ビルド廻戦   作:EGO

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8.

 貴丈、虎杖、七海、吉野、真人、そしてライトスマッシュ。

 呪術師四人と呪霊二体。映画館での呪殺事件から始まった一連の騒動は、ついに役者が揃うことで終息へと向かう。

 勝つのは人か、呪霊か。決着をつけるべく吉野以外の四者がその場を飛び出していった。

 あまりの初速に目を見張り、ついていけない吉野を置き去りにして始まるのは、七海、虎杖対ライトスマッシュ。ビルド対真人の二つの決戦。

 雷の如く変容した呪力を振るい、砕けた電球というその姿通りに呪力を漏電させ、それに指向性を与えて迫る二人に向けて放つが、二人は左右に散ることでそれを回避。

 二人がいた場所に雷撃が炸裂し、校庭を深々と抉る。

 当たるとまずいと理解するのに時間はいらず、けれど二人は怯むことなくライトスマッシュの懐へ。

 七海の鉈を受けた腕が、彼の術式により上乗せされた圧倒的なまでの威力で千切れ、その隙にガラ空きになった横腹に虎杖の蹴りが撃ち込まれる。

 凄まじい快音と共に金属が砕けるような高音の異音が響き、ライトスマッシュが悲鳴をあげる。

 蹴りを振り抜いた勢いのままに体を回転させた虎杖は、地面に両脚の踵をめり込ませて急停止。腰の回転によって勢いを殺すことなく拳に力を流し、相手が体勢を立て直すよりも早く拳を放つ。

 再びの快音。人間でいう鳩尾に拳がめり込んだライトスマッシュは割れた隙間から濁った色の血を吐き出し、呪力を揺らがせる。

 その隙に脳天に叩き込まれる鉈の一撃。凄まじい破砕音と共にライトスマッシュの装甲の一部が砕け、中身の配線──血管の名残だろうそれを溢れさせた。

 虎杖がほんの一瞬の嫌悪感を抱くが、そんなもの今更だとすぐさま割り切ってその配線を踏み砕きながら踏み込み、配線の溢す亀裂に拳を叩き込んだ。

 拳をめり込ませた瞬間、漏電した呪力によって体が痺れるが、その程度の痛みで止まる虎杖ではない。

 咆哮と共に拳を更にめり込ませ、遅れて炸裂する呪力がライトスマッシュを内側から破壊する。

 反撃するためか、あるいは自棄にでもなったのか、全身から放電しながら腕を振り回して暴れようとするが、七海が素早くその腕を破壊することで抵抗を封じ、痺れながら放った蹴りで吹き飛ばすことで距離をとらせる。

 

「このまま攻めます。何かされると危うい」

 

「うす!順平も、いけそうか!?」

 

 ライトスマッシュをひたすらに圧倒する二人の姿に面を喰らいながらも頷く吉野。横目で真人とビルドの攻防を捉えるが、すぐに虎杖の方へと意識を戻して二人の元へと足を進めるのだった。

 

 

 

 

 ライトスマッシュが一方的に殴られ、壊される音を聞きながら、ビルドと真人の攻防も加速していった。

 ビルドを他形態へと変身(ビルドアップ)させまいと、全身を絶え間なく変形させながら攻め立てる真人の攻撃を、虚空に生成した煙の中から取り出したドリルクラッシャーで受け止めるビルド。

 そのままドリルクラッシャーにサメフルボトルをセットし、トリガーを弾いた。

 

『《サメ!ボルテック・ブレイク!!》』

 

 いつも通りに陽気な音声と共にビルドがドリルクラッシャーを地面に突き刺すと、サメ型の呪力の塊が地面から飛び出し、四方八方から迫っていた鞭のようにしなる真人の腕に喰らい付き、噛みちぎる。

 

「っ!?それずるいだろ!?」

 

「卑怯もクソもあるかよ!」

 

 両腕を文字通りに食いちぎられた真人がその痛みに息を詰まらせながら怒鳴ると、ビルドはそれに対して怒鳴り返しながら青い呪力を纏ったままのドリルクラッシャーを構えながら地面を蹴った。

 ラビットハーフボディの面目躍如。地面を砕くほどの踏み込みは文字通りに彼の姿を掻き消し、真人の目の前へと体を放り出す。

 

「マジ!?」

 

 文字通りに目の前に突然現れたビルドの姿にぎょっと目を見開く真人。

 ビルドがそんな彼の驚倒を気にするはずも無く、青い呪力を纏ったドリルクラッシャーを振り回し、真人を攻め立てる。

 両腕を失った真人は全身に脂汗を滲ませながら必死になって避け続け、ビルドのその仮面の下で眉間に皺を寄せる。

 

(慣れてきてるな、こいつ)

 

 少しずつ。本当に少しずつだが、真人の動きが良くなってきている。決めるのなら、一気に畳み掛けなければこちらが危うい。

 

「うらっ!」

 

 右腕を生やして反撃の裏拳を放つ真人。それすらもビルドの一撃で粉砕され、肉片がぶち撒けられる。

 

「っ!?」

 

 歯を食い縛り痛苦に耐える真人。その瞬間、

 

『《ラビット!ガトリング!Are You Ready?》』

 

「──ビルドアップ」

 

 ビルドがラビットガトリングフォームに変身(ビルドアップ)

 ドリルクラッシャーを右手一本で速度も重さも変わらずに振り回し、再生した真人の両腕を粉砕。そのまま腹部に向けて伸ばした左手にホークガトリンガーを生成し、銃口を押し付けながら引鉄を弾いた。

 瞬間放たれた十数の弾丸が真人の体を撃ち抜き、貫通し、背後の校舎に更に損傷を与える。

 真人がごぼりと血を吐き出した瞬間、その顔面をビルドの左手が鷲掴んだ。

 掴むだけなわけがない。真人がすぐさまその手を払おうとした直後、真人の顔面が爆ぜた。

 凄まじい轟音と共に火薬の臭いが辺りに漂い、顔面を焼き爛れさせた真人が爆炎の中から転がり出す。

 

「本当、何なんだよ……っ」

 

 破壊された顔面を再生させながら立ち上がる真人。そのまま両手を鎖鎌の如く変形させ、ビルドに向けて放つ。

 じゃらりと金属が擦れるものに似た音を音を響かせながら迫る鎖鎌。ビルドはそれを体捌きだけでそれを避けると、伸び切った鎖を左手で掴み、再び爆破。

 これこそがガトリングハーフボディの能力。四肢に爆発性の呪力を纏い、任意のタイミングで起爆する単純故に強力な能力。

 そんな文字通りの爆弾をちらつかせながら、ビルドは再び真人に肉薄。

 ホークガトリンガーで牽制し変形を封じながら、ドリルクラッシャーの間合いに相手を捉える。

 ラビットハーフボディの加速力に物を言わせ、ガトリングハーフボディの能力──端的に言えば爆破の力を込めた徒手空拳を織り交ぜながら、真人に変形の隙を一切与えずに一方的に攻め立てる。

 加速を乗せた拳の殴打。避けた瞬間の隙に胸ぐらを掴み、爆破。

 殴打と火傷の二重のダメージに追い詰められる真人は目を見開き、どうにか打開しようと彼に掴みかからんとした瞬間、

 

『《タカ!ガトリング!ベストマッチ!Are You Ready?》』

 

「ビルドアップ」

 

『《天空の暴れん坊! ホーク・ガトリング! イェーイ!》』

 

 ふわりと、彼の体が浮いた。

 彼に伸ばした両手が空を切り、代わりに真人の頭上から影が降りた。

 彼が弾かれるように上を見上げた瞬間、ビルドはベルトのレバーを回転させた。

 

『《レディー・ゴー!ボルテック・フィニッシュ!!》』

 

 陽気は音声とは裏腹に、右足に収束される呪力と、そこに込められた殺意は絶対のもの。

 纏う呪力が新たな輪郭を描き、右足がまさに獲物を狙う鷹の如く鋭い爪を生やしたものへと変化する。

 

「やばっ──」

 

 真人が驚倒し、回避を捨てて両腕を硬質な金属質な盾のように変形させて構えた瞬間、ビルドの蹴りの一撃でその両腕は無慈悲なまでに引き裂かれ、胴体を袈裟懸けに切り裂かれた。

 一瞬にして破壊される防御。真人は更に体を流体へと変化させて次の攻撃を受け流そうとするが、ビルドは更にベルトのレバーを回転。

 

『《レディー・ゴー!ボルテック・フィニッシュ!!》』

 

「はぁああああああああああ!!!!」

 

 真人が変形するよりも速く、切り裂いた胸部の傷を抉るように拳を叩き込み、内側から爆破した。

 帳の中を紅蓮に染め上げる大爆発に学園が揺れ、あちこちから倒壊の音が聞こえてくる中、ぶち撒けられた真人の肉片が辺りに降り注ぐ。

 びちゃびちゃと湿った落下音を聞きながら、ビルドは真人の肉片がこびりついた拳を開閉させた。

 

「……手応えがない。逃げる──わけねぇな、なら行き先は」

 

 やはりというべきか逃げ足が速い。今回も呪力が炸裂する寸前に体を分離させて逃げ出したのだろう。そして、その行き先は。

 真人が次に取る行動を先読みし、ビルドはベルトに別のフルボトルを装填。

 

『《ラビット!バイク!》』

 

「ビルドアップ」

 

 タカガトリングから、ラビットバイクへ。空戦さえもこなす器用さから、速度に全てを振り分けた最速へ。

 バイクハーフボディのアンテナを握り、捻る。本物のバイクさながらのエンジン音を轟かせながら、ビルドの全身から紅の呪力が溢れ出す。

 そして次の瞬間、紅の残像を残してその場から掻き消えた。

 

 

 

 

 

 ライトスマッシュはまさに一方的な暴力に晒されていた。

 七海と虎杖の噛み合い始めた連携が反撃を許さず、一瞬生まれた隙さえも吉野の朧月が埋める。

 もはや嗤い声さえも起きない。バグを起こした機械のように全身から火花を散らしながら、ノイズにしか聞こえない悲鳴を漏らす。

 

「いい加減、倒れてくれねぇかな!?」

 

「流石に硬いですね」

 

「毒もあんまり効いてない……っ」

 

 だが、倒れない。反撃さえもできないサンドバッグ状態となりながら、それでもライトスマッシュは倒れない。

 いいや、倒れられないと言うべきか。胸部にめり込んだ宿儺の指により供給される無尽蔵にも思える呪力が、彼の祓除を赦さない。

 ライトスマッシュからすればただの生き地獄。だがそれを終わらせる術が彼にはない。

 虎杖の拳が腕を砕き、七海の鉈が脚を割り、吉野の毒が体を内側から蝕んでいく。

 だが死なない。死ねない。

 

(やはり宿儺の指をどうにかしなければ駄目のようですね。上手く引き摺り出すことができれば……)

 

 七海が眼鏡の下で目を細め、作戦を思案する。

 宿儺の指が動力源だ。それを取り出してしまえば流石に止まるだろうか。

 

「虎杖くん!宿儺の指を取り出します!」

 

「わかった!順平も手伝ってくれ!」

 

「うん!」

 

 だろう、ではない。打つ手はそれしかない。ならやるしかないのだ。

 七海の声に虎杖が、虎杖の声に吉野が応じる。

 そして三人がそれぞれの役割を果たそうと動き出した瞬間、満身創痍の真人がライトスマッシュと三人の間に割り込んだ。

 

「「「ッ!?」」」

 

 突然の乱入者に三人が驚倒する中、真人は狂気を滲ませる笑みを浮かべて口を開けた。

 ビルドによる猛攻と、度重なり襲いかかってくる『死』の気配。それにより与えられたいっそ強烈なまでのインスピレーションが、真人という呪霊を次の段階まで押し上げたのだ。

 口内。おそらく舌や歯を変形をさせただろう複数の手が、印を結ぶ。

 

「『領域展開』──自閉円頓裹(じへいえんどんか)

 

『領域展開』とは呪術の極地だ。

 己の内にある『生得領域』──ある種の心象風景を結界内に展開し、相手を閉じ込める。

 言うは易し、行うは難し。

 気の遠くなる程の研鑽。そして才能が合わさることでようやく発動することができる呪いの極み。

 その結界に閉じ込められたら最後、『必中』となった術式が襲いかかる。

 虎杖、七海、吉野、そしてライトスマッシュの視界が一瞬黒に塗り潰される。

 何かされたと思う頃にはもう遅い。三人は人間の腕が格子のように相手を囲む結界の内側へと、引き摺り込まれていた。

 七海の顔が苦渋に満ちる。必中となった真人の術式とは、つまり必殺だ。

 三人の命は真人の手に握られ、狂気を滲ませる笑顔を浮かべながら三人に向けて告げた。

 

「とりあえず、三人はこれで──」

 

 そして術式を行使した瞬間だった、ぞわりと背筋を震わせた。

 魂に触れる慣れた感触。その瞬間、逆にこちらが掴まれたような違和感。

 

『──誰の赦しを得て俺の魂に触れている』

 

 その時、真人だけは確かに聞いた、そして見た。

 感情の欠片もない低い男の声。こちらを汚物のように睨んでくる二対の瞳。

 骸骨の山の上に腰掛け、こちらを見下ろす呪いの王。

 

「宿儺……?」

 

 ぼそりと名前を呟いた瞬間、真人の体が袈裟懸けに切り裂かれた。

 ごぼりと血を吐き出し、傷口からも大量の血が噴き出す。

 

「な、なに……!?」

 

 虎杖が素っ頓狂なまでの困惑に露わにし、吉野も突然の惨状に小さく声を漏らす。

 領域という相手の勝ち確状態になったというのに、突然体を斬られた挙句に死にかけているのだ。混乱もしよう。

 だが七海だけは、あの状況に見覚えがあった。

 

(桐生くんが触れられた時と同じ。今のが宿儺の反撃だとすれば、ならあの時は……?)

 

 ビルドが鎧越しとはいえ『無為転変』をくらった際にも、真人は似たような反応を示していた。

 虎杖には宿儺がいる。なら、貴丈には……?

 七海が思案を巡らせ、どうにも嫌な予感がすると眉間に皺を寄せた瞬間、凄まじい衝撃と共に結界の外殻にヒビが入る。

 

「今度はなに!?」

 

 もはや着いていけないと嘆く虎杖を他所に、衝撃は二度三度とと続き、ついには外殻が砕け散る。

 領域展開は確かに強力だが、弱点というものも明確に存在している。

 一つは領域内で領域を展開された場合、その練度によっては容易く上書きされてしまうこと。

 もう一つは、閉じ込めることばかりに注力するあまり、外からの衝撃に極端に弱いこと。

 もちろん、相手の領域に突入するなど自殺することと同義だ。そしてそんな事をする命知らずが、ここにいた。

 

「逃げてんじゃねえよ、呪霊!」

 

 仮面の下から怒号を放ち、虎杖の隣に着地するビルド。

 ラビットバイクの加速力に物を言わせた三度の突撃で、真人の領域の外殻を破壊、内部に突入してきたのだ。

 紅の呪力を纏い、複眼を煌めかせながら、真人を睨むビルド。

 血反吐を吐きながらライトスマッシュの肩を借りて立ち上がった彼は、「しつこいんだよ!」と血と唾を吐きながら喚き散らす。

 対するビルドは怯まない。彼は無言のまま手元に煙を生成すると、フルボトルを取り出した。

 

『《ドラゴン!ロック!ベストマッチ!》』

 

 ベストに嵌められるのはドラゴンフルボトルとロックフルボトル。

 紺と金の呪力が溢れ出し、ハーフボディを染め上げる。

 

『《Are you ready?》』

 

「ビルドアップ」

 

 陽気な問いかけへの返答は静かだった。

 フルボトルから生成されたドラゴンハーフボディとロックハーフボディがビルドの体を覆い、右肩や右腕に牙を思わせる白い突起が生え、左腕には鍵を模したアームユニット──バインドマスターキーが装着された。

 

『《封印のファンタジスタ!キードラゴン!イエーイ!》』

 

 ドラゴンハーフボディから蒼炎が溢れ出し、溢れる炎を拭うようにドラゴンの角を模したアンテナを撫でる。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

 現状のビルドが出せる最大出力。魂さえも焼き尽くす炎を前に、真人はたじろぐ。

 領域展開には、致命的な弱点がある。

 領域使用後は術式が焼き切れ、ある程度の時間術式が使用不能になるのだ。

 つまり、今の真人はお得意の変形も再生もできない。文字通りのただの呪霊だ。

 ビルドはベルトのレバーを回転させ、呪力を装填。ドラゴンハーフボディを包む炎の出力が上がり、その全てが右腕へと収束していく。

 自身を焼く愚は犯さない。あの時とは文字通り術師としての練度が違う。

 

「燃え尽きろ!!」

 

 ビルドは雄叫びと共に拳を突き出し、同時に蒼い火線が放たれた。

 放射状に広がる業火が真人とライトスマッシュに迫り──。

 

『ヒヒッ……!』

 

「ちょ!?」

 

 ライトスマッシュがまえに飛び出し、真人の盾となる。

 だが、それがなんだと言わんばかりにビルドは出力をあげ、諸共に焼き尽くす。

 

「ハァ!!!!」

 

 ビルドの気魄一閃の叫びと共に駄目押しに火力がさらに上がり、二体の呪霊は炎の中へと消えていく。

 そして帳内を蒼く染め上げる大爆発が、呪霊と術師達を包み込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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