DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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まず、アンケートへのご協力ありがとうございました。
「心配すんな!」が最も多かったので、基本的にはこれまでどおり文字数には拘らず進めて行こうと思います。
ただ、「違うだろォ! この、ハゲェエエ!!」が次点でしたので、興が乗った際には自重せずガンガン書いていこうかなとも思います。

また、たまごん樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。

※前話のブレックスとの会話において、今話との整合性を取るために末尾へ一文を追加いたしました。



一三、虫取りと新しい友達

 私がブレックスに短剣を突きつけられた翌々日、つまり今日は私が砦の攻略に取り掛かってから七日目なわけだが、現在私は左右の手に虫取り網を持ち、色とりどりの蝶を追いかけ回している。

 別に遊んでいるわけではない。これはブレックスの協力を得るための試練なのだ。

 

 しかしこの蝶共、あちらへひらり、こちらへひらり、まるで私を小馬鹿にしているようである。

 段々と腹が立ってきたため、このあたり一帯を『炎の嵐』で焼き尽くしてしまおうかとすら思うが、私はこの蝶共を生きたまま捕まえにきたのだ。焼いては意味が無い上に間抜けを曝すのみである。

 どころか、折角見つけたものを再度探し出すところから始めなければならなくなるあたり、大きな後退とすら言える。

 

 思えば私は、基本的に自分と同等か、それ以上に大きな敵ばかりを相手取ってきたのだ。

 中には『大沼』の『羽虫』など人間大より小さな輩もいたが、奴等は明確に私を狙って攻撃してきた。ならば対処も容易い。

 弓で射る。ナイフを投擲する。近寄って来たところを剣で打ち払う。如何様にも思うがままだ。足元の毒沼など何程のことはない。

 しかしこう、私の網を避ける意思が有るのか無いのかすらわからない挙動を繰り返されると、動きが読めなくて一向に捕まえられない。

 いや、捕まえるだけなら素早く網を振るえば良いだけなので何の支障も無いのだが、ブレックスからは『生きたまま』と指示を受けている。どうも死亡してから時が経つと、鱗粉や体液の成分が変化するらしい。

 遠い過去、幼い頃に虫を追いかけて遊んだような気もするが、巡礼を終えたこの身が同じように、いや正確には完全に翻弄されているなど、あって良いものだろうか。

 数日前にも思ったが、同じ境遇に至ったお歴々は泣いてもいいぞ。

 

 だが、男が一度やると決めたことは、余程環境や気分が大きく変わらない限り基本的にはやり通すべき、と世間一般ではされている。

 目的が達成できれば手段は何だって良いとばかりに試行錯誤を日常とした不死人の私には、少々理解し難い価値観ではある。時折訪れる、血沸き肉踊る真っ向勝負の機会には、『手を変え品を変え』も多少控えたが。

 しかし、そうであるならば、どれだけ絵面が酷かろうとも、そこかしこから寄せられている視線に呆れが含まれている気がしようとも、目標を貫徹するためには致し方ないことなのだ。

 ……そろそろ成果を出さないと、連中がブリニョルフに妙なことを吹き込みかねん気もする。もういくらか本気にならねばいかんか。

 

 

 

 私とブレックスがガルスに関する件のやり取りをした翌日、つまりは昨日、奴は己が言の通り昼餉には顔を出した。

 しかし折角の食事であるのに、常に仏頂面……というよりは殺気立っており、寄らば斬る、とでも言わんばかりであった。

 配下の者共も怯えており、私に向けて「何か馬鹿をやらかしたんだろう」と非難の眼差しを向けてくる始末である。

 私としては甚だ心外であった。そも一応の顛末を()()()()ハンには報告をしており、そこでとやかく言われなかったのだから、組織運営上も問題無いことがわかる。

 頭目の腹心であるハンは、当然の如くブレックスの胸中をある程度把握していたらしい。

 

 ハンを始めとした一味の面々は考えた。自らが仰ぐ頭目が唯一無二の友を喪い、絶望から停滞を選ぶなら、自分達が全力で支えよう。

 しかし停滞どころか、不自然にならないよう身辺の整理を行い終着点にしか焦点が合わない頭目は、見ていてあまりに痛々しく、また己等の力不足を突きつけられるようで、口惜しさのあまり自罰的にすらなっていたらしい。

 ところが、ここしばらく見受けられなかった感情の起伏を良くも悪くも見せてくれて、険のある不機嫌面の下ではガルスについて考え続けているのだろう樣子も目の当たりにし、いくらかの安堵を得たようだ。凪よりも高波を求められるとは、相当だな。

 それと同時に、頭目にその感情の変易を齎したのが部外者であるという事実に対し、主に若い配下達を中心に私へ反感を抱いているとか。

 

 ハンは敬愛する頭目が気を持ち直すのなら何だって良いようだ。殺気立った男の隣にご機嫌顔があるのは、何とも言えない光景である。

 ついでにいえば、ハンは頭目が地獄に向かって突き進むのであっても、躊躇なく付いていくのだろう。

 問題なのは仮定や結果ではなく、頭目ブレックスの胸中に救いと納得があるかどうか。それのみだ。

 この男もまた、美しい主従愛の持ち主と言えるのだろう。まだ付き合いの短い私では、『狂信』というつまらぬ一言と紙一重であることを否定できないが。

 

 

 閑 話 休 題。(ハンのイカれ具合はどうでもよろし)

 昼餉が終わり、三々五々配置へ戻ろうという段になり、終始仏頂面だった件の頭目めが、徐に一枚の紙を突き出した。

 私自身腰を浮かしかけていたため、初めは誰に対する行動なのか判断しかねたが、周囲の者は奴の対面にいる私を見つめ、奴もまた私を睨むため、渋々その紙を受け取った。

 見れば植物や茸を始めとした様々な品々の名が、小盾ほどの紙いっぱいに書き綴ってある。

 

「これは……錬金術の?」

 

 奴は視線を合わせないまま鼻を鳴らす。

 

「魔術師なだけあって多少の心得はあるか。だが手前はこのあたりに来たばかりだと言った。『所変われば品変わる』じゃねえが、当然の如く植生も小動物の分布も違うはずだ。

 手前がそこに書かれた品々を書いてある必要数集めることができたなら、俺がタムリエルで通じる錬金術を教えてやる」

 

 心得も何も、私はブリニョルフから「様々な材料を、魔術的要素のある器具を用いて掛け合わせ薬品を作り出す、『錬金術』という技術がある」としか聞いておらず、その際、耳にし綴を教えられた品名が渡された覚書に記載されていたので見当をつけただけなのだが……。

 しかしどういう心境の変化であろうか。

 昨日のやり取りで私に対し怒り心頭、といった具合だと思ったのだが。

 私が、たった数瞬だけ逡巡すると、眼前の頭目殿は怒鳴り散らした。

 

「やるのかやらねえのか、どっちだ! 俺は手前の面倒なんざ見たかねえんだ。やらねえってんなら手前に協力してやることなんざ何一つ有りゃしねえ。この砦からとっとと失せやがれ!」

 

「待て待て、早まるな。勿論やるとも。喜んでやらせてもらう。

 ただ、なかなか懐かなかった猫がやっと靡いてくれたために、少々感慨に耽っていたのだ」

 

 言うや否や、「あ」も「う」も無しに短剣が雨霰と飛んでくる。

 照れ隠しとは可愛い奴め。だが投擲するに毒付きの短剣は殺意が高くないだろうか。

 私が逃げ去るように砦を出ようとすると、いつの間にか居なくなっていたハンが、大扉の脇で私を待ち構えていた。

 そして「どうぞ」と言いながら長柄の虫取り網を二本、渡してくれる。

 

「頭のあんなはしゃいだ樣子は久しぶりです。旦那には感謝しとります。

 覚書を盗み見る限り、素材には危険な猛獣を相手取らにゃならん物もありますが、そのあたりは旦那なら問題ありゃせんでしょう。

 寧ろ、ほら、そこに書いてある蝶々。このあたりが曲者ではないかと思いまして、お節介を買って出たというわけでさ。

 何卒、ご武運を」

 

 全くもって何くれとなく如才の無い男である。

 しかし、先程は軽口を叩いてみたものの、奴にはあまりよく思われていない気がするのだが、それは良いのだろうか。疑問に思い尋ねてみた。

 

「そこはほら、旦那もそろそろお気づきでしょうが、頭は多少素直ではないところがありますし」

 

 そんなにさっくりと片付けていいのか副頭目よ。

 

「……あと、これは頭に付き従う全員の思いですがね、『盗賊ブレックス』は、絶望に侵されて腐っているより、獲物を虎視眈々と狙い、味方には喝を入れている樣のほうが、ずっと生き生きとして格好良いんでさ。

 今日の頭には()()()()()が窺えました。あたし等は、そいつが見られりゃ御の字ってもんで。

 それに旦那なら、頭が多少じゃれつこうが物ともせず平気で居られやしょう?」

 

 実際に問題無く防ぎ、躱した私が言うのも何だが、毒付きの短剣を急所に投げ続ける樣を「じゃれつく」と表現するあたり、やはりこの男は狂しているのではないだろうか。

 まぁ、それを別としても、『信奉者』とはまま『狂信者』と評されることがある。

 ブレックスがガルスの信奉者と呼ばれたように、ハンもまた、ブレックスの信奉者であるのだろう。

 だからこそ、愛する者を死なせてしまったブレックスの見えぬ慟哭が、誰よりも理解できてしまう。

 今ここでそれを持ち出すのも野暮であると考え、虫取り網についての礼をいい、私は砦を出た。

 

 

 

********************

 

 

 

「頭。奴さん、今日も元気に駆け回っとりますよ」

 

 ハンが男の動向を伝えて来る。

 ブレックスは、ギルドから持ち出した錬金器具と付呪台を砦の執務室に設置し、作動に問題が無いか確認していたところだ。

 

 このところ毎日砦へ通っている男であるが、男に錬金材料の覚書を渡してからまだ二日目である。当然の如く、材料を集めきってはいない。

 そのため、採集に向かうあいだは拠点であるリフテンから直接赴くよう進言したが、「毎日食材を届けると約束した。約束は守る」と言い、頑として聞かない。

 食料はいくらあっても困らず、またお互いに貸し借りを気にする性質でもないため、ブレックスは男のしたいようにさせていた。同時に、拘る場所のよくわからんヤツだ、とも思った。

 

 報告では、『クマの爪』『サーベルキャットの目』『スプリガンの樹液』『巨人のつま先』『トロールの脂肪』など猛獣から採集する物や、『鷹の嘴』『ニルンルート』など単純に入手難度の高い品は手にしたらしい。

 反面、『フロスト・ミリアム』『ツンドラの綿』など寒冷地であるスカイリム独自の品や、各種茸、『山の青い/赤い/紫の花』など見分けに一工夫必要な品の入手には苦戦しているらしい。

 ブレックス達スカイリム原住民や近隣諸国の者からすれば山の花など幼少期から見慣れたもので、何がどうわからないのか理解が及ばない。だが遠目に監視している配下の言では、「微妙な! この色は! 品種なのか! 未熟なのか枯れているのか! ハッキリしろ!」と癇癪を上げる樣を見たそうな。「傑作でした」と付け加えられたが、それはブレックスも同じ気持ちだ。

 更には、各種蝶の羽の採集にも手こずっているようだ。

 これもまた、天空を舞う鷹を射落とすことは容易いのに、蝶如きを捕まえられないとは、と意外に思う。

 砦一つを単独で陥落させる戦士が間抜けに網を振り回している樣を想像して、ブレックスは吹き出すのを我慢できなかった。

 ところで、ブレックス自身が痩せ我慢を通しているために忘れがちであるが、この男、胸の骨が数本折れている。そう気軽に馬鹿笑いをしていい身体ではないのだ。久しぶりに機嫌良く大笑したと思えばすぐさま痛みが走り、余計に機嫌が悪くなった一味の頭目である。

 

「しかし意外ですね。俺はてっきり、奴さんには砦と関係が薄くなるような策を授けて、頭はそれで良しとするもんだとばかり思っとりました。

 でも実際には頭が手ずから協力してやるなんて。策は策で別に用意してあるんでしょう?」

 

 ブレックスはハンの言葉に、すぐには口を開けなかった。

 自らの胸中の変易に最も戸惑っているのも、ブレックス自身であったからだ。

 

「仕方ねえだろ。あの馬鹿垂れ、こっちの都合なんざまるで無視しやがる。

 下手な策を授けて文字通り下手を打ってみろ。あの野郎、『二の矢は無いか?』なんて言いながら、砦の門を叩きかねんぞ」

 

 それはまぁ確かに、とハンも思う。寧ろ容易に想像できるまで男に対する理解が深まったことが癪だった。

 

「だから一番の理由は『仕方無く』だ。『やむを得ず』でも『不可抗力』でも何でもいい。

 とにかく俺が不本意ながら協力してると誤解無く手前等が理解できればいい。『照れ隠し』だとか言いやがったら、張り倒すだけじゃ済まさねえからな」

 

 そりゃおっかない、とハンは戯けて見せるが、しかしその視線は穏やか且つ鋭いまま、ブレックスを捉えて離さない。

 腹心に建前を見透かされて、幾許か据わりが悪い頭目は、観念したように溜息を一つ吐き、逆に問うてみた。

 

「話はちっと変わって、これは例えばだけどよ。俺があの野郎に、いや一味の誰かのほうがいいな。殺されたとする。

 ……いいから聞け、例え話だ。

 俺はくたばってっから、この一味は手前がまとめるっきゃねえ。まぁ解散するも自由だがな。んで下手人は行方知れずと来たもんよ。

 そんとき手前、どう思う。まぁ当然、まずは(いか)るわな。そのあとだ。

 多少時間が経ってよ。俺との今までのことだとか、あったかもしれない未来とか、そういうことを考えるくらいには環境も落ち着いた頃だ。手前ならどう動く? どう思う? どう考える?」

 

「これ程までに想像したくない『もし』もありませんが……。

 まずはどう動くかですが、おそらく、一味全員に声をかけ、希望者のみを率いて下手人の捜索に当たります。そこで躊躇うような輩は足手まといですし、その手の望まない働きを強要するのは、頭の好みじゃありませんので。とまれ、そんな鈍亀が一味にいるとは思えませんが。

 それで、下手人が例えどおり一味の誰かだったとすれば、二通り考えられます。

 万全を期するためにフラゴンの連中に頭を下げて捜索の協力を仰ぐか、『頭の仇は絶対に一味の者だけで取る』と俺達だけで動くか。まずはおそらく後者からでしょうが、成果が上がらない場合は前者でも何でも、それこそ如何なる手を使ってでも探し出します。

 ギルドが無駄骨に終わったんなら、奴さんじゃありませんが、五大都市の有力者達に新しい伝手を作る工作も始めるかもしれません。正攻法で締め上げます。その手の工作がうまく運ぶかは全くの不透明ですが、せずには居れんでしょう。

 

 どう思うか、は……難しいです。想像しようにも頭が拒否して、考えがまとまりません。

 強いて言うなら、頭の言うとおりまずは怒り狂うでしょう。そのあとは……どうでしょう。

 嘆き悲しみ無為の日々を過ごすか、全くの無気力になっちまって生きたまま死んだようになるか、復讐だけを支えにする鬼になるか。何にせよ禄なことにはならんでしょうな。

 

 どう考えるが先の『思う』とどう違うのかちとわかりかねますが、どうすれば頭が死なずに済んだのかを考え続けると思います。ですが、おそらく答えは出ない。

 外敵からの襲撃だったってんならまだ対処はわかりやすいんですがね。身内からとなると、断言しますが未来を予知する魔術でも使わない限り、阻止は限り無く不可能に近いでしょう。それでも、考えることを止められるとも思いません。堂々巡りですな。

 

 そんでそれからは、頭のこれまでの人生はなんだったのだろうかと、多分そんなふうに考えるんじゃないかと。

 頭がギルド時代から下の者の面倒を厚く見てくださっていたのは、多くの連中が知っとります。だからこそ俺達は一も二も無く頭に付いてきたわけですし。

 どうかしたら、ガルスの大将よりも個人的な親愛の情は強いって連中も、聞いてみれば結構いるかもしれませんぜ?

 それなのに、その中の一人がもし頭を裏切ったとしたら、俺はそいつの寿命が尽きるまで痛めつけなければ収まりませんし、頭のしてきたことは、とやっぱり最初の考えに戻って堂々巡りになるんじゃないかと思います。

 ……もう、このへんでいいですか。頭の質問とは言え、これ以上は、すみません」

 

 ブレックスはハンだからこそ、この()()()を持ちかけた。

 ハンが、ブレックスにどのような意図があり話をしたのかを当然理解している前提で、更に言えばそれ故に真剣な検討をしてみせると信頼したうえでのことだった。

 だからこそ心からハンに申し訳ないとは思いつつ、その行動が、思考が、己と似通っていることを実感した。その検証に、ハンの回答は必要だったのだ。

 そのうえで、ハンが血を吐く思いで口にした、どう動くか、どう思うか、どう考えるかについて、噛み締めるように、自身のそれと比較するように、擦り合わせるように、一つ一つ、確認していった。

 一つ違うとすれば、ブレックスには彼を慕う配下が大勢いて、ハンには失うものが少ないという点であろう。思考が似通っても、行動に差異が出ているのはそのせいだ。

 ブレックスは心からハンに詫びを述べてから、独りごちるように口を開いた。

 

「そうだよなぁ。そうなるよなぁ。カーリアにガルスを殺されて、俺もそんな感じのことを思った。

 盗賊としての純粋な力量はフレイやカーリアに及ばずとも、組織の幹部としてはガルスの右腕を自認していたし、そのことは誰にも文句を言わせなかった。それが俺の誇りだった。

 ガルスの隣に立っている、そのことが俺にとって最上の名誉で、何もかも全ての内で最も価値のあることだった。

 カーリアのことも認めてた。ガルスが見込んだ女だってのがデカかったが、奴自身相当な腕の持ち主だったし、何より二人は愛し合っているように思えた。だから納得した。

 馬鹿な話だがよ。ガルスとカーリアに子ができたら、隠居した俺が手解きしてやってもいい、なんて夢想してたんだぜ。笑っちまうよな。

 

 だが、結果は皆の知るとおりだ。そんな優しく暖かな未来は訪れなかった。

 断っておくが、手前等に恨み言を言うつもりはさらさらねえからな。俺じゃあ、本気で雲隠れしたカーリアを見つけ出すのは不可能だったろうからな。

 身一つなら、無駄だと思いながらも何かしら動いたかもしれねえが、おそらく成るようにしか成らんかったろうよ。

 強がって『カーリアは必ず殺す』と啖呵を切ってはみても、実現はしなかっただろう。俺なんざそんなもんだ。

 

 だからまぁ、ぶっちゃけちまうけどよ、俺は死にたかったんだ。

 友を守れず、誇りも失われ、仇は追えず。ギルドも壊滅状態。

 ガルスの人生に意味はあったんだろうか。俺の人生に意味はあったんだろうか。組織も、愛も、矜持も、何一つ残っちゃいねえ。……正直、結構しんどかったんだわ。

 

 そしたらよ、あの馬鹿垂れが無遠慮にずかずか踏み入って来てよ、言うんだわ。

 ガルスの人生はガルスのもの。お前はただ友としてガルスを愛し、その人生を肯定してやればいい。別にカーリアを許さなくてもいい。納得がいかないのなら、遠慮無く仇を討て。

 たしかそんな感じのことをほざきやがった。

 俺は、カーリアを恨んだまま、ガルスという一人の英雄を、誰に憚ること無く誇り続けていいんだと。そこにカーリアは関係ねえんだと。

 視野が狭くなってたのか、んなこた考えもしなかったぜ」

 

 ハンはどういう顔をしていいのかわからなかった。

 自分はあの非常識人から頭目の様子が少しおかしかった当日の話を尋ねたが、そんなことを口にしたとは聞いていない。

 ただ、「ガルスについて昔話をしている間に気分が悪くなったらしい」としか聞いていない。敬愛する頭目のこと。それはまぁそうなるだろう、とその場は納得したが……あの男は!

 ハンの脳内が怒りに染まりかけるが、今は当の頭目と話している最中だ。思考を切り替える。

 

 それに、ハンの思考をより強く乱したのは、非常識人が原因だからではなかった。

 ブレックスという自らが敬愛する一流の盗賊が、自分にここまでの弱さを見せるのが初めてのことだったからだ。

 ハンにとってブレックスは、出会った頃からずっと()()()()()()

 高難度の仕事を余裕で熟す。

 不測の事態に陥っても、動揺した配下を叱咤して、すぐさま態勢を立て直す。そして次善の策にて仕事は完遂する。

 皆と同じ、ギルドから支給された黒の革鎧を身に着けているはずなのに、不思議と特別に誂えたように見える。

 この人に付いていけば大丈夫だ。何も心配はいらない。いずれはこの人のようになりたい。この人の助けになりたい。盗賊ブレックスから頼りにされたい。

 そう惚れ込んだ面々が、今、砦にいる一味の者達だった。

 

 件の男と自分達で、何が違ったと言うのか。人間的な器の大きさがどうという下らない話でもないのだろう。おそらく、死生観が違い過ぎるのだ。

 どれだけの友を愛し、どれだけの友を喪えばそのような考えに至るのか、ハンには到底理解できかねた。いや、あまりに陰惨な想像を働かせたがために、理解すること自体を拒否してしまったきらいもある。

 だが事実として、男の、ある一面の真実を大上段に構えて強引に押し出した乱暴な物言いが(お世辞にも説法や格言のようには扱いたくない)、親愛なる頭目の目を覚まさせた。

 配下を抱えながらどう終わらせれば皆に苦労をかけずにすむのか、などという馬鹿げた思考の海からようやく浮上してくれた。

 そのことが、ハンには何より嬉しい。

 この際、男が何者のつもりで持論を偉そうに押し付けてくれやがったのかはどうでもいい。

 ハンにとって、件の話があったその日まで遡って、男は恩人となった。

 

 

 

 そしてその男は、そういった少々湿っぽい雰囲気を木っ端微塵に打ち壊すことに定評がある。

 

「ブレックス! おぉハンもいたか。見てくれ! 見事な蝶々だろう? これを捕まえるのにどれだけ苦労したことか。これで全ての素材は集まったはずだ。さぁ、錬金術の指南を頼む!」

 

 しんみりとした空気が吹き飛んだことを力なく笑いつつ、ブレックスが男へ貸し出された檻のような小さな木箱を覗き込み、厳正なる審判を下した。

 

「おう、リフト中駆けずり回ってご苦労さん。それはそうとこの蝶だがよ、淡い青緑に光っちゃいるが、『ルナ・モス』とは違うぜ?

 大方、夢中で捕まえて意識から外れた『青い蝶の羽』にスプリガンの樹液でもついて、そのまま勘違いしやがったんだろ。

 大体手前は夜になるとリフテンに帰っちまうんだから、月夜に舞う蝶をどうやって捕まえんだよ、このトンマ。

 ってなわけで、ほい、やり直しだ」

 

 繰り返すが、男は砦一つを相手取れる尋常ならざる個人戦力である。

 しかし今、ブレックスの言葉に衝撃を受け、唖然とし、膝の力が抜け、床に四つん這いになり、慟哭を上げる男の姿は、誰がどう見ても滑稽に過ぎた。

 男の、芝居小屋の道化の如く、それぞれの挙動にめりはりを付けて順番に繰り出す樣に、ブレックスとハンは揃って笑い、またしてもブレックスの胸に痛みが走った。

 友を喪った一人の男は、常識外れの異邦人が齎す笑いと痛みのせいで、様々なことがどうでも良くなっていた。

 

「冗談だ。いや、手前のヘマは冗談じゃねえが、及第点ってことにしてやらあ。そろそろ、お守役のブリニョルフも気を揉んでいる頃だろうしな。

 奴にはこう伝えな。『ブレックス一味を味方につけた。これをもってギルドと一味は互いに不可侵とされたし。また、一味がギルドの名を騙ることは無いと、八大神とノクターナルに誓う、とのこと。後日、頭目ブレックスが諸々記載した誓書をギルドへ届けるので、確認されたし』ってな。

 これで一応はギルドの面子も立つし、手前が阿呆みたいに地下を掘ったおかげで、表向き一味は解散したと衛兵隊の目を欺くこともできる。

 そうやってできた時間的猶予でもって、悪巧みのついでに手前の錬金術修行と洒落込もうって寸法よ。どうだ、少なくとも土産話には十分だろう? 感謝しろよこのトンマ」

 

 得意気に語るブレックスに対し、ハンは朗らかに笑みを浮かべ「良かったですな旦那。頭を頼みますぜ」と余計な一言を付け加えたために頭を叩かれている。

 肝心の男は、膝をついたまま感極まって声にならない声が口から漏れ出ている。

 

「つまり、お前は、私の()()()()と言うのだな?」

 

 和やかだった空気が、一瞬で困惑に満ちたものへ変わった。

 特に、砦側二人の脳内は何がどうなってそうなったのか、記憶の引き出しという引き出しを開けて何か不味い言い回しをしていないか確認中である。

 

「何を呆けている。初めは敵対していた我らだが、お前は私への協力を申し出てくれた。それも、私や我が友の立場を慮ったうえでだ。

 そして錬金術の修行という実益のみならず、何やら策まで授けてくれる樣子ではないか。

 私はお前達に食料を供給したが、十分に釣りが来る内容だ。

 更にお前は私を『トンマ』と愛称で呼ぶようになった。ハンも『頭を頼む』と言う。これは控え目に言って身内ということだろう?

 協力者であり、愛称で呼ぶ気の置けない仲であり、腹心という半保護者からのお墨付きまで貰った。これはどう考えても友であろう。悪く言っても悪友だ」

 

 男の言わんとすることは理解できる。心情的にも完全に否定するのはちと難しい。だがいきなり友と言われても、少々話の飛躍が過ぎるのではないかと思う砦側二人である。

 

「おい、この馬鹿垂れ。待てこら! 誰が友だ! ふざけたことを抜かすと全部御破算にしちまうからな!」

 

「ハッハッ、照れるな照れるな。それでは、すぐに帰ってブリニョルフに新しい友ができたと報告するとしよう。今日は良い日である!

 新しき友、ブレックスよ。明日からの教授、よろしく頼むぞ! ではな!」

 

 男は言うやいなや、風のように駆けていった。

 ハンは「あぁ、あの足ならリフテンから通いでも不思議ではないな」とやや現実逃避した感想を抱いた。

 しかし呑気に呆けていたハンの頭を、一際強く叩く者がいる。非常識人から友人扱いされたブレックスだ。

 

「何を寛いでやがる! 追いかけてあの野郎とっ捕まえてこい!」

 

「いやぁ頭、あれは無理です。追いつけません。諦めてください。

 それに、俺も少々迂闊ではありましたがね、捕まえたところで駄々をこねられて、結局こちらが折れなきゃならなくなる未来が容易に想像できますぜ。

 受け入れちまったほうが、きっと心の平穏のためです」

 

 ブレックスはつい先程、腹の底まで見せた腹心の裏切りに頭を痛め、屈み込んだ拍子に再度胸に痛みが走った。今度の痛みは、何一つどうでも良くはなかった。

 

 




後書きに書く内容ではないかもしれませんが、読後に感想などお願いできないでしょうか。駄目出しでも構いませんので(既にいただいている方のものは、何度も読み返して一人にやにやしております)。
また、駄文を書き散らしておりますが、活報にも目を通していただければ幸いです。
そも「感想を書きたくなるような、活報を読みたくなるような、そんな面白いモンを書けや」という話なのは重々承知しておるのですが……。
如何せん、最多だった頃と比較してしまい、ちと寂しいなあと。
書き続けている内に知った気持ちですが、モチベーションにかなり大きな上昇補正が働くようです。
助けると思って、何卒、何卒。

(※あくまで参考にさせていただくまでで、必ずしもアンケートの結果に沿うかはお約束できません) 文字数について質問です。拙作において一話あたりの平均が8000字強くらいらしいのですが、この文字数が長いのか短いのか、読者の皆様がどうお感じになっているのか気になりまして。私としては深く考えず、キリのいいところまで、くらいの意識だったのですが。一つ、ご協力よろしくお願いいたします。

  • 最低文字数(1000)で十分。
  • ~5000くらいはいるくない?
  • 今よりちょい短めで(~8000弱)
  • Don't worry.
  • もっと長くしろよ読み応えがねえだろハゲ
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