DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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GカップJCです(>_<)様、ストランド様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。


九、はじめてのかちこみ(単独)

 ブリニョルフに今後の指針を相談した翌日、私は彼から渡された地図を頼りにブレックス一派が塒にしているという砦へと駆けていた。

 計画についてまとめてしまえば、然程のことはない。

 

 一つ。ウィンターホールド、もしくはほかの町の有力者となるために、資金源と人員を確保する。

 一つ。それら両者は、現在目標としている元盗賊ギルド員で構成されたブレックス一派を第一候補とし、私個人の配下にすることで解決する。

 一つ。配下の確保に失敗したときは、第二候補同胞団、第三候補ウィンターホールド大学を訪ね、私自身の地位を確立しつつ内部で協力者を探す。

 一つ。それら全てに失敗した場合は、計画を練り直すか、計画そのものを白紙撤回し、冒険者として名を上げる。

 

 最後の一案は、一見、最悪の事態に思えるが、私としては特段気にしてはいない。

 案外面白そうだからだ。

 元々、私がスカイリムで生活する基盤を整えると同時に友の役に立つことができれば、との考えから提案したのだ。

 それが頓挫したところで、彼は私を労うだけで責めはしまい。

 

 更に聞くところによれば、世には件のペンダントのような希少で高価な宝物が多く確認されているとか。

 所在が判明しているのにそれが回収されていないのは、ペンダントが安置されていた古代ノルドの墳墓や、それと同じく『ファルメル』という異形が巣食う危険な『ドゥーマー』遺跡など、およそ人が立ち入れる場所では無いかららしい。

 古い文献から所在だけはわかっているのに、脅威の存在故に手出しできない。そういった状況が求める者の欲を高め、宝物の値を吊り上げているのだとか。

 それらを回収し、ギルド経由で好事家達に融通してやれば、私の計画とは別口で各地の有力者と伝手を持つことができるだろう。

 何せブリニョルフの言う「一財産」を工面できるだけの財力を持つ者達だ。それなりの地位に就いていることは想像に難くない。

 そしてその有力者がギルドを己にとって有益な存在だと認識する公算は高い。

 

 緻密に計算された策、というものにも憧れるが、私としてはやはりある程度余裕のある計画のほうが気が楽でいい。

 「失敗したのなら、手を変え品を変え二の矢三の矢を射てばいい」という発想は、大変馴染み深いものであるし。

 

 

 

 私が計画について思いを馳せていると、街道沿いに林が見えてきた。

 地図によれば、この林を北に抜けた先の小高い丘に砦はあるらしい。

 砦を造るには納得の立地と言える。

 

 私は林の中を突き進み、木々がまばらに開けてきたあたりで一度歩を止めて、砦の樣子を探った。

 こちらから覗えるのは砦の南側で、高い石壁がそびえている。出入り口の類は無さそうだ。

 壁の左右には監視塔が備えられており、それぞれ弓を構えた見張りがいる。

 どう攻めるにしても、ちと情報が足りない。私は隠密用の指輪を付け、林の木々、林を出てからは岩、地面の細かな起伏などに身を隠しながら、砦を遠巻きに一周した。

 今の私は姿が薄れているため、余程目のいい者でも見えはしないはずだが、万が一ということもある。違和感を覚えられるだけでも面倒だ。

 

 そして偵察している内に思った。

 連中を従えるにしても鏖殺するにしても、逃走されてはどちらも叶わない。

 私は逃げる敵を追いかける、という経験はそこまで無いのだ。『結晶トカゲ』は勘定に入れるべきではないし、出くわす闇霊が不利を悟って逃走することがあった、程度のものである。

 友に相談したときは真正面から殴り込めばいいかとも思っていたが、それでは不本意な結果に終わるだろう。

 先日の襲撃よろしく、まずはこの隠密態勢のままで静かに賊を無力化し、ブレックスなる頭目の元まで辿り着きたいところだ。

 戦闘の気配が近づき、頭の冴えを感じる。

 どうも私の集中力というヤツは、鉄火場でしか発揮されないらしい。難儀である。

 

 砦を探った結果、全体的に南側が高く、正面の門がある北側が低い造りになっているようだ。そのせいか、堀や柵など、北側の防備は四方において最も堅い。

 南側同様、北側左右にも監視塔があり、それぞれ射手がいた。また、それぞれの監視塔のみ鋸壁(きょへき)となっている。

 東と西は一面壁であり、北側ほどではないにしろ、足元には堀と柵があった。問題無い程度の防備だが、多少面倒ではある。

 この砦、元々の主目的は北からリフテンへ攻め入る外敵に備えたものなのだろう。

 左右に広く兵を置き、正面の敵には開けた視界を存分に活用し、砦全体から矢を雨のように降らせる。そんなところか。

 

 さて、砦の由来はどうでもよいのだ。問題はどう攻めるか、だ。

 まず正面からは論外だ。裏の南側が高いのだ。表の北側の異変を素早く察知されるおそれがある。

 東西も忍び寄れないことは無いが、壁を登る装備など持ち合わせてはいない。

 よじ登ることもできなくはないだろうが……。

 いや、いっそそうするか。最も高い南側の見張りは全周囲を見渡してはいるが、足元までは注意が向いていない。

 常に警戒していれば、敵が来たとしても壁に取り付かれる前に察知できるのだし、まさか最も高い壁をよじ登る者がいるとは考えないのだろう。

 当然と言えば当然なのだが、今回はその油断に付け込ませてもらおう。

 

 私はファリスの黒弓と、手持ちの矢の中では最も殺傷能力の低い『木の矢』を取り出し、数本の鏃(木の矢は先端が尖っているだけで鏃は付いていないが)に、林で拾った土を握り固めるように取り付ける。

 これを兜の上からでも当てれば、死ぬことはあるまい。

 とはいえ、全く音がしないわけでもないだろうから、出来得る限り接近した上で無力化したいところだ。

 

 

 

 簡単に準備を整え、砦へ慎重に近づく。

 ブリニョルフの反応から察するに、私の指輪による隠密を見破る付呪、というものは存在しないか、もしくは極めて珍しい品であると思われる。

 眼前の見張りがその付呪された装備を所持している、とは考えづらいが、これも万が一を防ぐためである。

 南側には防備らしいものも無かったため、壁まで辿り着くのにそう時間はかからなかった。

 そこで私は、最初の標的を向かって右側の見張りに定めた。

 なんとなく、という程度だが、左の見張りのほうが警戒心が薄いように思えたからだ。

 不意打ちが成功しやすい場合は、初撃で難敵から始末するのが私のやり口だ。

 壁沿いに右の監視塔足元まで移動する。

 

 壁を登る際にも注意を払う。

 ここまで来れば、右の見張りには気付かれまいが、左の見張りはこちらからも目視できる。

 折角こんな面倒なことをしているのだ。壁に貼り付いた間抜けな格好で発見されては、何のための苦労か。

 極力、左の見張りの視線が北や西に向いているときに登り、それ以外のときはじっと動かず耐える。多少は違和感も減るだろう。

 

 監視塔の頂上に手が届いた。

 ここを登りきれば、一瞬の油断も許されない。

 最善は全員を生かして無力化。次善は逃走を企てる者のみを殺害。最悪は鏖殺。

 最悪の場合でも私は困りはしない。ギルドも手間が省けて喜ばしい。何の問題も無い。

 私は何度も考えたことを再度思い出し、精神を落ち着かせていく。

 それと同時に集中力を高める。一度目を閉じ、耳をすませる。鼻で大気を嗅ぐ。肌で風を感じる。

 目を開け、視点を定めないよう意識する。

 さて、連中はどの程度()()()のだろうか。お手並み拝見。

 

 

 

 ちらりと目だけを鋸壁の狭間から出し、見張りの注意が北に向いていることを確認する。

 準備が整ったところで壁を蹴り、腕一本で体を引っ張り上げる。

 そのまま見張りの背後に着地し、口を押さえながら掌底で頭を横から揺らして寝かせる。

 素早く残りの見張りを確認するが、誰もこちらを向いてはいなかった。

 先日の襲撃ですっかり慣れた捕縛術を用いて無力化すると、塔から外壁へ飛び降り、急ぎ左側の監視塔まで駆ける。

 駆けた勢いそのままに跳躍し、勢いを殺さず手足を使って(ましら)の如く登る。

 今度は見張りの注意を確認している暇は無い。

 勢いそのまま鋸壁の縁から躍り出ると、こちらも北側を向いて背を曝していた。

 先程と同様に声を上げさせないまま無力化し、拘束する。

 

 急ぎ北側を確認すると、そちらの見張りも正面や左右を警戒している。

 背後である南側には味方がいる、という安心感もあるのだろう。

 私は現在位置から近い左手の見張りから排除することにした。

 先程と同様に駆け寄り、こちらも同様に拘束する。

 最後の一人は、と視線を向けたところで緊張が走る。

 右手の見張りが、最初に襲った見張りの辺りを見て訝しんでいる。奴が右手を口元へと近づける。異常の有無を確認する口笛だろうか?

 こちらからでは体側面しか見えないため、顎は狙えない。

 急ぎファリスの黒弓と土付きの矢を取り出すと、兜を狙って放つ。矢は狙い違わず命中。見張りは倒れ伏した。

 土がいい塩梅に音を消してくれたようだ。

 

 異変に気付いた者がほかにもいないか周囲を見渡す。……おそらく問題は無いはずだ。

 矢で倒した見張りを拘束し、改めて周囲を確認する。

 砦の外壁上に人影は無いが、内側には中庭のような空間が見える。演習場と言うべきか。訓練や出撃前の整列にでも使うのだろう。

 その端で六人の賊が談笑している樣子を確認する。

 

 監視塔から外壁へ、外壁から演習場へと飛び降りる。賊を倒す前に周囲を探る。

 この場にいるのは奴等のみのようだ。

 接近し、金貨を一人に投擲しつつ駆ける。

 顎に金貨を食らった者が突然崩れ落ちたことにほかの者が驚くと同時に、一人へ当身を食らわせる。

 残りの四人が口を開きかけるが、全員顎を撫でて黙らせる。

 見張りに比べて多少手荒くなったし、手加減も怪しかったが、これでも気を遣ったのだから感謝してほしいものだ。

 

 今一度、周囲を探る。砦の外部に居た者は、これで全員無力化したらしい。襲撃に慌てる足音や喧騒などは聞こえない。

 

 さて、と。ここから見えるのは、まず砦内部へと通じる大扉が一つ。正面の門からまっすぐの位置にあり、人が二人か三人は横並びになれる。

 次に大扉に向かって左右背後には、勝手口のような扉が一つずつ。こちらは通常の大きさだ。

 出入りの度に大扉を開閉しているとは考えにくい。勝手口を常用しているのだろう。

 問題はどちらから侵入するかだが。

 ……右の扉から行くことにした。理由はこれまた「なんとなく」で特に無いが、強いて言えば最初に襲撃した見張りが向かって右手だったから、といった具合だ。

 

 

 

 あえて開閉時に立てる音には頓着せず、扉を開く。

 あまりに慎重に開けた場合、近くに賊がいればそれだけで怪しまれるからだ。

 扉を全開にし、片側への目隠しとする。そのあいだに反対側を確認。人影、無し。

 すぐに飛び出て、扉側を確認。一人の賊が椅子に座り寛いでいる。

 まだ異変には気付いていないようだ。接近し、当身を食らわせ無力化する。

 と同時に周囲を再度確認。こちらを目視できる範囲に人影は無し。

 まずは侵入成功である。

 

 一先ずの安堵を得て大きく呼吸をし、気を締め直す。

 まずはこの右手部分、砦東側内部の制圧を急がねば。

 見張りの仕草を見るに、奴等は符牒に口笛を用いるようだ。全員が使えると思ったほうが良いだろう。

 可能なら誰かが異変に気付く前に、一人残らず無力化したい。

 

 私は慎重かつ迅速に歩を進め、廊下で、階段で、度々賊と会敵しては制圧を進めていく。

 体感で東側はおよそ片付いたと思う頃、砦内部では外周に位置する廊下を西へ進んでいると、分かれ道が左手に見えた。

 構造的に、司令官の執務室へと通じるなら左だろう。

 しかし頭目ブレックスと話をする、という段になって邪魔が入るのはよろしくない。

 そのまま進んで、西側の制圧を進めた。

 

 

 

 西側が片付き、やっと本命だと分かれ道まで戻りいくらか進んだところで……見覚えのある黒い細紐が足元に見えた。おそらく罠だろう。

 「またか」と思うが、寧ろ「ここに来てやっと」とも言える。

 思えば、外部からこっち、罠らしい罠は見かけなかった。

 まぁ、考えてみれば、ここはいつ襲撃があるかわからないラットウェイと違い、奴等が定めた塒なのだ。

 自宅のそこかしこに罠を仕掛けるのは神経質に過ぎるだろう。

 それに、ここが砦という防衛施設である事実を鑑みれば、内部への侵入を許した時点で逃走を図るべき異常事態とも言える。

 故に罠の類は少なく、しかし執務室へと通じる通路には、念の為仕掛けておく。一応、筋は通る。

 

 しかし前回の襲撃とは違い、今現在ここには頼りになる盗賊ギルドの面々がいない。いるのは戦闘しか能のない男が一人だけだ。

 罠の可能性を考えなかったわけではないのだが、困ってしまった。

 何せこの罠、作動させたところで何が起こるのか見当が付かないのだ。

 矢が出てくるなら受け止めよう。しかしそれらしい穴は無い。鳴子も見えない。

 左右の壁を素人なりに探るがわからない。頭上や足元を注視してもわからない。

 ここまで順調に来ただけに、こんな細紐一つで足止めを食らうとは。

 だがあまり時間をかけるわけにもいかない。

 取り敢えず細紐を跨いでみる。案外それだけで回避できる代物かもしれないし。

 そうして、大きく踏み出した右足が床に着いた瞬間、床が崩れ浮遊感を味わった。

 

 

 

********************

 

 

 

 ブレックスは配下の報告で襲撃を知ったとき、一味の中でも一部を除いて、それを隠すよう指示した。

 報告と、実際に拘束された配下達を見たときから、襲撃犯は只者ではないと感じたからだ。

 外傷はあれど、重度の障害が残るものは一つとして無い。

 拘束されていた全員が、それこそ物語にのみ存在する不殺の英雄を相手取ったかの如く、無力化されていた。

 これを為した者が何者かは不明だが、接近すら気取らせない腕前を鑑みれば、少数の極めて優秀な精鋭による仕業であることは間違いない。

 

 同時にギルドの襲撃ではないと確信し、更に新たな疑問が増えた。

 ギルドの面々は、自分達が再び戻ることはないと理解しているはずだ。

 であれば態々生け捕りになどせず、速やかに命を断つだろう。それをしないのは何故だ?

 冒険者が首長府からの討伐依頼でやってきたとしたら、ギルドと同じく自分達の命になど頓着しないはずだ。そもそも、隠密行動に徹する理由が薄い。

 ギルドでも冒険者でも、当然、基本的に数で圧倒する戦術を取る衛兵隊でもない。

 ブレックスは襲撃犯が何者で、何の目的があって自分達を狙うのか、その背後関係を問い質すべきだと判断した。

 

 それ故に、相手を油断させるため襲撃を配下達に周知せず、更にいくつかの罠を仕掛けた。

 どの罠も大きな音が鳴るようできており、耳のいい自分ならば何処にいてもすぐに気がつく。

 仮に全ての罠を解除されるようであれば、襲撃犯はあらゆる面において自分達の敵う相手ではないことが判明する。

 そのときは一度撤退し、相手の出方を窺ったうえで拘束された配下の救出を狙う、と算段を立てた。

 

 ブレックスは仕掛けた罠の内の一つ。砦の外周部から内部上層へ通じる、一番手前に仕掛けた罠の真下へ移動した。

 そこは、砦が機能していた頃は捕虜収容に使われていた牢である。

 ここに襲撃犯が落ちてくるようであれば、その時点で相手は盗賊や斥候の技術を持つ者ではない可能性が高まる。

 また、近くには狭い隧道が掘られており、脱出の際にも都合がいいためこの場所を選んだ。

 

 

 

 しばらく待機した頃、牢の中に派手な音を立てながら男が一人落下してきた。

 受け身を取るまでもなく姿勢を整え着地し、素早く周囲を警戒する。

 そして男の視線が、格子の前で数人の配下と共に待ち構えていたブレックスと合った。

 

「……なるほど、盗賊の仕掛けた罠を素人が回避するのは難しいようだ」

 

「お褒めに預かり光栄だクソ野郎殿。手前にゃ聞きたいことがある。見てのとおり袋の鼠ってヤツだからよ、正直に口を割るが吉ってもんだぜ?」

 

 ブレックスは男の態度を見て警戒を強めた。

 この状態で落ち着いていられるのは、ハッタリではなく平常心を保てるだけの胆力と実力を備えているからだろう。

 

「まず手前は誰だ? ほかに仲間は?

 ギルドの人間じゃあねえだろう? だが明確に俺達を狙って来た。

 ギルドが冒険者の類を雇うとは考えられねぇ。面子に関わるからな。

 おそらくは極最近にギルドの協力者となった者、違うか?」

 

「ほぼ正解だが惜しい。私はブリニョルフの個人的な友人であって、まだギルドの外部協力者ではないのだ。

 ついでに言うと、一人で来たので仲間はいないぞ。

 ……ついでのついでに聞くが、お前が頭目のブレックスで相違ないか?」

 

 ブレックスは「質問しているのはこっちだ」と男の問いを切り捨てた。

 男が本当のことを喋ったかは不明だが、この外部協力者云々で嘘を言う意味も無いだろう。

 しかしブリニョルフの友人? ブレックスは、彼の若い幹部の交友関係を全て把握しているわけではないが、このような男は影も形も窺えなかった。

 男の言う「ほぼ正解」には「極最近」も含まれているのだろうか。

 だとすれば、単独だという言葉の信憑性は高まるが、それはそれで訝しい。

 

「次だ。ブリニョルフは若さ故か多少甘いが、間抜けじゃあない。たった一人の襲撃犯で俺達をどうこうできるとは考えんだろう。

 何かほかに策があるはずだ。吐け」

 

「残念だが、今度は不正解だな。特に策らしいものは無いぞ。

 あぁ、私が知らされていないだけで、心配性の彼が後詰を寄越した可能性が無くは無いが。

 どの道、私の預かり知らぬことだ」

 

 ブレックスの目配せで配下の一人が弓を構える。

 

「それこそ残念ではあるがな、無いと言われてほいほいと鵜呑みにするわけにゃいかねえんだよ。

 痛みを用いる尋問は正確性に欠けるが、何かしら策がある場合あまり時間がねえ。悪いが、多少強引でも吐いてもらうぞ」

 

「さて困ったな。私が知る限り、言ったとおり策らしい策は無いと思うのだが。

 ブリニョルフも今は謹慎中で、ギルドの力を借りることはできんだろうしな」

 

 ブレックスは思わず「何?」と聞き返してしまう。

 そして、あまりに事情が不明瞭であるため、男に説明を求めた。

 男曰く、つい先日、ラットウェイにてガマシン一派に襲撃をかけて大部分を捕縛、吸収した、と。

 曰く、作戦決行にあたりブリニョルフは自分を参加させたが、それはメルセル・フレイの承諾を得ない独断行動であった、と。

 曰く、その責任を取る形で、ブリニョルフは現在謹慎中である、と。

 男はヴェケルにまつわる話もしていたが、聞く限り矛盾は無いように思えた。

 少なくとも、格子越しにこちらを見ている男の力量は、ブレックス一味が身を持って体験した。

 

「忌々しいが、手前がホラを吹いていると断じるだけの判断材料がねえし、それをうだうだ聞き出している暇もねえ。

 最後だ。奴のご友人とやらは何を頼まれてここに来た? 何故俺達を生け捕りにしようとする。

 素直に答えるなら、月並みだが命だけは助けてやるよ。約束する」

 

「頼まれたわけではないぞ。

 ここには、お前達に私の計画を手伝う手足となってほしいがために来た。

 計画が失敗したところで困りはしないのだが、彼には大風呂敷を広げてしまったからな。できれば成功させたい」

 

 全く要領を得ない男の言葉に、ブレックスは困惑した。

 男の言う「手足となってほしい」とは、つまり一味を丸ごと自らの配下に加えようという意味だろうか。

 そのために、たった一人でのこのこやってきたと?

 

 ブレックスは意味がわからず、再度男に説明を求めた。

 曰く、自分達一味を配下に加え、それを礎にスカイリムのいずれかの町で力を持つ、と。

 曰く、その計画が成功すれば、現在のギルドの支援者に大きな顔をさせずにすむ、と。

 

「……手前の言葉に嘘は感じられねえ。

 だが、それなら何故俺達を襲撃した? 配下に加えようってんなら、当然俺達がそう思えるだけの何かを用意しているんだろう?

 交渉の席に付く前に実力行使ってのは、随分と()()()な作法じゃねえか」

 

 男はブレックスの問に対して、やや首を傾げる。

 

「特に何も用意はしていないぞ。

 一先ず頭目ブレックスに直接話をして、それで駄目なら頷いてくれるまで腕力に物を言わせようと思っていた。

 これは持論だがな。人の心が折れるときというのは、恐怖や絶望や、もしくは諦念によるものだ。

 何度でも、いつまでも暴力に曝されてなお心が折れない者は少ない。

 お前か、別のどこかに隠れている者なのか私には不明だが、ブレックスとやらがどの程度のあいだ耐えられるのか、試してみるのも一興と思ってな」

 

 男は囚われたまま、からからと物騒なことを言ってのける。

 そして「失敗して逃げられそうになったのなら、皆殺しにすれば良いだけの話であるしな」と更に物騒な(げん)を重ねる。

 ブレックスは男を狂人の類であると判断した。

 何せ男は牢の中にいて、こちらは閉じ込め、武器を向けている側だ。

 この状況でこの態度を取り続けるのは、いくら男が精鋭だとしても異常である。

 狂しているのならば、それこそ尋問など無意味であろう。当然、拷問もだ。

 更に言えば、男の行動と話から、助命して野放しにしておくことも得策ではない。再び襲撃を企てる可能性が高い以上、解放してやることもできない。ブレックスは弓を構えた配下に目配せした。

 

 しかし、事態はブレックスの思ったとおりにはならない。

 放たれた矢は、男がいつの間にか左手に構えた盾に阻まれていた。

 おそらくは魔術の類。まだ奥の手があったかと自らの短慮を悔いたが、尚の事、何か反撃を打たれる前に男を始末する必要がある。

 ブレックスの、殺せ! という号令の元、配下達が一斉に弓や投擲を放つ。

 自身も、毒の塗られたナイフを男の首元や足を狙って投擲した。

 だが、それらも全て防がれる。

 

「どうも認識に齟齬があると思っていたのだ。

 お前達、私が牢の中にいるから自分達が優位だと思っていたな? こんな物は何の障害にもならんと言うのに。

 ……少し下がっていたほうがいいぞ。怪我をするといけないからな」

 

 ブレックスが再度攻撃の号令を出そうとしたとき、男は巨大な槌を振りかぶっていた。

 柄の長さも、頭の長さも、口の直径も、全てが人一人分以上という冗談のような大きさだ。

 牢は元々、複数人の捕虜を収容できるよう、広く作られている。男が大槌を振り回すのに支障は無い。いやそういう問題ではない。

 何だあの大きさは? どこから出した? 何故振りかぶれている? 張りぼてか? だがそんな物を振り回して何の意味がある?

 では見た目どおりの重量があると? あ、速い……。

 

 男が格子に大槌を叩きつけ、耳をつんざく轟音と共に扉が吹き飛ぶ。

 それが運悪く扉の前にいた者に命中し、壁に叩きつけられた。

 ほかに格子の前で武器を構えていた面々も、()()()()()鉄棒が何本か吹き飛び、食らったため、数人が昏倒している。

 被害が無かったのはブレックスを始め、脇に避けていた者たちだけだ。

 

 男が、出したときと同様にいつの間にか大槌を消し、牢から出てくる。

 ブレックスが口を開く前に、配下の男が叫ぶ。「(かしら)を守れ!」と。

 ブレックスは配下に逃げろと言うつもりだった。しかし配下達は素早く自分を後方に押しやり、男に対して臨戦態勢を整えている。

 男の戦闘力は異常である。まず間違いなく殺されるだろう。

 いや、男の言葉が真実であれば、全員が拷問を受け続けることになる。そんなことはさせられない。

 だが、配下達は自分を背にして誰一人その場を動かない。

 ブレックスの胸中にいくらかの歓喜と、それを塗り潰すほどの苛立ちと焦りが浮かぶ。

 

「やはりお前が頭目ブレックスであったか。しかし聞いていた話と少し違うな。

 ブリニョルフによれば、敵わないと見ればとっとと逃げ出す、とのことだったが……。

 お前の配下は決死の覚悟でお前を守ろうとしている。誰も逃げる樣子が無い。お前も配下を置いて逃げる樣子が無い。

 さて、どうしたものか……」

 

 男が独り言を呟き、顎に手を当て呑気に考え事をしている。

 ブレックス達の配下は、男がいつ襲いかかってきてもいいよう身構えてはいるが、内心は男に呑まれてしまっており、自ら飛びかかることはしなかった。

 配下達にとって幸か不幸かは不明だが、恐怖から錯乱して無鉄砲な行動に出るほど胆力の無い者もいなかったのだ。

 

 奇妙な停滞が数拍訪れたかと思えば、男が何かひらめいたように口を開く。

 

「よし、気が変わった。

 私は明日また、ここへ来る。そのときに再び話をしよう」

 

 男はブレックス達の身構えなどには頓着せず、一瞬で配下達を抜いてブレックスまで詰め寄り、胸に当身を強く食らわせる。ブレックスの意識が遠のいた。

 そして左手を怪しげに赤く光らせたかと思うと、ブレックスを指差し光を移した。

 

「今、この男に魔術を施した。これで、私には此奴の居場所がわかるようになった。

 此奴を含めた全員が明日、砦にいれば良し。いなければお前達が守ろうとした頭目は何処にいても必ず見つけ出し殺す。いいな?」

 

 男はそれだけを言うと、その場から去った。

 …………と思いきや、少ししたら戻ってきて「出口はどっちだ?」と問うてくる。

 配下の一人が素直に答えると、男は礼を言い、今度こそ去って行った。

 気絶した頭目と、呆気にとられる配下達を残して。




一日目。

(※あくまで参考にさせていただくまでで、必ずしもアンケートの結果に沿うかはお約束できません) 文字数について質問です。拙作において一話あたりの平均が8000字強くらいらしいのですが、この文字数が長いのか短いのか、読者の皆様がどうお感じになっているのか気になりまして。私としては深く考えず、キリのいいところまで、くらいの意識だったのですが。一つ、ご協力よろしくお願いいたします。

  • 最低文字数(1000)で十分。
  • ~5000くらいはいるくない?
  • 今よりちょい短めで(~8000弱)
  • Don't worry.
  • もっと長くしろよ読み応えがねえだろハゲ
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