ギャルゲー主人公の義妹もわたしを好きだと言っています。これは両思いですね   作:二葉ベス

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第51話:『わたし』の宝物

 誕生日を最近祝ってもらったことはない。

 二十六歳にもなれば大抵そうなってしまうわけで。

 だからその日はうろ覚えだったけど、確か今日だった気がする。

 

「どこを回りましょうか」

「幸芽ちゃんと一緒なら、どこでも!」

「じゃあまずオカ研の占いの館にでも行ってみますか?」

 

 占いかぁ。生前でもやったことはないぐらいには縁がなかった。

 悩むことはあっても、寝て起きれば忘れてしまうし、朝の占いコーナーで一喜一憂するような程度で、本格的な水晶なりタロットなりは見たことがない。

 故に興味があったが、行くほどのことでも。みたいな状態が続いていたのだ。

 どんなものだろうか。年甲斐もなくワクワクとしながら、わたしたちはカーテンの向こう側へと消えていく。

 

「いろいろメニュー? みたいなのがありますね」

「無難にタロット? 水晶もどんな感じかは気になるかも」

 

 姓名判断に手相占い。いろいろある。ありすぎてよく分からない。

 

「とりあえず姓名判断かな」

「ちなみにどっちのお名前で?」

「花奈さんの方だよ、さすがに」

 

 少しむくれつつ、わたしたちは流れに身を任せるが如く、姓名判断の場所へと案内される。

 いかにも、な胡散臭い女性が現れた。

 

「ムムッ! 匂いますねぇ……」

「もしかしてお菓子の匂い?」

「いえ、そういう意味ではなく。単に怪しいというアレですね。はい」

 

 なんだ、言ってみただけのタイプか。

 てっきり自称カミサマと繋がっているわたしだから、なんかこう。波動みたいなものがあって、それがわたしからにじみ出ているものかと。

 ほら、オカルト研究会的には、わたしの存在なんて宝物そのものだし。

 

 指示されたとおりまずは自分の名前を紙の上に書いていく。

 ここはふざけるところではないので、ちゃんと書いておいた。春日井希美って。

 

「ね、姉さん?!」

「あっ」

 

 本名のほう書いちゃった。

 

「ほうほう、春日井希美さん……。ってあなた清木さんですよね?」

「あっ、えっと……。そ、そう! わたしの友達に頼まれて! 出し物回るだけで時間かかるーって大慌てで巡っちゃったから!」

「そ、そうなんです! まったくあの人ったら」

 

 そうか。などと納得した占い師は、手にとった紙をジロジロ。

 しばらく考えるように指を空中でちねらせながら見ていると、やがてペンを一本取り出して、スラスラと文字を書き始める。

 どうやら占いの結果が出たように見える。

 

「この方、春日井さんでしたか。今日誕生日なんじゃないですか?」

「え?! は、はい。そうです」

 

 文字だけでそんな事がわかるのか?

 幸芽ちゃんが隣で少し目をまんまるとしているが、それは置いておく。

 

「何故でしょうね。この人はそれ以外のことが見えづらい」

「え、どういうこと?」

「なんというか、ふわふわしているんですよ。存在みたいなものが」

「あ、あはは、なんでだろうねぇ」

 

 存在がふわふわしているか。

 どうしよう、心当たりしかない。

 わたしの肉体、というものは実際には存在していない。

 花奈さんの身体を間借りしているから成立しているのだ。そこには定着していない魂しかいない。

 

「まぁ、でも光明も見えます」

「え?」

「これから幸せな毎日を送れるだろう、と見えますね」

「……そっか」

 

 なら。その幸せは誰からもたらされるものなのだろうか。

 そう考えた時に、ちらりと横の幸芽ちゃんが目に入る。

 太陽の木漏れ日。冬の日に、ふと窓の隙間から差し込んだ暖かな熱。わたしを愛してくれる笑顔。

 この子のおかげだ。この子のおかげで、全部全部今の自分に繋がったんだ。

 わたしは寄りかかるように幸芽ちゃんの肩を押せば、すかさず押し返してくる。

 

「あー、えっと。友達の話なんですよね?」

「あ! そ、そうなんだよ! 後で伝えておくね!」

「じゃ、お代」

 

 出ていくものはきっちり取り立てる。そんな商売魂を感じる。

 わたしは少々高いが五百円のワンコインを渡して、その場を後にした。

 

「……落ち込んでます?」

「なにが?」

「ふわふわしてるー、みたいなこと言われて」

 

 流石に心配してくれたのであろう。

 すべて見透かしていた幸芽ちゃんは不安そうな表情でわたしの顔を覗き込んでくる。

 まったく、心配性だなぁ。幸芽ちゃんも。

 

「大丈夫だよ。そんなに気にしてない」

 

 眉をハの字にして少しだけで困ったような顔をする。

 でももう半年は付き合っている彼女の愛想笑いだ。そのぐらいは一瞬で見抜いてくる。

 

「姉さんの大丈夫ほど心配なものはありません」

「それもそっか」

 

 自分でもわかってた。

 見知らぬ土地にやってきて、一人ぼっちで寂しいわたしは幸芽ちゃんや涼介さん、檸檬さんのおかげでその『寂しい』を誤魔化してきた。

 でも。でもね。違うんだよ。今は、ぜんぜん違う。

 

「でも本当に大丈夫なんだ。最近ずっと思ってる」

「……ちょっと休憩しましょうか?」

「お心遣い痛み入る」

「なんですかその口調」

 

 あははと、少し笑いながらしきりに今までのことを思い出していた。

 うん、話そう。わたしの思ってることを。わたしの大切な宝物の話を。




次回、最終話です
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