ギャルゲー主人公の義妹もわたしを好きだと言っています。これは両思いですね   作:二葉ベス

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第42話:お墓参りの罪と罰

 魂はどこにあり、どこへ行くのだろうか。

 死とは、いったい何なのか。

 一度死んでも、分からないことが多い。

 だから、こうしてお盆という機会にお墓参りに行くのだろう。

 

「姉さん、清木家のお墓ってどこにあるか知ってるんですか?」

「うん。この前お母さんから聞いた」

 

 便宜上母という言葉を使う。

 実際は『わたし』にとっての母ではないものの、花奈さんの母であることは確かだ。

 他人行儀になってしまったけど、聞き出すことには成功した。

 

「幸芽ちゃん、これでいいの?」

「はい。姉さんは、これが好きでしたから」

 

 好きって、それ和菓子だけど。

 花奈さん、結構渋い趣味をお持ちのようだ。

 

 ざっざっと、砂利道を歩く。正直、緊張はしていた。

 なんせわたしが魂を上書きしたせいで、花奈さんはどこかに行ってしまったのだから。

 この選択が果たしていいものなのかは分からない。

 ある意味では、花奈さんを殺したのは紛れもなくわたしなのだから。

 

「姉さん、ちょっと落ち込んでますか?」

「えぇ? そんなことないよ」

「ホント、姉さんはよく嘘をつきますよね」

「……ごめんね」

 

 白い肌が、わたしの手にそっと添えられる。

 さすがに幸芽ちゃんにはお見通しか。

 きゅっと握り返して、わたしは心の中の不安を幸芽ちゃんへとぶつける。

 

「花奈さん、わたしが殺したかもしれないから」

「……なんとなく、それは」

 

 それもそうか。『わたし』という中身を看破したなら、いずれその真実に気付くことだろう。

 

「ごめんね、花奈さんを殺しちゃって」

 

 わたしにとっては赤の他人。

 だけど幸芽ちゃんにとっては大切な幼馴染で。

 罪の意識がないと言えば嘘になる。というかそんな意識しかない。

 

 わたしがいなければ。

 元はと言えばカミサマのせいだけど、それはそれとしてわたしの中に不の感情が渦巻いていた。

 

「だったら……」

 

 ぽつり。そんな言葉を口から吐き出して、繋ぐ手の力が強まる。

 

「あなたはちゃんと生きてください。罪の意識があるなら、なおのこと」

 

 真っ直ぐで、力強くわたしをその目で見てくる。

 そんな愛情も感じる彼女の瞳はわたしを嬉しくさせる。

 許されてはいない。けれど、今いるのはあなただ。そう言っているみたいで。

 

「ん。ここかな」

 

 清木家のお墓。丁寧に手入れされているのだろう。綺麗だ。

 花奈さんも、このぐらい綺麗だったのかな。

 

「じゃあ早速準備しよっか」

「わたし、手順とか分からないんですけど」

「大丈夫、わたしに任せて」

 

 わたしもネットで手に入れた知識だけどもね。

 お花をお供えして、彩りを添える。

 意味はあるらしいけど、そこまでは書いてなかったから、ただの行為だけだ。

 でも結局は大切に思う心があれば、いいという。

 

「えっと、あとは」

「お水かけるんでしたっけ?」

「そうそう。夏だし、暑いだろうしね」

 

 この地域は都会と比べて涼しいものの、夏なんだ。それでも暑い。

 桶から浄水を頭の方からかけてあげる。

 

「姉さん、これで少しは涼しくなりましたか?」

「うん、ありがとね」

「……別にあなたに言ったわけではないんですけど」

「あ。つい癖で」

 

 てへぺろ、と言わんばかりに舌を出すわたしに、やれやれと肩をすくめる。

 幸芽ちゃんから姉さんと呼ばれることに慣れすぎていて、自分のことだと思っちゃったんだもん。

 

「あとはお供え。ここに和菓子置いて」

「はい」

 

 やがてそれらしく出来上がったお墓の前で、最後にお線香をあげる。

 煙が付いたお線香は、すーっと白い煙が上に上がっていく。

 まるで、魂が天国に送られるような錯覚。

 

「それで合掌だって」

「はい」

 

 それは、何を考えていたのだろうか。

 目を閉じて、ただただ無言で幸芽ちゃんと物言わぬお墓は向き合う。

 気になる。気になりはするけれど、聞いてしまうようなものではないと思っている。

 二人だけの空間。関係。

 それはわたしと幸芽ちゃんと同じように、花奈さんと幸芽ちゃんも同じこと。

 

「終わりましたよ」

「うん。いいの、あれだけで」

「あなたこそ、言いたいことがあるんじゃないんですか?」

「あはは、やっぱり幸芽ちゃんには敵わないや」

 

 少しスカートを引っ張ってしゃがみ、手を合わせる。

 

「はじめまして、わたしは『春日井希美』って言います」

 

 久々に口に出した本名で自己紹介をする。

 幸芽ちゃんの顔は見ていないけれど、きっと驚いているだろうな。

 

「僭越ながら、わたしは今の花奈さんをやってます。ちゃんとできているかは、分からないですけどね」

 

 あはは、と笑って再び向き合う。

 

「初めに、ごめんなさい。わたしが花奈さんの身体を奪って、わたしのために動かしちゃって。でも幸芽ちゃんも涼介さんも元気でやってますよ。だから安心してください、ちゃんとやれてますから」

 

 そうやって、まるで自分に言い聞かされているみたいだ。

 落ち込んでいるわたしの肩に、幸芽ちゃんの手が伸びてくる。

 

「大丈夫ですよ。私がいますから」

 

 その手がほっぺたを撫でると……。

 

「いたたたたたた!!!!」

 

 つねられた。痛い。

 

「な、なにするの!?」

「姉さんも私も、ちゃんとなんとかしてますから」

 

 ――ですから、安心して眠ってください。

 

 そんな言葉を耳にして、心が落ち着く。

 つねっていた手を掴んで、もう一度頬にすり寄せる。

 

「ん、ありがとう」

「別に、姉さんのためではありませんから」

「あはは。それでも嬉しいよ、幸芽ちゃん」

 

 心よりの感謝と、愛情を。

 頬に柔らかな肌を感じながら、わたしたちはその場で幸せを噛みしめるのだった。


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