お品書きはこちら。
1.同級生によるベストマッチ当て大会。
2.貴丈が特級になった日。
3.貴丈と伏黒の初対面。
4.伏黒による釘崎への先輩紹介。
の、四つ。本編的には何にも進まないので読み飛ばしもOKです。
①二年ズのベストマッチ当て大会。
呪術高専東京校。男子寮。
京都出張を終えた貴丈が買ってきたお土産を食べながら、男子四人(内一人はパンダだが)と真希が京都での騒動の話を聞いていた。
「だ〜か〜ら〜!なんでそんな面倒なことになってんだよ!?」
「いや、放っておけなくて」
正確には貴丈が禪院家当主の息子、禪院直哉と喧嘩した挙句、そこを当主ご本人に見られたことに、ひたすら真希に噛みつかれていた。
実家にいびられている妹を助けてくれたのは感謝するが、それで禪院家に目をつけられたとなればきっと面倒なことになる。間違いなく。
「真希がすげぇ顔になってるぞ」
「しゃけ」
妹を助けてくれた感謝と、実家へと憎悪。そして貴丈夫へのもっと自分を大事にしろという気遣い。
それらがごちゃ混ぜになっている真希は、パンダと狗巻が言うようになんとも複雑な顔になっていた。少なくとも乙女がしていい顔ではない。
隣の乙骨も八橋を齧りながら『大変そうだなー』と他人事のような視線を向けつつ、「何かあったら手伝うからね!」と貴丈の味方であることを強調した。
貴丈は「何にもないことを祈るけどな」と溜め息を漏らし、ハッとしてベルトを取り出した。
「なんだ、いきなり」
「いや。向こうで変身した時にさ、ベルトから変な音声が流れたんだよな」
神妙な面持ちでベルトを覗き込む真希に、貴丈は何やら意味深な笑みを浮かべながらそう告げた。
そして聞く方が早いとベルトにラビットフルボトルとタンクフルボトルを装填。
『《ラビット!タンク!!》──《ベストマッチ!!》』
「……確かに、なんか増えてんな」
「ベストマッチなんて言ってなかったよね?」
「ああ。それが気になってよ」
ベルトの音声を知る真希、乙骨が追加音声に首を傾げていると、貴丈は次々とフルボトルを取り出して炬燵の上に並べていく。
「一つ一つ試していってもいいんだが、流石に一人で黙々とやるのも、な?」
「手伝って欲しいならそう言えよ」
「お?ゲームか?やるやる〜。当てた奴が貴丈からなんか奢ってもらおうぜ〜」
「え?」
「しゃけ」
「なんで?」
「楽しみだね!」
「憂太?」
貴丈の手伝い募集に真希が真っ先に食いつき、パンダが賭け事へと発展させ、狗巻と乙骨が逃げ道を封じる。
逃げ場をなくした貴丈は溜め息を吐き、「まあ、いいか」と死んだ魚のような目になりながらあっさりと諦めた。
「じゃ、一番手は俺な。有機物と無機物の組み合わせってのは、固定なんだよ、多分」
だが、いいやだからこそ初手は自分が行くと三人を制して一番手を買って出た。
ついでにヒントになりそうは術式の情報を明かし、フェアな勝負にする事も忘れない。
そんな彼が選んだのはタカフルボトル。もう一つは京都で手に入れた消しゴムフルボトル。
『《タカ!消しゴム!》』
いつものように陽気な音声が流れるが、肝心のベストマッチがない。
貴丈が肩を落とすと、パンダが消しゴムフルボトルを抜いて代わりにセットしたのは、ダイヤモンドフルボトル。
『《タカ!ダイヤモンド!》』
「ハズレか〜。残念」
だが肝心のベストマッチ音声が出ない。パンダは言葉とは裏腹に気にした素振りも見せず、「次は棘な」と狗巻に手番を回す。
「しゃけ!」
『《タカ!消防車!》』
「おかか……」
彼が選んだのは消防車フルボトル。それをさっさとセットした狗巻だが、ベストマッチ音声が鳴らずに肩を落とした。
今更だがらこれ当たるのけっこうな確率ではと貴丈とパンダの顔色が変わる中、乙骨がセットしたのは電車フルボトル。
だが、鳴らない。ベストマッチと言ってくれない。
「これ、この中にないことって、ある?」
「あるかもな。だから一人でやりたくねぇ」
乙骨が最悪の想定──この中にベストマッチがない可能性を示唆し、貴丈が神妙な面持ちで頷く。
むむむと真剣な面持ちでフルボトルを睨み、組み合わせを思考する男子たちを横目に、真希はひょいとフルボトルを摘み上げ、それをベルトにセット。
『《タカ!ガトリング!》──《ベストマッチ!!》』
「「「え……」」」
「高菜?」
一発である。真希がドヤ顔で鼻を鳴らし、男子たちは信じられないと言わんばかりに声を漏らす。
貴丈の並べたフルボトルは三十本。まだ使っていない物も多い中、ピンポイントで
「とりあえず、一回だな」
「こっから更に当たるとでも言いたげだな」
「当然」
真希がパキパキと指を鳴らしてやる気を出す中、貴丈は額に冷や汗を流す。
このまま彼女が当て続ければ、果たして何を買わされるのか判った物ではない。
一巡し、手番が戻ってきた貴丈がベルトにフルボトルをセット。
『《ゴリラ!タンク!》』
「駄目か……」
「次はゴリラ、ね」
ふんふんと頷き、フルボトルを見渡す真希。
その隙にパンダがロケットフルボトルを、狗巻が電車フルボトルを、乙骨がバイクフルボトルをセットするが、誰も当てられない。
いまだに考えている真希は「パス」と手番を飛ばさせ、意図せず順番がきた貴丈は驚きつつも「容赦しねえからな!」とやる気を出す。
まるで自分たちでは当てられないと言われているようで、シンプルにムカついたのだ。
『《ゴリラ!消防車!》』
『《ゴリラ!ロック!》』
『《ゴリラ!テレビ!》』
『《ゴリラ!スマホ!》』
「……お前ら、マジか」
男子たちはもう一巡フルボトルをセットしていくが、誰一人として当てられない。
真希はあまりに情けない男子たちを半目になりながら一瞥し、フルボトルをセット。
『《ゴリラ!ダイヤモンド!》──《ベストマッチ!》』
「………すぅ………」
鳴り響くベストマッチ音声に貴丈が小さく息を吐き、真希へと目を向けた。
ニヤニヤと笑い、次はどうすると言わんばかりに目がぎらついている。
確実に高いものを買わせる気だと更なる冷や汗を流す中、ならばと次のフルボトルをセット。
『《サメ!》』
そして相手に何をセットするかとフルボトルを見渡した瞬間、真希が横から摘み上げたフルボトルをセット。
『《バイク!》──《ベストマッチ!》』
「ひぇ……」
一発である。ノーヒントで、一撃正解である。
貴丈が小さい悲鳴を漏らすと、それを合図にしたように貴丈と真希の対決が始まった。
貴丈が有機物フルボトルを刺し、次を刺す前に真希が無機物フルボトルを刺す。それがひたすらに繰り返されていく。
『《ハリネズミ!消防車!》──《ベストマッチ!》』
『《カブトムシ!カメラ!》──《ベストマッチ!》』
『《ライオン!掃除機!》──《ベストマッチ!》』
『《ユニコーン!消しゴム!》──《ベストマッチ!》』
連続正解が止まらない。ベストマッチの音声が鳴り響く。
観客と化した男子三人に二人を止める術はなく、ひたすらに正解を重ねられていく様を見ている事しかできない。
「あ、あの、真希さん!?」
「なんだよ。まだあんだろ」
だが、流石に不味いと貴丈がベルトにフルボトルを刺す手を止めた。
真希は怪訝な顔になりながら彼を見つめる。
「もう少し、手心というか……っ!」
「知るか。さっさと当てればいい話だろうが」
さっさとやれと言わんばかりに顎でベルトを示し、貴丈は溜め息混じりにフルボトルを刺した。
『《ドラゴン!》』
その時、ほんの一瞬真希の手が止まった。
ドラゴンスマッシュは自分をボコボコにしてくれた相手ではあるが、それでも彼の父親であったという。
その人がどんな人だったのかは知らないが、今の貴丈を見ればいい父親だったのだとわかる。
(まあ、関係ねぇか)
真希はそんな思考を切り上げた。死んでしまった人のことを考えても仕方がないと、フルボトルを摘み上げる。
『《ロック!》──《ベストマッチ!》』
そしてやはり正解を引く。
うへぇと貴丈がドン引きする中、真希は得意げに笑う。
「とりあえず、こんなもんだろ」
「まだ何個かあるけど、有機物と無機物で数があわねぇもんな」
胸を張り、渾身のドヤ顔をかます中で貴丈は両手を挙げて負けを認めた。
「いや、息ぴったりだったじゃん」「しゃけしゃけ」「すごかったね」と三人がヒソヒソと何かを言っているが、肝心の二人には届かない。
「で、報酬の話なんだけど……」
貴丈が恐る恐る真希に言うと、彼女は「そうだな〜」と顎に手を当てながら思考する素振りを見せたかと思うと、「よし」と何かを決めたようだ。
「荷物持ちと財布代わりに買い物に付き合え。買いまくってやるよ」
「ひぃ……」
何を買うつもりだよと悲鳴をあげる貴丈だが、横の男子たちは、
「これ、デートの誘いでは?」
「しゃけ」
「真希さん。大胆!」
と相変わらずのヒソヒソ声でやり取りしている。
「なんか言ったか?」
「「いえ、何も!」」
「めんたいこ!」
真希がぎろりと睨んで凄むと、三人は慌てて姿勢を正して首を横に振った。
今なにかすれば、貴丈コーヒを飲まされることだろう。それだけは困る。
「おつかれサマンサタバサーって、何事」
真希に怪訝な視線を向けられ、冷や汗を流す三人。
そんな中、不意に部屋の扉が開かれ、気の抜けた挨拶と共に五条が部屋に入ってきた。
彼はそのまま炬燵の上に所狭しと並べられているフルボトルを見やった。
「なんか音声が増えたんで、その検証を」
「ふぅん。例えばこれとか?」
『《タカ!ガトリング!》──《ベストマッチ!》』
「「「え……」」」
「僕からすれば、見ればわかるよ」
五条は包帯越しに目元を親指で指し示しながらそう言うと、真希は「便利だな」と半目になり、貴丈も「次から五条先生に頼も」と肩を落とす。
そんな彼を真希が睨みつけるが、フルボトルの片付けを始めた貴丈は気づく様子を見せない。
「「「…………」」」
パンダ。狗巻。乙骨の男子三人は邪魔しないでよと言わんばかりにじとっとした視線を五条に向け、五条は訳もわからずに首を傾げるのだった。
②貴丈が特級になった日。
「早速ですが、お知らせの時間です!」
校舎の修繕も終わり、ようやく授業が再開したある日。
朝一番に放たれた五条の声に、生徒たちは怪訝な顔を浮かべた。
五条がはしゃいでそんなことを言う時は、大抵面倒なことになる。
貴丈の入学しかり、乙骨の入学しかり、何かしら大きなイベントが起きるのだ。
だが、今回はあまりそういう感じではないらしい。
五条は廊下に出ると、白いトレンチコートを見せつけながら教室に戻ってくる。
「貴丈。君にこれを」
ほれとコートを差し出しながらの言葉に貴丈は首を傾げるが、言われるがままに前に出てそれを受け取った。
白いトレンチコートではあるが、よく見れば呪術高専の制服を改造したもののようだ。ちょっと前まで乙骨が来ていたような白は、黒を基調とする制服の中ではかなり目立つ。
「憂太が四級になったけど、代わりに君が特級呪術師に任命されたよ。こらから頑張ってね!」
ぐっ!とサムズアップをしながら、なんて事のないように告げられた言葉に教室は静まり返り、一斉に貴丈へと視線が向いた。
「俺が、特級?五条先生と同じ……?」
あまり実感が湧かないのか、困惑気味に声を漏らす貴丈。
そんな彼に、パンダが肩を回して寄りかかった。
「流石は貴丈だな。明日から先輩って呼ばせていただきます!」
「駄目だ。なんだよ先輩って。気持ち悪い」
「しゃけ!高菜!」
「おう。頑張るよ」
「すごいね、桐生くん!」
「元特級に褒められてもな……」
そこから始まる友人たちからのヨイショに、貴丈は困り顔になりながら溜め息を吐く。
特級になってもやることは大差ない。
「また険しい顔になってるよ。ほら、笑顔笑顔」
そうな内心が透けていたのだろう。五条が貴丈の頬を引っ張って無理やり口角を持ち上げ、笑顔を形作る。
「おわ〜」とされるがままの貴丈の背中を見つめながら、真希は小さく舌を弾いた。
術師になって一年足らず。確かに才能はあるし、度胸もある。特級にはなるべくしてなっているともわかっている。
だが、それでよかったなで済ませられるほど、彼女の
何より『お前みたいになりたい』とまで言われたのに、その目標が後ろにいるなど赦されないだろう。
くわっと目を見開いた彼女は男子たちにもみくしゃにされている貴丈の首根っこを掴んだ。
「おわ!?」と驚く彼を無視し、そのまま引き摺っていく。
「お、おい、真希!?どうした!?」
「っるせぇ!訓練だ、訓練!特級呪術師様をぶちのめしたら、気分いいだろうよ!」
「ぶ、ぶちのめされる!?ちょっと、誰か!?」
そのまま教室から引き摺り出された貴丈が悲鳴を上げて助けを求めるが、
「特級になったんだし、真希くらいどうにかしないとね」
「特級呪術師様を助けるなんて、俺には無理だ……っ」
「おかか……っ!」
「あはは。ごめんね」
四人は揃って目を逸らし、連れ去られる貴丈を見送る判断を下した。
「薄情者ぉぉぉおおおおおお!?」
「うるせぇ!」
廊下の向こうから聞こえる貴丈の悲鳴と真希の怒号。
二人は変わらないなぁと微笑ましそうにする四人は、次いで聞こえた快音と貴丈の断末魔に、顔を見合わせて溜め息を吐くのだった。
そして、貴丈特級昇級の話は瞬く間に周知された。
それは呪術高専京都校も例外ではない。
「ふん!ふん!ふん!」
裏山にある手頃な岩を殴りつけながら、東堂は気迫の声を漏らす。
(
特級昇級への簡単な条件は、手っ取り早く言えば個人で国を滅ぼせるかどうかだ。
瞬間的に、そして自傷さえも厭わなければ呪いの女王──特級過呪怨霊折本里香にも匹敵する超火力と、都市機能が集まる場所で使えばインフラを破壊できるだろう人を
確かにこれは警戒される。彼の人となりを知らなければ、恐ろしいと震えるだろう。
だが、優しいが過ぎる貴丈の性格からいって、上の連中に飼い殺しにされる。
「また
東堂は咆哮をあげながら大岩を殴り砕き、次の標的へと飛びかかっていった。
遠くから聞こえる破砕音を聞きながら、真依は忌々しそうに舌を弾いた。
貴丈に会ってからというもの、東堂はさらに喧しくなった。
口を開けば
そして、そうして流れてくる彼の情報に──彼が無事だとわかる度に、どこか安堵している自分がいると気付いてからは余計にムカつくようになった。
真依はそんな苛立ちをぶつけるように、ホークガトリンガーで的を撃ち抜く──だけに留まらず、そのまま完膚なきまでに破壊していく。
「あいつは特級になった。そんなのどうでもいいのよ。私は──」
別に強くならなくてもいい。生きられればそれでいい。
なのに、
『このッ、この子の……こと、おねがい……っ』
あの日、ロックスマッシュから──彼の母親から告げられた言葉が頭から離れない。
何がお願いだ。相手は特級呪術師。守るどころの話ではないし、いっそ自分のことを守って──。
「──ッ!」
真依は変な方向に流れかけた思考を振り払うように引き金を弾いた。
ようやく慣れてきた反動をうまく制御して連続で的を撃ち抜いていき、最後の一つを破壊すると、
「ほんと、最悪……」
額に流れる汗を拭いながら、真依は小さく声をこぼした。
貴丈を狙うのは、なにも上層部だけではない。
禪院家当主、禪院直毘人は酒を煽りながら書類を目を通した。
貴丈の特級昇級の件の話ではあるが、彼が仕留めた
禪院家当主特権で取り寄せたものだが、これは中々どうして面白い。
そして、彼を迎え入れることができれば禪院家は更なる繁栄が約束されるだろう。
「楽しみだな、桐生貴丈。問題はどちらが彼を仕留めるか、だが……」
直毘人は再び酒を煽り、空になった酒瓶をぶん投げながら酒臭いゲップを漏らす。
真希か、真依か。駄目なら適当に見繕った女を差し出してもいい。
とりあえず今は静観だ。五条悟がいる以上、下手な手出しはつまり戦争の始まりを意味してしまう。
だが、逆に言えば五条悟さえいなければ──。
直毘人は更に酒を煽る。酒精に蕩けたその目には、果たして何が映っているのか。
「げぷっ!」
おそらく、酔っ払った彼自身にもわかってはいないのだろう。
それだけは、確かであった。
③初めまして、後輩くん!
貴丈が特級になって数日。
貴丈たちがいつものように彼の部屋で屯していると、不意に扉が開いた。
「やっほ〜!今日もやってるね〜」
青春していて結構と親指を立てながらの五条の登場に、貴丈は首を傾げた。
「いきなりどうしたんですか?急な仕事でも?」
「いいや。今日はみんなに会わせたい人がいてね」
出発の準備でもと立ちあがろうとしな貴丈を手で制しながら、生徒たちが全員いることを確認。
いつも一緒にいるな〜と呑気なことを思いつつ、「入っといで」と部屋の外にいる誰かへと声をかけた。
何事と身構える貴丈と乙骨を他所に、パンダ、狗巻、真希は何やら訳知り顔だ。
そうして入ってきたのは、例えが悪いがうにのようにトゲトゲした黒髪が特徴の青年。
年は自分たちと同じくらいに見える。まあ目新しい制服に身を包んでいる以上、呪術高専の生徒側の関係者ではあるのだろう。
そして、その青年がぺこりと一礼した。
「伏黒恵です。来年度からここに入学することになりました」
そして名乗ると共に自分は新入生であると明かし、それに対して乙骨がハッとして勢いよく貴丈へと顔を向けた。
「本当に後輩ができたよ!?どうしよう!?」
「いや、別に慌てることねぇだろ」
いつかのやり取りを思い出して苦笑する貴丈をよそに、パンダ、狗巻、真希は知り合いなのか久しぶりだのなんだのと言葉を交わしていた。
「あ~、知り合い?」
「悟が面倒見てた奴だ。一応、顔馴染みだな」
貴丈の問いかけに真希が応じ、小さく溜め息を吐く。
その横で五条は「あの頃は大変だったね~」と心底面倒くさかったと言わんばかりに天を仰いだ。
「血筋的には禪院家の子なんだけど、色々あって僕が面倒見てるんだ」
五条の言葉に貴丈も合点がいったのか、なるほどと頷く。
禪院家の血筋ということは真希の親戚ということだ。あの家から連れ出すのに様々な面倒があったのだろう。
「てことは。予想通りに、呪術師としては向こうのほうが先輩か」
「そうだね」
貴丈が苦笑混ざりにそう告げて乙骨の肩を叩くと、パンダと狗巻への挨拶を済ませた伏黒が寄ってくると、乙骨と共に一礼した。
「初めまして。乙骨憂太です」
「桐生貴丈。よろしく」
緊張しているのか、乙骨は何故か敬語で、貴丈は慣れた様子で微笑みと共に。
「よろしくお願いします」と一礼を返す伏黒に、五条は吹き出しそうになりながら肩を震わせていた。
「よろしくお願いしますって、さっきまで噂の二人に会えるって興奮してたのに」
「してませんよ」
「してたよ。ソワソワしちゃってさ」
五条の言葉に嚙みつく伏黒。
何のことだと疑問符を浮かべる二人に、五条はニッと無邪気なまでの笑顔を浮かべた。
「二人は自分が思っている以上に有名ってこと」
「はぁ……」
その言葉にいまいち実感が湧かない二人は気の抜けた声を漏らした。
貴丈は特級。乙骨は元特級。二人の特記戦力は確かに目立つだろうし、同年代からすれば気になる相手ではあるだろう。
じっと見てくる伏黒の視線に気付き、貴丈は首を傾げた。
「どうかした?」
「いえ。もっと五条さんみたいな人を想像してました」
「なんで!?」
「そりゃ僕みたいに凄い子だって言いふらしてるからね!」
伏黒の発言に驚いていると、五条が得意げに笑いながら胸を張った。
「俺、そんなに凄くないですよ!?」と困惑の声をあげる貴丈に、五条は「もっと自信持って!」と励ます。
まあ、彼の自己肯定感が低いのは仕方がないところもあると思うが。
「さて。募る話もありそうだし、休憩!」
「そうですね。ところで伏黒くん、コーヒーは飲める?」
五条の休憩宣言に合わせ、貴丈は伏黒の好みを探る一手を打った。
「飲めます」と即答して来た伏黒に「それはよかった」と返し、貴丈は笑った。
「実はコーヒー淹れるのが趣味でさ。入学してからでもいいから飲みに来いよ」
そんな人懐こそうな笑みを浮かべる彼に少々意外そうに見つめた。
人を呪霊に変える特異な術式により家族を呪霊へと変えてしまい、そんな家族を全て討伐するために術師となった男。
そんな話を聞いていたので、その後の武勲を聞いて尊敬はしつつも恐ろしい人なのかと思っていたのだが……。
「いただきます」
所詮、又聞きでの噂話だ。やはりこうして直接会ってみなければわからないと笑みを返し、頷いた。
なお本当に飲みにいった結果、謎の激苦コーヒー(?)を飲まされた伏黒はそのままぶっ倒れ、しばらく寝込むことになる。
そして貴丈も真希もこれを普通に飲むと聞かされた後、二人を見る目が少々引き気味になるのだが、それはまた別の話だ。
④先輩について
夏。貴丈が五条提案の虎杖育成計画が裏で進む中、伏黒と釘崎は二人で校門の前に座り込んでいた。
寺社仏閣に似た呪術高専の校門とはつまり鳥居だ。その足元に座る二人は、虎杖の死について考え込んでいた。
呪術師にとって死は身近なものだ。だが、例え二週間といえど共に過ごした友人の死は、流石に堪えているようだ。
二人が重々しい溜め息を吐きながら項垂れていると、
「いつにも増して辛気臭いな、恵。通夜中か?」
真希の登場により、その空気が一変した。
薙刀の入れた袋を背負い直しながらの言葉に、伏黒が「禪院先輩」と彼女を呼んだ。
「私を苗字で呼ぶんじゃねえ。ったく、何回言わせんだよ」
「真希!真希さん!まじで死んでるんですよ、昨日!一年坊が一人!!」
「おかか」
そして木の影から様子を見ていたパンダと狗巻も顔を出し、冷や汗を流しながら必死になって訴える。
「は、や、く、言、え、や……っ!」
その声に真希もまた大量の汗を流しながら怒鳴った。
「これじゃ、私が血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!?」
「実際そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ」
怒りの形相のまま声を荒げる真希に、パンダと狗巻のツッコミが放たれる。
そんな漫才じみた二人と一体のやり取りに釘崎は困惑し、「なに、あの人、人?たち」と問いかける。
「二年の先輩」
釘崎からの問いかけに伏黒は半目になりながら答え、溜め息を吐いた。
「禪院先輩は呪具の扱いなら学生一だ」
「だから苗字で呼ぶな」
「呪言師の狗巻先輩。語彙がおにぎりの具しかないから、慣れろ」
「すじこ」
「パンダ先輩」
「よろしくな」
真希、狗巻、パンダの順で紹介する伏黒だが、釘崎はパンダを指差しながら伏黒をジト目で睨む。
「お前、一番気になる奴への説明をそれだけで済ませる気か?」
「……パンダ先輩はパンダ先輩だからな」
「ああ、そう」
伏黒の説明になっていない説明に諦め、嘆息する釘崎。
「あと乙骨先輩っていう手放しで尊敬できる人がいるが、今は海外」
「おいおい伏黒く〜ん。貴丈先輩は?結構懐いてるだろ?」
ほれほれと肘で小突いてくるパンダの指摘に、伏黒は照れたように頭を掻きながら「懐いてないですよ」と言い返すが、釘崎が「誰それ」と問いかけてきたことで話を中断。
「桐生先輩は、まあ、尊敬できるところもあるし、いい人なんだが……」
「だが?」
「コーヒーを勧めてくる癖にクソ不味いのしか出してこない」
伏黒が目を伏せ、腹を摩りながら告げた言葉に『あ、こいつ酷い目にあったんだな』と察しながら、伝えるべき大事な情報それなのと呆れてしまう。
「ちなみにあんな怖い顔をしている真希も、貴丈がいると少し丸くな──ッ」
そして便乗してパンダが豆知識を披露するように真希と貴丈の関係を弄ろうとした瞬間、放たれな鉄拳がパンダの顎を下から打ち抜き、彼の巨体が宙を舞った。
そのままどちゃ!と音を立てて墜落したパンダに詰め寄りながら、パキパキと指を鳴らした真希は凄む。
「何か、言ったか?」
「いいえ!なんでもありません!すんません!!」
慌てて土下座するパンダのアタマを踏みながら「いつまで擦るんだよ、あ?」と睨みつける彼女に、パンダは「いつまでだろうな」と何故か意味深な笑みを浮かべる。
再び頭を踏ませて泥だらけにされるパンダを他所に、伏黒は状況についていけない釘崎に言う。
「禪院先輩の前で、あんまり桐生先輩の話題は出さないほうがいい。ああなる」
「桐生先輩って、何者なのよ」
「お人好しだ。何かあればすぐに助けようとしてくる」
伏黒は貴丈をそう締めくくり、そしてついでだと情報を追加した。
「とりあえず、顔見ればわかるぞ。一回見たら忘れられない顔してる」
「いや。それもどういう意味よ」
伏黒の言葉にやはりついていけない釘崎。
だがまあ、伏黒にここまで言われるのなら悪いやつではないんだろうと推察し、会ってみないことにはとその先輩との出会いに僅かに期待。
顔見たら忘れないって、なに?という疑問も、その時わかるだろうと溜め息を吐くのだった。
「あ、あの!?真希さん!?そろそろ勘弁してくれませんかねぇ!?」
「駄目だ。このまま埋まってろ」
そんな彼女の視線の先では、踏まれすぎて地面にめり込んでいくパンダと、そんなもの気にせずに更に踏みまくる真希の姿があり、
(……禪院先輩って、まさか……)
ピキーン!と乙女の直感が働いたが、口には出さないでおいた。
虎杖からは長生きしろと言われたのだ。それを抜きにしてもまだ死にたくない。
大変なことになりそうと内心で溜め息を吐きながら、釘崎は先輩たちの京都姉妹校交流会への参加を打診され、強くなるためを理由にそれに応じるのだった。
次回からは姉妹校交流会編。
感想等ありましたら、よろしくお願いします。