DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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前話アンケートにご協力くださった皆様、ありがとうございます。ネタバレ厳禁の方もいらっしゃったので、余程の理由が無ければ『無し』の方向で行こうと思います。
ただ、ダイジェストが欲しいという意見もありましたので、前話のおさらいという形で試験的に入れてみます。数話で感触を確かめ、そのまま継続するかを判断します。有無に迷ったら、アンケートでお力を借りるかもしれません。
また、ぽんぽぽ様、麦茶太郎様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。

前回の粗筋。
ハンセの兜を入手するため、ユンゴル墓地へ。道中はさして何事も無く(衛兵二人死亡。下手人もピンボールの末、死亡)。ユンゴルとの戦闘でラーナルクめっちゃがんばる。パパ大歓喜。


三二、凱旋

 ユンゴルを撃破しハンセの兜を入手してからは、すぐに墓地を出た。

 

 いくら一行の怪我を完治させたとはいえ、予想外の危険が無いとは限らないのだ。安全は千金に値する。気にし過ぎる程度で丁度いい。そのため、付き人達の墓荒らしも最低限だ。

 そもそも墓地が比較的小規模であることを鑑みれば、ユンゴル自身が身に着けていた装備や装飾品、宝箱の宝物を除けば、然程目ぼしい物は無いと思われる。

 イスグラモルは墓をこさえる程にユンゴルを惜しんでいたわけだが、彼が率いたのは北方からの開拓団なのだ。何かと入用であったのは想像に難くない。その中から、ユンゴルが一人の英雄として恥をかかないだけの宝物と装備を捻出しただけでも、彼の人物の愛を感じるというもの。

 事実、ユンゴルの纏う黒檀の鎧は、私が()()()の墳墓で薙ぎ倒したドラウグルの物に比べて、上等なように思える。良い職人が手掛けた逸品であったのだろう。

 まぁ、それらは有り難く全て丸っと頂戴していくわけだが。

 

 こちらはこちらで、出陣式まで執り行って送り出された身だ。死人も二人出ている。土産が少なければ凱旋式が寒いものになるし(万一、兜以外に宝物が何も無かった場合、私の手持ちを排出することになっていた)、物は使ってこそ価値がある。

 ユンゴルも我が愛息との戦いを経て天に召されたであろう。ならば残った世俗的物品の数々は、世俗的にきちんと活用すべきである。

 

 というか、ドラウグルには残滓と呼ぶべき程度しか魂が残されていない可能性もあるにはあるが……、よくわからん。

 私が獲得したソウルの量はそれなりのものであった。だが、ソブンガルデを夢見るノルド戦士達の死体処理が、霊魂を地に縛り付けるものとは考えづらい。

 するとドラウグル作成の術とは、本人の霊魂はソブンガルデへと旅立ちつつも、その影のような何かを定着させるもの。と、一応の推察を立ててはみるが……、やはりよくわからんな。時間ができれば、また大学で文献でも漁ってみるとしよう。最近はウラッグとも馴染みになり、視線が柔らかくなって居心地も良いのだ。

 

 閑話休題。

 彼の英雄の鎧は相応に重いため、首長閣下が用いることは流石に叶わんだろう。だが、調度品として飾るくらいはできるはず。謁見の間も多少は格好がつくというものだ。町が復興するにつれ、訪れ(きた)る賓客も増える。目の肥えた連中に侮られない品は貴重なのだ。

 ……などと墓荒らしを正当化する。建前は大事だ。話が大きいときは特に。

 

 それに、ブリニョルフと出会った墳墓でも感じたが、埃っぽく陰気臭い場所に好き好んで長居したい者はいない。そんなわけで、一行を急かすようにして墓地から出た。

 親切にも、ユンゴルの座す玉座からほど近い場所に地上への出口があった。推定最古の古代ノルド墳墓がこの様式なのであれば、おそらくスカイリムに存在する古代ノルド墳墓の大概はここと似た造りなのだろう。始まりの墳墓もそうであった。

 まぁ、その手の文化を持ち込んだのがイスグラモル率いる開拓団なわけだから、当然と言えば当然の理屈なのだが。

 

 

 

 ついでに言うと、私のこの忙しない態度が嬉しい誤算を呼んでくれた。

 衛兵隊が、対ユンゴル戦においての私の不参戦に関し、好意的な勘違いをしてくれたのだ。

 

 私としては、ラーナルクにこれから仕事を任せられるだけの力量があるか確認できれば、あとは正直どうでも良かった。ラーナルクさえ生きていてくれれば、最悪の最悪、サボスが死んだとしても必要経費だと割り切れた。

 のだが、「ユンゴルの死の原因とされている『海の亡霊』や、不思議な光る精霊(?)のような存在。そして予想外の仮面の骸骨。それらを警戒した結果、ユンゴル戦に全力を注ぐことができなかった」、とそのように解釈されたらしい。

 それにはサボスの助け舟もあった。曰く、骸骨の仮面は古代に栄えた竜教団の高僧の証であり、通常一人で墓地に眠ることは無い。アレと同等の存在が仮にまだ眠っていた場合、それがユンゴルと対峙しているときに襲ってきた場合、対処可能なのはこのウィンターホールド首長の従者だけだ、と。

 

 はっきり言って嘘だ。言葉のうえでは虚実が半々に織り交ぜられているが、実質的な比重は八対二で嘘だ。

 私も、大学の文献で読んだために多少の事情はわかる。あの仮面の骸骨が古代竜教団の高僧であることは間違いない。ただし、あの仮面を授けられた時点である程度の任地を与えられたと同義であり、一つ所にそう何人も配置されるほど安い存在ではないのだ。

 サボスのこれ(助け舟)はあれだ。自分の参戦が遅れたことの正当化だ。何せこの男、不意を突かれたとはいえ高僧の脅威を認識していながら衛兵隊が焼かれるのを見過ごし、ユンゴル戦においても一人の腕が切り飛ばされるまでのんびりと構えていたのだから。

 サボスとしても言い分はあるだろう。そもそもの話、戦力配分はそこの従者殿が行ったのだから、文句があれば矛先はそちらだ。それに大学からの協力者とはいえ、何故『協力者』が命懸けの働きをしなければならないのか。主戦力はあくまでウィンターホールドの町の人間ではないのか。などだ。なんとなく態度でわかる。

 

 私がサボスを責めることは無いし、焼かれた衛兵隊は自業自得である。しかし、何か言い訳が無いと衛兵隊の抱く心証が悪いのも確かだ。そこで私の言に乗り、さも『自分も警戒に当っていたが、従者殿の許可が出たため参戦した』という話に持っていった。

 このマスターウィザード。比較的善人の部類ではあるとは思うのだが、スカイリム魔術の総本山を実質的に回しているだけあって、清濁併せ持つ人物のようだ。

 私としても、私が責められず、大事な協力者である大学の印象が悪くならないなら、そのほうが望ましいといえばそうではあるものの……。少々怖い男だと感じた。

 

 

 

 いずれにせよ、目的を完遂し帰路につく我々一行の士気は高かった。

 使命感と、じきにそれが達成されるであろう充足感。言い方は悪いが、二人の死人はそれを飾る尊い犠牲、という雰囲気になりつつある。

 実際、野営の際に衛兵隊の一人が酔いながら私に言った。

 

「あの二人は、相手が悪かったんだ。ドラウグルならまだしも、まさか墓地にあんな化け物がいるなんて普通は考えない。戦ったわけではないが、きっと今頃はソブンガルデで古き英雄達と酒を酌み交わしていることだろうよ。

 しかし、だ! あの仮面野郎はもっと相手が悪かった! まさか墓へ踏み入る面子の中に、我が町の従者殿が控えているなんて思いもしなかったはずだ。思い出しても笑えるな。強大な力を持っているはずの魔術師が、何もできずに跳ね回っていたんだ。……良い土産話ができましたよ」

 

 折角水を向けられたのだからと、私もそれなりに冗談を返した。

 

「実を言うとな、まっすぐ中心を射続けても跳ね方に面白味が無いと思い、わざと的をずらして射っていた。

 こちらは仲間をやられているのだ。滑稽に踊ってもらわねば腹の虫が収まらんというもの。違うか?」

 

 別にそんなことは一切考えていなかったし、跳ね回ったのは仮面の骸骨がどうにか私の矢を躱そうともがいた結果なのだろうが。「然り!」「そのとおり!」と合いの手が入る。

 私も町に帰れば首長の私兵に就任するのだ。町の軍事の頂点として立場は守らねばならんし、上意下達を容易にするためにも、下の者達とはそれなりに打ち解けていたい。

 仮初でもいいのだ。要は「声をかければ話を聞いてもらえる」程度に思ってくれればそれでいい。私には、ブレックスのような統率力も魅力も無い。であれば、彼奴よりは柔らかい方向性を示さねば。

 

 

 

 その後も道中色々と話しているうちに、ラーナルクの去就について問われた。

 

「従者殿のお子さんがあれだけ戦えるってのにも驚かされましたけど、そうなるとやっぱり衛兵隊に入れて、そのうち従者や私兵の地位をお継がせになるんで?」

 

「微妙なところだ。何せ人手が足らないからな。使えるのなら、今回のように息子でも使うさ。

 ただ、君達と時折行動を共にすることはあるかもしれないが、基本的にはあちらこちらへ便利使いしようと考えている。だから、正式には所属させない。

 従者や私兵云々も、本人のやる気次第、かな?」

 

 私の言でラーナルクが僅かに反応した。衛兵隊の二人はわかったようなわからないような顔を浮かべてから、「よろしく頼むぜ」などと絡んでいる。だが、絡まれている愛息の意識の向きはこちらである。

 ラーナルクは試しの儀を熟した。一人前の力量があると私に示した。故に、私の代わりにこの地方の問題解決に奔走させられるのは、心情的にも問題ないだろう。

 何せ「実戦経験を積みたい」と願ってきたのは本人なのだ。これから嫌というほどそれを積ませてやろうという話である。私には愛息が無表情に見えるその実、緩んだ頬に力を入れているのがありありとわかる。

 気になったのは、衛兵隊には所属させない、という一言だろう。

 仮に自分を遊撃隊の如く動かすにしても、その所属は衛兵隊でも構わないはず。父は町での立場を築くことに腐心している。ならば自分もその後継としての姿勢を早くから示しておけば、得こそあれど損は無い。しかし、衛兵隊への正式な所属はさせないという。解せない。そんなところか。

 

 先の言の意図は、特別隠さなくてはならないわけでもない。しかし、これに関してはブレックスやブリニョルフとも話を詰めて、何よりラーナルク自身の様子を注意深く見極めなければならない。

 聡い我が子のこと。おそらく既にぼんやりとは気付いているだろうが、打ち明けるのは今少し先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 町での凱旋式は、出陣式以上に賑やかなものとなった。とはいえ出陣式とは違い、正式な式典ではない。あえてなし崩しの体を取る。

 

 町まであと数日、といったところで、付き人の一人が先触れとして駆けた。ソリチュードなどの大きな町であれば、実質的な軍事作戦終了の後、日を改めて形式的な凱旋式を執り行うこともあるだろう。

 しかしウィンターホールドはまだまだ復興の最中。いちいち金をかけてはいられない。

 それに時には、予定された式典より帰還したその足で宝物を皆々に披露するほうが、演出の色が濃く出ることもある。このあたりの機微はブレックスの発案だ。

 そして何より、私の面倒も減る。

 

 ついでに言えば、首長閣下やアグス師は我々の帰還を疑っていなかったろうが、町の住民達からすれば『失われたウィンターホールドの誇りが取り戻された』という一大事である。というか、我々の生還が既に一大事である。そこいらの賊退治とはわけが違うのだ。

 数年前まで、周辺の害獣退治にも困る有様だった町だ。それが、新戦力が加わったとは言え、冒険を終え、なおかつ目的の品を手に帰還するなど。

 住民達としては、ウィンターホールドの町に新たな歴史が刻まれた瞬間、とでも思っているかもしれない。私から見ても、歴史云々は事実そうだと思える。兜の帰還は、わかりやすい復興の兆しになるからだ。

 

 ちなみに、我々の(主にラーナルクと衛兵隊二人)装備は、泥と血に汚れ、傷だらけのままである。

 私は、亡き友等が騎士として華々しい活躍を遂げていた故郷での話から、『凱旋式』の前には身だしなみを整えるものだと思っていた。単純にそのほうが格好がつくからだ。そのため先触れを出した段階で、街道近くの水場に寄って装備の汚れを落とすよう進言したのだが、衛兵達から「とんでもない!」と叱られた。

 曰く、この尚武の気風逞しいスカイリムでは、傷も血汚れも全て戦士の勲章。それを厭うノルドなどいはしない、のだそうだ。

 所変わればとは言うが、現地の戦士がそう言うのなら、そうなのだろう。地獄を這い回った私や盗賊連中には無い感性だが、その傷んだ装備の放つ戦いの残り香こそが、険しい冒険を感じさせる何よりの証なのだ。

 私としては、面倒が無いならなんだっていい。情緒がない、などとは言わないでほしい。ただまぁ、我が愛息が町の住民達から歓声を浴びる想像をして少々照れ臭そうにしている様は、なんとも眼福であった。

 これは酷く疎まれ、頓着されない時期を味わっているからなぁ。表立って持ち上げられる、という経験は初めてのことだ。そうでなくとも、普通に生活していればそうそうある機会ではないのだから、存分に味わい、楽しんでほしい。

 少しずつ経験を積み成長していく愛息を眺めていると、早く独り立ちさせてやりたいとも思うし、ずっと子供らしいところを私に見せてほしいとも思う。親心とは勝手なものである。

 

 

 

 町の入口の外にまで人が出てきている。まだ『大きな村』以上『小さな町』未満の人口しか持たないウィンターホールドだ。目抜き通りが人で溢れた、ということではないはずだが、気の早い連中はどこにでもいるらしい。

 ここまでは衛兵隊と付き人達が交代で荷車を引いていたが、興奮した様子で駆けつけた住民が荷車をひったくった。こんな仕事は自分たちに任せて、英雄は英雄らしく、堂々と歩いてくれ、と。

 殊勝なことを言うが、どう考えても、お祭り気分に浮かれて自分も主役のお溢れに与りたい、という算段に思える。一行の皆が顔を合わせ、苦笑し、「まあいいか」と歩き出した。

 

 町の入口である、やたら立派な外壁を潜り、思う。初めてこの町を訪れたときは、見事な外壁が町のみすぼらしさを強調していると感じた。しかし今では、この外壁に相応しい町までの道筋が見えている。少々、感慨深い。

 

 荷車の引手を買って出たお調子者も、存外悪いものではなかったらしい。従卒の如き人間がいるおかげで、我々一行の一人一人が、より英雄然として見える。

 そのあたりまで計算して断られまいと申し出たのなら、なかなかどうして。住民の中にも目端が利く使えそうな人材がいるではないか。これからどんどん人手が必要になるのだ。強面の相談役殿に進言して、住民達の中から行政に係わらせる人間を募集しよう。実態が徴用であろうとも、あの男のこと。そのあたりは上手にやるだろう。少なくとも私が恨まれなければ構わん。

 

 

 

 門の中には、古くから町に住むノルド達も、新参者の中では古参のダンマーも、極最近やって来た少数のエルフやカジートもアルゴニアンも、様々な顔が目抜き通りの脇に控えている。これもまた、一つの成果であろう。

 私が気分良くしばらく進むと、区画整理(という名の廃屋撤去兼材木確保)で広場のようになった場所で、首長閣下が満面の笑みを浮かべ歓迎の意を評している。側には、アグス師のみならず、大学の主な教授陣。それに聴講生の姿もいくらか見受けられる。あの研究馬鹿共が進んで祝いにくるはずがない。これは無理やり連れ出されたな。

 とはいえ、以前、共同声明発表を行ったときは、もっと大学に近い町の外れであったのだ。こうして町の中心部まで大学関係者の立ち入りを許す程度には、住民達の心境も変化している、ということであろうか。であれば喜ばしい限りだ。

 

 私を感慨から覚ますように、閣下の声が耳に入る。

 

「我がウィンターホールドの誇る勇者達よ。よくぞ無事に戻った。まずは再び儂にその顔を見せたこと、何よりの武勲であるぞ」

 

 多少面倒ではあるが、一行の代表は私だ。全員が跪いた後、口を開く。

 

「有り難く、恐れ多いことにございます。我等は閣下の剣。閣下の盾。閣下の下へ戻るは当然にございます。

 ……しかし申し訳ございません。私の力不足にて、二人の戦士を死なせてしまいました。この罰、如何用にも受ける所存にございます」

 

「そうさな。姿が見えんとは思っておった。だがなぁ、儂は露ほどもその死を嘆いておらん。

 尋ねるまでもないのだがな。儂の剣は、盾は、儂のためによく戦い、よく死んだのであろう?」

 

「無論にございます。武運拙く命こそ落としましたが、封じられし古代竜教団の高僧と相対し、旅立ちました。その証はアレン師がお持ちです」

 

 献上するわけではないが、サボスが骸骨の身に着けていた仮面を掲げ、皆に見せる。あとで大学の連中が好き勝手に調べ、揉みくちゃにするのだろう。

 

「なんとな! それほどの手練が相手であったとは。であれば尚のことよ。

 このウィンターホールドからは、久しくソブンガルデへ旅立つ者も居らなんだ。寧ろ、これで少しは儂も、父祖に顔向けできると言うもの。彼奴等も鼻を高くして、戦士の館の戸を叩いているだろうて。

 ……死したる二人もまた、紛れもなく英雄であった! 英雄の遺族へは篤く手当を行う故、安心せよ」

 

 私は短く返事をし、感謝を述べる。

 …………この手のやり取り、ウルフリック相手のときも思ったが、面倒なうえに歯が浮くな。

 騎士であった友人等の思い出話を元に取り繕ってはいるが、元来私はただの市民だ。騎士階級でもなんでもない。ただ、戦わざるを得ない地獄に叩き落されたがために、戦士と成り、戦士と名乗っているにすぎない。要は、とても、疲れる、のだ。かったるい。

 

 私の鬱憤を察したのかどうかは知らないが、閣下が話題を変える。

 

「して、どうじゃ。主らの冒険譚は追々聞かせてもらうとして。例の物は手に入ったのかの?」

 

 先触れから聞いているだろうに、とは思うが、顔に出してはいけない。

 私は、他の宝物とは別に予め用意していた木箱を、付き人から受け取る。その中から清潔な布で包んだ品を取り出し、解き、永き時を経てあるべき地へ帰還した兜を恭しく掲げた。

 一瞬、閣下の目が揺れる。いつも人前では道化かと思うほど演技の仮装を全身に貼り付けているこの翁であるが、失われていた誇りには思うところがあるのやもしれない。

 

 兜が私の手から離れる。

 若干震える手でウィンターホールド首長は兜を眺め、ゆっくりと撫ぜる。そして己のサークレットを外し、多くの者達が見守る中、兜を身に着けて見せた。

 重みを確かめるようにか、やや頭を垂れている。こちらからでは逆光で表情が見えない。

 そうかと思えば閣下はそれまでの緩々とした動きとは打って変わり、素早くも雄々しく両手を広げ、町中に響けとばかりに声を張り上げる。

 

「今、ここに! スカイリム上級王()()()()帰還した。これにより、栄光の時代が再び蘇る!

 儂は今一度、宣言しよう! ウィンターホールド中興の祖となり、在りし日の繁栄を必ずや取り戻すと! しかし儂一人の力では、到底叶わぬ大事業である。この兜が長らく失われていたようにな。

 だからこそ、皆の力が必要だ。ここにいる全員の力だ!

 見ればこの場には、ノルドではない者も多く居る。しかし最も大切なことは、その者の胸にウィンターホールドの火が灯されているかどうかだ。

 ……そこなダンマーの御主! 御主の胸に、『ウィンターホールド』は有りや無きや!?」

 

 突然指名された男は、驚き、どもりながらも「あります!」と大声で答える。

 

「では、そこな大学の! 貴様の胸に、『ウィンターホールド』は有りや無きや!?」

 

 指名されたのはアグス師だ。師は恭しく腰を折り、悠然と答えてみせる。

 

「無論、大学は何時如何なる時も、ウィンターホールドの町と共に有りて」

 

 師の後にも、閣下は数人を指名し、同じ問を投げかける。返答は皆、同じ。『是』だ。

 

「これほど喜ばしく、これほど頼もしいこともない。儂はこの命の限り、町に殉じよう。どうか皆の者。今日の日の胸の火を忘れず、儂に付いてきてほしい。

 ……さて、小難しい話は終わりじゃ。今日はこれより町を上げての宴とする。木組みの大きな焚き火をこの場に用意せよ! 勇者達を労え。腹の限界まで飯を喰らえ! 酒を飲め! 全て儂が持とう!」

 

 首長自らの大盤振る舞いに、居合わせた面々が湧き上がった。タダ飯タダ酒に浮かれただけだろうが、首長は自分の頼みと宴の宣言を、ほとんど間をおかず言い切った。そのせいで首長の頼みへ応じたようにも聞こえる。

 あとは熱狂のまま飲んで食って歌って踊れば、自然とそれが事実として残る。いくらかの不満分子がいたとしても、大概は同調圧力に負けて大人しくなる。

 それでも元気な輩は、人知れず旅に出るか、寿命の(ろう)が思いがけず短くなることだろう。私を含めて、その手の働きを得意とする人間が、この町には(ひし)めいている。どうかすれば人口比率の関係から、リフテンより酷い有様かもしれない。

 計画は、まだ予断を許さない。完全に軌道に乗れば話は別だが、まだ失敗できる段階ではないのだ。悪いとは思うが、対処は厳しいものになる。

 そも、今日のこれとて色々と仕込みを入れて演出したのだ。こちらの努力を気分的なもので壊されては、溜まったものではない。

 

 

 

 私が後ろ暗いことを考えていると、衛兵隊や住民達に酒樽の前まで引っ張られた。

 まずは飲め。そして冒険譚を話せ。次いで飲め。そんで話せ。したら飲め。やっぱり話せ。でもって飲め。飲め。飲んで飲んで、一緒に騒げ。……そんな調子だ。

 しかし私は、特段の話上手というわけではない。話下手でもないが。

 ここで一番面倒臭いのは、生き残った面子のあいだで話に齟齬が生まれることだ。

 それに、言い方は悪いが、私個人の目から見ればぬるい『ダンジョン』だった。そこまで熱の入った語り口にはならんだろう。愛息が命懸けで遂げた試験であるため、けして口に出しはしなくとも。

 

 とにかく、私は語り手として相応しくない。なので、近くにいた愛息ラーナルクを私の前に引っ張り、立たせる。

 この子の口が重たいのは知っている。しかしだからこそ丁度いい。多少他の者と話が食い違ったところで、言い間違えたのだと解釈されよう。

 それに賊討伐前の値段交渉や最中の指揮を見る限り、必要であればきちんと話せるのだ。これから凡蔵衛兵隊との接点が増えることも鑑みれば、話し上手になっておいて損は無い。

 そんなことをラーナルクに告げると、「なんて酷い!」とでも言いたげな目で私を見るではないか。賊の頭をけしかけたときも、ユンゴルを任せたときも、こんな顔はしなかったはず。おそらく世間一般的には、試験内容のほうが余程酷かったと思うのだが。ずれた子である。

 私を気にかけてくれる世話焼き老婆達も寄って来て、ラーナルクを自らの孫のような存在として認識した様子だ。質問攻めと飯の世話が止まらない。

 いよいよ以て「お父さん助けて」の視線が強くなってきたが、冗談交じりに「『町へ帰還したら試験は終わり』とは言っていないぞ」と告げる。それを聞いてハッとした様子ではあるが、勿論私が絡まれないための方便だ。

 父は面倒なことになる前に、相談役殿の側へ避難する。あの強面は人除けにお誂え向きだ。

 

 付き人達もこちらの意図を察したのか、大袈裟な身振り手振りで衆目を集めるように語り、衛兵隊にも話を振っている。筋書きをそうして固めるつもりだろう。

 この手の冒険譚や武勇伝の類は、最初だけまとまっていればいいのだ。あとは酔いも手伝って徐々に話が大きくなる。多分、明日には私は仮面の骸骨の()()を一人で射殺したことになっているだろうし、死んだ二人の衛兵は私がそれらを相手取るあいだの時間稼ぎを決死の覚悟で行ったことになっているかもしれない。

 まぁ、誰も損をしないのだから、そのくらいは良いのではないかと思う。実際、遺族への手当を篤く、というのは大事だ。金銭的援助も、心的幇助も。

 寂れた町にお似合いな練度しか持たない衛兵隊を、これから一人残らず精鋭に叩き直さねばならない。町ぐるみで「町に殉じるのは名誉あること」という空気感を作ってもらいたい。そうすれば、どれだけ訓練が過酷でも、自分から止めるとは言い出しにくくなる。そして目論見どおり衛兵隊が精鋭揃いになったなら、あとは憧れやら何やらから勝手に入隊希望者が続くようになる。

 これも計画のため。悪いが、まだまだ気を抜くわけにはいかんのだ。一事が万事。始まりこそが肝要である。

 

 ……とはいえ、今は楽しめばいい。折角の宴なのだ。そしてこの手の催しを、他にも定期的に行おう。楽しい思い出があれば、苦しいときでも先にあるそれを想像して、堪えられるものだ。飴と鞭である。存分に泣かせるから、存分に笑ってくれ。




まさか凱旋だけで終わるとは。話が全く進んでない。ですが次回更新分は七割方書き上がっていますので、一週間前後で上げられると思います。
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