DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
また、前話後書きにおいて「ネームド登場」と書きましたが、意図せず詐欺じみた形になりました。申し訳ありません。予定では次々話あたり出てくる……予定ではあります。
※次話は『二〇改、アーチルの大冒険』となっております。サブタイのとおり、今話『二〇』の改稿版です。読み比べるのも面白いかと思い両方残してありますが、お急ぎの方は『二〇改』まで進まれることをお勧めします。
翌朝、案の定というか、御者となりマルッコに鞭を入れようとするサディンに向けて部下の男が物申して来たが、「自分は旦那様の指示で同行しているだけで、この方がストームクローク軍に入ろうが関知するところではありません」とすげなく断り、構わず走り出した。
ではもう一人はと視線を向けられた砦の者は、「ここで旦那を見捨てることなく引き続きお世話を焼いていれば、後々旦那に良くしていただけるのは我々って寸法でさ」と異なる意見を述べる。「郷へ戻って主人から抗議させてもらう」と言うのは馬鹿正直なようで憚られるにしても、息の合ったことである。とはいえ、それとて表の顔としてらしく見せているに過ぎないのだから、男が「下手な誤魔化しを口にして手を打った」と勘違いしてくれれば十分だ。流石に、郷の主人とやらがスカイリム一の闇ギルドとは思うまい。「嘘をつくなら、二重三重と徹底的に」とは二人の盗賊の談だ。
にしても、盗賊は演技が上手だ。私も騙されないように気をつけねば。自分の交友関係がほぼほぼ盗賊で占められていることからは目を背ける。……尤も、仮にそんな事態が訪れたとするならば、『そうする』だけの事情があるのだろう。それを鑑みれば、然程気にすることも無いのかもしれない。まぁ、どの道、仮定の話である。そのとき、成るように成るのだろう。
鼻を鳴らす男を放置して、一行は歩き出した。
馬車が無くなったことでラーナルクを歩かせる必要が出たが、本人の機嫌は悪くない。どうも馬車の上でじっとしているのは、暇どころか揺れと衝撃に耐え続ける不快な時間だったようで、街道を歩いて進むのが楽しいらしい。
我が身のことより、サディンやマルッコと離れることを惜しんでいた。サディンは自身がそろそろ交替の時期であることを伝えていたため、少し言い聞かせれば納得したようだ。マルッコにしても、すぐに戻って来ることをこっそり伝えると、抑えてくれた。
忍耐強く、性根のまっすぐな子だと思う。しかし、今まで一言も愚痴を零さなかったことについては、そこまで我慢しなくても良いのだと伝えた。子供が、少なくとも今のラーナルクが思うところを圧し殺す必要はない。
同時に、「愚痴も零さず受け答えも問題ないのだから平気なのだろう」と考えていた己を殴り飛ばしたい。あれが口の重い子だということはわかっていただろうに。無駄に長く生きているくせに、親としてはまだまだ未熟なようだ。ストームクローク軍云々よりずっと落ち込む。
ラーナルクに、疲れたらときは背負うから正直に言うようにと伝え、あまり離れない程度ならと許し、はしゃぐのを眺めている。
そして私は、息子の愛らしさに目を細めつつ、アーチルの部下の男の存在を意図的に無視するよう振る舞っている。怒りを湛えているのは事実であるし、このくらいは不快感を表明したほうが自然だろう。ギルドが動けば例え時間がかかろうともどうにかなる、と悠長に構えていては、不審がられる。
私に無視されて腹を立てているらしい男は、アーチルに叱り付けられ、不貞腐れている。私としては、静かになるのならなんだっていい。
昼を過ぎて、もうしばらくすれば空が朱に染まるだろうというころ、ウィンドヘルムの城壁が見えてきた。
なんというのか。いかにもな『城塞都市』である。ホワイトランの城壁も見事なものであったが、あれは丘というか、岩山のようになった土地の上に建てられているため、高さの幾らかは元の土地によるものだ。それによくよく見てみれば、市街地の目立たないところでは補修が必要な箇所もあった。
しかしこちらは、河口沿いの平地に堂々と聳えている。人の手で造り上げられた、不可侵の領域である。ストームクローク軍には思うところあるものの、ウィンドヘルムの町を造り上げた人々の業には、見事と言わざるを得ない。ラーナルクも、ホワイトラン以外で初めて見る巨大都市に、口をぽかんと開けて驚いている。家からあまり出ない子供だったのだから、町を外から眺めたのは初めてなのかもしれない。ホワイトランを出るときは、あまり振り返りたがらなかったように思うし。
少々険悪な雰囲気である一行だが、私達親子の反応に気を良くしたのか、アーチルも男も少し柔らかい態度になった。
私達は川の手前にある衛兵の詰め所へ連れて行かれた。どうやら、処遇が決まるまではウィンドヘルムの町内には入れずに留め置くつもりらしい。とはいえ、アーチルの計らいにより、入町前、一時的に貴人を待機させるための部屋へ案内された。直に夏だとはいえ、夜は冷える。防寒性の高い部屋に通してくれたことには、素直に感謝したい。
アーチルと部下の男とはここで別れた。部下の男が成す、一度は正式な志願申請として受理される私の入隊手続きを、アーチルが追いかけて撤回する、という形らしい。ややこしいうえにまどろっこしい。
しかしこの愚か者を黙らせるには「一応は自分の提案が通った」と思わせる必要がある。初めから書類の手続自体が止められるのならばしているし、もっと言えば昨日頭に過ぎったとおりとっくに殺している。大きな組織を相手にすると面倒が発生する、と学んだ次第である。巡礼とは違うなあ、とも。
ラーナルクは結局、道程の半ばを過ぎるまで「歩き疲れた」と申告することが無かった。子供の足では辛かろうに、また我慢をしたのかと思ったが、そうではないらしい。皆と同じように歩いて旅をする楽しさが疲れを自覚させず、そのまま体力の限界を超えて歩き続けてしまったようだ。そのせいで、限界を迎えてからは、多少は足が休まっても自分で歩くことはほとんど無かった。とはいえ、背負われる、という行為を一度味わってからは、歩くことより私の背で揺られることに楽しさを見出したらしく、歩かなかった理由にはそちらもあるのではないかと思う。勿論、その程度でへばる私ではない。
現在ラーナルクは、寝台に腰掛けた私の膝を枕に夢の中で過ごしている。大人が馬車に乗って旅をするだけでも、それなりには疲れるのだ。子供の足ではしゃぎながら歩き、不安定な人の背で揺られ、疲れないはずがない。夕餉が済んでも、今日は早目に休ませてやるべきだろう。
夕餉そのものは、用意ができれば誰かが持ってくるはずだ。部屋は客室とはいえ、ここは曲がりなりにも軍事施設。ただでさえ私達は微妙な立場なのだから、勝手にうろつくのは控えるべきだろう。来なければそのとき対応すればいい。そう考え、それまでは寝台で横にならせておくことにした。
ラーナルクの寝顔を眺めながら頭を撫でていれば、不思議と手持ち無沙汰だと感じることもない。
今日は体力を使い果たしてへばったとはいえ、それらを管理してやるのは大人の役目であるし、そも私の都合で連れ回しているのだ。それに、アーチルはともかく、部下の男がラーナルクに何を言うかわからなかったため、今日の足取りは子供の足に合わせていたとは言い難い。こちらもそれなりに気を使い、休憩をまめに挟みながらではあったが、それでも朝から昼過ぎまでは遅れずにきちんと歩き切った。偉いものだと思う。ラーナルク本人が望んで私に付いてきたとはいえ、ホワイトランからこっち、このような奇異なる生活を送ることになるとは、思ってもみなかったろうに。
しかし以前から思っていたことだが、ラーナルクの、誰かと一緒にいることを好み、誰かと同じ行動を喜ぶ、この植え付けられた性癖とも言える心の問題。これをどうしたものかと思う。
焦ってはならないことくらいは私にもわかる。だから今は、計画に関わることでなければ基本的にラーナルクの好きにさせている。ただ、いつかはその癖を乗り越えさせなければならないとも思う。あるいは私の杞憂に終わるのかもしれない。成長と共に心の傷が癒え、自我を確立し、健全に発達していくのかもしれない。そうなればいい、そうなってほしいと願う。だがもし傷が癒える類のものではなく、それ故にこの癖を引きずったまま大きくなったとき、子供とは呼べない図体のままいつまでも独り立ちができずにいるかもしれない。
極論ではあるが、それでも問題無いと言えば無いのだ。私は老いるということがないのだから、ラーナルクが死ぬまで面倒を見てやればいい。健全とは言えないかもしれないが、必ずしも世間一般で言う『健全』である必要などあるまい。
ブレックスのおかげで、どこにいても財を稼ぐ手立てはできた。計画が一段落したのなら、世間体を気にする必要も無い。不死人たる私が死ぬときは、亡者となり自我を失ったうえで命を落とすか、自らの生に一片の悔いも無く満足したときだ。ラーナルクを養っているあいだに、私が死に切ることは無いだろう。だからこその極論である。
しかし、それが喜ばしいことではないのも確かだ。ラーナルク自身の人生として『楽しみ』が少ない。楽しみが少ないからといって、不幸であるとは言わない。何に幸せを見出すかは人それぞれであるし、他者からは一見恵まれない一生であるように思えても、本人は充足感を覚えて命に幕を下ろすかもしれない。ラーナルクの幸せを私が決めるなどという、そんな傲慢な親にはなりたくない。
だが、何気ないことに幸せを見出し、小さな幸せでも心から満足できる人間というのは、極々稀である。だからこそ、人は与えられたもの以上を求めて苦しみ、何事かを成すために修練を重ね、己を昇華させることを美徳とする。何より、あらゆる物事において多くの場合、受動的であるより能動的であるほうが、幸せに繋がる『楽しみ』を見つけやすい。
子を初めて持つ私の自問自答は際限なく続き……扉がノックされ、夕餉が持ち込まれたところで閃いた。私は多くの事柄を力によって解決してきた。力が無くて困ることはあっても、力が有って困ることは少ない。必要が無ければ、振るわずにいればいいだけのこと。力を持つが故に面倒に巻き込まれたり、力に呑まれることもあろうが、それは本人の自制心の問題であり、力の有無と直接的には関係がない。
ということで、ラーナルクを鍛えることにした。そのあいだにラーナルクの性癖にもいくらか変化が訪れることだろうし、何より力が付けば自信に繋がる。案外それが諸々の悩みを解決してくれるやもしれない。幸い、砦や旅の途中に砦の者やサディンから受けた手解きで、それなりの体力は付き、ままごと程度の投擲術と短剣術は使えるようになっている。私が気をつけていれば、壊してしまうこともないだろう。多分。……いや、初めのうちは、誰かに監督していてもらったほうがいいかもしれない。そうだ、そうしよう。
私はラーナルクを起こし、二人で夕餉に舌鼓を打った。腹が膨れたラーナルクは再び眠たくなったようで、予定どおり早目に就寝と相成った。私はというと、ラーナルクを起こさないよう注意しながら、少しでも疲れが取れればと、足腰を揉んでやっている。今日はがんばったのだ。この程度はしてやりたい。
翌日の昼前、一人の子供を連れたアーチルが沈痛な面持ちで訪ねてきた。曰く、しくじった、と。そして私達を急かすように詰め所から連れ出し、馬車に乗せて走り出した。本人は別で馬に乗っている。
移動しながらしきりに詫びを入れられるが、それだけでは全く要領を得ない。「誠意を見せたいのなら、包み隠さず全てを話せ。長くなっても構わん」と少々突き放した物言いをして、やっと少しはまともになった奴に顛末を催促をした。
奴はきまり悪そうではあるが、ぽつぽつと少しずつ話し始めた。
「あまり繰り返しても鬱陶しいだけだろうが、これで最後にする。本当にすまない。……結論から言えば、下手を打った。
俺はお前達と別れてすぐ、首長に直接報告しようと、時間をいただけるよう取り次ぎに伝えたんだ。しかし偶々首長は他の要人との会談を行っており、すぐには顔を出せない、と返された。だがこちらも緊急かつ重要な話だ。首長の会談が終わるまで控室で待たせてもらう、と俺はその場に居座った。すると取り次ぎが、『そんなに緊急かつ重要なら、首長の腹心を呼んでくる』と駆けて行ってしまったんだ。
彼からすれば良かれと思ってのことだろうが、そこに登場したのが『石拳のガルマル』。先代樣から使える重臣で、首長にとっても腹心中の腹心と言える。結果、俺は彼に捕まり洗いざらい吐かされた。彼は強引な勧誘にこそ眉を顰めたが、『其奴の力はストームクロークと共にあるべきだ』と言って、自らが率いる隊への編成手続きまで済ませてしまった。俺の最大の失敗がこれだ。
彼が下した決定、ましてや軍事方面における案件とあれば、覆ることはほとんど無い。言い縋っても馬耳東風だ。
俺は焦った。焦って焦って頭がどうにかなったのかもしれない。俺は人目を憚って、翌朝首長へ目を通していただく書類がある保管庫へ忍び込み……書類を改竄した。そしてそれを『本来であればとうに執行されていなければならない、遅延をきたした命令』として急ぎ処理するよう俺の名で指示を出した。そこまでした段階で、俺は妙な解放感に支配された。全能感といってもいい。
翌朝、つまりは今日だが、首長が重臣達と行う朝の定例会議に乗り込んで、ことの子細を話した。サルモール一行との件。お前への間違った勧誘。ガルマルの裁定。俺の軍機違反。その全てを。ちなみに、書類上ではあるが、その時点で既に、お前達はこの町を発ったことになっている。
重臣達からは重大な規律違反を犯した俺を処刑しろと怒号が飛んだが、首長がそれを止めてくださった。『それほどの大事、出来心やもしれんが、理由あってのことであろう。話せ』と。
俺はここが踏ん張りどころだと思って、必死に思いの丈を伝えた。その場では色々長々と語ったが、要すれば『信義に悖る行いは、首長の大願にとっても、ストームクローク軍にとっても、スカイリムに住む全てのノルドにとってもためにならない。今このとき、首長が件の旅人へどのような対応を取るかによって、後々の何もかも全てが良きに傾くか、悪しきに傾くかが決まる。どうかご英断を』と。
首長は暫く黙って考えたのち、道理である、と短く零して、俺の忠言を聞き入れてくださった。そこでほっと気を抜いたのがいけなかったとは思いたくないんだが……首長が続けるんだ。『お前は信義のためであれば、その者がどれほどつまらぬ男であっても同じ行動をとったのだろう。だが幾らかは、男の非凡さに感化されたのではないか?』と。つまりはガルマルどころか、お前の存在を首長までもが気にし始めてしまった。
そこからまた俺は必死に説得して、お前には然程重要ではない任地で暫く軍のために働いてもらう、というところに落ち着いたんだ。面倒をかけるが、そこでほとぼりが冷めるのを待っていてほしい。首長もお前を解放することは吝かではなく、引き留めているのは言ってみれば単純な人材収集欲とも言える我儘からだ。説得を続ければ、諦めてくださるだろう。
……ストームクローク軍編入を撤回するという約束を叶えられなかったこと、最後と言ったがやはり詫びさせてくれ。本当にすまなかった」
アーチルの長い独白を聞いて私の胸中に浮かんだのは────
────この男、無茶をし過ぎなのでは? というものだった。
あまり神妙な態度で切り出すものだから、もっと状況は如何ともし難く、この男は流されるまま長いものには巻かれていたのかと思った。しかし実態は、己と種族の誇り、それに首長への忠節に命をかけ、出来得る限りのことをしてくれたように思う。
寧ろ何故、この男はここまで恐縮しているのだろうか。
たしかに、結果として私との約束を守ること叶わなかったが、状況が然程悪いとは思えない。首長はこちらの道理を認めたうえで、少々子供じみた駄々をこねているだけだ。計画が遅れるのが痛いと言えば痛いが、その程度は首長とアーチルの顔を立ててやっても良いだろう。おそらく、そのほうが後々良い結果となるはずだ。馬車に同乗している砦の者に目配せしても、察して頷いてくれた。
以上から私としては、大満足、とはいかずとも特に不満は無いのだが……アーチルは約束を守れなかった一点について、非常に気に病んでいる。生真面目過ぎないだろうか。他人事ながら少々心配になる。
そのあたりを伝えようと口を開きかけたが、まだ続きがあるらしい。
「そこでだ。お前の任地に、私の子を連れて行ってくれ。名はトルドス。今回の経緯は伝えてあるし、俺の思いも、こいつの使命も言い含めてある。
要するに人質ということか。『首長に私を諦めさせる』という約束が果たされなかった場合、最悪殺してしまっても良い、と。私が思うに首長の説得くらいならどうということはないのだろうが、ガルマルだったか? 他にも強硬派の重臣が横槍を入れて来た場合、どうなるかはわからない。そのため、と。
ラーナルクを引き取ってから、以前より子供に対して当たりが柔らかくなったと自覚する私だ。あまりこういう話は好みでないのだが、当の息子もその気でいるらしい。ラーナルクより少し上、といった程度の年で、大したものである。既に戦士の教育を受けているのだろうか。となれば、言うだけ野暮か。幼くとも戦士であると主張するのなら、それは尊重せねばなるまい。
任地については、ウィンドヘルムから馬車で南東へ一日程度進んだところにある、鉱山採掘村だそうだ。
武具の生産量を徐々に増加させているストームクローク軍にとって、鉱山は資源確保に重要な地だ。それなりには賑わっているのだろう。あばら屋に住まわされてラーナルクが風邪を引く、ということもあるまい。そのへんの開拓村ではないあたり、アーチルがせめてもと気を遣ったのだろう。悪くない。
……実を言うと、一件についてブレックスに使いを出すまでもなく、砦の者が少々伝手を使い首長に働きかけていたのだとか。曰く、万一の事態あれば、自分の裁可仰ぐ必要なく、最良と思われる行動を取れ、と。その結果、砦の者は夜の内にウィンドヘルムの有力者にあたり、首長と面会させ、ことを穏便に済ませるよう話をつけたのだとか。このあたりは、組織として運営するギルドより、一人一人の裁量が大きいブレックス一味の即応性が役立った形であろうか。何にせよ助けられた。交替の際には、私が礼を言っていたと伝えてもらうことにした。当然、本人にも礼は言った。「役目ですからなんてことはありゃしません」とは功労者たる砦の者の談である。
閑話休題。内を固めたい首長は有力者を無下にするわけにもいかず、要求も然程重いものではない。寧ろ有力者への貸しとして呑むだろう。なんなら、自らの指導力を誇示するため、強硬派を率先して抑えるくらいはしてのけるかもしれない、とのことだった。ウルフリック・ストームクローク、派閥の領袖に立つだけあって、それなりにはやり手なようだ。扇動力だけの男ではないらしい。
私は否やの無いことをアーチルへ伝えた。
ほっとした顔を見せたかと思うと、今度は再び神妙な面持ちを見せた。忙しい男である。
「それから、あの馬鹿についてだが……」
あぁ、なるほど、そちらもあったな。私達を面倒事に巻き込んだ張本人であるのだから、話題としては重要だな。目の前の男の意外な大冒険の印象が強くて、一時、頭から抜け落ちていたが。それに、ギルドが動く以上、私の中では済んだこと、という認識が強い。私とラーナルクの安全に比べれば、優先度は極めて低い。
聞くに、男はウィンドヘルムの豪商の息子らしく、根底ではストームクローク軍と私に良かれと思って行動した、正しく確信犯だったようなので、直接的にはせいぜい首長からお叱りの言葉を受けて終わりだろうと。まぁ、強硬派が眉を顰めながらもそれを採用してしまっているあたり、そんなものだろう。
「そちらについては、私の友人達が動いてくれている。何もしなくていい」
私のすました様子を不審に思ったのか、アーチルは顔を近づけ声を落とし、眦を釣り上げて問うてくる。
「……殺すのか?」
「いや、そういったやり口は
そう言うと、しばし表情をころころと変えながら迷ったような顔をして、終いには脱力してしまった。殺されるのと、殺されたほうがマシな目に遭うのと、どちらが有情であるか悩んだのだろう。矛を納めてくれたあたり、一応の納得はしたのだろうが。
「いやはや、初めは優れた戦士と知り合ったかと思ったが、とんだ食わせ者だったな。……採掘村でのことだが、錬金術が使えるのは本当だよな?」
勿論である。そのために私は効率主義のデーモンによって、字の読み書きと錬金術の詰め込みという拷問染みた促成教育を受けたのだ。というか、立ち寄った村々で実演してみせたろうに。アーチルがそれどころではなかったのは理解できるが。
「私がお前に嘘を言ったことはまだ無いはずだが?」
私の言に対し、アーチルは今日初めて皮肉げに笑ってみせた。
「『義によって』、は嘘だろう?」
……ばれていたか。
「すまない、失念していた。たしかにそれは嘘だ。あのときは、サルモールの愚か者から攻撃を受けた私怨と、衛兵隊に貸しを作りたい打算から動いた。最もお前達を混乱させずに済むかと思い口にしたが、騙ったことについては謝ろう」
謝罪を発する側と受ける側が入れ替わったことが面白かったのか、アーチルはカラカラと笑う。
「この分では、
それはお互い様である。私とて、眼前の男を一度は面倒を嫌って部下諸共殺そうと考えたのだ。つい二日前のことである。悪い男ではないと感じつつも、その程度のものだった。しかし今は、気安く交わす会話が心地良い。
「アーチル。我が父母と信仰する太陽にかけて誓おう。
アーチルは破顔して、握手を求めてきた。私はそれに応じ、他に二三言葉を交わしてから、馬車は任地へ、アーチルはウィンドヘルムへと戻っていった。
計画に遅れが生じるのは面白くはないが、ラーナルクを鍛えてやる時間ができたと思えば、全くの無駄な時でもあるまい。それに今日は気持ちの良い陽気である。急ぐ旅でもなし。私は馬車の荷台に布と毛布を敷き、子供二人と共に並んで寝転び、到着を待つことにした。人生、成るように成るのだ。
********************
ウィンターホールドにて一人の男が、まだ日も高いというのに寝台で伏せっている。
壮年などとうに過ぎ、中年とも呼べなくなり、老年、それも老境に入った力無き老人である。
そこいらの物乞いが聞けば、怒りのあまりに廃材でも持ち出して「何が『力無き』か」と殴り掛かるやもしれない。なにせ老人は、
たしかに、庶民に比べれば広い家にも住んでいる。銀器を始めとした調度品も多少は揃えている。しかし、その程度の暮らしは、ウィンターホールド以外の諸都市であれば、豪族、豪商程度でも、わけもなく整えることができる環境である。首長の暮らしぶりとしては、侘しいことこの上ない。
老人は、その生まれが建前上持つ権威とは裏腹に、多くのものを持たないまま生を受けた。
老人が産まれる、ほんの少し前のことである。ウィンターホールドに大災害が起きた。大きな揺れを感じはしたものの、それ自体に被害はほとんど無かったため、当時の首長を始めとして、不思議なこともあるものだと日常へ戻ろうとした。しかし、時を置かずに
誰にも、どうすることもできなかった。海は幾度となく町に押し寄せ、その度に土を、岩を、陸地そのものを削り取り、当然の如くそこに居た人々や建てられた家々を呑み込んでいった。大学も、己が居城を守らんと、魔法結界が正しく作動しているかの確認に奔走している有様で、余裕などは全く無かった。古の英雄とて、この未曾有の事態の前では同じく無力であっただろう。
生き残った皆が呆然としていた。そして現実感の無いまま、ある事実に気付いてしまった。寒冷地であるスカイリムの中で最も地域の多くを凍土に覆われたウィンターホールドにおいて、家無くして生きていくことが可能であろうか、と。答えは誰に教わるでもなく自明であった。否、である。
誰も彼もが、ふわふわと足元の定まらない奇妙な浮遊感を覚えていた。心の弾む躍動感などありはしない。文字通り地に足がついていないのだ。それ故か、いち早く立ち直った首長の号令により、家を持つ者は家を失った者達をそれぞれ自宅へ招いた。首長自身も、砦と邸宅が流されたため、多少裕福な者の家に転がり込んだ。市民としては、上位者の声があったとはいえ、深く考えないままにわかりやすい善性に突き動かされた、というのが実状である。それ故か、暫くの後には住民同士で争いが絶えなくなった。
町全体が大きな被害を受けたのだ。運良く直接的被害に合わなかった者でさえ、生活は徐々に苦しくなる。そこに、家を持たず多くは食い扶持を稼ぐ手段すら流されてしまった者達が同居しているのだ。初めは互助精神で招き入れた同じ町の仲間を、いつしか厄介者と感じるようになった。家を持たない者達としても言い分はある。面倒をかけているのは承知していても、現状でできる限りのことはしているのだ。これ以上どうしろと? 寒風吹き荒ぶ野外で過ごして、朝には冷たく硬くなっていろとでも?
町への被害の他にも、それらの閉塞感や険悪な空気に耐えかねて、多くの者がウィンターホールドを去っていった。
かつてウィンターホールドは魔術大学と共に歩み、スカイリムの中でも栄えた都市であった。しかし二百年近く前に起きた『オブリビオンの動乱』により魔術師そのものへの不信感が高まった。それを受けてノルドを中心に、魔術も魔術師も信用ならない。ノルドは鋼と己が肉体こそを信ずる。そういった世論が形成されていった。元々あった気風を叫ぶ声が相対的に大きくなった結果である。そこに此度の大災害だ。長い時をかけて培われた不信感が「大災害は大学が引き起こした」という噂を生み、ウィンターホールドと魔術大学の仲は決定的に引き裂かれた。
ウィンターホールドは大学の影響で他の土地に比べて非ノルドが多く住まうとはいえ、あくまでそれは比較的の話で、主な住民はノルドである。またスカイリムの一都市であり、地方を運営する首長一族もノルドである。そのような
老人はウィンターホールドの繁栄など知らない。現在の住処ですら、大崩壊後に建てられたものであり、大崩壊以前とは比べるべくもない。しかしそれらは、老人には不幸なことに、老人が『老人』ではなかった当時の年嵩の者達からすれば、忘れ去るには記憶に新しかったのだ。影も形も無い、現状ではありもしない栄光の日々。そのような
老人とて馬鹿ではない。理屈では理解している。だからこそ声を大にして言いたかった。叫びたかった。懇願したかった。「俺に、在りし日の話をするのはやめてくれ」と。だがそれは、ウィンターホールドを治める者として、許される行いではなかった。老人は呪いとも言える話に耳を塞ぐこともできず、いつしか憎悪と、それすらも叶わぬと理解してからは諦念、冷笑、絶望を友に人生を過ごした。
どうかすれば、ウィンターホールド再興の道もあったのかもしれない。しかし、首長の息子に生まれたというだけの凡人であった老人には、それを成し遂げることはできなかった。老人は、『持たざるもの』であった。
そんな老人を寝室の屋根裏から覗く者がいる。その者は、老人とその周囲を監視するよう指示されていた。今はまだこのまま、
二〇、のあとに二〇改を投稿しました。大筋としては変わりませんが、アーチルの行動とウルフリックの人物像を掘り下げました。元の話と改と、どちらが良いか、よろしければアンケートにご協力ください。
-
なんとなく二〇のほうがいい。
-
スッキリしていて、二〇のほうがいい。
-
なんとなく二〇改のほうがいい。
-
読み応えがあって、二〇改のほうがいい。