DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
また、麦茶太郎樣、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
一夜明けて。……正確には、夜明け前には全員が起床し、野営の始末を済ませた。
ラーナルクにしても、無理をしている様子はない。どうやら、野営であっても十分に心身を休めることができるようだ。加点一である。私の心配は杞憂に終わった。伊達に孤児だったわけではない、ということだろうか。盗賊連中はあれを精神的に甘やかすが、けしてぬるい育ちはしていないのだ。
東の空が白んでいるのを横目に見ながら、山中へと入った。
さて、ここから日暮れ頃まで歩き通しの予定だったか? これも『試し』である。本人曰く、体力的には問題は無い、らしいが、それが作戦全体を俯瞰して見たときに、『万全』であるのか、『それなりの余力があったと判断できる』程度なのか、そのあたりは見極めたい。
命を落とすことが無いよう、ないしは命懸けにならないよう事前準備が大切なわけであるが、鉄火場においてはそのような事態がまま起こり得るものである。そして大抵の場合、そういったときにこそ、気力体力が限界間際であったりする。というか、追い詰められた結果、諸々が限界を迎える、といったほうが正解だろうか。これは私の永い巡礼で得た経験である。
では、その不足の事態に際して、『万全の状態』で挑むのか、『それなりの余力』で挑むのか。どちらが望ましいかなど言うまでもない。
ラーナルクが昨日、どのようなつもりで「問題は無い」と発言したのか、その認識の深いところを見たい。
と、私が思考を巡らせていると、件のラーナルクから「質問をいいですか?」と声をかけられた。声量はかなり落としている。折角、街道にいるかもしれない賊を警戒しているのに、話し声で見つかっては間抜けもいいところだ。質問自体は問題ない。
「お父さん、すみません。昨日聞きそびれました。
お父さんは、戦力的にはそこいらの傭兵程度に抑える、とのことでしたが、それはお父さんの持つ不思議な魔法や指輪などの効果も含みますか?」
…………正直、指摘されるまで私もそこまで考えていなかった。直接戦闘も、魔法の類も、ラーナルクの言うとおりかなり制限しようと考えていたが、私の魔法や指輪の効果は、何も戦闘に関するものだけではない。
さて、どうしたものか。何もかもスカイリムの平均的戦士の水準に合わせるというなら、回復の奇跡なども使えなくなるわけだが。……いや、あまり意味が無いな。抑えるのは戦闘力だけにしよう。私はラーナルクへその旨を伝えた。
「ありがとうございます。では、今からでも構いませんので、隠密用の指輪を装備していただけますか?
たしか、姿をほとんど見えなくし、足音に至っては完全に消すという」
言われたとおり、ラットウェイ襲撃やブレックス一味襲撃の際に用いた、隠密用の三つの指輪を装備する。
折角声量を落としてまで話をしているのだ。私だけが足音を立てて移動していては意味が無い。
何より、ラーナルクを含めた三人は隠密行動が可能だというのに、私だけがそうでないとすれば、昨晩話した仮定そのとおりになってしまう。私が賊に対し正面からの囮役を買って出て、三人が背後から奇襲。単純に賊の討伐だけを考えるのなら悪くはないかもしれんが、取れる有効な戦術がそれ一つでは、なんのための『試し』なのかわからん。私はラーナルクの思考も試したいのだ。
などと偉そうに考えてはいるものの、指輪を付け替えて思ったが、これは私から言い出すか、言われずとも行っておくべきだったような気がする。非凡なる息子よ。頭の回らぬ父を許せ。この指摘は加点一である。後ろめたさをごまかすためではない。
普段なら戦闘の気配が近づくにつれ、今少し思考の冴えが齎される気がするのだが、此度はどうも鈍いように思う。
ラーナルクを試す、というある種の非当事者意識を持っているがために、緊張感が足りていないのだろうか。……あり得る。ついでに言えば、付き人が二人いることも大きい。正直な話、この面子であれば賊が十であろうが、討伐自体は然程難しくないように思うのだ。
ラーナルクがどのような手で賊を討つつもりなのかはまだわからないが、ここ数年での
失敗したかもしれん。『試し』を行うのなら、もう少し難度の高い案件にするべきだったか? いや、だがそもそも首長の兜奪還に同行させるかどうかの『試し』なわけで、あまり高難度ではそもそも試す意味がなくなり、だがそれがあまりにぬるくては『試し』にもならないわけで……。
私は、『やはり頭の回らない者が慣れないことをするものではない』、という教訓を得た。得たところで、数百年似たようなことを繰り返してきたこの身は、学習能力が極めて衰えているように思える。特に、頭脳に関して。
これが魔法の習得であれば、解釈、理解など、然程苦にするものでもないのだが。
今はまだ父を立ててくれる出来た息子であるが、私が戦闘力ばかりの阿呆だと真に理解してしまった場合、どんな目が向けられるのか。今から少々恐ろしくはある。
そうこう考えていると、山の木々から明るい地面が見えるようになってきた。どうやら、山裾まで来たらしい。
ラーナルクの様子は……十分に余裕がありそうだ。ウィンターホールド中を毎日走り回っている成果が出ているようである。加点一。
ただ、一つ問題が生じた。地図では難破船のすぐ側まで木々が広がっているように書かれているのに、実際には開けた海岸が広がっている。まだ距離はあるが、このまま進めば、見張りに見つかるかもしれん。
時刻から言っても、日暮れまではもうしばらく猶予があるようだ。山が地図より狭かったためか、一行の足取りが早かったためか、両方か。遅いよりはマシであろうが、いずれにせよ若干予定が狂った。
さて、我ら一行の長殿は如何なされるおつもりか。当初の予定通り、木々に隠れて夜を待つか、それとも何らかの手を打つか。
「一度、このまま木々に隠れて休息とします。短時間の仮眠を取ってください。それでも日暮れまでは猶予があるでしょう。折角ですから偵察を……」
言いかけて、ラーナルクの顔色が青くなる。なんぞ視線の先に化け物でも出たかと思い振り返るが、何もいない。さて、この存外顔に出やすい(慣れない者は「何を考えているかわからない」などと世迷い言をほざくが、私や盗賊連中ならすぐにわかる)息子がここまで取り乱す理由と言えば、一つしか思いつかない。私は十中八九当たりだろうと思いつつ、ラーナルクの反応を待った。
「…………お父さん、すみません。これも聞きそびれていました。
傭兵としてのノメイ氏、またはウィンターホールドの錬金術師としてのお父さんがこの討伐にかけられる時間的猶予は、どの程度ですか? 更に言えば、僕にかけられた期限はありますか?」
「おぉ、流石に気付いたか。安心しなさい。錬金術師としては、十日ほどは予定を空けると、皆に伝えてある。あまり住民やブレックスにも心配をかけるものではないからな。伸ばしても二日程度か。あまり意味は無いが一応答えておくと、凡蔵傭兵としてなら、この討伐が終わるまで、だ。
お前に対しては特に無いと言えば無いのだが、諸々鑑みて、半月から二十日ほど、と考えていた。そのあいだであれば、いくらでも時をかけて構わんぞ」
慰めのつもりで努めて明るい声色で返答したのだが、ラーナルクはこの世の終わりのような顔をしている。自分で気付いたのだ。減点を三十から二十五にまで軽減してやろう。あとでこのあたりの話もしてみるか。
しかし大袈裟なヤツめ。盗賊連中から話を伝え聞く限り、私の前でなければ、なかなかふてぶてしい態度でいることが多いようであるらしいのに。というか、一行の長がそのような顔をするものではない。
ひとまず、毅然としているよう窘めた。ラーナルクは頷き、指示を出す。切り替えはできたのか、声に力が戻っている。
「では、お父さんに偵察をお願いします。お父さんの指輪の力であれば、日が出ていてもまず見つかりません。そのうえ、遠見もできますから最適です。
できれば、船をぐるりと一周回るようにお願いします。外からわかる範囲だけでも、敵の配置が把握できれば大いに助かります。こちらからでは見えない裏手に、逃走用の穴や小舟が用意されているかもしれません。それを把握しているといないとでは、動きに違いがでます。追加の指示は偵察結果を鑑みて出します。……冷たい水に入らせてしまうのは心苦しいのですが。
そのあいだに、二人は休んでおいて。お父さんが戻り次第、休息を代わってもらうから」
物怖じせず、必要な行動、それを行う理由をきちんと伝える。良い指揮官である。誰だって面倒はごめんだ。「何だってそんなことをしなきゃならねえ」などと反感を持たれる前に、自分から説明を惜しまない姿勢を見せることは、けして損にはならない。加点二。
逆に言えば、そこまで言ってわからぬ愚図であれば、作戦前か作戦決行中にでも始末してしまうが吉であろう。使えない味方は強敵より厄介である。
が、一つだけ無理があった。私は水の冷たさ程度で凍え死ぬことはないのだが、これに関しては言っていなかっただろうか?
「概ね承知した。しかしラーナルクよ。私は、泳げんぞ?
正確に言えば、ただの人であったころには苦もなく泳げたのだが、不死人となってからは、不思議と泳げなくなった。鎧や服を脱いでも、足が付かない深さになると沈むのだ。
だから、船の裏手の偵察は、水深にもよるが、私では無理かもしれん」
「…………………………では、訂正します。少々遠巻きでも構いませんから、主に陸地から可能な限り難破船を探ってください。水辺は無理のない程度で大丈夫です」
私は了解の旨を告げて、木々の中から飛び出す。後ろから「お父さんでもできないことってあるんだ」などと聞こえる。随分と呆気にとられていたな。我が愛息は、この不出来な父をやたらと買い被っているようだ。おそらくだが、『できること』の
私の場合は、直接戦闘であったり、ソウルの業であったり、それを利用した魂縛や付呪であったり、この地では特殊な魔法であったり、錬金術であったりと、多少人には真似しづらい領域に手が届く、というだけの話だ。あぁ、最近死んでいないから忘れ気味だが、死んでも生き返るな。生者の営みも、可能だが多くは不要だ。
とはいえ、それだけと言えばそれだけなのだ。手持ちの情報からものを考えられるラーナルクの『できること』は、これからもどんどん増えていくことだろう。一方、私のそれはほとんど望み薄だ。叶っても数える程度だろう。
さてなぁ。このあたりの誤解というか幻想から目覚められたのなら、あれの悩みの解消の鍵になるような気もしているのだが。
しかし、それはつまり父としての威厳が損なわれるという恐るべき事態を同時に表してもいるわけで……。今度アーチルにでも相談してみるか。奴の息子も年頃だ。案外似た悩みを抱えているかもしれない。もし奴にこの手の悩みが無く、万一こちらを小馬鹿にでもしてきたのなら、ウィンドヘルムで『義侠のアーチル』を高らかに歌い続けてやる。
それはそうとして、一行の長から仰せつかった仕事はこなさねばならん。
身を隠せる起伏や岩などはあまり無いのだが、相手はブレックス一味ではない。見張りの視線を意識して立ち回れば、然程問題はあるまい。
まっすぐ近づくと船首側に出たが、陸に乗り上げるようになっており、高い位置が手前ではちと見づらいな。しかし、その一等高い
舳先に向かって右手は海だ。どの程度偵察できるかは海岸の形状にもよるのだが、ひとまずは回り込むべく海へ入る。私の指輪は足音だけではなく、足に当たる波の音さえ消してくれる。こういう事象を目にすると、竜の学院の探究心と技術力には驚かされる。とはいえ、我が友はその学院からいいように使われていたわけで。指輪は便利でも好きにはなれん組織である。
足が水に浸かってすぐに判明したことだが、存外すぐに水深が増すため、海に入っての偵察はほとんど不可能であった。木々の中から出たあたりで船尾側もちらと見ておいたが、船首側とさして変わらない地形をしていた。おそらくは、水深云々も同様だろう。
俯瞰して見ると、現在陸地となっている場所は、槍の穂先の如く海へ突き出す形になっている。これは全くの想像だが、潮が満ちて水嵩が増した頃、天候の荒れた夜にでもこの陸地に船腹を擦る、というか押し付けるようにして難破したのだろう。となると、この船はあまりウィンターホールドに立ち寄ることの無い船であったか、航海士がそうであったと考えられる。何せ、この場は入り江のようになっているため、詳しいものであれば、そもそも近づこうとはしないはずだ。何らかの事情があり坐礁覚悟で沖を避けた、とも考えられなくはないが。
いずれにせよ、このような事例を見て、これから加速度的に進むはずの町の復興を鑑みると、早急に灯台と港の整備を行う必要がある。海運が叶えば、物資の搬入も楽になる。町の住居は移住者の数に応じてその都度対応するとして、やはり先に灯台と港だな。物資があれば、住居の確保とて容易になる。移住者をまとめて運んで来ることもできる。私は頭の隅に、ブレックスへ相談する復興計画の優先順位について、記憶した。
ちなみに、海側へ舳先を僅かに過ぎたあたりで、一人、屋外にて寛いでいる賊を見つけた。こちらは見張り、というわけではないのだろうが、これで二人だ。
一度海から出て陸に戻り、船尾側へ移動する。その途中、船腹のあたりに三人の賊を見つけた。船腹は中程に大きな穴が空いている……というか船自体が二つに折れており、なんなら千切れているという表現が相応しいようにすら思う。何せ、外から船内が丸見えなほどなのだから。
甲板には渡しの橋がかかっていたが、船底付近にそれは見当たらない。賊も、別れた船底の右に二人、左に一人、といった具合だ。
勝手に塒に定めている賊に言っても詮無いのだが、自分達の居住空間くらい、もう少しマシにしてはどうなのだろうか。私達が襲撃する際、船内の移動が面倒ではないか。地上との連絡路も、階段が甲板へ向けて、一つ取り付けられているだけだ。そのほうが防衛しやすくなるのは理解できるが、そんなことは私の知った話ではない。
そのまま船尾側も確認したが、思ったとおり、船首側の地形と同様のつくりになっており、海からの偵察は困難であった。そのまま船尾から海を越えてまっすぐ視線を巡らせれば陸地が見えるため、移動してから遠目に左舷側の偵察ができなくはない。しかし、それをするには海を渡る必要がある。
ラーナルクは追って指示を出すと言っていた。今はあまり時間をかけず、一度戻るべきだろう。ついでに言うと、船尾で椅子に座って寛いでいる賊が一人いた。これで計六人か。
スカイリムの北の果の地で、賊が全員船の外に出て見張りを行っているとは考えづらい。残りは船内で休んでいるのだろう。
となると、賊の数は十程度という報告にもうなずける。ちと見張りが多いように思うため、正確には十から十五、といったところか。
さてさて、私は言われたとおりに偵察を終えたが、ラーナルクが出す次の指示とは何であろうか。息子の指揮下において行動する、というのも、存外悪い気分ではないな。頼もしく成長してくれたものだ。
その頼もしい長殿は、賊の数について、報告を受けて気付くだろうか。まぁ、おそらく問題あるまい。先程の顔色を見れば、己の行動を洗い直し、あらゆる想定を巡らせているはずだ。私が言わずとも思い至るだろう。
山裾まで戻り、見てきたことを報告する。付き人二人は「問題無い」とでも言うような表情。実際、そのとおりなのだろう。
ラーナルクはと言えば、少し考え込んでいる。私にこれ以上の失態を見せまいとしているのだろうが、あまり縮こまっても良い結果にはならんだろう。まぁ、それも含めて『試し』か。
「お父さん、お手数をおかけしました。お父さんの懸念どおり、現状、難破船に居る賊の数は、十五程度と見積もるべきでしょう。
ですが、
気付いた、気付いたな。一度失敗して精神的に若干の余裕が無くなった息子を見るのは、正直に言って楽しくない。だからこそ、本人のためにも見落とし無くことを進めてほしかったわけだが。気付いたな。善哉。いやまぁ、私は問題無いだろうと信じており、何の心配もしていなかったのだがな。加点三である。
「九日を超過しても成果が得られない場合、お父さんを除いた三人で更に数日張り込みます。それでも現状以上の情報が得られない場合は、把握している人数が全て、と判断して襲撃をかけます。
仮に、お父さんが離脱したあとにそれなり以上の敵増援があった場合、一人を使いに出して、こちらもウィンターホールドから増援を呼びます。
こちらの戦力が傭兵一人分減り、敵戦力に当初の報告と大きな開きができるわけですので、一度、態勢を整えることは道理と考えます」
不測の事態にも備えるか。いいぞ。完璧だ。加点五としよう。今が試しで無ければ、頭を撫でくり回しているところだ。私が人前でその手の触れ合いを行い、ラーナルクが嫌がったことは無いが、そろそろ見栄や外聞も出て来る頃合いだろう。ここ一、二年のあいだ人前では控えている。息子を可愛がりたいときに可愛がれないとは、なんと辛い役目であろうか。
「お父さんからの報告で難破船に留まっている人員の数はおよそ把握できましたが、賊働きのために本拠を離れている一行がいないとは限りません。我々の目的があの一味の討伐である以上、討ち漏らしがあってはいけません。更なる監視と偵察は必要です。
また、街道の監視を懸念して山中を通りここまで来ましたが、実際に監視がいるのかどうか、居るならどの程度なのかの確認も必要です。元々、仮に居たとしたら監視以外の全ての賊を難破船で一網打尽にした後、帰り道に討ち倒す予定でした。しかし、報告よりも大きな規模の一味である可能性が高まりましたので、偵察に時間をかけるあいだに、そちらも確認しておきます。
いずれにせよ確証を得ることは難しいでしょうが、『他に賊は居ない』という見通しくらいは立てられなければ、軽々に攻め入ることは悪手です。変事に気付かれて、こちらの把握していない賊が逃げ散れば厄介なことになります。
……二人共、休憩は終わりにして、適当に獲物を狩って来てくれない? あと水も。僕が用意した分では、とても足りないから」
ラーナルクの話しぶりは、私の顔色を窺っている、と思われないよう卑屈な視線こそ向けては来ない。が、付き人達に話している際にも、ちらちらとこちらへ視線を寄越してしまっている。これは、安堵からだろうか。自覚は無いが、私の顔はどうせまた締りの無いことになっているのだろう。仕方あるまい。私は『息子の凄いところ』が見たいし、ラーナルクは見せたいのだ。尤も、私は凄くないところも愛らしいので見たいが。
ラーナルクの指示に従い、付き人達は狩りにでかけ、私達は野営の準備を始めた。
ラーナルクは、先程気付いた失態を気にしてか一人でやると言っていたが、気付いたのならそれでいいのだ。少しずつ、必要な事柄を覚えて行けばいい。十三の子供が、そんなに気にすることなどないのだ。
それに何より、親子の共同作業というのが楽しい。枝ぶりの良い場所を選んで、四方からそれらを縄で寄せる。更に、折った枝の葉をうまく組み合わせて簡易の天幕とする。また、折った枝を立てるあたりに溝を彫り、雨が降っても天幕の中に水が染みてこないようにする。ついでに、天幕内の地面にも枝を敷く。
本当ならマンモスの毛皮でも出してやりたかったのだが、今回はラーナルクの見通しの甘さと急な作戦変更によって、物資が不足しているのだ。それを私が補ってやるのは、『試し』にならん。不測の事態での対応力も採点基準である。
などとは言うが、戦闘以外での私の魔法が解禁されたため、私がいるあいだに限り、薪は使わないことにした。煙で賊共に察知されてはつまらんからだ。鍋を温めたければ、少々面倒だが、私が直接呪術を用いるか、炎の力を持つ武具で温めるよう指示された。元の持ち主が草葉の陰で泣くかもしれんが、今は私の所持品なので、知ったことではない。
これは私から水を向けたのではなく、ラーナルクから言われ、決まったことだ。天幕を用意しているあいだに、ある程度吹っ切れたようである。使えるものなら親でも使えと、控えめに言ってこき使われた。
ソウルの業で取り出したマンモスの毛皮は不可で呪術は可というと矛盾しているようだが、ソウルの業を使う傭兵はおらずとも、火炎の魔術を習得している傭兵の存在は十分にあり得るため、だそうだ。理屈が立ったなら、それを使わず体力を浪費することこそ非合理かつ怠慢だ、と判断したらしい。これは寧ろ加点二であるな。正直なところ、弱い火を出し続けるのは、なかなか骨が折れたが。
野営の準備が整った頃に、付き人達が戻ってきた。成果は……兎が二羽か。時化た連中である。私が文句を言うと、「旦那じゃねえんですから、『狩りに行け』と言われて、言われたとおりに獲物を持ち帰れるだけ上等ってなもんですぜ」と返された。
理屈はわかるが、食べざかりの子供がいるのだから、せめて鹿くらいは獲って来いと言うに。
ここのところ、盗賊連中は我が愛息を鍛えるのに夢中で、己の鍛錬が疎かになっている気がする。というわけで、「罰として、狼か鹿程度の食いでのある獲物を持ってくるまで、狩りの当番は付き人で固定しては如何か?」と長殿に打診してみた。すると、まだ少年らしい線の細さを残す長殿はクスクス笑い、付き人達にそのとおり勧告した。言われた二人は「そりゃあねえぜ!」だのうるさいが、長殿が決めたのだ。文句は言わせん。宣言してもいいが、この笑顔を保つためにも、私は断固として狩猟当番を強いることにする。
そうして、適度な緊張感を保ちつつもなんだかんだと和やかな、休暇のような様相を呈した監視と偵察の日々が始まった。
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監視を続けて七日目。ラーナルクを筆頭とした討伐部隊の一行にもそろそろ焦りの色が見えてきた頃だが、凡蔵傭兵を名乗る男に至っては、何処吹く風、といった具合だ。
ラーナルクとしては父の前で確かな成果を上げなければ、という思いがある。しかし実のところ、男からすれば『試し』はもう終わったようなものなのだ。
男が今回の『試し』でラーナルクに求めたのは、戦闘能力などではない。そんなものは付き人達の話や、日々の稽古で『戦士足り得る』と既に認めている。見たかったのは、不完全な情報から状況を推察し、必要な手段を講じる手腕。現地で追加される情報と、変化する状況に対する柔軟な発想。つまりは思考力や判断力といった、対応力だ。
男は、自らの自覚のとおり、あまり頭が回るほうではない。だからこそ、同じ道程を辿りながらも、何度も命を落とした。そうして無理にでも戦闘能力を磨いたわけだが、同時に、事前の考察力と、現場での洞察力や判断力も培われた。これが有るか無いかの差は大きい。何せ、それらの力の有無を自覚し始めた頃から、自身の死亡回数が目に見えて減ったからだ。
事前に考え、現地でも考え、答えを出したのなら、肚を括って断行する。これができれば、初めて訪れる場所でも、然程苦戦することはなくなっていた。だからこそ、己が最も慈しんでいる息子に、それが備わっているのかを確認したかった。
こればかりは事前に通達していては『試し』にならない。そのため、兜奪取前の『試し』を「親のわがままだ」と言って煙に巻いたのだ。計画を進めたいブレックスにも、「肝心な場面で己が何をすれば良いのかもわからぬ愚図では、役に立たん」と自らの経験を踏まえて話を通した。彼の頭目をしても、それは道理だと認めざるを得なかった。
これで、ラーナルク本人の希望する稼業が自由気ままな冒険者だ、というのならば、『試し』など必要なかった。戦闘で遅れを取ることはまず無いだろうし、その能力すら年々高まるであろうことを鑑みれば、何の心配もはいらない。盗賊の、敵の意識の隙を付くいやらしい戦法も使える。それなり以上にやっていけるだろう。
しかしブレックスや男には、ラーナルクに任せたい仕事がある。それは本人の悩みを解決する一助にもなると考えているし、うまくことが運べば、幾つかの面倒事も消えて無くなると踏んでいる。
だが、それも本人にある程度の自負があってこそ、だ。それが無ければ、話を打診した途端に、ラーナルクと男の築いてきた関係が全て崩れかねない。自分には力がある。だからお父さんは自分を頼ってくれた。ラーナルクに芯からそう自覚させるためにも、『試し』が必要であったのだ。
そして、ラーナルクは既に男を満足させるだけの力を見せた。言ってしまえば、男にとってこの先の襲撃などは、消化試合のようなものだ。討ち取られる賊からすれば、冗談ではないだろうが。
男としては、自分がいるあいだに別行動を取っていた賊が合流すれば良し。一切の躊躇無く一網打尽にする。自分の離脱後に敵戦力が合流した場合、愛息が危険な目に遭わないとも限らないが、そのときは建前を捨ててその身を守るつもりでいる。とはいえその場合は、ラーナルク自らが「態勢を整える」と口にしたのだ。無理はすまい。仮に現状の敵戦力へ襲撃をかけるにしても、三人で十分だろうと踏んでいる。
更に言えば、男がラーナルクに伝えた、自らの滞在期限が十日だ、というのは、全くの嘘である。実際はラーナルクに伝えた二十日を最大期限として、相談役を通じて町には報告してある。そのため、ラーナルクへ告げた期限を過ぎたあとは、距離をとって陣取り、一部始終を見届けるつもりでいる。万一愛息に危険が迫っても、遠見遠射の鷹の指輪を装備し、ファリスの黒弓に『羽根矢』を番え雨霰と降らせる気でいる。場合によっては、弓矢を『鬼討ちの大弓』と大矢に変えてもいいとすら考えている。その場合、人であった賊がただの肉片となり、装備品などの戦利品が目減りするだろうが、些細な問題である。
どれだけ厳しく『試し』だなどと言ったところで、本当に死なれてしまえば元も子もない。危なくなれば、躊躇せず助けるつもりでいる。
それはそれで、かえってラーナルクの悩みが深刻化しそうではあるが、力量の足りない者を更に危険な場所へ同行させるわけにもいかない。その場合は、また別の手を考えるか、長い時をかけて諸々を解決するしかないだろう。
ある程度の割り切りは見せたラーナルクではあるが、張り込みが長引くにつれ、自分の犯した失態が脳裏に過るようになった。余裕が出て来た、と言えなくもないが、襲撃に備えた今の状況では好ましくないだろう。
男は夕餉の際、悩める青少年である息子を自分の隣に座らせ、話をすることにした。訴えかけるのではなく語りかけるときは、対面ではなく隣がいい。
「ラーナルク。父が一つ、お前が今、何を考えているのか、当ててやろう。町を出る前に、この討伐指令の期限を確認しなかったことを気にしているな?」
ラーナルクは図星を突かれ、一瞬息を呑んだが、認めないわけにもいかない。ゆっくりと頷いた。付き人達は様子を見守っている。
「これがなぁ。お前が『冒険者になりたい』とでも言うのであれば、別に問題は無かったのだ。
基本的に首長府が冒険者へ討伐指令を出すときは、失敗を織り込んでいる。それはそうだ。自らが誇る衛兵隊でもない、何処の馬の骨とも知らない者が、何故戦力としてあてにできる? 相手はごろつきに毛が生えた程度の存在だ。
だから期限なども無い。達成されれば儲けもの、といった話だ」
もう少し正確に言うならば、首長の従者などに納まり、そのうえで冒険者として活動するのならば、少なくとも戦力としては見られているだろう。だからこそ、執政から名指しで指令を下されることもある。
しかし、酒場や宿屋で触れを受け取るだけの場末の冒険者に、為政者側が何の期待をすると言うのか。そのような自分の目の届かない場所での話まで勘定に入れる考えの甘い首長が居たとすれば、親族か側近がその地位から引きずり下ろすだろう。
「しかし、今のところお前が冒険者になりたいと言い出したことは無い。父の見る限り、そう思っている節も無い。
であればだ、お前にはそのうち色々と仕事を頼みたいと、私やブレックスは考えている。そうなると、お前に期限の無い仕事など
ラーナルクは男やブレックス一味が町を牛耳ろうとしていることは知っている。そのために、多少後ろ暗いことに手を染めていることも。その手伝いをするとなれば、期限までに、案件を確実に成功させる。それが前提条件となる。失敗した際の副案も有ろうが、大なり小なり計画の見直しが必要になるだろう。そして、重要な案件ほど、失敗したときの修正度合いは大きくなる。故に、それは許されない。おそらくは男が出張ることになるはずだ。
ラーナルクとしては、そんな重要な案件に取り掛かる「お父さん」の助けになりたいのだ。ならばたしかに、自分に、失敗しようがいつ成功しようが構わない、などといった気楽な仕事が回ってくることはない。
ラーナルクは再び頷いた。今度は、先程より力が無い。
「お前は賢い子だ。十分すぎるほど身に沁みていることだろうが、もう少し付き合いなさい。お前が生涯、今日の日のことを忘れないために、だ。
……あるところに一人の英雄が居た。名はグンダ。私個人とは友でもなく矛を交えただけの間柄であったが、人々は彼を『英雄グンダ』と呼んだ。父も二度戦ったのだがな、とんでもなく強かったぞ。特に二度目だ。大柄を自負する父に倍する体躯。それに見合った大振りの斧槍と重厚な鎧兜。何より、その重量に見合わぬ機敏な動き。想像してもみなさい。デカくて重いヤツが速いのだ。弱いわけがない。『ズルをするな』と思ったほどだな。
最初、父は、自らの持つ指輪のような、魔法の装備を身に着けているのだと思った。しかしグンダを討ち倒したあとで装備を検分したが、それらしい効果は無かった。彼は己が身一つで、それだけの強さを身に着けたのだ。正に、『英雄』と呼ばれるに相応しい男だった」
ラーナルクは逞しい想像力で、グンダの巨躯と、その戦う姿を思い描いてみた。「お父さん」に倍するとなれば、それはもうほぼ巨人だ。それに見合った斧槍? どれだけ長くて重いのか。常識的に考えて、それは鉄塊であり武器ではないだろう。そして、盗賊ですら捉えられない速さを持つお父さんが言う『機敏』な動き。口には出さないが、ラーナルクは男と同じく「インチキだ」と思った。英雄と讃えられるのも無理からぬことである、と。
「しかしなぁ。彼はこうも呼ばれた。『遅れてきた英雄』と。……私がスカイリムに来る以前の事情、話は覚えているな? 私が火の無い灰……いやまぁ、薪の王としての残り火があるわけだから、『火の無い』というのもちと違うのだが、今は置いておく。
私が灰として呼び出されたのはな、グンダが、彼が継世とも言うべき火継ぎに
ラーナルクは、男が言いたいことも、このあと言うだろうことも理解していた。それでも、男の言葉を待った。お父さんの声で以てそれを聞き、記憶に焼き付けるために。
「お前に任せる仕事如何で、世界がどうこうなることはまずない。しかし、仮に失敗した場合、それによってかけがえのない者を失うなり、取り返しのつかない事態になるなり、そういった可能性は十分にあるのだ。
彼の英雄は絶望から命を絶つことも無く、いつ訪れるかも知らぬ未来に望みを託した。それがどれだけの覚悟を必要とした決断であったか、父には想像することしかできん。だが、あまりに悲哀に満ちたものであっただろうことは、理解しているつもりだ。
我が愛しの子よ。頼むから遅れてきた英雄になどなってくれるな。世評などは、どうでもいい。私にどう思われるかなども、どうでもいい。お前自身のために、為すべきことを為し、成すべきことを成し遂げなさい。
……父の説教はこれで終わりだ」
ラーナルクが焼き付けようと考えたその声は、酷く哀愁漂うものだった。おそらく、その英雄と自らを重ねているのだろう。
本当は「でもお父さんは
グンダなる男は、お父さんに大きな
だからといって、男の思いを無駄にはできない。自分はけして『遅れてきた英雄』などとは呼ばれない。そうならないために、全ての力を尽くす。あえて微力とは言うまい。普段から鍛え、備え、思考を止めず、難に臨んでは須らく達成してみせる。
ラーナルクは、自らの失態でお父さんにあのような哀愁を齎さないと、固く誓った。
話しているうちに夕餉も済んだため、ラーナルクは天幕に下がった。今日の夜番は付き人の二人が担当する……のだが、無駄に殊勝な顔を浮かべている。男のした話の規模が御伽噺に過ぎて、どう反応すれば良いやら、迷っているのだ。それを見た男は二人の頭に手刀を落とし、「盗賊が腹を読まれてどうする」と叱っている。そして、自分が離脱するまでの夜番を申し付けた。情けない声を上げる付き人達だが、お父さんの真剣な話をどこか他人事として聞いている連中が悪い、とラーナルクは少しいい気味だとすら思った。
ラーナルクは横になり目を閉じても、先程聞いた話を、繰り返し、繰り返し脳内で思い出していた。お父さんの声を。夕餉の香りと味を。俯いていたために並んで見えていた、自分とお父さんの足を。爽やかな夜風を。五感全てで、父の教えを聞いていた情景を記憶しようとした。
既に、絶対に忘れない、という自信はある。それでも、父が自分に伝えたかった思いを、余すところなく血肉にしたかったのだ。それは、「これ以上は翌日に障る」と判断する時刻まで、ずっと続いた。
翌日の昼、見張りに立っていた父がラーナルクに告げる。
「吉報だぞ我が息子よ。骨の有りそうな輩が、手下を率いて難破船へ向かっている。おそらくあれが頭目だろう。荷車に戦利品も見えるな。襲撃は楽しくなりそうだ」
からからと笑う男を見て、「お父さんのそういう感覚だけはまだわからないな」と思うラーナルクであった。
減点の緩和あたりから、採点がガバくなっていくポン。
それから、二度目の感想強請りです。
私生活でやることなすことうまく行かず、メンタルがガッタガタです。執筆へのモチベーションも引き摺られてヤッバイです。
ので、感想や評価などで助けていただけると有難いです。