DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
また、ぽんぽぽ様、ゆゆゆ03様、Lucille Felix様、久慈良餅様、アカギ様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
男が昏倒してから、体感で半日ほど経った。しかし私は、今なお灰色の景色を眺め続けている。
…………暇だ。
あまりに暇なので、男が話した、というか一方的に捲し立てた言について考えてみた。
奴は「お前達」と口にした。思い浮かぶのは、計画に関わる人間、ブレックス一味にギルドの面々。そしてウィンターホールド首長。……なのだが、それなら接触はもっと早くても良い気がする。大学敷地内でしか接触できない理由があったのか? 例えば、この妙な静止魔術が使えない、だとか。いや、安易に相手の力の上限を仮定するべきではない。しかし、だとすればますますわからんな。
もしくは、「
奴の挙げた名で言えば、まず「デイゴン」云々。これはデイドラロード、メエルーンズ・デイゴンのことを指しているのだろう。二百年前、オブリビオンよりタムリエル各地へ侵攻し、多大な被害を齎したとか。
あくまで聞いた話だが、時の皇帝、マーティン・セプティムがその身を捧げてメエルーンズ・デイゴンを退け、結果オブリビオンの動乱は終結した。デイドラの脅威から人々は解放され、マーティンは少なくともシロディールにおいて現在も尊崇されている。
しかし結果として、初代皇帝以来続いたセプティム朝が途絶え、帝国衰退の一つの要因となった。
少々話がそれたが、要するにデイゴンとは種を問わずタムリエルに済む全ての人の敵だと言える。別に私はそんなものの走狗となった覚えは無いし、デイゴンとやらが本気で私を配下に置きたいと思っているのなら、そのときは望むところだ。こちらにも、薪の王としての矜持がある。尋常に命がけの腕試しをするまでだ。私が勝つまで何度でも。
次に「ナミラ」云々。これは私のソウルの業を指してのことだろう。どうやってそれを知ったのかは不明だが。ナミラとは悪霊や霊魂、暗闇や嫌悪を司り、そしてそれらを好むと
とにかく、私の認識はその程度であるため、ナミラを悪神とは考えていないのだ。それにソウルの業は、以前にも触れたが、善人だろうが悪人だろうが、使える者は使える。それを以て悪神とされるデイドラの配下と決めつけられるのは、少々不愉快である。
……いや、やもすれば男の言は、私の不死人としての社会的な立場を指していたのかもしれない。ナミラとは「見捨てられし者達」の守護者でもあるらしい。私達不死人は、みな故郷を追われた者達である。中には喜んで不死の生? を謳歌する者もいたが、概ねはそうだ。加護や祝福を受けている自覚は全く無いが、知らぬ間に守護対象と見られている可能性が無いでもない。
しかし私にとっての信仰とは、帰依することではなく、誓約を結ぶものである。独善的に保護者面をしているのだとすれば、是非止めていただきたい。
あとは「アズラ」だったか? 「アカトシュ」とも口にしていたが、これは違うだろう。アカトシュとは時を操り、この世界を創造したとされる竜神である。男の言でも私はその使徒に該当しないらしいし、竜を散々狩って来た私とは無縁だろう。
さて、アズラだが、こちらは薄暮と黎明を司り、デイドラとはいえ善神と敬うものもいるのだとか。特に、ダークエルフやカジートにそういった者が多いらしい。これはアズラの、死霊を憎む性格もあるのだという。
……なるほど、男の「生者と死者の理」云々や、「暗闇と払暁を宿す」云々は私という器のことを指しているのだろう。言いたいことも分かるし、概ね正しいと感じる。火が弱り、日が陰った黄昏から薄暮、夜の世界において、生と死が曖昧な不死人となり、その不死性故に只人からは化け物と恐れられ、私は故郷を追われた。後に世界へ払暁を齎す薪の王となったが、しかしその根底は死霊に近いものがあるのかもしれない。
とはいえ、『小ロンド』の亡霊達に刃を届かせるには『一時の呪い』を用いてより霊に近い存在となる必要があったわけで、私としては己を純然たる人だと主張したい。「アズラの目を欺いた」とは甚だ心外であるし、仮にアズラが私を死霊として扱うのなら、善神だろうがデイゴンと同じく尋常に腕試しと洒落込むつもりだ。無論、相手が負けを認めるまで。
と、私なりに色々と分析してみたが、わかったことは何もない。男が見当をつけるだけの理由は推察できたが、私がそれに正しく該当するかは怪しいものであり、結局、『何もわからない』ということがわかった。つまり現状において男は、私の内面の繊細な部分へ土足で無遠慮に踏み込んで来ただけの慮外者である。以上、一応の分析結果が出たため、此奴に遠慮する必要も無し、と結論を下した。
それに、いい加減、この灰色の景色にも飽き飽きしてきたところだ。男を起こすとしよう。外傷は治癒したのだから、意識さえ戻せばそれで良いはずだ。
しかし、男が目を覚ました途端、反撃に出ないとも限らない。物理的な拘束が有用であるかは不明だが、しないよりはマシだろう。盗賊相手に鍛えた捕縛術で男を後ろ手に縛る。両足も縛り、手足が最も近くなるよう、縄を渡す。うつ伏せのまま反り返る形である。更に、旅の道中、同行者用にと確保していた樽一つ分の飲水を、男の全身にかける。あとは背中に片足を乗せて体重をかけ、右手には太陽の光を付与したブロードソードを、左手には太陽の光の槍を構えたまま保持しておく。
雷の空気を焼く音がうるさいが、男には丁度いい目覚ましになるだろう。……と、思いきや、これだけやってもまだ男は目を覚まさない。大物なのか間抜けなのか。しかし、私にこれ以上待つ気は無いので、頭を剣の柄で小突いて起こそうとする。起きないので続けて小突く。面倒になったので、空いた足で加減せずに蹴る。男がやっとうめき声を上げた。
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「っ! え、あ、私は頭を……。縛られ? え、濡れ? え? ……あ! お前は! というかその雷撃はなんだ!?」
サイジック会の『僧兵』が目を覚ますと、デイドラと思しき男が自分を縛り、踏みつけていた。両の手にはどちらも雷撃を構えている。
僧兵は特に、男の右手の剣に纏わり付く、太陽の光を凝縮したような雷を目の当たりにして「思わず」といった具合に驚き、次いで自らの仮説への確信を深めた。
一般的にこの地で行われる武器への付呪では、対象を攻撃した際にそれが発動する仕組みで、構えているだけでこうも存在を主張するものではなかったはずだ。極大魂石を用いて火炎を付呪した剣でも、常に業火を放っているわけではないことは、この地の者でも既知であろう。会の同胞の中には似た現象を起こせる者が存在するやもしれないが、僧兵の知識の中には無かった。そのため男に対する、デイドラかそれに纏わる何か、との認識が確かであると判断したのだ。
だが、男は僧兵の思考や反応などには一切の興味を持たず、一切の抵抗を許す気が無く、僧兵の問いについても同様であった。
「一つ、黙れ。私の質問に答える場合、私が許可した場合以外の発言を許さん。どうしても訴えたいことがあるなら、口以外の自由な首から上を懸命に使い、発言の許可を得る努力をしろ。
一つ。妙な真似をするな。既に私は、お前から『攻撃を受けた』と認識している。これ以上は看過しない。それに、大王の槍をただの雷撃扱いとは感心しないな。私の雷は神殺しの光だ。ついでに言うと、水によく通る。ずぶ濡れのお前なら、着弾箇所に大穴を開けるだけでなく、瞬時に全身が消し炭になることだろう。お前が如何なる防御を張ろうとも、必ずやそれを突き抜けてみせる。
私の忠告を聞き入れず反する度に、骨や歯を砕き、鼻を削ぎ、目を潰し、最後には殺す。まぁ、私の危機感が瞬時に高まる事態があれば、それが即座に最後となるわけだが。是が非でも、自分の命を掛け金に試してみなければ気が済まんというのであれば、私は一向に構わんぞ。以上、理解したか?」
僧兵はこの状態での反撃が可能か試みたが、まず姿勢と視界が悪く、対象の位置を正確に把握できないため、危険だと判断した。空間ごと作用する魔術もあるが、それで自らも巻き添えになっては意味がない。男が僧兵に用いた捕縛術は、結果として極めて効果的だった。
それらの判断に数拍の時間を要したが、男はそれが気に食わなかったらしい。眩しく光を放つ剣を顔に近づけられる。そしてゆっくりと刃先が顔の中心部へ。このままでは鼻が無くなる。いや、纏わり付く雷を思えば、顔面が焼け焦げ、脳にまで達する可能性もある。僧兵はひとまず男の手を止めるのが先決だと慌て、肯定のため「わかった!」と喚いた。男の「耳障りな声だな」という無感情な呟きだけが聞こえる。
「では質問だ。一つ、お前は何処の誰だ。一つ、何をしに来て、私をどうするつもりだった。一つ、この私達以外が静止した状況がお前の仕業なら、何をした。一つずつ答えろ。先刻の如く好き勝手に
あぁ、しかし私の理解できるように話せ。それと付け加えよう。嘘や隠し事があると感じたら、その是非に限らずやはり罰を与える。以上だ。さぁ、答えを」
なんと横暴な男なのだろう。僧兵はそう感じ、愕然とした。こんな傍若無人が許されるのだろうか、とも。
第一に、僧兵としてはこの地に転移するにあたり、これでも気を遣ったつもりだ。だからこそ、男をいたずらに刺激しないため、隔離魔術を用いて、男の特殊な事情が周囲に漏れないよう配慮したのだ。それを攻撃だなどと。
所属や名を名乗ることはまだいい。この隔離魔術についてもだ。しかし、簡潔且つ
自分を踏みつけ、剣と雷撃で脅すこの男は、とても酷いヤツだ。仮に男がデイドラではなかったとしても、それに近い、もしくは匹敵する邪悪さであると僧兵は思った。あるいは、ただの脅し文句なのでは? と脳裏をよぎったが、男から発せられる雰囲気が、僧兵に『真である』と思わせた。僧兵は答えるが、彼知らず声が震える。
「私の名はタンディル。サイジック会の者だ。ここへは、お前が何を企んでムンダスへ来訪したのかを確かめに来た。しかし通常エセリウスを越えて何者かがムンダスへ侵入してくることなど有り得ない。だからこそ、複数のデイドラロードが手を組み、お前を顕現させたのではないかと……」
僧兵がそこまで口にした瞬間、腰に、何か硬い物がずれる音と共に違和感が走った。次いで、脳を焼くような激痛。振り返ることも出来ず、痛みから叫ぼうにも「ぎゃっ……」と小さく漏れたきり、声を発することができない。あまりの痛みに横隔膜が麻痺し、
僧兵が不思議に思い、身を捩って後ろを振り返ると、男が僧兵の腰に手を当てている。回復魔術を用いたようだ。魔力の残滓を感知できる。それと同時に、再び腰に強い痛みが走る。とはいえ今度は先程の激痛と呼ぶまでは至らず、ずっと軽い。原因も身を捩ったことであった。
「お前は頭が悪いようだな。私はお前へ、質問に答えるか許可を下した場合以外の発言を許さない、と言った。タンディルよ。お前がここに来た理由まではいいだろう。私の大学来訪のわけを知りたかったのだな。理解した。それで、その後の言は私の質問への答えか? 違うな。では、私の許可は得たか? それも違うな。お前はお前の思う通りに話を続けた。だから、罰だ。
尤も、お前の口にした話は私も疑問に思うところなのでな。あとで改めて質問した可能性は高い。そういう意味では見逃してやっても良かったのだが、一度口にしたことは守らねばな。それに『サイジック会』という組織? の名も初めて聞いた。というわけで、腰椎を折った。回復は痛み止め程度だから、あまり動かんほうがいいぞ」
僧兵は何度目かの衝撃で、一度頭が真っ白になった。説明の補足をしただけで、自分は腰の骨を折られたのか? 意味がわからない。つまり自分は、一から十までこの男の言うとおりにしなければ、その度に拷問を受け、最後には殺されるのか?
僧兵は先程、男のことを横暴だと思った。傍若無人だとも。だが、それでは理解が足らなかったと言わざるを得ない。腰が痛まない程度に後ろを振り返り男を見て思う。男は理不尽の塊だ。
おそらく男は、自分が昏倒する直前に吐いた言葉によって静かに激高しているのだろう。仮にこれが平常であるのだとすれば、人間社会に馴染み、生きていけるとは思えない。何かが男の逆鱗に触れたのだ。しかし、それでもこの仕打は無いだろう。痛みを味わった瞬間に零れた涙は、それを塗り潰す恐怖によって止まり、そのまま出てくる気配が無い。
この危険人物へどのような対処を施すかを検討するためにも、一度この場をやり過ごさなくてはならない。僧兵は、細心の注意を払って、何もかも男の指示に従うことを決めた。
真実では、現在の僧兵にそれほど主体的な思考は存在しない。馴染んだ論理的思考により答えを導き出した自覚はある。だが実際のところ、それは後付に過ぎない。未知の恐怖をその身で体感したその瞬間から、少なくともこの場で男に逆らおうという意思は、一欠片さえも消え去り無くなっていた。
僧兵はか細い声で詫びを入れ、質問は何だったかと乱れた思考を整え直し、間違いが無いか確認してから慎重に口を開いた。
「私がここへ来た理由は、先にも言ったとおりお前の大学来訪のわけを知るためだ。そして、お前をどうするのかは、お前自身を見極めてから判断しようと考えていた。現在発動中の魔術は『隔離魔術』と呼称されるものの一つで、任意の対象と自ら以外の時の流れを断絶させることが可能だ。断絶された外の時間は、見てのとおり止まっている。私が解除すれば、これらはすぐに元どおりとなる」
余計なことは口にしていない。質問への回答として過不足は無いはずだ。大丈夫だ。今度は酷い目には遭わないはずだ。僧兵は男が口を開くまでの僅かなあいだ、怯えて過ごさざるを得なかった。
「なるほど。それで、私を『見極める』云々に、先程の話が関わるわけか。
たしか、この世界ムンダスの外にあるデイドラの領域オブリビオン、それを更に包み込むエイドラの領域エセリウス。雑な理解かもしれんが、概ねでいい、間違ってはいないか? ……よし。
それで、玉葱……よりは卵のほうが例えとして相応しいか? この世の最も外側且つ強固であるその外殻を突き破り、他の世界の者が異物として侵入してくるということは通常考え辛い事象であるため、ただでさえ一柱でも力を持つデイドラロードが徒党を組んで、ムンダス……というかタムリエルになんぞ醜悪な
僧兵の胸中に今度は深い安堵が広がり、普段は微塵も信仰していないエイドラや、父母や、同僚にすら感謝を捧げた。男は蛮族染みた躊躇いの無い暴力を振るう割に、その理解力は低くはなく、またこの世界の造りにも一定の理解があるようだ。これは僧兵にとって、大変な幸運と言えた。何せこの地の一般人を基準に考えれば、まず自分達が、ニルンというほぼ球体である惑星の地表に暮らしている、という事実から説明しなければならない。男が正しく蛮族であった場合、まずこの過程で僧兵は幾度と無く『酷い目』に遭っていたことだろう。僧兵の安堵も已む無しである。
しかし僧兵は、同時に強く気を引き締めた。言葉はきちんと通じる。だが世界の造りに一定の理解があるからといって、その程度が自分達と同じ水準とは限らない。どこかで聞きかじった単語を口にしただけかもしれないのだ。その可能性に僧兵は再び震え上がった。更には、言葉は通じるのに常識が全く通じない恐怖を再認識してしまい、自分はあと何度同じ思いを抱くのだろうかと、精神的負荷により早くも疲労して来た脳が若干の現実逃避に走った。
「あとは、お前が昏倒する前、『生者の理からも死者の理からも外れた暗闇と払暁を宿すその身』、そんなことをほざいてくれたな。よくもまぁ人の……。いや、よそう。
どのような手段でそれを感知したのかは私の理解を超えるものだが、概ね間違ってはいないよ。私は人の身でありながら、死しても蘇る不死人である。その本質は黄昏と薄暮を彷徨う被追放者だ。そして、世界に光を齎した準神でもある。つまりは払暁。更に、一個人の決断で世界を終わらせ閉ざした、大罪人でもある。つまりは暗闇。……と、掻い摘んで説明しても、世界が違うのならば、何のことかいまいち要領を得まい。少し語るから聞け」
男はそう言って、自らの事情を語った。元は何処にでもいる人であったことから、不死人となり世界を紡ぎ、最後には全てを終わらせたこと。そして、何故だかこの地で目覚めたこと。
僧兵は男の話に注意深く耳を傾けると共に、男の逆鱗が何であったのかを理解し、自分がそれを無遠慮に触れたことを悟った。僧兵の中で男の評価は、『理不尽な蛮族』から『猛るデイドラロード』に変化した。
エイドラとは、エルフの言葉で『祖』を意味し、雑にまとめれば、この世界を作った神達を指している。当時のタムリエルのエルフと人間種の主従関係は話がそれるので置いておくが、タムリエルのエルフはエイドラの子孫を自称していたため、そのように定義された。現在、エルフも含めた人間種のあいだでは八大神が主に信仰されているが、デイドラロードに数えられている『マラキャス』も元はエイドラであったことを考えれば、人間に認知されている八柱以外にも多くが存在し得ると考えるべきである。そしてその対となるデイドラとは、同じくエルフの言葉で『祖に非ず』を意味する。つまり、エイドラではないにも拘らず、力を持った者達の総称である。こちらも十六柱が認知されているが、あくまでムンダスへ影響を与えているものが現在それだけだというだけで、全くの不干渉を決め込んでいる、または干渉が認知されていないデイドラロードがいないとは限らないのである。
それらの事実を鑑み、僧兵は男を『異世界から来たデイドラロード』と定義した。生と死の枠組みを超越し、創世神話に関わるなど、十分過ぎるほどに神である。そしてその神は、自分の迂闊さによって静かに怒っている。サイジック会の一人として、現在のタムリエルの戦士や魔術師など幼子のような存在だと思い単身やって来たのだが、顕現し憤怒を隠しもしないデイドラロードをたった一人で相手取るのは、無謀が過ぎるというものだ。
男のこの地への来訪が、何らかの偶然によってか、何者かの思惑によってかはこの際どうでもいい。今、僧兵に課せられた義務は、眼前のデイドラロードの答えに応じ、そのうえで自らの迂闊が招いた憤懣を鎮めることだ。何せ、男がどのような権能を持っているかも不明なのだから、その怒りがこのムンダスへ何を齎すのか全く予想がつかない。自らの失態が原因だが、それ以上にサイジック会の一人として、この事態に背を向けることは許されない。
僧兵は今まで以上に慎重になり、言葉を選んで男の質問に答えていった。
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一度痛い目に遭わせてやったら、魔術師の男は随分と
先程、男の腰椎を折ったときの感触から、肉体的には普通の人間と全く変わらないことがわかった。不死人のように、華奢な見た目から巨人もかくやという剛力や剛体を発揮する、わけではないらしい。ブレックスから対魔術師の心得として、防御魔法に気をつけるよう言われている。元はサルモール対策の一貫として教授されたものだが、まぁ今はいいだろう。肉体的には虚弱でも、それによって魔法的にも物理的にも他者の干渉から身を守るそうだ。何の抵抗も無く重傷を負わせられたということは、魔術の発動は成っていないということだ。それらしい魔術発動の兆候を感じたら、迷わず殺すことにしよう。
いくらか順調になった質疑応答を経て、色々と分かったことがあるので、少しまとめることにする。
魔術師の男曰く、自分はサイジック会の僧兵であり、私を、複数のデイドラロードがムンダスへの干渉、あるいはその前段階として送り込んだ異物と判断した。これだけの異常事態を引き起こすにはかなりの数のデイドラロードが関わっている可能性が高く、それ自体も異常事態と言える。そのため、急ぎ駆け付けた。
大学を詰問の場に選んだのは、大学全体に張られた結界や魔術的力場の関係から、ほかの地に比べて魔術発動の効率が良いので、比較的地の利を得られると考えたため。
男の判断と行動は、会の総意ではなく、賛同者はいても独断に近いもの。
灰色の景色は男の魔術によるもので、よくよく聞けば、男を殺すと、そのまま状態が保たれてしまうそうだ。腹を立てながらも殺さなくて良かったと安堵した。しかしそのまま放置すれば、その空間に歪みが起こるなどの悪影響を及ぼすため、そうかからないうちに会の者が魔術を解除しに来るだろう、とも。しかしその場合、仲間を殺された次の僧兵とやらが私に敵対行動を取る可能性は高い。やはり殺さなくて良かったと思う。今日の私は冴えているかもしれない。ついでに言うと、太陽の光の剣と槍は、腰椎を折ったあたりで消した。単純にうるさかったからだ。
そして肝心の『見極め』についてであるが、私が何を望むかがわからなければ判断のしようがない、というので、計画について話した。男は「そんな世俗な理由で……?」と困惑していたが、私が神の都合で動かねばならない道理が何処にあるというのか。更には、私が望む望まないに拘らず、この世界ではおそらくデイドラロードとして扱われるだろう、とも。会ったことも無い者達の走狗扱いはされずにすんだが、私本人が
そして『お前達』については、撤回するらしい。男曰く、デイドラとは基本的に自己顕示欲が高い傾向があるため、異界から力を持つ存在を顕現させたのなら、その時点で接触があって然るべきだ、と。それが無いのならば、私の来訪はエイドラによって成されたか、もしくは超自然的な何か(神だの何だの時点で『超自然的』だろうと思ったが、話が進まないので黙っていた)が働いたためであろう、とのことだった。会に戻り、仲間や文献などから類似する事例が無いか、調べてみるそうだ。私も気になっていたところなので、結果がわかったら知らせに来いと伝えた。その際には、この隔離魔術は使わないように、とも。この魔術は単純に私が驚く。
男が質問の許可を求めて来たので、応じた。何かしらの権能を持っていると思われるが、それは何であるか、と。
そう言われても、別段私に特別な力があるとは思えない。「せいぜい、死んでも蘇ることではないか?」と笑いながら答えると、男は難しい顔で黙り込んでしまった。小馬鹿にしたと思われたろうか。もしくは、私が煙に巻いた、とでも。しかしそうは言われても、本当に思い浮かばないのだ。
この地の八大神やデイドラ十六柱のように、何を司る、ということも無い。そもそも私は蘇るだけの人なのだから、そんなに多くを期待しないでほしい。「都合良く『人』と『準神』を使い分けるな」と何処からかお叱りの言葉が飛んで来そうだが、人間そんなものだ。余程の人格者でもなければ、自分の都合のいいように立ち位置を変えるというもの。
あるいは、男の言う暗闇と払暁が私の権能なのかもしれないが、それを司るデイドラロードは既に存在するうえに、仮に私の権能に縋り信仰する人間がいたとしても、加護や祝福を与えてやれる自信は一切無い。多分無理だろう。そのあたりから鑑みても、やはり私は力が強いだけの人である。
ちなみに、サイジック会は、多数の著名な魔術師を排出している権威ある組織であり、基本的には『魔法は少数の選良者だけに許される特権であるべきだ』という考えの下、運営されているらしい。それが直接的か間接的かはわからないが、タムリエル各地の魔術師集団、俗っぽく言えば大学を含めたギルド設立の原因となったそうだ。大学とて、研究者達の中には自らの成果を秘匿しようと、排他的且つ閉鎖的な思考を持つ者もいるらしいが、サイジック会のそれとは比べ物にならない程度には開放的らしい。まぁ、何せ設立理念からして、サイジック会のやや見える選民思想と特権主義に反発してのことなのだ。真逆に舵を切るのは自然とも言える。
とはいえ、会の方針もわからないではない。魔法とは危険な代物だ。扱い方を誤れば、周りを巻き込んで身を滅ぼす。故に誰彼構わず広めずに
尤も、私達の計画にとっては、大学の開放的な姿勢は望ましい。事前情報のとおりとはいえ、交渉の材料にもなりそうだ。渋るようなら「設立理念に反するのか?」と脅しをかけてやろう。良い話が聞けた。
閑話休題。魔術師の男は、用が済んだので帰りたい、と言う。
人のことをデイドラロードとまで言うのだ。私を退治して行かなくても良いのかと聞くと、通常のデイドラは死亡の後に復活するにしても、数百年から千年程度はかかるそうだ。だからこそ退ける意味があると。中には数年で復活する者もいるそうだから、幅が広すぎやしないかと思わないでもないのだが。その点、私の蘇りはすぐだ。第三者による観測を行ったわけではないから体感での話だが、数分も経過していないのではないかと思われる。故に、ほぼ無意味な敵対行動を取るよりは、極力不干渉としておきながら経過観察に留め、異界来訪の謎を探るべきだ、という結論に達したらしい。そういうことなら止めはしない。私としては、こちらの邪魔にならなければなんだっていい。逆に言えば、邪魔になるなら容赦無く潰す。
これが、『デイドラの駆逐』を至上命題に掲げるステンダールの番人であれば、無意味であろうが関係なく襲いかかって来ただろう。一応、表の顔でも活動する私なので、ステンダールにはお目溢しを得られるよう、せいぜいお行儀よくしておこう。おそらく、件の神が
余談だが、当然のこととして、スカイリムに不死人の骨を薪にした篝火などは何処にも存在しない。だが、不死人の蘇りとは別に篝火が齎す業ではない。実際、不死院で私が何度も死んだ際、蘇るのは馴染んだ独房の中だった。篝火を見つけてからはそこが蘇る地点に変わったが。つまりは、主観的に『自らの帰る場所』だと感じているところが蘇りの場所となるのだ。そのため、私が今死んだ場合、蘇るのは仮拠点に据えている宿屋の部屋だと思われる。
男の言うとおり、敵対行動はほぼ「無意味」だ。私の怒りを買うことを考えれば、悪手とも言える。
更に言えば、弔ってやろうと思い拾ったまま適当な場所が見当たらずそのままになった『不死の遺骨』が山のようにあるので、各地に篝火を作ろうと思えばできないことも無いとは思うのだ。軸となる螺旋剣をどうするのか、という問題は置いておくにしろ。
仮にそれが叶った場合、私が死んだ際に付近で蘇ることができて便利そうではある。手間暇のほうがかかりそうであるし、怪しげな儀式を行っている、という風聞が広まると計画の妨げになりそうなので、当分はやらないと思うが。
それに、多くの不死人に一時の安息を齎す篝火の薪となるのならまだしも、私個人の利便性だけのために利用する、というのは、薪となる骨の主に悪い気もする。一般的な方法で弔ってやるのが良いのではとも思う。まぁこれも、あとで考えよう。案外、必要になる時が来るかもしれないし。
悪手と言えば、男が何の備えも無く私の前に現れたことこそが、今回の一件での一番の悪手であったと思う。
男は私が宿す特性を言い当てて見せた。おそらくは対象の内的要素を探る魔術でもあるのだろうが、それができていながら何故、と思ったのだ。すると男曰く、隔離魔術の中では通常、自由に動けるのは術者のみであり、デイドラとは言え、その時の拘束には逆らえないはず、だそうだ。実際私も、動きを阻害される感覚を味わったのだから、嘘ではないだろう。だが、全く行動できない、というわけでもなかったため、結果は知ってのとおりである。
要するに、サイジック会などというやたらめったら高度な魔術を扱う場に慣れたせいで、予想外の事態に対する備えを怠った、男の驕りが原因であったわけだ。殴ってしまったときには「不味い」と思ったのだが、そういうことなら私は悪くない。ないったらない。悪いのはこの眼前の僧兵とやらだ。
再びの閑話休題。男の「帰りたい」という望みを叶えるため、背中から足をどけてやった。そのまま待っていたが、いつまで経っても男が魔術を発動する様子が無い。曰く、自らと転移先の『座標』を正しく認識していなければ、あまりに危険で転移魔術は使えないらしい。座標、とはなんぞや? と思いはしたものの、概ね聞きたいことは聞けたので、今回は許してやった。少し、面倒になってきた側面が無いでもない。
それで、どうすれば使えるようになるのかと聞けば、手足を解いて……と言うので却下した。私は男をまだ信用してはいないし、拷問にかけられた恨みから反撃に移る可能性は無視できない。ならばせめて仰向けか、座らせてくれと言うので、私を視界に収めないよう後ろから正座の姿勢を取らせた。縄のせいで、正座以外に座らせ方が無いのだ。
しかしこの男はうるさい。「痛い痛い!」だの「もっと優しく!」だの。腰椎は帰ってから仲間に治してもらえというに。いよいよ面倒になったので、剣をちらつかせて黙らせた。そして座らせたあとは、とっとと帰れと、質疑応答の途中から消していた太陽の光の槍を再度発動し、殊更主張させて圧をかけた。男はそこまでしてやっと帰って行った。
……やはりあの転移魔術とやら、マヌスのアレに似ているように思う。暗月の彼のは、印象の問題だが、もう少し上品に思えた。どちらにせよ、使えれば便利そうだ。私が、その力の一部を篝火での転移として利用していた王の器は、ここには無いのだから。転移魔術が私にも習得できないか、大学での課題の一つとしておこう。
男が帰った途端、動きかけだったサボスが何事も無かったかのように話しかけてきた。そういえば、その瞬間に割り込まれたのだったな。それに、彼等からすれば、実際に
さて、既に妙な疲労感と倦怠感を覚えてしまっているが、ここからが今日の主目的である。気合を入れねば。
公式見解(サイジック会)として、デイドラロード認定。何の権能も無く祝福も与えない代わりに、何の制約も無く動き回るたちの悪いやーつ。しかし隔離魔術に非がっておいて、本当に時の竜神と関わりが無いんでしょうかね。
また、執筆用のTwitterアカウントを作成しました。詳しくは活報で。