DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
一応戦闘回なので、多少は爽快感もあるかと。
また、麦茶太郎様、geardoll様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
昨日の昼、こちらの読みどおり出稼ぎに出ていた賊が塒へ戻ってきた。
出稼ぎ組は全部で八人。難破船にいるのが十五程度との見込みであるため、全部で二十五弱、ということになる。賊にしてはそれなりの大所帯と言えよう。
出稼ぎ組の帰還を受け、襲撃をかけるとラーナルクは決めた。そろそろ私の告げた期限が迫っていることもあり、このあたりで区切りとしたようだ。実際、時をかければかけるほど良い、というわけでもない。賊による被害は拡大するし、その分だけ首長府に寄せられる失望の目は増える(尤も、ウィンターホールドは未だ町以外の村々について手付かずであるため、略奪を受けたのは、他地方である可能性が高いのだが。外交上、「本拠が自領にあるにも拘らず何の手も打っていない」などと咎められては不味いのだ)。
襲撃をかけるにしても、別に私という戦力云々が大きな要因ではない。塒にある調理場や天幕の数を見れば、難破船の中で居住している者共を勘定に入れたとしても、おおよその人数は割り出せる。賊の頭目らしき別働隊(あるいは本隊)が戻ったことで、その数に合致したのだ。ならば、これでほぼ全員が揃ったと判断し、行動に移るのは悪い考えではないだろう。
ラーナルクの説明によってそれらの考えが一行に共有された。凡蔵傭兵としては、雇い主の言い分に従うまでである。
作戦、というほどでもないが、段取りはこうだ。
まず、連中はそれなりの戦利品を得ている様子であった。余程
あるいは、奴等なりの品を捌く経路があり、そこへ乗せるために戦果到着直後は慌ただしくなるかとも思ったが……その様子もない。
分捕った武具に血や泥が付着しているのに、特に気にした様子が無い。私はブレックス一味の無駄のないやり口に慣れてしまったが、腕っ節のみを頼る小規模な悪党など、その程度なのかもしれない。あぁ、勿体ない。すぐに洗えば、錆や変色も抑えられると言うのに。
私は、もう少しで我々の戦利品になるであろう武具を遠目に見ながら、雑な扱いをする賊共に苛立ちを覚えた。我々の懐に入る金銭を目減りさせるとは、許せん輩だ。そんなことだから賊なのだ。
更にあるいは、奴等が文字どおり夜通し騒ぎ続け、そのまま夜明けを迎えるかもしれん。その場合は、払暁と同時に西から攻め入る。
不思議なもので、多くの者は日の出に際し、東の地平線へ目を凝らしてしまうものなのだ。これは、世界の別を問わず、人という生き物の本能なのではないかと思うことがある。
だからこそ、その反対側から。そして、襲撃に気付いた者から優先的に仕留めていく。
これが昼間であり、『日を背にして山の斜面から逆落とし』というのであれば、陽光を背にする意味もあるだろう。だが、日の出の光量では然程目に負担はかからん。であれば、単純に意識の逆をつくほうが得策であろう。それでも逆光であれば、卑怯戦法の細工がバレにくいという利点はあるのだろうが、ラーナルクはそれよりも不意打ちの優位性を選んだ。
襲撃にあたっては、私の教え、というよりは盗賊の流儀が採用されることになった。つまりは不意打ちをするにしても、敵の強弱云々より、とにかく静かに、とにかく素早く、確実に無力化していく、とのこと。
もし手強そうな者が居てその妨げになりそうな場面があったなら、全員でかかってでも迅速に黙らせる。大切なのは、賊に対し圧倒的少数である我々が、如何に連中を
……盗賊連中の『盗みに殺しはナシ』『仕事はスマートに』という心情は知っているつもりだが、こと戦闘になった途端、完全に暗殺稼業の人間に早変わりするのはどうなのだろう。此奴等が血生臭い話に慣れているのか、それともこんなことは序の口で、本職である闇の一党は更に驚くべき腕前を備えているのだろうか。以前にもあまり近寄りたくないと思った集団であるが、今回の一件で、私は更にその念を強めた。
そして、あわよくば奇襲攻撃で全員を片付けられれば御の字だが、まずそうはならない。その場合はラーナルクの合図で攻撃に移る。その際、敵頭目の相手は私の担当である。
これは、純粋な戦力の配分として、戦士である私は頭目の足止めに注力し、盗賊たる付き人達やラーナルクがその素早さを遺憾なく発揮して取り巻きを迅速に倒す、という役割分担からだ。今回私は凡蔵傭兵だと断ってあるのだ。実際、そのあたりにしか使い道は無いだろう。
一応、別に死なれても構わん傭兵を最も厄介な相手にぶつける、という意味もある。時間が稼げれば、死んでくれても良し、と。
更にいえば、頭目を中心として見るなら、比較的外周に位置する取り巻き共を倒すよう指示を出した場合、彼我の戦力差に怖気づいて、傭兵が逃げ出すかもしれん。その点、敵の中心にぶつければ、どうやっても逃げようがない。その場合は傭兵を納得させるだけの方便が必要だろうが、まぁあれなら上手にやってみせるだろう。最悪、頭目の目の前に蹴り出してしまえばいい。
このあたりも含めて、作戦は全てラーナルクが立てた。付き人達も助言程度はしていたが、私が睨みを効かせていたため、核心的な部分には踏み込んでいない。大筋はラーナルク一人で考えたものだ。
昨晩、私は此度の『試し』で伝えたいことの大概を伝えている。あれが最後まで気付かなければ、町に帰還した後、加点減点を含めて説明と説教をするつもりであったのだが。実際そうはならなかったのだから、作戦の大まかな動きと襲撃方法を加味して、加点二だ。
ラーナルクと付き人達は更に念入りな作戦を決めようとしていた。曰く、頭が居るのは船内のどのあたりであると予測されるため、それと対峙するのは後か先かどうのこうのと。
話し合っているところ申し訳ないとは思ったのだが、それ以上の作戦会議は私が中断させた。あまり綿密な打ち合わせをされても、凡蔵傭兵たる私がついていけない。場合によっては、足を引っ張ることに成りかねん。現場で想定外の事態に直面することもある。土壇場に当たっては、『高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する』程度で良いのだ。それで問題があるのは軍団規模同士の衝突での話である。今の私達には関係の無いことだ。
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夜になった。
武具への処理の甘さから予想できたことだが、賊連中は宴を楽しんでいる。何もせずとも敵が勝手に弱ってくれるなど、凡蔵傭兵を名乗る男にとって、スカイリムに来るまで有り得ないことだった。男としては「楽ができていい」と思う反面、些か冷めた目で見てしまう。
今なお宴は続いているが、ラーナルクの号令の下、討伐隊一行は既に難破船近くにまで接近している。強かに酔った者から天幕や船内で横になろうとするだろう。それを順に処理していくのだ。
それに、よく見れば数人の女も見える。捕虜ではなく、賊の一味として、だ。酔いに任せて行為に及ぼうとする輩も出るだろう。一行としては願ったり叶ったり。隙だらけのところを手早く始末できる。
男とラーナルクは二手に分かれ、それぞれに付き人が一人、付いている。
男にはラーナルクの、襲撃に関わる全ての行動を見届けたいという欲がある。緊張感も何もあったものではないが、事実そうなのだ。しかし、賊働きや暗殺行為の採点など、男にはできない。不足の事態に陥った際でも、咄嗟の対処を任せられるのは、本職である付き人達であろう。男が死んだところで野営地にて復活するだけだが、当然ながらラーナルクは一度死んでしまえばそれまで。最大限安全性に考慮しての人員配置となった。
この配置もラーナルクが言い出し、男は胸中で加点一だなどと考えつつ、親子双方にとって甚だ不本意な決定ではあった。互いが互いに、日頃からの鍛錬の成果を見せたい、見たいと望んでいたためだ。二手に分かれてから、付き人達は共に上役である親子のご機嫌取りに苦心した。
実際にはそれが必要であるほど未熟でも阿呆でも無かったが、親子は、特に父親のほうは息子のこととなると、途端に堪え性が無くなる傾向があった。襲撃前ということを鑑みれば、少しでも心を平静に保ち、普段どおりの挙動を心掛けなければ、思わぬ事故につながるかもしれない。
付き人達から見て、ラーナルクは問題無いと思われた。必要なときに理屈で最善手が理解できたなら、迷わずそれのみに傾注できる胆力がある。
問題は、繰り返すが父親のほうだ。『試し』だと口にして町を出てから、どうもいまいち集中していないように思える。大概の脅威を片手間で跳ね除けられる人物であることを思えば、面と向かって文句を言うのも憚られたのだが……。
ラーナルクと、一時、別行動を取ることになり、目に見えてやる気が無くなっている。この『試し』に出てから、平常心を心掛けながらも張り切る愛息の姿に目を細めていたために、山場を自ら観測できないことが歯痒いのだろう。気持ちはわかるのだが、何ぞ
一行は、男達が船首側の物陰、ラーナルクともう一人が甲板に潜伏した。付き人が男を宥めていると、賊に多少の動きが見える。
焚き火を囲んだ酒宴から一人離れ、千鳥足で船へとつながる階段を登る者がいる。身に着けている品も悪くはない。天幕ではなく船内で生活しているあたり、賊の中でもそれなりの立場の者なのだろう。だが、無防備な姿を曝してしまえば、それも無意味だ。
集団から離れて船内に下がる最初の一人は、あえてラーナルクが担当することになっている。ラーナルクは他者の命を奪うことに抵抗が無いが、まだ直接的な殺人は未経験である。討伐の一行の誰一人として、ラーナルクがその程度でしくじるとは考えていないが、この場で
ならないのだが、凡蔵傭兵はその凡蔵ぶりを遺憾なく発揮し、歯ぎしりをしながら賊を見送った。付き人もそろそろ、いい加減にしてくれと青筋を立てている。
ふらふらと頼りない足取りのまま自室であろう部屋まで辿り着き、寝台に転がる賊。しばらく酔っ払い特有の意味のない挙動を見せたり、何事かを呟いているが、それも少しして止んだ。
ラーナルクは一人、部屋へ侵入し、細い棒状の暗器を取り出す。先端は鋭く尖り、中程と石突には垂直に交わるよう、短い持ち手が付いている。掌底で固定し、指二本をかけ、挟む形だ。
それを、酔いつぶれた賊の心臓目掛けて、寸分の躊躇いも見せずに差し込む。そのまま、傷口を広げないよう注意しながら二度三度と角度を変えて抜き差しし、心臓を破壊する。
酔った賊は、僅かな吐息を聞かせただけで、永遠に沈黙した。
わざわざ暗器を用意したのは、少数対多数が既定路線であり、夜間の襲撃が想定されたためだ。
殺すだけなら短剣一本あれば事足りるが、それでは血の臭いで賊に襲撃が発覚してしまう恐れがある。毒を用いたとしても、確実性に劣る。ならば、初めからほとんど出血させない暗器を用意し、更にそこへ毒を塗ればいい。
ラーナルクは討伐案件の期限確認こそ怠ってしまったが、賊の殲滅に対しては、極めて
普段はこの手の暗器を好まない付き人達も、作戦の内容と敵集団の数から、やむを得ぬこととして揃いの装備を所持している。
どうでもいいことではあるが、凡蔵傭兵にはその手の装備は持たされていない。扱おうと思えば扱えるのだが……。男の場合、戦闘力を下げたところで、鈍器を用いて頭蓋を損傷させるか、首を折ってしまうほうが早い。
事実、ラーナルクから「お父さんの分は用意していません」と言われている。ラーナルクとしては「お父さん」への信頼の証、という側面もあるのだが、当の「お父さん」は、支障は無いと思いつつ、若干の疎外感を覚えてもいた。
とにもかくにも、ラーナルクが使い物になることが付き人にも理解できた。一般的には童貞喪失にはそれなりの感慨や衝撃があり、茫然自失となる者も少なくはないのだが、ラーナルクにそれらしい反応は無い。
予想していたことだが、ラーナルクは極論『自分とお父さん(とついでに盗賊達)を除いた全ての命は、自分の益になるかならないか』という価値基準で眺めている。せいぜいトルドスくらいは、
この様子を初対面の者が見たなら『薄気味悪いガキ』だとでも思ったかもしれないが、この場には、ラーナルクが
閑話休題。
ラーナルクの仕事ぶりを見届けた途端、若干離れた位置に居た付き人の一人が動き出す。既に一人目の賊に続き、二人の賊がそれぞれの部屋で高鼾をかいている。付き人は音も無く二つの部屋を出入りし、これらを素早く処理した。大切なのは、一見しただけでは死んだと気づけないようにすることだ。匂いのきつい酒を傷口にかけたり、死体の姿勢をいじるなど、多少の細工をほどこしている。
首を壁際に向けるなどはまだ常識的だが、加害者たる付き人やラーナルクが接近した時点で酷い寝相を見せていた者などは、適当に姿勢や寝具を乱しておく。中には、前衛的調度品に見えなくもない奇抜な姿勢を取らされた賊もいる。この場に、死者への冒涜が云々という説教をする八大神の司祭はいない。いるのは一人残らず悪党である。
同様の手口で五人ほど片付けたあと、付き人が船外の物陰に潜む男へ合図を送る。男は傾いた甲板のあたりを目掛けて魔術を放ち、
その後、二人ほどを同様の手口で始末したあたりで、船内での暗殺は切り上げることにした。ラーナルクと幾らかの戦果を上げた付き人は、男達とは反対側、船尾側の物陰に潜む。
船外の酒宴で盛り上がっている頭目や、その側近が天幕暮らしだとは考えづらい。もう何人かは、宴が終われば船に戻るだろう。しかしその様子はない。
ならばと、付き人達は大胆にも酒宴に近づくことにした。そして、酒で火照ったまま焚き火の周りで眠っている者を、船内同様に排除するつもりなのだ。
動き出す直前に「見とけよ」と言われたラーナルクも、「旦那は今暫くここで」と言われた男も、目を見開いている。
たしかに、焚き火の周りではしゃいでいる者達の影に紛れれば、近づくことは可能かもしれない。そも、光源としての火は不安定だ。風に揺れ、薪の組まれ方にも左右される。そしてそれを囲む者達も、酔いに任せて好き放題に騒ぎ、はしゃいでいる。焚き火の外周は、常に影が不規則に舞い踊っている。
それに紛れて伏せた姿勢のままで近づけば、目立たないうえに動きを見られても光と影の錯覚だと思われる可能性はないでもない。
しかしそれでも、たった二人で二十人近い集団へ近づく、その胆力が凄まじい。あるいは、酒に酔った賊に見つかるような腕前はしていない、という絶対的な自負の為せる業やもしれないが。
北に位置する難破船に対し、南側。たかが焚き火とはいえ、船体に反射した光で若干明るくなっている。潜むには不向き。
よって付き人達は、東西から挟み込むように忍び寄る。下卑た笑い声の中心から離れて、横向きに眠る一人に狙いを定めた。射程圏内まで近寄り、己の身体は標的のそれへ完全に隠しながら、肋骨の隙間を通して心臓を刺し、鼓動を打つ力強い臓器を、力の入りづらい不安定な姿勢からでも確実に止める。
暗器を差し込む位置は脇からとした。体位と心臓の位置関係上、心臓の上部から刺さなければ、血が漏れ出やすくなる。そのまま、賊の近くに転がっていた酒を死体にかけて、離脱する。
同様の手口を用い、西で二人、東で六人。
東の戦果は望外のものだ。眠りこけていた者の他にも、気分が昂り二組の男女が睦み合っていた。最良の気分のまま静かに素早く意識が途絶えたのだから、比較的
船内での不意打ちを合わせれば、襲撃作戦は、賊一味に察知されないまま、その半数近く葬る上々の滑り出しを見せた。付き人達は更なる戦果拡大を狙って様子を窺ったが、少し嫌な予感がしたため、示し合わせるでもなく同時にそれぞれの上役の元へ戻った。
二人が戦果の報告をしている丁度そのころ、気分良く酒を飲んでいたはずの頭目の顔から表情が抜けた。口元の杯を下げ、右に左に首を巡らせ、言う。
「臭え。船を見てこい。天幕に下がった連中もだ」
一部、酒が回って反応できない愚図もいたが、それだけで残りの賊のほとんどは、自分達の頭目が異常事態を告げていると察した。
酒を捨て、雄叫びを上げつつ素早く自らの得物を手にする。頭目が「臭い」と言うのだ。ならば丸腰で動き回るのは自殺行為に他ならない。
賊の反応を見て、付き人達は顔をしかめる。結果論だが、宴の側にまで接近したのは悪手であったかもしれない。それより、毒矢の早打ちで奇襲をかけてしまったほうが、被害を拡大できたのではと思う。混乱も誘えただろう。
ラーナルクの大方針に従っているとは言え、作戦会議では自分達にも発言が許されていた。経験不足を補うための先達だろうに。奇襲するにしても、静と動の線をどこに引くのか、それを教えるのも自分達の役目のはずだ。
凡蔵傭兵を名乗る男からすれば、それすらも含めた全ての結果でラーナルクを判断するのだろうが、僅かでも『良い出来である』と認めさせてやりたい、盗賊達の親心である。
ついでに言えば、この手の勘所について採点官たる男は、文字どおり凡蔵なのだ。繊細な静と動の線引など、説明されなければわからない。この点に関しては付き人達の杞憂というものであった。
男としては、奇襲をしかけ、発覚すれば純粋な暴力で殲滅すればいい、と考えている。その暴力が厄災と言うべき異常性を伴い、大概の場面を突破できてしまうから、また性質が悪いとも思う。凡人であろうが天才であろうが、人には人の定石というものがある。神の基準で物を考えないでほしい。付き人達が常に抱える悩みの一つだ。
どうする? 賊が異変を察知するのは時間の問題であり、その猶予はほとんど無い。討伐隊の視線がラーナルクに集まる。
ラーナルクが短剣を取り出し、大振りに後ろから前へ宙を斬りつける。全面攻撃の合図だ。
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久しぶりの奇襲らしい奇襲は楽しかったのだが、私はほとんど物陰で待っていただけである。正直に言えば暇だった。
その鬱憤を晴らすかのように、私は黒鉄の鎧を身に纏い、頭目らしき良い鎧姿の男へ目掛けて、猿声を上げつつ吶喊する。私の役目は頭目の足止めと、敵全体の目を惹き付けることだ。目立ち、かつ時間を稼がなければならない。
その点、黒鉄の鎧は丁度良い。闇に紛れる黒が敵の警戒心をかえって違和感無く集め、無骨な造りは黒いドワーフ製か黒檀の鎧に見えなくもなく、然程奇異でもない。そして何より強固である。戦闘力を抑える代わりに、装備は多少良いものにした。
「何だ、手前は!」
問いかけながらも、両手持ちの戦斧を振り下ろす頭目。悠長に話をする間抜けではないとわかったのはいいが、それでも聞いてしまうのは
「冒険者以外の何に見える? 酒場で良さそうな討伐案件を見つけたんでな。小遣い稼ぎに丁度いいと思って来た」
折角の宴を邪魔されたことか、それとも、騒ぎになっているにも拘らず動く人員の少なさから、ある程度の被害に見当を付けて怒っているのか、頭目は自ら攻撃することを止めない。
本来であれば、数で圧倒してしまえばいいのだ。それが、私が頭目に吶喊すると同時に、四つの悲鳴が聞こえた。おそらくはラーナルクが二人、付き人達がそれぞれ一人ずつを不意打ちで倒している。これで頭目を除けば残りは七人程度である。
剣戟の音や悲鳴は聞こえるものの、こちらの三人は闇に紛れて動き続けるため、相手はまだこちらの総戦力を測りかねている。少数精鋭だとは感づいているだろうが、だからと言って特別な手が打てるわけでもなし。頭目は見えている相手から確実に殺していくしかない。つまりは、私だ。
時間稼ぎと思って初めは塔のカイトシールドと無強化のロングソードを用いていたが、ちと思うことあって無強化の『サイズ』に持ち換えた。これは名前こそ大鎌であるが、正しくはバルディッシュと呼ぶべき長柄の大鉈だ。使い勝手はいいのだが、ポールウェポンとして優秀なハルバードを愛用しているうちに、半ば忘れ去られていた不遇な武器である。出番を作れて良かった。気のせいか、武器も喜んでいるように思える(ちなみにどちらも無強化であるのは、下手に強化した得物では、相手の得物や鎧ごと、撫で斬りにしかねないからだ。凡蔵傭兵の戦闘力ではあるまい)。
で、だ。長柄同士、既に数合打ち合っているわけなのだが……。この頭目、それなりに
頭目の唐竹の一撃を右に躱し、やや流れた体勢から踏ん張る反動で、掬うようにサイズを首元へ斬り上げる。
それを見越していたのか、頭目は仰け反りながら切っ先を避け、あまつさえサイズの柄を蹴り上げる。
重量武器が意図せず跳ね上がったのだ。私の両手は得物と共に頭上にあり、胴はガラ空きである。
薙ぎが来るかと思ったが、直前で軌道が
だが大人しく片足をくれてやるわけにもいかん。頭目の狙いは私の左足、脛から甲。ならば逆側の右足で地を無理にでも踏みつけ、持ち上がった左手を肘打ちでもするように引き付ける。
結果、不安定でも左足一本を浮かせるくらいはできた。できたのならば、逆も然り。
頭目の戦斧が地を抉るが、その戦斧の腹を浮かせた左足で踏みつける。斜めになっていた腹を踏んだがために、持ち手にも無理が生じたらしい。頭目に一瞬の隙ができる。そこに、万歳から解放されたサイズの石突で鎧の最も厚いであろう箇所を狙い、突きを放つ。
横蹴りを放ちたかったのだが、体勢を整えることにした。頭目の変則的な一撃を躱すために妙な動きをしたため、足下がお留守なのは事実だったのだ。
やや距離ができたが、頭目が攻勢を緩めることはない。すぐに距離を詰め、勢いそのままに戦斧を振るう。
襲撃されているのだ。それも、複数人から。可及的速やかに目の前の敵を排除しなければ、事態は好転しない。ならば問答も無用。気合や雄叫びを上げはしても、ただただ攻撃あるのみ。
悪くない腕を持ちながらも戦術の幅が限定されるというのは、なかなか恐ろしい話なのだなぁ、などと不憫に思う。他人事だからこそ呑気に構えていられるのだろう。自分が頭目の立場であったのなら、世の全てを呪いながら、死物狂いでありとあらゆる手を尽くす。
ただ悲しいかな、今の頭目には、戦斧を振るうしか尽くせるだけの手が無いようだ。
此奴の戦術眼は多少だがわかった。では膂力はどうであろう。私のサイズを蹴り上げた様子からモヤシでないことは確かだが。
それまで躱すことに主眼を置いていた得物を、敢えて打ち合わせる。勿論、力は加減しているが……耐えるか。やはり悪くない。そのまま数合打ち合うのだが、打ち合い、弾かれる度に頭目は気合を入れて、渾身の力で戦斧を振るう。ここが正念場だと理解しているのだろう。此奴、段々惜しくなってきたな。
振るって躱してと普通に戦うより、一合一合弾き合うように打ち合わせるほうが、時間稼ぎにはなったようだ。周囲から聞こえる悲鳴が途絶えたことに気がついた。取り巻きは死に絶えたか。
そして私と頭目の袈裟斬りがかち合おうというとき、視界の端に黒い飛来物が見えた。軌道は頭目のこめかみだ。
「ラーナルク!」
私が怒号とも言える声を上げると、飛来物である黒く塗られた短剣は、飛来した軌道をそのままなぞって戻って行った。
なるほど。どうも取り巻きの排除が早いと思っていたら、ラーナルクが両手でそれぞれ紐付きの短剣を操っていたらしい。そんな物を、付き人達の相手をしている横から差し込まれては、まず誰も助からんだろう。援護でも、止めでも。それを繰り返すだけで、簡単に死体の山が出来上がる。街道沿いの野営地では「末恐ろしい」と思ったが、現時点でも十分に恐ろしい子供である。
仮に私があれを相手取るならどうするだろうか。左右の手から時間差で牽制の魔法を放ちながら接近し、そのまま押し切る、くらいしか思いつかん。ラーナルクの前に他の人員や障害物があるだけで、あの鞭のような短剣は一気に脅威度が増す。いや、本当に恐ろしい。そしてそれだけの鍛錬を積み、実戦で使えるまでに高めた努力が素晴らしい。あとで『いいこいいこ』してやろう。
その自慢の愛息であるが、私の聞き慣れない大活を聞いて、身を強張らせている。いかん、これはおそらく勘違いをさせている。
「ラーナルク、まずは見事。父は思うところあって凡蔵を止め、この男と遊んでいたのだがな。これほど手早く取り巻き共を始末できるとは思っていなかった。良い腕だ。父は満足している。
そして先程の一言であるが、あれは別に叱ったわけではない。単に『勿体ない』と思ってな。それ故、急ぎ止めたのだ。援護自体は的確であり、父の思惑が絡まなければ、この襲撃を成功させる一撃に相違無かったろう」
ラーナルクの援護は私の戦いに水を指した形になったわけだが、それ自体は何一つ間違ってはいない。今の私は一傭兵に過ぎないのだ。小駒で大駒に隙を作らせ不意を付けるのなら、寧ろしないほうが怠慢というもの。
だからそれ自体は繰り返し賞賛した。ラーナルクの表情や全身から強張りが解けるまで、だ。ラーナルクにとっての『父親からの叱責』とは、未だ深い傷痕として残り、燻り続けているようである。
それはそうと、今度は「勿体ない」の種明かしだ。
「ラーナルク、此奴はお前にくれてやろう。遊んでみるといい。なかなか楽しいぞ。
……お前はお前で、そこの子供は私の自慢の息子でな。この現状を見ればわかるだろうが、それなりの使い手だ。もし倒せたのなら、見逃してやってもいいぞ」
付き人達が声を揃えて「旦那!」と怒鳴る。愛息よ、これぞ正しく『怒号』と言うのだ。仲間である私へ向ける目が血走っているではないか。
まぁ、私が頭目へ『ラーナルク殺害』を公認したようにも聞こえるだろうから、無理もないのだが。とはいえ、私の魔法を使えば、即死でないなら基本的には問題無いのだし、そう心配することもないと思うのだが。
その点、ラーナルクと頭目のほうが理解が早い。
ラーナルクは、頭目を倒すことがこの『試し』の総仕上げだと気合を入れて構え、頭目は命の賭けどころだと気を静めている。若干対照的で、それもまた面白い。頭目のほうは、急展開を迎える事態にやや戸惑っているが。
「なに、約束は守るとも。見逃すからには、追手はかけん。あぁ、但しウィンターホールドや近隣での悪事は止めろ。ホワイトランあたりに居を移せ。お前なら土地が変わってもやっていけるだろう」
「手前がどこか手を抜いてやがるのはわかっちゃいたが、これほどの一行とはな。年貢の納め時とも覚悟を決めたけどよ。……約束、信じるぞ」
言うだけ言って頭目は吶喊した。途中、落ちていた剣を脚甲に任せて蹴りつけ、更には愛用の得物であろう戦斧まで投げつけた。
剣は躱したラーナルクだが、走る速度も乗った戦斧は微妙に刃を上下に揺らしながら回転している。頭目の小細工であろう。伏せたり飛んだりはできない。長い得物を横っ飛びに躱すしかない。
が、そこにも剣と、火の着いた薪が迫る。それらを躱し、短剣で弾いたところに、取り巻きの得物であろう戦斧を振り下ろす頭目がいた。あの思い切りの良い戦斧の投擲は、予備にあてがあったからか。これも地の利だな。
それに、ラーナルクの曲芸地味た短剣術を見て、接近戦にしか活路は無いと判断したのだろう。直線状に在ったあらゆる物を使い、距離を詰めた。別段減点するほどではないのだが、多少攻撃を食らってでも敵の狙いを潰す動きがラーナルクにあっても良かったな、とは思う。
ラーナルクは
…………いや、勘違いでなければ、左腕、もしくは左肩に違和感がある。よもや先ほど投擲した短剣を引き戻させた際、無理な動きになったかな? だとすれば悪いことをした。
恨み言くらいは聞いてやるが、万全の状態で戦いに臨める、という
さて、どうなるやら。というか、ラーナルクは気づくかな?
頭目は休まず戦斧を振り続けるが、まだ大人に比べて若干小柄で、元々の素早さも飛び抜けているラーナルクは捉えきれない。伊達に走り込みを続けてはいないのだ。
逆に、ラーナルクも頭目を攻めきれない。長柄武器を休まず振り続けられると、単純に長さの足りない得物では反撃しづらいのだ。短槍は別としても、長柄武器は重量武器と同義で、それ故、『受け』や『流し』はほぼ使えない。躱し続けるほかなく、かすりでもすれば形勢が変わるとなれば、防戦一方も已む無し、と。
頭目に明確な隙でもあればいいのだが、私が面白いと思うだけあって、そのあたりは石突や蹴りや、何なら持ち手の間の柄までも鈍器として使い、頭目自身の距離を保っている。曲芸短剣の長距離や、ラーナルクが最も得意とする純粋な短剣術の至近距離に持ち込ませない。
どちらも攻め手に欠けると思っていたら、ラーナルクが大振りを防いで大きく後方へ飛んだ。というより、自ら
急ぎ詰めれば、再び頭目の距離。だが、大振りの後で、若干の隙がある。ラーナルクは再び短剣を飛ばそうとして……跳んできた戦斧を慌てて躱す。戦斧は背後にあった難破船の船腹に突き刺さった。
頭目は常に主導権を握り続けるために駆け、途中に落ちていた、先に己が投げてラーナルクが躱した剣を拾い、斬りかかる。
戦斧とは違い、威力を殺せないことはない。しかし頭目も、剣が流されないよう、威力より手数で勝負し、ラーナルクの僅かな隙には突きを繰り出す。今のラーナルクでは、頭目の突きで伸びた手を取って投げなり極めなりするのは難しいだろう。
そうこうしていると、ラーナルクの動きが鈍くなってきた。……体力の差は如何ともし難いか。走り込みで足腰を鍛えてはいても、まだ身体ができていない。そも、こちらは監視や隠密での襲撃など、働き詰めなのだ。直前まで寛いでいた頭目に余裕があるのは致し方ない。
一応、私も覚悟を決めておくべきか、と思ったあたりで、ラーナルクが後ろに転がった。苦肉の策であったのだろうが、己の優位を確信している者にその手がどう働くか。
頭目は今の今まで、私との立ち会いですら一度も使わなかった短剣を懐から取り出し、ラーナルクに投げつける。ラーナルクが不安定な姿勢でそれを防ぐ。防ぐが、姿勢は更に崩れる。頭目は止めとばかりに剣を投げつけ ──
── 難破船の千切れた船腹へと一目散に駆け出した。
私は、珍しく完璧に予想どおりだったせいか、あまりにあまりだったもので、思わず呵々と笑ってしまう。
おそらく心境としてはラーナルクも似たようなものだったのだろう。落ち着いて紐付きの短剣の片方を、向かって左の船底に投げて刺し、同様に右の船底にも刺した。更に同様の紐付き短剣を取り出すと、頭目の足に絡まるよう投げつけ、両端の短剣はやはり船底に刺さっている(曲芸短剣、一組だけでは無かったのだな。加点一)。
結果として、千切れた船底から海へ逃げようとした頭目は、見えづらく黒く塗られた一本の紐によって無様にひっくり返った。更にはもう一本の紐により下っ腹のあたりでつっかえ、尻を突き上げながら俯せの姿勢で沈黙している。頭目のそれまでの苛烈な戦いぶりも相まって、あまりに間抜けであった。
なんというか、それは
そもそも、私はラーナルクを見殺しにする気も、頭目を見逃してやるつもりも無かった。最悪、即死でなければどんな重傷も奇跡での回復が可能ではあるが、愛息にそんな重傷を負わせたいわけがない。いざとなれば何をしてでも、身を守るつもりであった。
しかし、そうなると今度はラーナルクが己の力不足を嘆きかねない。頭目のがむしゃらな動きを前に後手に回ったあたりで冷や冷やしたが、杞憂に終わって何よりである。
だが、ラーナルクは気付いていた。だからこその後手。常に相手の動きを把握することに注力していた。おそらく、ラーナルクに見えたいくつかの隙は、自ら演じたものであろう。一つ間違えば頭をかち割られていた状況においても、相手を誘導してみせた。大した戦士である。これは加点三十くらいあっても良いのではないだろうか。
ラーナルクに近寄り、念のために回復をかけてやる。見たところ、かすり傷程度しかないようだが、左肩のこともある。ほかにも、やや無茶な動きを見せていたようにも思う。別段減るものでもないのだから、たっぷり大回復を味わってほしい。
して、間抜けた姿勢からは直りながらも、その場に座り込んでいる頭目である。
自分が生き残るには、この胡散臭い一行の言うことを真に受けず、死中に活を求め逃走を図るしかない。そう思ったのだろうが、先読みしていたラーナルクによって見事阻まれた。結果論ではあるが、最初からこの頭目が逃げ果せる未来など、あり得るはずもなかったのだ。……少々不憫である。
とはいえ、この頭目も馬鹿ではないのだ。全面攻撃前の勘働きもそうだが、部下の統率にも問題は無かった。此奴自身も阿呆ではなく、その場その場での判断も悪くはなかった。言ってみれば、ただ死なせるには、ちと惜しいのだ。
その頭目に付き人が近寄り止めを刺そうとするので、慌てて止める。付き人は「まだ何か?」と険のある目で見てくる。先程の手合わせについて、根に持っているようだ。私が愛息を真に危険に曝すはずがないというに。やはり、此奴等のほうが余程に過保護である。
「さて、賊の頭よ。この期に及んでは、お前の生殺与奪はこちらの自由だと理解しているだろう。どうだ、死にたいか?」
「こんな髭も生えてねえガキに負けたんだ。死にたくはある。でも死にてえヤツは、そもそも逃げねえだろ。馬鹿なこと聞くんじゃねえよ」
「尤もだな。なら
頭目は訝しんではいるが、混乱はしていない。それもそうだ。負けた相手に対し、死ぬか、仲間になるか。歌でも現実でもよくある話だ。それを示すように、「んなもん選ぶまでもねえだろうが。ご随意に。主様方。クソッタレ」と吐き捨てる。
おそらく、盗賊たる付き人達の配下になった場合の去就について考えたのだろうが、それを選ばなければ死ぬのだ。言うとおり、「選ぶまでも」ない。
付き人連中が「こんな賊崩れなんてどうするんだ」という目を向けてくるが、まぁ私にも考えがある。ブレックスも、おそらくは否とは言うまい。そろそろ、ウィンターホールドも復興が進んでいることだしな。
これの去就について話をするときは、ラーナルクも同席させよう。あとは、ギルドからブリニョルフを呼ばねばな。もうここから町に帰るまでにラーナルクが下手を打つことは無いだろう。いやぁ、終わってみればたった数日の出来事であったが、随分と長く感じた。父親業というのも楽ではない。
ひとまず今は、自分が倒した賊の扱いについて首を傾げている愛息の頭を撫でくり回し、『いいこいいこ』してやる。年頃になって若干の羞恥心も見えるが、満更ではない様子なので止めない。少なくとも、私に強く名前を呼ばれた程度で身体が強張らなくなるまで、今暫くは甘やかし続けよう。
あ、街道にいるかもしれん見張りを、忘れずに討ち倒しておかねばな。もし異変を察知していては面倒だ。物資や宝物の類は迅速に回収し、とっとと出立するとしよう。……いや、出立を長殿に進言しよう。一時反故にしたが、町に戻るまでの私は凡蔵傭兵だ。
戦闘回は説明回と同じくらい長くなる悪癖。とはいえ、多少はテンポも良く、説明会ほど鬱陶しくはないと思うのですが。