DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
ウィンターホールド首長との二度の謁見? 作戦会議? において、まともな受け答えができたか、いまいち自信が無い。それはそうと、今はこの気持ちをどうにか整理したい。
「ブリニョルフ、ブレックス、悪いが少し酒に付き合ってくれ。然程の重大事ではない。ただの愚痴だ。だが、友たる二人にこそ聞いてほしい」
二人は顔を見合わせ、頷いた。そして同時に口を開きかけて、年長の序列かブレックスが言う。
「いいぜ。珍しくトンマがお悩み顔だからな。少しくらいなら付き合ってやらあ。というか、俺からも手前等に話しておきたいことがある。トンマの大風呂敷を更にでっかく広げちまったからな。聞きたいこともあんだろ。面貸せ」
どうも、あちらはあちらで話があるらしい。そんなときに愚痴など申し訳ないような……。いや、三人が集まることも難しくなるかもしれない。話せるときに話したいことを話せるのなら、都合がいいのか? 駄目だ、やはり頭が回っていない気がする。
視界の端では、ハンが宿屋へ走って行くのが見えた。色々と手配しておくつもりなのだろう。いつもながら有難い。……何故こういうことばかり気付くのだ? いやどうでもいいか。
宿屋へ到着した。時間は遅いが、こんな廃れた町の宿屋でも、酒や食事を出せる時間内ではあるようだ。まばらに人がいる。数人、覚えのある顔があることから、砦の者が既に町へ潜伏しているようだ。この状態で、まだことを起こしてもいない私達に間者が付いているとも思えんが、念の為に四人部屋を借りる。間者が居ようが居まいが、あまり人に聞かせてよい話でもない。
ちなみに、マルッコと馬車は結局、宿屋の裏にある元家屋(それを廃墟と言う)に屋根があったため、そこへつないだらしい。屋根と柱は残っていても床が無い、という絶妙な廃れ具合のため、選んだようだ。……本当にこの町は友の言葉ではないが、「無い無い尽くし」である。
ハンの手配した酒が皆に行き渡ったところで、まずは再会を祝して乾杯し、ブレックスが切り出した。
「さて、手前等に何も伝えないまま、
しかし、ブリニョルフはなんとなく察していただろう? お悩みトンマは別としても」
今の私は普段にも増して冴えの無い自覚があるものの、「お悩みトンマ」は酷くないだろうか。年頃の娘のようだ。しかし、ブリニョルフには察せられる類の話であったのか?
「まぁね。ウィンドヘルムの貴族連中に接触する叔父貴のところの動きを見ていれば、何やら企んでいるのはわかったよ。それに、俺が作った伝手で、カジートやアルゴニアン達と色々
ブレックスが頷き、次いで居住まいを正しながら深呼吸をする。この男にしては珍しい。なんぞ重大事でもあるのだろうか。
「正直、俺がこの計画に舵を切ったのには、間接的にだが、ある情報提供者の存在がある。本当ならここで手前等、特にブリニョルフには伝えておくべきかもしれんが、俺自身、奴の扱いと奴が持ってきた話にまだ混乱しているところでな。裏取りを進めている最中だから、詳細を明かすのはちと待ってくれや。とはいえ、そいつが本当なら色々なことに説明がつくんでな。ことがことだけに早合点はしたくねえが、無い話じゃねえと思ってる。トンマが大学に行く際にはエンシルって男に手紙を持たせるって話をしたろう? そいつを絶対に、何があっても渡せ。奴の重要度が跳ね上がった。いいか、必ず、だぞ。
……と、ひとまずそいつは置いといてだ。まずは手前だこのトンマ。何を似合わねえ湿気た
……人の様子を観察している場合ではなかった。私としては、こう、宴もたけなわ、という頃に少し零して終わりにしたかったのだが。しかし、相変わらず、というか輪をかけて酷い物言いではあるが、これも友の優しさ、友情の現れだろう。実際、思うところ全てを打ち明けたほうが、色々と話は早そうである。ほとんど解決しているうえで消化しきれない思いがあるだけの、正しく愚痴なのだから。
「なら、お言葉に甘えてしまうが……。首長についてだ。あの老人は、アレは私だ。
私の事情は二人共覚えているな? 首長の為人を事前情報で聞いたときから思っていたが、話してみて確信した。あの老人は、不死人となる前の私なのだ。愛を甘受できず、愛に気付かず、不遜で、傲慢で、それ故に自ら孤独に陥り、他者を憎み、呪い、絶望する。当時の私よりは裕福ではあるが、それだけだ。違うのは、私は不死人になったことで第二の生を生きているつもりになり、あの老人は今なお絶望の人生が続いている、という点だけだ。
とはいえ、話としては、それだけと言えばそれだけなのだ。謁見前は老人に会って、遠い過去の自分をまざまざと見せつけられたとき、どうなるか自分でもわからなかった。何せ、私は努力や克己により自らの殻を破ったわけではないのだ。流れに身を任せ、気の遠くなる永い時を自問自答に費やしていたら、いつの間にか今の私になっていた、という人間だ。己が力で自らの弱さに打ち勝ったわけではない。そのため、『在りし日の自分』を見せつけられ、その頃の自分に戻ってしまうのではないか、などと不安であったのだが、胸中に浮かぶのは、哀れみと同族意識と、妙な庇護欲だけだった。
ブレックス、先に詫びておく。すまんが、私はおそらくあの老人を見捨てられん。それが計画に支障をきたすのなら、今のうちから対応策を考えておいてくれ。私の愚痴としては、以上だな」
「……いや、先に聞いておいて良かった。手前の言うとおり、俺は場合によっちゃあの爺様を切り捨てるつもりでいた。その選択肢がナシだってんなら、早目にわかっておいて損はねえ」
思案顔のブレックスをよそに、自分で言っておいてなんだが、「なるほど、そういうこともあるか」と呑気な考えが浮かぶ。言うだけ言ってしまえば、かなり気が楽になったようだ。我ながら単純である。というか、ブレックスは身内には甘いが、それ以外には厳しいな。計画において「肝心要」などと話にも上がっていた首長を切り捨てる考えを持っていたか。そして私は身内側、と。今更ではあるが、友から同じように思われていることが、妙に面映く、こそばゆい。それに、私の我儘を問答無用に取り入れてくれるあたりも、有難い。
ブリニョルフはあえてこの件には触れないつもりのようだ。それもまた優しさだろう。私としても、一度吐き出してしまえば、あまり触れたい話題でもない。
「したら、お悩みトンマの件はこれで解決だな。次はこの盗賊ブレックス様が似合わねえ大計画をぶち上げた件についてだがよ。言葉にしてしまえばドデカイ話だが、案外ことは単純だ。
俺はトンマを通じてウルフリック・ストームクロークという男の人間性を探った。そいつと、大戦からこっち、スカイリム中に蔓延する空気を鑑みれば、何年先になるかわからんが、このきな臭さは内戦状態にまで悪化すると見た。だからよ、どうせ争いになる流れは止められねえってんなら、こっちである程度望む方向へ誘導してやろうってな話なわけだ」
話が本題に移ったのは良いが、なるほど、私の採掘村での長逗留にそんな意味があったのか。つまりは人物と情勢を見極めるための一年だったわけだ。まぁ、私の忙殺される日々に意味が付随するなら、徒労感が無くて良いが。
「だが叔父貴、わかっているだろうが、ギルドは外部協力員たる彼のためのウィンターホールド再興までは力になれても、そこから先へは干渉できないぜ? 何せ繰り返すが、そいつは盗賊の領分じゃあない。ギルドの誰もが、内戦だの『再びの大戦』だのそんなもんには関わりたくない、と考えるだろう。そりゃ、本音を言えば、稼業に悪影響が出るから、内戦なんか起きてほしくはないし、そいつが大戦となって戦場がスカイリムから遠ざかれば遠ざかるほど望ましい、とは思うがね。手は出さない身で勝手だとは思うが」
「当然だな。手前がトンマに入れ込んでそこまで首を突っ込むことがあれば、まずフレイは黙っちゃいねえだろうし、手前の指示に嫌気が差して抜ける下っ端が出るかもしれねえ。尤も、そうなるより先に手前の排斥が起きるだろうがな。だからギルドとしての支援はウィンターホールド再興まででいい。そこから先は預かり知らぬところとして、稼業の範囲内で手伝ってくれりゃ十分だ。
……いや、いっそフレイには再興以後の話は伏せておけ。どうせ、今回の謁見に参加したのが名代の手前じゃなしに奴だった場合、二度目のアレは奴を蚊帳の外に置いてやる予定だったんだ。ギルドが関わらん以上、伝えてもいいことはねえだろ」
どうもブレックスの歯切れが悪いように思う。先程から飛び交う「らしからぬ」ではないが、ブレックスという男はもっと竹を割ったような話し方をする男だったはずだ。此奴が口を濁す話題というと……。
「ガルス、か?」
ブレックスとハンが目を見開いてこちらに顔を向け、ブリニョルフは眉をひそめている。
「手前って奴は……たまに核心を突くような、鈍いような。いややっぱ鈍いな、鈍い。なんで俺が濁したと思ってんだこの馬鹿垂れ」
脱力しつつ、机の下で私の脛を力なく蹴る頭目殿を見ると、悪いことをした気がしてくる。なんというか、すまん。私が詫びて何度か溜息をついたところで、ブレックスが顔を上げた。少し肚が据わったか?
「まぁ濁す意味があったかと言われると微妙なんだがな。正直、俺も迷ってたんだ。だがこの話をするとなると、まずはブリニョルフに聞いておかにゃならんことがある。
……手前、最悪の場合、ギルドとこの大間抜けを天秤にかけて、後者を選ぶことができるか? 悲願を捨てて、情を取れるか? その答え次第では、現状で伝えられるのはここまでってことになる」
問われたブリニョルフは少々思案顔である。ブレックスが何を明かしたいがために酷な質問をしているのかはわからないが、私としても、ブリニョルフのギルド再興へかける思いは承知しているつもりだ。ブリニョルフに「ギルドだ」と即答されないだけでも喜ばしいと思うのだから、あまり追い詰めないでやってほしい。
「急に話が極端になったな。それに判断材料が少なすぎる。それで選べってのかい?
確認だが、叔父貴はほぼほぼ
ならまぁ、彼を選ぶかな。『友情を取る』なんて言ったほうがカッコイイかい?」
ブリニョルフの言葉を受けて、「喜ばしい」を通り越してしまった。先程のブレックスの身内扱いな返答で浮かれている私だ。畳み掛けられるようで、今まで以上に頭が働いていない自覚だけがある。左手で杯を口元まで運んで、酒を飲み、右手を動かして、肴を食べよう。
「これは予想だが、叔父貴の言う『最悪の場合』ってのは、多分、それほどすぐの話でも無いんだろう? さっき『裏取り』がどうとも口にしていたし。それなら、そっちの計画はまだしも、ギルドの復興は今以上に進んでいるはずだ。俺の打った手は、ある程度軌道に乗ったからね。仮に俺がいなくなったところで、余程の馬鹿をやらかさない限り、しのぎは無くならないはずさ。その『最悪』とやらがどんな状況なのか、なんとも言えないから、ギルドと彼が手切れになる可能性も無くはない。それ次第では魂石の取引も滞るかもしれないが、別にシノギはそれだけではないしね。ギルドは順調に信用を取り戻しつつある。時間をかければかけるほどそれは進む。なら、俺が居なくなったって回していけるだろうさ。再興までの道筋は、ある程度見えてるんだ。
勿論、そうならずにみんな仲良く、ってのが理想ではあるがね。それに、彼にはあとで話すことだが、件の厄介事からも解放されるし。……こういう考えを持ってしまうあたり、やっぱり俺は人の上に立つべき人間じゃないなと実感するよ。
しかしそうだな、そのときは……折角伝手ができたんだ。カジートやアルゴニアンに付いて、タムリエルを色々と旅してみるのもいいかもしれないな。もしくはウィンターホールドに拠点を移して手のかかる友人を手伝うか。その場合、ギルドに睨まれているだろうから、あまり大っぴらには動けないだろうがね」
気恥ずかしさをごまかすためには酒に呑まれるのが一番手っ取り早いのだが、恨めしいことにこの身体は酔わない。いや、正確に言えば酒も過ぎれば毒であるのだから、許容量を超えれば酔うのだろう。だが如何せん、巡礼のあいだに自己を強化しすぎたせいで、毒に対する耐性が異常に高くなってしまった。つまりは
やたら早く無くなる酒と肴を見て、ハンが目立たない動きで追加を手配する。いつもながら感心するし、今は本当にありがたい。
「さて、選ばれちまったトンマは喜色満面といった具合なわけだが」
バレているではないか。
「そういうことなら問題ねえな。手前がこの手の話で、俺はともかくこいつに嘘をつくとは思えねえ。しかし、ここからの話は言うまでもなく他言無用だ。手前が独自に動くにしろ、手足になる人間にも漏らすな。いや、それこそ『言うまでも』ねえか。手前を侮辱する発言だった。すまん。
……情報提供者ってのはカーリアだ。奴はガルス殺害の真犯人はフレイの野郎だと俺に言った。奴等三人はナイチンゲールとしてノクターナルの衛士だったらしいんだが……」
「待て待て、待ってくれ! おとぎ話が聞こえた気もするが大事なのはそこじゃあない。八大神にかけて、メルセルがガルスを殺しただなんて、そんなことがあり得るのか!? そして俺達はその下手人を担ぎ上げたと!?」
あまりに衝撃的だったのか、ブリニョルフが立ち上がって机に両の手を叩きつけている。少々音が漏れたのか、壁の向こうが窺うようにやや静かになった。バツが悪くなったこととブレックスに「落ち着け」となだめられ、ブリニョルフは腰を下ろした。
しかし、カーリアとは。久しぶりに聞いた名だが、たしか先代ギルドマスター、ガルスと恋仲の幹部でありながら、ガルス殺害の実行犯と目されていた人物ではなかったろうか。それがブレックスに接触してきて、真犯人はメルセル・フレイだと? 間違いない。これは私の領分ではないな。私に虚実を見極める冴えは無いのだから、口を挟めばかえって邪魔になるだろう。私は引き際をわきまえる男なのだ。ついでに言うと、私が比較的冷静なのは、ガルスやカーリアと言った話の上にのみ登場する相手への先入観が無いために、さもありなん、という感想しか浮かばないからだ。
「だから言ったろう? 『迷ってる』と。手前に話すとなれば、手前はどうしたってフレイを疑いの目で見るだろう。そして確証が得られたとしても、奴に落とし前をつけようとすれば、確実に捕まえるなり殺すなりする必要がある。仇を前に、それまで手前は何食わぬ顔で辛抱できるか? とはいえ言っちまったもんは仕方ねえ。幸い、しばらくはこっちにいるんだから、その間に頭を冷やして、備えておけ」
ブリニョルフはまだ混乱から立ち直れずにいる。
無理もあるまい。ガルス亡きあとの後継争いはどの道起きただろうが、その規模を大きくしてでもメルセル・フレイを選んだのだ。自らと志を共にする仲間だと信じて。性格はどうあれ、目指す場所だけは同じだと。それが、敬愛する兄貴分の仇であり、ギルドの窮状の原因、その大元だったとすれば、酷い罪悪感と徒労感に襲われるはずだ。信じたくない、という思いも相まって、混乱くらいはするだろう。
ブレックス。計画の件といいメルセル・フレイの件といい、今日は随分大きな話を用意してきたな。この分だとまだなにかあるのではないかと勘ぐってしまう。
それにしてもカーリアとやら、よくブレックスに接触しようという気になったな。今の頭目殿は、ギルドとそう悪い関係ではない。メルセル・フレイと懇ろ……とまではいかないにせよ、悪い仲ではないと外からは見えそうなものだが。そのあたりを聞いてみると、ブレックスが事情を語ってくれた。
「奴は今も差し向けられているフレイの追手から逃げ回りながら、いくつかある潜伏先を転々としていたそうなんだがな。情報収集は怠らなかったんだとよ。それだけでも感心しちまうが、自分が思っていたよりずっとギルドの復興が早いもんだから、今すぐに動かねえと、フレイが盤石な体制を築き上げちまって手が出せなくなる、そう考えて焦ったらしい。俺んとこに来たのも、半分博打だったってよ。現に、奴が俺の前に姿を現したとき、俺は一度は殺そうとして寸前までやっちまったし、そのあともふん縛ったからな。俺がフレイとしっかり繋がっていたなら、奴は既に死んでいるかギルドに引き渡されていた。知ってはいたが、なかなか度胸のある女だぜ。なんなら、ガルスが生きてた頃よりタフになったかもしれねえな。
今は、枷を付けてリフトの砦に監禁してる。砦の中だけなら歩けるが、一時たりとも目を離さんよう、必ず二人は側に付くよう命じてある。フレイが白だとわかったのなら、すぐにでも始末できるようにな」
ブレックスはカーリアの身柄を拘束し、証言の裏取りを行っていると口にしたが、どうも口ぶりからするに、十中八九『真』、くらいには考えているのではなかろうか。カーリアを褒めるにしても、吐き捨てるような口調ではなく、
「トンマおいコラ。何、『我関せず』なんて顔してやがる。さっき手前にゃ大学のエンシルに手紙を持たせるつったろ。エンシルはガルスのダチだったんだ。聞かれて何も答えられねえガキの使いじゃつまらんだろうが。当事者、ではねえけどよ。ちゃんと聞いとけ」
そうは言うが、私はガルスにもカーリアにも会ったことが無いのだ。そんな人間に深く踏み込んだ話を質問するだろうか? まぁ、聞けと言うなら聞いておくが。
そのまま、ブレックスの衝撃の発言? とやらから立ち直れていないブリニョルフを余所に、頭目殿が大学訪問時の注意点について話を続ける。しかし、先程は嘴を挟むべきではないと思ったものの、ブリニョルフの狼狽具合は酷いものだ。やはり何か少しくらいは声をかけるべきか。
「ブレックス、少し待ってくれ。すまん。……なぁブリニョルフ。仲間に裏切られていたかもしれない。自分達の選択が間違っていたかもしれない。そう考えてしまうのは理解できるが、それは、ドツボにはまる、というヤツだぞ。確証の無い話は考えれば考えるほど、見えるものも見えなくなる。そういうときは、いっそ頭を空にして、真偽がはっきりするまで割り切るのだ。カーリアとやらの証言の裏取りがすむまでは推定無罪としてメルセル・フレイは白。これまで通り、君等の仲間で、ギルドマスターだ。そして裏取りが済んだのなら、そのときは遠慮なく復讐を果たすといい。おそらくブレックスとカーリア、他のギルド構成員達との分け合いになるだろうが、短剣を刺し込む隙間くらいは残っているだろうさ。
とはいえ、裏取りが済むまでの長いあいだどっちつかずでいるのも辛いだろう。だからまぁ心持ちとしては、ブレックスには悪いがメルセル・フレイを信じるんだ。カーリアなる者の言うことは嘘だ。メルセル・フレイを貶めるための罠だ。だから君は、安心してギルドのために働けばいい。それでうまく行くさ。裏切られていた場合、改めて信じた分も上乗せして恨みを晴らせばいいだけの話だ」
頭目殿が、皆が皆、手前みてえな脳足りんじゃねえんだ馬鹿垂れ、と脛を蹴ってくる。しかし、人生、時には馬鹿になったほうが楽なこともあると思うのだがなぁ。
そう思っていると、頭を抱えていたはずのブリニョルフが、いつの間にかくっくと笑っている。
「悪い、馬鹿にしてるんじゃないぜ。でも奴さんを嫌っている君の口から、庇うような台詞が出てくるとは思わなくってね。いや、しかし真理かもしれない。そうさ、ことは単純明快であるほうが望ましい。ここのところ交渉事に当たりすぎていたせいか、人の複雑さに悪い意味で慣れていたようだ。
叔父貴、悪いが彼の言うとおりにさせてもらう。カーリアの証言は頭の隅に置いておくが、それだけだ。メルセルをよく観察はしても、それ以上のことはしない。というか、あの猜疑心の強い男のことだ。俺の疑いには必ず気付くだろうし、そうなれば先手を打たれるだろうさ。特に今は面倒な時期なんだから」
あ、話があっちこっちするものだから忘れていた。謁見の前にブレックスが言っていた、我が友の抱える理由、とはなんだろうか。その「件の厄介事」だの「面倒な時期」だのが関係しているのだと思うが、気になる。
私が水を向けると、いくらか割り切った様子のブリニョルフがこともなげに語ってみせる。
「いやね、誰かさんのおかげでギルドの復興があんまり順調なもんだから、余所事を考える馬鹿共が湧いて出たのさ。俺を担いでメルセルを追い落とそう、ってな具合の。
折角、派閥争いを片付けて内を固め、外へ喧伝が叶うように体制が整ったっていうのに、また揉め事を起こしてどうするんだって話さ。そもそも、やる気の無い人間を担ごうとしているあたりがもう救い難い。いい迷惑だよ。ちなみに、俺が駄目なら叔父貴に話を持っていこうとしていたらしい。ギルドには叔父貴の世話になったヤツも残っているし、相互不可侵の約で少なくとも敵ではない、味方に引き入れられる、そんなふうに考えたようだね」
それはまたなんというか。私でも悪手とわかる話なのだが。盗賊ギルド構成員ともあろう者がその程度のことも理解できぬと? ……いや、それだけ人の感情とは難しいという話なのだろう。人が妙手か悪手かだけで物事を判断できるのなら、そもギルドは分裂したりなんかしない。
ただ、ブリニョルフはともかくブレックスは、計画に従事しつつギルドマスターの責務を果たすなど、とてもではないができまい。それこそ「体が幾つあっても足らない」というヤツだ。まずあてにはできんと思うぞ。
しかし、そんな話が持ち上がっているのなら、何らかの手を打つべきではなかろうか。
「その『手』の一つ目が、これさ。つまりは無視して放置。俺や叔父貴が君の計画にかかりっきりだと思わせられれば、あるいは俺の『その気は無い』という声なき声を受け取ってくれれば、自ずとその手の馬鹿共も静まるかも、ってね。ヴェケルやデルビンには少し苦労をかけることになるが。あの二人には、なんなら俺は「外にばかり目を向けていて、頼りない」なんて話を広めてくれてもいいと言ってある。要は担ぐには相応しくないと思ってくれれば何だっていいのさ。
それでも収まりがつかないようなら、一度一箇所にあつめて、死か、忠誠かを選ばせる。どうも、馬鹿共の半数程度は一度離反した連中みたいだからね。『既に一度死んだつもりで拾った命』だなんて根性の据わったヤツはいないだろうから、死にたくないがためにまず忠誠を選ぶだろう。勿論、ある程度痛い目には遭わせるがね。そしてこの二つ目に関しては、メルセルも承知のうえで進め、馬鹿共にもそれを周知する。要するに、これが本当に最後だぞ、と連中の出来の悪い頭に叩き込むのさ。
そこまでやっても駄目なら、はっきり言って邪魔なだけだから、速やかにご退場願うまでさ」
退場、とは当然この世から、という意味だろう。基本的に殺しは控える盗賊集団だが、必要とあらば手を汚すことも厭わないのが彼等だ。それも盗みに入った先の一般人ならまだしも、組織内で度々問題を起こす不穏分子であれば、それは敵と変わらん。寧ろ段階を踏むだけ、かなり有情とも言える。まぁ、ギルドの復興はまだ道半ばなのだ。人員が完全に足りているとは言い難い。そのあたりから、「最悪の場合排除するが、使えるなら使いたい」という台所事情が透けて見える。ある意味、派閥抗争を終わらせて内外に力を示したが故の甘さもあるのだろう。あとは、粛清などの内輪揉めを起こして「『ギルドの足元固めは未だ不十分である』という風聞を生みたくない」という思惑もありそうだ。
何にせよ、そう酷いことにはなるまい。
「と、そんなふうに思っていたんだがね。カーリアの件でちと思ったんだが、もし、もしだぜ叔父貴。馬鹿共が最後まで抵抗するようであれば、そいつらは表向き死んだことにしておいて、そっちの計画かメルセル捕縛のための使い捨て要員として利用できないかな」
「あー、まぁその手の輩が必要になることがあるかもしれねえなあ。ちっと考えてみるか。仮に利用するんであれば何処に匿うかだが、それはリフトの砦を……」
つい先程思った「酷いことにはなるまい」を返してほしい。一年ほど前、人を脅したツケを払う形で、死ぬより酷い目に遭うことになった一人の愚か者を知っているのだ。それを考え出した者等が二人して情を排除し、曰く「馬鹿共」の処遇について話していると、人とはこれほどまでに残酷になれるのだなぁ、と遠い目になってしまう。誇りも何もなく、便利使いの末に死なされるというのは、まぁ十分「酷いこと」に含まれるだろう。私が殺したサルモールの者共のほうが、戦って死んだ分、まだいくらかマシなはずだ。死んだあとの処理はまた別である。
これに関しては、私は本当に関わり合いの無い話のはずなので、聞いているふりだけしておこう。先程はひたすら口に運ぶことだけを意識していた酒と肴であるが、味わってみればなかなかどうして美味しいではないか。ウィンターホールドも捨てたものではない。
その後、町での評判を加味して、錬金術師として半月程度活動した後、大学へ赴くことが決まった。エンシルなるウッドエルフへの手紙は、それまでに認めておくとのこと。さて、以前の友の言であれば、然程心配はいらないらしいが、だからこそ、大学をしっかりと味方につけなければ。
……ところで、「馬鹿共」の処遇についての非道な話し合いはいつまで続くのだろう。少し、気が萎える。