DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
また、大量の誤字報告をありがとうございます。と、同時にすみません。読み上げ機能を過信して、ちと油断があったようです。気をつけます。
麦茶太郎様、ぽんぽぽ様、Lucille Felix様、4ut様、サヨリ様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
それから、作品タイトルについてアンケートを設けました。だいぶ読者様方が絞られて今更感もあるのですが、なるべく広く意見を募りたいので、設置期間は長めにしておきます。ご協力いただければ助かります。
前回のあらすじ。
盗賊ギルドの状況についておさらい。
ラーの字、ビビリ。
最終的には出立の決意。
「今までは兄弟の子だってことで皆がお前さんに気を遣っていた。でもギルドに着いたからにはそうはいかないからな。初めての経験だろうが、新入りらしく、上手にやれよ。
……とは言うものの、彼が自信を持って送り出したんだ。そのあたりも卒無くやってのけるんだろうな。全く、可愛気の無い小僧だよ」
二頭の馬に荷物を積み、ブリニョルフとラーナルクがそれぞれ
他にもギルドからの出向者である付き人が同道し、計三人の盗賊が街道を往く。
第一の目的地としてまずはウィンドヘルムを経由し、その後、リフテンを目指して乗合馬車を捕まえる予定だ。ついでに言えば馬車はリフテン直前で降り、一時ブレックス一味の塒となっていた砦にも寄る予定である。いつぞやの旅程を逆行する形だ。
ウィンターホールドから馬車を使わないのは、単にまだウィンターホールドに乗合馬車が常駐するほど復興が進んではいないからだ。しかし、それも時間の問題だ、と町の上層部も行商人達も考えている。人が集まれば金が集まり、金が集まれば人が集まる。そうすれば利を求めて様々な業種の積極的な参入が見込める。あとは好循環に任せればいい。町の復興は順調だ。
「あぁ、そうだ。建前上、お前さんは兄弟と反目して、半ば出奔する形でウィンターホールドを出たことになっている。お前さんを戦士として後継に据えたい兄弟。外の世界を見て、自分の道は自分で決めたいお前さん。ちっとベタな話だが、それだけ信憑性も出るし反論も難しい。で、兄弟は外聞を気にしてそれを追認、と。表向きは武者修行の旅だな。
その程度の作り話でメルセルの目を誤魔化せるかは微妙だが、何も無いよりはマシだし、自然だ。大好きな『お父さん』の嫌味を言われたって、頭に血を上らせるんじゃないぞ。どうせ最後には始末するんだ。そう思って、我慢しろ」
ラーナルクは沈んだ気持ちのまま、旅程について思う。ウィンドヘルムに着いたら、トルドスに会えるだろうか。できればアーチルとも顔を合わせて、ウィンドヘルムの情報を仕入れておきたい。間諜だけでは探りきれない内部の情報も、自分であれば話してくれるかもしれない。
それに、砦に立ち寄るのも少し楽しみだ。砦に滞在したよりずっと長い期間をウィンターホールドで過ごしている。自宅と言えば「お父さん」の館の印象が強い。それでも、あの砦はラーナルクにとっての原点とも言える場所だ。ホワイトランを捨て、「お父さん」や盗賊達と過ごした、かけがえのない場所。離れるときは酷く寂しく思ったが、こうして戻ってくることもできるのなら、そう悪くないとも思えた。
「そうだ、大事なことを忘れていた! メルセルに髪の話はご法度だぞ。ちょっと言いづらいんだが、兄弟が初めてフラゴンを訪れたとき、力を見せる必要があったんでな。奴さんの頭をなかなかの男前に刈り上げちまったんだ。もう十年近く前の話だからすっかり元通りになって、見た感じでは全くわからんがな。とはいえ、あの執念深い男が忘れて水に流したとは考えにくい。触れないのが吉、だ。
それから、メルセルとは別の理由でデルビンという男にも、髪の話は同様だ。理由は見ればわかる。男なら、情けを知るべきだ」
……のだが、ラーナルクが自分なりに心の整理をつけている
先達からの注意事項でもあるため全くの無視もできず相槌を打っているが、そろそろラーナルクも癪に障ったらしい。
「……ブリニョルフ、さっきから何なんです? 髪の話はまだしも、他の話はブレックスの
「おや、そうかい? そいつはとんだお節介で失礼をばいたしましたね、
飄々とした口調で、これぞ『慇懃無礼のお手本』とも言える仕草で以て頭を下げるブリニョルフ。それを見たラーナルクは視線を逸しつつ眉根を寄せて舌打ちを打つという、如何にも『不快である』という態度を見せる。
思えば、この伊達男は初めて顔を合わせたときから自分を小馬鹿にした態度を見せる。おそらく、それは自分の被害妄想ではないはずだ。ラーナルクはそう考えている。
「しかしなぁ、
お前さんは決断をして、俺達は既にウィンターホールドを発った。つまりはとうに作戦行動中だという話だ。そして言うまでも無く、その作戦の要は、小僧、お前さんだ。初めて『お父さん』と離れて心細いのはわからんでもないがな。シャキッとしてもらえないと、こっちとしても不安で仕方ないんだよ。どうも我が兄弟は、お前さんを猫っ可愛がりして育てたように思えるな。
一応言っておくが、お前さんが使い物になるかどうかの見極めは俺に任されている。兄弟は太鼓判を押すし、叔父貴も『最低限は仕込んだ。使い物にならんことはないはずだ』と
ラーナルクにとって、他でもないこのブリニョルフという先達から痛いところを指摘されることほど、不愉快な話も無かった。
見当違いの揶揄や罵倒であれば聞き流せる。相手が滑稽に見えるからだ。しかし、いちいち自分の図星を突いて来るこの手合は、はっきり言って苦手な類の人間なのだ。
ラーナルクとて、作戦遂行の能力があることを内外に示せ、というブリニョルフの言葉は理解できる。ほとんど身内と言って差し支えないこの面子ですら不安にさせるようで、どうしてギルド内部に派閥を形成できるだろうか。
そう頭で考えても、表情はどうしても仏頂面を浮かべてしまう。ブリニョルフはそんなラーナルクを見て溜息を一つ吐くと、いくらか口調を和らげて切り出した。
「なぁ小僧。お前さんが気乗りしない本当のところは、俺と一緒だから、とかそんなつまらん話じゃないだろう? ウィンドヘルムに付けば、ギルドへ帰還する者とも合流する。そうすればこんな緩く砕けた話はできなくなる。何か
聞かせる相手が俺だという点については、大人になって目を瞑れ」
逃げ道を塞がれた。ラーナルクはそう思った。
自分が作戦遂行にあたり、問題になりそうな精神状態である自覚は持っている。解決方法として、先達に相談することが有効だとも。そして、ここで口を開かなければ意地を張る子供だ、と自ら白状するようなものであることも。
ブリニョルフは単に親切心と多少の意地の悪さで諭したに過ぎないのだが、ラーナルクには卑劣な誘導尋問に思えて仕方なかった。何でこんなヤツがお父さんの友達なんだ、とも。
甚だ不本意ではあるが、ラーナルクはブリニョルフに話を切り出した。
「……今回の作戦、お父さんはどうして僕を指名したのでしょうか」
「彼が言っていたじゃないか。盗賊の業が使える面子の中で、一番の腕っこきがお前さんだったからだ、と。まさか忘れたのか?」
忘れるものか。ラーナルクにとって「お父さん」の一言一句が絶対だ。例え現実と多少の齟齬があろうともそれは世界が「お父さん」の常識と食い違っているだけのことで、「お父さん」に間違いはない。ラーナルクは、客観的に世情と養父を観察し理解したうえで養父を絶対視する、という極めて器用な思考を身に着けていた。
そんなラーナルクが「お父さん」の言葉を失念するなどということは有り得ない。
そして、ブリニョルフがわざと直接的な回答を避けたことにも気が付き、腹立たしく思った。たしかに自分の戦闘の腕は、「お父さん」にも認めてもらえるほどではある。しかし、今回の作戦で重要なのは戦闘力ではない。そこはいくらでも代用が利く。自分である必要はない。
ラーナルクは更に、「ブレックス達なら、メルセルに近しい人物を寝返らせて駒とする」くらいはやってのけるのではないか、とすら考えた。自分というギルドの面々からどういった反応を受けるか未知の駒を使うよりは、余程確実ではないかと。そしてそれは、このいけ好かない男もわかっているはずだと。
だからはぐらかされたような気がして、腹が立つ。
「お父さんは、僕に独り立ちする必要が、親離れの必要があると判断したのでしょうか?」
自分の発言とは直接結びつかない質問を聞き、ブリニョルフもラーナルクが腹を割って話すつもりなのだと察した。
だからこそ、最も触れられたくないであろう胸中の脆く、古傷にも関わる場所を触るような真似をする。
「お前さん、兄弟が自分を疎んでいるだとか、『要らなくなった』んじゃないかなんて考えて……」
「そんなわけがないでしょう!」
ラーナルクはブリニョルフの言を遮るような大声を出した自分に驚き、付き人は一応周囲を警戒し、ブリニョルフは元孤児の古傷が歪に塞がっていることを悟った。
「お父さんが僕を捨てるはずがない。お父さんは僕を愛してくれている。それは絶対です。絶対なのだから、誰だろうと否定は許しません。
……けれど、どうしても、埋めたはずの記憶が
絶対なはずのお父さんの愛を、僕自身が信じきれずにいる。疑ってはいけないのに。それは、今まで貰った、日溜りみたいな、篝火みたいな温かさを否定することなのに。許されないことなのに」
外套の上からでも衣服を突き破りそうなほど、ラーナルクは自分の腕に爪を立て、握りしめている。
ブリニョルフは軽口を挟むこともできずに、黙ってその様子を見ている。
「裏切りだ。僕はなんて愚かで、恩知らずで、恥知らずなのか。こんな僕が存在する価値なんて。
いやでも、それじゃあきっとお父さんが悲しむ。それに僕が思い悩んでいると知れば、それもきっとお父さんの悲しみにつながる。
これほどの親不孝者もいないでしょう。そして僕は傲慢にも、お父さんが悲しむとわかっていながら、自分の葛藤を優先させてしまう。お父さんの愛を僅かでも疑ってしまった自分がどうしても許せないなのに、そうすることが止められない」
これは随分と拗らせたものだと、ブリニョルフは軽く天を仰ぐ。そしてウィンターホールドに残った友へ少々の恨み言を吐く。「面倒な息子を押し付けてくれたな、兄弟」と。
放っておけばいつまでも自罰的思考の螺旋から抜け出せそうにない若者に対して、ブリニョルフは最後に二つ、伝えておくことにした。
「お前さんの悩みはお前さんのもんだ。兄弟が何を言ったところで解決するもんでもないだろうし、ましてや俺ではな。だからまぁ、『一応、伝えておこう』程度の話を聞いておけ。
兄弟は、ほら、知ってのとおり寿命が無いだろう? だからかな。前に聞いたんだが。
兄弟はお前さんが何者であろうとも構わないのだと。英雄と歌われる戦士になって私兵の後を継ごうが、超一流の盗賊として希代の大悪党になろうが。反対にお前さんが穏やかな暮らしを望むのなら、死ぬまで自分が面倒を見てやってもいいと本気で思っている。
期待しているとかしていないとかの話ですら無い。一人の男として立派に立とうが、穀潰しの腰抜けとして館に籠もっていようが、兄弟としてはそう大きな問題じゃないんだ。どっちだって、彼にとってお前さんが愛しい息子であることに変わりはないんだとさ。
今回みたいに自分の息子にも広い世界を味わってほしいって思うのは、単純にそのほうが人生に張りが出て楽しかろう、って親心だよ。それ以上でもそれ以下でもない。兄弟はそう考えているってだけの話だ。それだけ、覚えておきな。
あとはお前さんの問題だ、小僧。せいぜい自分で考えることだな。一応、ウィンドヘルムまでに
ブリニョルフから齎された「お父さん」の思いによって、ラーナルクの脳内は更に荒れ狂った。混沌とした複数の渦が干渉しあっていたところに、大嵐が巻き起こした竜巻がやってきた。最早収拾が付かない。
そこへ更にブリニョルフからの
「もう一つはあれだ。お前さんと兄弟がしているっていう鍛錬。聞くところによるとかなり厳しいものらしいじゃないか。しかし不思議なことに、双方どちらもそれを全く気にしていない。
兄弟はお前さんのことを特に気にかけているからな。全く考慮していないってことはないだろうが。ただまあ俺としては今回の件も、似たような心持ちでいるんじゃないかと思うぜ。
彼からすれば『息子が強くなるのであれば必要な過程である』とかそんな理屈で、お前さんが色々と悩み苦しみ、自分の愛を疑われることだって、多分納得しているんじゃあないかな。彼の無二の友たる俺様はそう考えるのだよ、小僧。
そこに、以前話したろう? もう何年も昔のことで忘れたかもしれんが……。これから行くリフトの砦を出るときのことだ。たしか『彼に庇護され、愛される幸福を自覚しろ』だったか言ったはずだ。そのあたりのことも合わせて考えてみれば、そのうち自分なりの答えも出るだろうさ。……いけない、二つが三つになっちまった」
ラーナルクは歩き続けながら、ブリニョルフの言葉の意味を考えに考えた。しかし、その程度で答えが出るならラーナルク本人も周囲だって苦労はしないだろう。結局、あまりに乱れる胸中への当座の対処法として、全てを穏和な作り笑いの下へ隠すことにした。
身を引き裂く嵐を宿したまま、ブリニョルフの言う
若者の様子は危うくあるが、目を瞑るとは自分の吐いた言である。どう考えても立ち直ったとは思えないラーナルクを横目に見やりつつ、ブリニョルフは再度兄弟分へ恨み言を投げながら、この手のかかる
「……見送りまで済ませてから言うのもなんだけどよ。本当に坊主を行かせてちまって良かったのか?」
「これは異なことを。お前とてあれの巣立ちには最適な時期だ、と賛同してくれたではないか」
「そういうこっちゃねえよ。俺が心配してんのは手前だトンマ。
これから爺様にゃ上級王や各地の首長達と折衝を重ねてもらう。勿論、事前交渉は全部こっちで済ませておくが、土壇場で相手が話をひっくり返さんとも限らねえ。
ただでさえ不安要素のあるデカい話だ。失敗は許されねえ。だから手前の担当が『間に合いませんでした』じゃ話にならねえ。……大丈夫なんだろうな。しつこく確認して悪いが、
ラーナルクがウィンターホールドを出立した後、首長邸へ並んで歩を進めながら、二人の男が話している。
一人はこの町の首長付相談役、ブレックス。もう一人は旅立った青年の養父である首長付私兵の男だ。
男は相談役の問に、何でもないふうな態度で答える。
「勿論だとも。期待していてくれ。まぁ、あれが居なくなって寂しさを感じないと言えば嘘になるが。私も子離れを覚えねばならん時期なのだろうよ。それに、どうしても会いたくなれば会いに行けないこともない。折角新たに生み出した『旅路』だ。使わなければ損と言うもの」
それは子離れできていると言うのだろうか。ブレックスは隣を歩く友人が堪え性の無い性格をしていることを思い出し、十中八九こっそりと無事な姿を確認しに行くだろう、と当たりをつけた。
呆れるブレックスを余所に、男は続ける。
「それに、あれに父親らしいところを見せようと努力した結果かな。ここ数年で、以前より思慮深くなった気がする私だ。お前とて多少なりともそのように感じたからこそ、私一人に任せようと考えたのだろう?」
言ってみればそうだ。初めて会ったときには腕力と恐怖で自分たち一党を従えようとしていた非常識人だったのだ。それが計画のために行動し、大学の書物を読み漁り、町の運営について頭を悩ませるうちに、多少の協調性が芽生えたように思う。
だからこそ男の言うとおり、計画の要とも言える案件を男に一任しようと考えた。……尤も、一党の者を総動員しても手が足りないため、「それならいっそ男に任せてしまったほうが面倒が少ない」という事情が半分以上だという側面もあるのだが。
それはそうと、どうにも男から図星を指されるのは癪に障る。今まで散々尻拭いをさせられているだけに、得意気な顔をされれば尻の一つも蹴り飛ばしてやりたくなる。
「まぁ見ておいてくれ。カルセルモ師や件の女店主を懐柔する腹案はある。どうにもならんと思えば、破綻する前にすぐ報告も上げる。安心してくれ」
ブレックスは「だといいんだがな」と軽口を叩きつつも、溜息を吐く。
男に対してラーナルクの不在による精神の安否を尋ねたわけだが、彼自身も似たり寄ったりであることには無自覚であった。そこを男から逆に指摘され、最終的には尻を蹴り上げることになった。いつもどおりの光景である。
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ラーナルクがウィンターホールドを旅立ってしばらくの後。ウィンドヘルム、王の宮殿においてウルフリックは、会議に臨んでいた。
報告書に目を通す眉間には、時折、皺が寄り、『全て順調』とはいっていないことがわかる。
「ウィンターホールドの
側に仕える者がその呟きを何かの冗談かと思い「流石にそれは……」と口を挟むが、ウルフリックは自説を曲げなかった。それどころか表情にいくらか深刻さが増す。
「私が知る限り、ウィンターホールドはたしかに寂れた村でしかなかったのだ。
どれだけ強大な城壁がそびえようとも、陸地と共に千切れた様子がかえって大災害の悲惨さを物語る。そうして多くの者が気味の悪い思いをし、長くはいつかない。大学と反目しながらも大学に寄生しなければ死にゆくだけの惨めな村。それがウィンターホールドだったはずなのだ。
であるのに、一人の男が足を踏み入れてから全てが変わった。衛兵隊は害獣や賊を狩り周辺の安全を確保した。不定期ながらも乗合馬車も寄るようになった。職能を持った者が居着き、行商人も絶えず訪れる。特にカジート
付き人や居合わせた重臣達は、ウルフリックがウィンターホールドの様子を正確に把握していることに驚いた。
と同時に、何故、我等が首長がここまで警戒しているのかがわからない。
「お言葉ではありますが閣下。彼の町は比較的、『親ストームクローク』の色を顕わにしております。ソリチュードとのあいだに位置し、良い緩衝地帯となる町が力を取り戻しつつある現状は、我等にとっても喜ばしいことではありませんか? 歓迎こそすれ、厄介とは如何なることでしょう?」
「貴様等の言う『親ストームクローク』も全くの間違いではない。しかし正解でもない。ウィンターホールドが明確に掲げているのは『反サルモール』。表立っては『反帝国』も『親ストームクローク』も明言してはおらんのだ。その違いに気付いている者はまだ少ないが、あれは潜在的に、敵より厄介な競合相手になり得る。
しかし我等が緩衝地帯を欲するのも事実。ブルーパレスやドール城の恥知らず共に味方されないためには、こちらから友好的な態度を取り続け、それを崩すことは許されん。
一方で、我等とソリチュードが相容れず、その中間地点に存在するというだけで、あの町は東と南の防衛を一切考えずにすむ。そして『反サルモール』を掲げてはいても、基本的に全ての種族に対し融和的な態度をとっている。そこにインペリアルやハイエルフも含まれる以上、帝国側としても強くは出づらい。しかも現在のアークメイジはたしかインペリアルだったはずだ。町と大学が距離を縮めた今、折衝役などに出張ってこられては、それこそ帝国は何も言えまいよ。忌々しいことだ」
ウルフリックは重臣の一人の質問に答え、最後には吐き捨てるような口調を抑えようともしなかった。
しかしそれでも重臣達の顔には疑問符が浮かんでいる。それも特に年嵩の者にその傾向がある。逆に、年若い貴族や側仕えには、何か感じ取った様子も見られる。
このあたりの世代間の意識格差を埋めることも必要かと思い、面倒ながらも口を開いた。
「私も、せいぜいここ七、八年の動きしか知らん。件の錬金術師がガルマルと派手にやり合ったからな。嫌でも記憶に残る。
だがな、十年もせずに町がここまで復興するか? どれほどの財を注げばいい? どれだけの武人を衛兵隊に組み込めばいい? どれだけの特産物を生み出せばいい? 私には想像もつかん。はっきり言って異常なのだ。復興の速度が。本来、それに必要なあらゆるものが不足しているあの町では特に。
貴様等がいまいち得心のいかない様子なのも無理は無い。私とて、首長という立場になければ気付けたか微妙なところだ。平たく言えば、我等にはウィンターホールドが衰退していく様を見て、聞いて、感じる時を過ごしたからこその先入観があるのだ。大災害の直接的な記憶こそ無くともその衰退の印象が強く残る限り、奴等が何をしてどう変わろうとも、侮蔑の感情は残る。
しかし、それらの前情報を全て無かったものとしてみればどうだ? 天変地異も、それによる衰退も無い、まっさらな状態からの始動だ。
例えばだが、開拓村を新たに興す計画を零から立案するとする。これに一、二年。実際に送り込む人員を集め、移動させる。これに一年。そこから四、五年で今のウィンターホールドが成り立つのか、という話だ。少々毛色の違う例えだが、あの町の抱えていた諸問題を鑑みれば、あながち的外れとも大袈裟とも言えまい」
そこまで言われてやっと、全員が危機感を抱いた。中には未だ理解の及ばない者も居たが、周囲の様子を見て神妙な顔を作っている。……そのような一部は置いておくとして。
ウルフリックは言外に「若い世代は気付いているぞ」と重臣達に告げた。それは対立を煽りかねないやり口ではあったが、現状を正しく把握させるためには、必要な手順だと判断した。実際、首長自らが「自分も根の考えはお前達と同じだ」と漏らしたため、これが非難ではなく共有すべき意識の問題なのだと思わされた。
しかし、そうは言っても、実際に何か打てる手があるわけでもない。それは、ウルフリックが口にする「厄介」だの「忌々しい」だのという言にも現れている。明確かつ有効な対処法があるのなら、愚痴を零す前に行動するのがウィンドヘルム首長、ウルフリック・ストームクロークという男だからだ。
やや重くなった空気を払拭しようと、重臣の一人が「思い出した」とでも言うように話題を提供する。
「手広く、と言えば上級王への嘆願書には驚かされましたな。しかし実際には丁重ながらも
彼の翁は老い先短い身の上ですから、焦ったのかもしれませんな」
「いやいや、町の復興に気を良くして、増長したのやもしれませんぞ?」
話題の転換と共に、場の空気が明るくなった。
上級王へ向けて『昨今のタロス崇拝禁止に揺れるスカイリムの行く末について』などという漠然とした議題で
そして相手にされないとわかれば、今度は各地の首長へ向けて、全く同じ名目での首長会議を呼びかけた。こちらはあくまで私的なものとして扱われるため、ムートとは呼べない。上級王への提言のみであれば、異常な復興を邁進する彼の町のこと。何か裏があるかとも思えたが……。まぁまず無いだろう。
送られた書状はソリチュードとウィンターホールド自身を除いた計七つ。そこから、出席する気の無い自分を除けば六つ。中道を表明するバルグルーフとて、そんなものに参加するほど暇ではないだろう。五つ。マルカルスも豪族である『シルバー・ブラッド』家と
一度上級王によって退けられた案件。何を以て各首長達が賛同し、集うと思ったのか。やはり年齢故の焦りか増長か。ウルフリックも同じように考えた。
その後も諸事について話し合いが持たれ、特に荒れることもなく定例会議は終了、解散となった。
その直後である。謁見の間の扉が先触れも無く開かれ、扉が開ききるのを待たず隙間に身体を捩じ込みつつ官吏が駆け付けて来る。明らかに慌てており、出来得る限り早く報告を行いたいと全身で表していた。現に跪いた官吏の開口一番は「報告申し上げます!」だった。
ウルフリックが抱いた油断に、罰が下されたのだろうか。神々や古き英雄達は常にソブンガルデから下界を見ており、ウルフリック・ストームクロークという男の気の緩みを叱責しに来たのだろうか。
報告の内容は、彼のウィンドヘルム首長が思ってもみないものだった。
「ウィンターホールド首長主催による首長会議へ、リフテン、ドーンスター、ファルクリース。そしてマルカルス! 各地の首長が参加を表明いたしました! その書状もここに!」
ウルフリックの脳内に浮かんだのは、驚きだ。
そして口からは「やられた!」という怒りの叫びが放たれた。
ソリチュードとウィンドヘルムを除けば、五大都市は三つ。内ホワイトランは先述のとおり中道。ならばリフテンとマルカルスに焦点が置かれるが、この両名ともが参加すると表明している。
そしてこれも先述のとおり、ウィンターホールドはソリチュードとウィンドヘルムの中間地点にある(厳密にはイーストマーチ寄りの位置にあるが、街道や標高差を鑑みれば、大体そのような立地と言える)。そしてわざわざ全ての首長の意見が出揃う前に情報を寄越した。わざとだろう。
つまりこれは踏み絵なのだ。お前は敵か? それとも味方か? と。そのような恫喝じみた手法は、力の強い者が弱い者へ去就を迫る際に用いるものだ。まるで立場が逆な今回のやり口に、ウルフリックは頭へ血が上るのを自覚しながらも、抑えることができなかった。
しかしこれを突き放し無視することもできない。ウィンターホールドが敵に回れば、対帝国戦線がずっと東に動く。それはウィンドヘルムへの攻撃が容易になるということ。そんなものは認められるわけがない。
更に言えば、どんな手品を使ってかマルカルスを味方に付け、これだけの危ない橋を渡るのだ。暗に「ウィンドヘルムを敵にしても戦える」と主張している、ともとれる。その真偽は別としても、徒に敵対するのは愚の骨頂であろう。ウィンドヘルム首長として、この会議への参加を表明せざるを得ない。
そしてソリチュードを除く三都市が参加するのなら、ホワイトランもそれに倣わざるを得ない。中道と言うからには、参加しなければ『親帝国派』、『親ソリチュード』と見なされかねない。そもそも、会議の命題は『スカイリムの行く末について』なのだ。「『反』だの『親』だのといった派閥に拘らないというのなら、何故参加しないのか?」という話になる。それを気にするバルグルーフではなかろうが、都市の貴族達が黙ってはいないだろう。首長として身動きが取れなくなるし、自身の方針とも矛盾する。受けざるを得ない。
そうして九都市の内、ソリチュードを除く全ての都市の首長が参加するとなれば、残ったモーサルの意向など関係無くなる。否が応でも参加せざるを得ない。
どうしてこうなったのか。怒りでまとまらない頭でウルフリックが考えついたのは、そう、マルカルスだ。
あのスカイリム西端の都市とは、『マルカルスの半分を治める』との評判を持つシルバー・ブラッド家を通じて、いずれは『親ストームクローク』として大きな力になってもらうはずだった。それが何故、ウィンターホールドなどという復興途上の町に味方したのか。
参加表明が遅れたため、会議の準備に当てられる時間があまり無い。これから忙しくなることを苦々しく思いながらも、マルカルスで何があったのか可能な限り詳細に調べる必要があると、ウルフリックは強く思った。
今まで(比較的)平和だった西部に魔の手が!
タイトル改題についてのアンケートです。今更ですが、現在のタイトルについて「ちと長くないか?」「タイトルからこの重くて固い内容を想像できるか?」と疑問が湧きました。そこで思いついたのが、「そう言えば最近はダークリムと呼称することが増えたなあ」と。ならいっそ『DARK RIM』とでも改題してはどうか、と。例によって最終的にどうなるかはお約束できませんが、ご意見をいただければ幸いです。
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愛着もあるし、絶対今までのままがいい!
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『DARK RIM』のがシンプルでいい。
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他のタイトルがいい。
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改題しても、今までのも併記してほしい。