DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
「おい、何でこうなった。俺は『同胞団に喧嘩を売ってこい』とは言った。ついでに『不自然でなければバルグルーフにも』と。だが、『
いやな、先触れから聞いちゃいたがよ。本当になんで手前ってヤツは、目を離したほんの一時のあいだにガキ拾ってんだ?」
「そうは言われてもな。私と共に門を潜るわけにはいかぬため、その直前まで見届けてから先に町を出たのは理解できるが……。どの時点で私から一味の者の目が離れたかなど、私にわかるわけがなかろう」
悪戯親父の悪巧みを聞いた翌日、私は一味の者を一人帯同させ、ホワイトランへ向かった。
そして現地では同胞団、首長、と無事用件を果たし、馬車も留まる馬小屋のあたりで帯同者と合流した際、私が子供を連れていたために驚かれた。
事情を話し、ひとまず彼には先に馬で砦へ戻ってもらった。
こちらは、子供を私や帯同者の馬の足に合わせて走らせるわけにはいかないため、馬車での帰還となった。
馬車に乗る前、ホワイトラン城壁の見張りが見えなくなった物陰にて『銀鎧』の装いは解いたのだが、念の為の欺瞞工作として、馬車はウィンドヘルムを経由し、乗り継ぐ形でリフテンへと帰還した。
己が成果を自慢するわけではないが、当時は衛兵隊も混乱していたであろうから、『銀鎧』がリフテンから来たと勘付く者はおるまい。
私としては特に問題無いと考えるのだが、どうも目の前の頭目殿は違うようだ。
「いや、兄弟。僭越ながら、叔父貴が聞いてるのは多分そういうことじゃあないと思うんだがね。そもそも犬や猫じゃあるまいに。そんな簡単に孤児なんて拾って大丈夫なのかい?」
砦の執務室に、我が友ブリニョルフの倦怠感漂う声が響く……いや、染みる。二人共やけに反対してくるな。私の膝に乗せている坊主が不安がるではないか。
ちなみに、ブリニョルフは例のカジート商隊先遣隊の足取りを追っていたらしいが、先触れの報告を聞いて飛んできたらしい。律儀である。
というか、私は寧ろ犬猫をこそ飼う趣味は無い。
愛らしいとは思うが、言葉の通じない生き物の世話を焼いてやれる自信が全く無いからだ。
そこに行くと、彼の英雄は素晴らしい。
狼を友とし、自らが力尽きる寸前まで友を案じ、長年愛用したであろう盾まで費やしてその身を守った。狼は亡き友の剣を携え墓を守り、その友情に殉じた。
英雄の墓で狼と会ったときは
火継ぎを行うことは私の使命と思い定めていたため、彼を打ち倒したことは『やむを得ない犠牲』だと、『彼は使命を果たした』のだと思い込もうと努力したが、無神経なフラムトの言には辟易としたものだ。
何が『世界の蛇』か。何が『王の探索者』か。長く生きただけで自分では何も成し得ぬ役立たずめが。
巨大なソウルの持ち主達が、「役目を終えた」? 「道を誤った」? 何故、悪臭を撒き散らすだけの蛇がそれを決めるのか。不遜にもほどがある。
誰も彼も世界のために生きているのではない。己のために生きているのだ。それを超越者気取りの視点から見下しおって。思い出すだけでも忌々しい。
「だが本人が連れて行ってほしいと言うのだ。こちらとしても特に断る理由も無かったしな。
それに、今は一味もギルドも人手不足であろう? この時分から鍛えてやれば、それなり程度は
二人して疲れた顔をしていた悪戯親子が、意外そうな顔でこちらに振り向く。
「兄弟、その子を盗賊にしてしまっていいのかい? その、戦士としての教育を施すんだとばかり思っていたんだが。
だから俺も叔父貴も、計画に支障が出はしないかとも心配したわけで」
あぁ、なるほどな。砦襲撃の際にも思い知らされたが、やはり何をするにしても報告と相談はまめに行ったほうが良い。
「この坊主が言うには『強くなりたい』らしいのだ。しかし強さにも色々あるだろう? 腕っ節や胆力、あとは知恵や芯の強さもそうだな。全て簡単には身につかず、それ故、
見たところ坊主は、生命力、と言うのか、生にしがみつく力が強いように思えた。それを鍛え伸ばすのなら、戦士より盗賊のほうが向いているのではないかと考えたのだ。君等は潔く死ぬくらいなら生き汚く落ち延びるほうを選ぶだろう?
そのあたりを含めて、君等の思う強さを教えてやってほしいと思ってな。
ほら、私の場合は腕っ節を磨いた事情が事情だし、手法も手法だ。誰にも真似できんだろう? ついでに言うと、ある程度の腕がなければ、私自ら坊主を鍛えるにしても、壊してしまいかねん」
「で、その『ある程度』ってのは最低でも『ギルド構成員程度』って話なわけか。そりゃ光栄だこのクソ野郎。拾ってきておいて人に丸投げしてんじゃねえぞ。
大体さっきから坊主坊主って。名前で呼んでやれよ。親子になったんだろ? ちと酷かねえか?」
言われて気が付いた。この坊主、名は何と言うのだろうか。馬車で旅をしているあいだも、野営のあいだも宿に泊まっているあいだも、別段困らなかったのでそのままにしていた。
それを言うとブレックスが椅子を蹴倒して立ち上がり、「手前!」と力いっぱい私の頭を叩く。激高……とは少し違う。なんだろうか。
「叔父貴、横から嘴を挟むのもどうかと思うが、一応兄弟の名誉のために言い訳させてくれ。
彼はその、自分の名前にすらあまり頓着しないんだ。
ご家族を愛しているから名を捨てることこそ無いが、あまりに永いこと呼ばれることも無く過ごして来たから……。
だから多分、その孤児を軽んじていたがため、ではないと思う。……多分」
ブリニョルフが私に代わって口を開くと、私の事情を思い出したのかブレックスがバツの悪そうな顔になり、倒した椅子を戻して座り直す。当然の如く仏頂面だ。
ついでのように、私の脛を蹴りながら「俺が悪いみてえじゃねえか」となお収まらない苛立ちをぶつけてくる。子供の前でそういう暴力的な仕草は教育に悪いと思うのだが。
それに我が友よ。庇うならしっかり庇ってくれ。自信無さげに二度も「多分」と付けないでくれ。
「それで、今更だがお前の名は何というのだ? ちなみに私はノメイで、こっちの若いほうはブリニョルフ、年嵩のほうはブレックスだ」
私が水を向けると、「手前も名乗って無かったのかよ」とブレックスに呆れられた。
普通、名前とは名乗り名乗られるものだ。一方が知らないのなら、もう一方も知らないと考えるのが普通だ。
大体名乗られて名乗らないことなど…………あったな。ブリニョルフもブレックスも、出会いの始めは私が一方的に知っている状態だった。
これは私の新しい悪癖が見つかってしまったかもしれん。面倒な。
私もどこかの頭目殿よろしく仏頂面になっていると、坊主がおずおずと口を開いた。
「…………ラーナルク。でも、お父さん……前のお父さんはあんまり呼んでくれなかった。お母さんがつけてくれた名前」
一度口の中で繰り返し、感触を確かめる。そして複数の大人の男に囲まれて少々縮こまっている坊主の、ラーナルクの頭を撫でる。
「良い名ではないか、ラーナルク。ご母堂には感謝を忘れるなよ。実の父親に関しては、お前の好きにすればいい。忘れたければ忘れろ。覚えていたければ覚えていろ。
ただまぁ、これからここがお前の新しい家になるのだ。帰る場所だ。それは、忘れるなよ。とても大事なことだ。いいな?」
故郷を追放された不死人とて、一時でも帰る場所があるから存在できるのだ。それすら無くした人の心とは、想像を絶する寒々しさを湛える。
物理的にでも精神的にでも構わない。自分には帰る場所があると認識することには大きな意義がある。私はそう考える。
ラーナルクがどこまで理解したかは不明だが、私の言葉に頷いた。
砦の一味に、小さな仲間が加わった。
私がホワイトランから帰還して
たった三月か、もう三月か。受け取りようは人それぞれだろうが、一つ言えるのは『ブレックスは極めて効率主義である』ということだ。効率主義の鬼、効率主義のデーモンである。
私が極論、睡眠や食事などの休息を必要としないと知った途端、教える人員を自らを含めて五人まで増やし、一日を等分して私の教導役としたのだ。
ラーナルクが見かねて泣きながら抗議してくれなければ、私はこの三月、文字通り『一時も休まず』錬金術修行に明け暮れることになっていただろう。結果、一人頭の時間配分はそのまま、教導役は三人になった。
しかし、それでも与えられた休息は、毎晩ラーナルクと共に寝て起きるまでのあいだだけだ。私の休息というよりは、情操教育のために側にいてやれ、という趣旨だろう。
今ではそうでもないが、初めの頃は父親らしくするにはどうすれば良いのか戸惑った。ブレックスに指摘されて、私の胸中でも変化が起きたらしい。
閑話休題。
当然、そんな調子で修行を続けていれば、材料がすぐに枯渇し、頻繁に採集に出かけることになる。私の真の休息時間はこのときだけだ。
自分でも、幼子の相手をするより、禽獣を弓で射ち殺し、剣で切り裂いているときのほうが気が休まる、というのはどうかと思う。世の子育てに携わる全ての人間は偉大である。
砦の執務室から解放され、スカイリムの美しい自然を全身で謳歌する。おぉ、偉大なるかな母なる大地よ。偉大なるかな天の風よ。
そして採集が終わると重い足取りで砦へ戻るのだ。尽きぬ体力があるとはいえ、気疲れくらいはするというのに。あの男はまったく。
ちなみに、試練として初めて採集したときとは違い、獣の死体は解体して、持ち帰れる物は全て持ち帰っている。
食える物は砦の食卓に並び、それ以外は金へと変わる。
別に私の蓄えが増えるわけではない。その金はブリニョルフがリフテンの薬師から材料を買うためのものであるからだ。
つまり、私の錬金術修行が捗ることはあっても、安息のときや息抜きの機会が齎されるわけではないのだ。
一度、修行に手心を加えてくれはしまいかとブレックスに頼んでみたのだが、「スカイリムの情勢がどう変わるか読み辛い時期であるため、可及的速やかに錬金術師としての完成を見るべし」とのこと。
必要なこととはいえ、取り付く島も無く切って捨てられた嘆願に、少しほろりと雫が眼尻から零れそうであった。おかげでそこいらの猟師に負けぬだけの解体技術が身に付きはした。何せ捌いた数が違う。
私が涙を飲んで修行に明け暮れているあいだ、件のラーナルクはと言えば、すっかり砦に馴染んでいた。
ホワイトランからの道々、そして寝床で少しずつあれの事情を聞いてみたのだが、どうも日常的に父親から手を上げられていたらしい。
父親は傭兵稼業を生業としており、家を空けることが多かった。
そのため、妻が子供を産んだときに、本当に自分の子なのかと疑念を抱いたらしい。そのような言葉を、父親から投げつけられたと言っていた。
私が話を聞いて思うに、おそらく父親自身が外に女を作っていたのではないかと思う。だからこそ、同じように妻も他に男を作り、その間男との子を自分の子だと騙っているのではないかと考えた。
私には何が真実かなどわからん。たしかなのは、肝心の母親はもうこの世にはおらず、子を捨てた父親の元へ返してやる気が私に一切無いということだ。
あれが心の整理をつけて、どうしても父親の元へ帰りたいと言うのであれば考えるが……。しかし無理をするでもなくその樣子も見えない。おそらく、ここで生きていくと決めたのだろう。
馴染むきっかけになったのは、ハンの一言であったと思う。あれを「坊っちゃん」と呼んだのだ。
砦に連れてきて数日は、誰もがどう接していいかわからない様子だった。有り体に言えば、「腫れ物に触るよう」というヤツだ。大の男が雁首揃えて情けないことだと思ったが、まぁ仕方ない側面もあるだろう。
なにせ、やっと受け入れる肚を決めたとは言え、砦に襲撃をかけた私の、その養子なのだ。さもありなん。
ブレックスはそのあたりを気にする度量の小さい男ではなく、また別れた妻子がいるようだが、自分で育てた経験は無いとのこと。そのため、単純に子供への接し方がわからない。
呼び方も、名前呼びは稀であり、大概は「ガキ」か「坊主」だ。人の頭を叩いておいて、意気地の無いことである。
ブリニョルフは「お前さんが
そういうわけで、あれについては呼び方さえも定着していなかったのだ。本人も、どのような態度で接して良いのか迷っているようだった。
そんなとき、ハンが言ったのだ。
「頭の正式な客人である旦那の子なら、それ相応にお呼びするべきでしょうな。『坊っちゃん』、あたりが妥当でしょうか」
それを契機に、若い者は「坊っちゃん」、年嵩の者は「ボン」など呼ぶようになり、やっと砦の一人として認められた感が出た。現在、少しずつ名前で呼ぶ者も増えている。
本人も、それなりに大事にされている、少なくとも邪険にはされていない、と理解したのか、徐々にではあるが自ら砦の生活に馴染もうと、様々なことについて教えを請うている。
炊事、洗濯などの日々の生活に関わる作業を手伝い、盗賊の業や体術、投擲術などを手隙の者に尋ねてみたり。
触れ合う時間が増えるほど、本人の帰属意識も、一味の同族意識も高まるだろう。良い傾向である。
ちと寂しいのは、養父たる私はほぼ休まず修行をしているため、共に過ごせるのが先述の寝かしつけのときと、外へ採集に出るときだけだと言うことだ。流石に獣の相手はまださせられぬが、植物採集なら人手は多いほうが私も助かるし、親子の時間はなるべく取ってやりたい。
先の言と矛盾するようではあるが、私とて一応はあれの養父であるのだ。健気に、必死に日々を生きる姿は愛らしく思うし、接する時間はもう少し欲しい。……養父が「一応」程度でしかない自覚があるあたり、何とも情けない話ではある。
言うまでもないが、私の事情については、ラーナルクへ既に話してある。でなければ、飯も食わず眠りもせず平然としている状態など、人外の何かしらと思われても仕方無い。
そういえば、このリフテン近くには吸血鬼狩りを至上命題に据える集団がいるらしい。そのあたりから連想して、私が吸血鬼だなどと誤解されては堪らん。私は人間だ。誰が何と言おうと人間だ。
事情を話しても、わかったような、わかっていないような顔をしていた。ひとまず今は、私が普通とは少し違うと理解していれば十分だろう。
さて、本日出されてた課題は熟せた。厳しい目で一つ一つ合否を見極めている教導役に、「良し、今日はこれまで」との
常人ではまず過労で倒れる修行を送っているだけあって、錬金術の腕は日を追う毎に上達している。
それは私の認識でもそうであるし、教導役の評価でもそうだ。他の者が時間を置いて忘れては覚え直すことを、忘れる間もなく身体に擦り込み、覚え込ませているのだ。これで苦労ほどの効果が無い、などとなっては目も当てられない。
最近はこの倦怠感への一番の特効薬として、ラーナルクとのひと時がある。
夕餉もとうにすみ、大人には早くとも子供の就寝には丁度良い頃、私にあてがわれた部屋の扉を開けると、眠気を我慢して私を待っているのだ。そして少しはにかんだように、「お父さんおつかれさま」と労ってくれる。
常から「眠たくなれば先に寝るように」と伝えているのだが、こればかりはどうしても聞かない。そのため私も、出来る限り夜は早く修行を切り上げられるよう努めている。
さて、これではどちらが世話を焼かれているのかわからぬが、どうも本人としては「お父さん」という言葉を気兼ねなく言える事実が嬉しいようだ。
それはつまり、ただ父親を呼ぶだけで恐れや引け目を感じざるを得ない状況であったことを意味しており……それなりに愛情が芽生えてきた今となっては、次にホワイトランへ赴く機会があれば、『元お父さん』と少々
それはそれとして、親子の時間である。癒やしの時間でもある。
初めの頃はどう言葉をかければ良いのか、心に傷を負っているであろう幼子に言ってはならぬこととは何かと気にしてはいたが、今ではお互い自然に会話を楽しめている。
同じ寝台で同じ毛布にくるまっていると、ラーナルクから「今日はどんなことをしたの?」と聞かれる。それに対し私は「今日も怖い教導役に見張られながら錬金術の修行だった」と答える。半ばお約束のようなやり取りである。
それがすむと、今度は私が聞く番だ。すると、私とは違いなかなか面白そうな話が聞ける。
例えば、煮込み料理の手伝いをした。火傷をしないよう注意され、味見の名目で調理担当と一緒に摘み食いをして、美味しかったし楽しかった。
例えば、置いてあった弓を引こうとしたが、あまりに固く、暫く奮闘していたが駄目だった。それを見ていた数人に笑われたが、「手本を見せてやろう」と次々に的を射る姿を見せられ、憧れたし楽しかった。
そのような話が続く。それを私は、相槌を打ちながら聞く。
大体の話が「楽しかった」で締められるため、無理をしていないか尋ねたことがあるが、そういうわけではないようだった。
ホワイトランではあまり身体の丈夫でなかった母親が心配で、表には出ずに二人で過ごすことが多かったらしい。父親が在宅中は、勘気を被らぬよう、極力静かに過ごしていたとも。
砦に来てからは、野晒しで凍えることも無く、食事の心配も無く、たくさんの人が構ってくれる。だから、楽しい、と。
そうして話をしているうちに、段々疲れて眠気に勝てなくなってくる。本人はまだ話したがるが、子供が夜更しをするものではない。眠るまで頭を撫で続ける。そして私も束の間の休息をとり、明日の英気を養う。
朝になれば私がどこかへ消えていないか確認するラーナルクをまた撫でてやり、一日が始まる。
一度、ラーナルクが目を覚ます前に、気を利かせたつもりで飲水を取りに行ったことがある。
すると、部屋に戻った際、あれは泣いていた。温もりが消えてしまったと。怖かったと。ホワイトランの冬を思い出したと。
それ以来、あれが眠りに就いてから目を覚ますまで、ずっと寝台から動かないことにしている。私としても、心身(主に前者)を休める貴重な時間である。特段、動きたくて仕方無いわけではない。
そんなことを気にするくらいなら、愛らしい寝顔と、幾ばくかの痛ましさを含むものの寝起きに見せる安堵の顔を見るほうが、余程互いのためになるだろう。
ホワイトランの一冬が齎した「突然放り出されはしまいか」という不安も、時が解決してくれるものだと信じたい。
それから更にひと月が経った。
今日も今日とて錬金術修行に励んでいると、私の作った薬を眺め、口にしたブレックスが口を開いた。
「そろそろ手前も『錬金術師』を名乗っていいだろう。俺もこれだけの短期間で知識と技術を他人に詰め込んだのは初めてだったからな。どれだけかかるか未知数だったが、『不死人』様々だな」
なかなか際どい冗談を言う輩である。しかし、だからこそ気の置けない仲、という気もする。
私としては、これで
「あのガ……ラーナルクだがな、ウィンターホールドまで連れて行きな。
初めは計画の妨げになるかとも思ったが、考えてみりゃ、子持ちのほうが疑われにくい。
首長からしたって、同じ錬金術師でも独り身の流しよりは、定住を考える子持ちのほうを歓迎するだろう。
……それにありゃあ、まだ手前から引き離せる状態じゃねえだろう?」
正直、意外である。ブレックスはどちらかと言えばラーナルクを避けているように思っていたのが、案外見ていたようだ。気にかけてくれていたことが、嬉しい。
計画について、この盗賊ブレックスが言うのなら、おそらくそれで問題は無いのだろう。私としても、愛息と別れずにすんで喜ばしい。
ブレックスがあれを置いていけと口にしたならば、どうにかならないかと頼み込むつもりではあった。だが、同時に難しいだろうとも。
これは私が主であり骨子こそ私が考えた計画ではあるが、その他全てを二人の友に任せてしまっている。
…………いや、私は大風呂敷を広げただけで、骨子と呼べる部分もほぼ全て眼前の男の立案だというのが本当のところだろう。既に計画は私一人の問題ではない。
それを私の我儘で台無しにしてしまうのは、心苦しいどころの話ではない。
我が友が、私やあれのことを考えてくれたことが有難く、また単純に嬉しく思う。勿論、こちらに関しても否やはない。あるはずがない。
「手前が特に問題ねえってんなら、決まりだな。半月かひと月ばかりかけて準備を整えて、出立は秋の半ばか終わり頃ってところか?
子連れで旅をするなら、普通、春を迎えてからなんだが、老いぼれ首長がどの程度保ってくれるか読めねえ。
別に次代樣でもいいっちゃいいんだが、人間、くたばりかけのほうが色々と後悔やら何やら思い返して、行動が短絡的になりがちだ。俺達としては、そのほうが都合がいい。
というわけで、手前には可及的速やかにウィンターホールドの町へ溶け込んで、首長閣下の心を捉えてほしいわけよ。いいな?」
友がここまでお膳立てを整えてくれたのだ。これで「やれません」などと返事をする者がいるだろうか。
私はしっかりと頷き、まずは準備の一環としてサーベルキャットを何頭か狩ることにした。あの大きな猫の毛皮は温かいのだ。毛布や外套を用意すれば、ラーナルクも風邪を引かずにすむだろう。