ギャルゲー主人公の義妹もわたしを好きだと言っています。これは両思いですね 作:二葉ベス
どうして。という考えをメッセージアプリから読み取る。
『今度の休日、遊びに行こ!』
というたった一行の文章なのに。私はどうしてこうも頭を悩ませるのか。
「今度は私ですか」
理由は簡単。だってあの浮気相手からのお誘いメールだったからだ。
私は机にスマホを置いてから、ゆっくりとソファーに身体を埋もれさせる。
お風呂上がりで気分がよかったのに、これでダダ下がりだ。
(結局、私はどっちに嫉妬をしているんだか)
姉さんにならまだ分かる。兄さんに取られたくない思いで必死だから。
兄さんかもしれない、という事実に私は頭を抱えたくなったのは他でもない。
そんなんじゃ、まるで。まるで……。
「なぁ、女同士が仲良くなるって不思議なことじゃないよな」
「ふえっ?!」
突如、兄さんの前触れがない変な言葉が襲い掛かる。
何事。そう思って振り向けば、彼はとても真剣なまなざしでスマホを見つめていた。
「分からないんだ。花奈と幸芽が仲良くしてるだけのなのに、こんなに心がざわつくなんて」
「……兄さん、何言ってるんですか?」
「いや。お前の兄さん、ここ最近よく分からなくなってさ」
よく分からないのはこっちだよ。
突然前髪を切ったと思ったら、さっぱりとした普通の男子高校生みたいな見た目になって。
今のほうがかなり素敵だとは思うが、それはそれとして謎の心変わりが恐ろしく感じてしまった。
「試しに検索をかけてみたら、そういう小説? みたいなのが見つかったんだ」
「へ、へー」
「分野としてはガールズラブって言うらしくてな」
兄さん、それ結構私の前で言わないほうがいいと思いますよ。
だって私が実際に付き合ってるのって、姉さんなわけでして。
実は知ってたりする? あの鈍感な兄さんが? ありえないけど、絶対とは言えない。
だからとりあえずちらーっと聞いてみる。
「兄さん、私たちがガールズラブしてるとか思ってるんですか?」
「んなわけないだろ。お前らのはラブじゃなくてライクだと思うしな」
よかった、兄さんが鈍感で。
普段は残念がる鈍感さ加減だけど、今だけは兄に感謝しなくてはならない。
ありがとう兄さん。できれば私の気持ちを察してほしいです。
「まぁ、ラブでも俺はいいかなと思い始めてるけど」
「……熱でもあるんですか」
「いやいや、そういうのじゃないんだよ」
だったらどういうのなんですか。
ガールズラブにお熱なのは変わらないと思うし、なんだったら拗らせたオタクみたいなことを言っている。
兄さんが好きだったのって姉さんじゃないんですか。
「ただ、俺より幸芽のほうが花奈を幸せにできるんじゃないかって」
「本当に。いや、本当になに言ってるんですか」
それはよくわかる。
そう彼は言うけど、さらに言葉は続くらしい。
「だがな。胸の奥に眠る何かが、こう……なんというか。あるだろ、興奮するみたいなの」
「……つまり、兄さんは私たちで興奮してると?」
「そういうのじゃないんだけど、なんか……。なんて言えばいいんだろうな、これ」
そんなこと言われたって、私にも分かんないですよ!
わけがわからない情動の電波を受け取った兄さんは、どうやら宇宙人になってしまったのだろう。
確かに私の知り合いにも女の子同士で付き合ってるー、みたいな人はいるのだけど。だからって私と姉さんがそういう関係になるとか、絶対あり得ないですし。
――本当に?
いやいや、本当ですよ本当。
私が好きなのは兄さんなんですから。
「へー、こういうのを百合って言うのか」
私が好きな兄さんが、どうしてかこうなってしまったのか。
それもこれも姉さんのせいだ。姉さんが記憶喪失にならなければ!
(ってやつあたりしても意味ないか)
思えばそこから歯車が狂い始めていた。
あのボールがなければ。姉さんが超人的な速度で避けていれば。
あり得るはずもないイフを並べて、捨て去る。
「はぁ……、早く寝よ」
夜の間ずっと姉さんのことを考えていたけれど、先ほど来たメッセージの返答はまだ見つかっていない。
どうしようかな。断りたいけど、姉さんの真意も知りたいし。
あー、どうにかなりそうだ。って気持ちがループループする。
後半はずっと羊を数えて、そして翌朝がやってきた。
「ふあぁ……」
「眠そうだな」
「まぁ。あはは」
寝れなかった。姉さんのことが、昨晩のメールが気になって夜も眠れない。
うぅううううう!!! 姉さんのせいで私の私生活までズタボロですよ!
「おはよー! 今日の朝ご飯なに?」
「……姉さんだけ食パンです」
「わたし、だけ?」
「姉さんだけ」
こういうのは絶対よくないのだけど、それはそれとしてこの人には復讐したかった。
なので朝食はトーストした食パンではなく、生食。
袋から取り出したまんまの角食をお皿において、そのまま渡す。
なんという嫌な女か、私は。
「ジャム塗っていい?」
「はい、イチゴジャム」
「ありがと! わたしの好み知ってるねぇ!」
別にそんなものでしょう。毎朝食パンには必ずイチゴジャムを付けていれば、誰だってわかる。
ビンを渡して、私も朝ご飯を食べ始める。
が、そうは問屋が卸さないのが花奈姉さんだ。
「ビンの蓋が開かない……」
なんですか。そんなにこっちを見ても何もしてあげませんからね。
数秒見つめあって、仕方ないな。とため息を吐き出す。
キッチンからゴム手袋を持ってきて、ビンの蓋に巻き付けてひねる。
これはお母さんから習った豆知識。ゴムで開けれるらしいので、開かないときは大抵こうしていた。
「おぉ、開いた! ありがと、幸芽ちゃん!」
「分かりましたから、早く食べてください」
まったく、世話の焼ける姉さんだこと。
パタパタとキッチンとダイニングを往復し、再度トーストを口に運ぶ。
「……やっぱりお似合いじゃねぇか」
「なにか言った?」
「お似合いだって思ってな!」
「兄さん……っ!」
今のおせっかいのどこがお似合いだっていうのやら。
私がいつもやってることでしょうに。
テレビから今日の天気が晴れであることを確認しつつ、太陽のように赤面した姉さんにもう一つため息。
なんですか。そんな風にされたら、私だってわずかに照れてしまうじゃないですか、まったく。