DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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お待たせしてしまい、申し訳ありません。
愚痴活報を上げたあとも立て続けに色々とありましたが一周回って少し開き直れました。続きは活報で。
なお、ややネタバレではありますが、戦闘描写の後半がガンギマってます。テンションに付いて行けないかもしれませんので、何なら閑話くらいから読み返したほうがいいかもしれません。ある意味ラーナルク話の集大成です(思春期の悩みが解決するとは言ってない)。
(このネタバレに関するアンケートを設置してあります。ご協力いただければ幸いです)
また、とらんざむせっちゃん様、オッサマー様、Othuyeg様、アカギ様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
※すみません、どうしても戦闘が物足りなく感じたので、4000字程加筆しました(4月2日、6時半頃)。


三一、本試験と不死人の決意

 難破船に巣食う賊共を討伐したあとは、速やかにウィンターホールドへ帰還した。

 私は一味の頭以外を生かしておくつもりが無かったので、残りの人員は頭から配置を聞き出し、帰りの道中に始末した。特殊な技術を習得していれば話は別だが、別にそんなことも無かった。

 というか、小さな賊集団に一芸に通じた輩を期待するほうが間違っている。頭だけでもそれなりの収穫なのだから、そう欲張るものではない。期待せず確認だけした、程度の話だ。

 

 町に辿り着いてからは、縄で縛った賊の頭を引き摺るように、目抜き通りを進む。

 今回我々は、首長府からの正式な討伐指令を受けて赴いたことになっている。そして私は、錬金術師としての活動と近隣の安全確保等、町への貢献により、首長の従者就任が内定している身である。行って、討って、帰って、「終わったぞ」の報告だけでは片手落ちというものだ。

 野良の冒険者であればあとから衛兵隊が確認し、報酬を渡す。と、それでも良いのかもしれないが、ゆくゆくは首長の私兵となり衛兵隊の指揮を執る立場へ上ることを鑑みれば、既に首長府の人間として振る舞うべきであろう。

 まぁ証拠云々言うのならば、賊の首か片側の耳でも切り落としてくればそれで済む話なのだが、この男には使い道を見出してしまった。ついでに言えば、屈強な鎧姿の男が縛られ連行されているという絵面はそれなりの衝撃を伴うことを計算に入れて、このようなやり口と相成ったのだ。

 そんなわけで、何よりもの証拠として賊の頭を生け捕りにしたぞ、と町の住民達に見せ付けている。

 

 が、私の一番の目的はそこではない。実を言えば、我が愛息のお披露目としての意味合いのほうが大きい。

 ラーナルクの戦い方は非常に技巧に富んでおり、泥臭さとは無縁である。だが纏った革鎧には幾らかの汚れや傷、更には僅かに血も付いている。傷のほとんどは頭との一騎打ちで付いたものだが、賊の討伐に参加したことは間違いない。

 それを目にした住民達は、ラーナルクを驚きと共に見ている。

 

 これまでラーナルクは町の住民達から、「錬金術師の倅」か「年相応の元気小僧」くらいにしか思われていなかった。

 それが、近辺の猛獣や野盗の類を一掃した男が指揮する一行に加わり(猛獣や野盗の半分はラーナルクの手柄であるし、討伐に当たり実際に指揮を執ったのもラーナルクなのだが)、無事に凱旋してみせた。

 これが素封家や貴族家の子供なら、箔を付けるために屈強な護衛を引き連れて初陣を果たすこともあるだろう。

 しかし我々一行は、衛兵隊では手出しを躊躇う案件に臨んだのだ。町の事情通を自称するおしゃべりな住民が口を開けば、賊が我々よりずっと多勢であったことは知れるだろう。伊達や酔狂で戦力外のお荷物を連れて行く状況ではない。

 つまりラーナルクは賊討伐にあたり、最低限、足を引っ張らない程度の実力を備えていることになる。

 住民の多くはラーナルクが普段から荒事に接しているとは知らないはずだが、ダンマーを中心に、移民達はあれが私に「厳しく」稽古を付けられたことを知っている。噂はすぐに広まるだろうし、盗賊達がいつもの手口で後押しすれば、なおのことである。

 

 私としては、近いうちに上級王でもあったウィンターホールド首長ハンセの兜を取りに行くことを考えれば、このあたりでの顔見世が適当だと思ったのだ。

 

 本来、私の就任に関しては兜献上で従者へ。暫くした後、町の復興への尽力を認められ私兵へ、という段取りであった。

 しかし今回の賊討伐を挟んだことで、おそらくそのあたりは前倒しされる。賊討伐で従者へ。兜献上を以て私兵へ、と。

 少々急ではあるが、何せウィンターホールドは貧しいのだ。屋敷も自分で確保するような男に対して渡せるものなど、名誉や行政府への参加権くらいしかない。

 

 これが他の町であれば、どんな手を使ってでも褒美の金品を用意しただろう。

 だが、このウィンターホールドの復興はまだまだ道半ばである。

 衛兵隊の数も徐々に増えてはいるが十分とは言い難いし、そもそも執政からして首長の親族を無理に引っ張り出している有様なのだ。ウィンドヘルムあたりなら身に余る褒美に成り得そうな『首長府の一員』という切り札であろうとも、名誉職の意味合いが今なお強い。

 逆に言えば、だからこそ私が首長の私兵に納まったところで、やっかみも受けづらい。なんなら、普段からあれこれと私の世話を焼きたがる老婆達など、「首長に阿漕な真似をされているのでは?」などと妙な心配をしかねないほどだ。

 そのあたりはまぁ、私がブレックスと連携してうまいこと世論を誘導すればどうにかなるだろう。いずれにせよ、褒美を下賜する側にとっても受領する側にとっても、落とし所として丁度良いのだ。

 名誉を重んじる古きノルドの町の実情としては、お寒い限りである。

 

 なにはともあれ、このウィンターホールドの地で、この二つの案件を以て、私は首長の私兵へ就任する。

 ある意味、リフテンの友人宅で話した、町での地位を築く、という目標の一部は達成できたと考えてもいいだろう。

 未だ私が動かずとも恒常的な収入が得られる状態ではないが、ある程度の稼ぎはある。そして地位も手に入れた。計画は順調である。

 

 だがそれでは足りない。

 だからそれと同時に、ラーナルクをウィンターホールドの戦力として町の面々に認めさせる必要がある。

 これから町の復興のため、あれをあちこちへ使わすことが増える予定だ。その際、何をするにもいちいち子供の『お使い』だとか大人に秘密の『冒険』だとかと誤解されては、思うように動けない。そのためだ。

 初めのうちは戸惑うかもしれないが、慣れれば頼もしさを覚えるだろう。「首長の私兵は、次代においてもウィンターホールドの守護を疎かにするつもりはないようだ」。そんなふうに。

 

 一応、兜の入手があれの本試験ではあるのだが、先の判断力や戦闘技能を見るに然程の心配はいらないと考える。

 まだ巨人やドラウグルの中でもデスロードの相手は辛かろうが、そうでなければ卓越した技工と隠密を駆使し、そう苦もなく兜の入手はなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………などと楽観視していたのがいけなかったのか。

 『ユンゴル墓地』での兜入手には、思わぬ面倒と、望外の喜びがあった。ラーナルクにとっては苦労しか無かったろうが。

 

 

 

 現地までの移動に不備は何一つ無かった。寧ろ、至れり尽くせりと言って良いものだった。

 まず出立からして、此度はウィンターホールド全体の名誉に関わることということで、首長閣下は町を上げての出陣式を執り行った。

 日取りは我々が賊討伐から帰還した半月後。私の従者就任も済み、全員の体調が万全になった頃だ。

 主な面子は閣下と、その隣には大学から言祝ぎに来たアグス師。その後方でそれぞれ控えるブレックスとサボス。そして実行部隊である私、ラーナルク、付き人二人、それに衛兵隊からも(比較的)腕利きが四人。実行部隊には大学側の協力者として、サボスがそのまま加わる。

 町の名誉は大学の名誉。大学の名誉は町の名誉。そんな認識を作り上げたい両者としては、こういった小さな気遣いも疎かにはしない。

 共同声明発表時と同じく満面の笑みを貼り付けた閣下を見て、男泣きを堪え切れない住民も見受けられた。閣下の忍耐と尽力の下で町が順調に復興しているとあれば、それなりに感じ入ることもある、ということだろうか。純朴で可愛らしいことである。皮肉ではない。

 

 また、閣下の側に控えるのが執政ではなくブレックスで良いのかと思いはしたものの、執政の老人については「いつの間にかいなくなっていた」というような印象を作りたいらしい。

 元々、本人の意思を無視して引き摺り出された執政としてはそれで不満はなく、いずれはブレックスの息のかかった人物をその席に据えるのだとか。復興してきた町にうま味を感じて、親族連中が出しゃばって来ては面倒、という理屈である。

 あまり我儘が過ぎるようであれば、首長の親族の何人かが、あるいは病で急死してしまうことがあるやもしれない。病の原因は別としても、その診断を下すのも私だしな。おぉ、真に悲劇的な話である。……こちらは皮肉だ。

 

 私は以前、友人宅において「二人で町を牛耳ってみないか?」と誘った。

 しかし現状を鑑みるに、町を牛耳っているのはブレックス一人な気がする。良いのだろうか?

 いやまぁ、良いのだろう。馬鹿の考え休むに似たり。私は友を信じて己の為すべきことを為すのみである。

 最悪の場合は全て壊し、殺し尽くしてしまえばいいのだから、簡単な話だ。そして我が友たる頭目殿は、そうさせないだけの分別を持っている。何も心配はいらないだろう。

 

 道中の移動も、実に快適であった。

 私のソウルの業は折を見て町の人間に見せてきた。特異な魔法(?)を説明するより、隠し通すほうが面倒だからだ。

 そのため、衛兵隊がおり体力に物を言わせて走り抜ける、などという真似はできずとも、支障は無かった。

 馬車には必要最低限の物資を乗せ、空いた隙間に交代で休みながら、行軍は続いた。

 行軍。……行軍である。だがスカイリムに来てからこっち、昼も夜も無く走ったり、山中を駆け通しであったことのほうが多い。はっきり言って愛息と共に過ごす休暇くらいにしか感じられなかった。

 

 現地、ユンゴル墓地に到着してからも、どうということは無かった。

 賊が塒にしているということも無かったし、浅い場所に猛獣が住み着いている、ということも無かった。

 大学の文献にもあったのだが、このユンゴル墓地の主、ユンゴル。同胞団の祖であるイスグラモルの近親者であったらしい。古代的な言い回しで書いてあったため勘違いがあるやもしれんが、概ね間違ってはいないだろう。

 つまり、言ってみれば他の古代ノルド墳墓に比べても、特別古いものであったのだ。スカイリムに作られた古代ノルド式墳墓としては、最古の物かもしれない。何せスカイリム開拓団団長の近親者の墓だ。その可能性はある。

 それゆえか、幾体かの骸骨が散見されはしたものの、ドラウグルとして襲いかかってくる者はいなかった。

 無害でありながら纏わり付いてくる、不思議な光の妖精だか精霊だか、そんなものが賑やかしかったこと以外、特筆すべき事項は無い。

 

 

 

 問題が起きたのは、墓地内部を暫く進んだ後だ。我々の目の前に、巨大な仕掛け扉が姿を現した。

 この仕掛け扉は、ドラゴンの爪の形をした鍵を用い、扉に描かれた絵柄を操作し、開けるのだ。大学の文献で概略図を目にしたことはあったが、実物はなかなかに壮観であった。単純に彫刻として美しいとも。

 そして肝心の爪はというと、どういうわけか扉のすぐ手前にある台座に鎮座している。

 侵入者を阻む鍵が墓地の中にあるというのはどういうことなのだろう?

 

 疑問に思う私を他所に、付き人達がすらすらと謎を問いて行く。 

 曰く、この手の仕掛け扉には謎掛けに規則性があるらしい。それなりに慣れていれば、周囲の状況を観察することで、正解に辿り着くことができるのだとか。

 出陣式までしておいて盗賊を連れ歩くのはどうかと思ったのだが、やはり頭脳労働担当が居てくれて良かった。ラーナルクでも時間をかければ解けた問題かもしれないが、如何せん経験が足りない。ちと厳しかっただろう。

 

 そうして扉が開くと、妙な空間に出た。

 一本道の足場が続いているのだから通路と呼んで良いはずなのだが、その両脇に水が湛えられているのだ。

 何のための空間か、否が応でも疑問に思う。仕掛け扉に守られていたことを鑑みれば、油断すべきではない。

 それに、経験則からだろうか。正直、嫌な予感がした。

 

 声を発するのも憚られたので、暫し様子を見るよう、後ろ手に指示を出す。

 が、ここまでの順調過ぎる道程で気が緩んだのか、衛兵隊のうち二人が指示を無視して通路へ侵入する。

 そして中程まで行き「ほら従者殿、心配し過ぎです。何もありはしませんよ」と笑う。

 

 それは、一応は正しかった。衛兵二人が通路の中程に進んだその時点までは、たしかに()()有りはしなかったのだ。

 

 だがその一拍後には、何処からか現れた奇妙な仮面の魔術師に紫電を浴びせられ、衛兵達は悪臭を放つ炭と化した。

 

 私は全員に散開と後退を命じる。あの雷は密集しているとまとめて焼き払われるようだ。

 炎のほうが持続性が高く攻撃範囲は広いが、雷はとにかく速い。人を一瞬で炭化させる雷が魔術であろうが奇跡であろうが、厄介なことに代わりはない。

 

 全員が仕掛け扉の手前まで後退したことを確認し、さてどう戦ったものかと思案する。後ろのほうでは、仲間が死んだことに呆然とする衛兵と、余程親しかったのか、慟哭と罵声を浴びせる衛兵がいる。

 ウィンターホールドの衛兵隊は、良くも悪くも荒事から遠ざかっていた。我々が町を訪れるまでは害獣の駆除程度。その後はそれすらも必要なくなり、日々の巡回と喧嘩の仲裁が主な仕事となった。

 その一因、というかほぼ全ての原因は私にあるのだが、あまりに出来がお粗末である。私が私兵に就任したあかつきには、此奴等全員、しごき倒してやろう。

 

 私が苛立ちと共に攻略方法を考えていると、奇妙な魔術師はその場で浮遊しながら、こちらへ対峙し続けている。

 

 …………この先へ進む者へは容赦しないが、そうでなければどうとでも、ということなのだろうか。

 緊張感を返してほしい。これでは無駄に警戒した私が滑稽ではないか。阿呆らしい。

 

 苛立ちが腹立ちに変わる。ラーナルクが投擲での先制攻撃で様子を見ようかと提案してきたが、もう面倒になってしまった。

 ので、『ゴーの大弓』と大矢を取り出し、番える。

 そしてそのまま胸の当たりを射つ。

 見た目は浮いた骸骨なのが、着撃音はなかなかに派手だった。魔術師はその音に違わず吹き飛び、もんどり打って転がる。

 姿勢を正すのを待ってやるいわれも無いので、そのまま二射三射……と続けざまに放つ。

 一射で死んだ様子がないので、脊椎を念入りに壊そう。あぁ、杖を持つ手が無事では面倒だな。肩と掌も射つ。実は見えない足があって、弱点も下半身らしき場所なのだろうか。射つ。

 着撃の度に派手に吹き飛ぶのだが、それでも死なない。此奴、我が友の弓矢を受けてこれだけ耐えるとは、なかなかしぶとい。見れば魔法で半透明の殻を作っている。あれで物理的衝撃を減退させているわけか。やるな。

 しかし守ってばかりでは状況が好転することはない。魔法で身を守るくらいなら、損害覚悟で雷を放てば良いのに。

 とはいえ、そうさせないよう絶え間なく矢を打ち続けているのは私なのだが。寧ろ防御魔法を展開できているだけでも大したものだ。

 

 ただ、段々飽きてきた。やはり頭部が弱点なのではなかろうか。あの儀礼的な仮面諸共射ち抜いてくれようか。

 と思ったあたりで、後方から「仮面は壊さないでくれ!」と声がかかる。サボスだ。

 どうもあの仮面、貴重な物らしい。そういうことはもう少し早く教えてほしいものだ。危ういところだったぞ。

 しかしサボスの顔色は悪い。私が考えている以上に貴重なのか、もしくは大変な力を秘めた代物なのかもしれない。

 そうであれば、サボスが一行にいるのは僥倖というものだ。忠告が無ければ、間違いなく頭部を中心に射撃を続け、仮面を破壊していただろう。

 

 仕方がないので、胸部や、魔術師が纏う襤褸(ぼろ)から見える背骨を中心に射ち続ける。

 その度に魔術師は空間を跳ね回るのだが……どうも絵面が悪い。

 なんだか私がアレを一方的にいじめているように見えるのか、衛兵隊どころか付き人からの視線も何か言いたげである。味方は緊張した面持ちのサボスと、目をキラキラ輝かせている愛息だけである。

 ()()、ではないな。最後の一人だけで十二分だ。

 

 私が普段使うファリスの黒弓は神をも射殺せるだけの強化を施してあるとは言え、一見、黒く塗っただけの普通のロングボウに見えないこともない。

 そこに行くとこのゴーの大弓は明らかに剛弓だ。弓幹(ゆがら)はゴツゴツと無骨に節くれ立っており、友自身が討ち取った古龍の骨でも用いているのではないかと思えるほど。何人張りの弓なのか、考えるだけでも馬鹿らしい代物である。

 それを難なく連射する「お父さん」の姿が、久しぶりの『雄姿』と映ったのだろう。私も、愛息から尊敬の眼差しを向けられて大満足である。心なしか、弓を放つ間隔が早く短くなっていく。

 

 そうして数十射を打ち込んだところで、魔術師の防御魔法が切れた。

 調子に乗って打ち続けていた私の口から「あ」と間の抜けた声が漏れたが、番えて放った矢は戻らない。

 無防備になった魔術師を粉々に砕きながら吹き飛ばし、数拍の後に灰となった。

 私は急ぎ灰を物色する。サボスから仮面について直接言及されているのだ。これで魔術師を殺せば仮面も共に消える、などという結末であれば、バツが悪いどころではない。

 しかし私の焦りも心配も杞憂であった。仮面はすぐに灰の中から見つかった。折角ラーナルクに良い格好を見せられたのだ。締まらない終わり方では困る。

 

 仮面はサボスに預けて、私は矢の回収に勤しむ。

 投げ渡したことが不満だったのか「もっと丁重に扱ってくれ!」とサボスから叱責が飛ぶが、私としては何の役に立つのかわからない仮面より、友が自作した矢のほうが大切だ。真似て作ることはできるだろうが、この弓と矢はある意味、形見である。作れる作れないの問題ではない。

 ついでに、死んだ衛兵隊の装備も回収した。死体はただの炭であるため断念したが、せめて装備と所持品があれば、葬儀には困るまい。私の指示を無視して死んだ者に対しては矢の数分の一も感慨がわかないが、人間社会で生きるにはそういうわけにもいかない。面倒なものである。

 

 

 

 奇妙な魔術師が守護していた通路を進み暫く行くと、宝箱と、玉座らしき物の背が見えた。

 衛兵隊の二人はここが終点だ、おそらく兜は宝箱の中だ、と浮かれている。

 だがどう考えても怪しい。

 

 私は念の為、全員にその場で待機するよう命ずる。そして宝箱に鎖が付いていないか確かめる。大学の文献にも貪欲者らしき存在は記されていなかったが、万が一、ということもある。しかしその線はなさそうだ。

 であれば、宝箱と接するように配置されている玉座が怪しい。

 ……そう言えば、だ。ここは『ユンゴル墓地』なのだ。『ユンゴル』なる人物の墓なのだ。しかし、今までそれらしき身なりの良い遺体には遭遇していない。

 ならばあの玉座の裏(玉座の向きからすれば表であろうが)にユンゴルがドラウグルとなり待ち構えているという可能性は高いだろう。

 

 謎なのは、何故玉座が入り口側を向いていないのか、ということだ。

 私がスカイリムに来訪した際の墳墓でもそうだったし、他の多くの墳墓でも大体の様式は同じ。主な埋葬者は棺に収められているか、在りし日を思わせるよう玉座に座らせてある。

 それが何故か逆向きなのだ。イスグラモルは何を考えていたのだろう?

 あるいは単純に古代ノルド墳墓の様式が定まっていなかったのか、とも考えた。

 

 しかし、おそらくは違う。

 ユンゴルの死は、本人にとってもイスグラモルにとっても、予定外のものだった。色々と御伽噺のように書かれた文献が元ではあるが、要するに水死したらしいのだ。

 イスグラモルにとって、北の大陸からこのタムリエルに同行した仲間達は、全員が掛け替えの無い同士であったことだろう。

 危険な旅路に、弱者や凡蔵を連れて行くとは考えづらい。

 だが、結果的にユンゴルは死した。なればこそ、墓を訪れた者へ「我こそが墓の主である」と相対させるよりは、あえて逆を向かせて、気持ちだけでも自分達と同じくある。前を見つめて進むのだ。そうユンゴルにも、自身にも示したかったのではないだろうか。

 

 

 

 いやまぁ、椅子の向き如きをどうこう考察したところで正解がわかるわけでもなし。今は兜の入手、ひいてはおそらく存在するであろうユンゴルのドラウグルに集中すべきだ。

 そんなわけで、私は再びゴーの大弓を構え、ラーナルクに指示を出す。

 

「ラーナルク。おそらくあの玉座にユンゴルなる相手がいるはずだ。父が一射見舞う故、それを合図に衛兵隊と共に攻めかかりなさい。

 同胞団の祖であるイスグラモルの近親者だ。生半な戦士だとは思うな。即席ではあっても、連携を密に。指示はお前が出しなさい。

 衛兵隊も、小僧に使われるのは気に食わんかもしれんが、私の倅はそれなりに鍛えてある。協力してくれ」

 

 ラーナルクは私のやることにある程度見当が付いているのか、神妙に頷く。付き人達は、いざというとき私の制止も振り切ってラーナルクを助けるつもりなのだろう。こちらも覚悟を決めている。

 衛兵隊の二人は私が玉座の背に向けて何がしたいのか思いつかないのか、呆けている。これは予定している訓練の強度を上げる必要がありそうだ。何せ今現在の衛兵隊は、後々に最低でも小隊以上を率いるだけの人材となって貰わなければ困るのだから。

 

 私は先程の魔術師相手とは違い、早さではなく威力を求め、狙いを付ける。

 一射入魂。仮にユンゴルが座しているのならば、頭はどのあたりか。いや、頬杖をついている場合、その場所は左右どちらかに逸れる恐れがある。

 ならばもう少し下。頭部ではなく頚椎、それも根元付近……

 

 ……ここだ。

 十分に引き絞った弓の張力を解放し、矢が玉座の背に衝突する。

 

 耳をつんざく音。それと同時に、伝わった衝撃により冗談のように前方へ身を投げ出すユンゴル。やはり控えていた。私は得物を即座に『コンポジットボウ』と『大きな矢』に持ち換える。近距離ならこれが一番威力と速射性を期待できる。

 

 遅れる衛兵を置き去りにし、宝箱を踏み台に玉座を飛び越えるラーナルク。勢いそのままに、俯せに倒れたユンゴルの首を短剣で狙う。

 しかし、流石は古き戦士。俯せのままもたもたしていたのは、誘いであったのだ。

 飛びかかってきたラーナルクに対し、寝たまま身体を半回転させ、黒檀の大剣を振るう。足と背と腕の力を最大に用いる。奴は身体の使い方が上手だ。

 

 奇襲へ反撃されたラーナルクは大剣の威力に逆らわず、受けた短剣は素直に手放し、己も錐揉みする。

 ユンゴルが追撃とばかりに突きを見舞うが、ラーナルクの身体がぐんと手前に引かれる。どうやら飛びかかる前に宝箱の縁へ紐付きの短剣を仕込んでおり、その紐を強く引くことで突きを間一髪躱したようだ。……我が子ながら何でもありだな。空中で動きを変えるのはずるくないか?

 

 若干無理な姿勢ではあるが、反撃を躱した。奇襲の利が無くなったのなら、ここからは尋常な勝負でしかない。卑怯戦法は相手が生者だから通用するのだ。

 ちと問題なのは、この空間が少々狭いことだ。ラーナルクが得意とする曲芸短剣術の射程は活かすのが難しいだろうし、黒檀の鎧で固めた相手にどの程度の効果が見込めるかも怪しい。

 

 そして最も厄介なのは、そも連携が取りづらいということだ。狭い空間では、一対一の状況になりやすい。援護をするにしても限度がある。それをどう乗り越えて連携するかが課題なのだが……。

 ラーナルクが反撃を躱して下がったときには、呆けていた衛兵隊も戦列を作り並んでいる。しかし私に言わせれば遅いの一言だ。

 もし連中がラーナルクと共に飛びかかっていたのなら、突きを躱されて隙だらけだったユンゴルに、深手を負わせることができたやもしれん。

 

 それが実際にはどうだ。奇襲という最大の好機を突っ立って見送っていただけの人間など、戦いには不要だろう。私の一射を合図に攻めろという指示は聞いていなかったのか?

 私はこの時点で衛兵隊の命に見切りをつけた。

 おそらくはあれも同様のはず。なんなら上手に肉の盾として扱うくらいはするかもしれんが、私にはあの凡蔵共の使い方がわからん。

 

 ユンゴルはどこか頼りなさそうに、ゆらりと立ち上がる。それがかえって不気味だ。精神的な圧を加える以外にも、戦闘時の挙動と差異を設けて相手の反応を遅らせるため、意図的にゆったりと動いているように思える。

 非常に落ち着き、敵を打ち倒すために有効な手を打つ戦士だ。伝説の英雄に連なる者が簡単な相手だとは思わないが、これはちと厳しいか?

 

 ラーナルクはユンゴルを見やりながらも、衛兵の一人に弓を構えさせ、もう一人には盾と剣を構えさせた。一人が射撃で注意を引き、もう一人が攻撃を防ぎ、とどめは自分が。そんなところだろうか。

 我が愛息にしては無難な策であるが、致し方あるまい。そもそも上等な頭の出来を発揮できる場面ではないし、連れがお粗末では選択肢が限られる。

 

 まずはラーナルクが低い姿勢で仕掛けた。牽制が主だろう。大軍の将であればまだしも、少数の即席隊では指揮官が率先して動かなければ、指揮される者の意気も高まらない。

 初撃は足首を狙うために地を這うような吶喊だが、ユンゴルの剣で難なく防がれる。

 それはラーナルクも承知のうえであったようだ。ユンゴルの注意が足下に向いたところで、吶喊の勢いを全て上方向へ変換するように地を蹴り伸び上がり、首を狙う。

 ……と、そこに矢が飛来し、ユンゴルの肩に当たるが、鎧に弾かれた。衛兵の放った矢だ。

 自分の頭と腕のすぐそばに仲間からの援護射撃が着弾したことで、ラーナルクの動きが反射的に一瞬強ばる。更にはユンゴルが片手を大剣から離し、至近にあるラーナルクの頭部へ細かい殴打が迫る。

 そのまま首を狙うのは困難だと判断したのか、上がった頭を横倒しに振り下ろし、その反動で上段蹴りを見舞う。が、それもユンゴル自身が頭を突き出し、兜で防がれる。

 重ねて悪いことに、ラーナルクの下がった頭部付近へもう一人の衛兵の剣が刺し込まれる。私は、自分でもカッと頭に血が上った自覚を持った。

 ほんの一瞬、どう動けば危険が少ないのか状況判断に時間を割いたラーナルクへ、ユンゴルが大上段から大剣を見舞う。

 ラーナルクは仰け反り、更にユンゴルの追撃の蹴りも躱しながら、勢いそのままに二度三度跳ねて奴から距離を取った。ラーナルクは目がいいために相手の攻撃を紙一重で躱すことが多く、仰け反りも頻繁に見かけるが、今のは危なかった。

 

 一時的に窮地を凌ぎはしたもの……、何なのだあの二人は!

 近接要員がいるときの射手とは、基本的には決定的な一撃を見舞うためにいるのではない。敵に隙を作り、味方に迫る危機を防ぐためにいる。

 鷹の騎士ほどの技量があれば別であろうが、そうでなければ出しゃばるものではない。仮に際どい機を狙うにしても、それは近接要員が別の箇所を攻撃するのと全くの同時でなければならない。さもなくば、今のように味方の邪魔に成りかねない。

 ユンゴルの動きを思えば、奴が出しゃばらずとも結果的にラーナルクは同じ動きを取っていたかもしれない。しかしそれは結果論だ。ついでに言えば、味方からの攻撃まで警戒しなければならない、という状況は格上を相手取るにあたり非常に不味い。

 そしてもっと悪いのは剣と盾の衛兵だ! 奴は三人の中でただ一人盾を構えている意味を全く理解していない。奴の仕事はユンゴルの大剣を封じるか、ラーナルクへの攻撃をいなすことだ。

 守備専門ということではない。ユンゴルの注意がラーナルクへ向けば、そのとき不意を付いて攻勢に出ればいい。そうやって注意を散らし標的を絞らせなければ、相乗的にこちらの攻撃機会は増える。いかな英雄とて苦戦は免れまい。

 それに盾は立派な鈍器であり、敵の視界を奪う役割も持つ万能武器だ。戦い用はいくらでもある。

 盾を持つ者の仕事は、間違っても体術を繰り出している味方の後ろから剣を刺し込むことではない。

 

 ……いや、援護に衛兵を指定したのは私だ。この「連携」などとはお世辞にも言えない状況は私が作り出したとも言える。そう考えれば怒りは多少収まるが、気が滅入ることは避け難い。

 そうして私がげんなりしつつ戦闘を見ていると、攻めに転じたユンゴルとたった数合の斬り合っただけで、盾持ちの衛兵が悲鳴を上げた。ほら見ろ、片腕が落ち、盾が無くなった。あまりに練度が低い。斬られるにしても、せめて剣を持つ手だろう。あれでは本当に肉盾にしかならんな。

 しかし衛兵を見捨てるとなると、もう一人の無事な衛兵が邪魔だ。帰ってから有る事無い事言い触らされては堪らん。

 ……いっそ二人共殺すか。付き人の一人も死んだことにして裏の仕事に回ってもらえば、衛兵隊だけを犠牲にした、という評判は回避できるだろう。

 足手纏のせいで愛息が死ぬなど絶対に許せん。音を立てないよう残った衛兵に弓を向けたところで、隣に居たサボスが声をかけてきた。

 

「家庭の事情だ。君の厳しい教育方針に口を出すつもりは無いがね。でも味方を、というのはやり過ぎだろう。

 どうかな。一人欠員が出たようだし、私が代わりに加わっても構わないかな? 数の上では変わりないし、あの古代の英雄を相手取るにしても、戦力的に丁度いい塩梅なのではと愚考する次第であります、隊長」

 

 最後のおどけた物言いは、頭に血が上った私を落ち着かせるためのものだろう。更に言えば、衛兵隊なんぞより大学関係者のほうが余程付き合いがある。その分、気安いのだ。

 というか、そうだ。ここには友好関係を深めたい大学のサボスも居たのだ。それを忘れて『愚図は殺してしまえ』だなどと。愚図は私ではないか。馬鹿が。何を考えている。

 私が自省するあいだにも、戦況は刻一刻と悪化している。ラーナルク自身も短剣でユンゴルの大剣をいなしてはいるが、一人では息もつかせぬ攻勢に対し目に見えて傷が増え、危うい場面も見受けられる。

 私はサボスの目をしっかりと見据え、頷いた。

 

 サボスは心得た、とばかりに戦列に並ぶ……どころかラーナルクの前に踊り出て、防御魔術でユンゴルの大剣を受け止める。あのマスターウィザード、思ったより鉄火場に慣れているな。

 サボスの防御魔術は範囲が広い上に強固であった。あれなら戦士ではないサボスでも、ユンゴルを相手に暫くは持ちこたえるだろう。

 それを見てラーナルクは素早く下がり、深呼吸をし、息を整える。

 そして考える。今は一時的にサボスが前に出ているが、本来これはラーナルクの試験なのだ。私がラーナルクにユンゴル討伐を指示した以上、サボスに任せきり、という話は許されない。

 とはいえ、先述のとおり取れる手段が限られているのも事実。ついでに、援護の衛兵は凡蔵と来ている。さて、どうする我が息子よ。

 

「アレン師! 合図と共に僕が前に出ます。同時に、持続回復魔法をお願いします。それ以上は不要です。

 弓の人! 僕が戦うあいだに身を屈める瞬間があります。そのとき、兜でもいいので奴の頭部を射ってください。引き手が辛いでしょうが、根性で維持し機を待ってください!」

 

 サボスはこちらをちらを振り返るが、私は再び頷く。スカイリムで二番目に魔術へ精通した男が全面的に助力しては、何の試験かわからなくなる。ラーナルクの見極めは正しい。

 一方、「弓の人」呼ばわりされた衛兵は「無茶を言うな!」と文句を垂れている。満足の行く援護が期待できないのだ。衛兵に値千金の一射を放たせようと思えば、ラーナルク自らがそう仕向けるしか無いだろう。

 しかし凡蔵の言い草に、私のほうがいよいよ以て殺してやろうかと思う。だが、彼奴の不平もラーナルクの戦いを眺めるうち、次第に収まっていった。

 

 ラーナルクのとった戦術は、いわゆる『力押し』というヤツだ。大剣をいなし躱しはするものの、サボスの回復魔法をあてに、自身の負傷は無視する。

 そして額が割れようが腹を裂かれようが、即死級の致命傷でないのなら動き続ける。躱し続け、攻撃し続ける。

 

 ラーナルクがユンゴルの脇を斬る。即座にラーナルクの肩にユンゴルの肘が落ちる。奴の追撃の逆袈裟を不完全にいなし、奴の崩れた姿勢を見てすかさず肘を蹴って圧し折る。だが奴はあえて折られた腕を振るい、鞭のように(しな)る裏拳をラーナルクの鼻面へ食らわせる。

 躱せないと覚悟を決めていたのか、ラーナルクは裏拳に合わせて顔を捻り威力を減退させる。そのうえ、鼻と口からの出血を潤滑油に最小の動きで拳をすり抜け、接近。ドラウグル特有の丸見えの骨盤に短剣を引っ掛けて重心をずらし、身体ごと突撃して動きの起点たる腰を刺しに行く。

 密着している小さな体が鬱陶しいのか、ユンゴルは大剣の柄でラーナルクのこめかみを打つ。お返しとばかりに、ラーナルクは自分の頭を打った大剣の持ち手の指を短剣の柄で潰す。

 

 何でもいい。ユンゴルという、自分より確実に格上な古代の英雄に僅かでも傷を負わせられるなら、痛みも、死の恐怖も、どうだっていい。そんな戦い方だ。

 結果、「弓の人」も覚悟を決めたのか、呼吸を整え、弓に矢を番えて戦いを見守る。

 

 

 

 駄目だ。息子が命懸けで私の課した試験に挑んでいる。駄目だ、堪えろ。いや、しかし。無理だ。限界だ。

 私は呵々と、それも腹の底から声を吐いて笑ってしまった。

 ラーナルクに問題はない。ユンゴルとの死闘に集中しきっている。

 しかし比較的余裕のあるサボスや衛兵、腕の欠けた凡蔵を引き摺って来た付き人達も、怪訝な顔をしている。

 

 だってそうだろう? ラーナルクは私のような不出来な男とは違う、天に愛された才人なのだ。

 今までもずっとそうだった。物分りが良く、忍耐を知り、人との関わりを覚え、戦い方を覚え、技を編み出し、それを十全に発揮する。

 百戦錬磨の私が断言しよう。『言うは易く行うは難し』を易々と行うのは異端児だ。異常なのだ。

 その、準神さえもが認める天才が、ここ一番で選んだ戦法が、泥と汗と血に塗れた凡戦とは。

 間違いなく死闘ではある。だが、見るべきものがあるわけではない。天才児が鍛錬の全てを発揮しているとはいえ、そもそも未熟な身体での話だ。私に言わせるなら、動きも遅ければ膂力も弱く、技も拙い。天才的な閃きや策など一切無い。

 あるのは、ただただ捨て身の狂気だけだ。

 

 だが何故だろう。文字通り命懸けで凡戦を敢行する我が子が、堪らなく愛おしい。今すぐ戦いに割って入って抱きしめてやりたいような、永遠に見続けていたいような。なんだこの気持ちは。

 

 ユンゴルが薙ぎを放ち、ラーナルクは仰け反り躱そうとするが、今度はしくじった。顔面を狙った剣先は、頭蓋にこそ届かずとも歯と顎骨を砕きながら顎の筋を断った。

 ラーナルクの血まみれの下顎がだらんと垂れる。鬱陶しかったのだろう。ラーナルク自ら繋がった顎の皮を切り裂き、下顎を捨てた。残った舌が外からでも見える。

 あぁ、なんと美しいのだろう。

 

 エイドラでもデイドラでもいい。人を『定命の者』と見下し我が物顔を曝す不届き者共よ。

 私のような異邦人とは違いこのムンダスに産まれ落ち、『神に見放された地』との異名を持つスカイリムを己の才覚で生き延び、今こうして命を燃やし輝きを放つ、一人の少年を見ているか?

 知らぬ存ぜぬというならばそれでもいい。節穴の目しか持ち合わせぬ(能無し)に用は無い。

 見ているというのなら、臍を嚙め。

 あれは私の子だ。血が繋がっていなかろうが、私の子なのだ。誰にも渡したりはせん。

 

 ラーナルクがユンゴルの唐竹を避けるが、肩までは逃れきれていない。ならばいっそ、とばかりにラーナルクは左腕を突き出し、手首を砕かれながらも前腕の尺骨と橈骨の間に大剣を挟む。

 ユンゴルの膂力を以てすれば大剣を捻るだけで腕を千切れそうなものだが、ラーナルクは間髪入れずに反撃し、奴の前腕を切り裂く。

 腱を切られては、如何な英雄とはいえ人体の構造上動きが阻害される。

 ラーナルクはユンゴルの腱が自然に治癒される前にと、攻撃を畳み掛ける。

 

 おぉ、今は亡き大王よ。貴方はダークソウルを抱えた小人の子たる人に闇を見た。故に恐れたのでしょう。

 しかしこの少年をご照覧あれ。この少年の放つ光に、闇がありましょうか?

 勿論、我が愛息にも腹黒さはあります。しかし人とは、意思有る者とは、世界を違えようともそのようなものなのではありませんか?

 光と闇の双方を抱き、どちらに天秤が傾くかはその者次第その場次第。そういうものではありませんか?

 少なくとも貴方の火を継いだ私には、目の前の少年が闇の落とし子には到底見えませぬ。

 

 ラーナルクが懐から己の血で濡れた投擲紐を取り出し、ユンゴルの目を打つ。濡れて重くなった紐は、奴の視界を一瞬奪う役割をしかと果たした。

 ユンゴルがたたらを踏んで下がる。威力云々より、距離を取るべきと判断したのだろう。しかしそれはラーナルクの思惑通りだった。先程まで奴のいたあたりに落ちていた衛兵の円盾を拾い縦に立てて顔面目掛けて投げつける。いつぞやの同胞団を思い出すな。ダメ押しとばかりに前宙し勢いを付けた踵で盾を蹴り、奴の人中へ深くめり込ませる。

 大技が決まったのは良いが、ラーナルクは着地後、素早く距離を取ることができなかった。それが仇となり、上体を反らせたままのユンゴルに足を踏まれる。逃げようの無いラーナルクの土手っ腹へ、ユンゴルの横蹴りが刺さる。壊れた腕を挿し入れ肉の盾にしながらも吹き飛び、しかし猫のように宙で体勢を立て直す。同時に、胃液と血を吐き捨てる。それでも視線だけは強敵から逸らさない。

 

 気付けば、私の頬を涙が伝う。

 父親らしいことなど、どれほどしてやれただろうか。

 ホワイトランで、私の足にしがみついて来たラーナルク。

 盗賊の砦で、私がいなければ眠りに落ちることさえ覚束なかったラーナルク。

 旅を経て、自身に対する葛藤を抱えるようになったラーナルク。

 懸命に研鑽を積み、今、それを遺憾なく発揮しているラーナルク。

 

 どの記憶も愛おしい。どのラーナルクも愛らしい。

 あぁ、病に倒れた我が父母よ。申し訳ありません。子を持つとはこのような心持ちであったのですね。この身が至らぬばかりに、貴方方が存命のあいだに報告すること叶いませなんだ。

 代わりと言っては何ですが、私は生涯、この子を愛しましょう。この子が死した後も、私の人間性が限界を迎え朽ち果てるまで、この子を愛し抜きましょう。

 

 

 

 完全に悦に入った我が胸中とは別に、身体は自然と弓を引き絞っていた。いざというときには、ユンゴルを針鼠にしてでも息子を救い出す。

 

 ラーナルクがユンゴルの袈裟斬りを屈んで躱し、蹴手繰りを見舞い体勢を崩す。

 そこに放たれる矢。私ではない。ユンゴルは崩れた体勢で更に兜の額に矢を受け、仰け反りながら顎が完全に上がっている。衛兵は涙を流しながらも、ラーナルクとの約束を守った。

 ラーナルクは満身創痍とは思えない撥条(ばね)で飛びつき、ユンゴルの顎から短剣を差し込み、頚椎を破壊する。

 

 だが、それでも古代の英雄は止まらない。怪しい鬼火を目の奥に湛え、大剣を片手で操る。

 それは刺突。軌道は大振り。だが問題は、自身に密着したラーナルクを、自身諸共刺し貫く心算だということ。

 付き人が飛び出す。私は、弓を下ろす。きらりと光る細い物が見えたからだ。

 

 ラーナルクがずたずたに傷ついた腕の手首で、紐を引く。

 いつ仕掛けたのか、偶然だったのか。ユンゴルの剣筋に逆らわない方向への力だったからだろう。ラーナルクの背後の程近い場所に張られていた糸はユンゴルの腕を巻き込み、剣筋を変えた。

 ユンゴルが思うよりも若干だけ速く、剣を置いて腕だけが動いてしまった。

 結果、ラーナルクの心臓付近を刺すはずだった大剣は、右肺を掠めるに留まる。

 そしてその勢いのまま自らの胸にも大剣を差し込んでしまったユンゴルを見て、重心は完全に崩れ、それでいて上体に纏まっているのを確認する。

 ラーナルクはユンゴルの顎に刺した短剣を手放し、新しい短剣を胸に刺す。それを手掛りに腕と身体ごと紐を巻き込んで半回転し、人生で最も手強かったであろう相手を背負い投げる。

 更にはユンゴルの頭部が床に叩きつけられる瞬間、蹴りを加えて首を折り曲げる。

 

 これが裸のドラウグルであれば、投げ技など如何程の効果も無かっただろう。臓器を抜かれ、乾燥させられた体は、酷く軽い。

 しかしユンゴルは古代ノルドの英雄であり、身に纏う鎧は最も重たい黒檀でできている。だから、定命の者と同じく投げ技も決め手となる。

 石造りの床に叩きつけられる瞬間、硬い骨が完全に壊れる音がした。ユンゴルの首は明後日のほうを向いている。

 度重なる短剣での傷と投げが止めとなり、ユンゴルはそれきり動かなくなった。

 ラーナルクは残心を怠らないが、ユンゴルのソウルが私に齎されたことで、戦いの終わりが決定付けられた。

 

「ラーナルク。よくやった。私はお前を誇りに思うよ。……あぁ、返事はいい。すぐに怪我の手当をしよう」

 

 下顎がほぼ無く、舌が力なく垂れ下がっている光景は、傍から見れば醜怪であろう。しかし私には、ただ名誉の負傷としか映らなかった。頬に一筋の刃傷を負って、「男前になったな」と仲間同士冷やかし合うのと、何が違う?

 私は触媒を構え、心の底から祈った。そして密かに、私に王の器を授けたあの王女へ、自慢した。いいだろう? 私の息子の生き様は、これほどまでに輝いているぞ、と。

 英雄の墓所にしては狭い空間に、『太陽の光の癒し』の眩く、それでいて温かな光が広がる。

 大回復でさえ骨折を容易く治すのだ。白教の中でも限られた聖女しか使うことの叶わないこの奇跡であれば、我が愛息の怪我を完治させることなど容易い。

 

 糞の役にも立たなかった衛兵は回復薬で済ませ、不具として生き長らえさせようかとさえ思っていたが、ついでに快復してしまった。まぁ、どうでもいい。

 重要なのは、興奮が覚めて痛みが出始めていたところにそれがすっかり消えてしまう文字通りの奇跡を体験し、「すごい! すごい!」とはしゃぐ最愛の息子だ。

 この、世にも愛らしい光景を見て、私は一つの決意を固めた。

 

 盗賊ギルドがスカイリムで永く栄えるために、友等との計画は問題なく進める。

 だがそれと同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()を作る。そのためであれば、幾千だろうが幾万だろうが幾億だろうが、屍を積み上げても構わない。

 今の私には、友ブリニョルフも、息子ラーナルクも、同様に大切なのだ。

 そして悲しいかな、凡蔵を自覚する父にできることと言えば、その程度しか思い付かないのだ。

 

 さて、そうと決まればもう一人の友ブレックスに相談だ。なにせサルモール殲滅は既定路線になってしまったのだから。

 アルドメリ自治領などというものは地図上から消し去り、可能であれば文献も破棄したいところだ。

 ラーナルクはノルドなのだから。連中は居ないほうがいい。

 となると、これまで以上に湯水の如く金がいるな。いい加減、リーチ方面にも着手するか。ブレックスからもせっつかれているし。

 いやまったく、人間、生きがいができると活力が湧いてくるものだな!




紛うこと無くイカれ親子。

今話戦闘ではかなり凄惨な描写があり、オリ主もかなり気持ち悪い感じになっていたので、振り切れちゃった親子のテンションについていくため(更新の間隔が空いたのも大きいですが)、若干のネタバレを入れました。予告無しだとドン引きで終わると思ったので。ですが、読者の方々にはどう映るのかお聞きしたく思い、アンケートを設置いたしました。ご協力いただければ幸いです。例によって、それに従うかのお約束はできかねますが。

  • ネタバレ一切無し! 論外!
  • もちっとボカしてくれれば。
  • 今回くらいの感じならまぁ。
  • 寧ろ前書き後書きでダイジェスト付けて。
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