DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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強請ったのは私なんですが、本当にたくさんの感想をありがとうございました。
ページを開く度に跳び上がるほど嬉しく、本当に励みになりました。
毎話毎話、というのは大変なのではと思うのですが、これからもお時間のある際には一言二言いただけましたら、何よりもの激励になります。
何卒、よろしくお願いいたします(ちなみに、どのくらい違いがあったかと言うと、強請る前である前々話が感想数2、強請った前話が22です。11倍に増えました。ビビりました(語彙力))。
(あ、あと、活動報告も読んでいただけると嬉しいです。折角書いておりますので)(「楽屋ネタは読後感や雰囲気が壊れるから読まない」という意見なら十分理解できますので、こちらは全く強要も強請りもするものではないのですが、一応お報せまで)

また、たまごん樣、デーテ樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。


一四、美味しいお酒

 砦から戻った私は、我が友の自宅窓から人影を確認し、喜び勇んで帰宅を告げた。

 今は、砦にて勝ち得た成果を、一刻も早く報告したくて堪らないのだ。

 ほどなくしてブリニョルフが扉を開き、労いの言葉をかけながら屋内へ誘ってくれる。一つ予想と違うのは、息を切らした見覚えの無い男が一人、扉の脇で私を見て気まずそうにしていることだった。たしか、彼の種はウッドエルフと言うのだったか。

 客人であろうか。いや、『雑貨商ブリニョルフ』はあくまで表の顔。仮の拠点とはいえ、不用意に人を招き入れたりはしないだろう。

 であるならば、この者はギルド関係者、ないしは彼の稼業に関わる何者かと推察すべきだ。

 

「さて兄弟、ここ数日、随分と忙しそうにしていた君だが、慌てて帰って来たりして、何か困り事かな?

 ご入用なら『雑貨商ブリニョルフ』に、計画の件であれば『盗賊ブリニョルフ』をご用命いただければ幸いでございます。なんてな」

 

 はて、困り事。何故そのような話になるのか。

 彼には毎日、()()()とは言え報告はしていた。「連中への攻め方を考え直したほうがいいかもしれない」「若干の進展あり」「苦戦中」などだ。

 彼は私にも意地があると察してくれていたため、深くあれこれと詮索してはこなかった。私は彼の友人であって、部下ではないのだ。

 

 だが現実として、私と彼のあいだに認識のズレが起きているようだ。

 何が原因であろうか考えてみる。

 報告か簡潔に過ぎて正確に伝わらなかったか? 大いに有り得る。

 それからこのギルド関係者であろう見知らぬ男。男の息を切らした樣子から、つい今しがた駆け込んで来たのではないかと思われる。

 更には気まずげな男の視線。何か引っかかる。……そこで、ここ数日、常に感じていた視線を思い出し、私の中で一つの線に繫がった。

 

「あぁ、なるほどな。彼は私についていた監視要員か。そして何ぞ変事が起きたと勘違いをし、急ぎ報告に飛んできた、と」

 

 私の推理に我が友はやや驚いている。君、私とて「頭にチーズでも詰まってる」わけではないのだぞ?

 

「完全に君の言うとおりだが、どうして気付いたのか、ご教授願ってもよろしいかな? ……どうやら逼迫した事態でも無さそうだし、そのくらいの種明かしを聞く時間はあるんだろう?」

 

「何、特別冴えた話でもない。

 ギルドとしては砦のブレックス一味について、当初は私を勘定に入れず、ラットウェイのガマシン一派同様に襲撃をかけ、処理しようと企んでいたわけだ。

 ならば連中に逃亡を図られては面白くないことになる。彼奴らに監視が付くのは当然、どころか必然と言える。以前、君に相談を持ち掛けたとき、君が一味の状況をある程度把握していたのも、ギルドから伝わった情報だろう?

 

 そして私は砦への襲撃計画に動き初めてから、常に遠巻きな視線を感じていた。

 初めはメルセル・フレイの指示で私を監視しているのだと思ったのだが、その割には接触がない。

 あの男なら、私が動き出した時点で『計画に支障を来す』とか何とか言って来るだろうからな。しかしそれは無かった。

 だから思ったのだ。元々監視として駆り出されていた者達に、君が話を付けて、万一の際には助けとなるよう手を回してくれていたのではないか、とな。

 どうも反応を見る限り当たりのようだな」

 

 友の驚きが、()()から()()()に変化した。……本当に私の頭はチーズだと思われていたのだろうか。であれば酷く心外だ。傷ついてしまう。

 

「いやいや、兄弟がけして阿呆ではないことは知っていたがね。こうまで見透かされているとは。これは君を貶めているのではないよ。純然たる称賛だ。

 だって考えてもみてくれ。こいつらはギルドの一員だぜ? よく盗賊の監視に気付けたものだね」

 

 私に『五感で把握しきれない、他者の視線や殺気を感じる』などという超常じみた便利な能力は無い。

 為し得ることを正確に表すなら、待ち伏せや監視を行うならどの地点が最もあり得そうか、と想像を働かせるだけの話だ。もはや癖のようなものだな。

 そも、そんな能力があったのならば、どこからともなく飛んできた矢や魔法、猛毒の吹き矢で散々痛い目に遭わせられることも無かったろう。あれらの経験を積めば、おそらく誰でもこうなる。

 それを踏まえて、リフテンから砦までの道中や、錬金術材料採集中の山中や野を思えば、大体どのあたりに監視要員が伏せているのかの当たりをつけること自体は、そう難しくはない。

 どれだけ熟練の野伏だとしても、そこに人が存在すれば、虫や禽獣は居場所を変えるか息を殺して大人しくなり、程度の差はあれど多少()()になる。

 その不自然さはけして消えず、発する違和感を辿っていけば視線に辿り着く、それだけの話だ。

 

 そのあたりを語って聞かせると、友は痛ましげでありつつ機嫌良さそうに称賛する、という器用な芸当を見せてくれた。

 まぁ私の場合、天性の勘働き、というわけではなく不本意ながら身体に叩き込まれた一芸であるわけで、妙な不幸自慢に聞こえてしまったかもしれない。

 彼は一通り私を褒めちぎると、襟を正してこちらへ向き直る。

 

「兄弟、君の友として、君を侮っていたことを詫びさせてくれ。そして、余計なお節介を焼いたことについても」

 

「何をいう()()よ。君は私の自尊心をいたずらに傷つけないよう心を砕きつつ、私のために骨を折ってくれたのだろう。それも謹慎中の身でだ。

 ただでさえ食材の調達とて頼り切りだったのだ。感謝こそすれ、詫びを入れられる筋合いはどこにも無いとも。

 尤も、手出しできる範囲に限界があったためか、最後に情報の齟齬があったようだが。

 ……そこの者も、私のせいで苦労をかけてしまったようだな。埋め合わせと言っては何だが、酒が数種、手元にある。好みの物を持ち帰ってくれ」

 

 ウッドエルフの男は苦笑しながら「気持ちだけで十分だ」と辞退した。「何ぞ任務に不要な品を懐に忍ばせて、メルセルにどやされても面白くないからな」とも付け足す。そちらは苦笑ではなく皮肉げであり、なかなか良い面構えの『盗賊』といった雰囲気だった。

 酒を勧めたことを気遣いと思ってくれたのか、気まずさは鳴りを潜めて「サディンだ」と名乗りながら握手を求めてくれた。断わる理由も無いので応じる。

 

「前置きはこのあたりで十分だろう。

 さてさて、我が親愛なる兄弟よ。優秀なる盗賊ギルド構成員が、『脱兎の如き逃走』と思い違いをするほどの快足を見せてくれた君だ。

 理由が困り事ではないのなら、齎される報せは吉報なのだろう? 是非聞かせてほしいな。お誂え向きに報告要員もいるものだから、この場であれば、手間も省ける」

 

 たしかに。そう考えれば、サディンの勘違いも満更悪いばかりでもないか。報告は迅速なほうが良いだろう。

 しかし、私の報告には難があるらしいことが先程判明したため、時系列に沿って一つずつ詳細に話すべきだな。

 サディンにも、酒の土産は断わられてしまったが、骨折りの対価に食事くらいは馳走しても良いだろう。どうせそのくらいの時間はかかる。

 長居をさせてはメルセル・フレイに小言を言われるかもしれんが、何が起きたのか確認しなければ、報告を上げることもままなるまい。

 砦で調理した残りを持っていたため、それらを取り出し振る舞う。寧ろ私に食事の必要は無いのだから、機会を見つけて放出しなければいつまでも減らなくて困る。 

 

 

 

「では二人共、聞いてくれ。

 詳細はあとできちんと話すので、まずは結論から言う。砦の一味を傘下に収めることこそ叶わなかったが、協力者にすることはできた。

 そしてこれが一番大事なところだが……。ブリニョルフ、ブレックスと友達になってしまった。故に、協力者であり友達の配下である一味の連中は絶対に殺せない。 

 奴からは、君とメルセル・フレイ宛に言伝を預かっている。後に誓書を渡すとも言っていた。そのあたりを踏まえて、メルセル・フレイには上手に伝えておいてくれ」

 

 サディンは、これぞ『模範的な驚愕の顔』という表情を浮かべ、ブリニョルフはこめかみを押さえている。

 

「兄弟、君の言うとおり、是非詳細を聞きたい。本当に、何から何まで一つとして端折らずに、全部を」

 

 友の樣子が妙に鬼気迫るので、無駄口を叩かず大人しく詳細へ移る。……そんなに不味いことを言っただろうか?

 

 

 

 砦襲撃初日、まずは頭目であるブレックスと話がしたいと考えたが、配下に騒がれたり逃走を図られては面倒なので、隠密を心がけて奇襲を仕掛けたこと。

 罠にかかり、結果的としてブレックスと対峙し、その際の連中の態度が想像していたものと違ったため、奴の意識を奪い、その日はそのまま帰宅したこと。

 帰宅後は、ブリニョルフに連中を懐柔するための食材の手配を頼んだこと。

 

 二日目には正面から押し入って喧嘩をし、ブレックスの指示でそれらは終結させられ、その後執り行った食事会で私と砦の一味のあいだでは手打ちとなったこと。

 その後は当日を含めて五日目までの四日間、地下に籠もり、拡張工事に勤しんだこと。

 五日目にしたブレックスとの会話の中で、何かが奴の琴線だか逆鱗だかに触れ、その日は解散となったこと。

 

 六日目、突然に奴から錬金術の材料収集の試練を言い渡され、それが済まなければ協力はしないと告げられたこと。

 故に、七日目、つまりは本日までの二日間は錬金術材料の収集に従事し、完遂後には無事に友の契と計画への協力を取り付けたこと。

 

 明日から錬金術の指導を受け、大目標達成のための小目標を授けられる予定であること。

 

 これらを全て、微に入り細に入り、まさに()()に話してみせた。

 ブレックスからの言伝も、ここで伝えた。砦からこっち、駆けながら繰り返し口ずさんだため、間違ってはいないはずだ。

 牢をハンマーで打ち破った件でサディンが目を見開いていたのが、少々面白かった。

 

 しかしこの二人、私を除け者にして、いつの間にか酒を飲んでいる。陽気な酒盛りと自棄酒が綯い交ぜになった雰囲気だ。

 どうしたものかと訝しんでいると、突然ブリニョルフが立ち上がり、腕を大きく広げ芝居がかった樣子で口上を述べる。

 

「おぉ兄弟よ。俺が、この寒々しいばかりのスカイリムで唯一損得勘定を抜きにして信頼し、お互いに支え会えるかけがえの無い友よ。

 ()()()、やってくれた。()()()、やってくれた。

 色々言いたいことはあるが、終わり良ければ全て良し! 今は大戦果を祝おうじゃあないか!」

 

 口上の勢いそのままに私へ杯を渡すものだから、三人揃って乾杯し、酒盛りの続きと相成った。

 

「…………いや、違うな。やっぱり言いたいことは言わせてもらおう」

 

 友の発する空気が怪しい。酔っているということもあるだろうが、不穏だ。

 

「君はアレかい? 俺が山程の食材と酒を用意するためにリフテン中を走り回っていたそのときには既に、連中へ襲撃をかけ終わっていたというのかい?

 更に、俺の動きがメルセルに伝わって話がこじれないよう細心の注意を払って君のためにと働いていたそのとき、君は気持ちよく連中をぶっ飛ばして、その後は俺の用意した食材と酒で宴会と洒落込んでいたわけだ。

 もっと言えば、監視の連中に心付けを配ったりなんだりとしているそのときには、何? 地下を掘っていた? 意味がわからない。いや、報告は聞いたから理解はできるがそんなことは知らないね。

 極めつけには、えぇ? 『ようやく一仕事終えたぞ疲れたぞ』とゆっくり心身を休めようとしたそのとき! 現れた店主たちに『お前の無茶な注文に応えた影響で狂いが出た出納整理が忙しいから、雑用を手伝え』と引きずられ、こき使われていたときには、君はちょうちょうを、色鮮やかなちょうちょうを幼子の如く追いかけ回していたと」

 

 友は立ち上がった状態から机に手を付き、こちらへ乗り出している。

 ……私は私なりに最善を尽くしたつもりではあったのだが、こうやって友の愚痴を聞くとかなり心苦しい。

 私とてけして遊んでいたわけではないのだ。

 しかし、それを支えてくれた人間の苦労をいまいち想像しきれていなかったかもしれない。済まなく思い、頭を下げる。

 

「まぁ、俺の苦労は事実だが嫌味は半分冗談だから、そこまで真剣に受け止めないでくれ。

 正直なところ、あまりに予想外だったから、ちょっと、何というか、取り乱した。こちらこそすまない。酒のせいだと許してくれれば助かる」

 

 彼は口上からずっと立ちっぱなしだったが、どかりと椅子に座り直した。矛を収めてくれるようだ。

 思わずほっと一息ついてしまう。この友人は怒らせると理屈と嫌味で責めてくるのだ。

 諸々許してくれるのなら、多少の愚痴くらい軽いものである。「気にしていない」と伝えた。

 

「……実際、準備や下調べに随分時間をかけるのだなと思ってはいたんだ。

 何せ今日で君が動き始めてから七日目だぜ?

 だが、よく考えてみれば俺は君の本来の手口を知らないんだ。

 今まで見てきた戦闘は、墳墓や、その後の巨人との遭遇戦。リフテンに着いてすぐのラットウェイ襲撃。言ってみれば、全てなし崩し的に始まっている。

 だからもしかしたら君は、調査と下準備を念入りに整え、慎重に慎重を重ねて確実性を可能な限り高め、そして攻める際には一気呵成! そういうのが好みなのかと思ったんだよ。

 実際、墳墓ではなかなか用心深いように感じたからね。

 

 それで俺は、今回の砦攻略も、連中を逃さず一網打尽にし、心を捉えるための策を考えているから時間がかかっているんだ、と思った。監視組から、不味そうな報告も無かったしな。

 それがまさか、もう決着をつけて来ただって? それも最良に限り無く近い決着で、だ。

 愚痴は終わりだ。今度はただただ君の大活躍を称賛させてほしい。あまりに鮮やか。あまりに奇想天外。

 そしてあまりに……俺達に優しい」

 

 先程とは打って変わって、穏やかで、何処か物悲しい雰囲気を漂わせている。それは、黙って話を聞いていたサディンも同様だった。

 しかし「優しい」?

 

「ラットウェイ襲撃を思い出してくれればわかるだろう。誰だって元仲間を手に掛けたくはない。

 特にブレックスは、まぁ奴本人はガルスに首ったけだったが、案外、下の面倒を見る男だったからな。

 一味に合流まではせずとも、世話になったと感じている連中は多い。

 だからギルドを抜けたと聞いた時でも、ガマシンとは違って、『致し方無い』という見方が大勢だった。ガルスへの想いと、メルセルへの嫌悪感を鑑みれば、誰でもそう思うだろうさ。 

 君はそんなブレックス一派を、いや、君に習ってもう一味と呼ぼうか。誰一人欠けることなく味方につけてくれた。

 君の味方ということは、直接的ではなくともギルドと関わりを持つ。

 ギルドマスター殿がどう考えるかは別として、下っ端としては仲間が命を落とさなかったのなら、これほど嬉しいことも無いさ」

 

 友が杯を掲げて、「兄弟の慈悲と功績に」と口にした。サディンも倣う。少々、面映い。

 ので、少しつついてみる。

 

「言葉の綾なのだろうが、君は下っ端というには権力を持っているのではなかったか? 盗賊ギルド幹部のブリニョルフ殿?

 あぁ、それから、ブレックスも君のことは褒めていたぞ」

 

 友は一瞬意外そうな顔をしたあと、すぐに愉快だと笑い出した。

 

「そうだったな。俺様は泣く子も黙る盗賊ギルドの幹部樣よ! ……自分で言うのも何だけど、似合わないな。

 しかしブレックスがねぇ。奴さんには良く思われていないと感じていたんだが」

 

 どういうことだろうか。我が友はいたずらに敵を作るのは()であると考え、自省する性質だと思うのだが。

 

「なんというかね。俺の若さというかガキっぽさというか、そういう恥ずかしい話さ。

 俺がギルドに入ったのは、髭も生え揃わない頃だった。

 

 当時のギルドは、小さな王国、とまではいかずとも『飛ぶ鳥を落とす勢い』といった具合でね。

 そんなギルドに加入が叶ったとはいえ、使えない奴だと思われればどういう扱いを受けるかわからない。

 それに人から舐められるのは我慢ならなかったからね。文字通り死にもの狂いで業を磨いたもんさ。ガルスには少し無茶を諌められたな。

 でもそのかいあって、俺は立場を築き、腕前も一目置かれるようになった。

 

 それで、さっきも言ったとおりガキだったからな。どいつもこいつも押し退けて、ゆくゆくはガルスの右腕に、と思っていた。

 言わなくてもわかるだろうが、そんなガキは『現右腕』のブレックスにとって面白くないだろう?

 だから俺は距離を置いていたんだが……そうか、奴はそんな俺を褒めていたか。やっぱり、色々と貫目が足らないな」

 

 自嘲気味、というにはやはり穏やかである。

 ブレックスもそうだが、ブリニョルフにも、ガルスが生きていた頃の話を、こうして暗くならずに思い出せるようなってほしいものだ。

 ……それはそうとして、ちと気になった。

 

「もしかして、私がブレックスや側近達と対峙して覚えた違和感の原因は、君の言うその『距離』のせいか?」

 

 我が友は「あ」と一音漏らして、視線を彷徨わせ、頭を掻き、咳払いをして背筋を伸ばし、頭を下げて、言った。

 

「誤った情報を伝えてしまい、申し訳ない」

 

 今度は私が笑う番だ。友はいつも飄々としているが、今日は特にひょうげている。

 酒精のせいか、同胞が生きていた喜びのせいか、どうも今日の彼は程良く酔っているらしい。まぁ、愉快に酔えるなら存分に楽しんでもらいたいものだ。

 

「しかし、兄弟の話では、奴さん、随分と甘っちょろいんだな。それに素直じゃない。いじり甲斐がありそうだ。

 明日も砦に行くんだろう? 俺も付いて行っていいかい? 別にギルドの活動ではないんだし。

 というか、いい加減、俺も話に噛みたい。もう店主達にこき使われるのはうんざりだ。十分借りは返したはずなんだ。あの業突張り共め。

 ……真面目な話、奴さんの言う悪巧みだという策に興味がある。

 俺なりに考えたこともあるにはあるが、『ガルスの右腕』がどんな案を出して来るのか、是非聞いてみたいもんだ」

 

 彼のほうから我儘を言うとは珍しい。私に否やはないので、了承した。しかし、『盗賊』に業突張り呼ばわりさせるとは、リフテンの商人は随分と逞しいようだ。

 それはそうと、一つ問題が有る。

 

「私はいつも、サディンが思う『脱兎の如き逃走』といった具合で駆けていたのだが、君はそれに付いてこられるのか?」

 

「心配には及ばないよ。ギルドで数頭の馬を共有しているんだ。『砦監視』の名目で持ち出せば、バレやしないさ」

 

 やはり今日の彼は酔っている。発想が悪戯小僧のそれだ。

 「持ち出す」のは当然彼ではないのだし、当たり前のように他人を巻き込もうというあたりが正に悪戯小僧である。

 何本目かわからない蜂蜜酒を開け、上機嫌の家主殿が染み染みと語る。

 

「しかし、また奴等と生きて会えるとはなぁ。

 兄弟を侮辱するつもりは欠片も無いが、俺は君が連中を皆殺しにする未来しか予想出来なかった。良くてブレックスだけを殺し、残りを力づくで従える、といったところか。

 君の能力の問題ではなく、奴等の矜持のためにね。君自身が「此奴は殺してやるが情け」と考える、そういう流れになると思っていたんだ。

 それが一人の死者も出さずに一味全員協力者に仕立て上げ、討伐指令が下されないよう欺瞞工作まで終えてきた、だって?

 断言してもいいがね。そんなことは世界広しとは言え、君以外の誰一人として不可能だったろうさ。

 それこそ、全く手法は違えど、ガルスの仕事を見ているようだ。……あぁ、ブレックスが君に絆されたのは、そのあたりもあるかもしれないな」

 

 いやぁ、奴自身はガルスの話をした際に全力で殺しにかかってきていたから、それはどうかと思うのだが。

 

「もしくは、君に人誑しの才がある、という話かな? 事実、ここ十日ばかりで俺とブレックスの二人は誑かされてしまった。

 俺達がそこらの町娘だったら両親は揃って怒り狂い、『この女の敵!』なんて怒鳴りながら剣を振り上げ、君を追いかけ回してていただろうな」

 

 余計に酷い話になった。流石にそれには反論させてもらいたい。

 

「私はそれほど人に好かれる性質ではないと思うんだがなぁ。

 私が友情に重きを置くのは君も知っているだろう? それは敵が多かったことの裏返しだ。

 殺伐とした話でまた場を盛り下げるのは不本意なので控えるが……、そうだ、ほら、現にメルセル・フレイからは多分嫌われているぞ。

 二人に好かれて一人からは嫌われているから、差し引き一人。許容範囲だろう?」

 

 我が友は笑いのツボに入ったのか「何の許容範囲だ!」と大笑している。

 私はそれを見て、思った。

 良い報告ができて良かった。彼が笑っていられる結果に終わって良かった。彼の力になれて良かった。彼の飲む酒がうまいものになって良かった。

 私はラットウェイ襲撃前に、彼の力になりたいと思ったことを思い出した。

 数日前に一人、胸中で願っただけの誓いとも言えぬものだが、上々の首尾となったのなら嬉しい。

 もしかしたらハンも、胸の痛みで顔をしかめながら笑っていたブレックスを見て、こんな気持ちだったのかもしれない。

 …………とりあえず、明日、砦に着いたら、まずは奴の怪我を治療してやろう。ブリニョルフとも顔合わせをして、今更裏切るとも思えん。問題はあるまい。

 

 なにはともあれ、こんな日が続けばいいと、心からそう思う。




箸休め回です。次回は砦にてブリブレオリ主で作戦会議。
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