私には父がいた。
私は物心ついた時から父と、生活していた。
その頃からわかっていたことは、私は明らかに父の娘ではないと言うことだ。
私は巷でいう『ニンゲン』という生物の肢体をしていた。それに相反するように父は、『ガイチュウ』と呼ばれるような肉体を持っていた。
幼い頃に、教養のなんたるかを学ぶことのできなかった私には、『ニンゲン』も『ガイチュウ』もわからなかった。
でも、それでも私達は仲良く暮らしていた。
朝、父はどこかに出かける。しかし、私は危ないからか同行したことは一度もなかった。だから私は朝、昼と父の帰りを待ちながら付近で夜ご飯の調達をする。
夕焼け小焼けになると羽音がだんだんと近づいてくる。父が帰ってきたのだ。
「今日もお疲れ様。お父さん!料理出来てるよ!」
父は私と同じ言葉で喋らず、ただそのさざめきで返答をする。
父は菜食家であった。私がこしらえた山菜のサラダを、挟むように口に運ぶと咀嚼を始める。
もしゃもしゃと、音が小さく鳴り終わると、さざめきが喜びて満たされていた。そして、父の角張った手が、私の頭を撫でる。
褒めてくれているのだ。
私は昔から褒められるのが好きだった。それでこうして父が喜びそうなことを、隙を見て実践している。
食事が終わると、父が眠りの体勢に入る私に子守唄を歌ってくれた。りーん、りーんと響く音。昔からこの音に慣れ親しんでいる私は、今日もこうして1日を終えるのだ。
私は目を閉じると、微睡に身を任せる。
そんな当たり前の幸せがすぐそこで崩れ去ろうとしていたのに・・・
外が騒がしい。まだ日が登るにはあまりにも早く、星が瞬きながらも空がその身を暗闇に落としている。
いつもここに寝ているはずの父が、今日はいなかった。
私は嫌な予感がした。そうして音の鳴る方へ歩いていく。
そこには、真っ二つにされた父の姿があった。
「お父さん!お父さん!」
私はすぐに駆け寄った。しかし、その生気はなくもう返事すらしてくれない。
私は泣いた。そんな後ろに誰かが立っていたのにもお構いなしに、泣き続けるのだった。
※※※※
私は思い出に焼きついた光景と、同じものを見てる気分だった。
目の前の女の子が、私が殺した害虫を「お父さん、お父さん」と言いながら泣きじゃくっているのだ。
私は害虫に大好きなお母さんを殺された。そうしてその穴を憎しみに沈めて、少しでも補おうとした。
そうして目の前のことが起こった。
私は何も言えなかった。だってこの子の声が本当ならば、彼女の父親を殺したのは私自身なんだから。
手元が赤く歪む。
あぁ、私はきっと殺意に身を任せて、取り返しのつかないことをしてしまったんだろうな・・・
もう一度、彼女を見るとその瞳がこちらを向いていた。
憎悪に満ちた何処か遠い昔に感じたことのある瞳
────きっと私はこの子に殺されるんだろうな。
そんな予感がした。
私が瞳を逸らし静かに空を見上げると、あの頃と変わらぬ星々が、巡り来る運命を象徴するかの様に瞬いていた。