DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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※ソウルについて、独自解釈が含まれます。


二、ヒト?

 ブリニョルフの反応を見る限り、ソウルの業は、この地では一般的でないようだ。

 ……いや、しかし、待ってほしい。少しだけ、弁明させてほしい。

 誰に許しを請うのかも不明だが、余裕が無くいわゆる「テンパった」状態の精神を鎮めるために、自分への言い訳が必要だ。

 

 一つ。私は、この何処ともわからぬ地へ放り出されたばかりだ。

 一つ。状況の確認もできないまま、いきなり戦闘が始まった。

 一つ。戦闘が終わったと思ったら、今度は曲者らしき人物との交渉が始まった。

 一つ。自分なりの妙案を思いつき、交渉もまとまり、ふと気が緩んだ。

 一つ。ブリニョルフが急かすように動いたため、私にとっては常の如くソウルの業を使用した。

 

 ……つまり()()の大半は不可抗力とブリニョルフの非である。私の()()()()ではない。状況整理完了。多少の鎮静を得る。

 

 とまぁ冗談はさておき、彼は彼で私へ好印象をもたらそうと、面倒事を引き受けるべく積極的な行動に出たのは理解できるので、誰を責めるだのという話ではないのだが。

 

 閑  話  休  題(都合の悪い話題はここまで)

 過ぎたことを悔いても仕方ないので建設的に思考を進めよう。

 彼の反応から察するに、少なくともこの近辺でソウルの業を使うものはいない……というかソウルという概念が無いのではと思われる。

 よって、私に一切の非が無いとしても、()()()()()しまったことは間違いないようだ。

 そして、ここが私のいた世界と概念的にも地続きな土地ではないことを示す証拠でもある。

 

 火の時代かどうかは一度横に置いても、私の知る世界においてソウルが一切認知されていないなどということがあるのだろうか。いや、あるはずがない。

 ソウルとはこの世を為す全ての根源とも言えるものだからだ。それが物質であれ、魂であれ。

 

 そも、ソウルの業は別に不死人の特権ではない。不死人であれば必ず使えるが、不死人でなくても「使える者は使える」程度には使用者がごろごろしている。

 でなければ、不死人を狩るロイドの騎士など存在もできまい。

 仮に連中がソウルの業を持ち合わせていないのならば、いくら護符を用いて『エスト瓶』を無用の長物へ変えるとはいえ、ソウルを取り込んだ不死人と生身で決闘など気違い沙汰だ。自らにのみ回復手段を確保したところで、地力の差は如何ともし難い。

 私のように、新米不死人の内に捕縛されるならまだしも、騎士団に捕捉され決闘騒ぎとなるからには、不死人となってから多少の時間は経っているだろう。

 シースに連なるソウルを用いた魔術の研究、教育機関である『竜の学院』も同様だ。ソウル無くして、如何にして学院が成り立つというのか。

 また、懐かしのジークリンデ嬢も、不死人であり多くのソウルを取り込んだであろう屈強な『カタリナ』の騎士たる父君を殺害せしめた。

 彼女のその後の消息は不明だが、故郷へ帰ると口にしていた。彼女自身は不死人ではなかったのだろう。

 ……彼女が自らの命を絶って「魂が還る」という意味であったり、カタリナという陽気者の多い国が不死人を許容する異端国家でなければの話だが。

 

 要するに、ソウルとは空気や水と同じく当たり前に存在するものなのだ。私が先程、ソウルの業を使用できたことからも、それは確かだ。そして、それを目撃した程度で目を見開いているブリニョルフこそ、ここが私の知る世界ではないことを雄弁に物語っていると言える。

 

 と、なると、だ。どうにかこうにか誤魔化すべきだろう。

 私は出来がよろしくないと自覚のある脳を全速回転させ、会話の糸口を探した。

 そういえば、ブリニョルフは「魔法」と言っていた。ひとまずはこれに便乗しよう。

 

「……昔、少々かじってな。いくつかの魔法が使える。ただ、それが仇となって今では迷子になってしまっているわけで、あまり自慢できるものではないのだが」

 

 どうだろうか。我ながら会心の言い訳と思える。一般的ではないソウルの業を誤魔化しただけではなく、何故見知らぬ土地で迷子になっているのかも臭わせている。

 ブリニョルフの様子も「得心がいった」というふうに見える。

 魔法の研究だがなんだかの際に暴発し、転移事故のような事態が発生した。そのように解釈してくれていることを祈ろう。

 なにはともあれ良くやった私。『ジークの酒』を空けたい気分だ。

 

「称賛するよ、凄いな。その魔法があれば、物の重量や体積を無視して運べるのかい? ……そうか。いや凄い。俺も似たような()や装備を持ってはいるが、あくまで少し便利、といった程度だ。羨ましいよ」

 

 彼に肯定の相槌を打ち、素直に称賛を受ける。その後も移動しつつ、「あの武器の持ち替えも魔法なのか?」などといった具合に色々と質問が飛んで来る。

 私にとっては当然の技術であるので妙に面映い。しかし、現状唯一の協力者である彼には私を()()()人間だと思わせておいたほうが良い気がする。

 彼が、実は腹の底で溶岩のような劣等感を抱えている、わけではない保証などどこにも無いものの、おそらく他者の有能さを素直に受け入れられる人間だと思ったからだ。

 それは同時に、彼自身に矜持と自負があることを意味する。少なくとも私はそう感じている。

 ……どうも私は、会ったばかりのブリニョルフなるこの男を気に入ったらしい。

 

 その後もあれこれと話をしながら、私達は広間から墳墓の出口へ向かって進んで行った。

 体感的かつこの世界の基準が不明なのでなんとも言えないのだが、広間から出口までは随分と安全かつ迷いにくい一本道に思えた。

 ブリニョルフに聞くと、曰く「そういうもの」らしい。

 入るには並々ならぬ試練が待ち構えているが、出るにあたっては特に何もないのが通例だとか。場所によっては、更に宝箱があったりするとも。

 彼はそれらしい物が見当たらず、若干残念そうであった。

 墳墓を作るにも()()()が必要なのかと思いもしたが、考えてみれば墳墓建設作業員を安全に外へ出すためには、あって当然の通路だ。

 古代ノルド人とやらは、少なくとも権力者の墓に民たる作業員を生き埋めにする趣味は無かったようだ。

 一瞬、あの動く死体共がその成れの果てかと思考がよぎったが、連中は曲がりなりにも戦士であった。おそらくは墓の主に死後も仕えんとした誇りある従者達のはずだ。

 

 出口にある仕掛け扉を開け、墳墓から脱出した。

 その際、ブリニョルフが隠された扉開閉用の小さなスイッチを容易く見つけ出したことに感心した。言うだけのことはあるようだ。

 と、同時に、私の中で「古代ノルド人は性根がひん曲がっている」という偏見が生まれた。

 墳墓を攻略されたのならば、大人しく勝者を通らせたまえよと。何故仕掛け扉なのか。何故開閉スイッチが小さく、見つけにくい物なのか。

 一矢報いるにしてもせせこましい。

 

 暫し空気の滞留した空間にいたせいだろうか。扉から吹き込んでくる清涼な大気が心地良い。

 見れば、空が白んで、もう直に夜明けだという時刻だった。

 

 思えば不死人となって以来、永く黄昏の中で足掻き続けてきた。昼間の景色は目にすれども、払暁などいつぶりのことであろうか。

 あまりに長く忘れていた光景なだけに、懐かしさよりも新鮮さが勝る。

 

「ああ! この瞬間は堪らないな! 埃っぽい『ダンジョン』を抜けて澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む開放感! 時間も丁度いい! なぁ、兄弟もそう思う、だろう…………泣いているのか?」

 

 言われて気がついた。涙が、勝手に、あぁ止まらない。

 悲しい、わけではないと思う。美しさに感じ入った、のかもわからない。わからないのだ。何故、自分が泣いているのか。

 しかし黙っていては妙に思われよう。何か話さなければと初めに思い浮かんだ景色を元に、口を開いた。

 

「故郷で見た景色に似ていたものでな、思い出していた。ろくでもない私を包み込んでくれた家族と友人を。なんと贅沢なことであっただろうかよ。あの頃、朝日は憂鬱さの象徴でさえあったのに、今では耐え難いほどに焦がれる。……みっともないところを見せた、忘れてくれ」

 

「……ご家族は? ご母堂についてはちらと聞いたが」

 

「うん、流行り病でな。友人を含め、皆まとめて死んでしまった」

 

「そうか、悪いことを聞いたな。……なあ、兄弟。色々驚くことがあって後回しになっていたが、君の名前を教えてくれないだろうか? そして君の大切な人達の安息を、俺と兄弟の神に祈らせてほしい」

 

 律儀な男だと思った。そして優しい男だとも。随分と警戒心が薄れていることを自覚しながら、言われるがままブリニョルフに名を告げた。

 

「ノメイだ。あまり名前では呼ばれないから、好きに呼んでくれ。私の神については結構だ。幾柱も打ち倒して来たせいか、あまり信じる気にはなれなくてな。強いて言うなら太陽信仰、になるのかな? 友人に誘われた」

 

 ブリニョルフは神殺しについて「君なら本当にやってのけていそうで笑えない」と言葉とは裏腹に苦笑した。

 そして跪き、太陽と、私の知らない名の神に、「ノメイのご家族とご友人の安息があらんことを」と言って祈ってくれた。

 嬉しかった。

 

 

 

********************

 

 

 

 いくらか気分も落ち着いたところで、彼が切り出した。

 

「さて兄弟。ここから最も近い村と言えば小さな開拓村があるんだが、俺としては一度そこで休息を取ってから、『リフテン』という町まで案内したいと思ってる。五大都市の一つだけあってそれなりに賑わっているし、その中では最寄りだ。何より俺の拠点もある。不肖ブリニョルフとしては、是非、兄弟を歓迎させてほしいと愚考するわけなのさ。

 兄弟だって、不自由の多い寒村に置いていかれるより、色々と揃っている町のほうがいいだろう? あぁ、ペンダントはリフテンに着いてからで構わんよ」

 

 彼の提案は魅力的だった。言う通り、村か町か、他所者にとってどちらが便利かと言えば考えるまでもない。

 村で牧歌的な生活を送りたければ、それ相応の準備ができてからでいい。少なくとも今ではないだろう。

 しかし私としては否やは無くとも、彼はそれでいいのだろうか。

 ペンダント譲渡の条件は「村か町までの案内」であるのだから、「絶対に手に入れたい」とまで口にする報酬はなるべく早く入手し、安心したいと考えるのが人情ではないのだろうか。

 そのあたりを尋ねてみると、ニヤリと不敵に笑いながら返された。

 

「勿論ペンダントは喉から手が出るほど欲しい。でも短い付き合いとはいえ、兄弟は約束を破る男には見えない。そいつは必ず、俺の手の中にすっぽりと収まることだろう。

 それに、少し考えていることがある。これはもう少し兄弟のことを知ってから話そうと思うんだが、それについてもリフテン行きのほうが都合がいいのさ」

 

 何やら思惑があるようだ。しかし彼が良いというのなら私に否やは無い。

 私達は早速、第一目的地である開拓村へと向けて出発した。

 

 ──── 獣道すら無い森の中を進んで。

 

「なあ()()? こういうときは普通、街道か、それに近いものを通るのが定石ではないのか? 出発していきなり森の中では、流石に少し不安になる」

 

「おや? 回り道をして街道に出るより、直線的に行軍したほうが君好みかと思ったんだが、違ったかな? 実際、体力や腕っぷしに不足がなければ、こちらのほうが圧倒的に速い。というか、開拓村なんて辺鄙な場所では、満足に道が整備されていないことも多いからな。仕方ない面もあるのさ」

 

 言わんとすることはわかるのだが……。それに、小さく零した「街道ではいけ好かない連中と鉢合わせることもあるからな」という言葉が気になった。なんだろう、白教徒でも出るのだろうか。

 

 実際、彼の言う通り体力にも戦闘力にも自信があったし、私はともかく()()()()()()()()()()と思い、早く目的地へ着きたいというのも同感だった。

 

 どうもこの男、『おとこのこの意地』なのかなんなのか、疲労困憊なのを私に隠し続けている。

 考えてみれば、私が目覚めたあの墳墓を一人で攻略した、とペンダントの交渉時には口にしていた。わざわざ主張するなら、それなりに難度の高い踏破行であったのだろう。疲れていないわけがない。

 それなのに……いや、私に、取るに足らない男だと評価されまいとしているのか。故に見栄を張る。

 張るのが()()どころか()()に変わり、何か不手際を起こしたとなれば評価は地まで落ちるところだが、今の所その様子もない。

 好意的に受け取るならば、彼なりに私のことを買っているがための行動なのだろう。私は案外、こういうのが嫌いではない。

 「体力に不足がなければ」などと発言が矛盾するようであるが、彼がそれで良いのならば良いのだ。

 それに、整備された道を長く歩きたいか、「なんだっていいとっとと休ませろ」と思うかは人それぞれだ。私はどちらかと言えば後者であるし。ここでも否やは無い。

 

 しかし……墳墓で後ろに付いて歩いていたときから思っていたが、この男の身のこなしは亡き友人を思い出す。

 自らを盗賊だと堂々と公言していた彼は、物音を立てないよう歩く術を身に着けていた。

 眼前の男は彼ほど静かには歩いてはいないが、それは技術の未熟さを表すものではなく、私に手の内を隠さんとするが故に思える。

 実際、この手の技術は盗賊か暗殺者の得意とするところだ。いわゆる()()()()な連中には必要の無い、もしくは嫌悪すらされかねない技術である。

 この男は、先程私に「冒険者だ」と名乗った。おそらくは賊働きも生業にしているのだろうが、出会ったばかりの人間がどのような性質(たち)なのかもわからないまま、自らの事情を(つまび)らかにする阿呆もいないだろう。

 目の前の男は、「少し考えていることがある」とも口にした。事前に臭わせるのだからこちらにとって然程不利益になるとは考えづらいが、彼が正しく盗賊の類であるならば、なるほどそのあたりの事情を話すのは出来得る限り『私』という人間を見極めてからにしたいだろう。

 今は、少し気に入ったこの男を信じてみることにする。

 

「付いてきているな? 直に道が開けて簡易な木柵が見える。そうすれば、我らが憩いの場へ到着だ」

 

 考え事をしながら歩いていたためか、いつの間にかそれなりの時間が経っていたようだ。第一目的地である開拓村は近いらしい。

 なるほど、木の伐採跡がまばらに見える。樵は木を障害物とは見なさず、資源として計画的に伐採すると聞いたことがある。開拓村が拡大するにつれて村の付近は伐り尽くされるのだろうが、まだその段階では無いらしい。

 

 更に考え事を重ねたせいか、既に木柵が見える距離まで近づいていた。そしてそのすぐ手前で作業をしている人影に気がつくのも遅れた。

 私は、今日何度目かの驚きを味わう。

 

 頭が猫の…………何だあれは。ひとまずファリスの黒弓だ。

 

 

 

********************

 

 

 

 森の中を足早に移動しながら、ブリニョルフはチラリと後ろを振り返る。

 特別、悪路を歩くことに慣れているというふうにも見えないが、男はしっかりとした足取りで自分の後ろをぴったりと付いてくる。

 広間での戦闘を目撃して、男が恐るべき戦士であることは理解した。足取りを見るに、戦闘のみならず、単純な体力にも秀でているのだろう。

 その後の交渉を経て、阿呆でもなく、こちらを騙す悪知恵を働かせる類の人間でもないと判断できた。

 その手の輩は、実際に()()を起こさずとも、カモがいないか、うまい話の種がないかと常に思考しているものだ。そこから滲み出る悪臭は、自分ならすぐに感付ける。何せ似たような臭いを自分も発しているのだから。

 逆に、こちらが同類だと気が付けないような間抜けなら、遠慮無くハメてやるところだ。ブリニョルフは生半な同業者に対する容赦を持ち合わせていない。

 

 そしてブリニョルフの目を最も惹きつけたのは、あの不思議な魔法だ。

 

 はっきり言ってインチキだと思った。男の実力が偽りだと言うのではない。ただ「不公平じゃないか?」と神に愚痴を零したくなる程度には、インチキ臭い絶対的強者だと感じたのだ。

 

 魔法それ自体も、自分たちの稼業にとって素晴らしいものであった。

 ブリニョルフが見たことのある魔法と言えば、せいぜい拳大の火球を放ったり、切り傷を少しずつ癒やす程度のものだ。

 人を傷つけたければナイフ一本あれば足りるし、傷を癒やしたければ回復薬を携帯する癖をつけておけばいい。

 どんなことにでも共通するが、代替手段が存在するものの価値は低い。

 

 しかしあの魔法は違う。格別だと思った。

 あれならば、盗品を素早く隠すことができる。持ち込みが禁じられた品を好きに持ち込むこともできる。山程の戦利品を持ち帰るのに手ぶらですむ。

 利用の仕方など、それこそ幾通りでも思いつけば思いつくだけ存在するだろう。

 どの程度の制約があるのかはまだ不明だ。もしかしたら案外使い勝手の悪いものかもしれない。

 だが自分が目にしたときは、一瞬で武器を持ち替えたり、一瞬で財宝の回収を済ませていた。しまい込める容量や出し入れの速度に難があるとは思えない。

 

 あの魔法を見た瞬間、ブリニョルフは閃いた。やもすればペンダントなんぞよりも余程価値のあるこの男を、どうにかして()()()()へ引き込めないだろうかと。

 ギルドへの加入が無理でも、外部協力者となってくれるだけでも有り難い。

 利用するようで悪いとは思うが、確かな実力者が協力者になったと喧伝するだけでも、衰退しつつあるギルドの現状には大きな効果を(もたら)すだろう。

 新たなギルドマスターであるメルセルの了承を得る必要はあるが、否とは言うまい。

 凄まじい戦闘力に加えて、極めて珍しい魔法まで備えた人材だ。敵対される可能性を一つ残らず潰して、「味方でいるほうが遥かに得だ」と思わせる必要がある。絶対にだ。

 もし、かの偉大なるギルドマスターがそんな駆け出しでもわかることを理解できないとほざく愚図なら、最悪始末してやろうかとすら思う。ブリニョルフは万難を排して説得を成功させる決意を固めた。

 

 そのために自分がが今すべきは、男に友好的な態度を示し、同時に侮られないよう振る舞うことだ。

 乱れそうになる歩行と呼吸を意識して整え、周囲へ警戒を怠らない。

 

 おそらく男は、自分が盗賊稼業を生業にする人間だと勘付いている。

 そして、それに対して忌避感を抱いてはいないように見えた。

 巧妙に隠しているだけかもしれないが、ブリニョルフから見て男は、内心が顔や態度に出やすい性質だ。

 自分が魔法に驚いたとき、明らかに動きがぎこちなくなったのを見逃してはいない。男も()()()()のようだ。

 仮にそれすらも演技で、全て男がこちらを油断させ罠にはめるため仕組んだことだと言うのなら、正しく「お手上げ」である。ブリニョルフは死に、ギルドの衰退は()調()()進む。それだけだ。

 そんな男に自分を、ひいてはギルドを無価値だと思わせないよう存在感を示すのは、最悪の場合、「こんな雑魚共なら皆殺しにして全て奪ってしまおう」と襲われてはたまらないからだ。

 とはいえ、男はおそらく、そう短絡的な行動には出ないとも考えている。

 職業柄、それなりに人を見る目はあると自負しているし、その上で警戒を忘れないだけの経験と鍛錬は積んできた。

 そして、予想が正しければ男はそれなりに善人だ。

 夜明けの、世界を切り開くような光を見て流した男の涙は、(まこと)のものであったと思う。

 その後、半ば打算で男の家族や友人のために祈ったが、その際、自分に向けられた感謝の念は、涙と同じく真のものだと感じた。

 

 我ながら、随分と入れ込んでいることだとブリニョルフは自嘲する。

 「この俺が()()()()()会ったばかりの人間の会ったこともない家族や友人のために祈るなんて」と。

 ギルドを出発して墳墓へ向かうときは余裕も無く、相当に刺々しい空気を纏っていた自覚がある。

 だというのに、その後の驚愕が問答無用で警戒心を吹き飛ばしたのか、短いながら男の見せるひととなりに絆されたのか。

 気づけば「兄弟」という呼び方も、妙にしっくりきている。

 初めは距離を詰める計算でしかなかったはずだと、一人苦笑するしかない。

 

「付いてきているな? 直に道が開けて簡易な木柵が見える。そうすれば、我らが憩いの場へ到着だ」

 

 男の信用を勝ち取るための、まずは一つ目の小さな約束を無事に守れそうだと安堵する。

 開拓村へ着いたら寝床を手配して、色々と話をしよう。

 そして男の就寝を確認したら泥のように眠るのだ。もうそろそろ限界が近い。「がんばれよ、俺」と自らを叱咤する。ここまで来てボロを出しては、何のために意地を張ったのか。

 更には、男が目を覚ます前に起きておきたい。ほんの些細なことだが、信用や信頼には積み重ねが大切だと考える。短くとも深い眠りになるよう期待したい。

 ブリニョルフは、自身の肉体に蓄積された疲労に辟易した。

 

 古代ノルドの墳墓への潜入の後だと、獣避けの木柵でさえ凱旋を歓迎する装飾に思えるものだ。

 その側に人影が見える。まずはあの者に声をかけて、村長に繋ぎをつけさせよう。

 開拓村は何かと物入りだ。幾らかの金銭を払えば、嫌とは言われないだろう。

 逆に、寝込みを襲われないよう、男に立木の一本でも倒させてもいいかもしれない。

 黒檀の鎧を纏ったドラウグルを、数体まとめて枯れ草のように薙いでいた人間なのだ。木の一本くらい、長柄の一振りで本当に倒してしまいそうだ。

 男の冗談めいた力の一端を見れば、愚かなことも考えまい。

 

 さて、人の第一印象とは馬鹿にできないものだ。

 村人へ声をかけるため、人好きのする微笑みを浮かべ、片手を上げて気さくに挨拶をしようとして ――――

 

 男が村人へ弓を引いている事に気が付いた。いや、気付くのに遅れたと言うべきか。

 

「なぁ兄弟? もしかしてあそこにいる村人に何か恨みがあるのか? それとも、寝床の確保に村ごと襲ってしまおうと? 今日は俺たち二人が出会った記念日じゃないか。必要以上の荒事はよしておこうぜ。それに強盗はあまり趣味じゃないんだ」

 

「ブリニョルフ。あれは、あの猫のような何かは、人、なのか? いや人らしくは見える。薪割りをしているからな。だが、猫だぞ?」

 

 男は言った。「迷子だ」と。不承不承といった様子で弓を下ろしながらもしきりに尋ねてくるこの男は、どうやら随分と遠くから来た迷子のようだ。まさか『カジート』も知らないとは。

 ブリニョルフは思う。これは厄介なのと関わったかもしれない、と。




名乗りはしましたが、作中で呼ばれることはほぼありません。

(※あくまで参考にさせていただくまでで、必ずしもアンケートの結果に沿うかはお約束できません) 文字数について質問です。拙作において一話あたりの平均が8000字強くらいらしいのですが、この文字数が長いのか短いのか、読者の皆様がどうお感じになっているのか気になりまして。私としては深く考えず、キリのいいところまで、くらいの意識だったのですが。一つ、ご協力よろしくお願いいたします。

  • 最低文字数(1000)で十分。
  • ~5000くらいはいるくない?
  • 今よりちょい短めで(~8000弱)
  • Don't worry.
  • もっと長くしろよ読み応えがねえだろハゲ
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