DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

20 / 56
暴力的……というか、ややグロいかもしれません。
また、七號樣、アカギ樣、高速回転樣、ひね様樣、ランダ・ギウ樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。


一九、脅迫

 馬車を下げてラーナルクの安全を確保しつつ、サディンをラーナルクの護衛につける。

 もう一人が「旦那! 頭からはなるべく問題を起こさないように言われて……」とまだうるさく袖を引くが、力任せに振りほどいたらわかってくれたらしい。相互理解が深まったな。

 

 街道を北上する私達から見て、争う内の一手は手前から左手に、もう一手は奥から右手に広がり交戦している。人数は手前が六、奥が七といったところ。奥の一手が優勢なようだ。手前の一手は、鎧からしてこのあたりの衛兵隊ではなかろうか。

 少数同士での戦いでは普通、陣形などはいくらかの変化を見せるものだが、奥の一手が前衛と後衛の役割をうまく分担して立ち回っているせいか、然程には崩れず乱戦とはならないようだ。

 ……が、今そんなことは問題ではない。重要なのは、奥の一手の黒いローブ姿の者がこちらへ攻撃を放った、という一点のみ。

 位置的に、意図せぬ流れ弾なのか目撃者を消すための攻撃だったのかの判断がつかない。それ次第では、最期に言い残すことがあるなら聞いてやっても良いと考えている。

 いずれにせよ、二度とこちらへ魔法が飛んでこないよう、さっさと片付ける必要がある。

 思えば私は、誰かを守りながら戦う、という経験が、我が闘争の記憶の中でも極めて希薄だ。

 白霊として召喚された際、召喚者が手傷を負ったときに敵の目を引き付けるよう立ち回った、程度のものだ。戦う力のある者を一時的に庇っただけの行いを、『護衛』などとは言わんだろう。

 私が対象を守るためにできることと言えば、可及的速やかに脅威を排除するだけである。

 

 馬車が十分に下がったことを確認した。二人もついていれば、ラーナルクの目を流血沙汰から反らす、くらいのことはしてくれるだろう。

 ひとまず、火を放った黒ローブの両肘と両掌をファリスの黒弓で射抜く。自らの射線を広く取るためか、やや高い場所にいたので当てやすかった。岩の上にでも立っていたのだろう。

 スカイリムの者は魔法の行使に触媒を用いないようだが、手元から発することに違いは無いらしい。発射口と、そこに近い関節を潰しておけば、武器も魔法も使えまい。次いでメイスと塔のカイトシールドを取り出す。

 本当は魔術か奇跡を用いて遠距離から先制攻撃をと考えたのだが、もう一手を巻き添えにして敵対してしまい、纏めて相手取ることになれば面倒だ。この後は近接戦闘に持ち込むしかあるまい。

 一射目の時点では誰もこちらへ注目していなかったが、無駄なく魔術師を無力化したことで、両陣営ともこちらへ気付いたようである。馬車より私へ注目を集めるため、雄叫びを上げつつ吶喊する。手前の一手は……盾に熊の模様。思ったとおりだ。

 

「イーストマーチの守護者達よ、義によって助太刀する!」

 

 身構えた衛兵隊の最後列を刺激しないよう、右手を膨らむよう気持ち遠巻きに駆ける。

 奥の一手は前衛に黄金色の甲冑戦士が四人、後衛に射手が二人、無力化した魔術師が一人。

 通り抜けざま、右手端で切り合う前衛の脛を、駆ける勢いそのままにメイスで殴り付ける。然程の力は込めていない。脚甲ごと骨を砕いて動きを崩した程度だ。これで最前線の天秤は衛兵隊に傾くだろう。あとは後衛を潰す。

 邪魔な前線の者共を通り過ぎると、視界が開ける。両腕に計四射浴びた黒ローブの男が喚いており、その護衛に一人、剣を抜いている。片手は無手だ。一人は弓を構え、今、こちらへ放った。

 すぐさま塔のカイトシールドを構え矢を防ぎ、そのまま低く沈むよう駆けながら真っすぐに突っ込む。相手からすれば盾が迫って来るように見えるだろう。弓を捨てざるを得ないはずだ。

 ()()()()()()()に入ったところで、剣を抜いた元射手を確認。メイス相手と思って待ち構えているところ悪いが、メイスと入れ替えるよう取り出した『グルーの腐れ槍』を腹に捩じ込み、貫通させた。即死ではないし、無駄に時をかけなければ、治療のしようもある。余程の事情が無ければ殺すのだが、何かの役には立つかもしれない。

 元射手の胴を蹴って槍を抜き、今度はブロードソードを取り出し、黒ローブの護衛に詰め寄り斬り掛かる。一合斬り結び、二合目……と思いきや、無手から魔法を放ってきた。慌てて躱し、距離を取る。片手で剣を扱いながら、魔術発動の直前段階で保持していたようだ。こちらの魔術は戦闘における自由度が高いらしい。

 無手は盾を持たないがためかと思ったが、剣と魔法を組み合わせた戦闘術の使い手か。ちと油断したとも思うし、まともにやり合っては厄介だとも思う。

 一刻も早くラーナルクの安全を確保したいと考える私にとっては、鬱陶しいことこの上ない。面倒になったので、ハベルの大盾を取り出し、両手で構えて突進する。ギリギリまで引き付けて横に跳ばれたが、その程度は難なく追尾してみせ、そのまま体当たりでかち上げる。

 シールドバッシュ、というよりは大盾と私の体重による質量武器で撥ね飛ばした、と言うのが正解だろう。落下してきたところで首を踏み折る。

 後衛を全員無力化したため前線を窺ってみると、丁度、衛兵隊が最後の一人を切り倒し、戦闘が終わったところだった。後衛の援護も無い、一人欠けた前衛など、衛兵隊の敵ではなかったのだろう。「『市民の安全を守る』などといって好き勝手している」との噂も聞く。ならばこの程度、熟してくれなくては困るというもの。

 ラーナルクのことがあったので少々神経質になったが、終わってみれば呆気なかった。

 さて、何と声をかけようかと思案していると、向こうから相好を崩しながら歩み寄ってくれた。

 

「旅の者かな? いや、実に助かった。最適な挙動でこちらに流れを引き寄せ、手早く後衛を排除してくれたな。大した腕前だ。

 名を聞いてもいいか? 私はアーチル。普段はウィンドヘルムに詰めているのだがな。最近はサルモールの人間が市民に横暴を働くとの陳情が上がるものだから、首長からの命を受けて街道警備の任に就いていた」

 

 攻撃前に声をかけておいたことが良かったのかもしれない。衛兵隊のアーチルは表向き好意的に私を労ってくれた。

 応じない理由も無いし、応じなければ不審に思われるだろう。私は自らの名と、流しの錬金術師であることを告げた。

 戦士は本職ではないという私の言に怪訝な顔をしたが、「錬金術師は町で店を構える裕福な者でもなければ、素材収集のために自然と荒事に慣れる」と誤魔化した。アーチルには通じたようだ。

 この男、少なくとも錬金術師の事情に詳しくないようだ。流石に、錬金術師が皆、私と同じだけの戦働きができるのなら、私は自らの足跡を見つめ直す必要がある。

 あるいは、深く詮索するべきではないと考えたか。……まぁおそらく後者だろうな。彼等にとって私は、一応『恩人』にあたるのだろうし。

 

 話しながら、打ち倒した者達を見やる。前衛の四人は……全員死んでいるな。

 後衛も、体当たりをかました剣士は首を折ったのだ。当然、死んでいる。腹に穴が空いた元射手は、毒が回ったのか、腹のほかにも、顔中から血を垂れ流し痙攣している。遠からず死ぬだろう。特に役には立たなかったな。

 黒ローブは喚くことを止めたらしい。決着が付いて気落ちしたことの他に、両腕からの出血と痛みで体力を消耗したのかもしれない。

 連中の装束は黒ローブ以外揃いだ。全員黄金色の、エルフの甲冑を纏っている。()()()()()()()()()()()と争っていたことから考えても、サルモールの人間であろう。なんとなく、連中を見たときからそんな気がしてはいた。

 火球を不意打ちで放たれた故にサルモールの一行を許すつもりは毛頭無かったが、一方が衛兵隊だとわかってからは、ウィンドヘルム逗留が予定に組み込まれている以上、恩を売っておいて損は無いだろうという打算が働いたのも確かだ。

 

「それにしても、衛兵隊がなんでまたサルモールの耳長共と戦闘に? どうせ奴等が難癖をつけてきたんじゃないかとは思うが。しかし、いくら帝国が協定を結んだとはいえ、あんまり連中が好き勝手をすれば、ウルフリック首長が黙ってないだろうに」

 

 今のはなかなか自然な話し方だったのではないだろうか。ブレックスめ。私がきちんとやってのけられるのかやたら心配そうに見ていたな。今だけではない、これまでの道中だって不審がられることは無かった。私とてやればできるのだ。

 そして、そうウルフリックである。奴はサルモールのせいで拘束され、父親の死に目にも会えなかったという過去がある。連中へは恨み骨髄であろう。

 ウィンドヘルム首長を頂点に据えるイーストマーチ衛兵隊としては、連中に対して吐き捨てるように罵倒が跳ぶかと思ったのだが、アーチルは苦笑いと共に事情を語った。

 

「実は、連中が数日前に立ち寄った村で『外交特使に無礼を働いた』とかなんとか言って幼い子供を殺害した、と早馬で報告を受けたんだ。仮に市民の落ち度が事実であったとしても、殺人を犯された以上は俺達だって「はいそうですか」と引き下がるわけにはいかない。事情を聞かせてもらうため、またその場その場で首長へ伺いを立てる必要があるかとも思ったからな。ウィンドヘルムまでの同行を願い出たんだ。

 だが断られた。そうこうしているうちにお互い熱くなってしまい……まぁ、少々面目ないんだが、向こうの放った威嚇用の魔術でこちらの何人かが我慢の限界を迎えた。それで……あとはお前も知るとおりだ」

 

 なるほど。法的にはサルモールの『外交特使』とやらの言い分が通るのだろうが、首長の反サルモール感情と衛兵としての手続きから連行しようとしてお互い譲らず、結局、先に手を出したのは衛兵隊である、と。多少バツが悪いのもわからないではない。

 それは災難だったなと言って労うと、再び苦笑しながらも礼を返し、握手を求めてくれた。この男の実直そうなところは嫌いじゃない。

 

 

 

 さて、それはそうと、後処理をどうするつもりなのか尋ねた。私としては、サルモールの生き残り連中(内一人は瀕死、内一人は衰弱が激しい)には、きっちり止めを刺したい。黒ローブだけは、初めの一発が故意か過失なのかを確認したうえで殺したい。

 それを告げるとアーチルも同意し、ことここに至っては皆殺しにして、連中はまるごと行方不明としてしまったほうが都合が良く、痕跡も可能な限り消しておきたいとのこと。

 それならと、まずは身動きの取れない連中の身包みを剥ぎ、装備や所持品を馬車に運んだ。助太刀の対価として、また公的には()()()()()()ことになるため、それらの所有権はまるごとこちらのものとなった。

 次に、馬車から引っ張り出したように見せつつ、ルッツエルンと『グレートメイス』を取り出した。装備の所有権云々は、この挙動のための口実である。無欲はときに要らぬ嫌疑を生む。本当はスモウハンマーのほうが手っ取り早いのだが、あまりに巨大なため、馬車からとはいえ取り出せば不自然極まりないと考え妥協した。というか、あんなデカブツ、所持していることすら不審である(錬金術師がグレートメイスを所持していることには目を瞑ってもらう。戦鎚は比較的親しまれている武器であるのだし)。

 ルッツエルンで十分な大きさの穴が掘れたら、今度は死体を穴に放り込む前にグレートメイスで一つずつ潰していく。一振りで平たくなるのだが、顔は念入りに行う。もし獣が掘り返したとき死体の損傷が軽く、それが原因で万が一にでも連中の身元が割れては面倒だと考えたのだ。可能性は極力潰すに限る。

 あとは、潰して血の広がった土と掘り返した土で埋め直してしまえば、見た目にはわからない。上から踏み固め、草を適当に被せる。

 初めに穴を掘る時、表層の草は土ごと剥がすように掘ったため、そのうち根が伸びて痕跡は消えるだろう。血の染みた土のせいで深くは根を張れず多少元気が無くなるかもしれないが、然程問題はあるまい。一雨二雨降れば、処理し損ねた血付きの土があっても流れてしまうだろう。完璧だ。

 

 ちなみに、黒いローブの男は私の参戦理由となった一発について、故意でもあり過失でもあるという微妙な証言をした。尤も、証言を引き出すにしても喧しかったため、「素直に答えれば痛まないようにしてやる」と約束する必要があった。

 黒ローブ曰く、戦闘中に私達の馬車が見えた。脅して追い払うも良し、魔法が着弾すれば目撃者が消えて良し。そう考えたところで、それまで狙いを定めていた衛兵が部下の攻撃を躱し、偶然馬車との射線上に躍り出た。渡りに船であると高威力の魔術を発動させ、衛兵、馬車、どちらに着弾しても良し。そんな心境で放ったのだと。そして、衛兵が魔術を躱したため結果的にこちらへ飛来した、と。

 そうか、と言ってメイスを振りかざしたところでまた喚き始めたが、別に私は殺さないとは言っていない。そして奴の証言からは、こちらの無事が一切考慮されていなかったことが十分に伝わったため、最期の言葉を聞いてやる義理も無い。「痛まないようにする」という約束を守ってやるだけ、有り難いと考えてほしいものだ。それを「話せば治療を受けたうえで助命される」などと勘違いしていたとしても、それは私の与り知るところではない。

 

 一通り作業を済ませて衛兵隊を振り返ってみると、比較的若い者が二人ほど街道脇の草むらで嘔吐しており、他の者も顔を酷く顰めたり若者の背を擦ったりしている。まぁ、死体の処理など気持ちのいいものではないからわからないでもないのだが、その作業は私一人で行ったのだ。本来は当事者皆で協力するはずだろうに。それを鑑みれば、労いの言葉の一つや二つくらいかけてほしいと考えても罰は当たるまい。

 私の非難がましい視線に気付いたのか、若者に付いていたアーチルはぎこちない笑みを浮かべて、労いと、作業に参加しなかった不義理を詫びて来た。

 そして、外交特使一行を消したことについて首長に報告する必要があるため、今後は隊を分けるという。内訳は、報告にアーチル他一人。街道警備にその他、だ。

 こちらもウィンドヘルムへ向かうのに、一度別れてから再会することがあれば不審がられてしまう。立ち寄った村の長の言では、あまり関わり合いにならないほうが良いらしいが、ことここに至ってはこちらから同行を依頼するべきだろう。

 幸い、アーチルは「衛兵隊と一緒なら道中心強い」という私の言を快く受け入れてくれた。私達は血生臭い現場を後にし、旅を続ける。

 

 

 

 

 

 二つの村を経由し、明日にはウィンドヘルムに到着するだろうという日に立ち寄った村での夕食後、ラーナルクと付き人一人を除いた皆で鍋を囲んでいたら、アーチルの部下が私に話しかけてきた。ちなみに場所は野外である。小さな開拓村で、六人が追加で席に着けるほど大きな家が無かったのだ。

 

「折角、優れた戦士と知り合えたと思ったのに、ウィンドヘルムでの滞在は短いのか。残念だよ。ウィンターホールドが目的地というのはわかるんだが……なぁお前、やっぱり衛兵隊に入らないか? うん、そうだ、それがいい! ウィンターホールドになんか行ったって、あそこにはなんにも無いぞ。ウィンドヘルムで首長のために働くことこそ、お前のためにもなるはずだ。力量を活かすのにも最も相応しいだろう。間違いない」

 

 誘いはそれだけ評価されているという裏返しであろうから悪い気はしないが、計画を変更するわけにもいかん。それに少々解せない。既に道中でアーチルからも勧誘され、それを辞退していたのだ。何故部下が再び同じ話を蒸し返すのか。何より、アーチルと違いこの男の目はあまり好きではない。

 

「いや、有り難い誘いだが、やはり遠慮しておくよ。暫く流しでやってきたが、先祖が愛したウィンターホールドの助けになりたくてな。『なんにも無い』からこそ行くのさ。男たるもの、先祖に恥じない生き方を、とも思うし」

 

 筋書きでは、我が家は私の祖父より更に上の代、大崩壊が起こる前まではウィンターホールドに居を構える家であった。それがウィンターホールドを出てしばらく経つと大崩壊が起こってしまった。帰るに帰れず、寂れていく故郷をただ遠くから眺めているしかない。見放したようで罪悪感を覚え、その思いが私にまで引き継がれている、ということになっている。

 仮に現地で問い質されても、大崩壊以前の住民は既に死亡しているか、離散しているだろう。当時のことを覚えている者がいない以上、記録を用いて調べるしかないわけだが、町の大部分が失われる未曾有の大災害が起きてなお住民一人一人の記録が残っている、とは考えにくい。

 足はつかず、故郷を大切に思うノルドへのウケも良いように、とブレックスが考えたのだ。

 

 その後も男は言い募るが、アーチルが諌めてくれた。しかし、どうやらそれがまた気に食わなかったらしい。

 男はしばらく不機嫌面を隠しもしないでいたが、ふと気が変わったように、にやにやと不快な笑みを見せた。

 

「うん、そうだな。あまり無理強いしてはいけないな、うん。すまなかったよ。隊長も、申し訳ありません。

 ……ところでこれは全く関係の無い話なんだがな。数日前のサルモールとの一件、あれはなかなか厄介な出来事だったな。秘密裏に片付けられて本当に良かった。

 尤も、仮にことが明らかになり問題になっても、我らイーストマーチ衛兵隊ならば、ストームクローク軍ならば、然程のことはない。ウルフリック首長は毅然と対応してくださるだろう」

 

 何を言い出すのだろう? 碌でもないことだ、という予感しかしない。

 というか、衛兵隊自ら『ストームクローク軍』の名を出して良いものなのか? あれはあくまで俗称であり、公的には()()ウルフリック自身が否定していたと思うのだが。とはいえ、いわゆる『公然の秘密』というヤツなので、その否定を信じる者も少ないが。

 

「だが、ストームクローク軍の一員でもないお前は、幼子を抱えて旅をしている。そして確たる後ろ盾も無い。商人との繋がり程度はあるようだが、別に何処かの首長の従者というわけでもない。

 そんなお前が一件に関わっていると知られるのは、当然困るよな? いやいや、気にするな、ただの事実確認だ。

 お前がサルモールから召喚状を送られ、詰問を受ける、なんてことがあってはならない。あぁ! そんなことになればお前も、お前の子も、どんな目に合うかは言うまでもないからな。それだけは避けなくてはならない! ……そうだな?」

 

 男の芝居がかった言い回しを受けて、腰が浮き、自然と手が剣に伸びる。

 ……私の鈍い頭が怒りで更に鈍くなっているためいまいち確信が持てないのだが、これは、この男は私を脅しているのだよな? それもラーナルクをダシにしてまで。

 私の隣でサディンも腰を浮かす。こちらは男に対してというより、私の抑えのためだろう。大丈夫だ。私は怒りつつもまだ冷静だ。サディンの動きにも気づけているし、ラーナルクがこの場にいなくて良かったと安堵できる程度には落ち着いている。

 あれは口数さえ少ないが、頭は鈍くない。どうかすれば、既に私よりマシな代物を積んでいるとすら思える。こんな話は聞かせられない。馬車で砦からの付き人に見守られながら眠っていてくれて良かった。

 

 アーチルの激しい怒号と叱責が飛ぶ。誇りを重んじるノルドには受け入れ難い言だったろう。

 不倶戴天の敵であるサルモールとの戦闘中に助勢してくれた者を、よりにもよって当のサルモールへ売り渡す、などという話は。恥を知る者なら、脅し文句だとしても看過できないはずだ。

 だが男は先と違い止まらない。

 

「しかし隊長。この男が得難い人材であることは間違いありません。優れた戦士であり、錬金術師でもある。これを陣営に加えないのは損ですよ。まぁ多少褒められた方法でないことは私も承知していますが。

 というかですね、サルモールから首長に詰問状なり使者なりが届いて、連中の行方について心当たりがないか問い質すでしょう。そこで知らぬ存ぜぬを通すわけですが、それは同時にこの男を庇う行為でもありますよね?

 ここで味方にならないということは、将来敵になる可能性が無いとは言い切れないのです。そんな相手を何故、首長や我々が守ってやらなくてはならないのです? この場で快く仲間になってくれると言うなら話は別でしょうけど」

 

「お前のそういう物言いが、かえって味方を減らすとは考えないのか!

 大体、信念無く参加した者が、どれほどあてになると言うのだ。己の意思で戦うからこそ、戦士は戦士たり得、戦友は戦友たり得るのだ。俺は脅されて嫌々仲間になった者なんぞ、恐ろしくて背中を預けようとは思えん」

 

 ……怒りのあまり、今度は随分と冷めてきた。まず、アーチルの反論は尤もだ。現に私はこの男を敵と定めた。もし私がストームクローク軍に入りこの男と同じ隊に配属されれば、戦闘のどさくさに紛れて必ず殺すだろう。

 しかし一方で、この場においては従うしかないのかもしれない、とも思い始めている。

 一つには、私の助勢を知るアーチルの部下が、この場以外にもいること。その者達が、同じ考えを抱かないとは限らない。

 一つには、この場を収めたとしても、憤懣を溜めたこの男が嫌がらせ程度の考えで短慮を起こしかねないこと。恩人に対してこんな馬鹿な真似をする輩だ。自分本位に物事を考え、馬鹿を繰り返す可能性は大である。

 業腹ではあるものの、一時的に此奴の言うことを聞いておいたほうが良いだろう。

 私は了承の旨を告げた。アーチルは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 まったく、下手を打ったものだ。衛兵隊へ貸しを作るより、村長の忠告を重く受け止め迂回すべきであった。要らぬ欲をかいた結果か。

 巡回を続ける別働隊さえいなければ、アーチル諸共この男を殺してしまうのが最も面倒の無い解決法であるとは思うのだが……。仮にここで二人を殺した場合、急ぎ別働隊を追いかけ、そちらも鏖殺する必要がある。そうすれば、サルモールと衛兵隊のどちらも消えたことになり、私の預かり知らぬところでサルモールとウィンドヘルム首長が外交という名の戦いを始めるだろう。だが私は、別働隊を追うために肝心な、連中の巡回経路を知らない。二人に吐かせることもできようが、嘘をつかない保証も無い以上、やはり現実的ではないだろう。

 裏目に出るときはとことん出るのだと、実感させられる。

 

 

 

 その後、アーチルと男は村長の家の客室へ、私とラーナルクは居間に布と毛皮を敷いて休んだ。男は自分の思いどおりにことが運び気分が良くなったのか、酒を飲んで早々に床に就いてしまった。あれだけ上司の顔を潰しておいて、肝の太いことである。

 アーチルからは何度も謝罪を受けたが、私は部下の男を敵と定めた。謝罪を受け取りはするが、形だけである。

 そんなことより、ことのあらましを迅速かつ正確に首長へ伝えてくれと念を押した。そして私のストームクローク入りについても撤回をと。

 私に言われずとも、アーチルも元よりそのつもりであったらしい。サルモールの一行が姿を消したとなれば、首長への問い合わせは必ず行われるだろう。その前に事実を報告しておく必要がある、とのこと。道理である。

 また、自らとイーストマーチのノルドの誇りにかけて、必ず恩人に報いてみせる、とも。

 今日会ったばかりの人間をどれだけ信じられるかという話ではあるが、部下が卑劣だったからといって、その上司まで同じだとは決めつけたくない。何より、一度はアーチルを嫌いではないと思ったのだ。信じてみたい。期待しておこう。

 

 夜半、二人の盗賊が寝ているはずの、馬車を収めた納屋に向かった。隣に増設された、厩と呼ぶには寂しい屋根だけの物置に繋がれたマルッコを撫でて騒がないようにし、納屋の扉を開ける。入ってきたのが私だと分かると、二人は寝具の下で構えていた得物を納めてくれた。こんな状況ではあるが、味方が頼りになるのは有り難い。

 二人の内、サディンには明朝に馬車で立ち、ブレックスとブリニョルフへことの子細を伝えてほしいと頼んだ。ついでに外交特使一行の装備を換金してくれればいい。

 幸か不幸か、出立を遅らせたことで私は正式にギルドの外部協力者となった。表の人間には関わり合いのないことではあるが、「外部協力者に手を出せばどうなるか」と裏の人間に対し見せしめを行うためにも、ギルドが動く公算は高い。今のギルドにとって、引き締めが必要なのは組織内部だけではないのだ。多少時間はかかるやもしれんが、部下の男が無事に済むことはないだろう。

 それにブレックスに話が伝われば、何かしらの手は打ってくれるはずだ。なにせ私だけではなく、ラーナルクの身の安全もかかっている。

 馬車の出立について部下の男が何か文句を言うかもしれないが、構うまい。というか、渋々言うことを聞かされている人間が何の手も打たないほうが怪しい。伝手のある商人へ助けを求めた、無駄な足掻きだ、とでも思ってくれればいい。そのあたりはアーチルに口裏を合わせてもらおう。

 もう一人は引き続き側にいてもらう。この先何があるのかわからないし、サディンの出立後、再度緊急の連絡に走ってもらうかもしれない。下手を打った以上、僅かな油断もすべきではない。




黒魂石充填用魂大量ゲット。
次回、大物ネームド登場!(鰤じゃないよ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。