DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
また、たまごん樣、まとまるくん樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
一五、作戦会議第二
酒盛りが一段落した頃、サディンがフラゴンへ報告するため、腰を上げた。その足で監視の配置へ戻るらしい。
その際、男が、砦への監視がいつ解除されるのか気にしたので、誓書を交わしてしばらく経ってからだろう、とブリニョルフは伝えた。
その決定を下すのはギルドマスターたるメルセル・フレイだが、然程大きなずれは無いと考えてのことだ。
組織の長として、袂を分かった組織を安易に信用するなど心情的にも様式的にも看過できはしないし、そのような危機管理意識の低い者であれば、新しいマスターに立てられることは無かっただろう。あの性格なのだから。
しかし現実的に、男の戦闘力を直に味わい心も絆されたとなれば、砦の一味は、おそらく男どころかギルドに対しても牙を剥くことはあるまい。
ギルドとしても、極論、面子が立って最低限の利益が確保されるのなら、長々と監視を続ける意味は無いのだ。
寧ろ、監視の長期継続は砦の一味へいたずらに警戒心を植え付けることにもなりかねず、更に言えば人手不足の現状で監視にその貴重な人手を常に取られるなど、不利益でしかない。
ブリニョルフは、筋書きの妥当性をそのように語り、男も納得した。
男が監視を気にしたのは、気分的な問題からだろう。
誰だって友人が疑いの目でもって見張られ続けているなど、気持ち良くはない。
一人家を出ようとしたその瞬間に話が始まってしまい、いまいち時を逃した感のあるサディンだが、区切りがついたと見て、男と再び握手をしてから夜闇に消えていった。ブリニョルフと握手をしなかったのは、単に同じ組織で必要が無かったからに過ぎない。
ちなみに、表向き謹慎中のブリニョルフと連絡を取っていたとばれるのは不味いので、話は全て男から聞き出したことになっている。そしてその裏取りをしていたため、報告まで少々時間がかかった、と。
食事と酒の臭いを消すにも丁度良い言い訳であろう。
メルセル・フレイならばそのあたりを見抜くこともあるやもしれないが、一度処罰を下した幹部を決定的な証拠も無く疑うとなれば、色々と面倒なことになりかねない。
他にも気付く者はいるだろうが、同じく前述の理由でブリニョルフを槍玉に挙げることは無いだろうし、メルセル・フレイはあえてそれに触れないことで構成員達に度量を示す機会にするだろう。ブリニョルフはそう考えた。
信頼や不満など、善きにしろ悪しきにしろ、人の感情とは小さな出来事の積み重ねであることが多い。
無論、件のギルドマスター殺しの幹部など、一事をもって全てをひっくり返した者もいるわけだが。
サディンが去ったあとも、まだ酔いの残っているブリニョルフは、男が砦攻略に使ったという魔術(呪術)から、三人いるという術の師の内、イザリスの娘の話を特に聞きたがった。
男としても多少浮いた話ではあるので口が重くなるのだが、ブリニョルフにはそれが面白く思え、少々しつこく絡んでしまった。
数百年数千年できくかも怪しい男の人生の中で、惚れた腫れたの一つたりとて無かったとは思わないが、普段の雰囲気から異性を簡単に
そんな男、英雄の、準神の浮いた話である。興味を持つなというほうが難しい。
男が、どうしても伏せておきたいことだけを除いて粗方語ってしまうと、「恋歌として叙事詩が書けそうだな」とからかった。
全くの冷やかしなら、男も手刀の一つでも見舞ってやるところだが、ブリニョルフの視線は温かかった。男の地獄巡りの旅に、幾人かの友と歩んだ以外にも救いになるものがあったのだと知って、安心したからだ。
男は「君は時々父母の眼差しになって困る」と愚痴った。
なにくれと男の世話を焼いた覚えはあるが、この言に対して「光栄だ」と返すのが正解なのか、「こんな大きな息子を持った覚えはない」と返すべきか、うまく考えがまとまらなかった。
ブリニョルフは、自分にしては珍しいと思い至ったあたりで、強かに酔いが回っていることを遅まきながら自覚した。
そこで、明朝から馬の背に揺られることを思い出し、若干の後悔と共に大量の水を飲み干す。
水っ腹を抱えたブリニョルフが寝台に転がり込んだのを合図に、その夜はお開きとなった。
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私は街道を駆けながら、やや後方で駈歩で馬を走らせている友を、度々振り返る。明らかに調子が悪そうだ。
「なぁ友よ。もう少し速度を落とそうか。昼餉には間に合わなくなるかもしれないが、事情があれば連中も一日くらい許してくれよう」
しかし友は頑として首を縦に振らない。
一度だけ口を開いたときに、自分から言い出したことだ、君に約束を違えさせるくらいなら置いていってくれ、と口にし、以降は迫り上がってくる昨夜の夕餉と戦い続けている。
これで確信した。盗賊ギルドでは幹部に対して『痩せ我慢』の鍛錬を施している、と。
それがガルスの教えなのかギルドの伝統なのかは知らないが、強情が過ぎないだろうか。
とはいえ、「二日酔いで友人に迷惑をかけた」など、彼の矜持が許さないのだろう。そして、「自らが足を引っ張った」という事実も。
ただ、なんというか、今にも吐瀉物を撒き散らしそうな人間に背を追われている気分というのも、少しは考えてほしい。
現在、苦しい戦いの最中である彼には、そんなことを言えるはずもないのだが。
彼に対しては珍しく、青い顔色以外にも文句がある。
昨夜、酔いを言い訳に私の色恋についてしつこく聞いてきたのだ。
巡礼者時代に大沼で出会ったイザリスのクラーナ。彼女は我が師であり、まぁその、良い仲であった。
初めて会ってからしばらくは、私の呪術の拙さに呆れと叱りの言葉ばかりを投げかけていた。
ある程度上達すると、意外なほど素直に褒めてくれ、それが嬉しくてやたらと舞い上がったのを今も覚えている。
そして私の実力が、古都イザリス踏破に手が届こうかという頃、彼女は言った。「皆を開放してくれ」と。
炎の業に飲み込まれた者を開放するとは、即ち死を与えるということ。それを私に頼むまで、どれほどの自責の念を抱えていたことか。
母君を討伐し帰ってきた私に、彼女は思いの外、弾んだ声で話しかけた。幾らかは無理をしていたのかもしれない。それでも意外だった。
だが、千年苦しみ続けた愛しい家族の解放は、彼女にとって文字通りの意味のみを持っていたのだろう。
自責も、後悔も、罪悪感も吹き飛ばし、千年ぶりの晴れ晴れとした気分だったのだと理解するのに、多少の時間を要した。
薄情とは思うまい。古都から逃げ出していながら程近い場所に居続け、見込みのある者に術を授けては、
多少の贔屓目があるかもしれないが、彼女なりに戦っていたのだと思った。私に、彼女の千年の戦いを非難することはできなかった。
それから幾度となく逢瀬を重ねた。家族と友人から与えられる以外の愛を知らなかった私に、自ら勝ち取る恋とは、愛とは、どのようなものなのかを、教えてくれた。
その後、最期にと思い「火を継ぐ」と告げたときには、延々と酷く罵倒され……泣かせてしまった。もう少しうまい伝え方は無かったものか。もう少し悔いの無いよう察して動いてやれなかったか。もう少し……。
私の、数多ある後悔の中でも、一際大きなものだ。
だがけして後悔だけではない。彼女と過ごした時間は、友とのそれと同じく、いや厳密には少々趣きが異なるが、かけがえのない大切なものであると言い切れる。
だからこそ、童心に帰った友の追究には弱ってしまった。
こんな話を素面でしろというのは、随分と酷である。
気分良く酔っている聞き手はいいが、話し手たる私は不死人であり、酒には酔えぬのだ。甘いやら酸いやら、全て鮮明に思い出して、口がうまく回らなかった。
ブリニョルフからすればそれすらも喜ばしい一幕だったらしいが。困った友人である。
砦が近づき、人の気合とは凄まじいものだと感心した。
我が友は、馬に揺られ続けながら、その揺れと胃腸のご機嫌取りに成功したのか、砦に着く頃には常の顔色に戻っていた。
先のとおり私自身は酒に酔えぬのだが、他人への助言として使えるやもしれぬし、単純な興味として「どうやって尋常ではない吐き気を抑えたのか」、その方法が知りたくなった。
体調が戻ったことで機嫌が良くなったのか、得意気に「秘密だ」と言って教えてはくれなかったが。
既に八回目の訪問となった砦では、二回目と同じく門が下りている、ということも無かった。
まぁ、正確に言えば門の燃えカスを一度外して、残骸と切り出した材木を継ぎ合わせた『門もどき』があり、それを上げているだけなのだが。
「やぁやぁ、今日も良い天気だな。今日は我が友ブリニョルフを連れてきた。
彼は現在、表向きは盗賊ギルド幹部ではなくただの雑貨商であるため、そんなに警戒しないでくれ」
見張りに声をかけつつ、馬を演習場の隅に繋ごうとしたところ、一味の一人が馬の世話を買って出てくれた。
昨日、ブレックスと協力関係を結んだためか、
いくら食事会を開いて頭目が手打ちだと言ったところで人の感情とは如何ともし難く、早まった真似を抑えるために刺す釘にしかならない。
それがこうしてまともな応対を受けられるとは……。数日間とはいえ、努力が実を結んで感無量である。
我が友にもみっともないところを見られずに済み、ほっと一安心もしている。
我々の到着を知らせる先触れを見送り、いつもどおり厨房で食材を放出したあと、ブレックスがいるという執務室へと向かった。
既に執務室の扉は開いていたが、礼儀としてノックをし、返事を待ってから入室した。
「来たな。ブリニョルフが一緒なのは手間が省けて丁度いい。俺からも擦り合わせておきたいことがあったからな。
しかし手前、今日は随分とお行儀がいいじゃあねえか。いつからそんな常識人になった?」
甚だ不本意で失礼なことを言われたが、先に口を開いたのは私ではなく、私に続いて入室したブリニョルフであった。
「いやいや叔父貴。彼がもし常識人であったなら、きっと俺もあんたもこうして彼と穏やかに話をする状況になんてなっていなかったろうさ。
偉大なる非常識の賜物ってね」
「違いねえ。こいつが常人でさえあれば、凡蔵だろうが精鋭だろうが対処できたんだ。
何を間違えたかこのトンマに協力してやろうなんて血迷ったのは、何もかもがイカれたこいつの非常識さ故だろうぜ」
ブレックスは口角を上げて皮肉げに笑う。
思わぬ追撃に私は、ありありと不満だと表情に出して後ろを振り返った。
「すまない、冗談、冗談さ。軽口に対して、彼の頭目殿がどんな反応を返してくれるのか、見てみたかったんだ。
ほら、話しただろう。苦手意識があって距離を置いていた、と。思いの外、胸襟を開いてくれているようで、安心したよ」
なるほど、それなら納得できる。おそらく、ブレックスもわかっていて乗ったのだろう。
だが、フン、と鼻を鳴らしてブレックスが言い返す。
「ケツの青い若造が吠えかかって来たところで、このブレックス樣が揺らぐかよ。
そもそも俺はガルスが引退するあかつきには、足を洗おうと思ってたんだ。そのあいだくらい、ギルド第二席に鎮座するくらいわけねえってんだ」
流石は頭目ブレックス。その矜持はなかなかのもの。と感心していると、今度はブリニョルフの収まりがつかないらしい。
「『ケツの青い』とは言ってくれるじゃないか。これでもガルスに幹部と認められたんだ。あまり侮ってくれるなよ?
あぁ、ギルド第二席を守ることに必死だった叔父貴に、そんな余裕を持てとは些か酷な話だったかな?」
「若造が、吹かしやがるじゃねえか。そんなに一人前
……そもそも俺は手前に『叔父貴』呼ばわりされるほど歳を食っちゃいねえ」
最後だけ視線を部屋の隅に反らしながら呟く哀愁漂う一言で、盛り上がりかけていた空気が若干冷めた。
そしてブリニョルフの「あんた、そんなこと気にするのか」という呟きに「お前もこの微妙な歳になればわかる」と返すブレックス。
その手の悩みを遠い昔に置いてきてしまった私としては、仲間外れにされているようで少し面白くない。
冷めた空気で幾ばくか冷静になったのか、ブレックスが切り出す。
「話すことは色々とあるんだ。挨拶はこのへんにしとこうや。
……おらトンマ、手前はこっちで錬金術の修行だ。話は全部
「少し待ってくれ。その前に二、三、いいだろうか?
……ブリニョルフ、この男にも私の特殊な事情を話そうと思う。一番の友である君に、一応断っておきたい」
言いながら私は左手に太陽のタリスマンを取り出し、ブリニョルフの顔を見る。彼は一瞬考えたあとで、然りと頷いてくれた。
ブレックスが怪訝な顔をするが、既に私は聖句を口にし始めている。途中で止めては意味がない。
奴の「何を?」という声が聞こえたあたりで、部屋いっぱいに『大回復』の光が満ち溢れた。
私は錬金器具の設置された作業台に向かって、手を動かし続けている。
そこからほど近くの場所では、執務机の脇に備え付けられた机でハンが書き物をしている。「今日は書記ですのでお気になさらず」とのことだ。
私には『書記』が何かわからなかったが、ブリニョルフ曰く会話を速記で記録する者らしい。……正気か? 技術というものは、あるところにはあるようだ。
というか、だ。私は、この男にできないことは無いのではないかと思い始めている。
また、食材の提供については今日までで十分、とのことだった。ギルドや衛兵隊を警戒せずにすむ現状、食い扶持くらいは自分達で稼げる、とも。
「知っている話かもしれんが、聞いておけ。まず説明するが、錬金術師ってのは上は首長、下は庶民まで誰からも頼りにされる。
だが最近スカイリム全体がきな臭くなって来てるからな。需要に対して供給が追いついてねえ。そしてこれは時間の経過によって更に酷くなるだろう。
だからこそ、何処で何をするにしても、大きく動き出す前の隠れ蓑としては最適だ。
多少怪しかろうが頼らざるを得ず、人間、助けてもらった相手には態度が軟化するもんだ。
中にはそういう道理をドブに投げ捨てるクズもいるが、そういう輩は何をしたって不利益にしかならんから無視しろ。それでも収まらねえんなら、最悪人知れず始末しろ」
私の事情を打ち明け、言うなれば『真の友』となったブレックスの語りが続く。
先程、胸の骨折を癒やしたこともあり、その声は痩せ我慢などするまでもなく、はきはきと調子が良さそうだ。
ちなみに、事情を打ち明けたときの奴は「そんな、ほぼほぼデイドラロードみてえな奴に絡まれて、よく無事だったな俺達。儲けたぜ」とケタケタ笑っていた。剛毅なことである。
更にはもののついでと、今だ伏せっている(初日に牢の破片を食らった)一味の者達の治療にも駆り出された。医務室に行って聖句を唱えるだけなので、特段手間でもなかった。治療を受けた側は呆けていたが。
私は、袋から取り出した茸を一つずつ細切りにしたあと、器具で順に乾燥させていく。
「ひとまずの身分に錬金術師を選んだ理由は理解したな?
次に『修行しながら』の理由だが、錬金術ってのは意外と同時並行で作業を進めることが多くてな。
秘薬を作るために慎重を期すってんなら別だが、そんな機会はまずねえ。
相手が小口の庶民なら作らにゃならん飲薬、粉薬、軟膏の種類は手足の指じゃ足らねえし、衛兵隊なんかの大口が相手だとそも作業の効率化のためにそうならざるを得ねえ。
つまりあれこれ話ながらでも余裕で作業を熟せるようじゃなきゃ、「腕一本を頼りに流しでやってる」と強弁するには心許ねえんだわ。
手前は促成で一丁前にならにゃならんのだから、ちっときついだろうが我慢しろ。
……おい、今、器具に入れた茸を全部出せ。作業台にその前の茸が僅かに残ってやがる。違う材料が混ざると、どんな恐ろしい代物が出来上がるかわからんぞ。ながらでの作業でも、一つ一つの手順を疎かにするな。一つ終えたら、作業台の上は必ず毎回綺麗に片せ」
言われたとおり、器具から茸を出す。魔法的な工程を経て乾燥されるはずだった茸は、何故か反対に湿っている。それだけではなくぬめりけまで出ているあたり、錬金器具とは不思議なものである。
作業台を綺麗にしてから、もう一度始めからやり直す。
「次に、どうしても確認しておきたいことがある。俺は今のギルドの状況を知らんからな。
このトンマがぶち上げた計画ってのは、基本的には表からも裏からも情報がブラック・ブライアに伝わらないことを前提にしている。
それで、極論だが失敗しても構わんのだよな? 更に、かなり長期的な猶予を見積もっている。そうだな?
…………よし、なら幾らでもやりようはある。かなり大胆にこの『非常識の塊』を動かせるぜ。
ガルスが死んで張り合いが無くなっていたが、野郎が臍を噛んで悔しがるほど、このスカイリムを面白くしてやれるかもしれねえ」
ブレックスは「ヒッヒ」と悪人のような笑いを浮かべている。いや、盗賊は悪人か。
しかしガルスの件について、かなり吹っ切れたようだ。もしくは私達の手前強がっているだけかもしれないが、悪い兆候ではないだろう。
やり直して乾燥させた茸を種類ごとにまとめて乳鉢へ移し、乳棒で磨り潰していく。
「計画について俺がこのトンマから聞いた、というか地下を掘りながら勝手に喋りやがったんだが……。聞いて、思ったことだがな。
ウィンターホールドを狙うってのは悪くねえ。寧ろそこしかねえと俺は思う。
五大都市を除いた四都市でも、大なり小なり強みはある。『ファルクリース』の『戦士達の墓場』なんかだな。
そこにいくと、ウィンターホールドは言葉どおり
財力も、武力もだ。この二つが無ければ発言力なんざあるわけもねえ。
ここに威光があればまだマシだったが、かつてウィンターホールド首長が上級王を務めていたときの兜を紛失してから、それも無くなった。
極めつけは大学と大災害だ。
ガルスの話では、ノルドの噂話とは違いこの二つは無関係で、大災害は遠く離れた火山の噴火が原因じゃねえかと言っていた。俺も本当のことは知らん。
問題は、多くのノルドが『大災害は大学が引き起こした人災だ』と信じ、大学を厄介者だと捉えているってこったな。首長ですらその一人だ。
逆説的に、ここまでどん詰まりの無い無い尽くしでもなけりゃ、大した後ろ盾も無い新参者が数年程度で力を持つなんてのは、不可能と言っても過言じゃねえ」
私は思いつきで言った「狙いはウィンターホールド」にお墨付きを貰えて、少々得意気である。
しかし肝心の町は、私の想像以上に厳しい状況であるようだ。それをどう栄えさせるかが問題である。
磨り潰した茸を脇にどけ、ラベンダーとツンドラの綿の花弁だけを集めていく。根から葉のついた茎があればまた収穫できるらしいので、そちらも捨てずに避けておく。あとで一味の者に砦外周にでも植えてもらおう。
「そこでだ、一つ、考え方を変えろ。……ブリニョルフ、お前には二つ駄目出しな?
まず、ことを成就させるに資金と人員が必要だってのは間違っちゃねえ。常識だからな。
だが、その二つを最初から自前で用意する必要がどこにある?
資金が必要なら持ってるヤツを脅しつけてでも出させろ。人は用意するんじゃねえ。勝手に集まるように仕向けるんだよ。
ブリニョルフ、お前、このトンマの計画が穴だらけなのを承知で、そのまま任せるつもりでいたな? 自分は頼られたときにだけ力になろうと。
断言してもいいが、それだとまず失敗するぞ。こいつ、お前が思っているより戦闘以外は酷え凡蔵だ。今回の砦襲撃のあらましは聞いたんだろう? ならわかるはずだ。
五分の兄弟だからって遠慮してんじゃねえ。こいつが無謀な大計画をぶち上げたんなら、それに必要な物資と伝手と手順くらいは全部こっちで考えてあれせいこれせい指示してやるくらいが丁度いい。
その代わり、難度は天井知らずで構わねえ。横暴さと非常識さで天秤が釣り合う。これが駄目だし一つ。
二つ目はさっき言った、資金と人員の思い違いだ。視野が狭え」
「待ってくれ叔父貴。一つ目はまぁ、俺としても思うところはあるから呑むのしても、二つ目はどうすればいいと?
生憎、俺達盗賊に『ゼニタール』が微笑んでくれたことなんて無いんだ。
今の俺達に資金を融通してくれる資産家なんて、どこにもいないぞ。それに人が集まるように仕向けるったって……」
「その『今の俺達』ってのは誰を指してる? 無意識的にギルドを基準に考えてねえか?
まぁ手前からすりゃ、ギルドへの支援者を探すことに血道を上げていたせいもあって仕方がねえ節もあるが、この計画はギルド抜きでやるんだろう? だったら話は変わってくる。
……『スノー・ショッド』家。当たってみな。今すぐは無理だろうが、多少ことが動き始めてからなら、十中八九乗ってくるぜ。話だけは先に付けておきな」
ブリニョルフが「あ!」と声を上げる。そんなに意外な視点だったのだろうか。
そういえば、以前支援者について話していたとき、『ブラック・ブライア家以外は然程気にすることはない』というようなことを言っていた。
その話の上から排除されていたのがスノー・ショッド家というわけか。それはたしかに、彼にとっては盲点だろう。しかしブリニョルフが候補から外す家が、役に立つのだろうか。
『鶏の卵』を割り、卵黄と卵白に分ける。卵黄は使用しないため、器に除けておく。昼餉の足しにでもしてもらおう。卵白を解かし、茸同様磨り潰したラベンダーとツンドラの綿の花を加え、器具へ投入する。
「スノー・ショッド家はブラック・ブライア家がリフテンへやって来た際、資金援助した家だ。連中自身は養蜂業や水産業を営んでいる。
自前の分とその援助分の資金を元手に、ブラック・ブライア家は蜂蜜酒醸造業へ大々的に乗り出した。
現当主は、最近代替わりしたばかりのメイビンという若い娘だが、これがなかなかのやり手だ。女傑ってヤツだな。先代から続いて優秀、というより優秀な者が当主に立つ家風なんだろうな。
同業者を出し抜き、あるいは排除し、『ブラック・ブライア・リザーブ』を価値有る銘柄に仕立て上げた手腕は、ガルスでさえ称賛したほどだ。
駄目出ししておきながら擁護するのもなんだが、手前は自身の腕を磨くことに必死だったからなあ。
リフテンの力学に目を向け始めたのは、幹部の席が見えてからだろう?
その頃には既に、ブラック・ブライア家はリフテン随一の富豪、正に飛ぶ鳥を落とす勢いだった。それに加えて、昔からもっている帝国との伝手を鑑みれば、リフテン随一の名家と呼んでも遜色はなくなっていた。
他の家々を『その他』で括っちまうのも、まぁ無理はねえよ。俺としちゃ、手前がその若さで幹部張ってる時点で大したもんだと思うんだからよ。
……話を戻すが、新参者に懐深いつもりで手を貸してやったら、あっと言う間に立場が逆転していた。
そんな名家の方々は、その新参者共に対して今頃どんな気持ちを抱いておられることだろうな?」
それは、はっきり言って面白くないだろう。余程、清廉で徳高い人物でなければ、腹に一物抱えることになるのが人情というもの。
現在、それらしい話が表面化していないのだとしたら、ブラック・ブライア家は相当にうまく立ち回っているという話だ。
養蜂業と醸造業。持ちつ持たれつの関係ではあるが、人の情とは理屈だけで片付くものではない。
ちなみに、我が友は「スノー・ショッド家か。あぁクソ! どうして思いつかなかったんだ。チクショウが!」と大変荒れている。珍しい。そんなに悔しがるとは。彼の矜持、というより自尊心か? は私の思っていたより高いものだったのかもしれない。
あるいは、己が承知のうえで見逃す計画の穴は良しとしても、見落としていた穴については自分が許せない。私の計画については全てにおいて第一人者でなければ気が済まない、というきらいが見えなくもない。それはそれで彼の思いが面映ゆく照れるのだが、今は言わないほうがいいだろう。
器具へ投入した物とは別種の茸を磨り潰し、純水に少しずつ溶かして溶液を作る。次に、粘体、と表現すべき状態になった茸と二種の花を器具から取り出し、溶液と混ぜ合わせる。これは気力と腕力の勝負らしい。零さないように、粘り気に負けないように、かき混ぜる。
「これで資金についての目処はある程度立った。次に人員だ。
これは多少賭けだが、現状分かたれているウィンターホールドの町とウィンターホールド大学を結びつける。
お前ら大学に行ったことはあるか? ……だよな。あそこは人種の坩堝だぞ。
街道でサルモールの大使に会えば、連中の強権のせいで最悪殺し合いになりかねん。だが、あそこじゃハイエルフの連中も、魔術への造詣が浅ければ、ただの一学徒だ。
どれだけ魔術に精通しているかだけが地位を決める。「猫」だの「蜥蜴」だの「野人」だの呼ばれている連中が、ハイエルフ樣と一緒になって講義を受けたり実験を繰り返したりしてんだ。勿論ノルドもいる。魔法嫌いのノルドがだ。
この『大学は素質のある者なら誰でも受け入れる』という『知ってる者は知っている』状態を、もっと広げんだよ。そして大陸中から人を集める。
するとどうなる? 大学内部には人が収まりきらなくなって、町に逗留することになるわな。人が増えれば町が栄える。どうよ?
そのためにこのトンマを送りつけ、錬金術師の身分を活かして一人の住民としてまずは信用をつけさせる。そのうえで、町の連中にはある程度隠したまま大学に在籍。完全な隠蔽は難しいだろうから、取引相手、くらいに思われておけばいい。
そして、アークメイジ、ないしはマスター・ウィザードに話をつけて、こっちに引き込む。
大学側はそこまで心配しちゃいねえ。連中だって霞を食って生きてるわけじゃあねえんだ。町とそれなりの取引はある。町を完全に無視することはできん。
それにガルスのダチだったエンシルってウッドエルフがいる。俺もガルスと一緒に何度か会ってるからな。俺から手紙を書けば、このトンマがのこのこ尋ねて行ってもそうは邪険にしねえだろう。
そして今のマスター・ウィザードのサボス・アレンは開明的でな。色々歴史や文化なんかの背景があるが、ぶっちゃけると『余所者に優しい』。
この二人を起点に大学を町に歩み寄らせる」
現実味を帯びるにつれて、私の大風呂敷が壮大な計画へと変貌しているように思う。しかしこの男、よくこれだけの策を思いつくな。投げたのは私だが。
私は溶液を混ぜている。
「問題は町のほうだ。住民はまだいい。苦しい生活が続いてりゃ、余所者がこぞって集まろうが、町が栄えるなら諸々言いたいことは呑んで歓迎するだろう。
解決すべきは首長だ。現首長はもうくたばりかけで、直に息子のコリールがその座を継承するだろうって話なんだが…………奴さん、大の魔術大学嫌いだ」
「おいおい叔父貴、ここまで来てそりゃあないぜ。その老いぼれ首長は、計画の肝心要ってヤツじゃないか。それが大学嫌いじゃ、全部絵に描いた餅だ」
「だから賭けだって言ったろう? 繰り返すが、大学側は心配してねえ。先述の二人が駄目でも、トンマの奇異な魔術を見れば、おそらく全員が食いつく。
そんで首長だが……こっちは安心できるって手はねえから、数を射つ。
まずさっき話した、ウィンターホールド首長が上級王だった時代の兜を探して献上しろ。これは、一人の住民、一人の錬金術師として受け入れられてからでいい。
次。首長はストームクローク派だ。そしてリフテンも首長一族からしてストームクローク派だ。スノー・ショッド家もな。そのあたりを仄めかせ。多少無理筋で関係をでっち上げても構わん。どうせこの時勢に、首長同士が表立って関係を確認しあったり否定したり、なんて危なくてできやしねえ。
そんで、このストームクローク派のような古きを重んじるノルドほど、先の兜みたいなもんを有難がる。少なくとも派閥界隈では多少の効果はあるはずだ。
リフテンでもブラック・ブライア家はどちらかと言えば帝国派になるんだろうが、あそこは儲けられればなんでもいい節操無しだ。気にするな」
私の魔術、呪術、奇跡。これを総じて魔法と呼んでいるが、おそらく成り立ちも発動の仕組みもこちらの魔法とは異なるだろう。
たしかに、大学が人種に拘らない樣子を鑑みれば、おそらく研究以外どうでもいい、とばかりに話や実演をせがまれそうだ。……揉みくちゃにされないだろうか。
とんがり帽子の
……いや、あの翁のこと。文献を読み尽くし大学でできることが無くなれば、大学責任者の地位をあっさりと捨てて、新たな知識を求め放浪の旅に出かねん。残された者達が右往左往するだろう。想像の上でも近づけてはならん人物だな。
しかし町側責任者の首長が計画最大の障害とは。どうしたものか……。
ストームクロークとは、雑にまとめれば反帝国派、ノルド至上主義者、といった勢力だったはずだ。
『マルカルス事件』と呼ばれる一件を解決したウィンドヘルム首長(当時は継承前)のウルフリック・ストームクロークが旗頭となっていることから、派閥の名前が付いたとか。
私なりに考え込んでいると、ブレックスがニヤリと悪人面でこちらを見ている。いや、盗賊は悪人なので面構えは別にいいのだが、嫌な予感がする。
「あぁ、薬を混ぜ終わったな。あとはそいつを冷暗所で丸一日寝かせれば、魔法耐性薬の完成だ。
手頃な材料で効果は抜群。魔法嫌いサルモール嫌いのノルドにゃなかなかウケがいいぜ。じゃ、今の手順をもう一度最初から。繰り返して身体に覚え込ませな。
…………実はよ、手前等が来る前だが、ふと『ガルスだったらどうするだろうか』なんて考えたんだ。奴ならこの『非常識』をどう動かすってな。
ちょっと面白いことを考えついたから、これはちっとあとで話させてくれ。笑いを堪える時間が必要だ」
いい加減『非常識』呼ばわりについては慣れてきたが、何をさせると言うのか。
私が白い目で悪戯親父を見つめつつ袋から茸を取り出していると、馬を勝手に持ち出して砦までやって来た悪戯小僧が口を開いた。
「話が一度止まるなら、ちょっと話題を変えていいかい? 俺からも相談があったんだ。兄弟には、ほら、『俺なりに考えたこともある』と伝えていただろう?
叔父貴がこれだけの計画を披露してくれたんなら、俺だって少しは頭を働かせていたことを証明しておかないと、英雄たる君の友人として見劣りしてしまうからね。
さて、この計画の資金源としてスノー・ショッド家を宛てにする件は俺も賛成だ。接触の仕方を考えておくよ。
だがそれとは別件で、ギルドの活動資金確保のために考えついたことがある。
実現可能か、改良の余地は無いか、話を聞いてくれないか叔父貴」
ブレックスが何事だろうかとにやけ面を引っ込め、襟を正した。この男、私と彼で対応が違わないだろうか。あるいは私を玩具か何かだと思ってはいまいか?
悪戯親父が「話してみろ」とばかりに顎をしゃくる。
「まず叔父貴も知ってのとおり、エルフとの戦争からこっち、このスカイリムはどんどんきな臭くなっている。
しかも、大戦時は帝国軍に合流しての外征だったが、今はスカイリム内でさえおかしな空気だ。
外から来る商人たちはその気配を敏感に察知して、徐々に手を引き始めている。大して影響を受けていないのは、東帝都社の港が有るソリチュードくらいなもんさ。
叔父貴には言うまでもないが、表の繁栄無くして、裏の繁栄も無い。まっとうな商業活動の衰退は、ギルドにとっても面白くない。
……が、逆にこれはチャンスなんじゃないかと思ったんだ。
現在の筆頭支援者であるブラック・ブライア家は、まぁ多少は裏の顔もあるが、基本的には表の連中だ。
そして支援額を渋られないようにするためには、計画同様ブラック・ブライア家に気取られないよう動かなければならない。
だったら、スカイリムでは存在そのものが表と裏の
例えばカジート
例えば『ブラックマーシュ』の貿易船。こっちは水運という一度の規模が大きな商いだからか、まだ数人の行商人を派遣している程度だ。
だがギルドのアルゴニアンが探りを入れたところ、ソリチュードやウィンドヘルムとの取引を考えてはいるって言うんだ。少なくとも、連中はそれが利になると思ってる。
この二通りの交易路に一噛みできれば、案外大きなシノギになると思うんだが、どうかな?
幸い、と言っていいかは微妙なところだが、兄弟から聞いているとおり俺は謹慎中でね。稼業に精を出すことはできない。なら表の顔で稼いで見るのも一興かと思ったのさ」
友がどうかな? と聞くのだ。私も気になり、聞かれた友へ「どうなのだ?」と視線を投げる。
するとこの聞かれたほうの友、悪人面のまま仏頂面になる。私にはわかるぞ。これは内心で褒めているときの顔だ。気持ちわざとらしく鼻を鳴らしているのがその証拠である。
手元は鶏の卵を割り、卵黄と卵白を分けている。
「思ってたよりギルドも次代が育ってるみてえだな。技量だけの男じゃあねえってか? ……結論から言う。『どっちもアリ』だ。
問題はどちらも閉鎖的、というより排他的な社会だという点か。まぁ、スカイリムでノルドが連中にとる態度を思えば、無理からぬことではあるがな。
カジートに関しては、連中が要求する品を納められれば可能性はあるだろう。奴等には付き合いを始める前に、試練を課す風習がある。
アルゴニアンは……さっぱり読めん! 俺にそっちの伝手は無かったからな。こういうときガルスがいれば……。言っても詮無いか。
ひとまず、カジート同様接触するだけしてみて、駄目なら東帝都社の荷受け係に鼻薬を嗅がせるあたりが妥当なところか?
ウィンドヘルムもその伝手でイケるだろうしな。どうせあのノルド至上主義者
どちらも動くだけの可能性と利益がある。先達のおっさんとしては、存分にやればいいと思うぜ。
フレイがなんと言うかは不透明だがな。
ついでに言えば、『ブラック・ブライア家に悟られないよう動く』というのが、ことが大成功した場合多少難しくなる点もある。
痛し痒しだが、成ったあとならどうとでもなるだろう話だ。それだけデカイ山が成るとなれば、トンマのほうも多少は進展してるだろうからな」
ブリニョルフは最後の一言でやや顔をしかめたが、すぐ自信有り、とでも言うかの如く胸を張った。
まぁ、あの偏屈男とてギルドの益になるのならば否やはあるまい。寧ろそこで否を突き付けるなら、いつぞやの話ではないが、ギルドへの背信行為と言える。
手元は問題無い。
「まだ何も成してはいないが、太鼓判を押してもらえて、少し肩の力が抜けたよ。必要以上に背負った気でいた荷が降りた、と言うべきかな。
彼からもあんたの話を色々聞いたが、やっぱりまだまだ貫目が足らないと思い知らされてね。
正直言うと、今日顔を出すのは、距離を置いていた云々を抜きにしても、少し緊張してた。実際、駄目出しも貰ってしまったしな。
でもなんというか、今はすっきりしてる。そして彼に見劣りしないだけの働きをしてみせようと、肚の底から熱が沸いてきてる。
あんまりこういうのは柄じゃないんだがね」
我が友がやる気になったのなら何より。私にとっても喜ばしい。
「よっし。若人の元気を分けてもらったところで、だ。さっき勿体ぶった話をさせていただこうじゃあねえか。
トン……なぁ英雄殿? お持ちの武具の中に、銀で作られた、ないしは銀が使われた代物、なんてのはありゃしませんかね?」
悪戯親父が何を企んでいるのかまるで読めない。作業は続けつつ、質問に答える。
「あるぞ。それも神代の銀で作られた鎧一式に、剣、盾、槍と武装もな。なんなら見てみるか?」
何をさせたいのかは不明瞭だが、とりあえずどんな物かを見せてみる。兜、鎧、手甲、足甲と銀騎士のものを纏い、右手に剣、左手に盾、背には槍を背負う。
ブリニョルフもブレックスも揃って驚き顔だ。
私としてはそこまで良い印象のあるものでもないのだが、大王に仕えた騎士の武具だけあって、浮世離れした綺羅びやかさと、それに見劣りしない純粋な武具としての性能をもっている。
個人的には、それなりに重量のある剣と盾は好みと言えば好みであるし、槍のこの長さは突いて良し払って良しと気に入っている。
何より、連中を打ち倒して手に入れた武具だという点が最も好ましい。
……どうもブレックスのにやけ笑いが酷くなっている。寝物語の魔王のようである。
「予想以上にギンギラギンだなおい。…………完っ璧だぜ英雄殿。
じゃあ『悪巧み』を披露するぞ?
手前よ、その姿のままホワイトランの門を潜って、同胞団に殴り込んで来いよ」
悪戯小僧が悪戯親父に向ける首の速さが面白かった。年季の勝利か。
クラーナさん、どうしても書きたかったの……。許して……。