DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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切りどころがわからず、前話に続き長いです(19000字弱)。
以前のアンケートで「短めが好み」に投票してくださった方には申し訳ないのですが、現在、読み応えと文字数の折り合いをつけるため試行錯誤しておりますので、今暫くお待ちいただければ幸いです。
私自身のレベルアップが果たされたあかつきには、読み応えを確保しつつスッキリ、なんて文章になっている、予定、なので……。
また、たかたかたかたか樣、七號樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。



二一、足留めと、暗躍と、乾杯

 ラーナルクが夕餉の席で、最近暖かくなってきた、と顔を綻ばせて私に話す。寒波が緩めば、ラーナルクやトルドスが追いかけて遊ぶ虫や獣が顔を出す。それが楽しみなのだろう。

 体躯の大小に関わらず、生き物の多くは冬のあいだ、じっと大人しくしているものだ。様々な文化文明において『死の季節』と比喩されるのも無理はない。更にスカイリムの厳しい冬での連中は、狩人の貴重な収入源であるため、採掘村で暮らす子供がお目にかかれる機会は滅多に無い。ラーナルクがそわそわと喜色を顕わにするのも納得である。そして私はと言えば、凍える雪山だろうが灼熱の溶岩地帯だろうが問題無く活動できるせいか、季節の変化など意識せねばなかなか気付かないのだ。しかし、そうか。もう冬も終わりか。

 冬が終わる。うん、冬が終わるのだ。そして私の今現在の所在は、相も変わらずアーチルに指定された鉱山採掘村である。私がこの村へ派遣されたのは、春の終わりから夏の始まり、といったところだったはずだ。……よもや一年弱も足留めを食らうとは全く予想だにしていなかった。とはいえ、これにはあちこちの事情が絡み、致し方ない面もあるのだが。

 

 私は当初、村への逗留は、首長が私を諦めるようアーチルが説得を成功させるまでの辛抱であるのだから、早ければ半月、長くてもひと月、まさか三月はかかるまいと考えていた。それが半年を超えてまさかの一年弱である。私達の計画は長期的かつ柔軟に対応するものであるため致命的な損害を負ったわけではないが、とはいえここまでの長逗留は流石に予想外であった。計画の重要人物であるウィンターホールド首長の様子を砦の者に確認してみれば、老いぼれ首長殿は今なお健在であり、急ぐに越したことはないが慌てるほどでもない、とのこと。時折やたら長く生きる者もいるにはいるが、寒さ厳しいウィンターホールドでよく持ちこたえるものだ。そして当たり前のように監視しているのだな、お前達。

 

 逗留がひと月半を過ぎたあたりでちと不安になり、巡回の衛兵隊に頼んで、事情を説明してほしいとアーチルに手紙を出した。すると奴からは妙な返事が来たのだ。曰く、首長との交渉は当初、世間話を交える程度の軽いものであり感触も悪くなかった。それが徐々に態度が変化し、終いには「お前は何も聞いていないのか?」と逆に尋ねられる始末。何のことやらと混乱していたら、いつの間にか私の処遇は保留となっており、自分にも何が起きているのか不明である。引き続き首長へ翻意していただくよう努める、とのこと。

 一度は、アーチルも拳を槌を交えた()()()()()が必要な手合かと考えもしたが、どうもそういうことでは無いらしい。そも、奴は息子を人質に出しているのだ。子を邪険に扱っているようには見えなかったし、当のトルドスの為人を見れば、よく愛されよく躾けられているのがわかる。どう考えても馬鹿なことを考えたわけではないだろう。

 さて、普通なら「何が起きているのか」と焦る場面かもしれないが、私には情報に通じた頼りになる仲間がいる。付き人として世を忍ぶ盗賊の二人なら、実は既に何かしら情報を得ていながらあえて伏せているのではないかと尋ねてみると…………二人は顔を合わせ何ぞ小声で言い争い、次いでその目を泳がせ、「すぐ代わりの者を!」と揃って駆け出してしまった。

 最低でも一人は私の側に付けておく体制であったはずなのにと訝しみ、砦、ギルド双方の面々が真相究明のために度々入れ替わること半月、ようやく事態が明らかになった。といっても、無駄に手間暇がかかって面倒なやり取りを経た割に何のことは無い。実際は幾つかの行き違いから起きた、ただの連絡不備であったのだ。

 

 

 

 まずことの始まりとして、私がウィンドヘルムを訪れた際に砦の者が自ら工作に走り、町の有力者を動かして私の処遇についての落とし所を作った。

 そして私が現在の任地に赴くと同時にその者は次の者と交替して、砦へ帰還した。当然、ことの仔細はブレックスの耳に入ることとなるのだが、彼の頭目殿は配下の話す有力者の感触を良好と判断し、更に太い伝手を作ろうと考えたらしい。

 現在、ブレックス一味の立場は微妙なものである。ギルドとは不可侵の約定を交わしたために、ギルドの支援者を含めた関係者から付け狙われることは無い。そして、私の地下拡張工事も一助となり、表向きは解散して散り散りになったことになっている。しかし、依然として砦を占拠していることは事実であり、ギルド支援者の知らぬ間に『残党の討伐指令』が下されないとも限らないのだ。そこで頭目殿が目をつけたのが、ウィンドヘルム、ということらしい。

 まず、一味の安全を確保するのなら、現状のまま砦に居座るわけにはいかない。それを通そうとするのなら、表立って攻撃されないだけの正当性が必要になる。あとは、その正当性とやらを保持し続ける資金力と政治力か。成らなければ居を移すしかない。……のだが、そのどちらにとってもウィンドヘルムは都合がいいらしい。まず、五大都市の中でも最も古い歴史を持つウィンドヘルムの有力者ともなれば、スカイリムの中でも上位に入る実力者だ。一味の支援者とするには申し分無く、一度だけとはいえ繋がりができたのならば、それを強固なものにしようと企むのは自然と言える。また、砦を引き払うにしても利がある。なんと言っても、リフト地方の砦に比べてウィンドヘルムは、ウィンターホールドまでの距離が圧倒的に近いのだ。流石に、頭目殿の言う「無い無い尽くし」のウィンターホールドに一味がこぞって移動し潜伏する、というのは無理があるが、ウィンドヘルムならばそれも可能だと。もっと言えば、船を使った交易にも便利だという判断だとか。普通、一味程度の規模で考える話ではないのだが、私の存在がそのあたりの常識を崩してしまったらしい。報告に来た砦の者は「旦那は、ほら、アレですから」などという。アレとはなんだアレとは。儲けさせてやっているだろうに。盗賊ならおべっかの一つでも使ってみろ。

 と、ここまでが一つ。

 

 次に、ブレックスの動きを受けてギルドがそれ等のあらましを察知し、彼のマスター殿が「一口噛ませろ」と嘴を挟んで来たのだ。後から便乗しようというのだから、ブレックス達は面白くはない。横取りも邪魔もしない、と約定を交わしたらしいが、そんなものは当然の話である。ブレックスは一応納得したらしいのだが、私は、ギルドのやり口に腹を立ててしまった。ちなみに、そのときのギルド側連絡員は我が友ブリニョルフである。他の者では私を抑えきれないと、メルセル・フレイは判断したらしい。正しいぞ。友でも無ければ殴りつけていたやもしれん。

 しかし、カジート商隊やブラックマーシュの先遣隊と伝手を構築するために東奔西走しているはずの彼が何故、と思ったが、正にその両者とついでに私が別件に関わっており、その説明を兼ねていたらしい。

 曰く、商隊や先遣隊に接触したところ、彼等にとって最も望ましい交易品は貴金属、次いで魂石なのだという。()()()()が強まるスカイリムでは何を持ち込んでも売れるが、輸送費を鑑みれば、小さくて値の張る物が好まれるのは道理である。地域に根ざした雑貨屋ではないのだ。そこで彼等が目をつけたのが、『ブラックリーチ』の魂石鉱床である。

 そもブラックリーチとはなんぞや、という話なのだが、これはイーストマーチからウィンターホールドの地下に広がる巨大空間のことを指すらしい。入り口はドゥーマー遺跡であるため、侵入は当然の如く危険極まりなく、目的地たるブラックリーチに辿り着いてもそれは変わらないとか。なにゆえそんな場所へ行きたがるのかという話しだが、それが先の魂石鉱床である。

 曰くスカイリムに出回っている魂石のほとんどは、ドゥーマー遺跡深部か、このブラックリーチから齎されているらしい。後者の広大さを鑑みれば、その大部分はそこからと考えていいだろう。私も、およそで書かれた地下空間の地図を地上の地図と重ね合わせたとき、あまりの、というより馬鹿げた広大さに驚いた。思わず、地下であることが信じられんほどの空間に聳える大樹と、静謐かつ雄大な水面(みなも)ばかりが広がる『燻りの湖』を思い出したほどである。そしてこのブラックリーチなのだが、地下らしくかなり暗い空間なのだとか。ドゥーマーが持ち込んだ光る茸のおかげで全くの暗闇、というわけではないらしいが、「月明かりだけを頼りに街道を行く程度には面倒」と言われれば、どれほど暗いかの想像は付く。ここで、カジート、アルゴニアン、両者の関わりに行き着くわけだ。

 まずはカジート。当然ではあるが、採掘にあたり暗闇で光源を用意すれば、それは脅威であるブラックリーチの住民に自らの所在を曝す自殺行為に他ならない。多種族であれば極々小さな光源を用意するか、茸の灯りだけを頼りに悪戦苦闘するのだが、カジートならば話は別だ。彼等は種族柄、夜目が利く。危険度を高める光源などを用意せずとも、昼間の地上と変わらず行動できるのだという。

 次にアルゴニアン。聞けば、ブラックリーチに存在する危険は、直接的脅威と暗闇だけではないのだという。それは、深浅の別はあっても、そのほとんどが水没しているということだ。暗闇の中、何に足を取られるかわからない。そんな中でもし身の丈を超える水深の窪みに落ちたらどうなるか。頼りない光源では上も下もわからず溺れる可能性は高いし、よしんば助かったとしても、その過程で派手に音を立てていれば、散々話題に挙げている()()が寄って来るだろう。だが彼等アルゴニアンであれば、そもそも水中の活動を苦にしない。何なら、潜水したままで数十分は活動できるのだとか。

 つまり、夜目の利くカジートと水中活動が得意なアルゴニアンが協力すれば、最強の魂石発掘隊が結成されるのだ!(ブラックリーチまでの行き来と流通にはギルドが直接的間接的問わず協力させられるらしいが)

 

 が、まだ一つ大きな問題がある。魂石とは市場に出回る数が少ないため、貴金属ほどではなくとも高値で取引される。考えなしに市場に流し続ければ、値崩れを起こすのは自明である。その程度は私にも理解できるので、その問題をどう解決するのだろうかと尋ねてみたら、私と、初めて聞く名前が出てきた。

 曰く、スカイリム西端のマルカルスに、カルセルモという男がいるらしい。彼の御仁の正式な身分は首長へ魔術的貢献を行う宮廷魔導師であるのだが、その実態は『スカイリムにおけるドゥーマー研究の第一人者』という側面が強いらしい。世間一般の認知として、魔術師には変わり者が多く、忠誠より自らの知的好奇心を上位に置く者が多数らしい。彼も例に漏れず、首長への貢献は最低限に、他の全ての時間は寝食を忘れる勢いでドゥーマー研究に没頭しているのだとか。彼自身は自らの研究成果を厳重に秘匿しているらしいが、彼独自の基準により()()()()()()()とされたものに関しては、交渉次第では開示してやることも吝かではないとか。そして、面倒を嫌う研究馬鹿に代わってそれらの交渉を行うのがマルカルス首長イグマンドであり、要するに制御できない部下の研究が回り回って首長の利益に繋がっているから目を瞑られている、というのが実態だと。

 閑話休題。そんなカルセルモ師であるが、彼の魂石消費量は他の宮廷魔導師の比ではないらしい。普通の魔術師ならば、懐事情もあるのだろうが、必要最低限の材料を以て実験を行う。「必要最低限の材料が揃い次第、我慢がきかず実験にかかってしまう」という気質が往々にしてあることも否定し難いが。そんな中で師が取る手法は、気が遠くなるような試行回数を重ねて統計を取る、というものだ。仮説を立てたうえで、ドゥーマー遺跡から持ち出された用途も使用方法も不明な機械に魂石を用いて、動作を確認。結果を記録しつつ新たな推論を立て、再度実験、と。そんな手法ではいくら魂石があっても足りない。足りるわけがない。「何故この町の鉱山から産出されるのが銀なのだ?」とは魂石不足に噴懣を溜めた師の談である。

 そして、そこに目をつけたのが我が友ブリニョルフである。カジート・アルゴニアン合同魂石採掘隊の構想を練り、安定的かつ大量の魂石確保への筋道を立てた。採掘された魂石は私が充填する。それをカルセルモ師に直接卸す。すると魂石市場への影響は最小限に抑えつつ、ギルド、カジート商隊、ブラックマーシュのアルゴニアン貿易隊は互いに莫大な利益を得、マルカルス首長の側近にも伝手ができるという妙手が誕生したのだ。我が友ながら、流石である。

 ちなみに、カルセルモ師と接触を持つ前は、魔術大学へ赴く私の背後に巨大な魂石産出組織があれば心強かろう、という心算だったらしい。いつも私のことを考えてくれる友の友情に、少しほろりと来た。彼は「お互い様だ」と笑って私の肩を叩いた。

 

 以上のことから、ギルドとしてはイーストマーチからウィンターホールドにかけてカジートやアルゴニアンが快適に移動できるよう取り計らう必要があり、同時進行でウィンドヘルムの有力者達にも食指を動かしている。

 砦のブレックス一味は、ウィンドヘルムを中心に有力者へ伝手を作りつつ、こちらはこちらで意趣返しの意味もあるのかは不明だが、魂石採掘に一噛みしようと企んでいる。

 ここでまた話をややこしくするのが、私の立ち位置だ。

 私は今でこそ盗賊ギルドの正式な外部協力者ではあるが、元は単独でブレックス一味に接触し、彼等の仲間となった。正確には頭目殿と友達になったのでなし崩し的に一味全員がついてきたのだが、今はどうでもいい。そして、両()()のどちらと先に友誼を結んだかといえば、ブレックス一味なのだ。となると、彼の頭目殿としては私の行う魂石の充填や付呪について「こっちに優先権がある」と主張したくなるのは人情というもので。かと言って、ギルドとて莫大な利益が見込める儲け話は極力単独で当たりたいわけで……。

 私も当事者なはずなのだが、私の一切預かり知らぬところで利害調整に丁々発止の議論が続いていたそうな。ちなみに、地力で圧倒的に負けるブレックス一味がギルドと対等にやり合っていられたのは「あんまり欲の皮突っ張らせると、あの非常識が何をしでかすか知らねえぞ。こっちは全員ダチになったから関係ねえが、そっちはブリニョルフ他数人以外全滅したって不思議じゃねえ」と一つハッタリをかましたかららしい。私とて、一味の中で顔と名前が一致しない者は多い。盗賊顔、とでも言うのか。印象に残りづらいのだ。聞けば、意図してそういう相貌を心がけているらしい。職業意識もあまり高いと周りが困る。主に凡人たる私とか。

 また、ここでも我が友の名前が出たことで、いい加減メルセル・フレイの堪忍袋の緒が切れはしないかと心配になったが、彼のマスターは我が友と私について、考えを改めたらしい。私という利を齎しながらも扱いづらい駒の手綱を、責任持って握らせてしまおう、と。その代わり、一見褒賞のように見せた権限の拡大や金銭の下賜などを行ったのだとか。要するに、見せかけでも優遇してやっているのだから、万一抑えが利かなかった時にはわかっているのだろうな? とそういう脅しなわけだ。

 私としては、そういうことなら心配無用と安心した。私がギルドに歯向かうときは、ブレックスではないが、ブリニョルフ他数名を除いて幹部連中を鏖殺する。それでもブリニョルフに対する反感が収まらないのなら、ギルドを潰す。故に、ブリニョルフがこの件でギルドから懲罰を受けることは有り得ないのだ。友は悲しむかもしれないが、構成員が一掃されるだけで、また再建すればいい話である。まぁ私とてだいぶ人界の流儀には慣れて来たつもりだ。そうそう物騒なことにはなるまい。進んで友を悲しませたいと思うわけもなし。

 

 閑話休題。ギルドと一味が利害調整をするのは良いのだが、それなら別に私と関わりないところでしてくれれば良いものをと思ったのだが、主に地理的な問題から私がイーストマーチに留まっているほうが、双方にとって都合が良いらしい。

 それ故、ギルドだか一味だかがウィンドヘルムの有力者を通じて首長ウルフリックに私を緩く留め置き続けるよう要求し、ウルフリックはウルフリックでそのうち解放するつもりだったのが妙な話になったと首を傾げつつ了解し、混乱する現場のどこかの誰かの時点で私への連絡が疎かになったために、私は何も知らないまま採掘村で待ち惚けを食らっていた、というのがことの全容である。

 わかるぞ。人間、余裕が無くなると親しい相手の扱いがぞんざいになるよな。ウィンドヘルムの有力者然り、魂石採掘隊然り、大体場所はこの地域である。私だけ先に向うと、ただでさえ工作と利害調整に誰も彼もが忙殺されている中で、ウィンターホールドでの私の護衛が増えてしまい、「やってられるか!」と愚痴も零したくなるだろう。まぁうん、わかるぞ。でもな、少なくとも、私こそ親しい相手だからだと自らをそう納得させなければ、同じことを叫びたくなる。

 

 正直に言おう…………阿呆らしい。

 

 おかげで私は要らぬ心配を抱いたし、顔を潰した形になったアーチルにも「例の友人達がはしゃぎ過ぎたようだ。すまぬ」と明かせる範囲で事情を書いた詫び状を送る羽目になった。言うまでもなく、事態の全容が判明した段階で、ギルド、一味の双方から何度か謝罪とその金品が送られた。しかし、どいつもこいつも本拠へ帰還する足が鈍いのだ。ギルドマスター、メルセル・フレイも、頭目ブレックスも、毛色は違うがどちらも怖いからなぁ。こってりと絞られるといい。実際に私は迷惑を被ったのだから。

 確認を怠った私に非が全く無いとは言わんが、暗黙のうちに情報については彼奴らの領分だと棲み分けができていたのだ。そのうえ、私の補助のために付いてきているものが足を引っ張る形になったわけなのだから、どちらに非があるかは言うまでもない。

 余談だが、謝罪のためにやって来た最後の人員は、ギルド側は再度ブリニョルフ。一味側はハンであった。

 我が友ブリニョルフに酒を奢られて、誠心誠意頭を下げられれば、私は強く出られない。メルセル・フレイはそのあたりを把握しているのだろうから、こういうところはちと狡いと思う。そしてその人選の理由についても承知していながらただ頭を下げるしかない友を見て、余計怒るに怒れなくなるのだ。それに今回の一件は、彼が私のためにと動いたことが遠因にもなっている。本人の罪悪感はひとしおだろう。しかし魂石採掘に目処がつけば、彼の目論見どおり、魔術大学へ赴く私の大きな助けになるはずだ。何せ大学全体を巻き込んで町の復興に協力的にさせねばらなんのだ。餌は多ければ多いほど助かる。私にできることは、できるだけからりと笑い飛ばし、気にもしていないと全身で表現し、我等の友情には毛ほどの影響も無いと示すことだ。……多分、私の気遣いも察せられているだろうから、妙な自罰的思考から友の胃に穴が開かないか心配だ。彼が寝静まったあとにでも、こっそり胃薬を鞄に忍ばせてやろう。私の胃薬は、今ではちょっとしたものなのだ。

 ハンに関しては、ブレックス直筆の詫び状を持参し、「平に、平に」と自らの首を差し出してきた。此奴のこと、演技ではあるまい。私が滅多なことで無体を働くとは思っていないだろうが、この男、一味に厄が降りかかりそうになると、こういう肚を決めてくるからなぁ。やはり怒るに怒れない。しかも、子供の訓練用に長さと重さが調節された、木製の剣、短剣、短槍、それに弓と矢をそれぞれ予備分含めて持参してきた。ラーナルクとトルドスのためだろう。下手な金銭より、こういう物を私は喜ぶとわかっているのだ。相変わらず如才無いことである。あまりに準備が良いので、怒りは消えて笑ってしまった。私が「もう気にしていない」と告げると、頭を掻きながら、肝が冷えました、などとほざくのだ。食えん男だ。しかし、「二度は無いと誓います」と口にした奴の目は据わっていた。……もしかしたら、頭目ブレックスより副頭目ハンの叱責のほうが余程厳しいものになるのではなかろうか。まぁなんだ、ほどほどにな?

 

 

 

 

 

 そんなこんなで一年弱を採掘村で過ごした私だが、そのあいだ遊んでいたわけではない。

 まず、カジート商隊、ブラックマーシュ先遣隊両者から、莫大な数の魂石充填を依頼された。彼等にとっては計画の骨子である。担がれていないかの確認と、どの程度までなら可能であるのかの試しは必要であろう。こちらも、私個人が行っていることは秘匿するが、侮られないよう莫大な数の充填済み魂石をそっくり送り返した。それが不眠不休を要する作業であったとしてもだ。しかし種族柄からかスカイリムで差別に合ったからか、連中、なかなか用心深い。似たような量の魂石を何処からか掻き集めて、何度となく依頼してくるのだ。

 今思えば、どこかの段階で妥協すれば良かったのかもしれない。しかし互いに意地を張ってしまったのか、莫大な魂石のやり取りが終わらない。途中から感覚が麻痺して、「どの程度から『莫大』と言うのだったか?」などと阿呆な思案を浮かべながら作業を続けていたが。

 結局、見かねたギルドの物言いにより、試しの儀は終わった。連中としても、こちらの輸送や隠蔽を含めた魂石充填から流通までの能力には納得したらしい。ギルド、一味、私は莫大な金貨を得て、連中は莫大な充填済み魂石を手にした。連中には今頃、無理に魂石を掻き集めたツケが押し寄せているだろうが、私の知ったことではない。何せこちらは、不眠不休の疲れから独り言をぶつぶつと呟き、焦点の合わぬ目でひたすら作業を続ける樣をラーナルクとトルドスに目撃されているのだ。父親の威厳が損なわれたのだから、少しくらい恨み言を言ってもいいだろう。

 

 そのラーナルクであるが、私がトルドスを『遊び相手』として紹介したこともあってか、少しして打ち解けられたようだ。素性の割に人懐っこい子だ。寧ろ打ち解けるには、トルドスの引け目が足を引っ張った感まである。アーチルが余程言い含めていたのだろう。私が「無事に返す」と口にしたことをあれも聞いていただろうに、数日は緊張しどおしであった。ラーナルクと同等、とまではいかずとも、私がそれなりに気を遣って接している、と理解してからは、ラーナルクとも打ち解け、共に遊ぶようになった。

 ちなみに、トルドスは十二になるらしい。ラーナルクは本人曰く「多分九つ」だそうだ。何故あやふやなのかは、物心ついた頃に母親が口にしてはいたものの、体調を崩し出してからは会話自体が減り、そうこうしているうちに『本当は自分が幾つなのかはっきり覚えていない』ことを伝えるのが母親を悲しませると幼心に思い、口をつぐんでいたそうだ。そのあたりを気にし始めるとキリがないので、この話題が出た日からラーナルクは九つとした。自分の歳が不明だなどと口にすれば、何処の世界でも不審がられる。面倒の無いよう適当に決めておき、母親への慕情は別としてしかと覚えておけば良い。

 

 採掘村へ着いて間もない頃。一日が始まり朝餉を食べればラーナルクはトルドスと遊びに行き、日が中天にかかる頃に揃って戻って来て昼餉を済ませ、そのまま並んで昼寝。昼下がりからまた遊びに行くか、私を相手に『訓練ごっこ』に励む。父親に教わった剣の素振りをするトルドスに触発されたのか、ラーナルクも砦で行ったような訓練をしたがることが増えた。やはり歳の近い者がいることは良い影響をあれに与えるだろう。アーチルには感謝したい。

 

 …………そんな日々が続くと思っていたのだが、私の()()とやらは、早々にまた損なわれることとなった。

 ウィンドヘルムの町にヌレリオンという男がいる。偏屈で横柄で嫌味ったらしい男ではあるが、錬金術の腕だけは確かなのだ。その腕でウィンドヘルムに小瓶がどうのという名の店を開いており、首長府のお抱えでもある。

 しかしこの男、お抱え錬金術師の癖に、首長のために働くという気が全く無い。ある程度の金が稼げれば、あとは小瓶とやらの研究や捜索に少しでも時間を割きたいという、雇われ人にあるまじき職業倫理をしている。そしてこの男が採掘村へわざわざ出向き、私の仕事ぶりを眺めて言う。

 

「お前になら、私の仕事を任せられるだろう。金は払うから注文通りの数を期日までに用意しておけ。私への連絡は不要だ。荷運びは衛兵を使え。以上。わかったらとっとと仕事にかかれ!」

 

 これである。かかれも何も、お前が作業中に高圧的かつ一方的に物申したんだろうに、と腹が立った。手元に生成しかけの淡く透けたブロードソードが浮かび上がったが、ここで刃傷沙汰は不味いと思い直し、すぐさま散らした。この時期はまだギルド、砦一味の連絡不備が判明しておらず、私の処遇がどうなっているのか不明だったのだ。下手な行動は慎み、ある程度の地位を確立している人物との揉め事は避けるべきだと考えた。また聞くところによると下請け仕事としては割の良い給金が支払われることになっているらしく、横柄ではあっても無体ではないと感じ、一応要求を呑むことにした。後悔は先には立たんのだが、それがいけなかったのだ。

 

 私の魂石充填は、私の計画同様に秘匿事項である。にも拘らず、カジート・アルゴニアン連中の件が無くとも、ギルドや砦の一味へ供給する仕事はある。そのため、皆が寝静まったあとに、あてがわれた仮宿の中の錬金術工房で作業をすることになる。この頃にはラーナルクも、私が添い寝しなくとも泣くことはなくなっていた。隣にはトルドスもいることであるし。ただまぁ、時々寂しそうな顔をするので、そういうときは「暖を取りたい」と言って子供等を両脇に呼ぶことにしている。ラーナルクは喜ぶし、トルドスも親元離れて苦労をしているのだ。少しくらい甘くしてやっても良かろう。

 魂石の充填で夜が使えないとなると、日中、普通の人間と同じだけの時間しか私には残されていないわけだ。その時間を使って、朝起きたら朝餉の支度をし、済めば片付けをし、村の住民に必要な薬を作成し、昼餉の支度をし、寝ている子供等を起こさないよう片付けをし、ヌレリオンからの下請け仕事を熟し、夕餉の支度をし……とこのような有様である。休みが、無い。少しも、無いのだ。汁物を一日分大鍋で作ったりと少しでも時間の節約を図ったが、身体が成長する時期の子供というのは、よく食べるのだ。効率を求めるにしても限度がある。かと言って、ラーナルクに「勝手に食べていろ」とは間違っても言いたくない。

 そして、たしかにこの体は休息を必要とはしない。究極的には集中力とやらも脳の体力と言えるのだから、不死人たる私に『集中力が切れる』などという現象は起こり得ない、はずだ。はずなのだが、起こるのだ。説明はできないが、精神力と呼ぶべきか、何かこう、目に見えない霊魂的体力が消耗していく気がするのだ。そうすると、精密作業を要求される錬金術においては、事故の元でしかない。私はやむを得ず休息を取ることが増え、ラーナルク達の『訓練ごっこ』も付き人達に任せることが増えてきた。

 それにヌレリオンの小狡いことに、私への発注量を徐々に増やしていったのだ。世の糊口を凌ぐ末端錬金術からは殴り掛かられそうな話ではあるが、奴の狡猾なところは、毎度の発注量を僅かずつ増やしたかと思えば、時折減らして見せるのだ。そうすることで私に「なるほど、単にばらつきがあるのだな」と思わせておいて、また量を増やす。一度にドンと増やされては私も事情を問い質そうと考えるが、微量ではやむを得ぬかと呑んでしまう。それが重なり一年弱が過ぎた今となっては……当初の五割増の量を熟している。彼奴め、おそらく最初からこの量を任せる気でいたに違いない。

 私の処遇についての連絡不備が発覚した時点でこんな依頼は蹴ってしまおうかとも考えたが、この地でこさえた錬金術師としての悪評がウィンターホールドでどのように作用するか読めなかったため、泣く泣く下請け仕事を受け続けるほかなかった。おかげで私の時間的余裕は日を追うごとに無くなっていき、起床時間などの生活習慣はめちゃくちゃである。ラーナルクには常日頃から、こうなってはいけない、と私を反面教師にするよう伝えている。その度に困った顔をさせてしまうのだから、駄目な父親である。

 今日も今日とて夕餉前に起床し、頭の中で取り掛かるべき項目を洗い出す。村民に納める分は先日荒方片付けてしまったから、残りは少ないはず。たしか、五日の内に近所の婆様へ副作用を軽くした睡眠薬を、半月の内に樵へ軟膏を納める予定がある。まずはそれからだ。そしてその次には、今月の内には首長府の衛兵隊へ傷薬やマジカ回復薬を、首長からの信用があるマスター・ヌレリオンへ()()()()ことではあるが納品する必要がある。

 先述のとおりそれなりの対価は頂戴しているとはいえ、便利使いされるのは大変気分がよろしくない。「あの野郎いつか締めてやる」と独り言が零れる。同時に、私の口調もだいぶそれらしくなってきたものだな、と自嘲する。

 

 

 

 

 

 ちなみに、連絡不備が発覚してから半年ばかり経つわけだが、ギルドや砦の一味にも様々な進展があったらしい。そのあたりはブリニョルフが訪ねてきて、酒を勧めながら話してくれた。この日ばかりは私も流石に休息日とさせてもらう。ツケは翌日以降の私が払うのだ……と思いきや、彼は「君に時間を取らせるのだから」と、錬金術に通じた人員を数人寄越してくれた。筋書きでは、豪商達が私から錬金術を学ぶよう言いつけた使用人となっている。つくづく有難い。

 

「忙しいところすまないな、兄弟。さんざん迷惑をかけた手前、顔を出すのも厚かましいとは思うんだが、嬉しい報告はまず君にこそ聞いてほしいと思ったのさ」

 

「何を言うか()()。君はいつも私のためを思って動いてくれているではないか。多少の行き違いがあったとはいえ、私にはその心こそが温かく、最も重い。というか君は少々卑屈になりすぎなのだ。我々が単なる業務提携者でしかないのならば別だが、友なのだ。厚かましいくらいで丁度いい。それに謝り過ぎでもある。男が廃る。これ以上は聞かんぞ」

 

 少し強く窘めたことで彼は苦笑し、それ以上の謝罪を口にしなかった。

 

「それじゃあお言葉に甘えて。まず第一に、ギルドの再興が予想より遥かに早く実現できそうなんだ。君の計画そのものはまだまだ途中であまり影響を及ぼしてはいないんだが、ほら、外部協力者の件と、その他選り取り見取りの()()()でね」

 

 私が、無駄に煽て上げられるのを嫌うと知っていてこういう言い方をするのだ、この友は。よしてくれ、と虫でも払うような仕草を見せると、彼は悪戯っぽく笑ってみせた。

 彼が「第一」というこれは、私の魂石充填と付呪による新たな収入もあるが、ギルド分裂後、迅速にガマシン一派を吸収し、同様にブレックス一味を相互不可侵勢力としたことが大きいらしい。ギルドは基本的に無法者の集まりではあっても、ガルス在りし日の秩序はある程度は保たれており、その力も健在である。裏社会の事情通にはそう判断する者がそれなりにいるらしい。

 そしてスノー・ショッド家からさらなる資金援助と人脈の紹介を受けたことで、『膝下の有力者は、ギルドが立ち直る公算が高いと見ている』との噂が広がった、もとい積極的に広めたらしい。スノー・ショッド家云々はギルドとは無関係の私達の計画への出資だろうが、外から見ればわかるまい。特に、ここで話題に上げているのは全て裏の情報である。ただでさえ真偽を見極めるのは難しいのだ。無理もない。情報の流布はギルドの十八番であるのだし。

 最後に、ウィンドヘルムでの新たな伝手を使い影響力を取り戻しつつあるという事実。これも砦の一味との協同作戦ではあるものの、概ね事実である。多くの者の目からしても、首長に裏から望みを伝えられる組織の力は確かなものと見えるはずだ。この件に関しても発端は私のやらかしであるからして、そのあたりも英雄譚とやらに含まれているのだろう。

 

「それから第二に、だが。スカイリム内に散った馬鹿共の始末がおおよそ終わった。結構長く鬱陶しい思いをすると覚悟していただけに、連中の不甲斐なさに呆れるやら、これからの仕事への不安材料が減ったことを喜ぶやら、まぁ悪くないとみんな感じてるよ」

 

 私が日々を魂石充填と錬金術に明け暮れているあいだに、ギルドは「第一」で語ったそれら好意的な視線をより強く引きつけようと、メルセル・フレイの指揮の下、スカイリム内に残った対抗派閥を一掃したらしい。ブリニョルフ曰く「木っ端」にまで離散した者共は、スカイリムの北部から西部にかけて潜伏していたようだが、それがかえって仇になった。件のカルセルモ師がギルドの外部協力者に就任したためである。とはいえ、師はギルドの活動に欠片も興味が無い。優先的かつ安定的に魂石が供給されれば、あとはどうでもいいという、ある意味研究者の鑑のような男なのだとか。……どこかのとんがり帽子の翁を思い出すな。

 外部協力者となったはいいが自らの労力を一切割くつもりの無い師は、思い出したように懇意にしているという錬金術店の女店主をギルドに紹介した。このことが、自称『正統後継派閥』殲滅の決定打となったようだ。どうもこの女店主、元々蛇の道にも通じる女傑であったらしい。それにより、「リフト地方の真反対に位置する西部ならば」と油断していた者共を一網打尽にできた、と。そして既に東部から北部東側には影響力を取り戻しつつあることも踏まえ、東西両側からまずは中部を締め上げ、そして北に追い詰めるよう誘導して、トドメ、となったらしい。

 この『木っ端』共であるが、ギルドの衰退が思ったほどではないという情報を得ながらも帰参を願い出なかったわけである。ガマシン一派やブレックス一味とは違い、こちらは見敵必殺とばかりに殺し回ったそうだ。彼等の言う「殺しは無しだ。ことはスマートに」は稼業にのみ適応されるらしい。まぁ、ガマシン一派のときから「可能ならば生け捕り」だったのだ。時勢を見極められない者にかける慈悲は無いのだろう。

 極僅かな者が、スカイリムに安住の地無し、とシロディールに逃れたらしいが、それならそれで構わない、とは友の談である。実際、木っ端の更に木っ端が大陸中央に渡ったところで、スカイリム随一の闇ギルドへどうこうできるとは思えない。

 

「流石に、全盛期から比べればまだまだ天と地の差があるがね。あの頃は富が富を呼び、まさに小さな王国だったんだから。でも俺が覚悟していた復興までの数十年は、確実に大幅な短縮を見たよ。君のおかげだ。本当にありがとう。心から礼を言わせてほしい」

 

「よせと言うに。私と君のあいだでそう何度も同じことを言わないでくれ。『親しき仲にも』とは言うが、限度がある。かえって面倒くさい」

 

「おや? 兄弟が先程制止したのは謝罪についてじゃあなかったかな? 礼については言及されていなかったものだから、これから君が『頼むから止めてくれ』と懇願するまで褒めちぎろうかと思っていたんだが」

 

 空恐ろしいことを言う男である。私とて人間であるから、褒められれば嬉しく思う。しかしそれも私の中の労力と見合ったものだと思うまでが限度だ。それを超せばただただ痒い。

 

「まぁ、兄弟の面白い、もとい嫌そうな顔を見られただけで良しとするよ。

 ……ただ、これだけは覚えておいてくれ。謝罪はまだしも、俺が口にした礼については、一片の世辞すら無いということを。もしあの墳墓で俺と君が出会っていなければ、俺が君を兄弟と呼び君が俺を友と呼んでくれなければ、もし君がギルドに協力しようと思ってくれていなければ、ギルドの衰退はもっと目に見える形で進んだはずなんだ。これだけは言い切れる。俺だけじゃない。他の幹部も同意見だ。あのメルセルですらな。多分、ブレックスに聞いたとしても、似たような判断を下すと思うぜ。

 仮定の話しをいつまでも続けたって意味は無いが、君がいなければ、きっと十年経とうが二十年経とうが、再建の目処すら立っていなかったはずだ。もしかしたら、ギルドはさっき話した木っ端共と変わらない、リフテンを根城にする単なるごろつき集団にまで転落していたかもしれない。君の危惧するとおり、ブラック・ブライアあたりの走狗となっていたかもしれない。

 ギルド再興の目的は完全達成されちゃいない。だが今話したような『かもしれない』未来とは、完全に決別することができたんだ。これからギルドは()調()()再興を果たすだろう。俺がどれだけそれを喜んでいるか、それを齎した君にどんな思いを抱いているか、わからない君じゃあないだろう? なぁ兄弟」

 

 仮定の話をする内に独白の様相を呈していた彼の語りだが、あとのほうは声が震えていた。彼にとって、ガルスの残したギルドの、その再興は悲願である。たしかに、話に聞く絶頂期を思えば、足りぬものだらけだろう。資金力。政治的影響力。人員の再確保。何より、人々の中に抱かせる()()。『ギルドの復興具合を値踏みされている』という状況自体が、その証左とも言える。何せ在りし日の盗賊ギルドと言えば、できないことなど無く、敵に回せば確実に身の破滅が待つ、という恐怖の象徴のような存在だったのだ。ちょっとしたデイドラのようなものである。それを鑑みれば、友の口にするとおり『まだまだ』なのだろうが、その目処がついたことは、やはり嬉しかろう。

 出口があるのかすらわからない暗闇を、何の標もあても無くただ彷徨い続けるというのは、なかなかに堪える。足を止めてしまおうか。引き返すべきか。いっそ何もかもやめてしまおうか。この命さえ……。彼はそういう日々からの脱出を果たしたのだ。だからこそ、親しき者と喜びを分かち合いたいと思い、ここへ来たのだろう。

 私は二人分の杯になみなみと酒を注ぎ、少し距離を詰めた。そして杯を掲げ、言う。

 

「我が友の宿願の、序の口なれど確実に一歩を踏み越えた偉業を祝って」

 

 彼も杯を掲げ、言う。珍しく、涙を隠すことをしなかった。

 

「宿願達成への更なる飛躍と、我が友の計画成就を祈って」

 

 互いに互いの健闘を祈りつつ、乾杯、と口にして酒を飲み干した。彼は少し気分が落ち着いたのか、「いや実際、本当に『まだまだ』これからなんだがね」と頭を掻く。……なんとなくなのだが、この『まだまだ』という言葉、我々のあいだで事ある毎に出てきそうだ。まぁそうだな。私とて力ばかり有り余っているだけの未熟な人間。『まだまだ』これからである。うん、しっくりくる。

 

 感慨に耽っていると、少し照れくさい空気を変えようというのか、友が切り出した。

 

「今までので俺の用事は終わりだ。ギルド構成員としての本題はここから。連絡事項の通達だな。よく聞いておくれよ。この前みたいなのは、お互いに困ってしまうからね。メルセルの嫌味はもう十分だ。

 ……まずはメルセルとブレックスからの伝言だ。イーストマーチへ再度根を張る工作は一応の完成を見たため、これ以上の逗留は必要無し、だと。俺はカジートやアルゴニアン相手にあっちこっちしていたからあんまり関わってはいないんだが、流石は『ガルスの右腕』と我等がギルドマスター、といったところかな。そういった政治的工作ではまだ敵う気がしないな。

 そしてこっちはブレックス個人から。不可抗力を多分に含みながらも当初の計画に比べて手前の動きが制限されたもんだから、件の老いぼれ首長はこっちで先に落とした。とっととウィンターホールドへ向かってご挨拶と洒落込めや。最終的な段取りは手前が町に到着してから詰める。だってさ。やるもんだ」

 

 友からの伝言を聞いた正直な感想は「ようやくか」といったもの。今ではすっかり村の者共とも馴染んでしまった。出立にあたり挨拶回りが必要なほどだ。しかし一方で、ギルドは一年とかからず五大都市の一角に根を張り直した、ブレックス一味としてはそれとは別に独自の伝手を構築したわけで、面目躍如といったところなのではないだろうか。友の言葉からもそれが窺える。というか、頭目殿の声真似が上手いな。我が友は多芸である。

 そして、ウィンターホールド首長をこちら側に引き込んだ、と。砦で計画を聞いたときには、その首長こそが一番の課題だったはずなのに。友の言ではないが、私もどんな手を使ったのか気になるところだ。頭目殿の話では、魔術大学に関しては然程支障は無いとのこと。気が早いやもしれんが、これは計画が成ったも同然なのでは? いやまぁ、軽々に油断するべきではないな。いかん、気を引き締めよう。

 私と同じように気を緩め「計画の明るい前途を願って」と杯を掲げる友であったが、私の行く先々、予期せぬ厄介事だらけだ。まだ油断したくない、と伝え、乾杯はもう少しあとまでとっておくことにした。多少白けさせてしまったが、何の心配も無くなってから飲む酒のほうがうまいだろう。それには彼も納得してくれた。

 

 さて、そうと決まれば残った仕事を片付けて、近所に別れを告げて、ウルフリックに形式的な挨拶をして、と。あぁ、馬車の調子も確かめないとな。ここ一年近く、マルッコの牽く馬車は砦の者が輸送と移動に使っていた。どこか傷んでいないか、確認しておかないといけない。それくらいか? いや、トルドスのことがあったな。あれをアーチルに返すこと自体は何の問題も無いのだが、ラーナルクがまた泣きかねない。長く付き合った同年代は初めてだったろうからなぁ。兄のように慕っていた。どうしたものか……。

 悩んでいると、友がからかい混じりに言う。

 

「君も、あの小僧のこととなると子煩悩なことだな。もう十になるんだろう? なら、ウィンターホールドに着いてもう少し鍛えてやってからだが、ギルドか叔父貴のところに人を借りて、ウィンドヘルムまで会いに行かせればいいじゃないか。君のいないところで色々経験させるのも手だろう? それに聞いたぜ。あの小僧、俺達の業を手解きしてやったら、飲み込みが異常なくらいだとか。実は期待の新人、には早いが。その卵として、ギルドと一味の連中が水面下で処遇について綱引きをしてるんだ。君の養子で、本人の資質もとびきりと来れば、無理もないな」

 

 友はからからと笑うが、私はそれどころではない。そんな話は一言も聞いていないのだ。……いや、私が話をさせてやるだけの余裕を持たなかったが故か。幾らかは仕方のないこととはいえ、駄目な父親だと幾度かの実感を得て、落ち込む。あれは父親に恵まれんなぁ。

 

「そう落ち込むことはないと思うぜ? 俺は小僧とあまり接点が無かったが、『お父さんみたいになりたい』と口にしているのを聞いたことがある。どうせ無理だし、兄弟自身が嫌がりそうだと思ったんで『やめておけ』と忠告したんだがね。意地の悪いことを言われたと思ったのか、睨まれちまったよ。なかなか慕われているじゃないか。え? お、と、う、さ、ん?」

 

 私を元気づけようとしてくれているのはわかるので、空元気でも背筋を伸ばして友に礼を言うが……。しかし私のようになりたいだと。友の言うとおり、こんな欠点だらけの人間など目標にするべきではないというに。それでも一途に慕ってくれていることに涙腺が緩くなりそうだ。我慢するが。多分目の前の兄弟にはバレているだろう。いかんな。

 

「君の言うことも道理だな。あれの心の傷が許すようなら、少しずつ、色々とやらせてみるのもいいかもしれん。少なくとも、スカイリム随一の闇ギルドの幹部を睨みつけるだけの度胸はついたようだしな?」

 

 実際のところ、あれは自分の周りにいる人間がどれほど恐ろしい者達かなど知りもしないだろう。が、友も私の言を聞き「おぉ怖い」なんぞと言っておどけて見せる。まぁ成るように成るか。それは私も、あれも、同じことだ。

 人が感慨に耽っていると、「あ、忘れてた」と言う友が一人。何事かと思えば、「兄弟に無礼を働いた愚か者は、ギルドが密かに所有している鉱山に飛ばした。表向きは武者修行の旅だ。数十年働けば出られるが、そのときはスクーマ中毒の廃人にしてソリチュードに放り捨てる予定だ」とのこと。

 アーチルには納得してもらったが、そんな目に遭うのなら、やはり死んだほうがマシなのではなかろうか? とはいえ私自身言われるまで忘れていた程度の話だ。どうでもいいことである。

 が、我が友が「愚か者」など重い言葉を使うときは、真面目に怒っているときだ。あまり軽い反応を見せて話がこじれても面倒なので、私はそれで満足だと伝える。友は笑顔を見せてくれた。かえって怖い。

 

 

 

********************

 

 

 

 ウィンターホールドにて一人の老人が、まだ日も高いというのに寝台で横になっている。ウィンターホールドの首長、その人である。

 少し前まで、病気がち、というわけではないのだが、全身を犯す倦怠感に抗う気力も湧かず、首長としての務めも最低限に、空いた時間のほとんどを寝台の上で過ごしていた。しかし、今、体を休めているのは全く違う、それこそ真逆の理由である。

 ここ数日の彼は、朝は早くに起き軽く剣の鍛錬を行い、精の付く朝餉を済ませたら政務に励む。昼餉のあとにはあえて横になり、老いた身体を労ることにしている。そしてまた鍛錬と政務に励み、夕餉を終えれば十分に温かくして床に入る。

 周囲の者達は揃って訝しんでいる。しかし、首長本人からは「そのときが来ればわけを話す」と伝えられているため、また悪い変化でもないのだしと、好意的に受け止め好きにさせている。だが、健康的な生活を送る老人の、その内面までもがそうであるとは限らない。老人は周囲に悟られないよう振る舞ってはいるが、一人になると決まって淀みながらも怪しい光を湛えた目をする。そしてこれから己の為すことに思いを馳せ、昏く笑うのだ。

 そこに、一人の男が忍んで来た。

 

「閣下。直に彼の者が到着するとの報告が入りました。表での謁見を執り行い、その後は段取りどおりに裏での話し合いに参加していただきたく、お願い申し上げます」

 

 老人が現在いるのは寝室である。声の主はおそらく屋根裏であろうが、声の出どころがわかりにくく聞こえる。これも連中の業か、と老人は気味の悪さを思いつつも、同時に頼もしさを覚える。

 しかし、自身が承知したことでありながら、老人はついおかしくなり嘲笑が浮かんでしまう。

 

「不遜よな。盗賊如きがこのウィンターホールド首長を捕まえて、その行動を意のままに操ろうというのだからの。故にこそ愉快でもあるのだが」

 

 以前なら、盗賊など薄汚い鼠としか思えず、そんな者から話を持ちかけられるという事態そのものにウィンターホールドの凋落を強く実感させられ、無力感に苛まれたろう。しかし今は()()を思えば、それもまた一興と感じる。正道ではないから成せることもあるし、元よりそんな()()()()()道を歩む気も無い。

 屋根裏から返事は無かった。良いのだ。どうせ形だけの謝罪など求めてはいないし、それなりに使いやすい、と思わせておくほうが、身の安全にもつながるだろう。尤も、計画がある程度推移したのならば、己が身の安全などに如何程の価値があろうかとも思うのだが。

 

「さて、順調にことが運べば良いの。でなくば面白うない。この老いぼれに夢を見せてみよ。そのために、上手に儂を使えよ?」

 

 屋根裏から返事は無かった。老人は再び笑った。

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