ビルド廻戦   作:EGO

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まさかまさかの呪術廻戦の続編、モジュロの連載開始。

……どうして原作終わってからビルドとのシナジーが増えるのです?
貴丈(とその中にいるやつ)の厄ネタ度が上がるとか思わないでしょ、普通。


9.

 蒼炎の炸裂と同時に、帳が解除された。

 蒼い炎の燻りが、風に乗って周囲に散っていく。

 

「ふぅ……」

 

 ビルドは深く息を吐きながら右腕に絡みつく蒼炎を振り払った。

 少なくともライトスマッシュは祓除できた。真人の方はどうだろうか。

 

「七海さん。念のため周辺警戒を──」

 

 変身を解き、ビルドの装甲を霧散させる貴丈。

 そして振り向き様、不肖ながら七海に指示を出そうとした瞬間、ドクン!と心臓が跳ねた。

 ライトスマッシュの祓除。いつも通りに行われたそれは、いつも通り変異型呪霊(スマッシュ)が集めた呪力の譲渡へと段階が移行する。

 そして、今回はそれが問題だった。

 

「桐生くん!?」

 

「先輩!?」

 

 ぐらりと貴丈の体が揺れ、そのまま地面へと倒れる。

 碌に受け身も取らずにしたそれは、彼自身でさえも予期していない何かが起きた証拠だろう。

 

「あっ……っ……!づっ……!?」

 

 目の焦点が合わず、口からこぼれる呻き声は何かに苦しむ病人のよう。

 

「先輩!先輩!?どうしたんだよ!?」

 

 虎杖が慌てて彼に駆け寄り、肩を掴んで揺する虎杖。

 

「い、た……どり……っ。や、やめろ、吐きそう……っ」

 

「え?あ、ごめん!」

 

 虎杖に揺すられ、さらに顔色を悪くする貴丈。

 虎杖は慌てて彼を解放するが、彼は再び地面に後頭部を叩きつけた。

「ぐぇ!?」と汚い悲鳴をあげる貴丈だが、突然の不調の理由がわからない。

 だが七海が、その原因に気づいた。

 貴丈の術式は変異型呪霊(スマッシュ)による呪力の収集と、それを撃破することでの呪力の還元。その呪力を利用してのボトルの精製が一連の作用──だと、貴丈本人が推理し、他の術師たちもそうだろうと考えている。

 だからこそ、今回はそれが問題なのだ。

 ライトスマッシュは宿儺の指を取り込んでいた。特級呪物の中でも指折りの危険度を誇るそれを取り込んだライトスマッシュの呪力は、まず間違いなく汚染されていたことだろう。

 そんな宿儺の指もどき(・・・)を一切のフィルターなしに取り込んだとなれば、それは宿儺の指を呑み込んだのとほぼ同義だ。

 

「ぉえ……っ!マジで吐きそう……っ。つうか吐く!お゛え゛っ!?」

 

 ──と、言葉にすれば深刻だが、少しずつ余裕ができてきたのか情けない声を漏らす。

 (うずくま)り、おえおえと嗚咽を漏らしながら吐瀉物をぶち撒ける貴丈。

 虎杖はそんな彼の背中を摩り始めるが、その様は酔っ払い親父を介抱する息子のよう。

 

「大丈夫なら、いいのですが……」

 

 七海はずれた眼鏡の位置を直しながら溜め息を吐く。

 そして周囲に目を向けた瞬間、眼鏡の下の目を見開いた。

 蹲っている都合で貴丈の顔が見えないが、僅かに露出した手首や、辛うじて見える頬に、何かの紋様が浮かび上がっているのだ。

 

「桐生くん!」

 

「はいッ!」

 

 七海に呼ばれ、弾かれるように顔をあげる貴丈。

 その瞬間、「うぇ!?」と虎杖が変な声を漏らし、吉野も「あ、あれ?」と困惑の声を漏らす。

 貴丈の目元や頬、額、鼻や顎先に、宿儺のそれによく似た紋様が浮かんでいるのだ。

 

「え、なに。顔に何かついてる?」

 

 思い切り吐いて気分も回復したのか、けろっとしながら首を傾げる貴丈。

 その瞬間、目尻の辺りが裂けるようにして何かの目玉と口が現れ、「けひひ」と不気味に嗤った。

 その嗤い声は貴丈にも届いている。彼は閉口しながらそっと目を背け、ダイヤモンドフルボトルを取り出して数回振り、呪力を活性化。

 それを地面に突き刺して一部をダイヤモンド化させると、鏡のように磨き上げられたそこを覗き込んだ。

 そこには虎杖と初めて会った時と同じ紋様が浮かび上がる自分の顔と、嫌味ったらしい笑みを浮かべる増設された目玉と目があった。

 

「けひひっ!どうした、小僧!」

 

「………え〜〜〜〜と?」

 

 首を傾げながら疑問符を浮かべる貴丈。七海は慌てて走り出し、ライトスマッシュがいただろう場所へと滑り込んだ。

 ライトスマッシュの残骸も、真人の残骸もない。完全に祓除されたと思いたいが、真人の方はライトスマッシュに庇われていた。帳が解除されたから大丈夫だとは思うが、もしかしたらと嫌な予感がよぎる。

 

「なんてことだ……」

 

 だが、そんな予感を塗り潰す衝撃が七海を襲った。

 彼は足元に転がっていた僅かに爪が溶けた(・・・・・・・・)宿儺の指を拾い上げる。

 決して壊せないはずのそれを損傷させた。貴丈の術式の影響か、あるいは変異型呪霊(スマッシュ)に取り込まれた時に何かが起きたのか、それは七海に推察しようがないが、確実に言えることが一つ。

 

(まるで呪力を感じない……っ!これではただの屍蝋、呪物ですらない!)

 

 その確認が取れると共に、最悪の事態が脳裏を過ぎる。

 変異型呪霊(スマッシュ)を取り込むと共に宿儺の指の呪力を根こそぎ吸い上げ、そこに引っ張られる形で宿儺の魂とも呼ぶべきものが貴丈に移動したとすれば、先程の嗤い声も納得できる。

 虎杖だけでなく、貴丈もまた宿儺の指への──あるいは呪力への適合者。

 そうなれば、上層部は間違いなくどちらかの排除にかかるだろう。危険な爆弾を二つに増やす理由がない。

 そして変異型呪霊(スマッシュ)絡みの案件で一応は首輪を嵌めている貴丈の方を優先するのは、ほぼ間違いない。

 あまりにも危険な爆弾。それを突きつけられた七海は天を仰ぎながら深く息を吐く。

 もう、五条さんに任せるしかないと自分で裁決できる範疇を超えた問題に頭痛を覚える。

 

「え、えっと……大丈夫すか、これ……」

 

「あ、ああ。まあ、大丈夫そうだけど……」

 

 虎杖が心配そうに貴丈に声をかけ、貴丈は困り顔で溜め息を吐き、

 

「けひっ!どうだ、俺!そっちの体は!」

 

「喧しい。まさかこうなるとはな」

 

 宿儺(in貴丈)がテンション高めに宿儺(in虎杖)に声をかける。

 虎杖宿儺は溜め息混じりにもう一人の自分のテンションにゲンナリしている。

 同じ宿儺でも違いがあるのは、単に取り込んだ人間側の何かが影響しているのか、あるいは魂の同調ができておらず、ある種の個性が生まれ始めているのか。

 

「なあ、これ消せない?火傷の上にさらにタトゥーは派手過ぎるぞ……」

 

 貴丈が手首に巻き付くように浮かぶ紋様を指で掻きながら言うが、宿儺は聞く耳を持たずに虎杖の方の宿儺も見つめあっている。

 

「……急に静かになるじゃん」

 

 そんな宿儺達に困惑しながら、困り顔で溜め息を吐く貴丈。

 体調はだいぶよくなった。立ち上がり、拳を開閉させて具合を確かめる。

 宿儺の呪力のせいかちょっとした違和感があるし、体の節々が痛いが、まあ気にする程のものではない。

 

「これ、どうすっか……?」

 

「どうなるんすかね」

 

 貴丈と虎杖が顔を合わせ、もう笑うしかないと開き直り始める。

「「あはは」と二人が乾いた笑い声を上げる中、訳もわからないまま立ち尽くすのは吉野だ。

 流れに身を任せてしまったとはいえ、なんだか大変なことに巻き込まれたのではと今更になって冷や汗が流れる。

 

「とにかく、撤収しましょう。後のことは担当者に任せます」

 

 そんな時、指を回収した七海が戻ってくる。

「お帰りなさい」とひらひらと手を振る貴丈に「ここが家ではないですよ」と眼鏡の位置を直しながら言う。

 擬似的に宿儺を受肉した──けれど自我を保つ貴丈と、宿儺の指の受け皿である虎杖。そして映画館での呪殺事件の重要参考人の吉野。

 三人が三人とも腹に一物を抱えた問題児達。これをどうにかするのも大人の自分の役目だとは理解しているが、流石に荷が重い。

 七海はもう何度目かもわからない溜め息を吐くと、鉈を背に戻すのだった。

 

 

 

 

 

 今回の事件の舞台となった街の地下。

 貴丈、七海、真人、ライトスマッシュが初めて出会った下水道。そこを片腕どころか半身をえぐり取られた真人が歩いていた。

 

「あれがビルド。あれが宿儺。まったく、でたらめもいいとこでしょ……!」

 

 やってられね~と溜め息を吐きながら壁に寄りかかり、そのまま座り込む。

 どうやら貴丈と宿儺の器相手には自分の術式は通用しない──正確には魂への反撃(カウンター)が来るのだ。下手をしようものなら祓われていただろう。

 

「どうやって殺そうかな~。考えるだけでもゾクゾクしてくるよ……」

 

 だが、だからこそ殺したい。

 どうやって奴らの守りを搔い潜るのか、どうやって奴らの意表をつくのか。あれこれと思考が巡り、真人の顔には悦に浸るような邪悪な笑みを浮かんでいた。

 とにかくこの術式のことをもっと知らなければ。領域も展開できたのだから、その練度も高めて──。

 

「大丈夫?」

 

 そんな思案に耽っていると、不意に声をかけられた。

 だが聞き馴染んだ声だ。真人は強がるように笑いながらその声の主へと──炎の翼を携え、下水道を明るく照らしている桐生焔へと目を向けた。

 

「大丈夫だよ。まあ、見た目はあれだけどね」

 

 ひらひらと手を振りながらそう言うと、焔は「見た目以上にぼろぼろじゃないですか」と半目になった。

 

「まったく。お兄ちゃんと戦うつもりなら、もっと準備してからにしてよ」

 

 やれやれと溜め息混じりに首を振りながらそう言った彼女は、真人の隣に腰を下ろすと彼の胸に手を当てた。

 そのまま掌から小さな炎が溢れ出し、それが真人を包み込む。

 側から見れば真人を火だるまにした異常者。だが真実は違う。

 

「うん。相変わらず温かいね」

 

 真人は心地よさそうに目を細めながら息を吐いた。

 彼女は今でこそ人間の姿をしているが、貴丈により与えられた能力は『フェニックス』。

 死を否定し、たとえ死しても輪廻し蘇る伝説の不死鳥。

 その炎はあらゆる傷を癒す。部位が欠損すればそれを生やし、毒に侵されていればその毒のみを浄化する救いの炎。

 流石に魂までの作用はできないが、そこに関しては真人の専門だ。

 消耗した真人の呪力が回復し、彼の術式で失われた半身と腕が生えてくる。

 文字通り数十秒で完治した真人は立ち上がり、具合を確かめるように腕を回した。

 

「うん。大丈夫そうだ。ありがとうね」

 

「礼なら私ではなくあの人に……」

 

 真人が人懐こい笑みと共に感謝を告げるが、焔はそっと体をずらして下水道の奥を指差した。

 そこから姿を現したのは、白衣姿の壮年の男だった。夏油の協力者であり、真人ら呪霊とも繋がりを持つ広義的には呪詛師にあたる人物。

 彼は眉間に深い皺を刻みながら、けれどすぐに柔和な笑みを浮かべて真人に声をかけた。

 

「どうだった。ビルドと宿儺の器は」

 

「どうもこうもないよ。なんだよあれ、どうしろっての」

 

 男の問いかけに真人は拗ねたような唇を尖らせながらそう言うと、「やりようはあるさ」と男は得意げに言う。

 

「そのためにもまずは特訓だな。一皮剥けたのは見ればわかる」

 

「あ、マジ?まあ、やりたいことはたくさんできたけどね」

 

 ぽんと手を叩き、すでに次を考えている男の言葉に真人は顎に手をやりながら怪しげな笑みを浮かべた。

 もっと経験が必要だと、今回の一件で痛感した。もっと術式への理解を深めなければ。

 

「そういえば、宿儺の指置いてきちゃったけどよかったの?」

 

「ん?ああ、構わないさ。夏油も許可している。それに『細工』はしてあるのだろう?」

 

 真人はふと宿儺の指を放置してきたことを思い出すが、男は気にした様子もなく頷いた。

「もちろん」と真人が返せば「ならいい」と返される。

 

「奴らは回収した宿儺の指──正確にはその残骸を呪術高専の忌庫に納めるだろう。あとは真人の呪力を頼りにそこを見つけ、封じられた特級呪物諸共に、奴らに回収された宿儺の指を拝借する」

 

 男は次の計画を──呪術高専への潜入、窃盗計画を口に出し、焔は実行されたら兄に会えるかなと興奮した様子で胸の前で手を握った。

 

「宿儺の指の残骸って、どういうこと?あれって壊さないんじゃ……」

 

 だが、男の言葉が気になったのか真人が疑問を投げる。

 宿儺の指は確かに回収されるだろうが、残骸とはどういうことだと疑問に思ったのだ。

 

「言葉の通りさ。あの宿儺の指は既に空だろう。それでもその危険性から、奴らは確実に封印する」

 

「よくわかんないけど、作戦通りならそれでいいや」

 

 なにやら知らないところで計画が進んでいると、真人はつまらなそうに頭の後ろで手を組むが、どうせ宿儺を復活させる一手なのだろうと匙を投げた。

 

「夏油達と合流する。そろそろ本腰を入れて宿儺復活に動こうじゃないか」

 

 男は真人と焔にそう告げて、歩き出す。

 既に計画は動き出している。止められるのなら止めてみろと邪悪は笑う。

 そして彼らは、下水道の闇の中へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 里桜高校での一件が解決して数日。

 被害にあった生徒達の治療や校舎の復興が進む中、七海と五条がとある建物で顔を合わせていた。

 

「いやはや、何とも大変なことになったね」

 

 椅子の背もたれに寄りかかり、天井を仰ぎ見ながら笑う五条。

 七海は新聞を読みながら「そうですね」と疲労を滲ませる声音でそう返し、小さく溜め息を吐いた。

 そんな七海の苦労を知ってか知らずか、五条は笑みを浮かべたまま言う。

 

「新しい特級呪霊の出現だけじゃなく、呪霊に師事した呪詛師を回収、だもんねぇ」

 

 そう言って視線を横に向ければ、萎縮したようで体を縮こませる吉野の姿があった。

 あの戦いのあと吉野を保護したのだが、話を聞けば里桜高校の生徒達に呪いをかけたのは彼だと言うのだ。

 その動機には同情するが、人を呪ってしまったのもまた事実。

 本来なら他の呪詛師同様に牢獄に入れられるところなのだが。

 

「あんなに必死になられちゃうとね」

 

 五条は数日前の虎杖との熱いやり取り、

 

『こいつ、俺の友達なんだ!だから助けてやってくれ!お願いします!!』

 

『任せんしゃい!』

 

 を思い返し、思い出し笑いをしてしまう。

 あんなに綺麗な一礼は見たことがない。虎杖の一礼の綺麗さ、そして友達を助けたいという熱意に応えるため、吉野の投獄を無しにする代わりに呪術高専に入学させるという方向に持って行かせた。

 まあいつものことだ。気にしない。

 

「とにかく後で入学試験するからね。ま、呪術を習う前の悠二でも合格できたから、大丈夫っしょ!」

 

 五条はぐっ!と親指を立ててサムズアップをしながらそう言うと、吉野は「よ、よろしくお願いします」と緊張した面持ちで頭を下げた。

 

「先生!順平!早く学校行こうぜ!!」

 

 それを合図にしたように、お手洗いに行っていた虎杖が戻ってくる。

 テンションが高いのは、ようやく呪術高専への復学が決まったからか。

 伏黒や釘崎との再会。貴丈以外の先輩との出会いを夢想し、わくわくが止まらないといった様子だ。

 そんな虎杖の様子に五条は溜め息を吐き、「悠二わかってないな〜」と虎杖を指差した。

 

「せっかくの機会だよ?やるでしょ、サプライズ!」

 

「さ、サプライズ?」

 

「そう、サプライズ!死んだはずの仲間との二ヶ月ぶりの再会!一年は嬉しさで驚き泣き笑い、二年も京都校の人達ももらい泣き。嗚咽のあまりゲロを吐く者も現れ、最終的には地球温暖化も解決する」

 

「イイネ!やる!」

 

 そして五条の謎の理論に説得された虎杖が、復活サプライズを計画する中で、「やめといた方がいいですよ」と冷や水を浴びせる人物が一人。

 

「え!?な、なんでだよ先輩!」

 

 虎杖の背後。体中に刻まれた宿儺の紋様が消え、いつもの火傷姿になっている貴丈が壁に寄りかかりながら「やめといた、方が、いいよ」と目から光が失せた(ハイライトオフ)状態で告げてくる。

 

「だ、だからなんで……っ」

 

「うん。やめとこうか」

 

「元より生きているだけでサプライズですよ」

 

 そんな貴丈の説得に──死んだと思われていた妹に再会した挙句、喜ぶ間も無く敵対し、殺されかけた男の言葉に、五条も流石に自重した。

 なんでなんでと騒ぐ虎杖だが、貴丈はそんな彼に近づいて彼の肩を掴んだ。

 

「ただいつも通りに姿を見せて。『よっ!久しぶり!』って言って、ハグするくらいがちょうどいいんだよ。あんまり大袈裟なことされると、サプライズされる側も困るから」

 

「……わかった」

 

 なぜか必死になって説得してくる先輩に、虎杖はようやく折れた。渋々と言った様子だが。

 

「ところで宿儺とはどう?何かあった?」

 

 そして五条の心配は貴丈へと移った。

 話を聞いた限りでは彼もまた宿儺の指の器となったという話だったし、何なら彼の呪力に宿儺のものが混ざっているから嘘ではなかったようでもある。

 

「とりあえず、いくつか縛りを設けてどうにかこれを」

 

 貴丈はそう言いながら、懐から掌サイズの缶のような何かを取り出した。

 真っ黒なそれからはフルボトルに似ているが、そうというにはあまりにもゴツイ。

 

「なにそれ」

 

 見せられたそれに虎杖が首を傾げると、貴丈は得意げに笑いながら言う。

 

「宿儺の呪力でできたフルボトル……のような何かです。下手に開けたら呪力が漏れて呪霊が寄ってくるので、実験は呪術高専に戻ってからで」

 

 彼はそれを慎重に煙の中に消すと、五条に向けて「いつも通り、付き合ってくださいよ」と頼む。

 彼は「お任せあれ」と親指を立てると、立ち上がる。

 

「それじゃ、帰るとしますか」

 

 五条はそう告げ、七海に「またね」と手を振りながら部屋を出ていってしまう。

 虎杖も「ナナミン、またな!」と挨拶しながら部屋を出ていき、吉野も「お世話になりました」と一礼してから部屋を出る。

 取り残された貴丈も「では、俺も」と頭を下げ、部屋を出ようとすると、

 

「桐生くん」

 

 不意に呼び止められた。

 振り向く彼に七海は少し悩む素振りを見せるが、一度息を吐いてから告げた。

 

「どうか、あまり無理をしないように」

 

「わかってますよ。それでは、また」

 

 七海の心配の言葉に貴丈は不敵に笑い、今度こそと部屋を後にした。

 そのまま一人で廊下を突き進み、京都校との交流会に思いを馳せる。

 

「真依達、元気にしてるかな〜」

 

 彼の呟きは誰にも届くことはなかったが、とある新幹線の中で一人の呪術師がくしゃみをしたとか何とか。

 まあそれも、貴丈には知るよしもない話ではあるが。

 

 

 

 




とりあえずこの章はここまで。
次回は幕間を描くじゅじゅ散歩的な短編集を予定しています。


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