DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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更新に間が空いてしまい、申し訳ありません。
私事でごたついたことと、執筆においてもウィンターホールド到着を少々急ぎすぎていたようで、時間がかかりました。
ですが、ゆるり行こうと思った途端筆が進みましたので、お付き合いいただければ幸いです。
また、amppppp樣、つよちゃん樣、げんまいちゃーはん樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。



一八、外部協力者就任 & 出立

 春の終わり、今を以てなお僅かに残雪が見えはするものの、身を切るような寒気からの解放感で心弾む季節。

 私は、リフト地方の北端に位置する村で、十日ほど過ごしていた。

 当初の予定では、今頃はとうにウィンターホールドへ到着し、一介の錬金術師として活動しているはずであった。

 これが遅れたのには二つの理由がある。

 

 

 

 

 

 一つは、出立の準備中にラーナルクが熱を出してしまったこと。

 ラーナルクは幼児とはいえ、孤児の時分にはスカイリムの冬を一人で生き延びた実績がある。私もブレックスも、そんなあれが体調を崩したことについて訝しんでいたが、ハンが「張り詰めていた気が緩んだのでは」と口にした。

 たしかに、健康的とは言えないにせよ、人間、気を張り続けていれば風邪などの病を遠ざけることはある。しかしそれも行き過ぎれば心身の衰弱を招き、いずれは倒れてしまう。

 ホワイトランから盗賊の砦へ居場所を移し、ようやく芯から安心できるまでに至ったのがこの時期だったということなのだろう。無意識下ですら頑なに(ほぐ)れることの無かった緊張が消えたというのなら、喜ばしいことではある。

 

 が、寝台で辛そうにしている愛息を見ているのは心苦しい。痛し痒しである。

 ひとまず、予定より数枚多い『ユキグマ』とサーベルキャットの毛皮を確保し、予め用意しておいた分でラーナルクを包んでおいた。多少汗ばむやもしれぬが、それは日に何度か下着を着替えさせてやればいい。凍えるよりはずっとマシなはずだ。

 新たに確保した分は、出立までに処理をすればいい。毛皮の処理には案外時間がかかるのだ。

 砦の面々は、さすが元盗賊ギルド構成員と言うべきか。自己管理を怠ったことは無く、体調を崩した記憶など遠い過去だと言う。立派なものだと思う反面、それは連中が病人に、特に幼い病人に慣れていない事実も同時に表しており、看病のあてにはならなかった。使えない()()共である。

 

 かくいう私は、錬金術の修行を経たことで、簡単な料理なら問題なく作れるようになっていた。

 初めは麦粥でもと思ったものの、これでも伏せった子供には辛いのではないかと思い、微塵切りにした各種根菜を目の細かい網に入れて獣の骨と共に煮込み、丁寧に脂を除き、更にパンを投入して葉菜と共に軽く煮込んだ物を出した。日によっては鳥の卵を用いる。

 健常な者が口にすれば、歯ごたえの無さに奇妙な怖気を覚えるかもしれない。しかし弱った病人には丁度良い塩梅だろう。身体に負担はかけず、それでいて少しでも味の感じられる物をと考えたのだ。

 また、熊の肝は乾燥させれば薬にもなるらしい。発熱が何に由来するものかは不明であり、どれほどの効果があるかも未知数だが、少量であれば毒になることもあるまい。

 錬金器具で乾燥させ、粉末状になるまで、刻み、叩き、磨り潰した物を、比較的体調の良い日を選んで小匙程度食べさせてやった。私はそう嫌いでもない味だったのだが、ラーナルクは酷く苦そうにしていた。

 

 看病のかいがあったのか数日である程度快復はしたものの、やはりウィンターホールドへの出立は春を待ってからが良いだろうと結論付けた。

 それに、「『お父さん』がかんびょうしてくれた」という事実にやたら喜ぶ我が子を見て、環境を変化させるのはもう少し先でも良いのではないかと思いもしたのだ。

 

 

 

 

 

 もう一つは、私に『魂縛』と付呪の適正があることがわかり、ギルドから正式に外部協力者に就任してほしいとの要請を受けたことだ。

 ラーナルクが熱を出し、出立を春の始まりに延期したことで、私にはいくらかの時間的余裕が生じていた。

 錬金術修行や材料採集を継続しても良かったのだが、それだけでは芸がないと、ブレックスが物は試しとばかりに私を『アルケイン付呪器』の前まで引っ張り、付呪と、ついでに魂縛を行わせたのだ。結果は、先述のとおりである。

 

 

 

 暇潰し程度に考えていたブレックスは随分と驚いていた。どうも、魔術師の中でも付呪の適正を持つ者は、全体から見れば稀なのだそうだ。

 だからこそ、各砦の首長お抱えである筆頭魔術師となるには須らく付呪が使えねばならないし、そうであっても、都市の末端の衛兵にまではその恩恵が届かない。

 我らが標的であるウィンターホールド大学においても、付呪の依頼は貴重な収入源であることから、その使い手の希少性が窺える。

 そのうえ、私の付呪の腕前は錬金術とは違い、既に熟練や達人の域にあるらしい。いきなりそう言われても、いまいち実感が湧かないのだが。

 付呪を覚えるためには、まずそれらが付呪された品を用いる必要がある。そして用いられた品は塵になって消えてしまう。つまりあまりに希少な武具は、覚える際の消耗品としては使えない。そのため、手始めに覚えたのは、武器に炎、氷、雷の力を付与するものだった。

 

 しかし……なんというか、私が魂石を用いて付呪をしてみせる度にブレックスやハン他砦の面々は褒め囃し立ててきたのだが、私の胸中では混乱が浮かぶばかりであった。炎も、氷も、雷も、どれも「あれば多少便利」程度の物であったからだ。

 私の思い浮かべる属性武器というものは、対象を一瞬で火達磨にし、あるいは凍てつかせる力を持っていた。雷など語るまでもない。元は、大王が岩の鱗を持つ古き竜を打ち倒すための力であったのだ。

 険しい旅の中、それ等の力にどれだけ助けられたかわからない。それがこの程度の力で一つの魔術分野として成り立っているとは……。しかも、付呪の力は使い続ければやがては尽きてしまい、そうなれば魂石で充填する必要があるのだという。少々納得のいかないものがある。

 ブレックスが言うには、私が用いたのは魂石の中でも並か小さめの、中や小、もしくは極小といった力の弱い物であり、大や極大とされる魂石を用いれば、更に強力な付呪を行えるとのことであったが……。

 

 

 

 閑 話 休 題(感傷に浸りすぎた)

 もう一つ判明したのは、私はソウルの業の応用として魂縛を行えるため、魂縛の呪文や魂縛の付呪が施された武器を用いる必要が無いということだ。

 更に私にとって都合が良いことに、魂縛に用いる魂とは、生物だけが持つわけではないということだ。

 

 この魂縛という魔術、というか技術であるが、通常であれば先述のとおり呪文かそれ用の武器を用いて()()()()()を殺め、その際に肉体から離れた魂を『魂石』と呼ばれる物質へ納める術、であるのだとか。

 説明を聞いて思った。なんのことはない。それは私が常の如く使うソウルの業に酷似しているのだ。最近は物資の移送にばかり役立てていたが、ソウルの業は別に物を出し入れすることが主ではない。

 他者のソウルを己が力として取り込み、望むように活用することが本質である。

 取り込んだソウルは、自己の強化以外にも、ソウルで構成された武具の修繕にも使える。……他者との取引にも用いていたが、それは相手もソウルの業を使えることが前提となる。スカイリムでは無縁であろう。

 なんにせよ、私にとってソウルを、魂を用いる術など、今更な話であるのだ。しかしこの土地では違ったらしい。

 魂を捕らえておくには魂石が必要であり、一度魂石に充填した魂を抜き取るなど不可能。しかし私のソウルの業を思えば、私自身を『魂の出し入れ可能な巨大な魂石』に見立てることができる。これはかなりの利便性を誇るらしい。

 

 私はソウルを用いて、私という器の上限まで自己を強化した(ソウルを用いて筋力や理力を高めることを、『鍛錬』とは呼ぶまい)。

 だが、武具の修繕に用いることを考えれば、ある程度余剰分を確保しておきたい気持ちはある。簡単な手入れくらいは問題ないが、修繕や鍛え直しとなどの作業に至っては全てソウルに頼っていたため、長く親しんだくせに私にその手の知識や技術は皆無であるのだ。

 故に、やろうと思えば空の魂石を満たし続けることもできようが、それは可能な限り避けたいというのが心情である。

 そして話は「都合の良い」まで戻るのだが、私がこのスカイリムの地へと足を踏み入れたとき、死者の身体に魂を宿したドラウグル共を大量に打ち倒した。

 その後も友の前で巨人を殺したり、錬金術材料採集のために様々な生物を殺めた。これらはスカイリムで活動する限り、錬金術のため、身を守るために行い続けるだろう。

 要するに、私は現状で空の魂石をほぼ際限無く充填するだけの大量の魂を保持しており、それはこれからも変わらない、ということだ。

 ちなみに、魂の大きさは持ち主の力や大きさでおよそ量ることができるらしいので、人を殺めた際の魂はどの程度のものなのか、とハンに尋ねてみたところ、目を見開かれてしまった。

 人の魂を消耗品扱いしてしまったが故であろうと理解はできるのだが、他者の魂を好き勝手に利用している時点で非情であることに変わりはないと思うのだが。

 そもそも私は長く化生や人外と慣れ親しんでいるために、人だけが特別であるという意識が希薄なのだ。味方に薄気味悪い価値観の持ち主がいては面白くはないだろうが、おそらく変わることの無いものであろうから、皆には我慢してほしい。私も、あまり人前で披露しないほうが良い言であるとは学んだのだし。

 

 余談ではあるが、人の魂を縛るには、黒魂石なる特別な魂石を用いるらしい。しかし、黒魂石の用途から考えて、所持しているだけでも白い目で見られる品であることは言うまでもない。

 魔術の総本山であるウィンターホールド大学にでも行けば話は違うかもしれないが、それまではまずお目にかかることも無いだろう。

 

 

 

 閑 話 休 題(再び話がそれた)

 私のソウルの業と魂縛についての関係を知ったブレックスは、すぐさま配下達に空の魂石を集めるよう指示を出した。購入してでも、盗んででも、だ。そしてブリニョルフに使いを出し、彼を通してギルドでも同じ動きが起きた。

 慌ただしいブレックスに事情を聞くと、市場での相場として、魂石は空か充填されているかで値がまるで違うのだとか。

 つまり空の魂石を大量に集め、私に充填させ、それを売り捌くだけで利益が出る、ということらしい。魂石が然程嵩張らないことも、その商売の利点であるとか。

 魂石の需要は付呪以外にも、魔術的な働きをする道具や儀式の魔法陣の動力源など多岐に渡るため、いくらあっても困らない。

 そして私は、魂の()()()()とは無縁である。悪戯親父曰く、ボロい商売、だとか。

 そのボロい話をギルドにも通したのは、友誼の証と、力関係を鑑みてのことらしい。いくら相互不可侵の約定を交わしたとはいえ、ギルドがその気になれば、砦を丸ごと一網打尽にすることは可能なのだ。

 砦の襲撃に踏み切ってもギルドには労に見合った得が無いばかりか、ギルドマスターには不審の目が向けられるだろうが、可能不可能で可能ならば、それを極力遠ざけるのが頭目の役目だとも。一味の長は色々と大変である。

 

 なお、砦の面々が魂石を買い集める際の軍資金の一部として、私の作った大量の薬がある。

 私が修行中に作成した並から低品質の薬品を、砦の物資として消費されることに否やはない。その分、私には錬金術師としての腕前が身についたのだから。授業料として納得できる。寧ろそんなもので良いのだろうかという気さえする。

 ギルドについては、軍資金など気にするまでもない。代替わりしようが内部分裂しようが、腐ってもスカイリムの裏社会を牛耳った闇ギルドなのだ。空の魂石を集めるくらいわけはないだろう。

 

 

 

 そうこうしていると、ブリニョルフがメルセル・フレイの書いた書状と、予備の盗賊の鎧一式を持ってきた。

 書状を要約すれば、私にギルド外部協力員への就任を願うものであった。私は魂石の充填や依頼された付呪によりギルドへ利益を齎し、ギルドは私に様々な便宜を図る、とのことだった。

 ギルドの外部協力者となるのはウィンターホールドで実績を出してからだと思っていたのだが、ギルドマスター殿は伝手があり利益を生み出す存在を放置しておくつもりは無いらしい。

 私としても、砦の面々だけでなくギルドからの協力を受けられるのならば計画の成功率が上がるし、何より我が友のギルド内での立場も多少は良くなるだろう。否やなどあろうはずもない。

 尤も、通常であればメルセル・フレイが砦を、もしくは私がフラゴンを訪ねて顔を合わせたうえで交わされる契約についてブリニョルフを介した書面で済ませるあたり、彼のギルドマスター殿が抱く私への嫌悪感は根深いようだ。とはいえ私も好きではない顔をわざわざ見たいとは思わないので、お互い樣である。

 それより、我が友ブリニョルフが顔を綻ばせて「就任おめでとう。これからもよろしくな、兄弟」と握手を求めてきたあたりで、そのあたりの雑事はどうでも良くなった。

 

 次いで、ブリニョルフの持参した鎧にかけられた付呪を覚えるため、盗賊の鎧一式を用いた。ちなみに、塵となった鎧一式については、在庫管理の者へ幾らか握らせて持ち出したらしい。幹部とは言え、なかなか好き勝手をする悪戯小僧である。

 流石にまずかろうと思い、新たに鎧を用意し付呪を施す提案をしたのだが、彼はそれを断った。

 曰く、ギルドの鎧は成果を挙げた者への恩賞として性能の良い品が与えられることが伝統であり、その性能はある程度定まっているため、私が勝手に高い効果の付呪を施した鎧を提供しても、使うことができないのだとか。

 実利に重きを置くメルセル・フレイらしからぬと思いはしたが、ギルドの伝統を犯す行為は、今だ足元の定まらぬ彼の御仁が踏み込める領域ではないらしい。主に古参の構成員から無視できないほどの反感を買うだろう、とのことだ。

 

 砦の面々にしても、己が鎧を纏ってギルドの最盛期を支えたという自負がある。更に言えば、各々が磨き上げた業についても同様である。

 いくら私が付呪を施した鎧を纏えば、鍵開けが、盗みが容易になるとしても、用いることはない、とは頭目殿の言である。

 しかし「なるほど、それが此奴等の矜持か」と感心した矢先に、売買交渉が有利になる頭巾については、それなりの数を用意させられた。所持品を相対的に軽くして持ち物を大量に運べるようになる鎧については、苦悩した末に一つだけ依頼された。

 友等の暮らしぶりが楽になるのなら私は構わないのだが、格好良く決めたそのすぐあとに前言を翻すような依頼をするのは、正直よしてほしい。

 その際、ハンが軽口を叩いて頭を叩かれていたが、奴は頭目殿に怒りの抗議を行う資格があると思う。

 各々流儀は違うのだろうが、盗賊ブレックスにとって、売買の価格交渉などは商人の領分であり、持ち出す品の選定ができぬ者は半人前、なのだそうだ。故に盗賊の矜持とは無関係、と。

 私は盗賊ではないのでわからぬが、信と忠を得ている頭目がそう言うのならば、この一味ではそうなのだろう。多分。

 

 

 

 

 

 それからは細かい調整に時間を取られた。

 まず、計画を遂行するに当たって、私のそばには常に最低一人は砦から付けられることになっていた。

 筋書きとしては、こうだ。

 私は流しの身でありながらリフテン逗留中に豪商から気に入られ、お抱えの薬師としての雇用を持ちかけられた。しかしそれを断ったがため、せめて旅に協力することで定期的な取引を続けて欲しいと懇願され、家中の者から旅の供を付けられている。付き人は定期的に交代することで、薬と材料の売買を同時に行う。……というものである。実際には今回の一件で、そこに魂石のやり取りが含まれるようになるのだろう。

 そして、私が外部協力者となったことで、側に付けられる者にギルドの者も加わることとなった。

 追加された筋書きでは、私はリフテンを訪れる前にマルカルスでの取引で同様の話を持ちかけられており、そのためリフテンとマルカルス、双方の豪商が私の身柄を渡してなるものかと牽制しあっている、というものだ。

 

 悪戯親父の考えでは、然るべきときに私が『銀鎧』であることを公表するため、それまでは『銀鎧』と私とギルドとの関係を極力覚られぬよう『流しの錬金術師』という偽りの身分が必要になる。

 ギルドの協力でリフテン逗留以前の足取りを偽装できるのなら、私と『銀鎧』を結びつけるのがより一層難しくなる。計画遂行の助けとして純粋に有り難い。

 それに、文字は覚えたとは言え(錬金術修行のあいだに材料や工程を目で読み口で読み上げることで無理やりにでも覚えさせられた。初めての材料収集のときは、理解できる品だけを優先的に集め、砦へ帰還してからは恥を忍んでハンの助けを借りていた)、未だスカイリムに不案内な私にとって、旅の供が増えることは有り難い。何しろ子連れでもあるのだ。

 

 ただ、如何せんこの小っ恥ずかしさは何とかならないものだろうか。

 厳しくも()()()先生方のおかげで、促成教育とはいえ「いっぱしの錬金術師」を名乗れるだけの技量は身につけた。とはいえ、架空の話の上で私がやたら評価され、その証である付き人を連れて旅をするなどと。尻から首筋に悪寒が走って気持ち悪いし痒くなる。

 そのことをブレックスに愚痴るように抗議したが、まるでとりあってもらえなかった。筋書きに致命的な欠陥が無ければ、愚痴程度のことで改める気はないらしい。更に言えば、『流し』の時点で怪しい人物であることに変わりはないのだから、多少特異な筋書きが書き加えられたところで変わらない。寧ろ一周回ってまともに見える、だとか。一周とはどこの何を示しているのだろう? 首を傾げていると、「慣用表現だ馬鹿垂れ」と頭を叩かれた。理不尽である。

 

 

 その他には、体力の戻ったラーナルクの鍛錬も行った。

 あれが体調を崩したことで、どれだけ生命力や精神力が強くとも、まだ幼い子供なのだと思い知らされた。そのため、基礎体力を付けるために砦の演習場で走り込みを行わせたのだ。

 それに、何をするにしても足腰の鍛錬は重要である。

 あれの身は私が必ず守るつもりではいるが、敵の数が多くて取り零してしまうことが万が一にも無い、とは言い切れないのだ。そのとき、ラーナルクには下手に立ち向かうよりは逃げ延びてもらいたい。

 足を止めて戦えば手傷を負う可能性が高まるが、逃げて時間さえ稼いでくれれば、私が駆け付け敵を屠るることもできるからだ。

 

 私も、何度となく敵に背を向けて逃走を図ったものだ。逃げることは恥ではない。死にたくないのならば、敵を打倒しなければならないのであれば、一時的な戦略的撤退は時として下手な攻め手に勝る闘争手段である。

 体を動かすなら剣の鍛錬がしたいとぐずるラーナルクにそのような実体験を交えて話してみれば、ひとまずは納得して走り込みに取り掛かってくれた。「お父さんとおそろい」が嬉しいらしい。まぁ、今はまだそれでいいだろう。

 

 とはいえ、男の子らしい剣への憧れも垣間見えたことであるし、一味の中でも手隙の者を捕まえて短剣術と投擲術の鍛錬も行うことにした。延々走るだけでは流石に面白くあるまいと。

 私が錬金術修行にかかりきりだったときに多少の手解きは受けていたらしいが、この考えはあれの興味を大いに惹き付けることとなった。私自身が教える、という点が琴線に触れたらしい。

 投擲術の鍛錬は砦の外で行った。体が出来ていないことを鑑みて、素手では軽めに行うほか、投石紐を用いて鳥を狙う練習を繰り返した。

 今までは砦の中で的当ての鍛錬だけを行っていたこともあり、思いの外遠くへ飛んでいく石に、投げた本人が驚いていて愛らしかった。獲物が獲れたら私に食べさせてくれるらしい。いつになるかはわからないが、楽しみだ。

 短剣術は、まず一味の者に基礎を教わり、その後、組み手を。疲れたら休憩を取りながら、私と一味の者が行う組み手の見取り稽古を、と。私の短剣術(と言うか私のあらゆる戦闘術に言えるが)は我流ではあるものの、両の手に短剣を構え、身軽さと手数の多さで相手を翻弄しつつ押し切る、という戦法は嫌いではなく、それなりに使う機会もあった。披露して見苦しいものではないはずだ。組み手を眺めていたあれも、「すごいすごい!」とはしゃいでいた。お父さんは鼻高々である。

 

 すると鍛錬の様子を見ていた頭目殿が、砦の全員に命令を出した。曰く、時間を作ってその『非常識』に揉まれておけ、とのこと。殺す気で挑んでも死なない相手というのは貴重であるからして、春になって砦を去る前に挑めるだけ挑んでおけ、とも。

 理屈は理解できても「ひたすら打ち倒されろ」という指示を喜んで行う者は少ない。それを見かねたハンが、旦那に一太刀入れた者には褒賞金を出す、と告げた。また、それに及ばずとも目ぼしい動きを見せた者にも粗品を渡す、とも。

 どうも、ブレックスやハンが褒賞と口にしたときは、それなりの品が下賜されることが通例らしい。皆の目の色が変わった。

 こうなると、ラーナルクの鍛錬なのか砦の面々の鍛錬なのかわからない。演習場であれが体を動かしていた時間と、見取り稽古をしていた時間は、半々程度であったのではないかと思う。

 

 餌に釣られてやる気を出したとしても、相手が一向に動じず千切っては投げ千切っては投げを繰り返していると、不満も出てくるらしい。面白くない気持ちを頭目殿にぶつける者が出てきた。「頭は()()()()()いいんですかい?」と。

 するとこともなげに「俺は手前等と違って強えからいいんだ」と嘯く頭目殿であったが、この男、ただ単に配下達の前で転がされるのが嫌なだけなのであった。

 皆が寝静まった頃、「手前に睡眠は必要ねえんだろう?」と連れ出され、何度も何度も挑みかかってきた。回復薬をがぶ飲みしながら、「春までに絶対一太刀入れてやる」と餓狼のような目で切りつけてくるのだ。

 どうもこの悪戯親父、私が以前入れた当身を、素知らぬ顔をしつつ実は根に持っていたようなのだ。

 私は私で、寝床から抜け出したあとでラーナルクが起きてしまわないように、温石を布団に仕込む手間が必要であり面倒だったのだが。

 

 結果から言えば、私は勝負? に負けた。私の根負け、というか、奴の執念の勝利というのか。

 出立の時期が近づいた頃、その日も何度手合わせをしたか数えるのも馬鹿らしいほどの回数を重ねており、いい加減気疲れした私の集中が切れた瞬間、運悪く地面の窪みに足を取られた。体勢を崩すまではいかずとも重心がよれたその隙を逃さず、奴は己の肘を私の盾の縁に叩きつけるよう振るい、折れた腕をしならせながら短剣を私の首に刺し込んだのだ。

 狂しているのではないかとすら思った。私の油断もあったとはいえ、たかが手合わせで肘を折る馬鹿がどこにいるのだと言いたい。が、「ざまぁ見ろ」と満足気に倒れ伏した頭目殿を見やるに、負けは負けと認めねばならんのだろう。

 奇跡を用いて首の傷と奴の腕を直し、背負って部屋まで運ぼうとしたところで、ハンが現れ自分が運ぶと申し出た。この腹心、聞けばブレックスの挑戦を初めからずっと見守っていたらしい。

 相変わらずブレックスのこととなると度を越した献身を見せる男である。ずっと見守っていたということは、ブレックス同様、夜は寝ていなかったということだ。頭目殿の朝が若干遅かろうが仮眠を取ることが増えようが配下達は気にしないが、雑事等、砦の実務を統括する副頭目が同様であれば訝しむ者も出るだろう。しかし、そのような様子は一切見せなかった。大したものである。

 

 とは言うものの、去り際に「頭が旦那に一矢報いたことは、折を見て連中にも武勇伝として伝えます」と断るのはどうなのだろう。私は別に構わんが、わざわざそれを伝えるということは、ハンもまた襲撃についてはちと思うことがあったのだろうか。

 まぁなんだ。それを面と向かって口にできる程度には、仲が深まったということなのだろう。きっとそうだ。仲良きことは良いことである。

 

 

 

 

 

 そうして、砦で過ごす冬は過ぎ、春を迎え、出立の日と相成った。

 私や砦の者、またはギルドの者だけであれば徒歩の旅でも良かったのだが。こちらには幼子がいる。というわけで、旅立ちにあたってリフテンの馬屋で馬車を一台購入した。この代金はブレックスが出してくれた。どうも、『春までに一太刀』という目標を達成できたことで機嫌がいいらしい。

 友が良いというのなら、私は有難く受け取るだけだ。ちなみに、馬の名前はマルッコである。ラーナルクが名付けた。

 

 また、ラーナルクが寒さで体調を崩さないように、毛皮も多めに用意した。ただでさえ多少は慣れた砦を後にすることでぐずっているのだ。環境の変化を甘く見るわけにはいかない。昨日の夜は「寂しい」と泣いてしまったあれをなだめるのに大変であった。

 最終的には、出立してからのお楽しみにとっておこうと思っていた、サーベルキャットの毛皮で作ったラーナルク用の寝間着と、ユキグマの毛皮で作った私用の寝間着を見せて、どうにか泣き止ませた。寝間着は頭部がそのままフードに、前肢が袖に、後肢が裾になるよう縫い合わせてある。一頭では皮を割く位置の関係上足りないため、一着で二頭分の皮を使った贅沢品だ。その分、空気の逃げる場所が無く、温かさは補償できる。夏は無用の長物になりかねんが。

 私とあれの体格差故に毛皮の種類までは揃えられなかったものの、獣の仮装にも思える揃いの寝間着を見て喜んでくれたのだから、苦労が報われるだけの効果はあったのだ。準備しておいた自分を褒めてやりたい。

 

 ついでに、ブレックスから私の言葉遣いについても矯正が入った。

 ホワイトラン襲撃の計画時にも言われたが、どうも私の話し方は固いらしい。『銀鎧』のときには騎士の如き口調で話したため、そこから乖離させるためにも、「これから()の人間と接するときは、もっと柔らかく話せ」とのことだった。

 口調とは身についた癖であるから一朝一夕に変えられるものでもないが、『銀鎧』のときでも上手にやれたのだ。ブリニョルフやブレックス……は伊達男とべらんめえ調が過ぎるにしても、砦の面々、そして記憶に刻み込まれた友等のそれを思い起こせば、なんということはないだろう。

 

 同行する砦の者は連絡を密にするためにも頻繁に、具体的には長くても十日前後で入れ替わるが、ギルドからの同行者はそうもいかない。短くても半月、といった具合になるようだ。

 ギルドから来る同行者について、ブリニョルフは当日のお楽しみだと言っていた。さて、どういうことかと思っていたら、現れたのは友の家で酒を交わしたサディンであった。

 聞けば、ギルド内で各々が担当する地域や案件はある程度固まっており、私の一件はブレックス一味に関わる延長線上、という扱いらしい。ブリニョルフからも、初めに付ける者は、多少なりとも私のやり口を知っている者のほうが合わせやすく、引き継ぎも容易になるのではないか。それには、砦の監視要員から選ぶのが適当ではないか。と口添えがあったらしい。

 私としても、顔を合わせたことのある者であればやりやすい。友の気遣いに感謝しつつ、私達は砦を出立した。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして現在逗留中の村にいたるまで、二つの村と一つの監視塔を経由した。監視塔では丸一日、村ではそれぞれ数日を過ごした。

 軍事施設である監視塔に民間人が長居するわけにはいかないが、回復薬を中心として、それなりの取引が行えた。監視塔に置かれていた錬金作業台を使って薬の在庫を作っておけたのも良かった。作業台自体は藁を敷き詰めた木箱に入れて持参しているが、実際に私が作業をしている姿を現地の人間に見せる、という意味もあったからだ。

 村では監視塔とは違い、関節症薬や痛み止めなどを所望された。農村であれ、鉱山採掘用の村であれ、労働者の多くは膝や腰を痛める。それらを緩和する軟膏は、田舎暮らしでは必需品と言える。また、痛み止めについても、治療院を兼任する大きな神殿が無い場合、切傷、骨折、虫歯、下り腹など、あらゆる場面において必要とされる。直接的な処置を施せないのなら、痛み止めを用いて治癒力に任せるしかないからだ(虫歯の場合、痛み止めを用いて抜歯を行うため、直接的処置と言えなくもないが)。

 

 また、それらの村々では、薬の代金を若干値引きする代わりとして、数少ない子供達にラーナルクの遊び相手を務めてもらった。

 村では子供とは言え労働力として勘定に入れられることも多いが、「薬が効けばすぐに働けるようになるのだから」と言って我儘を聞いてもらった。先方としても、何かと入用な暮らしの中で出費が抑えられるなら、数日程度子供が遊ぶくらいはなんということもあるまい。

 それにブレックスの言ではないが、不調から立ち直るときの人間というのは、得てして浮ついた気分になりがちだ。こちらも、断られることはまずあるまいと思って提案している。

 それもこれも、ラーナルクには同世代との交流が必要だと考えたからである。

 まだ不死人となる前。私のようなどうしようもない愚か者にも、友と呼べる人間は居た。それがどれだけ有り難いことであったのか、理解したのはずっと後になってからだったが、おそらく自覚しないあいだにも救われていたのだと思う。ラーナルクにも、いずれは友と呼べる存在ができることを願っている。

 あれはホワイトランではほとんど母親と二人きりで過ごし、砦に移ってからも周りには大人しか居なかった。

 私は私で、計画では一応、ウィンターホールド到着後は腰を落ち着けることにはなっているが、絶対とは言えない。あれが独り立ちするまでは私の都合で各地を転々とすることになるやもしれん。

 であれば、大袈裟かもしれないが、同世代の子供と遊べる機会というのは、あれにとって貴重な時間となりかねない。なんなら、薬代を全額負けてでも頼み込みたいくらいだというのが本音だ。……明らかに不審であるため、実行はしないが。

 

 しかしあまりに長逗留しても、それはそれで不審であるし、何より目的地のウィンターホールドは未だ遠くにある。このあとはウィンドヘルムを経由することになっているため、地図を見て鑑みるに、到着は夏の終わりか秋頃になっているだろう。

 当初の計画より遅れが生じている以上、「先を急ぐ」という印象を持たれない範囲で、その実、ちと急がねばならないのも事実である。なにせブレックス曰く、くたばりかけの老いぼれ首長のほうが何かと都合が良いのだ。現実に()()()()()()()()前に計画を少しでも進行させたいところだ。

 折角、子供同士の関係に慣れたラーナルクには悪いが、私達は村を出立した。

 幾人かの不調を治し、予備の薬を「子供のため」と言って安価で売り渡したからか、村人達は好意的に見送ってくれた。

 

 一つ気になるのは、昨晩、村長に出立の意を伝えたときのことだ。

 村に逗留中、寝泊まりできるのが村長の家くらいだったこともあり、宿として一室を借りていた。付き人は、申し訳ないが納屋だ。

 毛皮の寝間着で「サーベルキャットごっこ」をしているラーナルクを微笑ましく見ていた私に、村長が告げる。

 曰く、少し前からウィンドヘルムはおかしい。最近ではイーストマーチ地方全域のみならず、このあたりにまでそのきな臭さが漂ってきている。ウィンドヘルムへ向かうなら用心するように。なるべく早く町を出るように。特に、ストームクローク軍とは関わり合いにならないように。独り身の戦士ならまだしも、子連れの身ではろくなことにならないだろう、と。

 ブリニョルフもブレックスも、スカイリムがきな臭いとは話していたが、その発生源はウィンドヘルムとのこと。当初は私と砦の者だけであったので何の心配もいらなかったが、今はラーナルクがいる。

 砦を出立する前に、進路を変更しようかと一度は提案したのだが、ブレックスはしばし悩んだ末に、ウィンドヘルムの現在の空気を知っておきたい、とそれを認めなかった。

 

 あの世話焼きがそう言うのであれば、ウィンドヘルム経由は計画にとって必要な要素なのだろう。あれのことは、私がしっかりと守ってやるより他あるまい。幸い、ラーナルクはノルドである。差別を受けることは無いだろう。

 私は……混血なのか人種が判断できない人相だそうだ。私はそもそもノルドでもブレトンでもインペリアルでもないのだから、別にどう見られても構わないのだが、それで実害を被るというのは正直面倒である。

 ブレックスからはノルドとブレトンの混血とでも言っておけと言われたが、両親と両親から受け継いだ血を偽るのには抵抗があったため、私がごねた。結果、私の祖父の代でノルド以外の血が入ったことになった。

 私は両親より上の代の顔を知らず、名前も朧気であるため、あまり家族という実感は無い。血を誇るような名家でも無かったし。それ故、筋書きとしてはそのように落ち着いたのだ。細かいことではあるが、計画に関わる全員がしっかりと把握しておかなければ、どこで齟齬が生じるかわからない。そんなどうでも良さそうな話から怪しまれて尻尾を掴まれた、などとなっては泣いても泣ききれん。

 

 面倒事の気配が色濃く漂っているが、そもそも面倒事を起こさんと旅をしているのが私である。巻き込まれる面々には悪いとは思うものの、胸中でのみ謝るから許してほしい。

 そのようなことを考えイーストマーチへ足を踏み入れて数日、白昼堂々街道上にて、二手に分かれ争う者達を見かけた。

 思っていた面倒事とは違うものの、さてどうしたものか。巻き込まれないよう引き返して迂回すべきか、それともどちらかに加勢すべきか。

 私が付き人の二人に相談していると、事もあろうに一手の内の一人が、こちらへ向けて馬車を丸呑みにするほどの大きな火球を放ったではないか。

 火球には咄嗟に大火球を投げて相殺したが、対処が遅れていれば、ラーナルクが怪我をしていたかもしれない。

 よし、火球の一手は皆殺しにしよう。約二名ほど袖を引いてうるさいのがいるが知ったことではない。ラーナルクは馬車の陰に隠れていなさい。

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