ビルド廻戦   作:EGO

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更新が遅れて申し訳ない。最近土日も忙しいもので。
しかも話も短めで申し訳ないです。





2.

 あれから色々な事があった。

 宿儺の器になってしまった虎杖に秘匿死刑が決まったり、その秘匿死刑に五条の我儘で執行猶予がついたり、そのまま虎杖が呪術高専への転入が決まったり。

 

「……なんか随分と聞き覚えのある展開になったな」

 

「しゃけ」

 

「だな」

 

「だよなぁ」

 

 呪術高専東京校。学生寮の貴丈の自室にて。

 任務終わりにこれまた特大の爆弾を抱えて帰ってきた貴丈の説明に、真希、狗巻、パンダの三人がお土産の喜久福をもしゃもしゃと口にしながら呟き、三人の視線を受け止める貴丈もまた溜め息を吐いた。

 ベッドの上であぐらをかき、枕を膝の上に乗せながら頬杖をついてリラックスしていた貴丈は、どこか懐かしむような表情を浮かべる。

 

「五条先生に拾われて、秘匿死刑で死にかけて、これまた五条先生に助けられて。虎杖は苦労しそうだな」

 

 これから多くの困難に立ち向かうだろう後輩の姿を夢想してか、思わず苦笑を漏らす貴丈だが、対する三人の視線は冷ややかなもの。

 貴丈の話を聞く限りでは悪い奴ではない。それは間違いないが、宿儺の指を喰った──文字通りいつ宿儺の受肉体になってもおかしくない危険物を前に警戒しないのはただの馬鹿だ。

 何より一番苦労してるのはお前だろと、他人の心配をしている貴丈を三人は誰よりも心配していた。

 今回は貴丈的には外れだったようだが、家族を祓う(殺す)事なく帰ってきた為か、心なしか表情が明るいのがせめてもの救いだ。

 

「つっても次は学長との面談だろうし、それで弾かれたら終わりだけどな」

 

「正道は厳しいからな」

 

 ぽふぽふと枕を叩きながら「あの人見た目は怖いからなぁ」と去年の自分の回答を思い出しつつ呟いた言葉に、パンダは顎を摩りながら頷いた。

 万が一にも学長との面談で不合格となれば、虎杖はそのまま死刑執行だろう。

 

「命懸けの二者面談か。嫌だ嫌だ」

 

「「「…………」」」

 

 だから、それをお前が言うのかと三人の心が一つになった。

 現状を聞く限り、虎杖なる少年は多少の違いはあれど貴丈の後追い状態だ。宿儺の指という爆弾を呑み込んだ以上、下手をしなくても貴丈よりも状況は悪いかもしれない。

 そんな虎杖を誰よりも心配しているのが、同じく執行猶予状態の貴丈なのはなんのギャグだろうか。

 

「まあ、オマエがそこまで言うなら上手くやるだろ」

 

 真希はとりあえず本人に会ってみないことにはと思考をぶん投げながら頭を掻いた。

 宿儺の器。言葉だけ聞けば危険だし、警戒するに越した事はない。だが巻き込まれるがまま中途半端に呪術師になろうとする手合いは、学長が間違いなく弾く。

 

「今は悟と恵と一緒にいんだよな?」

 

「ああ。明日になったら来んじゃねえかな。先に帰っていいって言われたから帰ってきただけだし」

 

「明日か。……チッ!私達全員任務だ」

 

 貴丈の言葉に真希が舌を弾き、狗巻とパンダも残念そうに肩を落とした。

 

「入学できれば嫌でも会うんだし、その時ゆっくり話せばいいだろ」

 

 笑みと共にそう告げた貴丈は喜久福を口に運び、それを頬張った。

 

「そうだな〜。まあ、貴丈をヤンチャにした奴がもう一人増えるって思えば気も楽か」

 

「それもそうだな」

 

「しゃけ!」

 

 パンダが伸びをしながら気だるげに呟いた言葉に真希がニヤリと笑いながら貴丈に目をやり、狗巻が首肯した。

 

「しれっと酷いこと言うよな。俺ってそんなに問題児?」

 

「優等生だって言ったんだよ。馬鹿真面目で、馬鹿正直だってな」

 

「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!呪術師歴一年で特級ならむしろ天才だろうが!?」

 

 自分を指差しながら小首を傾げる貴丈に真希のツッコミが入り、それに対して貴丈が反論する。

 そのまま四人はわいわいがやがやと騒ぎ始め、最終的に貴丈コーヒーによってパンダと狗巻が黙らされ、真希が余計に機嫌をよくする。そんないつもの光景の中、貴丈はただただ楽しそうに笑いながら目を細めた。

 また一年騒がしくなりそうだなぁと呑気に欠伸を噛み殺した貴丈は、残り半分となった喜久福を口に放り込んだ。

 そしてこのやり取りの翌日には予定通りに虎杖は呪術高専に入学を果たす事になる。

 更にそんな虎杖入学から一月足らずで虎杖死亡の報が貴丈を頭を殴りつけるのだった。

 

 

 

 

 

 貴丈は走っていた。

 場所は呪術高専の地下に広がる遺体安置所。任務先で亡くなった呪術師の遺体を回収できた場合に運び込まれる、貴丈からしてもあまり縁のない場所の一つだ。

 そんな廊下を頰に汗を垂らしながら焦りを隠そうともせずにひた走り、光が漏れている部屋に勢いのままに突入。

 

「五条先生、一体何があったんですか!?」

 

「や、貴丈。どうもこうもないよ。今から上の連中皆殺しにしようかなって話をしてたんだ」

 

 そのままいの一番に視界に飛び込んできた五条に質問を投げれば、静かにブチギレている五条が軽く手を挙げるだけで貴丈には一瞥もくれずにそう返す。

 

「僕と貴丈を適当な任務で遠ざけた挙句、特級の相手をさせる。上の連中もなかなかエグいこと考えるよね〜」

 

 顎に手をやり、うんうんと意味深に頷きながらそう呟いた五条は、次の瞬間には全身から呪力を溢れさせながら貴丈に目を向けた。

 

「誰が考えて、誰がゴーサインを出したのか、探すのも面倒だし上の連中皆殺しにしにいかない?」

 

「それ首がすげ変わるだけで意味がないって言ったの先生でしょ!?」

 

 そんな五条の怒気にも怯まず、貴丈は声を張り上げた。

 確かに呪術総監部は腐っている。もうどうしようもない程に腐り果て、保身を考えるばかりで変わろうとしない老害ばかりだ。

 五条と自分なら、彼らを相手にしても不足ない。というか自分一人でも事足りる。だが彼らを殺したところで、彼らの意思と地位を継ぐ誰かがその席に座るだけで意味がない。

 優秀な呪術師を育て、その席を奪い取る事で組織を一新せんとするのが五条の方針であり、教師をしている理由だ。

 

「そうだけどさ〜、流石に今回は、ねぇ?」

 

「我慢してください。伊地知さんが怖がってますよ」

 

 そうして互いに呪力を滲ませながら睨み合う中、五条の脇で怯える子鹿のようにプルプルと震えている補助監督、伊地知潔高に目を向けた。

 急に話題で出た伊地知が「え!?」と驚愕の声をあげる中、五条は小さく唸った。

 

「伊地知は弱いからね。それに、今回の件で悠仁達を連れ出したのもこいつだし」

 

「そうなんですか?」

 

「は、はい!いえ、派遣が決まった時点では特級が相手だとはまさか……!」

 

「伊地知さんにも被害者のように聞こえますけど……」

 

 汗をダラダラと流し、ズレた眼鏡の位置を直しながら弁明を口にする伊地知。

 虎杖が相手だったのは特級に区分される呪霊だったそうだ。呪術素人が、いいや下手な呪術師では相手取れない強敵。本来なら自分や五条が出る幕ではあるが、何故かそれぞれ遠出の任務を言い渡されていた二人は対応できず、手が空いていた呪術高専一年が任務に就くことになった。

 貴丈もまた彼も利用された側の人間だと擁護するが、五条の機嫌が治る気配はない。

 深い溜め息を吐いた貴丈は布を被せられた虎杖の遺体に近づき、そっと布を退かして顔を確認した。

 ぐっすりと寝ているようにも見える死に顔は穏やかではあるが、二度と目を覚さない。

 会話したのはほんの僅か。それでもこれから話す時間はいくらでもあるだろうと、そんな風に考えていた自分が情けない。

 そして何より、そんな顔見知り程度とはいえ後輩になった人物の死に、割と何も思わない自分が怖い。

 

「俺もだいぶ擦れちまったって事かな……」

 

 家族という最愛を失い続けている弊害か、あるいは自覚もないままにとっくに壊れているのか、それはもう自分にすら判断できない。

 だがこうして人の死を目の前にしても、心が僅かも揺るがないのだ。

 

「貴丈……」

 

「桐生くん……」

 

 そんな彼の独り言が、室内が静か過ぎるが故に聞こえてしまった五条と伊地知は、彼の背中に複雑な視線を向けた。

 去年までは一般人だった筈なのに、今では特級呪術師。そして呪術師になったとしても安らぎも得られない生き地獄。その中を生きる青年の背中は、あまりにも小さい。

 

「それで、話は終わった?」

 

 嫌な静寂が支配する室内に響くのは女性の声だった。

 三人が揃って目を向けた先にいたのは、長い髪と濃い隈、右目に泣きぼくろを持つ気怠げな雰囲気の女性。

 白衣に身を包んだその人の名は家入硝子。五条の同級生であり、『反転術式』による呪力による治療を得意とする大半貴重な人材だ。

 彼女は「隣の部屋まで聞こえてたよ」と五条と貴丈に目を向け、次いで虎杖に目を向けた。

 

「好きに解剖(バラ)していいよね」

 

「役立てろよ」

 

「役立てるよ。誰に言ってんの」

 

 ゴム手袋に手を入れ、その他もろもろ貴丈からすれば覚えのない道具が次々と用意されていく中、不意に視線を感じた。

 その視線の主人を探るようにゆっくりと視線を巡らせ、たどり着いたのは虎杖の顔。

 

「…………ッ」

 

「…………ご冥福を」

 

 ばっちりと虎杖と目が合った貴丈は一度合掌すると、そのまま手を添えて瞼を下ろしてやった。きっと何かの拍子に瞼があがってしまったか、家入さんが降ろし忘れたんだろうなと、そんな誰もが首を傾げる言い訳を胸中で呟きながら。

 すっと手をどかし、ちゃんと目を閉じれただろうかと確認するが、

 

「……ッ」

 

 くわっ!と音を立てんばかりの勢いで虎杖の瞼が上がり、再び目が合った。

 貴丈は再び瞼を下ろさせ、再び冥福を祈りながら手を退かすが、

 

「ッ」

 

 無言の虎杖は再度目を開け、貴丈をじっと見つめる。

 そんな彼の視線から逃れるように再び瞼を下そうとする貴丈だが、

 

「いや、何回やんの!?俺生きてんだけど!?」

 

 虎杖が勢いよく体を起こし、貴丈にツッコミを入れた。

 貴丈の背後では伊地知が「生き返った!?」と悲鳴をあげ、五条が爆笑し、家入が残念と肩を落とす。

 

「……虎杖、え、生き返った!?」

 

「お、おす!なんかわかんねえけど、生き返りました!」

 

 目を見開き、間の抜けた顔になる貴丈に、虎杖はしゅび!と何故か勢いよく敬礼しながら報告する。

 

「報告書書き直さないと」

 

 家入が面倒だという感情を隠そうともせずに溜め息を吐くと、五条が「それはちょい待ち」と手で制した。

 

「貴丈、ちょっと集合」

 

 そのまま突き出した手をくいくいと動かして手招きし、貴丈を召集。

 五条、貴丈、家入、伊地知の四人は顔を突き合わせ、虎杖には内密な会話を開始。

 

「で、報告しないの?」

 

「うん、しない。また狙われる前に悠仁には今のうちに最低限の力をつけてもらう」

 

「か、匿うんですか!?」

 

「そんな驚くなよ。交流会までには復学させるから」

 

「京都校との姉妹校交流会。確かに復学させるにはいいタイミングだとは思いますけど、先生がこそこそ鍛えるんですか?時間あります?」

 

「そこは貴丈にも手伝ってもらうから、そのつもりでね」

 

「………え?」

 

 家入と五条が虎杖生存の件を偽装するむねを確定させ、伊地知の言葉に大体の期限を設け、完全に巻き込まれる形となった貴丈が神妙な面持ちで間の抜けた声を漏らした。

 

「俺もそれなりに忙しいんですけど……?」

 

「特級だからね」

 

「俺、あんまり人に教えるの得意じゃないですよ?」

 

「呪術に関しての経験はまだまだだしね」

 

「それなのに、俺が虎杖を鍛えるんですか?」

 

「僕も手伝う、というか僕の手伝いを頼むだけだから。そこは安心してね」

 

 自信がなさそうにボソボソと呟くばかりの言葉に五条は楽しそうに笑いながら返していく。

 逃げ場は既にない。いいや、この場に居合わせた時点で共犯になるのは確定だ。逃げようがない。

 

「さて、まずは何から始めようか。呪力の制御(コントロール)と呪術の知識を叩き込むのは当然として」

 

「あとは組み手とか、武器を使うならそれに合わせた心得も」

 

「いいね、盛り上がってきたじゃない」

 

 五条が教師としてあれこれ言い始め、虎杖に関する偽装の共犯になると腹を決めた貴丈が去年の自分にしてもらった事を思い出しながらいくつか案をあげると、五条は楽しそうに笑いながら彼の肩を叩いた。

 

「さ、これから忙しくなるぞ〜!伊地知も手伝ってよ、これ命令ね」

 

「あ、はい。やっぱりそうなりますよね……」

 

 やる気満々といった様子で肩を回し、いつになく元気そうな五条の言葉に伊地知は顔色を青くし、胃を押さえながら溜め息を吐く。

 

「あ、あの〜」

 

「とりあえず部屋はどうします?そんな都合のいい空き部屋なんかありましたっけ?」

 

「そこは任せなさいっと。使われてない物置部屋なんて五万とあるし、そこを間借りしようか」

 

「虎杖の部屋から持ち出す──訳にはいかないか。適当に日用品は用意するとして……」

 

「あ、あの……!!服貰ってもいいですかね!?」

 

 そしてあれやこれやと話が進む中、そんな二人の会話に割って入ったのは虎杖だ。

 何事と視線を向けてみれば、そこには遺体として裸に剥かれ、寒そうに身を震わせている虎杖の姿があった。

 季節は夏とはいえここは地下。確かに寒いには寒い。そんな中に全裸で放置は、流石の虎杖にも堪えるものがあるのだろう。

 

「とりあえず、服を用意しましょうか。動きやすいやつ」

 

「そだね〜」

 

 虎杖強化計画第一段階。

 誰にも気づかれずに虎杖の衣食住を確保する。

 ある意味で大変な仕事が、唐突に降りかかるのだった。

 

 




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