだ全然逆転できるぞ!!」
ベンチからピッチに足を踏み入れそうになる勢いで叫んだ閃道。残り時間10分程度で決められたダメ押し点を前に虚しく響きそうなその言葉だが糸師冴と王馬翔が揃ってから僅かな時間で同点まで漕ぎ着けたのは事実。
リスクを取るその覚悟をその場にいた全員が固めた。
「いくぜお前ら、この試合終了までの残り時間が俺たちに残された全てだ」
主将の一言にチームが応える。
窮地に追い込まれた時に人間は本性を見せる。圧倒的に不利な状況に追い込まれて、彼らは取り繕うことをやめた。cbの愛空がどんどんとラインを上げていくことで、その攻撃には今まで以上の迫力が生まれる。
それに負けじとブルーロック側も押し返していく。彼らは得点の影響で一種の高揚状態になっていた。アドレナリンをはじめとする脳内麻薬が分泌され、疲れていたことも忘れている。目の前まで迫った勝利を掴んで離さないように彼らも死に物狂いで走る。
先に異変が現れたのはブルーロックのメンバーだった。前半にはゴールを決め、中盤で組み立てや守備に奔走していた潔世一。チームに戦術的な選択肢を豊富に与えていたポリバレント性の強い烏旅人。この二人の足がついに止まり始めた。90分間走れるように彼らはかなりの強度のトレーニングを積んできている。そんな彼らの足が止まる理由は普段よりも走らされているという事も影響しているだろうが、糸師冴というモンスターと試合開始からここまでマッチアップし続けている事が大きいだろう。その上、烏に至っては王馬の相手までしているのだ、その疲労は推して知るべしである。
互いに中盤2枚のスタミナは限界、足が止まり陣形が乱れている状況はチャンスメイカー達の仕事場。
「速攻中盤区間快速!!」
「各席停車すっ飛ばし」
『玲王to凪経由ゴール前行き』
途中交代でスタミナに余裕のある玲王と凪のブルーロックでも三指に入るホットラインが開通した。ハイラインを敷いている愛空が素早く寄せて前を向かせないが、パスの受け手としてサイドバックが内側に入ってきていた。
彼も途中出場の乙夜は基本的にはサイドに張り出す位置をとっていたが、烏と潔の動きが鈍りだしてから内側に入ってくる偽サイドバックのようなポジショニングをとりだしていた。乙夜がボールを受け取ると前線の選手が一気にボールを引き出そうと走る。
糸師凛・士道・凪の三人の選択肢から最適解を導き出そうとして考えた一瞬の時間。死角からボールを刈り取られた。
糸師冴がしっかりとプレスバックをすることにより、背後から欧州レベルのプレスバックに乙夜がバランスを崩し、あっけなくボールをとられてしまう。
「残り時間少ねぇぞ、やれるな
「良いからよこせよ、夢を見せてやる」
動き出した王馬と糸師冴の二人だが、そのホットラインだけは通させないように玲王と烏が塞ぎにかかる。パスの出し所に意識が集中した瞬間、糸師冴が向かってくるドリブルを始めた。
唐突なプレイスタイルの変化に一瞬戸惑い、そのワンテンポの遅れを天才は逃さない。股抜きで抜き去られた烏の耳に糸師冴の言葉が聞こえた。
「あいつと俺の見せる景色がこれからの日本サッカーの未来だ。よく見てろ」
スピードを更に上げていき、追いつけない姿を後ろから見るしかない烏。彼の脳裏には糸師冴の姿に自分の姿が重なって見えた。
ユースでやっていたときはそこにいたのは間違いなく自分だったはずだ。それが今やこのざま、烏は悔しさに唇をかみしめることしかできなかった。
どこまでも合理的で美しさを感じるような緻密な崩し、個人技で組織をズタボロに切り裂いたその先に王馬がいた。とんでもない軌道のクロス、それにあわせようとする王馬は糸師冴を囮にしてセンターバックを躱してフリーになって居た。
もう決定的な場面、絶体絶命のピンチかと思われたが、その場所の危険性を感じ取った選手もいた。
「狙いはここだろ!!」
「主役にはさせねぇよ!!」
糸師凛と士道、この二人は王馬のオフザボールに反応し、糸師冴の狙いに反応していた。このピッチ上で王馬に唯一比肩できたストライカー達の決死の守備だが、彼らと王馬のレベル差はこの場面で頭一つ分の差を作れるほど違っていた。
士道を押さえ込み、糸師凛と競り合い、二対一の状況でも見事に頭で決めきって見せた。
両腕を広げながらカメラまで歩いて行き、日本代表のエンブレムを二度叩いて見せるゴールパフォーマンスを行なった。衝撃のハットトリックを見せつけた王馬に、会場中が揺れていると錯覚するほどの歓声が巻き起こった。
延長戦もPKもない試合の性質上、決着となるゴールを求める声が多かったが、結局王馬のこのゴールがこの試合最後のゴールになった。
主審の笛が鳴り響いたとき王馬だけが不完全燃焼のような顔を浮かべていたが、最後のゴール以降王馬はファウルでも止められておらず、決勝点が入らなかったのは運が良かっただけに過ぎないとその場にいる全員が理解していた。
スターダムにのし上がるときはいつだって一瞬だ。日本だけでなく世界で話題を集めていた王馬がフラッシュが焚かれ、眩しさしか感じない場所に入ってきた王馬が真ん中でユニフォームを見せた。
場所はスペイン、マドリード。スーツに身を包んだ王馬は15番の純白のユニフォームを両手に持っていた。
一通り写真を撮られた王馬に記者から質問が飛んだ。
「何故レ・アールを選ばれたのですか? その決め手になったことがあれば教えていただきたいのですが」
「この場所が世界で一番熱い場所だと感じたからです。ここでなら私は世界一のストライカーになれるそう信じています」
そう言って挑発的とも言える不適な笑みを浮かべた王馬、彼の行く末はどうなるのか? 彼の与えた大きな影響は日本サッカー界にどのような影響を及ぼしたのか、ここから先は誰も知らない。
これにて本作は終了となります。
後日談や、東京で遊んでるところは書くかもしれませんが、現時点では第二部を書く予定はございません。納得行かない方も多いかと思いますが、本作はここで終了となります。
ここまでご愛読ありがとうございました。
もし、王馬がレ・アールに移籍せずにブルーロックのメンバーとして次のステージに行くとしたらどの国がいいですか?
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