DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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久慈良餅、ひね様様、ばんだみんぐ様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。


二六、スカイリム筆頭魔術師

「やぁ、待たせたな。二人を連れてきたぞ。こちらが我が大学のアークメイジ、アグス師だ。そしてこっちがエンシル」

 

 私はサボスが連れてきた二人と挨拶を交わす。あちらは会ったばかりのつもりだろうが、こちらとしては件の僧兵のせいで、半日は見続けた顔だ。初対面らしい仕草を取り繕うのが微妙に面倒である。

 

「と、一応紹介はしたが、君が名指しで要望したのだから、必要無かったかな?

 それで、君の持ってきた『町と大学にまつわる重要な話』とやらを聞かせてもらいたいんだが……」

 

 サボスが何故か言葉を詰まらせる。話を止めるほど訝しい様子だったか?

 自らの振る舞いに自信が無くなり少し慌てたが、サボスが続けた言葉ですぐにそれは杞憂だとわかった。「何故、床が水浸しなのかな?」と聞かれたからだ。

 非日常的体験によって感覚が麻痺していたし、あのときは僧兵を脅すのに必要と思ってやったことだが、そうだな、たしかに室内で樽一つの水を零すのは普通じゃない。更に言えば、あちらの感覚では床の水は突然現れたことになっている。間の抜けた話だが、私の口からも「あっ」と思わず漏れた。本当に、私というヤツは。

 私が己の視野の狭さを嘆き省みていると、アグスと紹介された翁がおかしそうに笑う。

 

「はてな、つい先程まで、床は乾いておったように思う。それが突然の水浸し。そして何やら空間魔力もかなり減じておる様子。……もしや、サイジック会の者でも忍んで来たか?」

 

 アグス師の言でサボスが目を見開いて驚き、エンシルは……此奴、表情が分かりづらいな。どことなくギルドや一味の者達を思い起こさせる。

 しかし状況証拠だけでこうも見事に起きた事態を言い当てられるものなのか? そういえば、サボスも私がソウルの矢を見せた際、「周囲の魔力」がどうと言っていた。この地では、高位の魔術師になると、空間の魔力とやらを感知できるようになるのだろうか?

 アグス師は悪戯が成功したような得意気な顔で、また笑う。

 

「どうやら当たりか。この老いぼれも捨てたものではないだろう? サボス、エンシル。お前達、もっと私を敬えよ?

 とはいえ、別に大した話ではない。該当する状況に心当たりがある、というだけのこと。

 私も数える程度だが、会の者には会うたことがあるでな。大概はただの転移魔術だけで飛んで来よるが、内一度だけ、隔離魔術とやらを用いて忍んで来たことがあった。あれは術の発動こそ自らのマジカを用いるが、術の構成と空間の維持には太陽を通じてエセリウスから直に魔力を引っ張り、不足があればその場の魔力を用いる形をとるのよ。人の身には余る力故な。とはいえ、魔術が解ければ術の維持のために固定された魔力が拡散していくわけだからの。別段、エセリウスに影響を及ぼす話でもない。というか、人の身で使える魔術程度では、もう暫くのあいだはエセリウスに何ぞ影響を与えることなど不可能に近いだろう。そしてそこに転移魔術を重ねるわけだな。すると道を作るにもそれを固定するにも周囲の魔力は必要となるうえ、転移元、つまりは入り口側との時の同期を……」

 

 アグス師の魔術談義が長くなって来たところで、サボスが袖を引いている。気分よく講釈を述べていたアークメイジは不満気ではあるが、話が進まないので正直なところ助かった。しかし、これぞ『魔術馬鹿』といった探求者然とした老人である。

 

「まぁ、そのように、私はこの手の状況に覚えがあったのだ。それに、そなたがそこいらの魔術師と違うことは、サボスから簡単にだが聞いておった。なら、有り得ん話でもなかろうと当たりを付けたまでよ」

 

 さて、ここまでバレてしまえば隠す必要も無いだろう。というか、僧兵を帰らせた時点では、なんとなくあの来訪を秘匿しなければならないような気がしていたが、落ち着いて考えれば、私にそんな必要は元々無い。あの男が勝手に用いた隔離魔術とやらのせいで、その気にさせられていたのだろう。あの男、いなくなっても面倒をかけるな。今度会ったら文句を言おう。「お前が勝手に思い込んだのだろう」、などという言は私の耳には届かないことになっている。

 私としても、妙な隠し立てをせずにすむなら、話が早くてそのほうがいい。僧兵の来訪を是と答えるついでに、ことの仔細も話した。この件について語るなら、僧兵の来訪理由にも触れざるを得ず、そこだけを上手にぼかす自信が無かったからだ。

 

 それにこの魔術師という生き物は、どうもこの地の、というかこの世界の成り立ちについて詳しいように思う。貴族や為政者の中にも知恵者はいるだろうが、純粋な知識量で言えば、おそらくこの大学の者達がスカイリム一だと思うのだ。ブレックスの話では、広い空間にこれでもかと書物を集め、保管している、蔵書室があるらしい。それを鑑みれば、的外れな推察でもないだろう。ならば、この場だけ誤魔化したとしても、いつかは詳らかになるのではないかと思うのだ。

 大学は確実に味方とする必要がある存在だ。あとから私の存在定義について判明し、信用を失うことがあってはならない。先に話して警戒されることもあろうが、この手の話題は後回しにするほど拗れるものだ。

 そんなわけで、僧兵の来訪理由と推論。私の反論。僧兵の結論。全部喋った。アグス師はにやにやと意地の悪い顔で笑っているし、サボスは眉間を揉みながら悩ましげにしているし、エンシルは鉄面皮のまま小さな道具を手の中に隠すよう持っている。魔術の暗器だろうか。三者三様、見ていて少し面白い。

 

「『不思議な魔術を使う男』とは聞いておったが、デイドラロードとはな。サボスよ。お前、随分なものを大学に入れてしもうたの」

 

 ひっひ、と笑いながらサボスを詰るアグス師ではあるが、その声色は楽し気で、責めるようなものではない。おそらくいつもそうなのだろう。サボスは少々迷惑そうに、しかし自分の『やらかし』だという自責の念もあるのか強く出られず、恨めしげに見つめ返している。二人は、案外気心の知れた仲なのだな。

 

「とはいえ、彼の僧兵が言うのは、そう分類される、というだけの話らしいですが。私自身、何かしらの権能を持ち、司っているような自覚はありませんし」

 

「で、あろうな。話を聞く限り、お前さんの神性はそのソウルの業、だったか? それが原因と思われる。世界に齎された火。そこから見出された巨大なソウル。それらを宿した、もしくは新たに産まれた神を討ち、お前さんは奪った。そして、その奪ったソウルで己が身をこれでもかと作り変えた。だからよ。

 こちらでも、まぁ一般的ではないにせよ、デイドラの血肉が出回ることはある。魔術的な触媒にもなるし、錬金術の素材にもなるでの。しかし、それらを口にしたところで、人がデイドラと化すなど有り得ん。経口での消化では、あくまで物質的にしか取り込めんからの。しかしソウルの業とやらは、奪ったソウルがその者の根源に作用する形で変質させてしまうのだろうよ。故にこそお前さんは、『人』でありながら『準神』足り得るのだろうて」

 

 今度は、先の魔術談義と違い、聞き入ってしまった。私自身が、ぼんやりと、なんとなく感じていたことを、言語化されたせいだろうか。それが必ずしも正しいとは限らないが、おそらく理屈ではそうなのだろうと思える。

 しかし、異なる世界の理を読み解いてみせるとは。『学がある』というのはこういうことなのだろう。オーベック、君の劣等感がまた少し深く理解できたぞ。尤も、元より学の無い市民であった私が抱いた感想は、ただの感心でしかないが。

 ローガン……はまた違う類の人間だな。あれは学があっても、自分の興味が湧いたもの以外に、それを傾ける気が一切無かった。悪く言えば視野が狭いのかもしれないが、私は妙に子供じみたその素直さが好きだった。人それぞれ、ということなのだろう。

 そうして、知識を知恵へと昇華させた老人達の差異を面白がっていると、その片割れが尋ねて来る。それも、サボスに見せていた悪戯顔をこちらへ向けて、だ。

 

「それで、我等はどう接すればよいのでしょうかな? デイドラロードとして、「様」でも付けて敬い、奉りましょうや? それとも、サボスが勧誘したとおり、客員研究員として遇すれば良かろうかの?」

 

 これはどう聞いても、敬う気など無いだろうに。

 

「自明のことを尋ねられるのは、意地が悪うございますな。私が自らを人と思い、そちらもそのように感じておられるご様子なのですから、研究員で十分です」

 

 私の迷惑そうな顔が先程のサボスと被り、それが満足なのか、老人はまたひっひと笑っている。なるほど、いつもこうして人を手玉に取っているのか。これでは、良くて親しみが湧くことはあっても、畏敬の念とはなりづらいだろうな。「もっと敬え」とのことだが、己の行いが原因ではなかろうかと思う。

 

 ひとまず、挨拶は済んだ。それも、好感触で。そのため、このあたりが本題を切り出す場面ではなかろうかと感じ、私は三人へ大学来訪の理由を告げ、アグス師には首長からの手紙を渡した。同時に、別件だと断ったうえで、エンシルにもブレックスからの手紙を渡した。

 

「これは……それなりに体裁は整えておるが、実質詫び状だの。控えめに言っても嘆願書か? あの偏屈(じじい)が書いたとは思えん。随分と折れたものだ。お前さん、一体どんな手管を使ったのやら」

 

 多分、世間ではあなたも『偏屈爺』扱いですよ、とは言わずに黙っておいた。どうも、この老人に絆されつつある気がする。

 しかし詫び状か。私は手紙の大筋の内容しか知らない。つまりは、「町の復興に大学の力を貸してほしい。町としても、大学の運営に協力する心算がある」という、計画についての要請である。それが詫び状とは。首長である、あちらの老人は、必要であれば自分を便利使いするよう言っていた。言っていたが、これは私が思う以上に、かなり本気で計画へ傾倒しているようだ。ますます、躓くわけにはいかなくなったな。

 それにしても、内密とは言え首長の使いを前に、随分とあけすけに言ってくれるものである。それはまぁ、スカイリム中から様々な依頼を受け、頼られる大学のアークメイジから見れば、村程度の規模にまで落ちぶれた町の首長など眼中に無いのかもしれないが。いや、これはもしやこちらの反応を試している? だとすれば私は、毅然とした態度で理屈を説かなければならない。情で動く人種ではないだろう。

 出来が悪いと自覚のある頭だろうが、無理にでも回してみせる。難色を示すようなら、必要に応じて脅し文句とて使ってみせる。その意気で交渉に臨もうとし……、

 

「こちらは構わんよ。実験に必要な品が手に入らないことも多く、困っておった。互いに損が無いのなら、良かろう?」

 

 梯子を外された気分である。少し、面食らった。眼前の老人には、会ったときからずっと振り回されている気がする。すると、「何を呆けておる?」とせっつかれた。いかん、気を害されて、「やはり白紙で」などと言われては元も子もない。しかし、あまりにあっさりとしている。後々、撤回されたりとぼけられたりしないよう、確認が必要ではないだろうか。

 

「ウィンターホールドの町は大学に対し、長いあいだ根拠く嫌悪の視線を向けて来ました。ですので、なんというか、こうもあっさりとこちらの要請を聞き入れていただけるとは思っておらず……本当に良いのでしょうか?」

 

「私とて、あの爺が手紙のとおり、心を入れ替えた、とは思うておらん。何ぞ、お前さん等にはお前さん等の事情や考えがあるのだろう。しかしそれらは大学とは関わりの無いことだ。少なくとも、町と大学の協力関係は大学の益となる。だから受け入れる。それだけだが、ほかに何かあるのか?」

 

 無い。無いのだが、それは理屈上のみでの話だ。また呆けそうになったので、何か話さねばと思ったら、考える間もなく正直に口から思ったことが零れてしまった。

 

「……申し訳ない。少々取り乱しました。私がこのスカイリムの地に来て以来、ここまで合理性のみに重点を置いた話し合いは初めてでしたので」

 

 アグス師はそれに対し、心底興味が無い、といった様子で鼻を鳴らす。「俗世、などと見下したくはないが、世の者共はつまらぬ理由でつまらぬ意地を張りすぎる」とぼやく。 あぁ、やはり、私が誇る二人の友は、ここに来るべきであったのだ。一組織の長がここまで割り切って考えられる環境など、ほかに無いだろう。

 私は思わず感じ入ってしまった。……と、そこにアグス師のやや後方から、眉をひそめながら首を横に振るサボスの姿が見える。察するに、「これはこの爺様だけだから、大学全員が同じ意見の持ち主だと思わないように」といったところだろうか。やはりこの老人には振り回されっぱなしな気がする。あと、感動を返してくれ。

 

 しかしまぁ何と言うべきか。何年もの雌伏の時を覚悟していた案件が、ウィンターホールド到着から数えても、ふた月とかからず片付いてしまった。我が友の言ではないが、予定が前倒しになって悪いということは無い。無いのだが、色々と拍子抜けしてしまった感はある。

 

 思えば、リフトの砦を出立したときは、まずウィンターホールドの町に馴染み、首長をこちら側へ口説き落とすことを考えていた。ブレックスの予想では、一年から五年程度。次に大学だ。こちらには、協力者候補として目星を付けている人物がいるため、事前情報では首長を落とすより難度は低いと見られていた。それでも、アークメイジが難色を示すようなら、それら()()にした人物達を通じて大学全体へ根回しをし、翻意を促す必要がある。それには半年から数年を覚悟していた。計画の要と思い、そのように気合を入れて来たのだが……。

 蓋を開けてみれば、私が採掘村で足留めを食らっているあいだに、ウィンターホールド首長の懐柔は一味の者等によって達成されたという。大学訪問でも実際には、まず第一の協力者候補にいきなり遭遇し、ある程度の好感触を得た。サイジック僧兵などという突発的な事態はあったものの、アークメイジへ要件を伝え、その場で承諾も得た。計画は、怖いくらい順調に推移していると言えるだろう。

 ……というか、私の貢献度が低くないだろうか? いや、私自身、その場その場で必要なことに対し、手を抜かずに取り組んだ覚えはある。それは間違いない。しかし、ウィンターホールド首長の件には一切関わっていないし、大学については、ギルドや一味の誰がアークメイジを尋ねても結果は同じだったのではないかと思われる。そう考えると、私は計画の主要人物でありながら、特に何もしていないような気がしてくるのだ。

 一応、私の魔法によって好感度を稼ぎ興味を引かせてみせた、と言えなくもないかもしれないが。……正直、自分で評価するのは難しい。

 

 己の計画への存在意義について少々不安がってしまったが、今は置いておこう。

 アークメイジがこれだけ話の通じる人物であるなら、腹案をこの場で提示してみるべきだろう。合理性を好むこの老人なら、別日を設けて云々というよりは、そのほうが好みだと思われる。

 私は、まず悪化した住民感情を緩和させるために、首長との共同声明発表を提案した。そして、町の復興に魔術師達の手を借りたい、とも。更に同時並行で、町の全面的な支援を約束する代わりに、今まで以上に広くタムリエル全土へその門戸を開放することを依頼した。

 まず、声明については問題無いとのこと。大学にも歩み寄るつもりがあると町の住民に示すには、書面や伝聞ではなく、大学の代表が矢面に立つ必要がある。そのようにアグス師は理解してくれていた。

 また、街の復興には、例えの一つとして、学徒の実習に組み込む案を挙げられた。研究者達は自らの時間を取られることを嫌がるだろうが、学徒の監督はある程度持ち回りであり、文句も出づらい。また、学徒達からしても、多くは町と大学、双方にとっての()()()が該当する。なら、早期から町の復興に一役買わせておけば、町も、その復興も、自ずと己の事情として認識するようになる、とのこと。たしかに、「やらされている」と考え嫌々作業に従事するくらいなら、自らの仕事として誇れるよう仕向けたほうが、能率も、本人の心情的にも良いだろう。そしておそらく、それが町と大学の更なる融和を生み出すはずだ。

 学徒募集の布告については、首長の添え状を条件に付けられたものの、こちらも承諾された。添え状については無理もない。なにせ、大崩壊以降のウィンターホールドの衰退ぶりと、住民感情の悪化は、他地域の人間も知るところである。噂がスカイリム外にまで届いていてもおかしくはない。大学だけの方針ではない。町にも歓迎の用意がある。そう告示することは、大学に様々な嘆願を行う町側の義務と言ってもいいだろう。あの首長も否とは言うまい。 

 また、広く学徒を募る件は大学側としても考えていたらしいが、私の来訪を受けて、その念は更に強まったらしい。流石にデイドラロードが訪ねて来ることはないだろうが、大陸中から人が集まれば、中にはその土地の特色ある魔術を携えた者もいるだろう。少なくとも、その可能性は高まる。アグス師はそれが見たいらしい。その方針は計画にとって大いに助勢となるものであり、私は是非もなくその場でアグス師に頷いた。

 

 先に思ったことではないが、時間をかけた入念な協議が必要だと考えていた案件が、立ち話で済んでしまった。私達はまだ、サイジック僧兵が訪れた水浸しの床の上で話を続けている。アグス師の反応を見るに、私を邪険にしているのではなく、面倒な礼儀を排して時間短縮という実益をとった、ということなのだろう。別に私は、礼儀や様式美にこだわる貴族でもない。話が早く進むのなら、立ち話でも一向に構わん。

 というか、自惚れでなければ、私のそのような態度が、話を円滑にした可能性もある。なんとなくだが、やはり首長の手紙を渡してからこっち、アグス師に試されていたような気がするのだ。まぁ、うまくことが運んだのなら何だっていい。

 

「さて、では改めてあの偏屈爺とも折衝の機会を持たねばの。声明やら何やら、細かいところを詰める必要がある。サボス、段取りを頼んだ。

 それでだ。お前さんの要件は概ね済んだかや? そうか、ならば私にもサボスに見せたという『変わった魔術』とやらを是非見せてほしいのだが……」

 

「アークメイジ、申し訳ありませんが、今日の予定は立て込んでおります。予定外の応対が入りましたため、押している、と言うべきでしょうな。執務室へどうぞお戻りください」

 

 アグス師が私に、おそらくサボスの試験で見せた魔法の実演を強請ったのだろうが、サボスがそれを口調だけ慇懃に切って捨てた。先程、からかわれた意趣返しだろうか。アグス師の顔が酷いことになっている。睨みつけている、というより、無言のまま顔全体で不快感と憤りを表現しているような。顔を傾け、下から伸びるような動きを見せつつ、サボスの周りをゆっくり回ったり。なんだろう、この笑いを誘う光景は。まるで、そこいらのごろつきが絡んでいるようではないか。それでいいのか天下のアークメイジ。

 まぁ、実演自体はそう時間のかかるものでもない。アグス師をとっとと政務の席に着かせるにも、見せてしまったほうが早いだろう。

 私はサボスに対し小さく手元で詫びを示し、アグス師に声をかけた。サボスは一矢報いたことで多少の溜飲は下がったのか、溜息をついて防御魔術を展開する。私はアグス師がこちらへ注目していることを確認し、火の玉、灯火、放つ回復、ソウルの矢を放つ。反応はサボス同様劇的だった。アグス師は歓声を上げ、「ほかには無いのか!」と詰め寄ってくるが、今度こそサボスが襟首を掴んで引きずっていった。先にはアークメイジの居住区があるという階段を登りながらも、「最後の! 最後のヤツをもう一度!」というアグス師の声が聞こえる。その後も何事かを喚いているが、徐々に小さくなり、居住区への扉を潜ったのか、聞こえなくなった。場に、妙な静寂が訪れる。

 

 すると、それまでずっと黙っていたエンシルが口を開いた。アグス師やサボスとのやり取りの後ろでブレックスからの手紙を読み、何やら考え込んでいたのは見えていたが。

 

「ウィンターホールドと大学の融和、か。随分と無茶なことを考えるものだ。お前一人の計画、というよりはギルドやブレックスが関わっているのだろう? あぁ、安心しろ。お前からアークメイジに話す気が無いのなら、私からそのあたりの裏事情を漏らすことは無い」

 

 この男に「安心しろ」と言われても、そのような気にはなれないのだが。おそらく吐いた言葉に嘘はあるまい。しかし纏う雰囲気が、まるで真逆なのだ。下手な受け答えをすれば何ぞ攻撃を仕掛けてくるのではないかと思わせる、鋭利な空気を漂わせている。

 

「私の要件はこの手紙についてだ。何が書かれているか、お前は把握しているのか?」

 

 こちらに関しては、首長からのそれと違い、そこまで詳しいことは知らない。ただ、眼前のエンシルは元々大学側の協力者候補として目星をつけていた。そのうえ、カーリアなる者の接触により、「エンシルの重要度が跳ね上がった」と頭目殿は口にしていた。それ故、大学での協力、そしてカーリアに関わる何かしらが書かれているのではないかと思い、告げた。『カーリア』という名前自体は出して良いのかわからなかったため、「ガルスの件で、ある人物から接触があったと聞いている。一応、名前もな」とぼかした。

 

「あの用心深い男がそこまで明かしているのか。『甚だ不本意ではあるがダチだ』と書かれているのは嘘ではないようだな」

 

 彼奴め、我等の友情を「甚だ不本意」とはどういうことか。とはいえ、普段からの口の悪さを鑑みれば、有り得そうではある。手紙が口語で書かれているとすれば、なおのこと。

 

「なら、奴に伝えてくれ。近いうちに、私を()()()()で訪ねるように、と。必ず、一人で、だ。仮にこの手紙に書かれている件が全て真実だとすれば、ギルドに大きな騒動が再び巻き起こるやもしれない。ことは慎重を期す必要がある。だが、それが済んだなら、私はお前にかなりの便宜を図ってやることができるだろう。今、言えるのはそれだけだな」

 

 実際、ガルス殺害の真犯人がカーリアではなくメルセル・フレイだとすれば、ガルス死没時に起きたギルド分裂のような大騒動になりかねない。混乱を最小限に抑えようとするなら、仮にメルセル・フレイが下手人だとしても、吊るし上げるには準備が必要だ。それも、あの疑り深い目と性格を備えた男に感づかれること無く、だ。このエンシルの反応も納得できるというものである。

 それに、その後の協力について口にするあたり、エンシルにとってもガルスという男は大きな存在だったのだろう。だからこそ、腹を割って話すために、夜中に一人で忍び込んで来い、と。多少は危険かもしれんが、ブレックスにとっても正念場のはずだ。必ず呑むだろう。もしこのエンシルなる男がブレックスを罠にかけて害したなら、そのときはそのときだ。一味の者等と協力して此奴を追い詰め、地獄を見せて後悔させてやるまで。……まぁ、そのような阿呆には見えないが。

 私は「必ず伝える」とエンシルに告げた。すると、「では用は済んだな」と奴は踵を返してしまった。魔術師という人種は、誰も彼もがこんなに合理性のみを突き詰める人種なのだろうか。それとも、アグス師やエンシルが特殊で、やたら無駄を嫌うだけなのだろうか。何にせよ、今日、大学の敷居を初めて跨いだばかりの客員研究員を一人ぽつんと放置するのは、ちと優しさが足りないのではないかと思う。少し経てばサボスが戻ってくるやもしれんが、それまでぼうっと待ち惚けというのもなぁ。

 

 今日はサイジック僧兵と問答したり、アグス師に振り回されたりと、少々疲れた。私もこのまま帰ってしまおう。咎められることは無いとは思うが、仮にあっても事情を話せば許してもらえるだろう。まだ日は高いが、仲間に報告を済ませたら、少し横になりたい。今日くらいは許されるはずだ。ラーナルクを誘ってゆるり過ごしてもいい。あれは、放っておくと根を詰め過ぎる節がある。そうだ、そうしよう。これは私の我儘ではない。愛息のことを慮ってのことなのだ。そういうことにするのだ。だって疲れたのだから。

 




普段、周りを振り回してるヤツが、珍しく振り回される側になったの巻。
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