DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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試験的に閑話を書いてみました。閑話に関するアンケートを設置しましたので、よろしければご協力ください。
なお、本編一話あたりの文字数についても、少々反省しました。どんどん長くなっていましたが、2万字は長すぎます。何より私の推敲や校正の労力が大きくなりすぎて、粗が目立ちます。
そのあたりを活報で書こうと思いますが、今後はせいぜい1万字前後を目処に書いていきたいと思います。
……どうしても一話で納めたいときはその限りではありませんので、絶対とお約束ができないのが心苦しいのですが。
また、たかたかたかたか樣、ひね樣樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。



閑話、ブリニョルフの憂鬱

 男が『旅の錬金術師』としてイーストマーチに長逗留しているあいだ、ブリニョルフは精力的に活動していた。

 ガマシン一派襲撃後の謹慎などはとうに解け、表の顔と裏の顔を存分に発揮し奔走してみれば、むしろ謹慎期間は丁度良い骨休めにも感じるほどであった。

 実際、ガルス暗殺騒動から襲撃まで、ブリニョルフは盗賊にも拘らず休み無く()()()働き続けていたのだ。全力稼働の前には、休息も必要である。

 後に友と酒を交わしながらこの頃のことを思い出すのだが、ギルド再興に力を尽くす日々の、なんと充実したことであったろうかと。

 自らの働きがギルドの益となり、それが着実に再興へと繋がっている。ギルドの誰もが今日より明日は良くなると信じ、精力的に活動している。自らが齎す成果。仲間との連帯感。いずれも心地良いものだった。

 それがブリニョルフには、暗闇の中で微かに、しかし確かな灯りをもたらす篝火の如き風景に見えていた。今はまだ昏く、寒い。しかし夜明けは必ず来る。篝火に向かって進めば、きっと望みは叶う。そう信じられた。

 時折、文字通り光明の象徴である篝火が、一人の人物と重なることがあった。心象風景ではあるが、ブリニョルフはその非現実を抵抗無く受け入れることができた。頭で理屈を、心で繋がりを感じる。標となる温かな火の灯りは、友が齎したものであると。

 当の『灯り』は、本心を過不足無く伝えようとすればするほど、照れ臭そうに制止するため、ブリニョルフとしては少々不満が無いでもない。それだけ、自分の受けた恩は大きいと思っているし、それはギルドの他の面々も認める事実である。

 ……一部、個人的感情により素直に認めたがらない者達がいないでもないが。

 そしてそれ等とは別に、ギルドにも様々な動きがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 ブリニョルフがカジート商隊、並びにブラックマーシュの先遣隊と接触を持った頃、レッドガードの女盗賊が一人、ギルドへ加入した。名はトニリア。

 

 加入に際し、当初はメルセル自らが高待遇を口に勧誘したが、トニリア自身の希望により志願の形をとった。

 彼女は、盗賊としての技量は然程でもないものの、頭が回り、与えられた簡単な仕事程度なら何でも卒なくこなせる能力を周囲へ示した。

 在りし日のギルドでは、ブレックスなど名の通った人材でなければ、慣例として平の構成員から長く下積みを経験することになる。だが、現在のギルドの人手不足は深刻であり、彼女の有能さを見抜いたメルセルは、この極上の獲物を逃してなるものかと勧誘した。しかし彼女は慣習を守り、自らの能力でギルドへの有用性を示した。

 トニリアのそういった態度は、今なお昔日の思いを抱く構成員に下手な不満を持たせないものであった。鳴り物入りの加入を避けた結果か、当初彼女が周囲に抱かれた印象は『如才の無い新入り』である。

 

 そうこうしているうちに、トニリアが銭勘定に明るいこともわかった。そのうえ宝物を始めとした物品の目利きに長け、何より独自の販路を持っていたことが決め手となり、彼女がメルセルの提示した待遇を受けることに物申す者はほとんどいなくなった。

 販路について初めから明かさなかったのは、「まずは認められてから」という思いであったことと「使い捨てにされては堪らない」という用心からであった。ギルドの面々には、その胆力と慎重さは好意的に受け止められた。

 

 そのように上手な立ち回りを見せていたトニリアではあるが、時として幹部の意向には逆らい難い場合もある。彼女はデルビンからの熱い要望により、後の話ではあるものの、数年後には幹部入りとギルドの倉庫番に納まることが決定する。

 メルセルはともかくデルビンからの要望は、先述にもあるが、とにかくその手の仕事を任せられる人間が離散してしまったがための人手不足が原因であった。

 ギルドの分裂は構成員の絶対数のみならず、組織運営を担う幹部や台所事情を把握し任せられる人員を大きく減じた。これは、スカイリムの裏の経済を支配してきたギルドにとっても痛恨事であった。

 そのため、日に日に勢力を取り戻しつつある組織によって忙殺されかけていたデルビンは、それを解消できる人材を、喉から手が出るほど欲していたのだ。

 

 とはいえ、トニリアに約束された高待遇に反発する者が全くいないわけではない。物資及び資金管理の役目は、どの組織でも大なり小なり嫌われるものだ。新入りがその席に就くなど、反発があって当然とも言える。

 しかし、ここでも彼女はそれらの問題を自らの力で解決していった。

 

 トニリアの有能さは、単に能力の高さだけではなく、無法者の巣窟で上手に融通を利かせられることにあった。

 仕事はできるが経費としての出費が多いものには、窘めながらもある程度は融通してやる。それによって本人は存分に力を発揮して仕事を成功させ、自信を付けて更に大きな仕事へ挑んで行く、という好循環を作る。

 ほかにも、自制心が弱く、酒や女で散財してしまい、肝心の仕事に取り掛かるにも必要な装備を整えられない、などという者もいる。以前はブレックスが目を光らせていたが、居ない者をあてにしても仕方が無い。彼女は、そのような愚か者には目立たないところで激しく叱責したうえで彼女自身の財布から援助してやり、装備を整えさせる。

 勿論、仕事が成功したあかつきには、祝い酒で散財される前にきっちり援助金を回収することも忘れない。

 

 そうした日々を通して、無法者共の中に、彼女に頭が上がらない人間を増やしていった。その成果の一環として、ある者は彼女を親しみを込めて「トン」と呼び、あるものは彼女を悪戯心で「お袋さん」と呼ぶようになった。

 身内としての空気がすっかり形成されてしまえば、新入りの高待遇に不満を持っていた者も、表立っては言えなくなるし、なんなら良い関係を結んで自分もそのお零れに預かったほうが得だ、という算盤を弾くくらいはする。

 そうして地位を確立していったのが、トニリアという女性であった。

 

 また、レッドガードはノルドからすれば外見から歳が判別しづらいが、彼女はかなり若いように思える。そして他種族の目からしても、滅多に見ない美貌を誇っていた。

 構成員達は、トニリアの目が肥えていたこともあり、「大戦か政争で敗れた部族の姫がスカイリムの裏社会に流れてきたのでは?」と噂した。

 それが真実であるかは不明であるが、しかしメルセルが当初から高待遇を持ちかけていたことを考えれば、「無い話でも無い」というのが皆の結論であった。

 

 

 

 

 

 それから少しして、ブリニョルフがマルカルス宮廷魔術師のカルセルモを外部協力者として迎えたことを契機に、しばらくギルドと距離を置いていた銀細工師のイーザイルが再び外部協力者として就任した。

 

 ギルドとしては、政治的影響力やその伝手を思えばカルセルモも貴重な人材であることには変わりないのだが、如何せん、彼の魔術師はギルドの活動に対して興味が無さすぎた。現地の外部協力者を通してその地域での経済活動に一噛みたいギルドとしては、痛し痒し、というのが本音であったのだ。

 しかしここで、代々マルカルスで銀細工師を営み、代々ギルドと浅からぬ関わりを持っていたイーザイルに焦りが生じた。

 ギルドの分裂は耳に入っていたため、一度距離を置いて趨勢を見極めようとしていた。だが、宮廷魔術師などという表の社会で高い地位に座す人物が外部協力者に就任したことで、ギルドは自分を切り捨てるつもりではないのかと考えたのだ。

 彼にとってギルドとの商売は、用心こそ必要だが、大変実入りの良い話であり、失うには痛いものだった。それ故、デルビンを通じて再びギルドへ接触し、外部協力者に就任したのだ。

 

 ギルドからすれば、外部協力者として本来の役割を果たしてくれるイーザイルの就任は非常に有難いことであり、先方からの申し出、という点も喜ばしかった。ギルドに自ずと人が戻りつつある、という事実は、多分に都合の良い喧伝材料であったからだ。

 また、イーザイルからしても、この選択は悪くないものであった。

 ギルドは、カルセルモの協力により分派殲滅作戦の只中にあり、作戦が無事完遂した後では、彼の扱いそのものを変えることは無くとも、その印象が特別良いものになることは無かっただろう。しかし、未だギルドがスカイリム全土を掌握していない状況での協力申し出は、否応無く同族意識を高め、種々のやり取りを円滑にする。

 そういった意味で、イーザイルはかなり瀬戸際の好機を逃さなかったことになる。図らずも、皆が得をした形であった。

 

 

 

 

 

 ところで、イーザイルは腕のいい銀細工師であり、その名はスカイリムのみならず、シロディールの好事家にまで伝わっている。

 そして、彼が協力者に就いたことで商品の流れが幾らか変わったことを、シロディールから目敏く見つける女盗賊がいた。名はヴェックス。

 

 彼女は、大戦でサルモールの略奪に遭い親を亡くした、帝都の孤児であった。

 大戦当時、帝都どころかシロディール全土が混乱していたこともあり、彼女が頼れる『大人』などは何処にも存在しなかった。サルモールはインペリアルを人とは思わなかったし、帝国軍でさえ、身を寄せる同胞を「困窮からサルモールについた間者ではないか」と疑ってかかる始末であった。

 やむを得ずヴェックスは、乳歯をぐらつかせながら歯を食いしばり、一人で生きていくしかなかった。

 

 ヴェックスはサルモールの略奪を避け、帝国軍の反撃を尻目に、陰から陰へ身を潜めながら生き抜いた。

 大戦では多くの子供が孤児となり、互助組織と呼べる程度には簡素な集まりがそこかしこにできていたが、大抵は背が伸び切る前に死んだ。激動の帝都で生きるだけの力が足りなかったのだ。

 しかし幸いなことに、ヴェックスには天性の才があった。体幹が強く静かに素早く移動する特技と、異常な手先の器用さ。それ等は孤児が最も手早く食い扶持を稼ぐための盗み働きの場や、血気盛んな両軍の兵から隠れる際、大いに役立ってくれた。

 結果、彼女は多くの()()達と同じ末路を辿らずにすんだ。

 

 彼女が最も得意とした仕事は、家屋へ忍び込み金目の物を盗み出すものであった。

 万事ことがうまく運べば空き巣。下手を打てば強盗。更に下手を打って、怪我ではすまない目に遭ったこともある。それでも彼女は、顔を俯かせて歩くことだけはしなかった。眦を吊り上げ、その美しい顔をいくらか険しいものにしながら、何があろうと絶対に負けてなるものかと、矜持だけは曲げなかった。

 

 人は言うかもしれない。他者の持ち物をくすねる悪党、屑の分際で何が矜持か、と。

 しかし彼女にとっては、生きることそのものが戦いであった。帝都の多くの住民の中でも特に、親も家も無い子供が生きていくことは、大戦で英雄になることと同じだけ難しいものであった。

 だから彼女は己の生を恥じなかった。文句があるなら、大戦なんて起こして両親を殺したサルモールに言えと吐き捨てる。サルモールが怖ければ、市民を守れなかった帝国軍に言えと吐き捨てる。

 彼女に才があったとはいえ、生まれながらにして盗人だったわけではない。両親からの愛情を受け、それなりの倫理観は備えていた。だからこそ、心無い言葉や襲い来る暴力に時折挫けそうになる。その度に同胞の終の姿を思い出しては、「絶対にああなってたまるか」と、やはり歯を食いしばって生き延びた。

 

 終戦から数年が経ち、ヴェックスが己を『いっぱし』の盗賊だと思うようになった頃、多くの盗賊がスカイリムから流れて来た。

 彼女はその中の一人を捕まえて、勝手のわからない帝都でいきなり仕事と言っても大変だろう、と酒を交えて簡単な()()()()()()を伝授してやった。その代わり、スカイリムで何があったのかを吐かせた。

 実際には、男は少女と呼ぶべき年齢の女盗賊が口にする馴れ馴れしい挨拶に眉をひそめていたが、帝都へ着いて早々に揉め事を起こすのは得策でないと判断し、彼女の誘いに乗ったのだ。

 

 そして男曰く、ガルスなる大盗賊が暗殺され、スカイリムの盗賊ギルドが分裂した。現在、正当後継を決めるために各派閥が争い合っている。自分達はギルドに見切りをつけて、シロディールを新天地と定めた。元ギルド構成員の男はそのように語った。

 

 ずっと一人だったヴェックスにとって、男がギルドを見限ったことに対して思うことは無い。何なら、問題があるのは見限られるギルドのほうだとすら思う。

 しかし、ヴェックスにとって重要なのはスカイリムのギルドなどではなく、男の齎した盗賊たちの動向こそが、彼女の欲するものであった。

 いくら見限ったとはいえ、古巣の情勢は気になるだろう。スカイリムの情報を得たい者は、シロディールの中でも北部に潜伏するはずだ。目の前の男のように、『最も稼げそうな場所』を求めるなら、ここ、帝都だ。西部も悪くはないが、男はノルドであり、男の同胞も多くはそうだろう。アルドメリ自治領に近い西部は心情的にも実状的にも選び難いはずだ。可能性は低いが、スカイリムのギルドが脱走者を執念深く追ってくるとすれば、それを避けるには南部か東部、もしくは更に別の国へ逃げるほかない。

 そしてそれだけの盗賊が新たにシロディールへと侵入し、跋扈するとなれば、警邏の目はそちらへ向くはずだ。

 ただでさえ大戦後の治安維持に奔走している帝国軍としては、長引かせたい状況ではないだろう。集中的に兵を投入するなら、まずは北部から帝都周辺。そうして北からの侵入路を一掃したのちに、南部から東部へ広く展開するだろう。

 

 裏をかいて西部へ潜伏する者もいるやもしれないが、どの道、帝国軍は西部へ大々的な派兵ができない。休戦したとはいえ、いや休戦を、それも不利な条件で行ったが故に、アルドメリ自治領と近い西部に兵など送れないのだ。

 万が一にでも挑発と取られる、ないしは挑発だと言い掛かりを付けられて再び開戦ともなれば、帝国は今度こそ国土を守れるか甚だ怪しいところである。

 実際にはサルモールにしても、対帝国、ハンマーフェルの二正面作戦で兵力を大きく減じており、争いになる可能性は低い。だが小さな諍いから、帝国側に不利な状況が生み出される可能性は十分にある。

 そのあたりを読んだヴェックスは、穴があるのはやはり西部だと睨んだ。既に終戦しているのだ。帝国軍はともかく、インペリアルの市民である自分がシロディール西部を闊歩したとして、何の問題があるというのか。

 

 ヴェックスは男に餞別として飲み代を奢り、拠点へ戻るとすぐに盗みの計画を立てた。そして目星をつけていた貴族邸や豪商宅を次々に襲うと、ひと月としないうちに生まれ育った帝都をあとにした。

 いくらかの感慨が浮かびはしたものの、後ろ髪を引かれる思いはしなかった。存外、そういった感傷とは無縁な性質なのかもしれない。彼女は初めて知る自分の一面を、少しおかしく思った。

 

 ヴェックスがシロディール西部に潜伏して数年、いつもの如く貴族邸に忍び込み、目当ての()()()を見つけたとき、彼女は転機を迎えた。

 銀細工の側には添え状があり、品が貴族の元へ届いたばかりだということ。更にはそれがイーザイルの作品であり、且つ()()()()()流通経路を辿っていないことを示していた。彼女は、これが我が身に降り掛かった望外の幸運だという直感を得た。

 そこで、迷うまもなくあえて銀細工をそのままに添え状だけを盗み取り、邸宅を後にした。そして山中行軍や、時には商隊から馬を盗んででも、考え得る限り最速の手段をもってリフテンへと訪れる。

 

 数日後、リフテンの市場を善良な市民としてうろついていたギルド構成員は、自分達と似た身のこなしの少女を見つけ、その相手が間諜の類ではないことをすぐに理解した。その確信は余所者の少女が自分へ接近する意思を見せている様子から察せられ、であればギルドへ何らかの用があっての態度なのは自明であったからだ。

 構成員が声をかけると、案の定、ギルド加入希望者だとわかった。そこで、その晩に簡単な試験を課し、危なげなくこなして見せたために、フラゴンへと彼女を誘った。

 直接案内をせずラットウェイを攻略させるのは、用心と、半ば様式美と化した通過儀礼のためだ。

 

 無事に目的地へと辿り着き、フラゴン内部に通されたヴェックスは、その様子を見て若干意外に思った。と同時に、矛盾するようではあるが、自分の考えが間違っていないと確信し、自らの選択を誇った。

 逃亡者が続出するようなギルドにしては落ちぶれた様子は然程見られず、銀細工師イーザイルを抱えて取引を行う程度には力を維持、あるいは取り戻している。彼女がシロディールの貴族邸でした予想は、実際に正鵠を射るものであった。

 

 構成員の案内でギルドマスター、メルセルの元まで連れられ、そこで初めてヴェックスは貴族邸から盗んだ添え状を懐から取り出した。どういうつもりかと怪訝な顔をしてみせる構成員に対して彼女は言う。

 

「アンタ等が懇意にしてるお得意様から盗み取ったんじゃ、ギルド入りは叶わない。でも、アタシはアタシの力を証明してみせる必要があった。だからだよ。それに、その程度もわからない脳味噌チーズ女は、お呼びじゃないだろう?」

 

 メルセルは、イーザイルの銀細工がシロディール西部に届いてからこの小生意気な少女がギルドへ辿り着くまでの時間を逆算し、その判断の迅速さに驚いた。それは、メルセル自身の考える最速に近いものであったからだ。

 彼女に興味が湧いたメルセルはその腕前を見るために、更に幾つかの試験を課した。

 結果、自らを『いっぱし』だと思っていたヴェックスの鼻っ柱は圧し折られた。自分が得意としていた業のほとんどは、ギルドの者ならできて当然、といった具合だったからだ。

 ただ一点。唯一鍵開けの業だけは、メルセルをして天才的と言わざるを得なかった。彼女の自信は皮一枚でつながった。そして歯を食いしばり、絶対に『上』までのし上がってやると誓った。その反骨は、ヴェックスという少女にとっても懐かしいものであり、悪くない心地であった。

 

 

 

 

 

 ブリニョルフ自身は大きな()()()のためにフラゴンを空けがちになっているが、帰還する度に報告と情報交換は怠らず、これらの話も当然耳にしていた。ギルドの復興具合を様子見て、新規加入者が増えている。その中に、若く将来の有望な者もいる。何もかもが順調だと思った。

 

 ただ、だからこそ心配なこともある。ブリニョルフが今、酒を飲んでいるカウンターの主、フラゴンのマスターたるヴェケルは、一度ギルドへ反旗を翻したために稼業を禁じられた。そしてその直後から、徐々にではあるがギルドは栄光を取り戻しつつある。

 ギルドが長く低迷するなら、まだ気持ちも違ったかもしれない。しかし自業自得とはいえ、こうも順調に復興が進むのなら、「あの一件さえ無ければ」とそう考えてしまっても無理はない。

 もし奇跡が起きて時間が巻き戻ったとしても、当時のヴェケルでは同じ行動を取っただろう。ガマシンは気に食わなくとも、多くの仲間を無駄死にさせかねない状況はなんとかしてやりたいと考えたはずだからだ。

 だが、でも、と。人間の感情は時として理屈に反する動きを見せる。

 

 そのヴェケルが、対面に座るブリニョルフに様々な話を聞かせていた途中、他の者の目が自分達から離れた一瞬の隙を突いて、素早く手紙を渡した。ブリニョルフもそれを何食わぬ顔で素早く懐へしまい込み、そのままギルドの明るい未来について歓談を続ける。

 ブリニョルフとしては手紙の内容が気になって仕方ないが、怪しまれないためにも会話に集中するべきだと考えた。

 その直後、ブリニョルフの思考を読んだヴェケルは皮肉気に笑い「案外、フラゴンのマスターも悪くないもんだぜ」と嘯く。

 自らの葛藤や罪悪感を悟られたブリニョルフは苦笑するしかないが、友がそう言うのならば、そうなのだろう。実際、友の仕草や体運びを見て、衰えている、とは見えない。言うとおり、自分が思うよりも多忙な毎日を送っているのかもしれない。

 仮に痩せ我慢だとしても、それを言えるだけ大したものだと思うし、自分は彼の気遣いをこそ尊重するべきだ。ブリニョルフはそう考えた。

 

 ブリニョルフはフラゴンを出て、また翌日から遠出の支度をしなければならないなと、するべき項目を文字通り指折り数えながら帰路についた。そして帰宅すると、戸締まりをし、侵入の形跡が無いこと、外から監視されている様子が無いことを確認した。そのうえでやっと、懐から手紙を取り出した。

 ヴェケルから聞く表向きの話は、自分をひたすら上機嫌にするばかりであったので、かえってこの手紙の存在が気を重くさせる。しかしいつまでも眺めているわけにもいかない。

 灯りの側で短く纏められた文面に目を通すと、それはブリニョルフを憂鬱にさせるには十分な内容が書かれていた。

 

 

 

 ──── しばらくメルセル体制が続けば皆が慣れたかもしれないが、ギルドの復興が思ったより早い。奴に反感を持つ馬鹿共が、「メルセル抜きでもやれたんじゃないか」と徐々に不満を漏らし始めている。今は俺とデルビンで抑えているが、何か手を打ったほうがいい。連中が担ぎ上げようとしているのは、お前だ。

 

 

 

 ブリニョルフはヴェケル本人がその首謀者ではないかと一瞬頭をよぎったが、友が自分に嘘をつくとは思えない。抑止の側に回ってくれていることに感謝しつつも、手紙には、次点でブレックスも候補に上がっている、とある。すっかり酔の覚めた顔を天井へ向け、手紙を燃やしながら思う。

 「勘弁して欲しい」、と。

閑話に関するアンケートです。そもそも閑話がアリなのかナシなのか。アリならどの程度の頻度ならアリなのか。そういったことをお聞きしたく、設置しました。例によって必ずしもそのとおりにするわけではないのですが、ご協力くだされば幸いです。

  • 書きたいだけ書いたらええやん。
  • まぁぼちぼち程度やったら。
  • たまーにならな。
  • 本編完結してからにせいや。
  • 閑話なん要らんねん。
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