ビルド廻戦   作:EGO

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モジュロの情報が色々と出てきましたが、貴丈の現状だと、

貴丈の中にいる奴。
呪力で動くバイクの開発。下手しなくても呪力のエネルギー効率問題をどうにかできる。
スマッシュとかいうカリヤンもどきを作れる能力。
そのカリヤンもどきを倒して取り込む能力。

が問題っちゃ問題ですかね。
大丈夫だろうか……。


姉妹校交流会 ースパークリングな隠し味ー
1.


 呪術高専東京校。校舎前。

 

「なんで皆手ぶらなの!?」

 

 朝の静寂を野薔薇の叫びが木霊した。

 それに首を傾げるのは真希、狗巻、パンダ、伏黒の四人だ。

 野薔薇は自身の足元のスーツケースと手ぶらの四人を交互に見つめる。

 

「これから京都()姉妹校交流会でしょう?」

 

「京都()姉妹校()交流会だ。ここで」

 

 彼女の問いかけにパンダが説明してなかったっけ?と真希達に目をやりながら答え、真希達もやれやれと溜め息を吐く。

 どうやら情報がうまく伝わっていなかったようだ。野薔薇は京都に遠征する気満々でこの日を迎え、出花を挫かれたのだ。

 こんきくしょ〜!と彼方に向けて叫ぶ野薔薇を他所に、真希は校舎に備え付けられた時計に目を向けて、周囲を見渡した。

 

「貴丈の野郎。こんな時に限って遅刻か?」

 

「部屋行ってもいなかったしな」

 

「しゃけ」

 

「いきなり任務が入ったなら、連絡くれますからね」

 

 不機嫌そうに貧乏ゆすりしながら呟かれた言葉にパンダが答え、狗巻が肯定し、伏黒が貴丈からの連絡がないという状況に疑問を持つ。

 任務が入っただの、長引いているだのの連絡がないのなら、どこかで油を売っているのだろうか。姿を見せない五条に使いっ走りにされている可能性もある。

 そんな中、約一名を除いて貴丈を心配する彼らに近づいていく一団があった。

 

「来たぜ」

 

 真希が顎で示した先にいるのは呪術高専京都校教師、歌姫を先頭にした生徒の一団。

 

「あら、お出迎え?……あいつはいないのね」

 

 真希に目を向け、ついで貴丈を探して目線を巡らせた真依は、彼の不在に苛立ちを隠そうともせずに舌を弾く。

 続いて東堂も周囲を見渡し、くわっと目を見開く。

 

超親友(ブラザー)がいない!?どこだ!?」

 

「…………」

 

 東堂の怒号に鬱陶しそうに耳を塞ぐのは、肩にかけられた箒と二つに結んだ金髪が特徴の小柄な女子生徒。

 箒とその髪型も相まって絵本からそのまま出てきたような印象を受ける魔女っ娘は京都校三年、西宮桃。

 

「桐生と乙骨がいないのはいいとしテ、一年二人はハンデが過ぎないカ?」

 

 貴丈と乙骨の不在を指摘し、その代打たる伏黒と野薔薇の力不足を指摘するのは、簡単に言えば人ではなかった。

 角ばった頭部に翡翠にも似た色の瞳。発した声も何かのフィルターを通しているようにくぐもり、何より開いた口には舌ではなく砲口のようなものが覗いている。

 

「ロボだ!ロボがいる!!」

 

 野薔薇が指差して驚きと興奮を見せるが、京都校の面子を知る他の東京校の面々の反応は薄い。

 そんな様々な視線を向けられるのは京都校二年、究極(アルティメット)メカ丸だ。

 彼が興味なさそうに東京校の面々から視線を外すと、代わりに視界に納まったのは前髪を白い髪飾りで固定した髪型の糸目の青年。

 

「呪術師に歳は関係ないよ」

 

 と、メカ丸に釘を刺した彼は京都校三年、加茂憲紀。五条、禪院に並ぶ呪術御三家の一つ、加茂家の時期当主にして準一級術師。加茂家相伝の才能(じゅつしき)を持って生まれた、未来を約束された呪術師だ。

 そんな彼は伏黒に目を向けて言う。

 

「特に伏黒君。彼は禪院家の血筋だが、宗家より余程できがいい」

 

 そんな後輩を褒めることを口にした瞬間、流れで刺された禪院家宗家の落ちこぼれである真依が露骨に舌を弾き、加茂を睨みつける。

 そんな彼女を「まあまあ」と宥めるのは腰に刀を帯びた青髪の女子生徒、京都校二年、三輪霞。

 真依のあまりの剣幕に冷や汗を流していると、

 

「はーい。内輪で喧嘩しない」

 

 パンパンと手を叩きながら引率の歌姫が姿を見せた。

 彼女は東京校の生徒しかいないと見るや「で、あの馬鹿は?」と名指しはせずにどこにいると生徒らに問いかけた。

 

「悟は遅刻だ」

 

(バカ)が時間通りに来るわけねーだろ」

 

「誰も馬鹿のことを五条先生とは言ってませんよ」

 

 パンダ、真希のあまりにも辛辣な言葉に伏黒がフォローするが、遅刻していること自体には思うところがあるのかそれ以上のことは言わない。

 

「それよりも超親友(ブラザー)はどこだ!?真依と共に再会を楽しみにしていたというのに!!」

 

「私を巻き込まないでくれる!?」

 

 苛立つ歌姫の脇を抜けながら、真希らに掴みかからん勢いで問い詰める東堂。

 巻き込まれた真依の悲鳴を他所に、鼻息を荒くしながら周囲を見渡す。

 だが何度それをしようがここにいるメンバーは変わらない。東京校と京都校の生徒達と、歌姫の困り顔があるばかりだ。

 超親友(ブラザー)超親友(ブラザー)!と叫ぶ東堂の咆哮が東京校に響き、そこに集まる面々が耳を塞いでいると、バイクのエンジン音が彼の咆哮に混ざり聞こえ始める。

 音の主がいるのは彼らが(たむろ)する校舎前と正門を繋ぐ長い階段の下。

 エンジン音がだんだんと大きくなり、周囲の視線を独り占めにした瞬間、階段をジャンプ台代わりにしてバイクが上空へと飛び出した。

 

「だからとばし過ぎですって!?」

 

「たまにはこんくらいしないとねぇ!!」

 

「おおおおおああああああああ!?!?」

 

「わあああああああああああああ!?!」

 

 生徒らの頭上を飛び越えていくバイクと、そこに増設されたサイドカーからは一人の歓声と三人分の悲鳴があがり、前者二人の声に覚えるのある東京校二年と歌姫、真依、東堂は驚きつつも遅い到着に息を吐き、後者の声に覚えるのある伏黒と野薔薇は怪訝そうに眉を寄せた。

 ガシャン!とサスペンションの悲鳴と共に着地するマシンビルダー。

 ハンドルを握る長身の男性とその後ろに乗る白いトレンチコート風の制服を着た青年。サイドカーに詰め込まれているのは、呪術高専の制服を着た二人の青年だ。

 マシンビルダーに乗っていた二人が先に降り、ヘルメットを取る。

 

「お疲れサマ〜。待たせたね、皆!」

 

 五条はふぅと息を吐きながらぐっ!とサムズアップし、その横で両膝に手をついてぐったりとしている貴丈は、

 

「二度と、五条先生には運転させねぇ……」

 

 そんな愚痴をこぼしながら真希らに目を向け「遅れて悪い」と顔の前で右手を立てて謝罪の言葉を吐いた。

 

「おう。遅かったな」

 

 ようやくの登場に真希が笑みを浮かべて応じると、パンダと狗巻も久しぶりと言わんばかりに手を挙げた。

 

超親友(ブラザー)!待っていたぞ!」

 

「東堂先輩もお待たせしました。真依も元気そうだな」

 

「お陰様でね」

 

 ズカズカと歩み寄り、右手を差し出してくる東堂。その手を掴んで握手した貴丈は、そのまま真依にも声をかけた。

 当の彼女の反応は薄いが、僅かに口角があがっているから喜んではいるのだろう。貴丈が笑みを返すと、真希が僅かに殺気立った。

 貴丈が乙女の殺意を軽く受け流していると、五条がサイドカーの方へと回り込む。

 

「そしてこちらが新入生の吉野順平君で〜す!あ、今回は見学ね」

 

 そのまま片手でヘルメットを剥ぎ取り、サイドカーで固まっていた吉野の両脇に手を入れて持ち上げ、東京校の面々に見せつける五条。

 突然の同級生、あるいは後輩の登場に面食らい、周囲の視線に晒されて吉野も固まる中で、彼を降ろした五条が最後の一人のヘルメットをポンポンと叩く。

 

「そしてこちらが〜〜」

 

 ヘルメットを叩いた手で今度はぐりぐりと捻り始め、勿体ぶるように周囲を煽る五条。

 ニヤニヤとイタズラ小僧のように笑い、ひたすらに周囲を苛立たせる彼の行動に歌姫が額に青筋を浮かべると、焦ったいと手を伸ばした貴丈がヘルメットを剥ぎ取った。

 

「虎杖悠二。実は生きてました」

 

「え!?お、おっぱっぴー!」

 

 突然ヘルメットを剥がされ、生徒達に素顔を晒すことになった虎杖は慌てて両手の小指と親指を立て、右手を上に、左手を胸の前に置く謎のポーズを披露するが、その瞬間に空気が凍った。

 本来であれば死んでいる──というよりかは事実死んだことにされていた男が、元気そうな様子で目の前にいるのだ。驚きもするし、混乱もするだろう。

 東京校の面々も、京都校の面々も言葉を失い、地獄のような時間が過ぎていく中で冷や汗だらだらの虎杖は助けを求めるように貴丈に目を向けるが、

 

「お前、知ってたな」

 

「うす」

 

「なのに、黙ってたの?」

 

「色々事情があって……」

 

「なんだ。心配して損したな」

 

「それは、ありがとうございます」

 

 真希、真依、東堂の三人に詰め寄られ、砂利も目立つ石畳の上で正座させられていた。

 三方向から囲まれて逃げ場のない彼を諦め、吉野と五条に目を向けるが、

 

「順平は後で面接ね。まあ、すぐ終わるから緊張しないでね」

 

「は、はい!」

 

 二人も二人で次の話題へと移っている。

 一人放置される虎杖が泣きそうになっていると、不意に校舎から二名が姿を現した。

 

「宿儺の器!?どういうことだ……」

 

 一人は京都校の楽巌寺学長。もう一人は東京校の夜蛾学長だ。

 虎杖の生存に驚く二人に、五条がひらひらと手を振りながら二人に──正確には楽巌寺へと近づいていく。

 

「いやー良かった良かった。びっくりして死んじゃうかもって思ってたけど、大丈夫そうですね」

 

 くくくと悪役のような笑みを浮かべながら学長を覗き込む五条。

 彼のあまりにも舐め腐った態度に「糞餓鬼が」と目を血走らせながら睨み返す楽巌寺。

 

「おいこら、虎杖。何か言うことあんだろ」

 

「え……」

 

 そんな大人達のやり取りを横目に、伏黒を引き連れた野薔薇が乱暴にサイドカーを蹴った。

 涙ぐみながらと睨むつけてくる彼女に、虎杖も流石に罪悪感を感じたのか、「黙っててすんませんでした……」と素直に謝罪の言葉を口にした。

 夜蛾が五条にコブラツイストで折檻し、その様を歌姫がいい気味だと笑い、とりあえず校舎前の混乱は落ち着いていくのだが、問題が一つ。

 姉妹校交流会初日は、各チーム総出で行う団体戦だ。

 敷地内に放たれた二級呪霊を祓うのが目的ではあるが、設けられた制限時間に間に合わない場合はその道中で祓除した呪霊の数によって勝敗を決める。

 と、そのルールの都合上、一人でも多い方が有利となる。虎杖の参戦という異常事態により、東京校の方が一人多くなってしまった。

 

「……誰か抜ける?」

 

「構わん。一人程度、いいハンデだ」

 

 貴丈が申し訳なさそうに友人と後輩らに目をやる中、東堂はゴキリと指を鳴らして東京校の面々を睨んだ。

「勝手に決めないでくれる?」と真依が待ったをかけるが、聞く耳を持つつもりもない東堂は「全員でかかってこい!」と東京校に宣戦布告。

 

「なめられたもんだな」

 

 その言葉に真希もまた好戦的な笑みを返し、東堂を睨む。

 

「止めないでいいんですか?」

 

「好きにさせてやれ。貴丈もいる、下手なことは起きん」

 

 歌姫の問いかけに夜蛾が止めても無駄だろうと言わんばかりに溜め息を吐き、相変わらず極められている五条も悶えながら「大丈夫、大丈夫」と親指を立てた。

 楽巌寺もまた仕方ないと言わんばかりに嘆息すると、そのまま各校に別れての準備時間となるのだった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで待機部屋へと集まった東京校の面々。

 吉野、虎杖の自己紹介も終え、とりあえず自由時間となった貴丈は一人自販機の前に立っていた。

 虎杖の生存を黙っていた罰として使いパシリをしているわけなのだが、

 

「別に着いてくることねえだろ」

 

「うるせぇ」

 

 なぜか自販機に寄りかかりながらじっと見つめてくる真希の視線から逃れるように、それぞれの希望が書かれたメモ帳に視線を落とした。

 そのまま硬貨を入れ、黙々と飲み物を選んでいく貴丈。

 ガコンガコンと取り出し口に飲み物が転がる音を聞きながら、横目で真希へと目を向ける。

 眼鏡越しに、ただまっすぐにこちらを見つめてくる双眸に、貴丈は負けたと言わんばかりに息を吐きながら両手を挙げた。

 

「わかった、悪かったよ。心配かけて」

 

「……ああ。そうだな」

 

 貴丈が吐き出した謝罪の言葉を、珍しく素直に受け取る真希。

 その姿に面を食らう貴丈だが、真希はそのまま言葉を続ける。

 

「お前のことだから、いちいち責任感じてそうだなって思っただけだ」

 

「流石の俺もそこまで考えねえよ」

 

「……本当か?」

 

「本当だ」

 

 二人はしばし見つめ合い、真希は小さく鼻を鳴らして貴丈からコーヒーを奪うと踵を返した。

 

「ならいい」

 

 そのまま歩き出す彼女の背中を目で追っていると、彼女は不意に立ち止まって彼に問いかけた。

 

「他に隠してることはねぇんだな?」

 

「……あるにはあるぞ。言えねぇけど」

 

 背中越しの問いかけに、貴丈は大事は部分を隠しつつ本当のことを口にした。

 

「それは私を信用してねえからか。それとも──」

 

「巻き込みたくないから、かな」

 

 今の貴丈が抱えている問題は、言ってしまえば五条が裏で手を回してくれているからどうにかなっている状態だ。

 変異型呪霊(スマッシュ)問題。

 そして宿儺の器問題。

 二つの秘匿死刑案件を腹に抱えている現状は、真希ではどうにかできるものではない。

 そして彼女と同じ学生でしかない貴丈の首を、世界の平和のためという大義が──そして権力にしがみつきたい上層部の欲望が、ゆっくりと締め上げている。

 真希が振り向いた。その瞳に宿る瞋恚の炎の矛先は、貴丈ではなく彼女自身。

 今の彼女では彼の力にはなれないと突きつけられ、だがその程度で折れるほど彼女も柔ではない。

 今回の交流会。これで活躍すれば呪術界の上役の目に留まり、運が良ければ昇級の話も舞い込むことだろう。

 もちろんそこに禪院家の横槍も、上層部との癒着もあるだろうが、それも実力で黙らせることができれば──。

 

「貴丈。勝つぞ」

 

「言われなくても」

 

 彼女はそう告げ、今度こそ背を向けて歩き出した。

 勇ましく進む彼女の背を見送り、貴丈は最後のペットボトルを回収し、彼女と友人らと合流しようと歩き始めるが、

 

「なんだ貴様。まさかあれが──」

 

 不意に頬から宿儺の声が漏れた。窓の反射越しに自分を見れば、そこには頬に宿儺の瞳と口が現れていた。

 彼も同じように貴丈を見つめる中、貴丈は自分の頬を叩いて黙らせる。

 今度はその手の甲に宿儺の口が現れ、けひひと不気味に笑い始めるが、貴丈は溜め息を吐いて手を下ろした。

 

「本当にそうだったとしても、それどころじゃねぇんだよ」

 

「そうか。大変だな」

 

 お前のせいなんだがと他人事のように宣う宿儺の唇を摘みながら言うと、彼は可笑しそうに笑いながら引っ込んでいった。

 残るのは自分の手の甲を抓る貴丈ただ一人。

 

「真希のためにも頑張らねぇと。真依には悪いけど」

 

 真希同様、真依にとっても交流会は自分の実力を示すチャンスでもある。

 ここで力を見せつければ、禪院家での立場もどうにかできるかもしれない。

 だが今回ばかりは負けてやらないと、少々意気にならせてもらう。

 

「あ。貴丈、ちょっといい?」

 

 溜め息混じりに真依への謝罪の言葉を胸中で吐いていると、廊下の奥から五条が顔を出した。

「どうかしました?」と問い掛ければ、彼は貴丈に肩を回して耳元に顔を寄せる。

 

「楽巌寺学長のことだ、多分交流会中に悠二のことを殺そうとすると思う」

 

「真依や東堂先輩を使って、ですか?」

 

「いいや。多分使うなら憲紀かな。加茂家の次期当主だし。頭硬そうだったしね」

 

「憲紀。ああ、あの丁髷(ちょんまげ)頭の」

 

「丁髷とは、違うと思うけどね」

 

 貴丈はあの妙な髪型をしたあいつかと合点があった様子を見せ、わかるならいいやと投げやりになる五条。

 

「とにかく。明日の競技ならそんなことにはならないだろうから、今日だけでもお願いね」

 

「わかりました」

 

 貴丈が頷くと、五条は「頼んだよ〜」とひらひらと手を振りながら廊下の向こうへと消えていく。

 

「……大変だな、貴様」

 

「喧しい」

 

 頬から聞こえる宿儺の声に、貴丈は天を仰ぎながら溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 




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